06/10/31 16:58:01 apZ/RCnv0
前スレ
スレリンク(base板)
2:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 16:58:51 apZ/RCnv0
保管庫
URLリンク(sbh.kill.jp)
3:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 17:00:27 apZ/RCnv0
千葉マリーンズバトルロワイアル第15章
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日本ハムファイターズバトルロワイアル
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阪神タイガースバトルロワイアル第九章
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各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ9
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野球バトルロワイアル総合雑談所2
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4:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 17:00:59 apZ/RCnv0
【まとめサイト】
讀賣巨人軍バトルロワイアル
URLリンク(www.geocities.co.jp)
横浜ベイスターズバトルロワイアル
URLリンク(www003.upp.so-net.ne.jp)
URLリンク(doubleplay.hp.infoseek.co.jp) (2005年版保管庫)
広島東洋カープバトルロワイアル
URLリンク(brm64.s12.xrea.com)
URLリンク(www6.atwiki.jp) (2005年版保管庫)
中日ドラゴンズバトルロワイアル
URLリンク(dra-btr.hoops.jp) (2001年版保管サイト)
URLリンク(dragons-br.hoops.ne.jp) (2001年版・2002年版保管サイト)
URLリンク(mypage.naver.co.jp) (2002年版保管サイト)
URLリンク(cdbr2.at.infoseek.co.jp) (中日ドラゴンズバトルロワイアル2 第三保管庫)
URLリンク(cdbr2004.hp.infoseek.co.jp)(中日ドラゴンズバトルロワイアル2004保管庫)
福岡ダイエーホークスバトルロワイアル
URLリンク(www3.to)
5:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 17:01:33 apZ/RCnv0
阪神タイガースバトルロワイアル
URLリンク(kobe.cool.ne.jp)
URLリンク(homepage2.nifty.com)(旧虎バト保管庫・若虎BR紅白戦進行中
千葉マリーンズ・バトルロワイアル
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ソフトバンクホークスバトルロワイアル
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ヤクルトスワローズバトルロワイアル
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プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル
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アテネ五輪日本代表バトルロワイアル
URLリンク(athensbr.fc2web.com)
鷲バト
URLリンク(www.geocities.jp)
ビリオネア・バトルロワイヤル
URLリンク(tokyo.cool.ne.jp)
公バト
URLリンク(fsbr.no.land.to)
6:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 17:04:22 apZ/RCnv0
今回は落ちないといいですね
7:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 18:11:06 eoNpJsD5O
乙です保守
8:代打名無し@実況は実況板で
06/10/31 18:48:44 Soh3AUQ60
乙
9:「71・メリット」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 19:56:23 +luucP8S0
水口は「マンデリンSuper-G1」を飲みながら、田中を見送った。
水口にも気づかないほど、田中は新しく見つけた自分の世界に入り込んでいた。
テレビの画面を通して、田中の行動を見守った。野生に戻った姿と言えばいいのだろうか。
人間の闘争本能、そんなもの全てが田中の全身から立ち上っていた。
恐らくそこが中村と田中の違いだったのだろう。
中村は闘争意欲と怒りで戦った。
田中は生存本能と危機感で戦った。
(俺は、どうなるかな)
ミルクを一滴も入れないコーヒーを飲み干し、カップをソーサーに戻した。
「ごっそさん」
立ち上がる。まだ残りがたっぷりある砂時計をカウンターへと差し出す。
「あれ、もう出発ですか?」
「ああ、ここのご休憩は1時間が限度だろ、時間は大切に使わにゃ」
「大久保と同じ考え方ですね」
「あいつもここに来たのか」
「ええ。少し前に」
悪びれもせずに、相川が答える。
「相川」
「はい」
「お前のメリットはなんとなくわかる。でも、外人勢のメリットは何だ?何でこのゲーム
の運営に協力してるんだ?」
素朴な疑問を投げかける。相川は呆れたように笑った。
「そんなの簡単じゃないですか」
水口を見つめる。
「楽しいからですよ」
【残り・35人】
10:「72・殺意レベル 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 19:58:27 +luucP8S0
特別なものはいらない。人を殺すには、それなりの意志があればいい。
右手に持つ、三叉の槍。なんとそれが自分に不似合いなことか。しかしそれが自分に与え
られた武器。そして、谷から奪った黒帯。帯はポケットにしまった。少しだけ頭を出して、
いつでも引っ張り出せるように。
林の中。少し霧が出てきた。視界を遮るというほどではないが、こういう風景の中だとか
なりの雰囲気を醸し出してくれる。殺し合いの風景には、ちょっと効果的な演出だ。
今、香月の目の前に、背中を向けている間抜けな人物がいる。後ろから敵が近づいて来て
いることにも気づいていないのだろう。
(どうする?)
殺す目標は元ブルーウェーブの選手だ。そして、今目の前にいるのは該当する人物。
背番号54。
(どうする?)
少し離れた木陰に隠れたまま、香月は嶋村の背中を見守っていた。嶋村は地面にしゃがみ、
身を屈めていた。もしや眠っているのだろうか。
(まさか。こんな昼間に野外で。いくら嶋村さんでも……)
すると突然嶋村が顔を上げた。
「恵一さん!」
小声でそう呼んだ。木々の間から出て来たのは、肩で息をしている平野恵一だった。
(なんだ、俺、追い抜いてたのか。探してるつもりだったんだけどな)
嶋村が駆け寄る。何事かを話している。平野はペットボトルの水を飲むと、嶋村に答える
ようにして何かを必死に話し出した。何度も背後を指差す。そちらに行こうとする。それ
を慌てて嶋村が止めている。
(恵一さんならまだ体調が完全じゃない。簡単に消せるな)
11:「72・殺意レベル 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 19:59:36 +luucP8S0
平野が嶋村の腕を掴んでグイグイと引っ張っている。嶋村がそれを拒否する。
(さっき俺から逃げ出したばっかりなのに、運の悪い人だよな……でも、何やってんだ?)
とうとう怒り出した平野が両手をブンブン振って力説し始める。しかし微動だにしない嶋
村に諦めたのか、肩の力を落とすと元来た道を小走りに去って行った。
(意見が合わなかったみたいだな)
香月が矛を持ち直す。
(さて……)
前へ出ようとした時、霧の奥でキラリと光る何かが見えた。香月は慌てて再び身を屈めた。
途端に一発の銃声が鳴り響いた。ガクンと嶋村の右肩が揺れる。慌てて左手で肩を押さえ、
周囲をキョロキョロと見渡した。そしてどこかへ走り出そうとした瞬間、再び銃声がした。
一瞬、嶋村の動きが止まる。ガクリと膝から崩れ落ち、そのまま地面にうつ伏せに倒れた。
香月は地面に這いつくばるようにして息を潜め、目だけで辺りを見回した。
逃げた方がはるかに安全だが、敵をこの目で確認しておきたかった。
やがて、霧の中から人影が現れた。右手にライフルを持った小さな影と、それより少しだ
け高い影。
「2発目でキチンと当たったみたいですね。この道のプロじゃないから仕方ないか」
少し興奮した口調で本柳が告げる。
「でも2発目はキッチリ命中させてますよね。川越さん、さすがっス」
後ろからライフルを持った川越がゆっくりと現れる。その表情はどこか虚ろだった。視線
が揺れている。どこを見ているのかわからない目。
(川越さん………変だな)
本柳が嶋村の鞄を取り上げる。中に手を突っ込み、ゴソゴソと漁った。
12:「72・殺意レベル 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:00:17 +luucP8S0
「武器は鞭かぁ………説明書あるけど、俺には無理かな……川越さん、ライフル下さい」
川越はやけに素直にライフルを差し出した。本柳は代わりに鞭と取り扱い説明書を川越に
渡した。
「説明書読んで、使えるようにして下さいね。じゃ、行きましょうか」
川越に向かって手招きをする。川越は説明書を読みながら歩み寄った。
「川越さん、また新しい敵がいたらお願いしますね」
敵、という言葉に反応したのか、川越がピクンと顔を上げる。その顔の向きが調度香月の
居場所とぶつかった。霧がなければ目が合っていたかもしれない。さっきまでのうつろな
ものとは全く違うその鋭い目つきに、ゾクリと寒気が走った。
本柳と川越は、再び霧の中に消えて行った。
約1分ほどしてから、ようやく香月は倒れたままの嶋村に歩み寄った。まだ右手がもがい
ていた。微かに命が残っているようだ。即死ではなかったらしい。出血が酷い。
足元に一枚の白い紙が落ちていた。マジックで何か文章が書かれている。飛ばないように、
小石で押さえてあった。
「………ふん」
そんなものに興味は無い。ましてや元ブルーウェーブの選手を助ける義理などない。
そのまま香月は歩きだした。
平野恵一が歩いて行った方向へ。
【×嶋村一輝 残り・34人】
13:「73・霧の中の不安」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:02:47 +luucP8S0
北川はひとり、家の中で嶋村を待っていた。
林の中、嶋村と一緒に見つけた家。作戦を練るために、そこに留まっていた。
少し前、物音がしたからと嶋村が外に出て行った。
「すぐ戻ってきます」
そう言って笑って。
仲間が出来た安心感からなのだろう。落ち着いた様子だったので、北川もそれを許可した。
北川はシーズン途中に肩を怪我している。それを気遣って嶋村は自分から進んで動いてく
れた。北川よりも前を歩き、常に周囲を見渡し、少し開けた場所に出る時は、必ず自分が
そこに出てから北川を呼んだ。
その嶋村が戻ってこない。
(何か……あったんか……?)
不安が消えない。さっきから胸騒ぎがする。嶋村は自分の鞄を持って行った。だが武器は
鞭。あまり期待出来ないアイテムだ。
(大丈夫や、用心深いあいつのことやし)
カーテンを小さく開け、窓の外を見る。霧が濃くなってきたようだ。
(迷ったんかな……)
ならば迎えに行っても、自分まで迷ってしまうかもしれない。それでは意味がない。
(誰かに会ったんかな……)
仲間か。敵か。
(敵なんて………おるはずないやないか!)
何度も打ち消した問いかけ。もう決めたはずだ。仲間を信じると。
もう一度、窓の外を見る。
(………やっぱり、迎えに行こか?)
