06/08/10 10:44:08 o7+mJIcM0
「夏のあらゆる星座が、われわれにいどみかかるようにして出ている」。
司馬遼太郎さんはモンゴルで、満天の星に押しひしがれるような体験をした。
「うかつに物を言えば星にとどいて声が星からはね返ってきそうなほどに天が近かった」
(街道をゆく・モンゴル紀行)。
大草原を渡る風、空に浮かぶ雲、果てしない大地。詩人ナツァクドルジがうたう。
「広く大いなる荒野原/南のかたをさき守る砂丘の海原/
これぞわが生れしふるさと/モンゴルの美しきくに」(田中克彦『草原と革命』晶文社)。
チンギス・ハンがモンゴル帝国を創設して今年で800年になる。
帝国はアジアから欧州にまで版図を広げた。
そのころ西に遠征したと思われる兵士が、白樺(しらかば)の樹皮に書き残した望郷の詩がある。
「今やときぞ、我とびたたん/我は呼びかく/我が母に、何にもましていとしき母に……今こそ我、故郷に帰らん」
同じ13世紀、チンギス・ハンの孫フビライは鎌倉時代の日本に遠征軍を送る。
文永・弘安の役で、いずれも失敗した。
望郷の念を抱きつつ倒れた兵士もあっただろう。
この元寇の後、北条時宗は鎌倉に円覚寺を開創した。
蒙古襲来による死者を、敵味方の区別なく弔うことが建立の一因だという。
今日、小泉首相がモンゴルに飛び立つ。
星空の下で、元寇の時代にも思いをはせてもらいたい。
自、他国を問わない弔い方は、現代の追悼のあり方にも示唆を与える。
誰であれ、いやしくも一国を代表する人物なら、他国の戦没者の思いにも目を向けるべきだろう。
朝日新聞
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