05/10/13 03:48:08 RiSw6/EH0
『波乱の出発』
『東北楽天ゴールデンイーグルス、背番号21番。岩隈久志。
年俸1億8000万、チーム内順位1位、全体順位32位』
岩隈は、自分の名前と背番号、そして年俸が呼ばれるのをしっかり確認した。
右足を一歩踏み出す。
次は左足、右、左…一歩一歩を確認するように、人工芝の感触を確かめる
ように、岩隈は歩いた。そうすることで、少しでも冷静さを取り戻そうとした。
(落ちつけ…落ちつけ…)
自分に言い聞かせながら、知らぬ間にうつむいていた顔を上げると、小高い
丘のようなマウンドが目に入った。
去年とは比較にならない程苦しかったマウンドの上。勝ち星は大幅に減った。
自分なりに手応えのある投球をしても、なかなか打線の援護に恵まれない日
だってあった。考えられないようなエラー、連敗、100敗するのではないかと
連日のように書きたてるマスコミ…。
それでも岩隈は、これまでと変わらない、いや、それ以上の闘志を抱いて
毎回マウンドに立った。
「お前がこのチームのエースだ」
「このチームを引っ張っていくのはお前だ」
監督やコーチ、チームメイト達は口を揃えてそう言った。
生まれたばかりの球団に寄せられた大きな期待を背負って、向かい続けた
マウンドの上。他の誰でもない、自分がやらなければならないのだと思って
いた。そこには、去年までとはまったく違う重さの空気があった。重圧。投げる
たびに、岩隈は体中でそれを感じていた。
―それでも。
岩隈は、ゆっくりとマウンドを踏んだ。
(ここに絶対帰ってくる)
心の中で誓った。