08/05/26 19:59:40 0
>>69
「で、俺の考えとしてはだ。小村の代わりにそいつをお前のサポートに――」
「断る。知らない奴と組む気は無い」
後ろから刺されたのでは話にならない。私は城栄の言葉を遮った。
「まぁ、そう言うなよ。使えるか使えないかも判断して欲しい。俺たちの理想の為にな」
「……使えないと判断したら?」
「殺せ。そんなヤツは要らねぇ」
「……良いだろう」
結局彼の頼みを聞く事と成った。口車に乗ったというより、折れたと言った方が正しいだろう。
昔からそうだった。最初は彼の言い分を拒否するが、最後になって折れてしまう。
「それで人相は?」
「名前はアルト・ハーケン、眼鏡を掛けたスーツの女だ。お前のタイプだろ?
野郎はもう既に煌神リンの所に向っているかもな」
既に向っている、という事は事情を知らなければリンを食べてしまうかも知れないという事か。
「解った。こちらも急いで向う」
電話を切ろうとすると、城栄が慌てて引き止めた。何だ、まだ何か用件が在るのか?
「まぁ待てよ、色男。お前明日空いてるか?」
空いていないと言っても空けろで済ませる男だ。
ここは素直に空いていると言った方が良いだろう。
「明日、奴(やっこ)を食いに行くぞ。この前、良いヤツを見つけたんだ」
「冷奴(ひややっこ)くらい食べた事は在るぞ。
四角に切り取った豆腐にしょうゆを掛けて、薬味を上に――」
「馬鹿野郎、ちげぇよ!」
城栄が怒鳴り声を上げるが、それはあくまで仲間や友人に掛ける怒鳴り声で、
敵や失敗した部下に対するそれではないのは解る。
――違う? どうして? 奴とは冷奴の事を言うのではないのか?
私の辞書には載っていないぞ。
「いいかァ? 俺の言う奴ってのはな、芸者の事を言うんだよ」
初めて知った。今回の来日は学ぶ事が多い。
「お前、もしかして芸者と遊んだ事がねぇのか?
だったら尚更行くしかねぇよなぁ?」
「馬鹿な。機関一の色男と言われている私だ。
フン、良いだろう。芸者の一人や二人くらい落としてみせる!」
変な気合が体を巡る。ここで断るのはプライドが許さない。
気が付くと手でガッツポーズを取っていた。
先程の事は訂正しよう。……私は彼の口車に乗る事が多い。
「ま、用件は以上だぜ。……しくじるんじゃねぇぞ」
言いたい事を述べるとさっさと電話を切ってしまった。
相変わらずだ、と私は少し笑った。
最後の言葉は彼なりの友人への激励だろう。素直ではないのが城栄金剛という男だ。
――私は『機連送』をしまうと格納庫へと向った……。
【レオーネ:現在地 機関アジト】
【アルト・ハーケンの事を聞かされる】