恭介「君の父さんの遺志を継ぐ」杏子「ふざけるな」at NEWS4VIP
恭介「君の父さんの遺志を継ぐ」杏子「ふざけるな」 - 暇つぶし2ch2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:21:01.32 Bk581gjE0
杏子「…マミ」

マミ「…?」

杏子「手をどけな…。こんな量じゃとても間に合わない…
   …ここにあるサイコロは、全部あんたが使え…」

マミ「…! 駄目よ…そんなこと言わないで…!」

杏子「…あんたにお願いがある」

マミ「佐倉さん…?」

杏子が髪留めの十字架を引き抜いた

杏子「…もし、奴が最後の情けで『あたしだけ』を連れ去ったらさ…」

マミ「……?」

杏子「…この子を頼む…」

マミ「……。『この子』って…?」

杏子は泣きながら笑った


3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:21:22.29 Bk581gjE0
杏子「…あたしが馬鹿だった…」

体が蒸発していく

マミ「佐倉さん…!? 嫌だよ! 待って!」

杏子「……」

杏子は力尽きて消滅した

マミ「…うぅ…! うぅ…!!」

泣き崩れるマミ

地面についた手に何か温かいものが触れた

マミ「…え…?」

杏子の腹の中にいた胎児だった

マミ「…! うっ…嘘ーーっ!!」


4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:21:46.93 Bk581gjE0
――――
―2029年 恭介の個人オフィス

恭介がデスクでネクタイを緩めてウォッカを飲んでいる

恭介(―世界を救う為には、それでも前向きに生きなければならないのか…
   こんな生き地獄が奇跡の代償だというのなら、あの時死んだほうがマシだった…)

恭介「……」

(杏子『世界を救うってのはそれくらい途方もなく難しいことなんだよ』)

恭介(…あの言葉を信じるべきだった。佐倉神父の苦悩も想像に堪えない…
   バイオリンでできることは所詮たかが知れているということか…)

ノックの音がした

仁美「入ってもいいですか?」

恭介「…志筑か」

真っ赤な口紅の仁美が外から扉を開けた

仁美「商談のほうはどうでした?」

5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:22:05.40 Bk581gjE0
恭介(…見る影もなくなったな。ビジネスごっこを始める前は本当に高貴だった)

恭介「…無事成立だ。一滴の血を流すこともなく、な…」

仁美「よかった」

仁美が恭介の肩を揉み始めた

仁美「さて…お約束でしたわね。上条さん」

恭介は鼻で笑った

恭介「…顔色一つ変えないとは、全く大した女だ。それとも金のことで頭が一杯なだけか?」

仁美「はい?」

恭介「腹の底では『誓約書でも書かせるべきだった』と思ってるんじゃないか?
   結婚の話は白紙だ。それから、お前はクビだ。志筑」

仁美「まあ。ご冗談でしょう?」


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:22:27.86 Bk581gjE0
恭介「とぼけなくていい。斜太の連中にヤクザが絡んでいた…
   お前は知っていたんだろう? 初めから私をはめるつもりだった
   そうでないなら一体どこの世界に血の流れる商談があるって言うんだ? 言ってみろ」

仁美「さぁ? 何をおっしゃってるのかわかり兼ねますわね」

恭介(小馬鹿にしたような猫撫で声を…。大方また何か企んでいるんだろうが…)

恭介「…顔に銃を向けられたんだ。今日ばかりは私の情けに期待しないほうが身の為だぞ」

仁美「そう」

仁美が肩を掴んだまま耳打ちした

仁美「あなたを強姦罪で訴えることだってできるのよ?」

恭介(…策士気取りか。薬を盛ったのもお前だろうな)

恭介「…お前とセックスをした覚えはない」

仁美「あら。私は覚えてますわ。あなたはひどく酔ってましたけれど、ね」

恭介は震える手でグラスを口に近付けた

7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:22:28.10 YIbEBKtf0
どういう話だ?

8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:22:45.46 Bk581gjE0
仁美「…赤ちゃんがいますの」

腹をさする仁美

恭介「……」

仁美「父親が誰なのか。ちょっと調べればわかることですわ」

恭介「…ほう」

恭介がグラスを置いて立ち上がる

恭介「なら、こうしよう」

仁美のみぞおちをえぐり込むように殴った

仁美「ううっ!?」

体が背中から浮き上がる

恭介「職業病でな…、私は人の心が読めるんだ。お前のような愚鈍な女の心は特に、なっ!」

渾身の2発目

仁美「はあっ…! あっ…!」

崩れ落ちた仁美の髪を掴み上げる

9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:23:15.26 Bk581gjE0
恭介「斜太の入れ知恵か? だが私を出し抜こうとしても無駄だ」

仁美「うっ、うぅあ…!」

恭介「レイプが望みならすぐにでも引き受けるぞ。お前の子供とやらも喜んでいることだろう…!」

仁美「…あ…」

恭介「?」

仁美「…悪魔…!」

恭介「……」

恭介がデスクの引き出しからハサミを取り出し、片方の刃を仁美の口に突っ込んだ

仁美「ひっ!!」

恭介「それがどうした、醜い雌豚! 『真人間を相手にしてると思うな』とあれほど言っただろう!」

刃先が仁美の頬を内側から押し上げている

仁美「…!」

10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:23:35.83 Bk581gjE0
恭介「私の佐倉神父との違いは、第1に『神を信じていない』こと、
   第2に『生まれながらのサディスト』であるということだ
   有名な話だと思っていたが、知らなかったか? …悪魔で結構!」

仁美「かっ…あっ…!」

恭介「お前は自分を『口の堅い女』だと思うか! なら私がこの口を文字通り耳まで裂いてやる!
   それが嫌なら本当のことを言え! 今すぐに!」

仁美は口を開けたまま泣き出した

仁美「あ…、…はっ…」

恭介がハサミを抜いた

仁美「うっ…うっ…。お……お金が…欲しかったの…」

恭介「ふん…。お前の親父は金の使い方も教えてくれなかったのか
   借金はいくら作ったんだ? 2億か。3億か」


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:23:56.94 Bk581gjE0
仁美「たった5千万よ…!」

恭介「『たった』? 失敗もする訳だ。5千万という金額は、お前には一生かかっても作れない
   いつまでも空から金が降って来ると思ったら大間違いだ
   …挙句に色仕掛けとは笑わせる。縁でも切られないうちに親に泣き付くがいい」

仁美「うぅ…」

涙でアイラインが流れた

恭介「それ以上私の前で泣くな。見苦しい」

仁美「……。ここまで心から憎いと思った人は、あなたが初めてですわ…」

恭介「私も愛する人以外を傷つけたのはお前が初めてだ」

仁美がよろめきながら立ち上がり、ハイヒールを履き直した

恭介「…妊娠しているというのは本当か?」

仁美「…そうだと言ったら?」

恭介「私の子じゃない」


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:24:13.42 Bk581gjE0
仁美「……。さすがですね。ええ、図星ですわ…全て私の考えたでっち上げ…」

恭介「そうだろうとも。馬鹿馬鹿しい…」

恭介がデスクに戻った

仁美はベッドに腰掛けて目を塞いだ

仁美「…斜太さんは何て…?」

恭介「……。杏子の名を商談のダシに使われた。生きてるかどうかさえわからないのに…」

恭介はウォッカをグラスに注いでため息をついた

恭介(もう空か…)

仁美「…上条さんらしくないですわね」

恭介「…私がここまでのし上がって来られたのは、杏子の存在があったからだ」

仁美「…まだ、愛してらっしゃるの…?」

恭介「薄汚い口を閉じろ、ゴキブリめ。お前が欲しいのは金だろうが」


13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:24:31.41 Bk581gjE0
仁美「…子供だったとはいえ、一度は好きになった男性ですもの」

恭介「執念だけは人一倍だな」

仁美「…必要なものがありましたら、お持ちしますわ…」

恭介「……酒が欲しい。野生の象を2頭殺せるほどの、大量の酒が…」

仁美「……」

恭介「…今度こそ睡眠薬の入っていないやつをな」

仁美「…! …すみません」

扉を開ける仁美

恭介「志筑」

仁美「…はい?」

恭介「口紅を落とせ。お前に赤は似合わない」


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:24:52.51 Bk581gjE0
仁美「…ありがとうございます」

恭介「…悪運の強い女だ。全く、虫唾が走る……。神父の戒めは年内に暗記しろ
   そうすれば日曜学校の教師として死ぬまでコーデリアで働かせてやる」

仁美「……」

仁美が部屋を出ていった

恭介(さやか…)

写真の入った引き出しを開ける恭介

恭介(杏子……)

額縁の真ん中で、赤いドレスを着た杏子がピアノを弾いている

恭介(…どこに行ってしまったんだ…)



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:25:28.02 G6mulKplO


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:26:00.86 YfOM3wbK0
なんだこれは

17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:27:09.42 rTfmuc2c0
ダークすぎんだろ

18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:30:22.65 Bk581gjE0
――――
―2011年 春 マミの家

QB「―それと引き換えに出来上がるのがソウルジェムという訳
   これを手にした者は、戦いで力尽きるとこの世界から消えてしまう運命を背負うんだ」

さやか「え…!?」

マミ「そう。契約で願いを叶えた魔法少女は、希望によって世界に歪みを引き起こす
   その歪みが解放される時、希望の分だけ、呪いが生まれてしまうの
   それが人の世に災いをもたらす前に、私達は『円環の理』に導かれて去っていく…」

さやか「そんな…じゃあ、いつかはマミさんも…?」

マミ「うん…そうよ」

さやか「……」

杏子「何ビビってんのさ? 戦いに明け暮れてでも叶えたい願いがあるんじゃなかったのかよ」

さやか「あたしは…」

杏子「……まぁ、あんたの望みなんて所詮その程度のもんだったってことだよ
   契約しちゃう前にそれがわかってよかったじゃん」


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:30:42.60 Bk581gjE0
さやか「うぅ…」

マミ「……。まぁ、仕方ないよね。人手は惜しいけれど、無理強いはできないもの」

さやか「…ごめん、マミさん…」

マミ「いいのよ。あなたが安易に契約してしまわなくてよかったわ」

杏子「さ、一般人は帰った帰った」

さやか(そうなんだ…。この人達がやってることって、
    傍から見るとかっこよくて楽しそうに見えるけど、実はそんな簡単なことじゃなくて…
    願い事を叶えたのにも、それなりの代償を払ってるんだ…)

さやか「うん…あたしの考えが甘かったよ。軽い気持ちで首突っ込んじゃって、ごめん」

立ち上がるさやか

マミ「あら、帰っちゃうの? せっかく来たんだし、契約の話は置いといて、
   もっとゆっくりして行かない?」


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:31:03.27 Bk581gjE0
さやか「ううん、まだ時間早いけど、あたしちょっと用事があってさ
    ちょうど話ついちゃったし、キリいいかなって」

マミ「そう…」

さやか「んじゃね」

さやかは帰っていった

杏子「…馬鹿だよね。『戦い』はよくて『消える』のは駄目って、一体どういう基準だよ」

杏子がケーキをかじる

マミ「仕方ないわよ。実際に魔獣の姿を見たこともない、普通の女の子だもの
   普通に暮らしていく中で本物の殺し合いを想像できる子なんて、そういるものじゃないわ」

杏子「あいつは魔法少女には向いてないだろうね」


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:31:23.63 Bk581gjE0
マミ「どうして?」

杏子「んー、勘…っていうのかな。あいつが考えてた願い事、男絡みなんじゃないかって気がする
   単に『あの人と上手く行きますように』なのか何なのか知らないけど
   何ていうかさ、恋なんてその時だけの幻みたいなもんじゃん?