1人でいることの不安。
(もう少し霧が晴れたら……それでも戻らなかったら……行こう)
信じている。
【残り・34人】
14:「74・撃つかも 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:04:28 +luucP8S0
小高い丘の頂上は、それなりの観光場所になっていたらしい。ベンチ、東屋、売店らしき
小屋など、それほど広くはない場所にいくつかの休憩場があった。
加藤はベンチに腰掛け、島全体を見下ろした。緑に包まれた美しい島だった。一角に、街
のような場所がある。そこだけ緑の範囲が少ない。いくつもの大きな建物が見える。海岸
線には小さな港。自分達はそこからこの島に送り込まれたのだろうか。一番近くに見える
小島は、頑張れば泳いで渡れそうだ。その島にも建物が見える。
「歌さん」
「ん?」
「あの島の建物、電話引かれてないですかね」
「まだ人がいて、機能してる建物ならあってもおかしくないな」
「歌さん、遠泳得意?元水泳部ですよね?」
「あんなにきついスポーツはないぞ。でも水泳のお陰で持久力ついたし、疲労回復も早く
なったけど。だから中継ぎなのかな……」
歌藤が小首を捻る。
「じゃあ歌さん、あそこまで泳げる?」
微かな希望を持って、小島を指さす。
「潮の流れにもよると思うけど。あと鮫とか恐いクラゲとか」
「あー……」
加藤よりも歌藤の方がわずかに一歩、現実的なようだ。
白い靄が島の一部に見える。霧が出ているようだ。
「ここから呼びかけても駄目ですかね」
「何が」
「ここから、島にいるみんなに戦うなって。協力しようって呼びかける」
「………お前、本当に前向きだよな」
立っていた歌藤が、加藤の隣に座る。
15:「74・撃つかも 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:05:22 +luucP8S0
「もし呼びかけた時にさ、近くにやる気満々の人がいたら俺ら即死だぞ。獲物はここにい
ますよーって言ってるようなもんだ」
「やる気満々の人……」
真っ先に浮かぶのは清原の姿。昨日はなんとか逃げられたが。もしもう一度会ったとした
ら、今度は容赦しないだろう。もうあの時のようにうまく事は運ばない。
「大輔」
歌藤が真剣な顔で呟いた。
「はい」
「俺さ、撃つかも」
「何が」
歌藤はその重みを確かめるように、自分の肩にかけていたマシンガンを両手で持った。
「もし敵だってハッキリわかる人が近くにいて、その人が俺たちに気づいてなくて、無防
備だったら、俺、撃つかも」
じっとマシンガンを見つめている。
「俺、その人のこと、撃つかも」
それきり歌藤は黙ってしまった。加藤も考えざるをえなくなった。
(俺は……どうするだろう)
ベルトに挟んでいた銃を手にする。敵だとわかっている相手。その時に消さなければ、今
度は自分の身が危なくなるような。撃てるだろうか。
そもそもこの銃は本物なのだろうか。まだ試し撃ちすらしていないのだ。この銃で人を撃
ってもいいのだろうか。もし誰かを殺して生き延び、無事に帰れたとしても、家族は今ま
でと同じように自分を迎え入れてくれるだろうか。
……いや、自分の無事を喜んでくれるだろう。涙を流してくれるかもしれない。
けれど、人を殺したという事実をどう受け留めるだろう。両親、そして2人の妹は。
16:「74・撃つかも 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:05:57 +luucP8S0
『……お兄ちゃん』
その時、自分はどんな表情をすればいいのだろう。
生きて帰るには……
人として、生きて帰るには……
「大輔」
歌藤の呼びかけに、我に返った。
「行こう。ここにいてもあんまり意味がない。もしここで敵に会ったら逃げようがないし」
「……はい。とりあえず、島の全景わかりましたもんね」
「ああ」
歌藤はいろいろと書き込んだ地図を畳んだ。ただぼんやりと見渡していた加藤とは違い、
島の部分的な特徴を書き込んでいたようだ。
「行こう」
2人は丘を下り始めた。
【残り・34人】
17:「75・偽善的優先順位」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:08:20 +luucP8S0
徐々に薄れてきた霧の中を、平野恵一は歩いていた。
まだ完全に痛みが取れてはない体のまま、走れる限りのスピードで走ってしまった為、部
分的に鈍い痛みが走っていた。
嶋村と別れた後、誰かが自分の後をつけて来ているような気がしたのだ。
背後からの気配。霧の中、視界不良のせいで、疑心暗鬼になっていたのかもしれない。
けれどどうしてもその不安が消せず、思わず無理をして走ってしまった。
置き去りにしてきた谷が気になる。
誰か助けを呼んで戻ろうと思っていた。やっと出会った嶋村は、一緒に来ることを拒否し
た。北川を残しているという。だから、一緒に行けないと。せめて北川と合流してから行
動を取りたい。北川1人を残して自分だけ行動するわけにはいかない。そう言った。
その言葉は平野を酷く後悔させた。
谷を見捨ててきた自分。
谷に「行け」と言われ、迷い、言う通りにした。それでよかったのだろうか。
嶋村は、北川を連れてくることを望んでいた。
(俺は……俺のしたことは………)
平野は一刻も早く谷を助けたかった。だから半ば強引に、必死にその腕を引っ張った。
けれど、嶋村は固く拒否をした。
諦めるしかなかった。
ひとり、元来た道を歩く。戻っても、そこに谷がいるとは限らない。もうどこか違う場所
へ逃げてしまっているかもしれない。
それならそれでいいのだ。
無事なら、それでいいのだ。
たとえ偽善と呼ばれても、信じることを約束した仲間を守りたい。
静かに、音を立てないようにして、道を進む。
【残り・34人】
18:「76・メッセージ 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:09:56 +luucP8S0
霧が晴れてきたことを確認して、北川は家を出た。
嶋村が歩いていった方向へ向かう。それほど遠くへは行っていないはずだ。霧の中を迷っ
ていないなら。あてもなく、手がかりもなく、ただ真っ直ぐ歩いた。
「……嶋村」
時折小声でその名を呼ぶ。
「……嶋村」
返事は無い。少し空気がひんやりしている。手に当たった緑の葉が湿っていて冷たかった。
しばらく進むと、少し開けた場所に出た。
そこに嶋村がいた。
「……嶋村」
北川は歩み寄った。呼びかけても返事は無い。
静かにしゃがみ、横たわっているその肩に手をかけた。
「……嶋村」
嶋村は動かなかった。
うつ伏せになったまま、霧に中にひとりぼっちだった冷たい体を晒していた。
そこに血だまりを見た。
「……嶋村」
間違っていたのだろうか。
北川の言う「仲間を信じるべきだ」という思いは間違っていたのだろうか。
その気持ちに同意した嶋村は今、物言わぬ人となってしまった。
「……嶋村」
涙がこみ上げる。行かせてはいけなかった。1人で行動させてはいけなかったのだ。
ほんの少しの安心感が、嶋村の命を奪った。
笑顔がトレードマークの北川が、ボロボロと涙を流した。
(俺は………間違ってたんか?!)
嶋村の肩を握る手に力がこもる。心の中で声を上げて号泣した。
(折角信じてくれた仲間を……!)
19:「76・メッセージ 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:10:58 +luucP8S0
もう何人死んだのだろう。42人いた仲間は、一体何人になっているのだろう。
本当に、やる気の人間がいるのだ。人の心を捨て、ゲームに乗った奴が。
そして自分は?自分はこれからどうするのか。どうするべきなのか。
ふと、そばに落ちている白いものが見えた。
一枚の紙切れ。
石に押さえられて、飛ばないようにしてある。短いメッセージ。
『僕たちは戦う気はありません。仲間を探しています。みんなで協力すれば、ここから脱
出する方法も見つかると思います。協力しましょう。 北川 嶋村』
北川は目を閉じた。
恐らくこれを書いたのは嶋村だ。きっとこのメッセージをここに残し、これを読んだ誰か
がまた誰かにメッセージを…そんなことを考えていたのだろう。
戦ってはいけない。協力し合おう。
そんなメッセージを残そうとしたのだろう。
これを置いている時に狙われたのかもしれない。
(………嶋村)
ゆっくりと目を開けた。
(……俺は、戦わへんよ)
どんなことがあっても。
(戦わへんよ)
たとえ、自分に銃を向けられても。
(約束する。もし次に出会った誰かが俺に武器を向けても、俺は戦わへん。信じる。信じ
て仲間を作る。一緒に脱出する仲間を)
その為に命を落しても、文句は言わない。
(自業自得や。俺は賭ける。約束する)
立ち上がる。
もう一度目を閉じて、合掌した。
そして、嶋村に背を向けた。
【残り・34人】
20:「77・消えた記憶 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:12:30 +luucP8S0
前を歩いている川越の足が止まった。
本柳はすぐに神経を集中させると、静かに急いで川越に歩み寄った。
「どうしました?」
「……いや……頭痛薬とか、持ってないよな」
予想外の返事に拍子抜けする。
「風邪ですか?」
「いや、なん朝ぐらいからずっとそうなんだ」
「朝から……」
本柳が催眠術をかけた頃だ。
「なんかさ、記憶が飛ぶんだ」
「へえ……どんな風にです?」
「ずっと本柳と歩いているだろ。でも、気づいたらこの鞭を持ってた。そのライフルだっ
てそうだよ。気づいたら持ってたんだ。一瞬の記憶が無いんだ」
川越が右手を額に当てる。目を閉じ、眉をしかめた。
「なんか……朝からずっと、頭ん中に白い靄がかかってるみたいなんだ」
「風邪じゃないですか?鞭もライフルも、拾ったり見つけたりしたんですよ」
わざと大袈裟に本柳は笑って見せた。
「そうだっけ?」
「そうですよ、いやだなあ、川越さん」
本柳は川越の正面にまわると、じっと目を見た。
そして、子供に言い聞かせるようにゆっくりと話した。
21:「77・消えた記憶 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:13:36 +luucP8S0
「川越さんは何も疑わなくていいんです。俺の言うことを信じて下さい。敵を倒して、俺
達が生き残ること。これが最終目的です。その為なら何だってしなきゃいけないんです。
いいですね?」
それらの言葉はもはや呪文だった。
催眠術をかけられている川越にとって、本柳の言葉は絶対だった。
何かに魅入られたように、コクンとうなずく。自分が何をしているのかもわからないまま。
「川越さんは強いんですよ。だから自信を持たなきゃ」
再びうなずく。
「小柄なピッチャーは大成しない。持久力もない。チビにエースなんて無理だ。お人よし
に選手会長なんて務まらない。そう言った奴らを見返すんですよ、強くなって」
それは川越の心の奥に隠されていた劣等感や不安を煽るのに十分な言葉だった。
「誰よりも強くなって」
とどめの一言。
鞭を握る川越の右手に力が入った。
【残り・34人】
22: ◆UKNMK1fJ2Y
06/10/31 20:14:43 +luucP8S0
スレ立てありがとうございました。
今回は以上です。
23:代打名無し@実況は実況板で
06/11/01 01:19:22 WV4OQLGl0
乙でした。嶋村。・゚・(ノД`)・゚・。 やっぱりオリックスのバトロワは
「俺たちをこんな風にしたやつを倒す!」って方向になるんだなー。
24:代打名無し@実況は実況板で
06/11/01 21:09:26 WLincDl/O
保守
25:代打名無し@実況は実況板で
06/11/02 15:31:42 hIZd+1h0O
職人さん乙でした
メッセージが…嶋村……。・゚・(ノД`)・゚・。
26:代打名無し@実況は実況板で
06/11/02 23:00:26 I1QAVDYVO
捕手
27:代打名無し@実況は実況板で
06/11/03 15:27:26 ssYPoSNL0
保守
28:代打名無し@実況は実況板で
06/11/03 20:58:44 zG8j/IU10
保守
29:代打名無し@実況は実況板で
06/11/04 13:03:55 5sMlBmBk0
ほしゅ
30:代打名無し@実況は実況板で
06/11/04 18:55:27 nDD2oQNd0
URLリンク(mms:)
31:代打名無し@実況は実況板で
06/11/04 22:42:58 0faTAV3w0
Bs
32:代打名無し@実況は実況板で
06/11/05 18:37:42 Fpwys7GNO
☆ゅ
33:代打名無し@実況は実況板で
06/11/06 16:31:55 N60BGuKMO
捕手的山
34:「78・間に合った投手 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:31:14 4CeYN0ge0
「ふざけんなよ畜生」
静かな機械音。エレベーターの中。高木は一人ごちた。
室内のテレビが突然爆発した。高木は山口に要求されたコーヒーを作っていたので、幸い
テレビからは離れていた。テレビの前にドッカリと座っていた山口は、いくつかの破片を
顔面に受けた。大きな傷にはならなかったが、小さな切り傷、擦り傷がいくつも出来、チ
リチリとした痛みに文句を言い始めた。
「酒探してこい!酒!ホテルならどっかに隠してあんだろ!ワインは飽きた!バーにゃウ
ィスキーがねえんだよ!貯蔵庫でも探して来い!」
我儘な命令を下され、高木は仕方なくホテル内を彷徨っていた。
それほど広いホテルではない。しかし高さがある。5階のバーはもう見た。山口ご所望の
ウィスキーは無かった。レストランを見つければいいのだろうか。貯蔵庫はまた別の場所
だろうか。地下2階から最上階まで、隈無く探検した方がいいのだろうか。
念の為、自分の鞄は持って来ている。山口を完全に信頼しているわけではない。むしろ、
あまり信じてはいない。自分をこんな風にこき使う人間だ。何かのおこぼれに預かれる可
能性も少ない。もし何かあったら、高木のことを放り出して逃げてしまうかもしれない。
「………ったく、俺をナメんなよ」
けれどおとなしく命令に従っている自分が情けない。
仕方ないのだ。
世の中は上に立つ人間と下敷きになる人間、強い人間と弱い人間に分けられる。山口と高
木が並んだ時、たまたまこういう力関係になっただけだ。
また違うメンバーが集まったら、山口だって下になるのだ。
自分を納得、というよりも諦めさせ、まずは地下から探すことにした。外部から大量の食
料が運び込まれた場合、普通は地上1階か、地下に収められると考えたからだ。
地下2階は当然のことながら薄暗い。左手に持った懐中電灯の明かりを頼りに廊下を歩く。
(なんか、こういう恐い映画ってあったよな……)
ドアを見つけると、その部屋の表示を調べる。機械室であったり、違う部屋だったり、食
料及びアルコールは見当たらない。
山口の要求で、傷の手当が出来る救急道具も探さなければいけない。
「………はぁ」
35:「78・間に合った投手 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:31:52 4CeYN0ge0
小さくため息をつく。
(俺、なにやってんだ)
暗い部屋。自分1人。じっくりと考える。
(俺、殺し合いさせられてんだよな?)
