08/05/26 19:48:09 0
応接室へ戻ると、既に外道院とツバサの姿は無く、もぬけの殻となっていた。
ツバサはともかく、外道院が外出するとはな……。
隠蔽用のカバーストーリーでも流した方が良さそうだ。
溜め息を吐いた時、不意に懐の『機連送』が『美しき青きドナウ』を奏でた。
慌てて取り出す。発信者は――。
「よぉ。調子はどうだ、色男?
こっちはもうスケジュールを全部終えたぜ」
太く威厳さえ感じさせる声の主は、我が友人城栄金剛その人であった。
奴が電話で連絡を取ってくるなど珍しい。
「確かに暇をしていた。……にしても、君が直接電話を入れるとはな。
何か良い事でも在ったか?」
はっはっはっ、と豪快に笑い飛ばす。間違いなく彼の興味を引く事が在ったのだ。
それもつい先程だ。となると、恐らく――。
「煌神リンとその協力者達が思いの他、使えるレベルだったのだろう?」
これしかない。奴の想定していたレベルにこそ届かなかったものの、
及第点くらいはクリアしていたのだろう。まるで新品の玩具を遊んでいる子供のようだ。
「解っちまったか。そりゃ長い付き合いだものな」
……少し悔しそうな顔をする城栄の顔が目に浮かんだ。
「それで……。久方ぶりに電話を掛けて来たのは、
その件だけという訳でもないだろう?」
「まぁな。……先程、小村禅夜から連絡が在った。
異能者と交戦、敗北。別の異能者に助けられたそうだ」
……あの小村を負かすとは。余程の手練だ。
小村とて形式だけとは言え、伊達に幹部の座を与えられている訳ではないし、
三年前のミスが無ければファーストナンバーの上位に食い込んでいたであろう人物だ。
私は目を細めた。
「ヤツにゃあ、端(はなっ)から期待なんぞしてねぇよ。
ありゃ、お飾りみてぇなモンだ」
小村が聞いたら泣きそうな暴言を私は黙って聞いていた。
「いいか、こっからが本題だ。さっき小村を助けた野郎が居るって言ったよな」
城栄の声のトーンが一気に2オクターブほど下がる。
これは"裏の顔"で居る時の彼の声だ。
「小村のヤツが、その野郎と取引したそうだ。
雑魚どもを"食う"事を黙認する代わりに、機関の手助けをしてくれるそうだ」
食う? 食事の事か? それとも……。
「その野郎は異能者を文字通り餌として食らう。
どうだ、面白い能力だろう?」
確かに。異能者の事を食べるとは。
私の知りうる限り前例が無い。この祭りを企画した城栄に感謝しなければ。
知識を得る事が出来たのだから。