06/12/31 19:47:00 5nRSEW/10
「年越しすっかぁ」
スーツを脱ぎ捨てると、縦じわでよれよれのスウェットを整えた。テレビの前に座り股を開く。
既に雑音を鳴らし、俺のテレビは俺の操作を待つ。
チャンネルを1にしてテレビに映すと、ニュースを持ち上げて、紅白がそこにあった。
「俺の男一人の年越しだぜ」声に出していう。
「男はやっぱ年越し」
やおらビニール袋の脇から、ズルムケ状態の乾燥蕎麦を取り出す、手に水をたっぷり取り、逆手でコンロをこね回す。
「バチチチチッ」音が俺の食欲中枢を更に刺激する。
「年越したまんねぇ」沸きにあわせて、菜ばしを上下させる。
「男の年越しにゃあこれだよ」ラッシュを吸い込む。
「スッ、スッ、スッ、スッ」顔から熱くなり、やがて頭の中が真っ白になる。
「ゆく年、くる年」「年越しのカウント」
頃合いをみて蕎麦を取り出す。俺は自分のこの格好が好きだ。
白いスウェットだけが体に残り、ぶらぶらの蕎麦のバックに、めんつゆ垂らして、箸を振り、左手でリモコン操作し、右手でヌルヌルを蕎麦を取る。
鏡の中の俺は、日本一の独身男になっていた。
「ちきしょう実家に帰りテェよ」午前零時が近づくと、いつもそう思った。ラッシュをもう一度効かせ、七味を追加すると、来年へ向かってまっしぐらだ。
「年越してやる」「紅白と蕎麦のほんまもんの年越し」
「うりゃ、そりゃ」「ズズッ ズズズッ」しぶきを飛ばしながら、クライマックスをめざす。
「たまんねぇよ」頭の奥から、激しいうねりが起こった。やがて奔流となり、俺を悩ます。
-寝てえ- -もっとテレビ見てえ-相反する気持ちがせめぎあい、俺は崖っ淵に立つ。
「きたっ」俺は身体を横たえ、それに備える。奔流は堰を切ろうとしていた。
「男一匹!」「ぶちっ」
星空を押し分けて、白い雪が降り出す。
真っ白い時間が過ぎ、目の前が元旦になる。