支給された武器、「グロック17」と呼ばれる銃は右手に持っている。山口には嘘をついて
その銃は見せなかった。全く違うアイテムを支給されたように見せかけて誤魔化した。
『プライドと自信を持て』
ふいに思い出す言葉。あの日、仰木監督にかけられた言葉。
『高木、いいか、お前は近鉄最後の勝利投手だ。そのことに自信を持て。プライドを持て。
お前は最後の最後に間に合った選手なんだ。これを結末にするな。新しいものに繋げるん
だ。お前自身の力で』
あの言葉が、今も胸を離れない。
『お前自身の力で』
いつも、何かあった時に自分に投げかける。
(俺自身の力で、切り開くんだ)
地下2階には、めぼしいものは見当たらなかった。エレベーターホールに戻り、地下1階
へ向かうことにした。懐中電灯で廊下の前方1メートル辺りを照らして歩く。
また小さくため息をついた。
(………山口さん以外の誰かに会ったら、俺、迷わずそっちに行くと思うな)
エレベーターのドアが開く。明るい小さな四角い空間。
そこに、その人物はいた。
狭いエレベーターの端に、体を窮屈そうにくの字に曲げて横たわっている誰か。
そして箱の中、反対側の角に、もう1人の人物は膝を抱えてうずくまっていた。
ゆっくりと顔を上げる。表情はない。
不気味な顔。
白いアイスホッケーのマスクをつけていた。
そいつがニタリと笑ったような気がした。
【残り・34人】
36:「79・エレベーター1 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:32:59 4CeYN0ge0
高木がエレベーターでその人物と出会った時より20分ほど前。
廃墟ビルの中に籠もっていた光原と金子は、それなりに作戦らしきものを練っていた。
建設的な意見はあまり出なかったのだが、少なくとも2人して黙り込んでいるよりはマシ
だった。
金子は終始、腕の痛みに顔を歪めていた。光原も、そんな表情を見ていることがつらくな
った。普通に生活するには自分の体は何の問題もない。けれど、金子の状態はそれすら許
してもらえない。時折激痛が走るようだ。ピクリと歪む表情でそれがわかった。
「やっぱり俺、薬探してくるよ。痛み止め欲しいだろ」
光原が立ち上がる。
金子は左手で、腹部に押さえ込んだ傷だらけの右腕をそっと撫でた。
「こんな感じの街ならさ、多分あると思うんだ、薬局とか。ちょっと待ってろ」
「でも……」
金子が不安そうな表情を見せる。光原はわざと笑顔を作って見せた。
「大丈夫だよ、注意して歩けばいいんだ。誰かに会えるかもしれないし」
「……敵だったら?」
また泣きそうな声を出す。
「大丈夫!仲間かもしれないしね。信じられる誰かに会えるかもしれない」
まだ金子は戸惑った顔をしている。
「大丈夫だって!金子はここで隠れて休んでろよ。俺も無理はしないから。すぐ戻って来
る。30分くらいかな」
「………それぐらいなら……ホントに無理しないで下さいね」
「ああ、じゃあ行ってくるよ」
鞄を肩にかけ、笑顔で手を振る。
「すみません、ミツさん……俺……全然役に立たなくて……」
「いいって。じゃあ」
何故か腕にアヒルの浮輪を通したまま、光原がビルを出て行った。
37:「79・エレベーター1 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:33:42 4CeYN0ge0
金子はしばらくの間、光原の出て行った出口を見つめていた。
そして、小さく笑った。
「……ほんっとにお人よし」
大きく息を吐く。
「自分から薬探しに行ってくれちゃうんだもんなあ」
確かに腕が痛む。さっきよりもよりズキズキと痛むようになった。血管が揺れる感覚とで
も言えばわかってもらえるだろうか。金子の方でも、薬を探しに行かないかと声をかけよ
うか悩んでいたのだ。声をかけるタイミングを考えていた。
なのに光原は自らそれを提案して、1人で外へと飛び出して行った。
「ミツさん、上手く扱えば何かと楽だよな」
誤算は自分の右腕。今の時点では使い物にならない。
突然の清原の来襲。恐ろしかった。
(………あの人たちに勝って、生き残るんだ)
菊地原と萩原の家を訪れた時、何故自分は攻撃しなかったのか。
(……食料を得る為に行ったからだ。それに武器はこんな小さなナイフだし……)
それは言い訳。
本当は恐かったのだ。自分が誰かを殺す勇気など無かったのだ。
清原と対峙した時の恐怖感。
(違う!俺は弱虫なんかじゃない!やろうと思えば出来るんだ!戦えるんだ!清原さんは
不意打ちだったから……!)
必死で自分を奮い立たせる。
どこかで水滴の落ちる音がした。もうずっと聞こえている音。不規則なその音が、今金子
が1人であることを痛感させる。
(ミツさん、ずっと喋っててくれてたからな)
金子の気持ちを落ち着かせようとして、わざと明るい話題を喋り続けてくれた。金子は十
分落ち着いていたのだが、わざと怯えている演技をしていた。それもこれも、自分が生き
残る為。
38:「79・エレベーター1 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:34:29 4CeYN0ge0
(さて……と)
左手だけで伸びをしたその時、何かが水たまりを踏む音がした。
水滴の落ちる音ではなく、バシャン、と水たまりに何かが踏み込む音。
「………ミツさん?」
問いかけてから、自分のミスに気づいた。
敵に居場所を教えてしまった。敵からの返事はない。当然だ。
金子の全身が震えた。慌てて鞄に手を伸ばし、肩にかける。
(もし……もしだぞ、どこかに敵が隠れてたとしたら……俺かミツさんが1人になるタイ
ミングを待っていて………)
背筋に冷たいものが走る。両腕に鳥肌が立った。自分の武器はサバイバルナイフ。しかも
右手は使えない。
(逃げなきゃ!)
立ち上がった瞬間、ゴウッという音と共に、崩れた壁の隙間から大きな炎が飛び出してき
た。
「あちっ!!」
慌てて躱し、出口へと駆け出した。
少し距離をおいて背後から聞こえる足音も、着実について来る。
(やべえ!)
廃墟ビルを飛び出す。目の前は大通り。遮るものは何もない。金子は一刻も早くどこかへ
身を隠したかった。戦える体ではない。うまく敵をやり過ごさなければ。
すぐ正面に見えたホテルらしきビルに飛び込む。エレベーターのドアが開いていた。
(あれだ!)
何も考えずに中に飛び込み、ドアを閉める。
咄嗟にそのホテルの最上階、8階へのボタンを押した。
【残り・34人】
39:「80・エレベーター2 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:35:52 4CeYN0ge0
エレベーターが上昇し始める。
しかし、チンという音がしてすぐに2階で止まった。
「え?」
ドアが開く。
(まさか!!)
恐怖の形相で金子は身を縮めた。
だが飛び込んできたのは、顔の左半分を血だらけにした大西だった。
「うわあっ!!」
叫ぶ金子を無視し、大西は慌ててドアを閉めた。そして最上階のボタンを押そうとして、
もうランプがついていることに気づいた。
「こ、これ、お前が押したのか?!」
「は、はい」
「そうか、なら……いや、どうやって逃げる?!」
「に、逃げるって?!」
「敵がいるんだよ!このホテルの中に!俺もやられた!」
「えっ?!」
思わず絶句する。せっかく炎の敵から逃れたと思ったのに。
「畜生……左側が見えねえ!」
「誰なんですか?!」
「わからねえよ!白いマスクかぶってんだ!ジェイソンだよ!『13日の金曜日』の!アイ
スホッケーみたいな!」
余程焦っているのか苛ついているのか、大西は荒い呼吸をしながら常に体を動かしていた。
「畜生!」
大西は5階のボタンを押した。
「え?」
金子は思わず疑問の声を発した。エレベーターが4階を過ぎる。
「隣にもう1台エレベーターあったよな?俺は5階から非常階段で下りる」
「あるんですか?」
「あった、確か、あった」
「でも階段でジェイソンに会うかも」
40:「80・エレベーター2 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:37:19 4CeYN0ge0
「あいつはエレベーターで移動する。俺が会ったのもエレベーターに乗ろうとした時だ。
中にいたんだ。しかも足を怪我してるみたいな歩き方だった。階段は無理だろ、じゃあ
な!」
5階に着き、エレベーターのドアが開く。大西がフロアへと飛び出して行った。
金子は一瞬躊躇った。
大西と一緒に行動する為に飛び出すか、それともこのままエレベーターで地上へ戻るか。
もう炎を使って追ってきた敵は諦めただろうか。
この建物に入ったせいで、敵が増えてしまった。
迷っている間にドアが閉まる。エレベーターは最初に押されたボタン、最上階へと上がっ
て行こうとする。まだ決断しきれていない自分。うろたえることしか出来ない自分。
ふいに、どこかから恐怖に満ちた甲高い絶叫が聞こえた。喉から振り絞ったような声。
ちょうど閉まったばかりのドアの向こう、5階のフロアから。
(お、大西さん?!)
背筋に寒気が走る。敵がいたのだろうか?!
(ど、どうする?!)
考えても答えは出ない。手足が震えていた。小さな箱の中。
(ど、どうしよう……俺……俺……!)
エレベーターが最上階に着く。ドアが開く。そこから誰かが入って来そうな気がして金子
は慌てて開閉ボタンを連打した。ゆっくりとドアが閉まる。急いで1階のボタンを押す。
炎の敵が自分を追って来ているなら、きっとエレベーターか階段で自分の跡を追うはずだ。
ならば入れ替わりで自分がこのホテルを脱出すればいい。
(このまま逃げるんだ!)
そして気づく。
4階のランプが点いている。
金子は触れていない。大西も触れていない。
つまり、4階で誰かがボタンを押して待っているのだ。
(やばい!!)
エレベーターは6階を過ぎていた。咄嗟に5階のボタンを押した。4階に着く前に下りて、
大西と同じように階段で逃げるのだ。
5階はさっき、大西が下りた階ではなかったか?
41:「80・エレベーター2 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:38:36 4CeYN0ge0
だがもうそんなことはどうでもいい。敵は4階で待ち構えているのだ。
エレベーターが5階に着く。ドアが開いた。
血の海が広がっていた。
床に転がった、一個の体。
「ひいっ!!」
恐怖のあまり、体が動かない。そのくせ足はガクガクと震えていた。
足を動かそうとする。だがどこに向かって動かせばいい?
ここは小さな白い箱の中。
出口はただひとつ。
出口の向こうは血に染められた世界。
ブイン、という鈍い音と共にエレベーターのドアが閉まり始める。目の前の赤が消えてゆ
く。
(閉まれ!早く閉まれ!)
心の中で叫んだ。
無事にドアが閉まり、エレベーターが下降する。
そして、チン、という音と共に4階で止まった。再びドアが開く。
(閉まれ!閉まれっ!)
泣きそうになりながらまた開閉ボタンを連打する。ドアは一度開き、すぐに閉じ始めた。
あと少しでドアが閉まりきる。
(閉まれ!早く閉まれっ!)
その瞬間、狭い隙間から2本の大きな手が現れた。ねじ込むようにグイッと双方のドアを
押さえ付ける。物体に当たったドアは安全装置が働き、自動的に開き始める。
金子の目が恐怖と絶望に見開く。
ゆっくりとドアが開く。
開ききるのが待ちきれないのか、その人物はエレベーターの中に入り込んで来た。
真っ白い顔。
いや、白いマスクに覆われた、顔。
「……う……あ……っ!」
ようやく体が動いても、金子の逃げ場は狭いエレベーターの数歩後ろだけだった。
2本の腕が伸び、金子の首を壁に押しつける。
42:「80・エレベーター2 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:39:30 4CeYN0ge0
「げっ……!」
ギリギリと絞め上げられる。息苦しさに必死にもがくが、敵は微動だにしない。両足をバ
タつかせる。首を絞める手を剥がそうとするが、使えるのは左腕のみ。
敵の力は恐ろしかった。
「ぐ………あ………ぁ……っ!」
恐怖と息苦しさ。金子の頭が混乱する。酸素が入ってこない。
苦しい。
助けて。
誰か。
光原たちを騙した罰か。
もうダメだ。
もう………
(……投げ……たい………)
ぼんやりと脳裏に浮かぶのは、ただ一度だけ叶った夢。
まだ誰も踏み荒らしていないマウンドに立つ自分の後ろ姿。
(………勝ち……た……い………)
世界に霧がかかる。
ズルリと金子の手が落ちた。
敵が手を離す。
壁に沿ってズルズルと金子の体が床に崩れ落ちた。体をくの字に曲げて、窮屈そうに。
(………さて、と)
白いアイスホッケーの仮面をつけた人物は、反対側の隅に腰を下ろした。
エレベーターはすでに、ランプの点いている地下2階へと向かっている。
(……まだ腕が疲れてるな)
地下で呼んでいる新たな犠牲者を仕留められるだろうか。
【×金子千尋 残り・33人】
43:「81・ジェイソン 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:41:00 4CeYN0ge0
高木は開いたエレベーターを呆然と見つめていた。
アイスホッケーのマスクをつけた男。
(ジェイソン!)
瞬時にそう思った。そして床に倒れている人物。その体は細い。数字の「19」がかろうじ
て見えた。
予想外の光景に体が凍りついた。
ユラリ、とジェイソンが立ち上がる。エレベーターのドアが閉まり始める。ジェイソンが
腕を延ばし、ドアの動きを止めた。ガクン、と小さくドアが揺れ、再び開き始める。
ジェイソンが前へ一歩踏み出した。
「う、うわああああああっ!!」
絶叫し、高木は真っ暗な廊下を闇雲に走りだした。懐中電灯の明かりも頼りにならない勢
いで、ただひたすら前へ。
(うわあっ!うわあっ!うわあっ!)
心の中で叫び続ける。出口を求めて走り回る。逃げなければ。身を隠す場所は?
