05/06/22 20:44:05 0
>>883
「それが長谷川君ってワケね・・・」
茉麻の話を聞いていた千奈美が言った。舞波は俯(うつむ)いている。
続けて千奈美は訊いた。
「で、さっきの手紙の見つめ方から察するに、茉麻・・・長谷川君のこと・・・」
夕陽に照らされている茉麻の横顔が一層赤くなった。
何度負けても自分に挑戦してくる長谷川少年に、いつからか、茉麻は心惹かれるようになった。
対戦する度毎に強くなっていると茉麻に感じさせる長谷川少年、
その上達ぶりは、血の滲むような努力なくしては達成されないものだった。
事実、稽古に取り組む際の彼の眼差しといったら、真剣そのもの。
それまでも決して不真面目ではなかったが、目つきがまるで違う。
その変わりようが自分への恋慕の表われだと思うと、茉麻の心にはかつて感じたことのない不思議な想いが生まれた。
長谷川少年を見ずにはいられない、考えられずにはいられない、想わずにはいられない・・・恋だった。茉麻の初めての恋であった。
だが、月に1度の割合で来る決闘の申し込みがここ半年なかった。
気が変わってしまったのだろうか・・・、そんな寂しさにも似た感情を懐きながら長谷川少年を見つめるも、
彼の生活には何の変わりも無く、以前と同じように学校に来、生活し、道場では稽古に励む、ただただ、月に1度の決闘の申し込みがなくなっただけ。
いよいよ茉麻は、心にポッカリと穴が空いたような、漠然とした虚しさを感じ始めていた。
その矢先に、件(くだん)の果たし状である。
終わったと思われた恋の再生と復活、それに対する喜び、茉麻の慌てぶりは多分にそれを示していた。