07/11/26 22:48:08 発信元:125.175.57.214
――――カスパロフは暗い部屋の中、椅子に拘束されていた。
目の前にはチェス盤がセットされている。対局でもしろというんだろうか。あの人と。それは滑稽だな。思わず笑いがこみ上げる。
その拍子に蹴られたわき腹が鈍く痛みだした。そういえば殴られた右目の腫れも収まらない。もう5日もたつというのに。
治安部隊も手荒なことをするものだ。
・・・・・キィィィィイ
ドアがいやな音を立てて静かに開く。逆光を背負って、我らがウラジーミルのご登場だ。
ハラショーハラショー、相変わらずスーツがキマっていらっしゃるじゃないの。
「気分はどうだい、カスパロフ君」
完璧な微笑。それはツンドラの風のように鋭く、冷たい。カスパロフはこみあげる恐怖を奥歯で押し殺し、微笑んだ。
「上々ですよ。首相」
それはなにより、とプーチンはつぶやくとカツカツと靴底で高圧的な音を立てながらカスパロフの周囲を一周した。
「恥ずかしながらね、カスパロフ君」
プーチンが会話を切り出した。
「僕はチェスのルールを知らないのだよ。今まで機会がなくてね。」
「それは意外ですね、てっきり対戦するためにおいてあるものだと」