   そこんとこ無視して『それでも戦う』だなんて、間抜け通り越して危険思想だ」

マミ「いいじゃない、幻だって。恋に生き、恋に死ぬ…
   円環の理は夢から覚めようとしている女の子に永遠を与えるの

   そうして魔法少女はそれぞれの安らぎの中、穏やかに旅立っていく…
   ロマンチックじゃない?」

杏子「…消えちまったら何の意味もねーよ」

マミ「そうかもね」

マミは紅茶を飲んだ

22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:31:39.14 Bk581gjE0
――――
―恭介の病室

恭介がさやかから顔を背けてCDを聴いている

さやか「何を聴いてるの?」

恭介「…『亜麻色の髪の乙女』」

さやか「あぁ、ドビュッシー? 素敵な曲だよね」

恭介「……」

さやか「…あ、あたしってほら、こんなだからさ。クラシックなんて聴く柄じゃないだろって
    みんなが思うみたいでさ。たまに曲名とか言い当てたら、すごい驚かれるんだよね
    意外すぎて尊敬されたりしてさ…」

恭介「……」

さやか「…恭介が教えてくれたから…。でなきゃあたし、
    こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、多分一生なかっただろうし…」


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:32:01.61 Bk581gjE0
恭介「…さやかはさ」

さやか「ん…何?」

恭介「…さやかは、僕をいじめてるのかい…?」

さやか「…!?」

恭介がイヤホンを外した

恭介「なんで今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ…? 嫌がらせのつもりなのか」

さやか「…だって恭介、音楽好きだから―」

恭介「もう聴きたくなんかないんだよ! 自分で弾けもしない曲、
   ただ聴いてるだけなんて…! 僕は…僕は…!」

恭介が素手でCDを叩き割った

ベッドに血が飛び散る

さやか「!!」

24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:37:15.19 Bk581gjE0
――――
―病院前

さやか「! あんたは…」

杏子がポテトチップを食べている

杏子「よう」

さやか「……」

杏子「何しょぼくれてんのさ?」

さやか「な、何でもないよ…」

杏子「ふーん」

さやか「…そっちは何しに来たの? 病院なんかに…」

杏子「あんたの様子を見に来たのさ。どうせ吹っ切れちゃいないだろうと思ってね」

さやか「! ……」

杏子「…本当は迷ってんだろ?」

さやか「……うん」


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:37:37.00 Bk581gjE0
杏子「ここに誰か入院でもしてるのか。男かい?」

さやか「…あんたには関係ないでしょ」

杏子「あるんだよね、それが」

ポテトチップを差し出す杏子

杏子「ほらよ」

さやか「……。ありがと。でもあたし今食欲ないから…」

杏子は出した分を自分で食べた

杏子「そいつ、病気なのかい?」

さやか「……」

杏子「…なるほどね。『治してやりたいのはやまやまだけど、消えちまうのは怖い』って訳か」

さやか「…あんたに何がわかるのよ」

杏子「『このまま勢いに任せて突っ走ったらあんたが後悔する』ってことだよ」

さやか「後悔しない為に、慎重に考えてるんじゃんか…」


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:37:55.39 Bk581gjE0
杏子「駄目駄目。一度っきりの願い事を他人の為に使っちまうなんて馬鹿のやることだ
   自分自身の望みが何も思い付かないってんなら、あんたは契約のことなんて
   初めから聞かなかったことにして、早いとこキュゥべえの前から消えな」

さやか「恭介は…あいつは病気なんかじゃなくて…」

杏子「病気じゃない。じゃあ怪我か?」

うなずくさやか

さやか「ちょっと前に事故に遭っちゃってさ。それ以来、左手が使えなくなっちゃって…
    『今の医学じゃもうどうにもならない』って、医者に言われたんだって…」

杏子「……。単なる怪我ならあたしやマミの魔力一つで治せるが、
   完全に動かないとなると、元に戻すのは難しいかもしれないな」


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:38:14.00 Bk581gjE0
さやか「…だから、あたしが…」

杏子「んー。五体満足のあたしに言われてもウザいだけかもしれないけど、
   人間、腕の1本や2本なくたって生きていけるんだよ」

さやか「…普通の人ならね。あたしも『自分だったらよかったのに』って何回も思ったし…
    でも恭介はそうじゃないんだ。あいつには特別な才能があって、
    それは手がどうしても必要なもので…」

杏子「ふーん…」

さやか「……」

杏子「…とにかく、お前はそいつの為に危険を冒してまで契約なんてするな
   怪我のほうはあたしが一応見てやる」

さやか「…!」

杏子「でも期待するなよ。魔法だって万能じゃないんだ」

さやか「…変なことしないでよね」

杏子「変なことって何さ?」

さやか「変なことは変なこと! …例えばキツい言葉かけたりとか…」

杏子「心配すんなって。あたしも人の子だ。悪いようにはしないさ」


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:38:16.74 FyQ7qSK20
さるよけ 期待してるぞ、アーチャー

29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:38:35.70 Bk581gjE0
――――
―恭介の病室
恭介が横になったまま背中を向けている

杏子(この坊やか)

恭介「…さっきは、ごめん」

杏子「?」

恭介「…でも、もう音楽も気休めも聞きたくないんだ…」

杏子(あいつ、喧嘩してたのか…?)

杏子「よう。あたしはさやかじゃないよ」

恭介が振り返った

恭介「…だ、誰?」

杏子「佐倉杏子だ。さやかの知り合いさ」

恭介「……」

杏子が椅子に腰掛ける

30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:39:03.80 Bk581gjE0
杏子「『いきなり何だ』って思ったよね。ちょっとさやかに頼み事されて来たんだ」

恭介「……。さやかを傷つけたこと、叱りに来たんでしょう…?
   さやかに謝っておいてください…今は何も考えられないし、聞く耳持つ余裕もないから…」

杏子「そうじゃない」

恭介「…慰めに来たのなら、尚更結構です」

杏子は恭介の左腕を掴んだ

恭介「…?」

杏子(…サイコロ1個分だけな…。どうせあいつが仲間に加わったら、
   足引っ張られて仕事は増えるし、あたしの取り分は減るし、ロクなことになりゃしない
   ここで治しちゃったほうが魔力の節約になる…)

さりげなく魔力で治療を試みる


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:39:23.95 Bk581gjE0
杏子(…でもなー…やっぱマミにでも頼むんだったかな…)

恭介「…何ですか」

杏子「…動かないか?」

恭介「……」

杏子(無駄だったか…)

恭介「…すみません。もう帰ってもらっていいですか…」

杏子「ああ、悪かったよ」

恭介「いえ…」

杏子「…ところでさやかとはどういう関係だい?」

恭介「え?」

杏子「死ぬほど心配してるぞ、あいつ」

32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:39:48.65 Bk581gjE0
恭介「…子供の時からの、友達です…」

杏子(友達ねぇ…)

杏子「…ま、あいつがヤケ起こさないうちにその手が治るように祈っといてやるよ。神様にさ」

恭介「…神様なんているもんか…」

杏子「……。あたしは信じてるよ。神様って奴は気まぐれで意地悪な役立たずだけどね」

杏子が去っていく

恭介は左手を見つめた

恭介「え…?」

CDを割った時に切った傷が治っている

恭介「…何だって…!?」


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:40:08.82 FyQ7qSK20
支援

34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:41:17.41 J0kh3K1S0
あんあん!

35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:42:26.38 FyQ7qSK20
さるくらったか?
投下が速すぎるんだよ、ちょい支援うけとけ

36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:44:45.44 P6ePHZlT0
あんあん

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:45:09.56 Bk581gjE0
―病院の前
杏子が出て来た

さやか「ど、どうだった?」

杏子は首を振った

さやか「…そっか」

杏子「あんたに謝りたがってたぞ。行ってやりなよ」

さやか「…ううん。いい…」

歩き出すさやか

杏子「おい、契約はするなよ?」

さやか「…やれるだけのことはやったんでしょう?
    それで駄目だったのなら、他にどうしろって言うのよ…」


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:45:27.26 Bk581gjE0
杏子「だからってあんたが魔法少女になる必要なんてどこにあるんだよ
   あの坊やの手とあんたの命は何の関係もない

   一度契約しちまったら、いつくたばったっておかしくないんだぞ

   それに仲間が増えればその分サイコロの分け前も減らさなきゃならねーし、
   急に足りなくなったら1人で集める羽目になるんだぞ。あんたにはそれができるのかよ?」

さやか「そりゃ、最初は迷惑かけると思うけど…
    あんた達だって、初めから強かった訳じゃないんでしょ?」

杏子「わかんねー奴だな…。契約の願い事で坊やの腕を治したとしても、
   それがきっかけになって、巡り巡って坊や自身を傷つけることになるかもしれないんだぞ」


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:46:27.49 Bk581gjE0
さやか「なっ……意味わかんない…なんでそうなるのよ!」

杏子「あたしがそうだったんだよ」

さやか「……」

杏子「契約した時はあんなことになるなんて思いもしなかった
   あの人だって嬉しそうだったし、しばらくの間は、1人で大変だったけど幸せだったよ
   …まぁ、最終的に引き金になったのは、あたしのちょっとした失敗だったんだけどね」

さやか「…『大切な人の怪我を治したい』。それって間違ってる?
    あたしは見返りが欲しい訳じゃない。恭介に真相を教えるつもりもない
    だったら恭介が傷つくことなんてある訳―」

40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:47:08.63 FyQ7qSK20
支援

41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:47:29.89 Bk581gjE0
杏子「その失敗ってのはさ、妹の怪我を治したことだったんだよね」

さやか「…?」

杏子「そう、あんたと一緒さ。妹に見返りなんか求めちゃいなかったよ
   だけどあたしの家族は、その日からすっかり壊れちまった」

さやか「……」

杏子「…魔法ってのはそういうもんさ。人の為になんか使っちゃいけなかったんだよ
   あたしはそれ以来、この力は自分の為だけに使い切るって心に誓ったんだ」

さやか「…だったらなんで、さっき…」

杏子「……。だから言ってんじゃん。あんたが入って来ると迷惑なんだよ
   今の3人で手に入れたサイコロを、どうせ足手まといのあんたにも配ることになる

   それを今のうちに防げるんなら安いもんだと思ったんだ
   …結果的には魔力と時間の無駄だったけどね」

さやかは下を向いて泣き出した

42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:47:52.31 Bk581gjE0
杏子(泣きたいのはこっちだ、馬鹿…魔力だってタダじゃないのに)

さやか「…あんな恭介、もう見たくない…」

杏子「…だったら会わなきゃいい」

さやか「そういう問題じゃなくて…!」

杏子はため息をついた

杏子「わかったからもう拗ねるな…。魔力に余分ができたらまた何回か試してやるから」

さやか「……」

さやかが顔を上げる

杏子「…だからちょっと待てっての。時間はかかるし、上手く行く保証もないけどね」

杏子(まぁ、坊やの手は治らないけど、何もそれだけが人生じゃない
   しばらく経てば、坊やだって現実を受け入れられるようになるさ
   あんたが契約を考えるのはその後でも遅くない。ちっと頭冷やせっての)

さやか「…ありがとう。…でも、あたしも心の準備はしておくから
    これは、あたしの問題なんだ。いつまでもあんたに迷惑はかけない」

杏子「ったく…」

43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:49:48.38 Bk581gjE0
――――
―2005年 杏子の通う教会
佐倉神父が声を張り上げている

神父「―世界の堕落を食い止めるのは、海の上を歩き、石をパンに変える聖人ではありません

   今こうしてここにいる、私やあなた方であり、その家族や友人達なのです

   聞いてください。誰かに愛されることを全く苦痛に感じる人がいるでしょうか?