廊下の突き当たり、「非常階段」の文字を見つけた。飛びつき、必死にノブを回す。
動かない。鍵がかかっている。
(畜生!!)
後ろを振り返る。ジェイソンがゆっくりと近づいて来ていた。どこかしら足をかばうよう
な歩き方で。再びドアノブをまわす。ただガチャガチャと虚しい音がするだけだ。
(ダメか!)
44:「81・ジェイソン 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:42:00 4CeYN0ge0
ドアは諦めるしかない。ならば、脱出方向はひとつだけ。ジェイソンとすれ違って逃げる。
高木は自分の腰に手をやった。とうとうこれを使わなければならない。使いたくはなかっ
た。人殺しにはなりたくなかった。けれど今、これを使わなければ自分が殺される。
今まではこれに手を伸ばす余裕がなかった。しかし今なら、ゆっくりと歩み寄るジェイソ
ンの妙な余裕が時間をくれる。
銃をベルトから引き抜いて両手で握り、心の中で掛け声をかけて一発撃ち放った。
瞬間目をつぶってしまい、高木の重心が揺れた。
「ギャッ!!」
叫び声と共に、ジェイソンが肩を押さえてよろめき倒れる。
(今だ!)
高木はジェイソンに向かって駆け出すと、ハードルを飛び越える要領で勢いよくその体の
上を飛び越えた。振り返ることなくエレベーターホールへと走り、そこに止まっていたエ
レベーターに飛び込むとドアを閉め、1階を押した。
足元に転がる金子の死体を見ないようにして。
やけに長く感じる時間を過ごし、エレベーターが1階で開く。
上の階に残している山口のことなどとうに忘れて、高木は外へと飛び出した。
太陽の眩しい市街地へ。
今こそ、自分自身の力で。
【残り・33人】
45: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/06 22:43:50 4CeYN0ge0
今回は以上です。
46:代打名無し@実況は実況板で
06/11/06 23:06:33 xQio7C220
投下おつかれ様です!
千尋タン(ノД`)・゚・。 高木がんばれ・・・
47:代打名無し@実況は実況板で
06/11/07 00:26:15 LYRhMkfQ0
乙ですた。また一人死んでいくよ。・゚・(ノД`)・゚・。
高木も気になるが山口も気になる。まあ部屋にこもってりゃ敵には会わないと思うが・・・
職人さん一人に書いてもらってるのはなんか申し訳ない気もする。
48:代打名無し@実況は実況板で
06/11/07 13:30:16 Epbvwe0ZO
谷、巨人入りか
49:代打名無し@実況は実況板で
06/11/07 14:03:35 FxmiRBNZO
乙です!!
金子…(´;ω;`)
大西と高木はどーなるんだ?!
50:代打名無し@実況は実況板で
06/11/07 18:20:55 hWhsT5BoO
やべえ、恐くてエレベーター乗れねえ…
51:代打名無し@実況は実況板で
06/11/07 18:58:23 ke7gVI0g0
エレベーターの扉が開いたらジェイソンが中でたたずんでるとか(((( ;゜Д゜)))
52:代打名無し@実況は実況板で
06/11/08 09:27:15 etEy6683O
ジェイソンと聞いてグラバーを思い浮かべた漏れは(ry
53:代打名無し@実況は実況板で
06/11/08 18:38:13 +lNUl3h00
どうも、乙です。
ジェイソンの正体が誰なのかが気になる・・・。
54:代打名無し@実況は実況板で
06/11/09 17:39:18 NVxuq67S0
ジェイソンの正体は蘇った仰木さん
55:代打名無し@実況は実況板で
06/11/10 00:28:21 KbP4SfoHO
あれ?他球団を見守るスレ落ちた?
56:代打名無し@実況は実況板で
06/11/10 01:13:47 e4P6E8hw0
落ちてるっぽい
57:代打名無し@実況は実況板で
06/11/10 21:21:17 gBrMLWqkO
保守
58:代打名無し@実況は実況板で
06/11/11 00:23:36 e8+8IYlBO
ホシュ
59:代打名無し@実況は実況板で
06/11/11 14:52:29 v+i4dmot0
ほしゅ
60:代打名無し@実況は実況板で
06/11/11 23:57:19 i0fhzQfjO
ほ
61:代打名無し@実況は実況板で
06/11/12 01:28:40 ReAhuvYR0
しかしここの内容はかなりクオリティ高いな。
62:代打名無し@実況は実況板で
06/11/12 02:08:58 lTB0zjO+0
>>61
そちらの「クオリティ高い」の基準がどれほどのものかは
しらないけどそこまでは思わないな
ジェイソンの回は息もつかせぬ展開で久々に話に入りこめて
よかったけど
63:代打名無し@実況は実況板で
06/11/12 15:49:46 TKDWz6BqO
52
実はオレもwww
64:代打名無し@実況は実況板で
06/11/12 22:36:16 fImr0RYJO
ほしゅ
65:代打名無し@実況は実況板で
06/11/13 14:13:54 c/OISGW00
捕手
66:代打名無し@実況は実況板で
06/11/13 21:29:55 0ObobNVdO
また見守るスレ落ちた?
67:代打名無し@実況は実況板で
06/11/13 21:49:49 lifJAyOp0
そうみたいだね
8章目は1000までいったのに
9,10と連続で100までいかなかったとは
68:代打名無し@実況は実況板で
06/11/14 13:39:13 Im9DB/QDO
ホシュ
69:「82・懲りない人」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:34:02 1b6FiKuM0
5階のエレベーターホールには、真っ赤な液体が広がっていた。
色鮮やかなカーペットに染み込み、それは毒々しい色を浮き上がらせていた。
倒れていた体がピクリと揺れた。
不自然な形に捩れていたそれは、元の体勢に戻ろうと蠢いた。
「………っ……いてぇ………」
だるい体を起こし、右手を頭に当てる。顔を上げた。
山口だった。
(……畜生!大西の野郎!)
あまりにも高木の帰りが遅いので、おぼつかない足取りではあるが自分から部屋を出て探
しに来た所だった。空腹とアルコールの魅力には勝てなかったのだ。
5階にあるバーにはアルコールが数本残っていると高木が言っていた。酒が欲しくて、自
分からエレベーターを降りた。バーで適当に2本の赤ワインを選んで持ち出し、エレベー
ターホールに戻った所で、突然大西と出くわした。正面衝突。
ワインのビンが山口の頭に当たり、そのまましばらくの間倒れていた。
気がついたのが、今。
辺りを見回しても大西はいない。どこかへと走り去ったようだ。
(あの野郎、とんでもねえ顔して逃げて行きやがったな)
化け物を見た時のようなあの表情、驚愕という言葉すら物足りないだろう。
そして、顔半分を汚していた血。いや、あれは血だろうか。目の錯覚か?
それにしても高木はどこへ行ったのだろう。
(畜生、2本とも割れやがった)
立ち上がる。ビンを強く打ちつけた額が痛い。後頭部もしたたか打った。
(新しいの探してこなきゃな)
再びバーへと戻ってゆく。しばらくすれば高木のことも簡単に忘れてしまうだろう。
危険の潜むエレベーター、このホテル自体に潜む危険にも気づかず、山口は一人アルコー
ルと共に生きている。
【残り・33人】
70:「83・妖刀 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:34:51 1b6FiKuM0
机の上に置いてある、長い日本刀。
説明書には「伊勢千子村正、全長:105cm重量:1210g」と書いてある。
徳川家を呪う刀、妖刀・村正。振り回す程度に扱うことは出来るようだ。
バッターでよかったとつくづく早川は思った。スイングする気持ちで刀を振ればいいのだ
ろうか。とある有名なバッターは、日々日本刀を振ってスイングやバットコントロールの
練習をしたと言う。自分もそうしろと言われているのだろうか。
何度か試しに木の枝を切ってみた。そのたびに、スパッという切り心地にどこかしら爽快
なものを感じていた。
(もっと何か……違うものを切ってみたいな……)
葉っぱ……木の枝……幹……もっと大きなもの……手ごたえがあって、柔らかい………
人間。
(ダメだ!何考えてんだよ!この刀は自分を守る為に使うのであって……)
相手が刀よりも弱い武器だったら、切りかかってもいいのだろうか。
それとも刀より強い武器だったら、戦意を持ってもいいのだろうか。
妖刀。
呪いの刀。
徳川一族の多くの者を斬った刀。
徳川一族暗殺の濡れ衣を着せられた者が切腹したのもこの刀。
じっと刀の刃を見つめる。
いくつもの忌まわしい伝説が、この現代でどのように機能するというのだろう。
時計を見る。午後3時過ぎ。あと数時間で2日目の夜が来る。
まだ生き残っている自分。
制限時間以内に残り1人にならなければ、全員の首輪が爆発するという。だがそれは本当
だろうか。早川はまだ危険を実感したことがない。出発直後に吉井に声をかけられたが、
すぐに別れてしまった。正確には、吉井が早川から逃げたのだ。この刀を持っている早川
を見て。早川を恐れたのか。それとも、妖刀・村正を恐れたのか。吉井には、この妖刀の
持つ何か不思議な力が伝わったのだろうか。
71:「83・妖刀 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:35:57 1b6FiKuM0
そんな神秘の力を纏う刀なら、自分にも何かしら出来るのではないだろうか?あの吉井が
逃げたくらいなのだ。吉井が早川に怯えるはずなどない。ならばこの刀に怯えたに決まっ
ている。
この妖刀さえあれば。
(………試してみようか)
少しだけ、外を出歩いてみようか。気づかれないようにどこかに潜んで、もしそこを誰か
が通ったら、背後から。そう、背後からなら気づかれないはずだ。
右手で刀の柄に触れる。冷たい感触。
額に汗が滲む。自分の呼吸が荒くなっている。いつの間にか口元に怪しい笑みが浮かんで
いる。ピクリと頬が歪む。
(この刀なら………俺にだって………)
ふいにどこかで鳥が鳴いた。一瞬息を飲み。慌てて首を振った。
いけない。
自分の心が危険な方向へと向かっている。
(………でも………)
チャンスかもしれない。もしここで勝利出来れば。見返すチャンス。自信を持つチャンス。
危険な賭けとはわかっているが。
(………1人だけ)
そう、1人減らすだけだ。あとは他の人たちに任せよう。
1人だけ。
刀の感触を味わってみたい。
1人だけ。
たった1人だ。
ゆらりと早川は立ち上がった。
何かに魅入られたような目をして。
【残り・32人】
72:「84・ラッキーカード 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:37:53 1b6FiKuM0
(……谷さん……)
平野恵一は拭いても拭いても込み上げてくる涙を拭いながら、膝を抱えていた。
平野が辿り着いた場所は、南西の海岸沿いの洞窟だった。
市街地の隅を突っ切り、かなりの距離を歩いたと思う。目の前は海。近くには小さな港が
あるようだ。今いるエリアが次の禁止エリアに入っていないことを確認すると、地図を鞄
にしまった。
平野は谷の遺体を見た。香月の襲われた場所に戻り、それを見た。
あの時、途中で出会った嶋村は北川を迎えに行くと言った。けれど、平野はどうしても谷
の様子を調べに戻りたかった。一刻も早く。
嶋村は北川を選んだ。平野は谷を見捨てた。
自分が見捨てたことへの罪悪感。
結局、谷も失い、嶋村もその後どうしているかわからない。全てが裏目に出る状態。
考えを変えたくて、鞄の中から自分に与えられた支給品を取り出した。何度読んでも意味
がわからない。
真っ白なカード。
赤い字で「ラッキーカード」と書かれている。
『生き残りたければ「J-2」の研究所へ行け!ただし、マーマレードジャムを忘れずに!』
説明はそれ以外には全く無い。後は裏面に西洋風の意味深な絵が描かれているだけ。
(マーマレード?)
平野の鞄の中に入っていたのはパンとバターだった。
(マーマレードだった人もいるのかな?)
静かな空間に、波の音だけが聞こえた。数時間前までは谷との会話があった。
けれど今は1人。
(行ってみようか)
この研究所とやらへ。けれど平野の体力が続くだろうか。
(マーマレード……どうやって手にいれよう?)
