08/05/20 20:11:42
軍楽隊が来た。
黒装束に、腰の革帯に短刀を一本挟んだきりの、フュウメ決死隊の一人が、軍旗といっしょに、先頭だった。
それに続いて、青灰色の軍服の行列が、重い靴で、鋪道を鳴らした。
私のタキシは、徐行した。運転手は、右腕を真直ぐに伸ばして、前方へ斜め上に突き出す礼をした。
これは、昔羅馬(ローマ)武士が、出陣に際して、王と神の前に戦勝を誓った、儀礼の型であり、
そして、今は、ムッソリニと彼の仲間が、公式に流行(はや)らせているいわゆる「羅馬挨拶(サルタ・ロマノ)」なのだ。
私の運転手は、ファシストだった。が、いまこの街上に、何とファシストの多いことよ! 老人の手、青年の手、労働者の手、警官の手、通行人の手。
青物屋は、野菜の車を停めて手を上げ、その野菜の山の上から、青物屋の伜(せがれ)が手を上げ、
軒並みの商店からは、主人と店員が走り出て手を上げ、そして、電車の窓からも自動車の中からも、何本となく手が上がっている。軍旗は、この、手の森林を潜(くぐ)って、消えた。
これが、現在の伊太利(イタリー)の常用礼式なのだ。官庁ででも倶楽部ででも、劇場ででもホテルででも、家庭ででも、こうして手を上げ合っている人々を、見るであろう。
羅馬(ローマ)は、いや、伊太利(イタリー)は、このとおりファシストで一ぱいである。ファシストにあらずんば、人にあらず―。
正規には、これに、ファシスト式の万歳(エイル)の高唱が加わるのだ。
Eja ! Eja ! Alala !
えや! えや! あらら!
えや! えや! あらら!