   照れ臭いかもしれません。時には不安かもしれません。しかし誰もが望んでいるでしょう」

杏子(かっこいいよ)

44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:50:19.66 FyQ7qSK20
支援

45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:51:16.72 Bk581gjE0
神父「人に愛される人は、気付かないうちにその人を救っています

   貧しい人に与える為にあなたの財産を売り払う必要はないのです

   あなた方は誰一人、手のひらから金貨を出すことはできません

   一度与えてしまった物は、取り戻すまで返って来ないことを忘れないでください」

神父が1円玉を取り出す

神父「しかしながら、ここにいる全員が、少なくともこのコインより

   価値のあるものを無限に生み出すことができます

   一時の癒し、過ぎ去っていく幸福、無意識下の愛……

   これらは小さなものであるが故、誰にでも配ることができ、しかも決して尽き果てません」


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:51:34.38 Bk581gjE0
神父「たった一度の握手、ほんの一言の挨拶、わずか数秒の笑顔からも、小さな愛は生まれます

   残念ながら、これによって人の命を救うことはできません

   それでも、疲れ切った人にあと一歩だけ前に進む力を与えることはできます

   この小さな救世主がその人の近くにもう一人いたら、更にもう一歩です

   ここではたった一人がわずかに前進したに過ぎませんが、

   沢山の人が分かち合えば、いつかは大勢が目的地に到達できるのです」


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:51:55.81 Bk581gjE0
神父「簡単なことです。今日から始めようではありませんか

   この礼拝堂を出たら、すれ違う人々に笑顔で会釈してください

   家に帰ったら家族に話しかけてください

   今日あなたが見聞きしたことでも、夕飯のおかずのことでも構いません

   多くの人と友達になってください。目が合う度に笑いながら手を振りましょう

   彼らは知らず知らずのうちに心を開いてくれます

   こうして繋がった人達は、倒れても簡単に起き上がることができます

   なぜなら、愛する人を喜んで見捨てる人はいないからです」

杏子の願いで集まった人々が盛大に拍手した

杏子(もうすぐ、みんなが助け合って暮らす世の中になるね
   お父さんがこんなに頑張ってるんだもん。…あたしも頑張って戦うよ)


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:52:56.11 P6ePHZlT0
あんあん

49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:53:15.85 Bk581gjE0
―杏子の家

妻「―あなたの説法は素敵だけど、もっと主の御言葉を尊重してもいいんではないかしら…」

神父「……。聖典に書かれた通りの教義を広めるだけじゃあ、もう求道者はついて来ない…
   …新しい時代を救うには、新しい信仰が必要なんだ」

杏子(お父さんはやっぱりすごいな…)

妻「…主はあなたを心配しておいでだわ」

神父「…このことに気が付いた私だからこそ、こうして成功を納めることができたんだ
   みんながようやく関心を持つようになってくれた…
   私には神が啓示をくださったんだとしか思えないんだよ…」

杏子「……」

50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:54:01.90 FyQ7qSK20


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:54:44.33 J0kh3K1S0
あんあん!

52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:55:11.67 CjkAfWlB0
あんあん!

53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:56:07.82 Bk581gjE0
神父「お前達にはひもじい思いをさせてしまったけど…
   ここまで来られたのもお前達のおかげだ…本当にありがとう
   今ならきっと世界を救える。みんなが変わろうとする時が来たんだ」

妻「…そうね。信じて待っていたことがとうとう現実になった。素直に感謝しましょう」

QB(君の父さんは、この現象を自分の力で引き起こしたと思っているみたいだね)

杏子(いいじゃん。本当なら初めからこうなるはずだったんだよ
   だってお父さんは当たり前のことを言ってるだけだもん)

QB(君が納得してくれているのなら構わないんだが)

杏子(もちろんだよ。お父さんはみんなに正しいことを教える
   魔獣はあたしがやっつける。こうやって、あたし達で世界を天国にするんだ)

54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:57:14.65 VZqtPcda0
苛つくほどの理想論だな

55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:57:30.17 Bk581gjE0
QB(うん、君の気持ちが揺らいでないことを確認できれば充分だ
   今夜も忙しくなりそうだからね。しっかり頼むよ、杏子)

杏子(わかってるよ)

杏子「…お父さん」

神父「何だい?」

杏子「今日もかっこよかったよ」

神父「あはは。ありがとう、杏子。おいで」

佐倉神父は杏子を抱き締めた

神父「ありがとう…。こんなに優しくて可愛い娘達に恵まれて、お父さんは幸せで仕方ない」

杏子は腕の中で笑った

神父「…本当にいい子に育ってくれた」

神父が杏子の頭をそっと撫でた


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:58:09.02 Bk581gjE0
――――
―恭介の病室
杏子が買い物袋を引っ提げて入った

杏子「よう」

恭介「佐倉さん…」

杏子「さやかの奴が気まずそうだったから、代わりに見舞いに来てやったんだ」

恭介「……」

杏子がバナナを取り出す

杏子「食うかい?」

恭介「うん…それじゃあ、後で頂くよ。ありがとう…」

杏子「…何だよ。緊張してんのか?」

恭介「少し…」

杏子「別にかしこまらなくていいよ。歳もそんな離れてないしね」

恭介「…佐倉さんは…どういう人なんだい…?」

杏子「どうって言われてもな…何が知りたいのさ?」

恭介「昨日、君は僕に何をしたの…?」

57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:58:29.06 Bk581gjE0
杏子「はぁ…?」

恭介「信じられないことだけど…君に腕を掴まれてから何気なく自分の手を見たら、
   怪我をしてたはずなのに、綺麗に治ってて…」

杏子「…? 動くのか?」

恭介「いや…」

恭介は左手を見せた

恭介「昨日、CDに八つ当たりしちゃって、ここを少し切ったんだ…それが、嘘みたいに…
   驚いたけど、気のせいじゃない…。何度も確かめたんだ…」

杏子(……。そいつは気付かなかったな…。昨日魔力を使った時、そっちだけ治っちまったんだ…)

恭介「…奇跡だよね、これ…」

杏子「あー…。うん、…よかったじゃん」

恭介「さやかが言ってたんだ。『この世に奇跡はあるんだよ』って
   …そして佐倉さんを連れて来てくれた…

   もしかして、このことだったのかなって…。佐倉さんは、『奇跡』を起こせるの…?
   こんなこと、何だか自分でも不思議だけど、今ならすんなり受け入れられる気がしてる…」


58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:58:29.22 FyQ7qSK20


59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 19:59:41.19 J0kh3K1S0
かみかみ

60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:00:02.87 Bk581gjE0
杏子「…じゃあ、祈りがちょっとだけ通じたんだね」

恭介「あはは、本当にいるんだね。神様って」

杏子「……」

恭介「…もう一度、触れてみてくれるかい…?」

杏子(…何度やったって同じだっての…
   あたしにはあんたの手なんかどうやって治せばいいかわかんないんだよ…)

恭介「『もしかしたら』って―」

杏子「神様はきっと、あんたに意地悪してるんだよ…」

恭介「え…?」

杏子「そういう奴さ…あいつは。希望を持たせて、ちょっとだけ淡い期待を抱かせて、
   その後であたし達を何倍も苦しませる…。頭来ちゃうよね」

恭介「佐倉さん…」

杏子「傷を治したのはあたしじゃないよ。手を元通りになんてしてやれない」

恭介「……」

杏子「まさかそんなトンチンカンな誤解されてるなんてなー…」

恭介が左手を差し出した

61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:00:34.00 Bk581gjE0
杏子「…何だよ」

恭介「まだわからないじゃないか」

笑っている

杏子(何がそんなに嬉しいんだ…? 無理だって言ってるじゃんかよ…)

恭介「…嫌かな」

杏子「いや、別に嫌じゃないけどさ……言っとくけど、治らないからね?」

杏子は恭介の手を握った

恭介「……」

杏子「……」

杏子(…馬鹿じゃねーの…)

恭介「…ありがとう」

62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:00:50.12 Bk581gjE0
杏子「…気済んだか?」

恭介「うん」

杏子が手を放す

恭介は自分の手を見た

恭介「…やっぱり、動かないや」

杏子「……」

恭介「…嬉しかったよ。ありがとう」

杏子「ふーん……なら、その調子で元気出しな」

恭介「また、会いに来てくれる…?」

杏子「ああ…?」

恭介「佐倉さんを見てると、ちょっとだけ希望が湧いて来るんだよね…
   先生には『手が動くようになることは一生ない』って言われたけど、
   佐倉さんは、常識では考えられないことが世の中にはあるって、教えてくれたから…」


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:01:54.51 Bk581gjE0
杏子「だからあたしじゃないっての…」

恭介「じゃあ、誰が…?」

杏子「…知らねーよ」

恭介が笑った

恭介「『神様』かな?」

杏子「……。そうだね。『意地悪な神様』だ」

恭介「君は信じてるんだろう?」

杏子「…こう見えて、神父の娘なんだよね。とっくに破門されてるし、
   教義も平気で破るけど、それでもいまだにどっかで信じてるよ」

恭介「僕も信じることにする」


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:02:13.62 Bk581gjE0
――――
―2030年 コーデリア・ガーデン

アナ「―上条容疑者の所有する『コーデリア・ガーデン』で暮らす少女の行方が
   相次いでわからなくなっている事件の続報です」

院長の巴マミがテレビを睨んでいる

マミ「……」

アナ「―音楽家の上条恭介容疑者が12日、都内の自宅で覚せい剤を使用したとして、
   覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されました