何故マーマレードなのだろう。考えることが多すぎる。
「マーマレード……」
「ママがどうかしました?」
突然の声に顔を上げる。
73:「84・ラッキーカード 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:39:11 1b6FiKuM0
「……なんだ、恵一か」
呟いたのはユウキだった。どこか残念そうな表情を浮かべている。
「ユウキ……無事か」
「……まあね。恵一も」
中途半端な答え方をして、洞窟の壁、平野の向かいに座る。同い年の2人が、複雑そうな
表情をしながら。
「恵一、誰かに会った?」
尋ねられて当然なユウキの問いかけが、平野を深く傷つけた。
「……谷さんと……嶋村と……香月」
「香月………」
ユウキの声色が、微かに変わる。
「香月、どこにいた?」
「どこ……だったかな……あいつは危ないよ」
「危ない?」
身を乗り出して尋ねてくる。
「谷さん………香月にやられたんだ………」
「………へえ」
ユウキの答えはそっけない。驚くでもなく、悲しみを伝えるでもなく、平野を励ますでも
なく、ただ返事をしただけだった。
「俺を……かばって………」
また涙が込み上げてくる。慌てて袖で拭った。今は泣いている場合ではない。
「ユウキ」
「ん」
「お前、マーマレードジャム持ってるか?」
「マーマレード?ああ、さっき呟いてたの、そのこと?」
「ああ、持ってるか?」
「いや、アーモンドバターなら入ってたけど」
「そうか……」
「マーマレードがどうしたんだ?」
平野は鞄からラッキーカードを取り出した。
74:「84・ラッキーカード 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:40:21 1b6FiKuM0
「これ」
ユウキは慎重にそれを受け取ると、やや眉をしかめながらその文章を読んだ。
「………なんだこれ?」
顔を上げ、平野を見る。平野も小首を捻って見せた。
ユウキはラッキーカードを太陽の光に当てたり、ちょっと壁で叩いてみたりした。何も変
哲もないカードだ。プラスチックだろうか。定期券程度の大きさだ。
ユウキは地図を広げた。研究所の位置を確かめる。
「島の端っこか……そんな遠くはないな」
再び顔を上げ、平野を見た。
「恵一」
「ん?」
「行かないか?」
ユウキの顔は真剣で、どこか楽しげだった。ワクワクしているという表現がぴったりだ。
「研究所。何があるか知りたくないか?」
「知りたい……けど……今から?」
「今から」
平野は呆れたように目を閉じた。
(俺、どこまで体力持つかな……)
自分の体はまだ完全ではない。そんな不安を察したように、ユウキが続けた。
「疲れたら休めばいいよ。俺も肩貸すし。だって、恵一だってこのカードの意味、知りた
いだろ?」
「ああ」
しっかりとうなずく。
「じゃあ行こうよ。ちゃんと体調を見ながら歩こう」
そうなのだ。ここに座っていたって始まらない。動かなければ。
生き残る為の手段がこのラッキーカードには隠されている。
(みんなで生き残れるのかな……)
【残り・32人】
75:《OTHER SIDE・3 1/3》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:42:00 1b6FiKuM0
白い飛沫を上げて、1台の小さな船が海を走る。
操縦しているのは、水玉模様の赤いスカーフを靡かせたリプシー。
スカーフが揺れ、その下に提げている小さなペンダントがチラリと見えた。
涙型のクリスタル。彼女からもらったものだ。
『リプシー、これ、あなたにあげる』
そう言って、彼女は微笑んだ。
『これね、あの発表があった後、ファンの人からもらったの』
少し照れたように話す。
『だから、あの日からそう決めたの。このペンダントを私の流す涙の代わりにしようって。
私はずっと笑顔でいるわ。でなきゃファンの人も選手のみんなも心配でしょう?不安でし
ょう?だから、私は笑顔でいる。代わりにこのペンダントが泣いてくれる。私の涙は全部、
ここの中』
彼女はペンダントを外し、リプシーの掌の上に乗せた。
『私達はいなくなるけれど、私の分まで頑張って』
リプシーはその場でペンダントを首にかけた。
『………ええ、頑張るわ。私ももう泣かない。絶対に泣かない。このペンダント、貴女だ
と思って大事にするから。絶対肌身離さず持ち歩くから!』
彼女はニッコリと笑った。風に揺れる黄色い髪。可愛らしい雛菊のような笑顔で。
草原の香りのする彼女と、潮風の香りのするリプシーの、それが別れだった。
もうこれ以上、大切な人たちを失いたくはなかった。
例え、この想いが通じていなくても。
76:《OTHER SIDE・3 2/3》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:43:11 1b6FiKuM0
ネッピーはそのリプシーに背中を向けて座り、海に残る航跡をぼんやりと見ていた。
(パンツが見えるのが嫌ならさ、もっと長いスカート履くか、ライナみたいにズボン履け
ばいいじゃん)
風に揺れるミニスカートがリプシーには気になるらしい。
「お年頃だからね」
ネッピーの隣で、同じ方向を向いて座っている大島コーチが言った。
両手で小型無線装置を抱えている。小型だが、大島の体と比べると充分な大きさが感じら
れた。
「普段スタジアムでは平気でスカートヒラヒラさせてんのに……。ねえ、大島コーチまでなに
も一緒にここまで来なくても……」
「だって、連絡係がいないと不便だろ?」
ニコニコしながら答える。
「多分島だと携帯は使えなくなるからね、ヘッドセットタイプの無線ね。トランシーバー
みたいなもんだよ。ちゃんと防水加工されてるから。あと、食料はこれだけ買いこんであ
るからね。いざとなったら釣りでもして増やすけど」
77:《OTHER SIDE・3 3/3》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:44:20 1b6FiKuM0
リプシーは真っ直ぐ前を見つめていた。目の前に広がる海。
視線はただ一人の人物の面影を追っていた。
(始めて意識したのは、あの日)
中日との交流戦。
中日のマスコットであるドアラがリプシーの元へとやって来た。
リプシーはファンの子供達と、ネット越しにやりとりをしていた。
ふいに肩に柔らかい何かが乗った。
見ると、ドアラがリプシーの肩を抱いている。
ビックリしたのと同時に、その存在のインパクトに驚いた。
そしてドアラは、何食わぬ顔でリプシーの肩を抱く手に力をこめてきた。
(な、何この人……いえ、何このドアラ……)
戸惑ってしまった。リプシーは子供の構える携帯カメラにポーズをとりたいのに、ドアラ
が邪魔をする。心なしかドアラはドラゴンズ側へリプシーを引っ張って行こうとしている
ようにも思えた。
(ちょ、ちょっと痴漢……!)
その時だった。
「へえー、これが噂のドアラかー」
そう言って、あの人が現れた。さり気なくドアラの注意を引く。
「握手しよう、握手」
その人が両手を差し出すと、ドアラも両手を差し出した。リプシーの体が自由になる。
その人はさりげなくリプシーに「お逃げ」と合図を送った。
その時から、リプシーはその人に目を奪われるようになった。
(私をドアラのセクハラから助けてくれた……)
気のせいだったのかもしれない。単にあの人がドアラと遊びたくて、偶然だったのかもし
れない。
それでもいいのだ。
リプシーはそれ以来あの人を見つめ、あの人のさりげない部分をいくつも見出した。
今度はリプシーがあの人を救う番だ。
(必ず……必ずお助けします……どうかご無事で……)
78: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/14 20:47:20 1b6FiKuM0
今回は以上です。
年末に向けてちょっと仕事が増えてきそうなので、投下量が少なくなるかもしれません。
出来るだけ週1回のペースで投下出来るよう頑張ります。
79:代打名無し@実況は実況板で
06/11/14 20:50:57 K6nbKr5D0
ちょwwwドアラwww
ペースなんて気にしなくても投下していただければそれで十分でございますハイ
80:代打名無し@実況は実況板で
06/11/14 23:01:05 Z7Ns8DL+0
職人さん乙です。無理はいけませんからお仕事がんばってくださいね
ってかドアラwww痴漢なのかよwww
81:名無しさん
06/11/15 01:03:48 kHI9LoSEO
また明日だな…
82:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 09:30:48 uVdpVo7lO
リプシーの想い人が気になる罠
83:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 10:20:11 J4ydDHF2O
ちょwwwドアラwww一番最悪www
84:代打名無し@実況は実況板で
06/11/15 13:00:52 NK4Ci6hmO
職人さん乙!超乙!
無理はなさらないでくださいね(´・ω・`)
一瞬ドアラがリプシーの想い人かと思ったwwwww
ファルルのペンダント……(´;ω;`)
85:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 02:18:41 59bUxzuqO
保守
86:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 12:34:49 Jzmzm04I0
ほしゅ
87:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 19:57:01 O+N+NKVN0
保守
88:代打名無し@実況は実況板で
06/11/16 20:06:05 6Uz0HJXr0
新スレ立ててから埋めろよ>本スレ
89:代打名無し@実況は実況板で
06/11/17 02:23:01 1OQFf+SeO
ほ
90:代打名無し@実況は実況板で
06/11/17 19:46:05 1OQFf+SeO
し
91:代打名無し@実況は実況板で
06/11/18 08:08:31 0fxSnAJ4O
ゅ
92:代打名無し@実況は実況板で
06/11/18 21:09:52 r8Hlk2/I0
保守
93:代打名無し@実況は実況板で
06/11/19 14:55:02 NS2/Vboy0
捕手
94:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 00:18:54 A+fLosnGO
ほしゅ
95:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 10:22:28 wGNC5C7hO
おはよう保守
96:代打名無し@実況は実況板で
06/11/20 22:58:34 Eg0gktt90
おやすみ保守
97:代打名無し@実況は実況板で
06/11/21 09:53:08 QHVMNgUHO
捕手
98:「85・希望死因・過労及び熱中症 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:11:27 0Ui6RH/f0
菊地原は空腹を感じていた。
鞄を失った。地図の無いことがどれだけ危険かは十分わかっている。簡単な島の地図は頭
の中に残っているが、細かいエリアの区切りなどはわからない。次に禁止エリアが増えた
時にはどうすればいいのか。
(あまり歩きまわるのもよくないんだがな)
歩かなければならない理由があった。仲間が欲しい。地図を持っている仲間が。喉も渇い
ている。どこかに水はないだろうか。市街地の方に行けばあるだろうか。炎天下にしばら
く倒れていたのがいけなかったのだろう。徐々に疲労も感じてきている。微かに腹部が痙
攣しているようだ。
体の酷使には慣れている方だが、今の状況は訳が違う。
ユニフォームのボタンをひとつちぎり取り、口に放り込んだ。こうすれば自然と唾が出る。
本で読んだ知識だが、少しは気休めにでもなるだろう。
6月とはいえ、昼間の陽差しは容赦ない。爆風で帽子も失った。汗が止まらない。
(熱中症が恐いな)
空腹で、水分も無い。最悪だ。
体力には自信のある方だ。でなければ連投が仕事の中継ぎなど出来ない。脅威の疲労回
復度を誇る菊地原だ。けれど。
(さすがにきついな。まだ2日目だってのに)
微かに眩暈がする。腹部や四肢の痙攣も確か熱中症の症状ではなかったか?
