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【北海道新聞・卓上四季】2006年12月7日付 「たき火」
たき火は暖かいものだ。炎が踊り、刻々と色や形を変える。ぼんやりと眺めるうちに、体がぽかぽかになる。
いま街なかではあまり見かけなくなったが、「たき火だたき火だ落ち葉たき」と口ずさみたくなる寒い日もあろう
▼童謡「たき火」は巽聖歌(たつみせいか)が作詞した。児童雑誌「赤い鳥」出身の歌人で、昨年が生誕
百年だった。この歌がラジオに初登場するのは一九四一年のことだ。三日間続けて流す予定が、二日で
打ち切られた▼放送前日の十二月八日、太平洋戦争が始まったためだ。軍部から「落ち葉は貴重な資源
だ。風呂くらい沸かせる。たき火は敵機の目標になる」と横やりが入り、戦争中は放送されなかった▼この日、
陸・海軍大臣は中央気象台に報道管制を命じた。農家が翌朝の霜予報を尋ねても「それは軍事秘密
ですから」と教えない仕組みになってしまった。「お天気博士」の倉嶋厚さんが紹介する話だ▼開戦から六十
五年になる。この国は軍事優先の体制と決別して国民第一になったのかと思っていたが、違ったようだ。戦闘
機訓練でけが人や被害が出ていたのに、米軍も防衛施設局も道も一年以上公表しなかった▼国会では
愛国心教育を盛り込む教育基本法改正案の審議が大詰めだ。防衛庁を防衛省とする法案は成立の
方向になった。首相は改憲も意図する。巽聖歌の師は北原白秋、「この道はいつか来た道」の作者である。