   警察の調べに対し、上条容疑者は『仕事の疲れと孤独を紛らわす為に使った』と
   覚せい剤の使用について容疑を認めている一方で、

   行方不明の2人については『彼女達の居場所はこちらが知りたい』などと
   事件への関与を否認しているということです」

マミ「……」

65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:02:29.75 Bk581gjE0
アナ「―音楽の世界に新たな可能性を切り開いた彼が、
   『コーデリア』設立までに一体どのような足取りで歩んで来たのか、

   また、なぜ覚せい剤の使用に踏み切ってしまったのか
   この後の特集では、上条容疑者の意外な素顔に迫ります」

QB「ここもすっかり騒がしくなったね」

マミ「…ええ。彼は有名になりすぎてしまったの…。もう、私達の手には負えないわ」

QB「故郷が恋しいかい? マミ」

マミ「ううん。あの子達を守り切れなかったのは、やっぱり私の責任だし…
   ここで逃げてしまったら、佐倉さんにも顔向けできないもの」

QB「それにしても、ここが警察機関に目を付けられるとはね
   せっかく優れた素質を持った少女達が集まるようになったのに、
   これ以上安易に契約したら、コーデリアそのものが解体されてしまい兼ねない」

マミがソウルジェムを手に取った

マミ「私も、もうあまり長くはないわ…」


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:02:52.91 Bk581gjE0
QB「やれやれ、縁起でもない。このタイミングで君が死んだら、
   コーデリアの名誉はますます失われてしまう」

マミ「…いっそのこと、魔法少女の存在を表社会に知らしめてみたらどうかしら」

QB「それこそ本末転倒だよ。僕との契約は身を滅ぼすものとして、永久に忌避されるだろう」

マミ「……。キュゥべえには、何か考えはある?」

キュゥべえが体を回転させて背中越しにマミを見上げた

QB「稀な例ではあるけれど、昔僕がアメリカで出会ったヘレンは
   魔法少女でありながら、今の上条恭介と似たような活動をしていた

   肉体の老化が始まってからは、若さをも犠牲にして魔力の消耗を最小限に抑えることで
   ソウルジェムの劣化を遅らせていた

   魔獣ともほとんど戦わなくなった。『引退した』と言っても差し支えないだろう」


67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:03:13.11 X9ir6pOe0
上条爆発しろ

68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:03:21.24 Bk581gjE0
マミ「……」

QB「彼女にテレパシーで言葉と戦いを教えたジョアンナもそうだよ
   もっとも、2人は世界中の魔法少女からグリーフマテリアルの援助を受けていたけれど

   おかげで彼女達は、生身の人間と比較しても長い期間に渡って生き残ることができたんだ
   この考えを発展させれば、君の寿命を延ばすことも充分可能になるはずだ」

マミ「……」

QB「僕達は、魔法少女の在り方を今一度見直すべきなんじゃないかな
   その先駆けに、ほむらや杏子達と結成した『ワルプルギスの夜』を、
   もう一度立て直してみるのはどうだろう

   それも全く新しい体制を取り入れた、画期的な組織としてね
   具体的な運営方針は、これから考えなければならないけれど」

マミ「…そうね。暁美さんに相談してみましょう…」


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:03:36.71 J0kh3K1S0
まみまみ

70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:09:30.40 J0kh3K1S0
きゅっぷい

71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:15:18.36 J0kh3K1S0
ほむ

72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:16:12.02 Bk581gjE0
――――
―2011年 恭介の病室

杏子「―母親には『アン』って呼ばれてたね。可愛い呼び名だからって」

恭介「どうして『アン』?」

杏子「アンズの『杏』に子供の『子』って書いて杏子だから」

恭介が笑った

恭介「『赤毛のアン』だね」

杏子「ん…?」

恭介「知らないかい?」

杏子「んー…もしかしたら、聞いたことくらいはあるかもしれない」

恭介「カナダの小説で、『アン』っていう赤毛の孤児の物語だよ
   僕も最後までは読んだことないけど…」

杏子「へぇー。ちょうどあたしも孤児だし、髪の毛も赤いもんね」

恭介「え……それ、本当…?」

73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:16:29.17 Bk581gjE0
杏子「はぁ? あんたの目にはこれが黒髪に見えるっての?」

恭介「い、いや…」

杏子が笑った

杏子「言ってなかったっけね。そうさ。ちょっと色々あって、
   親父が家族巻き込んで自殺しちゃったんだ。あたしはたった1人、置いてけぼりさ」

恭介「……」

杏子「…あんたに言うことじゃなかったね。悪かったよ」

恭介「ごめん…何も知らなくて…」

杏子「気にしなくていいよ。あたしはこの結果に納得してるんだ
   誰のことも恨んでないし、あたしはあたしで今は好き勝手やって暮らしてるしね」

恭介「うん…」

杏子「ったくもう…いじめに来てんじゃねーんだぞ。今日もおまじないしてやるから手貸しな」

杏子は恭介の左手を握って暗示をかけた

74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:16:55.91 Bk581gjE0
恭介「……。君はどうして、こんなによくしてくれるんだ…?
   知り合ったのはつい最近だし、病院以外で会ったこともないのに…」

杏子「別に不思議に思うことじゃないだろ? あんたに金払ってる訳でもないし、
   治療してやってる訳でもない。っていうかさ、さやかの奴をあんまり困らせんなよ」

杏子(坊やが立ち直りさえすれば、あいつは契約を思い留まるはずだ
   本当はこいつ自身ももう『治らない』ってことはわかってるんだろう
   まぁ、あとは時間の問題だね。右手があれば何とでもなるさ。物は考えようなんだよ)

恭介「……」

杏子が手を放した

恭介は窓の外を眺めている

杏子「…?」

75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:19:22.59 J0kh3K1S0
かみかみ?

76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:19:28.59 FyQ7qSK20
あんあん?

77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:20:18.26 Bk581gjE0
恭介「やっぱり、治らないのかな…」

杏子「おい…あんたまさか…まだ信じてたのか…?」

恭介が泣きながら振り返った

杏子「…!」

恭介「というより…『信じたい』、かな…」

杏子「だ、だからね…、あれはあたしが治したんじゃなくて―」

恭介「だったら、教えてくれ…何が奇跡を起こしたのか」

杏子「知らないっての…」

恭介「…今は信じていたい…。でないと、僕は僕でいられなくなってしまう気がする…」

杏子「……」

恭介「狂いそうなんだ…『二度と演奏できない』って思うと、怖くて怖くて…!」

杏子(演奏…?)

78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:20:39.25 Bk581gjE0
杏子「…楽器が好きなのか?」

恭介「……。さやかから聞いてるかと思ってた…
   …僕は物心つく前からバイオリンと共に生きて来たんだ
   小さい時から発表会で色々な賞を取って来た…みんなから『天才』とまで言われてさ…」

杏子「……」

恭介「事故に遭わなければ、近い将来プロのバイオリニストになれたんだ
   僕にはバイオリンしかないから…
   バイオリンを弾くことができないのなら、僕なんか生きてても仕方ないんだよ…!」

杏子は目を細めた

杏子「……相手考えて物言いな」

恭介「!」

杏子「ムカつくんだよね、そういうの」

恭介「う……」

杏子「ねぇ、あんた人の話聞いてた? あたしはマザー・テレサじゃないんだよ
   あんたが苦しいのもわかるけど、『死にたい』なんて泣き言垂れ流す奴に
   貸してやれるほどデカい胸は持ってない」

杏子が顔を近付けた

79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:21:01.13 Bk581gjE0
杏子「もしあたしが人殺しだったらどうする?」

恭介「…!」

杏子「死ぬか?」

首を振る恭介

杏子が立ち上がる

杏子「…殺してほしくなったらいつでも言いな。あたしがあんたを苦しみから救い出してやる」

恭介「…ごめん」

杏子「泣くんだったら独りで泣きなよ」

出口に向かう杏子

恭介「待って…」

杏子「ん?」

恭介「…これからも、来てくれる…?」

杏子「……。まぁ、適当に暇見つけて来るさ
   こんな部屋で毎日1人ぼっちじゃ頭がイカレちまうだろうからね」

恭介「ありがとう…」

80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:21:21.60 Bk581gjE0
―夕方
さやかが恐る恐る病室に入った

さやか「恭介…?」

恭介「やあ」

さやか「今までごめん…あたし恭介の気持ちも考えないで、余計なことばっかりして…」

恭介「ううん…僕が間違ってたよ。さやかにはひどいこと言っちゃったよね…あの時はごめん」

さやか「…怒ってないの?」

恭介「怒るもんか。いつもお見舞いに来てくれて、すごく感謝してるよ」

さやか(よ、よかった…)

さやかは椅子に腰掛けた

恭介「ところで、佐倉さんってどういう人なんだい?」

さやか「え?」

恭介「さやかの知り合いだって言ってたけど…」

さやか「あ、あぁ杏子ね。んーまぁ何ていうか、その…」

81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:21:47.94 Bk581gjE0
さやか(藁にも縋る思いで杏子の魔力に頼っちゃったけど、
    まさか本当のこと言う訳にも行かないよね…杏子は何て言って入ったんだろ…)

さやか「あ、あたしもあの子のことはよく知らないんだけどさ、
    えっと…あたしが恭介のこと相談したら、『そいつに喝入れてやる』とか言って!

    いやー、止めても聞いてくれないから参った参った
    …『変なことしないでよ』って釘刺しといたけど、嫌なこととか言われてない…?」

恭介が笑った

恭介「そうだね、時々少し怖い時もあるけど、いつも優しくしてもらってるよ」

さやか(ん…ちょっと妬けるな…)

さやか「そ、そうなんだ…」

恭介「…さやかは、『奇跡』についてどう思ってる…?」

さやか「え…?」

恭介「佐倉さんは『知らない』って言うんだ…」

さやか「な、何言ってんのかな…」

82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:22:04.28 J0kh3K1S0
さやさや

83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:22:07.08 Bk581gjE0
恭介「自分でもよくわからないんだけどさ…。この間、さやかがくれたCD割っちゃったよね…
   それで手が切れて、血が出てたと思うんだけど…さやかも見てたよね…?」

さやか「…うん」

恭介「あの後、佐倉さんが来て、突然僕の腕を掴んだんだ…
   そしたら、何が何だかわからないけど、その場で傷が治っちゃって…」

さやか(あ、そっか…杏子がかけた魔法、あの怪我にだけ効いたんだ…)

さやか「な、何それー? うーん、不思議なこともあるんだねぇ」

恭介「さやかは、知ってて佐倉さんを連れて来たんじゃないのか?
   佐倉さんが、…何か特別な力を持った人だって」

さやか(…何なのよ、杏子杏子って。あたしだってその気になれば…)

さやか「…杏子は、そのことについて何か言ってた? 手はどれぐらいで治るとか…」


84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:22:26.67 Bk581gjE0
恭介「…僕の手なら、『治らない』って言ってた」

さやか「……」

恭介「だけど、心のどこかでまだ期待してるんだ…前みたいな奇跡が、また起こるんじゃないかって
   そのおかげで、僕はなんとか冷静でいられてる…」

さやか「…恭介」

恭介「何?」

さやか(もし、このままずっと手が治らなかったら、どうする…?
    やっぱり、この前みたいになっちゃうの…?

