07/02/15 19:41:51.56 wyDGeyym0
いい年をして無職の僕は、今日もたいしてやることがなく
音楽を聴きながらあてもなくドライブをしていた。
何も考えなかった。僕はただ音楽に耳を澄ませていた。
ダニエル・パウターとファットボーイ・スリムがかかった。
それからアナウンサーがここで懐かしい曲を一曲、と言った。
ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」だった。
それは哀しい曲だった。「ハロー、ハロー」とカートが歌っていた。
「どのくらい酷い?」。その唄を聴いていて、僕は本当に哀しくなった。
涙が出そうなほどだった。ときどきそういうことがある。
何かがちょっとした加減で、僕の心の一番柔らかな部分に触れるのだ。
僕は途中でラジオを消して、サービス・エリアに車を停め、レストランに入って
野菜のサンドイッチとコーヒーを注文した。
洗面所に入って涙のあとのついた顔を洗い、サンドイッチをひときれだけ食べ、
コーヒーを2杯飲んだ。
カートは天国でどうしているだろう、と僕は思った。
口にくわえたレミントンの銃口は冷たかっただろうな、と僕は思った。
カートは死んでロックの神様の仲間入りをしたんだ。でもそれがなんになる?
こうなる運命だったんだよ。カートも僕も。
僕は一時間、そのレストランで野菜サンドイッチの盛られた皿を
ぼんやりと見つめていた。
ちょうど一時間後に菫色の制服を着たウェイトレスがやってきて、
その皿を下げていいか、と遠慮がちに僕に聞いた。僕は肯いた。
さて、と僕は思った。
社会に戻るべき時だった。