(これは水よりもまず塩分補給だな……塩とか梅干だ。いきなり水をガブガブ飲んだらヤ
バイって聞いたことあるぞ……)
これまでに貰ったファンレターのほとんどに、こう書かれていた。
『お体をお大事に』
『体に気をつけてがんばってください』
友人たちからも言われた。
『死なない程度に頑張れ』
笑いながら話したものだ。仲間内でも連投が菊地原のステータスになりつつあるようだ。
困った時の菊地原。
それがチーム内での存在意義だった。
99:「85・希望死因・過労及び熱中症 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:13:19 0Ui6RH/f0
無言のまま、土の上を歩く。サクサクと乾いた音がする。いい天気だ。
いい天気すぎる。日陰が見当たらない。あったとしても、自分の体をゆっくり休められる
ような場所ではない。
(歩いて行けば、どこかに日陰か水があるさ)
自分を励ましながら歩く。
昨夜はあまり眠れなかった。こんな状況に放り込まれてぐっすり眠れる方が変なのだ。な
のに一緒にいた萩原があっさり寝てしまった。物事を考えすぎる萩原が、あんなにあっさ
り眠ってしまうとは意外だった。それとも菊地原が緊張しすぎているのだろうか。
徐々に体が汗をかかなくなる。
(これってヤバイ状態だよな)
熱中症の一歩手前。すぐにでも日陰を見つけて休まなければ。口の中がカラカラだ。
(………畜生)
「菊?」
声がした。ずっと地面ばかり見ていた顔を上げる。目が霞む。視界が揺れている。
「菊、大丈夫か?」
心配そうな声が歩み寄って来る。菊地原の目の前が真っ暗になった。
「菊!」
崩れ落ちる菊地原の体を支えようとして腕を伸ばした的山は、巻き込まれるようにして一
緒に地面に倒れた。
「菊!しっかりしろ!」
水を取りだし、菊地原の口に当てる。少しは飲んでくれたが、十分とまでにはいかなかっ
たようだ。その体温の高さに驚く。菊地原の意識は朦朧としていた。
「菊!」
頬を叩く。菊地原はまともな反応を返さなかった。
100:「85・希望死因・過労及び熱中症 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:14:12 0Ui6RH/f0
「菊………」
心配そうな表情をしていた的山が、ニヤリと笑った。
「………お前が勝手に倒れたんだ」
そのまま菊地原の体を横たえる。
「熱中症、水分不足、過労……理由ならなんでも後からつけられる」
空を見上げる。まだ眩しい太陽がしっかりとその存在感を示している。腕時計を見る。ま
だあと2時間は太陽が照っていてくれるだろう。
「お前さんなら、過労で死んでもおかしくないよなあ。死因、過労及び熱中症」
立ち上がる。
「このまま静かに、眠ったみたいに死ぬ方が楽だろ?」
ふと菊地原のポケットの膨らみに気がついた。手を伸ばし、それを取り出す。
「手榴弾か……こいつはいいや」
見つけた1個だけを自分の鞄にしまって歩き出す。振り返らず。
「……別に俺は何もしてないからな」
何もしない、罪。
目を閉じたまま、菊地原は動かない。
【残り・32人】
101:「86・あの時… 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:15:49 0Ui6RH/f0
出発したその夜に川辺で川越に声をかけられて以来、坂口は誰とも会っていなかった。
どこかで声を聞いたような気もする。爆発音や破裂音を聞いたような気もする。けれど、
それが殺し合いの副産物だという確証はどこにも無かった。
坂口は何も見てはいない。森の中、小さな家の中にずっと篭っている。下手に出歩くのは
危険だ。自分から危険に飛び込んでいく必要はない。与えられた武器も、どことなく微妙
だ。まるでチーム内における自分の立ち位置のように。
毒薬を一体どう使えばいいのか。誰かに毒を飲ませるには、まずその誰かに近づかなけれ
ばならない。近づくにはここを出て歩かなければならない。そして何か食べ物に添えてこ
の毒を差し出すのだ。混ぜるか、かけるか、強引に飲ませるか。
偽りの仲間を作るべきだろうか。
(仲間……)
もし相手が銃を持っていたら、自分は相手に近づけるだろうか?坂口が毒を提供する前に、
自分の胸に風穴が開くかもしれない。
(………弱い武器だよな)
寂しい。不安だらけだ。誰を信じればいいのかわからない。
もうこんなことを繰り返し、数時間以上考えている。ずっと同じことばかり考え続けてい
る。簡単に答えが出るのならこんな苦労はしない。考えているうちに、時間だけがどんど
ん過ぎてゆく。
何ひとつ、建設的なものがない。
(こういう優柔不断なところが俺の駄目な点だよな。走塁とか、瞬間の判断が必要だって
のに、いつもスタートで躊躇っちゃうんだ。散々コーチにも言われてきたことなのに……)
コンコン。
ふいに音がした。一瞬それが音だと気づかず、どこから聞こえたかもわからず、空白の時
間があってから慌てて周囲を見回した。
窓ガラスを叩いた音だと気づき、驚いて立ち上がる。念の為、室内で見つけて手元に置い
ておいた火かき棒をしっかりと握った。少し距離を取って、窓を見た。
笑顔の本柳がかろうじて窓から顔を出している。きっと背伸びをしているのだろう。その
横には伏せ目がちの目まで見える人物。あの感じは恐らく川越だ。
本柳は坂口を見つけ、ホッとしたような嬉しそうな表情で手を振った。
102:「86・あの時… 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:17:01 0Ui6RH/f0
笑顔。見慣れた仲間の笑顔。親しげな笑顔。
あの笑顔のどこを疑えというのか。ましてや本柳と川越だ。チームで1、2を争うくらい
の「いい人」なのだ。疑うことなく無条件で信頼出来る2人がやって来たのだ。
坂口は急いで窓辺へと歩み寄った。仲間がいたのだ。ようやく独りではなくなるのだ。
昨夜、川越は仲間を信じろと言った。けれど坂口は信じなかった。川越に背を向けて逃げ
出した。それでも川越は「頑張れ!」と叫んでくれた。
そして今、自分はやっと川越と本柳を信じようとしている。
もっと早く信じればよかったのだ。そうすれば、こんな不安で寂しい時間を送ることもな
かった。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
坂口の笑顔を見て、本柳も満面の笑顔になる。
(よかった!やっと……!)
そう思って窓を開けた瞬間、本柳が何かを取り出し、坂口の頭部に痛みが走った。
(え?!)
「あ、失敗」
本柳がライフルを構えていた。その先からは白い煙が上がっている。
痛みを感じる箇所に手をやった。ヌルリとした感触。驚いてその手を見る。血に濡れてい
た。
(え?!)
銃弾が頭部を掠ったのか。
「ミスった。も一度」
本柳がライフルを構え直す。
「う、うわ!」
坂口は慌てて家の奥に逃げようとした。途端にビシッという痛みが首に走った。痛みはそ
のまま首に巻きつき、ギリギリとした継続的なものに変わった。
「え?」
急に息苦しくなった。見ると窓から長いロープのようなものが伸び、坂口の首に巻きつい
ている。そのロープは川越によって絶え間無く引っ張られていた。
(な、なんだ?!)
声に出そうとしても出なかった。喉が締め上げられているのだ。
103:「86・あの時… 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:18:08 0Ui6RH/f0
逃げようとする。が、首に巻きついたそれに引っ張られて動けない。逃げようとすればす
るほど、自分の首を絞めることになる。かといって首を緩める為に窓辺へと歩み寄れば、
本柳の銃口が待っている。
(ひ………!!)
本柳が再びライフルを構える。標的になっているのは自分。本柳が顔をしかめて片目をつ
ぶり、照準を合わせる。
(本柳さん!!)
泣きそうな思いで叫んだ。声には出来ず、心の中で。
あの時、信じろと言った川越。
信じなかった自分。
そして、今信じようとした自分。
一体何が正しいのか。
坂口は混乱した。
しかし一向に本柳は引き金を引かない。呼吸の出来ない苦しさと、向けられた銃口への恐
怖が坂口の心を支配する。それ以外は何も考えられない。
(あ………ああ……あ………!)
静かだった。
ただ時折ロープの軋む音だけが小さく聞こえた。
やがて、ピクン、ピクンと坂口の頬が引きつった。カッと目を見開いたまま、その体が崩
れ落ちた。
静かだった。
「撃たなくてすんじゃったな」
安心した口調で呟きながら、本柳が窓を乗り越えて家の中に入ってくる。
入り口の方を見ると、予想通り中から鍵がかかり、バリケードが張られていた。
続いて川越が窓を乗り越えてくる。右手に畳んだ鞭を持って。
本柳は倒れている坂口を無視して、鞄を漁った。
「食べ物と飲み物、地図と……これかな?」
手にした小壜を見る。
「毒薬か……」
104:「86・あの時… 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:19:14 0Ui6RH/f0
本柳が小さくため息をつく。
「ちょっと難しい武器だな……」
川越の方を見た。右手に鞭を持ったまま、ボーッとしている。本柳は毒薬の小壜を川越に
渡した。
「持ってて下さい」
ぼんやりとした動きで川越はそれを受け取る。
「ん?」
本柳の視界に、鳥籠にしてはやや大きめの籠が見えた。一羽の鳥がいる。あまり家庭では
見かけないような、原色鮮やかな鳥。腹を空かせているのか、目を閉じ、じっと動かない。
歩み寄り、中を覗き込んだ。水と餌が入っているはずの桶は空になっている。
「………食うかな」
本柳は自分の鞄からペットボトルを出し、まずは桶の片方に水を注ぎ入れた。そしてもう
片方に、パンを小さくちぎって詰めた。そして詰めきれない分を少し、籠の端に置いた。
鳥はパチ、パチ、と二回瞬きをしてから、ようやく目を開けた。本柳は静かに籠の扉を閉
めた。
「安心していいぞ、誰もお前をいじめたりしないから。餌、食っていいんだぞ、腹減って
んだろ?」
鳥は早速水に飛びついた。そしてパンに。本柳は嬉しそうに笑った。
「よかった、やっぱり腹減ってたんだな」
夢中になっている小鳥を見つめ、改めて川越を見た。
「行きましょう。また援護お願いしますね」
本柳の表情は、小鳥を見つめている時と変わらない。無邪気な表情でライフルを抱え直す。
2人が再び窓から外へと出て行った。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
【×坂口智隆 残り・32人】
105:「87・探り合い 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:20:35 0Ui6RH/f0
首輪探知機を手に、下山は市街地へと足を伸ばした。
移動しない時は電池がどれくらい持つかわからないので、大体30分置きくらいに電源を入
れる程度にしていた。掌サイズの黒い手帳のような形。取り扱い説明書は本体付属のポケ
ットにしまえるようになっている。何かとお手軽なコンパクトサイズ。
(ゲームでも出来たらいいんだけどな)
ゲームに夢中になって、誰かに背中から襲われては意味がないけれど。
今、その探知機はひとつの明かりを灯していた。下山はその明かり目指して歩く。遠くか
ら見て、敵ではないようなら声をかける。明らかに敵なら………
(逃げるよな、俺の場合。それが無難だって)
相手の持っている武器にもよるだろうが、それはまたその時に考えればいい。武器を持っ
ていても恐くない人間もいれば、武器を持たずともその存在自体が恐ろしい人間だってい
るのだ。
(誰とは言わないけどさ……)
はたして自分はどちらに属する人間なのだろう?
画面を見る。徐々に自分の首輪が、相手の首輪に近づいている。
そしてとうとう、相手の詳しい居場所を見つけた。
『Cafe Bs』
そんな看板のかかった店。建物の外からでもコーヒーのいい香りがする。
一瞬「罠」という言葉も思い浮かんだが、腹の虫が鳴った。コーヒーの香りには勝てなか
った。扉にかかっている中立地帯の説明をしっかりと読み直し、慎重にドアを開けた。
「いらっしゃーい」
カウンターの中から元気な声をかける相川に驚いた。そして、カウンターに座ってコーヒ
ーを飲んでいる迎がいた。ビックリした顔で下山を見ている。
下山は場を和ませるように、軽く手を上げた。迎も曖昧な返事を返した。そのままカウン
ターの端に腰を下ろす。念の為、少しの距離を取った位置に。
「何にしましょ?」
相川がメニューと砂時計を差し出す。
106:「87・探り合い 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:21:55 0Ui6RH/f0
「本格的なんだな」
「キチンとコーヒー専門店のマニュアルもらって来たんで」
「じゃあ、抹茶オレ」
「それコーヒーじゃないです」
「じゃあ……アイスカフェオレ」
「かしこまりました」
ペコリとお辞儀をして、相川が作業を始める。
「……シモさん」
恐る恐る迎が声をかけてきた。
「なんだ?」
「誰か、恐い人、いました?」
「いや、俺は会ってない。お前は?」
迎は両手でコーヒーカップを包むと、静かに呟いた。
「……死体、見ました」
「誰の」
「……近藤。地面に犯人の名前っていうか、手掛かり残して」
「………誰だ?」
「お待ちどう様ー」
相川が下山の前にアイスカフェオレを置いた。カランと氷が音を立てる。
「地面に残ってた文字からすると、吉井さんかユウキさんか歌さんです」
下山は少しだけガムシロップを入れ、一口飲んだ。
「俺、コボの敵、討ちたいです」
『近藤』ではなく、ニックネームで呼んだ。
「俺ら、ずっとサーパスで頑張ってきました。あいつの努力も見てるし、俺も負けないよ
うに頑張ってきました。だから、敵討ちたいです」
「敵は他にもたくさんいるかもしれないぞ」
「わかってます。だから、吉井さんかユウキさんか歌さんに会ったら……」
そこで言葉が止まった。再びドアが開いたからだ。
107:「87・探り合い 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/21 20:22:56 0Ui6RH/f0
「いらっしゃーい」
元気な声に迎えられたのは村松だった。ボウガンを肩にかけ、中を見回している。自然と
迎は身構えてしまった。
「……中立地帯、なんだよな?」
村松のいぶかしげな問いかけに、相川は元気よくうなずいた。
「はい!ここで戦い始めたら、すぐに首輪が爆発します」
「……そうか」
村松は迎と下山から離れた席に座った。すぐに村松に砂時計が与えられる。何を意味して
いるのか、ブランボーがサムアップして見せた。
「……なんで相川たちがここにいるんだ」
「まあいろいろありまして、お手伝いを」
「手伝いってのは俺達のか、それともオーナー側か」
一瞬、相川が返事に詰まる。そして、俯きがちの視線で答えた。
「………オーナー側です」
しかしすぐに顔を上げ、自信に満ちた声で答えた。
「正確にはサーパス側です!」
紛れも無い宣言。それが相川の本心だった。
「そうか」
それきり、村松は黙ってしまった。
「……コーヒー飲みますか?」
「……エスプレッソ。シナモンスティックはあるか?」
「はい。少々お待ち下さい」
「村松さん」
意を決したような口調で、迎が声をかけた。村松は無言のまま静かに迎を見つめた。
「吉井さんかユウキさんか歌さんに会いましたか?」
「いや。その3人がどうした?」
迎は自分が見たことを話し始めた。下山に説明した時よりも、もう少し詳しく。
相川はカウンターの奥の部屋に姿を消した。
【残り・32人】
108:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 05:37:30 OeUAJVbiO
ORIX
109:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 15:32:30 ZSVihz9O0
。・゚・(ノД`)・゚・。坂口いいいいいいいい
110:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 17:23:43 X/EzJn6gO
グッチが……グッチが………(´;ω;`)
111:「88・タナボタ 1/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:46:03 AVuGJqTq0
ぼんやりとしたまま、川越は緩やかな坂道を登っていた。歩く、というよりも、勝手に両
足が動いていた。前を歩いている人物に続いて、後ろを歩く。自分でものを考えていない
状態。白い靄のかかった記憶の中。
突然、鋭く甲高い声で鳥が一声鳴いた。
ハッとして、右手に握っていた小壜を落とした。
後ろから規則的に聞こえていた足音が止まったので、本柳が慌てて振り返った。
「どうしました?」
「あ……」
少しずつ、頭の中の靄が晴れて行く。
「敵ですか?!」
敵。
その一言がキーワード。再び川越の頭の中が白に侵食される。
「……いや」
「なら行きましょう。川越さん、前歩いて下さい」
即されて前へと進む。
あの時認識した解放の合図は、鋭く甲高い鳴き声。なかなかあの鳥は姿を現さない。
一方、地面に落ちた小壜は緩やかな坂を転がっていった。死の液体で満たされたそれは
コロコロと転がり、やがて丸太にコツンとぶつかった。
「ん?」
丸太に腰掛けていた筧がそれに手を伸ばす。そっと取り上げ、貼られてあるラベルを見る。
(毒薬?)
