08/05/27 23:31:27 0
>>108
声が聞こえる。
「驚いたか? なに、ちょっとした余興だよ。
どうだ、気分は……。全員聞こえているんだろう? 私の声が。」
あの男――レオーネ・ロンバルディーニの声だ。
「今まで君達が見てきたのは、君達自身が望んだ幻想。
私はその背中を少々押してやっただけだ
肉体の方は心配無い。皆、可愛らしい寝息を立てているよ」
なるほど。道理でうまく行き過ぎた。少しばかりいぶかしみもしたが、まあいいだろうと流していた。
ともかく、この声が聞こえているということは、目的は達成された、ということだろう。
「まったく、私が来る必要はなかったじゃないですか。
こういう問答無用な幻覚系の能力に対する抵抗力、まだ足りませんね」
今後の課題として、後回しにしていたが――もっと早く取り組めばよかった。
「種明かしをしてやろう、簡単な話だ。今、君達は心の迷宮の中に居る」
「初めにハーケン君。続いて近隣住宅の住民も含めた君達全員が技に掛かった――。
…筈だったのだが、一人だけ私の存在に気付いて外に出てきた者が居た」
最初に私を狙った…? 分からないな、そこにどんな意味があるのか。
わざわざ私を狙う意味……いや、違うか。狙ったとは言っていない。
あるいは、射程圏内の中の人間に無差別に効果を及ぼすタイプかもしれない。
「瑞穂、君だよ。殺気も気配も、異能者の波動も全て消していた筈なのに……。
ちょっとショックだ。成長をしたと捉えるべきか」
へぇ、彼女は反応できたのか。それはいい。実にいい。
このレベルの相手に対してある程度反応できたというのなら――丁度いい。
今の私と釣り合うかどうかは、まあ直接戦わなければ分からないが。
「まさか生きていたとはな……。死んだと報告を受けていたが……。
大した役者だよ、君達親子は」
知られたか。私としては自分の手で片付けたかったが、今の私には何もできない。
大抵の幻覚は、なんらかの条件を達成すれば脱出できるのだが。
「蹴り折られたくなければ、そこで黙って見ている事だ。
――諸君、ここからが本題だ。私は君達が今どんな状況に在るのか知らない。
人それぞれ場所は違うだろう。だが、そこから抜け出るヒントなら知っている。
"迷宮のゴール"に辿りつく事。それだけだ」
ゴール。それが条件か。人によって違うということは、つまり、
「対象の心理的要因によって打ち破られる、ということですね」
――なんだ、それなら簡単だ。現状、今この場を支配している男。
レオーネ・ロンバルディーニ。この夢の中のあの男を殴りつけ、融解させる。