07/10/10 22:53:24 apGDUCYj0
そこは巨大な屋敷の一室だった。ひたすらにだだっ広く、人気は無いに等しく、しかし手入れは行き届いている。
ベッドとすぐ近くに小さな机があり、ベッドには人が一人寝ていた。机の上には身なりを整える用具が簡素にまとめられ、携帯がひとつおかれている。
「んむぎゅ」
ベッドの中の人間は寝返りをうってそんな声を上げ、顔をしかめると改めて寝返りをうった。
ベッドに備え付けてある時計が静かに音を刻んでいる。
外では既に日は高く、道には出勤途中と思われるサラリーマンや登校途中だと思われる学生が歩いている。
時折に部屋にはそんな外の音がかすかに聞こえた。楽しげな笑い声や授業で当たる日だから行きたくないとか、そんなたわいもないやり取りだ。
不意に、ベッドの中の人間が身をこわばらせた。顔ははなから布団にほとんど隠れていたが、あきらかに意識的に布団の中に顔を引っ込める。
一呼吸置いた頃に、その部屋唯一の、そしてやたらデカイ観音開きの扉が勢いよく左右両方開いた。開けた人物が険しい顔で怒鳴った。
「いつまで寝ているおつもりですか！」
年の頃は15か16か。幼さが残りつつも、大人の男へと成長しつつある、それなりに整った顔をしていた。
長い黒髪を後ろで高く結い上げ、それを振り乱しながらベッドへとずんずんと近寄っていく。どこかの学校の制服だろうか、
ダークグリーンのブレザーにワインレッドのネクタイをしめていた。
その部屋の主は扉の音にびくりと身を振るわせつつも、呼吸を出来る限り押し殺し、身を硬くして「俺は何も聞こえてない。
だって寝てるんだもん」という主張をした。主張がある時点で寝ている訳はないのだが。
「さぁ、お時間です！ さっさと身支度を整えて、学校へ行って頂きませんと！」
ベッドの横に仁王立ちになり、ベッドの主によく聞こえるように、部屋全体に響くような音量でやはり怒鳴る。
全く反応を返さぬベッドの中身に一瞬青筋を浮かべ、目を細めると掛け布団に手をかけて一気に取り払った。
「…！ ……」