    逆に、もしあたしが恭介の手を治したら、どんな言葉をかけてくれる…?
    杏子みたいに『特別な人だ』って、そんな風に思ってくれるの…?)

さやか「……」

恭介「…?」

85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:23:07.96 P6ePHZlT0
さやさや・・・

86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:23:30.54 Bk581gjE0
――――

杏子「―例えば誰かが何の理由もないのにあんたを殴ったとするだろ
   そりゃムカつくよね。でも、そこでムキになって相手を殴り返すんじゃない
   殴られたのと反対側を出して『今度は左だ、来いよ』って言い返すんだ」

恭介「え、あれってそういう意味なの…?」

杏子「ただ我慢すりゃいいってもんじゃない
   平気でそう言えるぐらい強くなることが大事なんだって。沢山の人を救う為にね」

恭介「あはは、そっか。だから杏子は強いんだ」

杏子が笑った

杏子「そいつはどうだかね。あと、その延長でこんなことも言ってたよ
   自分でやり返す必要はない、なぜならそいつは既に罰を受けてるからだ」

恭介「…?」

87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:23:43.66 RCBI9a6H0
とりあえず支援

88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:24:31.63 FyQ7qSK20
支援

89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:26:23.70 h1uJp6kGO
杏恭書くにしてもわざわざさやかを噛ませにするなよ低能が

90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:27:23.79 RCBI9a6H0
初めわりと本気でkeyのSSかと思ったわww

91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:29:57.39 Bk581gjE0
杏子「この世の罪と罰のバランスは差し引きゼロで成り立ってるって考え方さ
   面白がって人を殴るような奴は、その分多くの人間を敵に回す

   後にしろ先にしろ、そいつは必ず痛い目に遭わされる時が来るんだって言ってた
   まぁ、世の中は元々そういう仕組みだしね」

恭介「…僕や杏子も、その仕組みの中で生きてるのかい…?」

杏子「そうなんじゃない? それもこれも親父の言葉だけどね」

恭介は左手を見た

恭介「…わからないな。誰かの一生を壊すようなことなんてした覚えはないのに
   どうして僕がこんなにひどい『罰』を受けてるのかな」

杏子が手を掴んでいつもの暗示をかける

杏子「今はまだでも、これからしちゃうのかもしれないよ
   でなきゃ、神様はそれに見合う贅沢でもさせてくれるつもりなんだって思っておけばいい」


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:30:22.64 Bk581gjE0
恭介「…バイオリンを取り上げられたことと釣り合う出来事なんて
   僕には思い付かないけどな…」

杏子「…ま、生きてればそのうち見えて来るさ。約束はできねーけど」

恭介が杏子を見つめた

恭介「この間の言葉、本気…?」

杏子「何の話さ?」

恭介「『死にたくなったら言え』って…」

杏子「まだそんなこと言ってやがる」

恭介「いや…、今はもう『生きていたくない』なんて思ってないよ
   ただ、もしいつかまた耐えられなくなったら、真っ先に君を思い出すと思う…」

杏子「……」

恭介「その時は、ほんの少しの間でいいから、もう一度僕を支えてほしい…」

杏子「…『殺してほしい』じゃないのか?」

恭介「『生きてれば見えて来る』んだろう…?」

杏子「……そうだね。あんたがそう思えたんなら、多分な」

93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:30:45.31 Bk581gjE0
恭介「杏子は何の為に生きてるの…?」

杏子「あたしはあたしの為に生きてるよ。あんたみたいに1つの物にハマったことはねーし、
   なくしたところで目の前が真っ暗になるほど大事な物も持ってない」

恭介「…音楽の力って、本当にすごいんだよ。君にも感じさせたいくらい…」

杏子「…ピアノならちょっとだけ弾けるよ」

恭介「本当に?」

杏子「んー、あんたからしたら弾けるうちに入らないかもしれないけどね
   子供の頃に教会で覚えた曲がいくつかあるんだ」

恭介「ピアノか…。ずいぶん触ってないな…」

杏子「あんたはピアノも弾けるのかい?」

恭介「『弾けた』だね。仮にも音楽家を目指してた身だし」

杏子「……」

恭介が時計を見た

94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:31:04.57 Bk581gjE0
恭介「…そろそろ行かないと」

杏子「どこ行くんだ?」

恭介「リハビリ室だよ。診察の予定が変わっちゃって。ちょっと寂しいけど、今日はお別れだね」

杏子「歩けるかい?」

恭介「…車椅子を寄せてくれるとありがたいんだけど…」

杏子は車椅子を壁際まで遠ざけた

杏子「ここまで歩いてみな」

恭介「え…」

恭介に近付いて、肘を掴む

杏子「あたしが支えてやるからさ」

恭介は杏子を見上げて笑った

95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:31:25.07 Bk581gjE0
――――
―夕方。楽器店
杏子が電子ピアノに向かっている

杏子(何て名前だったっけね…)

体で覚えた、子供の歌の伴奏

ヘッドホンをして、歌詞を思い浮かべながら鍵盤を叩いた

杏子(『わたしの素敵な家族の願い 堅く結ばれて 永遠にそばにいたい
    神様はその願いを聞き届け わたしを導いてくれる』…)

杏子「……」

不意に悲しくなった

杏子(馬鹿…)

同時に演奏ミス。杏子は手を止めた

杏子「…はぁ…」

杏子(…音楽って不思議だよな。知ってる曲が流れると、
   それをよく聴いてた頃を思い出す。忘れてた訳じゃないのにね…)

少し上を向いて、教会とは無関係の明るい曲を弾いた

96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:31:47.57 Bk581gjE0
――――
―2030年 恭介の個人オフィス

恭介が観賞用のダガーナイフを机にトントン突き刺している

恭介(…私は過去に囚われすぎているんだろうか。…確かにな
   最後に会ってから6年以上も経つ
   例え約束を果たしたところで誰も喜んでくれやしない)

恭介「……」

深いため息

恭介(追いかけるほど遠のいていく…。やはり私には世界など救えないのか…
   …よりによってコーデリアからさえも行方不明者を出してしまった
   私の最後の砦だったのに…)

恭介「……」

机の上の書類と電話機を床にぶちまけた

恭介(果てに『頭のイカレたロリコン野郎で誘拐犯、あるいは殺人鬼』と来たか
   これではM・ジャクソンの二の舞じゃないか。平和を願う者は決まって変態扱いされる
   貴様らには良心というものが少しでもあるのか!!)

恭介「くそ!!」

ゴミ箱を蹴飛ばし、ウィスキーの瓶を叩き割った

97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:32:12.43 Bk581gjE0
恭介(私は何の為にコーデリアを立ち上げたのか…!
   何の為に『世界を救う子供達』を育てようとして来たのか!
   一体何の為に、全てを捧げて来たのか!!)

恭介「何の為に!!」

ダガーナイフを入り口の扉に投げつける

仁美「!!」

恭介「―!」

仁美がオフィスに入ろうとしていたようだ

ナイフが肩と胸の間に刺さった

仁美「うっ…!」

うずくまる仁美

恭介「志筑……」

恭介は仁美を抱き上げてベッドに寝かせた

98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:32:32.59 Bk581gjE0
仁美「お…おかえりなさい…」

恭介「なぜノックをしなかった…」

引き出しからハサミを出してブラウスを切り裂いた

仁美「それどころではなかったでしょう…?」

恭介(大丈夫だ、傷は深刻じゃない……だが縫わなきゃならないだろうな)

恭介「…肺は無事だ。ナイフを抜くぞ」

仁美「…!」

仁美が強く目を閉じて恭介の腕を掴んだ

仁美「…そっと…お願いします…」

恭介「……」

刃を指で挟むように傷口を押さえ、一気に引き抜いた

仁美「ああっ…!」

ハンカチを裏返しに折り畳んで仁美の手に握らせる

恭介「…押さえろ」

99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:32:52.95 h1uJp6kGO
書き手自分に酔いすぎだろ…

100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:35:05.26 P6ePHZlT0
ひとひと

101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:35:15.19 Bk581gjE0
仁美「…容赦ないんですのね…」

恭介「すまない…」

仁美「……!」

携帯を取り出す恭介

仁美「待って…」

恭介「何だ?」

仁美「執行猶予中ですわ…」

恭介「…それが?」

仁美「念の為、表沙汰にはしないほうが……」

恭介「……」

恭介は携帯をポケットにしまった

102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:35:33.97 Bk581gjE0
恭介「…裁縫用具をよこせ」

仁美「バッグの中です…1階にありますわ」

恭介「…取って来る。動くんじゃないぞ」

仁美が笑った

恭介「何がおかしい」

仁美「あなたが謝ってくれるなんて」

恭介「…お前はいつも一言多い。もっと深く刺すんだった」

仁美「それは愛情表現ですか?」

恭介「…秘書とはいえお前は敵だ。私は根に持つぞ」

仁美「そう」

103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:39:46.89 J0kh3K1S0
ひとひと

104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:45:37.48 Bk581gjE0
――――
―2011年 恭介の病室

杏子「よう」

恭介「やあ。…それは?」

杏子は簡素なキーボードを引っ提げている

杏子「昨日買って来たのさ。暇潰しの道具にちょうどいいと思ってね
   でもこんなんじゃ物足りなかったか?」

恭介「……」

杏子がベッドに腰掛けてキーボードをケースから出した

杏子「こいつはピアノにもオルガンにもなるんだ。それにちゃんと和音も出るよ。弾くかい?」

恭介「…まずは杏子が弾いてみてよ」

杏子「いいよ。大して上手くないけどね」

2人はイヤホンを片方ずつ付けた

一番馴染みのある曲を弾く

恭介は小刻みにリズムを取っている

恭介「何ていう曲?」

105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:46:58.25 Bk581gjE0
杏子「忘れちまった」

恭介「…歌の伴奏かな」

杏子「そうさ」

恭介「歌える?」

杏子「弾きながらはちょっとね」

恭介「……」

―曲が終わった

恭介「…僕も弾いてみたいな」

杏子「いいよ」

キーボードを渡す杏子

恭介が押し返した

杏子「おい、何だよ?」

恭介「1人じゃ右しか弾けないから」

杏子「…?」

106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:47:56.06 J0kh3K1S0
かみかみ

107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:52:24.02 Bk581gjE0
恭介「左は杏子が弾いてくれる?」

杏子「…!」

キーボードを杏子の膝に乗せる

杏子「っつーか、あんたがどんな曲弾けるかなんて知らないぞ?」

恭介「さっきのでいいよ」

杏子「…まさか、知ってたのか?」

恭介「いや…細かい所は間違えるかもしれないけど、だいたい覚えたから。簡単な曲だしね」

杏子「……!」

恭介が横から杏子の目を見た

恭介「…せーの」

タイミングを合わせて弾き始める

恭介は杏子が先に弾いた通りに鍵盤を叩いた

杏子(本当に弾いてやがる…。すげーな…『天才』ってのはダテじゃなかったのか…)

恭介「…歌ってみて」

108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:54:12.73 Bk581gjE0
杏子「いいっての」

恭介「あはは」

杏子(キーボードでこれだもんな…バイオリンを持たせたら、さぞ……)

―曲が終わった

恭介「もっと一緒に弾こう? 楽しくなって来ちゃった」

杏子「…その前に手貸しな。それと歩く練習だ」

恭介の手を握った

杏子(そういえば、坊やがこんなに生き生きしてるの、初めて見たな…)

暗示が終わり、肘を掴んで立ち上がる

杏子「何かあったのかい? やけに嬉しそうじゃん」

恭介「え? そうかな…」

杏子「……」

恭介のペースに合わせて後ろ向きに進んでいく杏子

杏子「だいぶ歩けるようになったね」

109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:54:26.51 J0kh3K1S0
かみかみあんあん!

