07/07/10 07:15:16 0
>前661
>では私の蔵書から古びたこの聖書を。
旧約か。この書物を開くのも随分と久しぶりだな。下線や書き込みがこんなに……
彼は無神論者であったはずだが、否定する前にまず調べ尽くし知り尽くしたと
言う訳か。いかにも長兄らしい。
創世記第四章―カインとアベルの物語。人であったころは何の気なしに
読んでいた箇所だが……
神に愛される弟への嫉妬から人類最初の殺人者となった兄。神の怒りに触れ、
死を奪われエデンの東ノドへと追放され、ひとり流離い続ける兄。
翼手となってから初めてこの下りを読んだ時、唯一の血縁である双子の姉と
闘い続けるわが主を思い―堪らない気持ちになった。
何故神はアベルの供物を喜び、カインの供物は無視したのだろう。何故……。
>前662
>ｼｪｲｸｽﾋﾟｱの「真夏の夜の夢」
シェイクスピアとは懐かしい。これを読むと、長兄との初めての邂逅を思い出す。
従順なる神の子羊であったロシアの田舎者にとって、フランス文化に洗練された
無神論者の生物学者との出会いは、非常に刺激的なものだった。
彼より生物学を学び―初めて「種の起源」の講義を受けたときの戦慄と興奮は
今も忘れられない―、文献を読むには必須と仏語と英語の講義も受けた。
シェイクスピアもよく教本として使ったものだ。
彼は厳しい教師だったが、それが後ほどどれだけ役立ったことか。
何しろロシアの貴族達は社交の場ではフランス語で話し、皇帝ご一家は家族での
打ち寛いだ会話には、イギリスで祖母ヴィクトリア女王に育てられた皇后陛下の
ご意向で英語を使われたのだから。