10/10/21 16:01:54
>>332です。
苦痛の取れた妻は、最初はまるで今までと変わらぬ様子だった。
しかし、排便排尿の必要もない妻は、もうそれからベッドに寝たきりになってしまった。
元々体格の良かった妻は、そのときにはもう手足が萎えてしまい、自分で上体を起こすのが精一杯だった。
僕は毎日、出勤前と帰宅前には病院に寄り、土日祝日はそれこそ一日中、妻の傍にいた。
時折、家事をしに帰らねばならなかったが、車で5分ほどのところであり、
息子も、学校帰りには帰宅前に立ち寄ることが日常となっていた。
父は相変わらず、というか、前にも増して酒を飲むようになっていた。
病室で妻の身体を拭いたり、髪を洗ってあげることに僕は喜びを感じていた。
やがて確実に来る別れを、僕たちは意識的に話題にしないでいた。
他愛もない世間話や、世間ではこんなことがあったよねえ、なんて、
まるでお茶の間での話のように、なるべく僕たちは笑って日々を過ごしていた。
時折来る痛みを訴えれば、僕がすぐにナースコールを押して、鎮痛剤を注射してもらったり、
手足にダルさを感じればさすってあげたり、今思えば、すごく凝縮された日々だったと思う。
続きます。