110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:54:29.39 Bk581gjE0
恭介「…杏子のおかげじゃないかな」

杏子「何でもかんでもあたしと結び付けんなっての」

恭介「あはは」

互いの腕を掴んだまま部屋の中を歩き回った

恭介「…まだまだ先の話だけど、退院した後も会える…?」

杏子「あたしも気に入られたもんだねぇ。まぁ、別にどうしても会えないって理由はないよ」

恭介「よかった。杏子はどこに住んでるの?」

杏子「……。それ聞いてどうすんのさ?」

恭介「遊びに行っちゃ駄目かな」

杏子「…そんなに会いたきゃあたしが行ってやるよ。気が向いたらの話だけどね」

恭介「あはは、そうだね。うちにおいでよ。…杏子は今、孤児院で暮らしてるの…?」

杏子「…いや。本当のこと言うとね、あたし帰る場所ないんだわ」

恭介「…!」


111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:54:46.63 Bk581gjE0
杏子「つっても、住む所に困らない程度の金はあるんだよ
   毎日ホテルに泊まって、あっちやこっちを行ったり来たり
   そうやって自由に暮らしてるのさ」

恭介「……。じゃあ、僕が引き取る」

杏子「はぁ?」

恭介は恥ずかしそうに笑った

恭介「…なんてね。杏子と一緒に暮らせたら楽しそうだなって」

杏子「なーに言ってんのさ」

恭介「ごめんごめん」

杏子(家族か……)

杏子「…ま、考えとくよ」

恭介が立ち止まった

杏子「ん、もう疲れたのか?」

恭介「…杏子の助けになりたい」

杏子「いきなりどうした」


112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:55:07.87 Bk581gjE0
恭介「左手はもう治らないけど…それでも、何とか生きていけるような気がして来たんだ…
   それは奇跡だとか神様だとかっていうのとは関係なく、紛れもなく杏子のおかげで…

   やっと、自分のことだけじゃなくて、他人のことも見えて来てさ…
   それで、まず一番に『助けたい』って思ったのが、杏子で…」

杏子「…あたしは人の助けなんか必要としてねーよ
   誰かに頼らなきゃならないのはあんたのほうだろ?」

恭介「…駄目かな」

杏子「……」

杏子(…もしこいつの家に住むことになったら、手の面倒とかって、あたしが見るのかな…)

恭介は不安定に前進していく

恭介「……」

杏子(…っつーか、いいのかな…人ん家の常識とかしきたりとか、何もわかんねーけど…)

杏子「……」

杏子(…こいつの家族に何て挨拶したらいいんだ…? 話はこいつがつけてくれんのかな…)

トン

杏子の背中が壁に当たった

113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:55:25.59 Bk581gjE0
杏子「ん…」

恭介「…杏子?」

杏子「……考え事してた」

恭介「…どんな?」

杏子「……何でもねーよ」

恭介「…悲しいこと?」

杏子(でも『助けなんか要らねー』って言っちゃったしな…
   …ていうか要らねーよ。何考えてんだあたしは
   ここんとこ毎日こいつの顔見てたから、馬鹿が移っちまった)

杏子「何でもないっての。ほら、どっちに曲がりたいんだ?」

恭介「……」

杏子「何だよ。あたしの顔なんか見てたって何も出て来ないぞ」

恭介は俯いて何か考えると、生唾を飲んだ

それから、少し迷って顔を近付けた

杏子(え…?)

杏子の唇にキスした

114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:55:42.71 Bk581gjE0
杏子(は…!?)

―長い

口を塞がれたまま顔を引きつらせる杏子

杏子(キ…キスされてる……どうすんだよ…『キス』だぞ…!?)

恭介がようやく顔を離した

杏子はまぶたを半分閉じたまま目を泳がした

恭介「……」

杏子「……」

恭介の顔に唾を吐きかける

恭介「!」

杏子「…何してんの?」

恭介「……」

杏子「おい」

恭介は下を向いた

杏子「何してんの?」

115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:57:57.71 fZYR1yp40
後味悪いエンド確定だけど続きが気になるな

116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 20:58:31.96 J0kh3K1S0
うらやましい

117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:01:47.06 Bk581gjE0
恭介「…ごめん…」

杏子「お前は人の体を何だと思ってんだよ」

恭介「……」

恭介をベッドへ誘導する

恭介は目を逸らしたままベッドに上がった

杏子は椅子に腰掛けて膝の上で頬杖をついた

恭介「……」

杏子「……」

杏子(ったくもう…)

杏子「…悪かったよ。顔拭きな」

恭介「いや…。僕が馬鹿だった…どうかしてた。ごめん…」

杏子「……。さやかには言わないでおいてやる」

恭介「…うん」

杏子(変な感触だった…まだ口に残ってる…。人の唇ってあんな柔らかいのか…)

恭介が袖口を掴んで顔を拭いた

118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:02:16.24 Bk581gjE0
杏子(キ…キスされた。…嘘じゃない…本当に口にキスされた…)

恭介「……」

杏子「…なんであんなことしたのさ?」

恭介「……」

杏子「…あたしがベタベタ触るから行けると思ったのか?」

恭介は顔を背けた

杏子「責めてる訳じゃないよ。理解したいだけだ」

恭介「……」

杏子は小さなため息をついた

杏子「…ただの変態だったのか。抱かれに来てるんじゃないのに」

恭介「ごめん…」

杏子「…帰るわ」

119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:03:12.35 J0kh3K1S0
あんあん……

120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:04:26.97 Bk581gjE0
――――
―2005年 杏子の家
杏子の妹が悲鳴を上げた

振り返る杏子

杏子「!」

熱湯を張っていたフライパンが床に落ちている

妹「熱い!」

妹の腕が見る見る爛れていく

杏子「…た、大変…!」

杏子はシンクに水を溜めた

杏子(まだ4時半だ…お父さん達はまだしばらく帰って来ない…
   …そうだ…今、あたしの魔力で火傷を治しちゃえば…!)

杏子が踏み台を寄せる

杏子「ここに腕を入れて。すぐに冷やせば治るから」

妹は泣きながら首を振っている

妹「やだ、痛いよ!」

121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:06:02.20 iiyDuzWb0
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」668からの分岐

改変前のマミ生存 OR 改変前のマミ qb 復活

誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:06:21.92 Bk581gjE0
杏子「怖がってちゃ駄目! 冷たい水だから入れても痛くないよ、ほら!」

妹「やだ…!」

怯えて杏子から離れていく

妹「痛い…!」

杏子「もう…わかったから…じゃあね、水に浸けなくていいからそこで止まってて…」

妹「痛いよ…」

杏子が妹の体をそっと捕まえた

杏子「『火傷が治りますように』って、あたしが神様にお祈りしてあげるから…」

妹「うん…」

杏子「だから目つぶって。一緒にお祈りすれば神様は聞いてくれるから…」

杏子は妹を後ろから抱き締めたままソウルジェムを両手で包んだ


123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:06:36.80 Bk581gjE0
杏子(どうしよう…お父さんにバレたら絶対何か聞かれる…
   お母さんだったら『神様が治してくれた』って喜ぶかもしれないけど、
   お父さんは多分そんなこと言わない…)

腕の爛れが引いていく

―家の扉が開いた

杏子「!?」

両親が帰って来たようだ

妹が目を開けた

親達がひっくり返ったフライパンに目をやった

神父「あ…!」

妻「! ちょ…ちょっと、2人とも大丈夫!?」

杏子「う、うん…あたしが見てたから…」

妹が腕を見た

火傷が治っている

124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:10:32.20 fZYR1yp40
支援

125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:11:14.12 Bk581gjE0
妹「あれ…?」

杏子「しーっ…!」

佐倉神父が2人に駆け寄った

神父「怪我はないか…!?」

妹「嘘…。本当に治っちゃった…」

神父「…?」

妹「神様が治してくれたの…?」

神父「…怪我したのか…?」

神父が2人の体を見る

杏子「……」

杏子がソウルジェムを背中に隠した

神父「…? 手を見せてみなさい」

ソウルジェムを指輪に変えて手のひらを差し出す

126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:13:10.02 Bk581gjE0
杏子「ん、何もないよ…」

神父「……」

妹「あたし、うっかりフライパン落としちゃって、ここ火傷したの……」

杏子「!!」

妹「でも、今お姉ちゃんが神様にお祈りしてくれて…そしたら治ったの…」

両親が不安そうに顔を見合わせている

杏子(『しー』ってば…! もう、そもそもなんで今日に限って早く帰って来ちゃうのさ…!
   まさか教会で何かあったの…? そういえば…お父さん達、さっきから何か…)

佐倉神父が姉妹の顔を順番に見た

杏子「……」

神父「…杏子」

杏子「…何?」

神父「…どうやった?」

杏子「え…」

127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:13:30.00 Bk581gjE0
神父「何をした…?」

杏子「…あたしはただ…」

神父は遠くを見ながら顎ひげを撫でた

神父「…あの目は…」

杏子「…?」

杏子の手を引いて歩き出す神父

妻「あなた…?」

神父「……杏子に大切な話がある。とても大切な話だ」

妻「……」

杏子は家の外へ連れ出された

神父「……。どうして教会に人が集まるようになったか、知ってるか…?」

杏子「…!」

128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:18:19.57 Bk581gjE0
神父「…まさかとは思うけど…、お前の仕業なのか…?」

杏子「な…なんで…」

神父「…今日、集まって来た人達と話して来たんだ。お母さんと一緒にね…」

杏子「……」

神父「そうしたら、みんなお母さんの話を全く聞かなかった…私の話は楽しそうに聞くのに…
   よく見ると誰も彼も同じような目をしてて、悪魔に取り憑かれているみたいだった…」