小首を傾げる。また奇妙な武器に出会ったものだ。
誰が落としたのだろう?何故ここに?
立ち上がる。
目の前で牧田が殺されてから、筧は歩き続けていた。一所に止まっていては、敵の格好の
標的になる。どこにどんな罠が仕掛けてあるかわからない。常に動いていなければ。
そんな脅迫観念に押され、筧は歩き続けていた。しばしこの丸太に腰掛けて休み、またそ
ろそろ出発しようとしていたところだった。
112:「88・タナボタ 2/2」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:46:48 AVuGJqTq0
疲労していた。仲間にも出会えず、ひとりぼっちのまま、あてもなく歩き続ける。
地図に載っている市街地。そこに向かえば食料や、何か使えそうな道具があるかもしれな
い。そう思って方向を定めて歩いた。
あの罠は突然だった。牧田の命を奪った事故。いわゆるトラップタイムのひとつだったの
だろうか?
(いや、オーナーは違うトラップの話をしてた……)
ということは、あれはオーナー側のトラップではない。違う敵の仕掛けた罠。
誰か……一緒にこの島に放り込まれた選手の仕掛けた罠。
牧田の死体をハッキリとは見なかった。その体は照明器具に押し潰され、隠された。筧は
無我夢中でそこから逃げ出した。そして次の放送の時、牧田の名前が読み上げられた。
(………ひとつ間違えば、あれは俺だった)
(俺は運が良かったんだ)
(そうだ、まだ俺にはツキがあるんだ)
(こうやって、簡単に新しい武器まで手に入った。神様は俺に味方してる)
歩き続け、市街地が見えてきた。やがてその店を見つけた。『Cafe Bs』。扉に貼ってある注
意書きを読み、どこかホッとしながら中に入った。
村松、下山、迎が一斉に筧を見つめる。筧もその視線に驚き、ドアノブを握ったまま足を
止めた。
「あ、あの……」
「中立地帯だそうだ。何もしないよ」
村松が声をかける。
「そ、そうですか」
中途半端に笑いながら筧は店内に入った。ドアを閉める。安心したせいで、バタン、と少
し乱暴に。
突然、相川がカウンター奥の部屋から飛び出して来た。
高らかな宣言と共に。
「トラップターイム!」
【残り・32人】
113: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/22 21:47:40 AVuGJqTq0
昨夜、連投規制に引っかかってしまったので、残っていた分を投下させて頂きました。
ブランクが出来てすみません。
114:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 21:55:39 f71n9TZ60
新作乙です。お仕事がんばって下さいね。
心優しいはずなのに操られてやたらに殺しまくる羽目になった川越が不憫でたまらない・・・
本柳、何てことしてくれたんだよ・゚・(ノД`)・゚・
115:代打名無し@実況は実況板で
06/11/22 23:25:59 hHwUQsBj0
投下乙です。
飛び出してくる相川がなんか緊張感ないなあ・・・
116:代打名無し@実況は実況板で
06/11/23 17:51:00 ULU+tn4f0
乙です。
ここでトラップタイムとは、いったい何が始まるのだろうか!?
117:代打名無し@実況は実況板で
06/11/24 16:40:16 TiJgdXOI0
捕手
118:代打名無し@実況は実況板で
06/11/25 13:23:26 d1WWCDfr0
保守
119:代打名無し@実況は実況板で
06/11/25 23:43:13 P8eZCFgrO
ビリバトスレ復活したねホシュ
120:代打名無し@実況は実況板で
06/11/26 18:29:39 VUtmU1tL0
保守党
121:代打名無し@実況は実況板で
06/11/26 22:45:58 kxmi35ZHO
続きまだぁー(・∀・ )っ/凵 ⌒☆チンチン
122:代打名無し@実況は実況板で
06/11/27 00:05:59 MdRWXZq2O
(^亮^)<とらっぷたーいむ!!
123:代打名無し@実況は実況板で
06/11/27 17:02:13 kWSjL+OlO
>>122
そっちの相川じゃねえwwwwww
124:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 02:02:52 P8gTB6pnO
ホシュ
125:「89・ロシアンコーヒー 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:46:33 awMTKvDK0
全員の視線が相川に集まる。見つめるというレベルを越え、凝視していた。相川はそれを
気にしないようにしながら、4人に満遍なくぎこちない笑顔を振りまいた。そしてカウン
ターの上に丁寧に、4個のコーヒーカップを並べた。4個とも模様が違う。けれど大きさ
は同じ。相川の手が震えているせいか、小さくカチャカチャと音がした。
「村松さんご注文のエスプレッソを4つご用意しました。さ、みなさんどうぞこちらへ!」
何かを振り切るように、元気な声を出す。奇妙な雰囲気に下山と迎が顔を見合わせた。村
松も大きな目をキョトンとさせている。入り口に立ったままの筧は、ガルシアに即されて
中へと進んだ。そのままガルシアの巨体が出口を塞ぐ。
「さ、どうぞカップのある席にお座り下さい!」
相川がカウンター内から改めて4人を呼び寄せる。真っ先に筧がカップに歩み寄った。1
個1個、コーヒーの香りをしっかりと味わうように、必要以上に顔を近づけている。なに
もそこまで顔を寄せなくても、と迎は思った。筧はそれほどコーヒー通だったろうか?微
かな香りの違いや濃さにこだわるほどコーヒー好きだったろうか?確かに筧の様子は異常
なほどで、液体の薄さ、濃さの違いまで見ているようだ。まるで体でカップを隠すように
して念入りに調べている。1つのカップを選ぶと、ようやくその前の席に腰を下ろした。
「さ、村松さんも。ご注文のエスプレッソですよ。下山さんも迎も」
不審そうな顔つきで村松が席を立つ。残りの2人もカウンター中央に集まる。そしてそれ
ぞれが適当に選んだ席に座った。特別コーヒーにこだわりは無い。エスプレッソと言われ
ても、濃いコーヒーというぐらいしか知らない。目の前には申し分ない香りが立ち上るコ
ーヒー。カウンター越しの相川が姿勢を正した。
「では、ご説明致します。これからみなさんにこのコーヒーを飲んで頂きます。自信作の
エスプレッソです。エスプレッソの作り方は念入りに練習してきたんです。嫁さんもOK
出してくれました。とっても美味しいと思います。………でも」
内緒話をするように、そっと身を屈めた。
「でもこれは、ロシアンコーヒー」
明るい口調で語りたかったようだが、肝心の箇所で声が震えた。
126:「89・ロシアンコーヒー 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:47:59 awMTKvDK0
「ロシア製のコーヒーってわけじゃなくて、このうち3つは美味しい普通のコーヒー、た
だし、残りの1個だけ………毒が入ってます」
言葉の意味を理解し、4人の表情が凍りつく。
「このトラップは、この店に選手が4人揃ったらスタートだったんです。4人も同時に集
まらないと思っていたんですけど……やっとスタート!」
相川が高らかに宣言した。
「さ、どうぞお飲み下さい、冷めないうちにどうぞ」
カップに手を伸ばす者などいない。ただ緊張感に満ちた時間が流れた。
下山はチラリと出口の方を見た。仁王立ちしているガルシアを突破するのは無理なようだ。
深呼吸をする。事態はとんでもない方向へ行き着いてしまった。しかも最悪な状況。席を
選んだ時点で、飲むコーヒーは目の前のものに決まってしまっている。
生き残れる確率は4分の3。比較的高いとは言える。だが……
(なんだよ……なんでこんな………ここは中立地帯だろうが!)
誰も自発的に戦いなど起こしてはいないのに。
(なんでこんな時に、ここに来ちまったんだ!)
キレて暴れたくもなる状況。しかしそんなことをしては真っ先に自分が殺されるのだろう。
誰かの何かによって。下山の手は震えていた。チラリと横目で隣を見る。筧の腕の震えが
見てとれた。4人がコーヒーを飲んだ次の瞬間、誰かが死んでいるのだ。最後の言葉も残
せず。最後の思いも託せず。
拒否権の無い選択。知らぬ間に選ばされてしまった運命。
(どうして………)
そんな言葉しか浮かばない。冷静に何かを考えようとするのに、何も浮かばない自分がも
どかしい。
「さ、冷めないうちに、どうぞ」
同じように緊張している相川が告げた。まだ手元が震えているらしく、それを隠そうと手
を組んだり揉み手をしたり忙しそうだ。
思わせぶりにグラボースキーが机をコン、と叩いた。
127:「89・ロシアンコーヒー 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:49:11 awMTKvDK0
最初に手を伸ばしたのは村松だった。
「………」
しっかりした手つきで、目の前にあるコーヒーカップを手に取った。
「……俺が注文したんだしな。頂くよ」
誰とも目を合わせることなく、カップを口に運んだ。唇に液体が触れる。熱すぎず、ぬる
すぎず、すんなりと飲める熱さだった。村松は一気に飲み干した。
「さ、みなさんも」
相川が即す。その右手に銀色に光る鋭いものが、まるで3人を脅すように見えた。
下山、筧、迎も慌ててカップを手に取った。そして3人同時に一気にコーヒーを飲み干し
た。味などわからないまま。
カチャン、カチャンとソーサーにカップが戻される。
誰も何も喋らなかった。
静かな時間、誰かのほんの少しの変化も逃さないように。
重苦しい沈黙。時計の針の音まで聞こえていた。
相川はもしもの時の為に銀色のナイフを握っていた。その手に脂汗がにじんだ。自分の作
ったコーヒーに毒を入れた。どのカップに入れたかは、自分だけが知っている。自分によ
って、誰かが死ぬ。自分が今、誰かを殺すのだ。
目の前に並んでいる4人の顔も、緊張感に満ちている。カップを見つめている者、机のや
や遠くを見つめている者、じっと俯いている者、目を泳がせている者。
(は、早く決着ついてくれ……俺の方が耐えられないよ……)
そう思った時、グラリと1人の体が揺れた。
そのまま前に倒れ、机に突っ伏す。カップが倒れた。
誰も何も言わないまま、その体を見つめていた。
もう動かないその体を。
【×筧裕次郎 残り・31名】
128:「90・ダブルトラップ 1/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:50:27 awMTKvDK0
「……筧、でしたね」
相川が呟く。少し声が喉に引っ掛かり、水を飲んだ。緊張は隠せなかった。
「トラップタイムはこれで終わりです。あとはどうぞご自由に」
「ご自由にって言われても、この島からは出られないんだろ」
「ええ」
村松の問いに、やや冷静さを取り戻しながら答える。また水を飲んだ。量が足りなくて新
しい水を注ぎ足し、それをまた飲み干した。
大きく一回深呼吸をしてから、下山が立ち上がった。手を合わせ、目を閉じて筧の体をそ
っと拝み、村松を見た。
「村松さん、どうします?」
「………脱出する方法を考える」
「1人で?」
「1人は厳しい。仲間を探す」
村松も立ち上がる。やはり目を閉じ、動かない筧の体に黙礼した。
もう戸口にガルシアはいなかった。自由に出入りが出来る普通の時間に戻ったのだ。
今は少しでも筧の死体から離れたかった。下山も村松もカウンターから距離を取った。
「………俺は、信じられますか?」
いつもよりトーンの低い下山の真剣な問いかけに、村松は小さく笑った。
「信じたいな」
「じゃあ、共同戦線張りませんか?1人で考えるより、2人で考えた方が有利です。脅す
つもりじゃないけど……俺を仲間にした方が有利ですよ」
下山は小さな機械を取り出した。
「俺の支給品、これなんです」
「………なんだ?」
村松が屈み込むようにしてそれを見る。
「………首輪探知機」
右手で簡単な操作をした。
「自分のいる近くに首輪があれば、ランプが点滅するんです。カーナビみたいな感じです
かね」
129:「90・ダブルトラップ 2/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:51:21 awMTKvDK0
現在の場所には2つのランプが灯っていた。
「……2つ?」
この店の中で首輪をつけた人間は4人。筧が消えて、残りは3人のはずだ。
村松と下山は揃って迎の方を見た。まだ椅子に座ったままの姿勢でいる。
「迎?」
声をかける。その背中は微動だにしない。
「迎、もう大丈夫だ」
そっと歩み寄り、肩をポンと叩いた。途端に迎が口から血を吹き出した。
「ぎゃあっ!」
叫んで飛びのいたのは相川。迎の体も筧と同じように前のめりに倒れた。
「ど、どういうことだ?!」
