03/08/07 21:36
失楽園神話
人間における知性の混乱の大きな源は、労働と摂食行為の乖離にある(S.ヴェー
ユ)。野生の動物は基本的に労働というものをしない。空腹になったら、自然が無
償で恵んでくれる食物に、ただ手を(或いは口を)伸ばせばいい。食物を得ること
と、それを食べることの間には、殆んど何の隔たりもない。反面、彼らの生には余
裕というものが欠けている。だからこそ、逆に彼らは生きることに悩まない。無駄
なことはしない。野生の動物は生きることに純粋だ。確かに彼らはエデンの園の住
人である。
しかし人類は、遠い日に進化の知恵の実にかじり付いた。
「あなたが妻の言葉を聞いて、食べるなと私が命じた木から取って食べたので、
地はあなたのために呪われ、あなたは一生苦しんで地から食物を取る」。労働が人
間にとって苦痛なのは、それが必要なものでありながら、空腹感のような一次的な
欲求の促しを原動力として期待できないからだ。遠い昔、我々人類は食物を得るた
めに計画的に労働することを学んだ。食物を得るに至るまでの手順の複雑化と引き
替えに、人類は自然の気紛れに左右されにくい高い収穫効率を得た。それが生に余
裕をもたらす一方で、苦悩や懐疑をももたらす。そうやって我々はエデンの園を失
った。「彼は手を伸べ、命の木からも取って食べ、永久に生きるかも知れない」、
十字架とは、神々が我々をそこから遠ざけた命の木のことである。
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