杏子「……!」

神父「何かおかしい…さっきのことと言い…。今のお前の顔を見てると、
   お父さんには、お前が真実を知ってるんじゃないかって思えるんだよ…」

杏子「…」

神父「…もしそうなら…、教えなさい。正直に」


129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:18:39.70 Bk581gjE0
――――
―マミの家

マミ「あら、今日はずいぶん早いじゃない」

杏子が両手に大量のお菓子を引っ提げている

杏子「…何ていうか、じっとしてられなくてさ…」

マミ「…?」

マミは杏子を部屋に上げた

マミ「―どうしたの? そわそわして。ダイスが足りなくなってしまったの?」

杏子「…サイコロは足りてる…」

杏子はため息をついた

マミ「…心配事?」

杏子「……」

マミがミルクティーを出した

130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:18:46.34 J0kh3K1S0
あんあん……

131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:19:01.03 Bk581gjE0
マミ「言ってみなさい。力になれるかわからないけど、誰かに話せば解決しちゃうこともあるわよ」

杏子「…何つーのかな…」

マミが紅茶をすすった

杏子「…ほむらは何時に来る?」

マミ「聞いてないわ。遅くても5時前には来るんじゃないかしら」

呼吸を整える杏子

杏子「…あのね。…今日、知り合いの男と会って来たんだけど…」

マミ「あら、恋の相談?」

杏子「違う…。ちょっと、嫌な話になるぞ…」

マミ「……」

132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:19:31.66 Bk581gjE0
杏子「……。ここ最近、2人っきりでよく会ってたんだけどね…
   いや、2人っきりって言っても…そこがたまたま他に誰もいない場所だったってだけで、
   あたしはそいつがどうこうってことで会ってたんじゃなくて…」

マミ「ええ…」

杏子は少し目を泳がした

杏子「…まぁ、それで…。今日、そいつに…変なことされちゃって…」

マミ「…!」

マミが凍り付いてカップを置いた

杏子「んー、『だから何だ』って言われたらそれまでだけどさ…
   …見かけによらないもんだな。まさかあいつが変態だったなんて」

マミ「佐倉さん…」

杏子「ん?」

マミ「…どうして、抵抗しなかったの…?」

133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:19:47.59 Bk581gjE0
杏子「…気付いた時にはやられてたんだよ…そこからは、さすがに動転してたし…」

マミ「……」

マミが杏子に抱き付いた

杏子「は…?」

マミ「そっか…ごめんね。…そうだよね…怖かったんだよね…」

杏子「…? …あいつは別に怖くねーよ」

マミ「いいのよ、こんな時まで強がったりしないで…佐倉さんだって女の子だもの
   そんな目に遭ったら混乱しちゃうよね…。怖かったね…辛かったね…」

マミが鼻をすする

杏子「お、おい…泣くほどのことじゃないっての…」

マミ「ごめんね…私が慰めなきゃいけない時なのに…」

杏子「…何か行き過ぎた予想してないか…?」

134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:22:20.97 J0kh3K1S0
まみまみ

135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:27:39.54 Bk581gjE0
――――
―恭介の病室
さやかが入っていく

さやか「―恭介?」

恭介は寝そべったままキーボードで遊んでいる

恭介「…さやかか。驚いた」

さやか「それ、何?」

恭介「…杏子から借りたんだ」

さやか(そっか…杏子がねぇ…)

さやか「そういえば、恭介はピアノも上手いんだったね」

恭介「上手くないよ」

さやかは椅子に腰掛けた

恭介「……」

さやか「…聴いてみてもいい?」

恭介「…構わないけど…」

136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:29:03.50 Bk581gjE0
さやか「…今日、元気ない?」

恭介が手を止めた

恭介「…そんなことないよ」

さやか「……」

恭介「……。せっかくだから、さやかも弾いてみる?」

さやか「あ…、あたしはいいよ」

恭介「簡単だよ」

さやか「うぅ…でも、あたしピアノなんてロクに弾いたことないし…」

恭介「…そっか」

寂しそうに鍵盤を叩く

さやか「…なんか、ごめん…」

恭介「ううん。嫌なら仕方ないよ」

さやか「い、嫌っていうか! そうじゃなくて…その…
    あたしなんかが触っちゃっていいのかなって…」

137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:30:27.76 Bk581gjE0
恭介「あはは。怖がらなくてもいいのに」

さやか「うぅ…」

恭介「……」

恭介がため息をついた

恭介「…僕って最低だ…」

さやか「えっ…! なんで…?」

恭介「…相手が嫌がってるのに、自分の望むことを人に無理矢理強要したりして…」

さやか「ちょ、ちょっと、何言ってんのよ。恭介は何も強要なんかしてないでしょ」

恭介「……」

さやか「…? あぁ、わかった。なんかさっきから元気ないと思ったら、さては杏子だなー?」

恭介「…!」

さやか「杏子が『ピアノなんか弾けない』って言ってるのに
    無理に付き合わせようとして怒らせちゃったんでしょー」

恭介「……」

138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:30:30.19 QEJxuoUx0
どこかで見た文体だな
こういう作風好きだ

139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:30:44.68 Bk581gjE0
さやか「恭介…?」

恭介「…まぁ、そんな所かな」

さやか(なんか、それにしちゃ…落ち込み方が…)

さやか「そ…そっか。よっぽどキツく怒られたんだねぇ…もう、杏子め…」

恭介がぎこちなく笑った

恭介「……やっぱり、奇跡は起こらないね」

さやか「…あ…」

さやか(そういえば恭介には『治らない』って言ったんだってね…本当はそれが現実なの?
    それならなんであたしには期待させるようなこと言ったの?
    あたしがキュゥべえと契約するのがそんなに迷惑…?)

さやか「…きっと、もうすぐだよ。だから、諦めないで―」

恭介「僕が望んでた奇跡は起こらない。もういいんだ…。今日、それを確信できたから…」

さやか「恭介…」

恭介「自業自得なんだ…諦めなきゃ……」

さやか「杏子に何か言われたの…?」

140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:31:13.11 Bk581gjE0
恭介「……」

恭介は首を振った

さやか(…もう、だから『変なことしないで』って言ったのに…!)

さやか「心配ないよ…」

恭介「…?」

さやか(もう杏子には恭介を任せられない…
    治療もできないのに、あたしの目の届かない所でこれ以上恭介と会ってほしくない…)

さやか「恭介の手、きっと治るから…それまで頑張ろうね」

恭介「……」

さやか(杏子に迷惑なんかかけないよ。戦い方はマミさんやキュゥべえに教えてもらうもん…
    グリーフマテリアルを誰かに分けてもらうこともしない…

    初めからこうすればよかったのに、あたしは自分の支払う代償を恐れて
    努力もしないで結果だけ欲しがってたんだ…)


141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:31:30.14 Bk581gjE0
――――
―夜。魔獣退治の帰り道

マミ「それにしても『キス』ね…。暁美さんは、そんな経験ある?」

ほむら「いいえ」

杏子「ったく、なんであたしなんだよ…」

マミ「きっと佐倉さんのことが好きなのよ」

杏子「それなら口で言えっての…」

マミ「いいじゃない。キスは言葉を超えた最高の愛情表現よ
   何気ない会話の中でふと目が合った2人は
   どちらからともなく瞳を閉じ、熱い唇を寄せ合う…」

杏子(…なんか寒気しないか?)

ほむら(ええ、鳥肌が立ってるわ)

杏子「…で、あんたはしたことあるのかい?」

マミ「ないわ」

杏子「何だよ。知ったようなこと言ってるけど、やっぱりないんじゃんかよ」


142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:31:36.38 fZYR1yp40
QBシャワーの人?

143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:31:48.07 Bk581gjE0
マミ「そう…。だから、ちょっぴり羨ましいの」

杏子「そんないいもんじゃないよ。あんたもいきなりされてみな
   びっくりするぞ。それにちょっと腹立ったし…。嬉しさなんて1割以下だ」

マミが笑った

マミ「何も言わずに突然キスするなんて、情熱的よね」

杏子「…からかってんのか?」

マミ「嫉妬してるのかな」

杏子「だったら代わってほしいぐらいだ」

マミ「ううん。誰にもあなた達の邪魔なんてできないわ。2人の恋は始まったばかりだもの」

杏子はため息をついた

杏子「あーあ、こいつに話したのが失敗だった…」

ほむら「そのようね…」

マミ「ごめんね。こんなことって今までになかったから、何だか嬉しくって」

杏子「あのなぁ」

144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:33:04.32 Bk581gjE0
―その頃

QB「―本当に、いいんだね?」

さやか「うん。やって」

QB「マミや杏子が何て言うか。確かにエネルギーの回収効率が上がる分には大助かりだけどね
   とにかく君が決めたことだ。契約は成立、君の祈りは遂げられる。それじゃあ、行くよ」

キュゥべえがさやかの胸からソウルジェムを取り出した


145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:33:46.00 Bk581gjE0
――――
―恭介の病室
杏子がたいやきを食べながら部屋に入った

杏子「…よう、変態」

恭介「!」

杏子「言い訳は考えておいたか?」

恭介「え…?」

杏子「ったく、いつまでもダンマリ決め込んでんじゃねーぞ。人のファーストキス奪っといてさ」

恭介「……」

杏子「忘れてほしいってんならそうしてやるよ。別に恨んじゃいないしね」

恭介「…杏子…」

杏子「ん?」

恭介「…もう会えないかと思った」

杏子「まだ水に流した訳じゃない。今日はあんたの考えを聞きに来たんだ」

恭介「……。そうだね…しっかり言おう」

杏子は椅子に腰掛けて脚を組んだ

146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:34:02.20 Bk581gjE0
恭介「杏子は、突然現れて僕を励ましてくれた。毎日色んな話を聞かせてくれて…
   …杏子に会ってから、不思議なことも起こったりして…」

たいやきを食べ終えて片膝を抱える

恭介「君の父さんの話、すごく興味深かった…。あれから少し、僕の考え方も変わった気がする…
   孤児だって聞いた時は驚いた…全然そんな風に見えなかったし、
   自分の家族にあんなことがあったっていうのに、平然としてて…」

杏子「……」

恭介「初めは、『よっぽど図太いんだな』としか思わなかった…
   それに比べて、僕はなんて不幸なんだって…。君が羨ましかった

   だけど、杏子は明るさの陰にものすごく重いものを背負ってるんだって気付かされて…
   …何とかしてあげたかった…。でも、何もない僕にはどうすることもできなくて…」


147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:34:18.39 Bk581gjE0
杏子「……」

恭介「…それで、…杏子のことを考えてるうちに、いつの間にか好きになってた…」

杏子「…ふーん」

恭介「…本当にごめんね、昨日は…。杏子の気持ちを確かめもしないで…」

杏子「……。ま、いいよ。遊び半分じゃなかったってことは充分伝わった」

恭介「ありがとう…」

杏子「ほら、手貸しな」

恭介の左手を掴む

杏子「あたしはね。ちょっと事情があって、あんたを立ち直らせたかっただけなんだ」

恭介「……」

杏子「まぁ、さやかの為って言えばいいのかな
   実はあいつが腐ってると、色々と迷惑なんだよね」

恭介「…ねぇ、杏子」

杏子「何だい?」

148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:36:35.11 Bk581gjE0
恭介「…君は、一体…」

杏子「ん?」

恭介が左手で握り返した

杏子「なっ…!?」

恭介「…見て」

杏子(動いてる…!)

