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天声人語 2007年09月23日(日曜日)付
画家の辻まことに、「虫類図譜」と題する愉快な画文集がある。
色々な事物を虫に見立てて皮肉っていて、国連もやり玉にあげている。
〈できの悪い粗悪品を、美しいものとよばなければならない〉と手厳しい。
美名と裏腹に、冷戦下で機能しなかった時代の冷笑だ。今なら、こう悪しざまには言われまい。
とはいえ利害と思惑のぶつかる国際社会で、黄門様のようにはいかない。
「お墨付き」である決議も、厳しい折衝をくぐって日の目を見る。
懸案のテロ対策特別措置法をめぐって、日本政府が「印籠」と頼んだのは、決議の前文の「謝意」
だった。インド洋で給油活動を続ける根拠になると踏んだ。米国に働きかけて文言を潜り込ませたが、
ロシアは反発して棄権した。安保理の足並みを乱したと、風当たりが強い。
安保理は国連の心臓部だが、協議の多くは決議文の言葉選びに割かれる。取材していた頃、
最後にわずかな言葉を換えて採択された決議があった。言い換えで各国の思惑に配慮したからだ。
その決議を根拠に、米国は強引にイラク戦争に打って出る。
片言隻句の違いが、何万人もの生死を左右したと言えなくもない。外交官が、それぞれの国益を
背負って扱う一語が、人の頭上に爆弾を降らせもする。国連の美名のもとなら何でも是と思うのは、
だからあやうい。
政府には渇望の印籠だったが、特措法に反対の民主党はひれ伏すふうもない。年金に比べれば
特措法も国連も身近ではないが、ときには遠くも眺め、粗悪品でないかどうかを確かめたい。