08/05/26 00:22:44 O
>>54
「…やれやれ。どうなってやがんだ?」
その光景を見るなり、文月は怪訝な表情を浮かべた。
自分が予想していた光景と、あまりにかけ離れていたからだ。
右目の疼きが教える、二つの異能者の気配。大方、異能者同士で争っているのだろう。
だがいざその場に駆け付けてみれば、異能者でも何でもない兵隊ばかりが大勢いて、異能者は一人しかいない。
どうやら異能者の少年は、大勢の兵隊から一人の少女を護ろうとしているようだ。
異能者の少年は機関の人間には見えない。少なくとも、復讐の対象ではないだろう。
ならば自分が関わる理由はない。
少年は少女を護れないだろうが。
そんなことは関係ない。そう自分に言い聞かせ、文月はその場を立ち去ろうとした。
『カッコいいじゃないですか、正義の味方なんて』
文月の脳裏を、今はもういない少女の笑顔が掠めて消えていった。
『私…ちゃんと笑えてます?』
記憶の中で笑う少女─天宮 絢音─を、文月は守れなかった。
あの時のことを思い出すだけで、無力感と喪失感が胸を埋め尽くし、憎悪と絶望が胸を焼く。
目の前の少年も、自分と同じ思いをすることになるのだろうか。
『だって、宗太さんは正義の味方ですから』
あの頃の自分と比べて、今の自分は余りに惨めに思えた。
だが─
(わかってるさ、絢音…) ─今の文月には戦う力があった。
その力は復讐の為だけに?
─否。
気が付けば、文月は走り出していた。
もう二度と、誰にもあんな思いをさせないために。
まるで竜巻かと思わせるような剣風が、数人の兵士を纏めて吹き飛ばした。
一体何が起こったのか、大勢の兵士達は理解出来なかった。
「この人数相手じゃ大変だろ。手を貸すぜ?」
文月は自分の身の丈程もある大剣を軽々構え直すと、少女に護ろうとしている少年に向かってそう言い放った。