下山が狼狽える。
「し、死ぬのは1人だって言っただろ?!」
問い詰めるように相川を見た。
「1人ですよ!俺は1個のカップにしか入れてない!」
必死な顔で相川が弁解する。
「お前まさか……っ!」
村松は一声叫ぶと同時にボウガンを相川へと向けた。
「迎のカップにまで毒を入れたのか!」
「1個だって言ってるでしょう!」
「そんな嘘誰が……!」
「嘘じゃありません!」
「じゃあなんで迎まで……!」
「まさか俺たちのカップにも……!」
ボウガンの狙いがしっかりと定められる。相川は壁際に逃げたが、鋭い矢の先も相川を狙
って動いた。
「解毒剤は!」
「そ、そんなものありませんよ!だから言ってるじゃないですか!」
「ンの野郎っ!」
130:「90・ダブルトラップ 3/3」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:52:43 awMTKvDK0
村松の人差し指が動いたその瞬間、バンッ!という音がした。村松の首元から赤とピンク
がかった何かが飛び散った。同時に引き金が引かれ、ボウガンから矢が飛び出す。矢は
相川の胸に当たったが、ガツッという音と共に床に落ちた。
大きく揺れた村松の体が、重心を失って床に崩れ落ちる。首元から赤い液体が溢れ出た。
思わず下山は両手で口を抑え、壁側を向いてしゃがみ込んだ。堪え切れずにその場で吐
いた。慌ててブランボーが濡れタオルを持ってくる。そのまま下山の背中を撫でた。
「ダイジョブ、シモ、ダイジョブ」
そう繰り返して。
相川は自分の胸元を見た。防弾チョッキがこんな風に役立つとは。この店に入れられる前
に与えられた。やはり着ていて正解だった。
そっと筧を見た。筧は席に座る前に、コーヒーカップを選ぶ振りをしながらポケットから
小さな瓶を取り出していた。そして、他の選手、相川からも見えないように注意しながら、
1個のカップにその中身を注ぎ込んだ。おそらく毒だろうと思った。
ここは中立地帯。殺し合いは許されない。奥の決闘部屋以外で殺し合いを始めた者は、首
輪が爆発する。そう入り口にも書いてある。
だが筧は人殺しをしようとした。
相川は止めなかった。何故なら、筧は相川が毒を入れたカップの前に座ったから。
そして、真っ先に筧自身が死んだ。
そして、筧の仕掛けた毒に迎がやられた。
それらを見て我を失った村松は、相川を殺そうとして、中立地帯規定通り首輪が爆発した。
(一気に3人も減ったのか……)
相川はコップに冷たい水を入れると、まだしゃがみこんで吐いている下山へと差し出した。
【×迎祐一郎 ×村松有人 残り・29人】
131:《OTHER SIDE・4 1/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:53:55 awMTKvDK0
「リプシー、ちょっと止めて」
小雨が降り始めた海の上、大島が言った。
「え?あ、はい」
言われた通りおとなしく船を止める。逸る気持ちを抑え、手招きする大島の方へと歩み寄
った。
「少し、あの島に関する話をしておきたいんだ」
膝の上で手を組み、ネッピーとリプシーの顔を交互に見る。
「この船を借りる時にね、こんなことを言われたんだよ。『あの死の島に何しに行くんです
か?』って」
「死の島?」
2人が同時に問い返す。大島はいつもの笑顔だったが、それが大島なりの真面目な表情だ
ということは2人にはわかっていた。
「この島から人が消えた理由。少しだけ聞けたんだ。港で話してもよかったんだけど誰が
聞いてるかわからないし、君たちは目立ち過ぎるから場所を変えた方がいいと思って。だ
ったら海の上かな、と」
大島は鞄から1枚の地図を取り出した。双子島の見取り図だ。
「ここ、左下、この橋の先にある小さな島。ここに研究所が建ってるんだ」
大島が指さす。
「この研究所で、とある研究が行われていた。その実験結果が漏れてしまったんだ」
「実験って……?」
リプシーが尋ねる。不安げな瞳で、穴が開きそうなほど真剣に大島を見つめた。
「微生物、というか、細菌というか……まあとにかく、人間の日常生活にはあまり必要な
いものだね。むしろご遠慮願いたい」
132:《OTHER SIDE・4 2/2》 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:54:42 awMTKvDK0
「………島の人たちは?」
恐る恐るネッピーが尋ねる。大島は小さく首を横に振った。
「だ、だって、そんなことあったなら、報道されたって……!」
「揉み消されたんだよ。報道規制だ」
「で、でも、島の人達が急にいなくなったら……」
「過疎の島だよ。観光事業も無くなった」
大島がそっと呟いた。
「………社会から消された島なんだ」
その一言に、ネッピーがうなだれる。親しかった2人の友人を思い出したのかもしれない。
本土から離れた小さな島で起こった悲劇。それを引き起こしたのは人間だ。
「風が吹いてしまったんだよ」
大島の説明が続く。
「風……?」
「ああ、海流とかいろんな気象条件から、普段は研究所は風下なんだ。でも、ある季節に
は時折気まぐれな風が吹く。普段とは逆方向からやってくる海風が」
「その風が………島の人々を?」
「偶然が重なったんだ。細菌が漏れた。滅多に吹かない風が吹いた」
そして大島は大きく息を吐いた。軽く座り直して、再び2人を見る。
「港の人たちがね、時折研究所に向かうらしいスーツの男を見かけたそうだ」
何かを予感して、ネッピーは息を潜めた。
「ネクタイピンには、オリックスグループのマークがついていたそうだ」
リプシーが耳を塞いだ。
133:「91・チャンス 1/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:56:27 awMTKvDK0
突然木の上から落ちてきた男に、ユウキと平野恵一は慌ててその場から飛びのいた。
研究所への道のり、綺麗な花畑を抜けた。ユウキが何げなくそこに立っている木を蹴った。
そうしたら頭上から降ってきたのだ。
「後藤さん?!」
「いてて……」
長い銃を抱えたまま腰をさすっている。ユウキは小さく舌打ちをした。
(またオリックス組かよ)
平野が駆け寄って後藤を起こす。
「ゴッツさん、大丈夫ですか?」
愛称で呼びかけると、後藤は照れ笑いをした。
「すまん、居眠りしてたんだ」
「木の上で?」
「ああ、ここなら隠れられると思って」
「……その銃で狙撃する為にですか?」
ユウキの問いかけに後藤は悪びれることもなく答えた。
「まさか。少し休みたかったんだ。ずっと歩いてたし」
後藤は軽く伸びをすると平野を見た。
「阿部ちゃん見てないか?」
「阿部さん?」
「そう、阿部ケンじゃなくて、阿部ま、の方」
「見てないです」
「そうか……ま、そう簡単に見つかるはずないよな」
そう言って、銃を肩に掛け直す。腕時計を見た。
「日没まではまだいくらかあるな。まだ探せるか」
「阿部さん探してるんですか?」
ユウキが尋ねる。その目はじっと後藤の銃を見つめていた。
134:「91・チャンス 2/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 22:57:12 awMTKvDK0
「ああ」
「阿部さん、ヤバイんですか?」
「何が?」
「何がって………探すくらいだから」
「んなこと知らん」
飄々とした後藤の答えに、ユウキは心の奥で舌打ちをした。
「そうだ、ゴッツさん、一緒に研究所に行きませんか?」
平野が笑顔で問いかける。
「研究所に行けば、何かわかるかもしれないんです。行きましょうよ」
仲間を見つけた嬉しさなのか、平野の声も明るい。
だが、後藤は静かに首を横に振った。
「阿部ちゃん、見つけないと」
「研究所の方向にいるかもしれませんよ?それに一緒に行動してる方が安心ですよ」
やはり後藤は首を横に振った。
「島の端に行くのは人探しには向かないと思う」
「根拠は?」
「なんとなく」
平野は小さくため息をついた。後藤の対応は掴み所がない。これ以上説得しても無駄なよ
うだ。
いつの間にかさりげなく、ユウキは後藤の背後に回っていた。
ベルトに差している小型ナイフに手をかける。
出来れば近鉄組に限定しておきたかったのだが、そろそろ我儘を言ってはいられないよう
だ。時間は着実に減ってゆく。生き残りたいならより好みをしている場合ではないのだ。
平野や後藤と一緒にいると、どうも緊迫感が失われてしまう。特に後藤のにやけ顔は危険
だ。作戦かもしれない。それに、何よりも魅力的なあの銃。
(後ろから抱え込んで、ナイフで首をひとっ掻きだ。それだけでいい。恵一にはゴッツさ
んが武器を隠し持ってたって言えばいい。お前は狙われてたんだ、それに俺が気づいて助
けてやったんだって)
135:「91・チャンス 3/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:01:48 awMTKvDK0
体の後ろでナイフを握り直す。攻撃は一瞬だ。一撃で終わらせなければ。
(しっかり狙えよ……)
狙いを定める。定めようとしても、後藤の普段の癖なのか体が左右にユラユラ揺れている。
(落ち着けよ、こいつ……性格みたいにフラフラすんなよ!)
ようやく後藤の体の揺れが止まった。
(………よし!)
飛びかかろうとした瞬間。
「あ」
後藤がしゃがんだ。
態勢を崩しそうになったユウキが、慌ててナイフを隠す。
「おー、いい石だねー」
後藤が右手に拾い上げたのは、玉虫色に輝く小石だった。
「石?」
平野が覗き込む。
「なんかキラッて光ったから、気になって。綺麗だろ」
「ホント。水晶とか天然石の類ですかね?」
「どうだろ?俺が拾ったから俺の」
「誰も取りゃあしませんよ」
平野が笑う。後藤も笑いながら石をポケットにしまった。
(マイペース過ぎるよ、ゴッツさん……)
半ば呆れながらユウキは思った。どうやらここでこの人物を手にかけることは難しいよう
だ。平野ごと一緒に消せるのなら、それほど躊躇わないのだが。ラッキーカードは平野が
持っている。奪うことは簡単だが、研究所で何が待っているのかわからない。その為には
自分以外にもう1人いた方がいい。もしもの時の為にも。
それにしても自分の武器が心もとない。もっとしっかりした武器が欲しい。
136:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 23:02:30 3w1jccLAO
投下乙です!
137:「91・チャンス 4/4」 ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:02:54 awMTKvDK0
(神様が俺を諌めてるって?)
心の中で苦笑いをする。
(でもさ………)
ユウキの心は決まっている。
(そう簡単には許せないんだ)
すべて、もう決めたこと。
後藤が荷物を背負い直す。肩掛けを巧みに両腕に通し、荷物をリュックサックのように背
負っている。そして、両手で細身の長い銃を抱えた。
「じゃあ、行くよ」
笑顔で手を振る。
「ゴッツさん、気をつけて下さいね」
寂しげに平野が声をかけた。
「ああ、阿部ちゃん見つけたら俺が探してたって伝えてくれな」
「はい」
伝えたとしてもその後、会えるのかはわからないが。
眩しい夕陽の中、後藤が歩いて行く。
何かを予感するかのように、平野の視界の中でその姿は何故かうっすらと滲んで見えた。
【残り・29人】
138: ◆UKNMK1fJ2Y
06/11/28 23:08:04 awMTKvDK0
今回はここまでになります。
また突然、連投規制がかかったんですが、今回はすぐに解けました…
139:代打名無し@実況は実況板で
06/11/28 23:25:08 D95tj3lW0
投下お疲れ様です。
予感ってなんか意味深ですね。気になる・・・
140:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 02:23:04 h8PDM51Z0
投下乙です、いつも楽しみにしております^^
ブランボーの優しさにホレタ
141:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 07:21:32 5DCcl2wGO
142:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 14:41:27 wnA1CIORO
投下乙です!!
ぜひ後藤と阿部ちゃんには再会して欲しいなぁ…(´・ω・`)
143:代打名無し@実況は実況板で
06/11/29 15:40:12 XLWNKnhH0
投下乙でした。
村松・・・村松が死んだシーン読んだときリアルで村松ーっ!!って叫んじゃったよ。
しかし(゚∀゚)は可愛いなw
144:代打名無し@実況は実況板で
06/11/30 16:17:37 CA3H517S0
ほす
145:代打名無し@実況は実況板で
06/12/01 10:54:10 +yjheG340
捕手