10/10/26 21:43:59
>>334です。
反論する気もなくした僕は、そのまま家を後にし、町内会の隣保の世話人に、この度のことを伝え、町内放送でのお悔やみのお知らせ(これは町内会のルールでもあるので)をお願いした。
お腹も空いたであろう息子のことを考え、とりあえず弁当を何食か買って葬祭場の控え室に戻ると、妻はすっかりドライアイスに周りを囲まれた姿で眠っていた。
今日は奇しくも日曜で、明日は平日だが友引、明後日の通夜の日は祝日とあって、まるで出来すぎのような日取りだなあ、と反芻しつつも、息子には何か食べておくようにと弁当を渡し、自分もその一つを食べたが、
モノを噛んで味わっている感覚がしない。葬儀社の方の段取りの説明もあったが、まるで頭に入らない。とりあえずメモを取って、対応するしかなかった。
母のときも、なんだか用意されていた段取りに流されたような節もあって、今回もそうなるのかなあ、なんて、まさに他人事のように呆けていたのかも知れない。
しかしその考えは甘かった。身内にアレほどまでに振り回されようとは、このときには知る由もなかったからである。
その日は、一旦自営する職場に戻り、告別式の日には休まねばならない事の段取りをし終えて、妻の元へと戻った。
息子には、自宅に戻って通夜や告別式に向けて身体を休めるように伝え、自分は、この控え室で夜を明かす事に決めた。妻一人では寂しいじゃないか、と何故か思ったからだ。
物言わぬ妻は、まるで眠っているようだ。しかしその身体は、限りなく冷たい。僕は妻の亡骸に並ぶように座布団を敷き、其処に身体を横たえた。手を繋いでやりたかったが、
妻の両手は、胸の上で固く結ばれており、その上に何か重厚な布が掛けられてドライアイスまで載せられていたので、それは断念するしかなかった。
安らかに眠っている妻の身体に手を伸ばし、その肘辺りに手を添えて、僕は妻に「おやすみ」と言った。
続きます。