08/05/27 22:51:46 0
>>107
「初めにハーケン君。続いて近隣住宅の住民も含めた君達全員が技に掛かった――。
…筈だったのだが、一人だけ私の存在に気付いて外に出てきた者が居た」
腕を見ると先程まで滴っていた血液は、既に止まり始めていた。
致命傷ではない、致命傷ではないが思ったよりも深いようだ。
「瑞穂、君だよ。殺気も気配も、異能者の波動も全て消していた筈なのに……。
ちょっとショックだ。成長をしたと捉えるべきか」
瑞穂は私の腕を切りつけた後、能力に贖えず植物状態となった。
だが、剣の方は違った。"奴"は技に巻き込まれる事は無かった。
強靭な精神力を持つ者には成功しないのがこの技だ。
池上たちが戦闘によって精神を消耗していたのは幸いだった。
「まさか生きていたとはな……。死んだと報告を受けていたが……。
大した役者だよ、君達親子は」
最初に奴の声を聞いた瞬間理解した――。籐堂院 神だ、と……。
憎き裏切り者の声なのだ、聞き間違える筈が無い。
どうやって籐堂院 神が剣に意思を移せたのか、それは解らない。
だが、我々異能者の存在もある意味SFなのだ。
物体に意思を移植するという奇跡も在るのだろう。
もっとも、目の前に証拠が在るのだ。信じざるを得ないが……。
瑞穂の前で屈むと、白磁の頬を撫でる。宛らアンティークのようだ。
「テメェ! 下衆な手で瑞穂に触るんじゃねぇ!!」
「大きくなった……」
そう呟くと、瑞穂のか細い喉を締め付け始めた。
「お前のお陰で私と城栄の計画は1年も停滞してしまった……!
ここでお前を殺すのは容易いのだ…!!」
だが、私はそんな事はしない。今の最優先事項は煌神リンの確保だ。
瑞穂をソファに投げ付けると、深呼吸をして気を冷静に保つ。彼女を殺るのは今でなくとも良い。
先程から煩い籐堂院を持つと、柱に突き刺した。
「蹴り折られたくなければ、そこで黙って見ている事だ。
――諸君、ここからが本題だ。私は君達が今どんな状況に在るのか知らない。
人それぞれ場所は違うだろう。だが、そこから抜け出るヒントなら知っている。
"迷宮のゴール"に辿りつく事。それだけだ」
ゴールが何なのか、私にも解らない。一般的な旗の立ったゴールなのかも知れないし、
別の何かなのかも知れない。全ては彼らの心次第なのだ。
「山田。もしかしたら心の迷宮の中で、失った恋人に逢えるかも知れないぞ。
今際の際に言えなかった言葉でも言ってやるんだな。
もっとも、お前の記憶と幻想が創り出した妄想に過ぎないがな。
……煌神 リンの確保は成功。私の任務は成功した。
後は、君達で好きにすると良い。また会おう……」
――後ろで娘に声を掛ける籐堂院神を残し、私は車へと戻った。
【レオーネ:現在地 車の中(精神状態は極度の疲労に陥っている)】
【戦ヶ原、池上、籐堂院は心の迷宮へ。アルトは車に戻った後に迷宮を強制クリア】