恭介が笑った

恭介「動くようになったんだよ」

杏子(まさか、さやかの奴…)

恭介「本当に治るなんてね。ほとんど諦めてたのに…」

杏子「……」

恭介「また奇跡が起こった…きっと杏子のおかげだよね」

杏子「ち、違う…」

恭介「あはは、違わないよ。見て、こんなに自由に動かせるよ
   昨日まで自分の手じゃないみたいだったのに…」

149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:37:58.69 Bk581gjE0
杏子「……」

恭介「ありがとう」

杏子「だからこれは…」

恭介は笑いながら涙を浮かべた

恭介「ありがとう…」

杏子(こいつ…)

杏子「…まぁ、とにかくよかったんじゃない…? これであんたも晴れて自由の身だ」

恭介「またバイオリンが弾けるんだ…。もう夢の中でしか弾けないと思ってたのに…」

杏子「ったくもう…あんたにはついて行けねーよ」

杏子も笑った

恭介「あはは。…使ってたバイオリン、捨てちゃったな…」

杏子「…?」

恭介「父さんに頼んで処分してもらったんだ。持ってても辛いだけだと思って…
   少しだけ後悔はしてたけどね。もう仕方ない」


150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:38:40.02 J0kh3K1S0
さやさや……

151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:39:04.61 Bk581gjE0
杏子「……」

恭介「…杏子」

杏子「ん?」

恭介「また新しいバイオリンが手に入ったら、一緒に遊ばない?」

杏子「あたしはバイオリンなんか弾けねーよ」

恭介「違う違う、ちょっと聴かせたい曲があってさ
   その時、一緒にピアノを弾いてくれたら嬉しいんだけど」

杏子「おい…」

恭介「きっと喜んでくれると思う」

杏子「…まぁ、別にいいけど。どんな曲だ?」

恭介「それは秘密だよ」

杏子「あんたじゃないんだから1回聴いただけで再現しろって言われてもそんなことできねーぞ」

恭介「大丈夫だよ。杏子なら絶対弾けるから」

152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:39:04.36 9PbppUn00
うわああああああああああ

153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:39:24.39 fZYR1yp40
最悪のタイミングか

154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:39:40.05 Bk581gjE0
―夕方。病院の前
杏子が煉りようかんを食べている

さやか「…!」

杏子「よう」

さやか「…何よ。あたしを待ってたの?」

杏子「ちょっと確かめたいことがある」

さやか「……」

杏子「…あんた…キュゥべえと契約したか?」

さやか「!」

杏子「やっぱりな…。人の忠告を無視しやがって。あたしは何の為にここに来てたんだよ」

さやか「…恭介から聞いたよ。『手は治らない』って言ったんだってね
    本当はあんたの魔力で恭介の手を治すことなんてできない…
    あんたには、それがわかってたんでしょ…」

杏子「……」

さやか「騙してたのね…あたしのこと」

155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:40:17.10 Bk581gjE0
杏子「…治療はまだ途中だったんだ。確かに坊やには『あたしは治せない』って言ったけどね
   だってそう思わせといたほうが、無事に動くようになった時に坊やも喜ぶだろ?」

さやか「…本当言うとさ、もうあんたには恭介と会ってほしくないんだよね」

杏子「……」

さやか「…あんた、恭介に何したの?」

杏子「…!」

さやか「いかにも『口止めされてます』って顔してたよ、恭介。…あいつに何したのよ」

杏子「…あたしは何もしてねーよ」

さやか「…答えてよ。なんで恭介があんなに落ち込んでたのか。あんたなんでしょ」

杏子(馬鹿野郎…、被害者はこっちだぞ…)

杏子「だから何もしてねーっつーの。何が『口止め』だ、馬鹿」

さやか「…あっそ…。あんたには感謝してるよ。手を治そうとしてくれたのは事実だから
    だけどこれで恭介に用はなくなったでしょ…とにかくもうあいつに関わらないで」

杏子「…! なんであんたにそこまで指図されなきゃならないのさ?」

さやか「じゃあ聞くけど…あんたは恭介と会わなきゃいけない理由でもある訳?」


156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:40:24.45 LbblifAwO
リトバスとまどかのクロスはよ

157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:40:59.04 Bk581gjE0
杏子「はぁ? 『坊やと友達になるな』なんて一言も言われてねーぞ」

さやか「ふーん…『友達』ねぇ」

杏子「何だよ。悪いか?」

さやか「…別にいいよ。変なことさえしなければね」

杏子「いつまで人を疑ってんのさ? 落ち込む理由なんて他にいくらでもあるだろうが」

さやか「……」

さやかは下を向いて考え込んだ

杏子「……」

さやか「…ごめん。それもそうだね…。ちょっと神経質になってたよ…」

杏子「ったく…」

杏子がポケットからうんまい棒を出した

杏子「…食いな」

さやか「…ありがと」

158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:41:22.05 Bk581gjE0
――――
―翌日。病院
杏子が屋上に上がった

恭介が車椅子に座ってバイオリンを弾いている

杏子(『捨てた』って言ってなかったか…?)

足音を立てないように近付く杏子

杏子(…完全にプロじゃんか…)

杏子「……」

杏子は柵にもたれて聴き入った

―曲が終わる

恭介「……」

杏子「よう」

恭介「あ…杏子」

杏子「上手いじゃん」

恭介「ありがとう。だいぶ鈍っちゃったけどね」

159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:42:44.56 J0kh3K1S0
さやさや……

160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:42:49.20 Bk581gjE0
杏子「そのバイオリン、どうしたんだ? 親に新しく買ってもらったのかい?」

恭介「これは…。実はさ、父さんが捨てずに取っておいてくれたらしいんだ
   昨日さやかやみんなが集まって、手が動くようになったこと、お祝いしてくれて…」

杏子「ふーん」

恭介「順調に行けば明後日には退院できることになったんだ
   それでもしばらくは精密検査に来ないといけないんだけど…」

杏子が笑った

杏子「何ていうか…あっけなかったね」

恭介「…杏子にはどんなに感謝しても足りないよ」

杏子「何言ってんのさ。あたしは結局顔見てただけだ」

恭介「…本当は、それで充分だったんだと思う…
   思い返すと短い間だったけど、杏子は本当に心の支えになってくれてた
   もし手が治らなかったとしても、杏子がいてくれたから…いつかは立ち直れたと思う…」


161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:43:16.19 Bk581gjE0
杏子「……。間違ってもさやかにそんなこと言うなよ」

恭介「え…? どうして…?」

杏子「…あんたは手が治ったことを素直に喜べばいい
   『治らなくてもよかった』なんてつまらないことは口にするべきじゃない
   あいつ、あんたのことが心配で夜も眠れないくらいだったんだぞ」

恭介「…そうなんだ…。さやかにも、沢山ひどいことしちゃったな…」

杏子「ま、やっちまったことをいつまでも引きずってたってしょうがない
   暗くなるようなことは早いとこ忘れちゃいなよ」

恭介「……」

恭介は寂しそうに笑った

恭介「そうだね」

杏子「……。まだあの時のこと気にしてんのか?」

恭介「! …ううん…」

162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:43:38.07 QEJxuoUx0
まさに人魚姫だな……さやさや

163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:45:16.49 Bk581gjE0
杏子「あたしのことそんなに好きか?」

下を向く恭介

杏子(…惨めな思いさせたまんまだったな…)

杏子「…例の曲、聴きたいんだけど」

恭介「え?」

杏子「あたしに聴かせたい曲があるって言ってなかったか?」

恭介「…ああ」

杏子「ちゃんと聴いててやるからさ。弾いてみなよ」

恭介「……。いいよ」

恭介がバイオリンを構えた


164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:45:40.26 Bk581gjE0
恭介「これ、本当はバイオリンの曲じゃないんだ。ピアノと合わせる為に、僕が考えたんだけど…」

杏子「『考えた』?」

恭介「明日にでも、一緒に弾こう?」

杏子「……」

恭介が演奏を始めた

杏子「なっ…!」

杏子が教えた曲らしい

杏子「…これってまさか…」

杏子(あの歌にはバイオリンパートなんてないのに…自分で作っちまったのか?)

恭介「……」

杏子「あんたは作曲もできるのかい?」

恭介はバイオリンを弾きながら笑いかけた

杏子(バイオリンやる為に生まれて来たような奴なんだな…)


165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:46:27.28 J0kh3K1S0
かみかみ

166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:47:55.93 Bk581gjE0
――――
―夜
4人が魔獣退治を終えた

マミ「―昨日より、1歩前進したんじゃないかしら」

さやか「そ、そうかな…。いやー、そんなに褒められると照れますなぁ」

杏子「このくらいで浮かれてんじゃねーぞ、新入り
   あんたの受け取ったサイコロは、半分以上あたしらが出してやったようなもんなんだぞ」

さやか「わ、わかってるわよ…」

マミ「仕方ないわよ。美樹さんはまだキュゥべえと契約したばかりだもの
   もう少し慣れて来れば、きっと貴重な戦力になると思うから、初めは大目に見ましょう?」

杏子「ったく、これだから反対だったんだよ…
   今日だって何度こいつのせいで余計な手間使ったか」

さやか「ご、ごめんって…近いうち、ご飯でもおごるからさ
    って言っても、恭介が退院した後になっちゃうけど…
    お祝い買う為に、お小遣い貯めなきゃいけないし」


167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:50:14.53 Bk581gjE0
――――
―夜
4人が魔獣退治を終えた

マミ「―昨日より、1歩前進したんじゃないかしら」

さやか「そ、そうかな…。いやー、そんなに褒められると照れますなぁ」

杏子「このくらいで浮かれてんじゃねーぞ、新入り
   あんたの受け取ったサイコロは、半分以上あたしらが出してやったようなもんなんだぞ」

さやか「わ、わかってるわよ…」

マミ「仕方ないわよ。美樹さんはまだキュゥべえと契約したばかりだもの
   もう少し慣れて来れば、きっと貴重な戦力になると思うから、初めは大目に見ましょう?」

杏子「ったく、これだから反対だったんだよ…
   今日だって何度こいつのせいで余計な手間使ったか」

さやか「ご、ごめんって…近いうち、ご飯でもおごるからさ
    って言っても、恭介が退院した後になっちゃうけど…
    お祝い買う為に、お小遣い貯めなきゃいけないし」


168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:50:40.46 Bk581gjE0
――――
―夜
4人が魔獣退治を終えた

マミ「―昨日より、1歩前進したんじゃないかしら」

さやか「そ、そうかな…。いやー、そんなに褒められると照れますなぁ」

杏子「このくらいで浮かれてんじゃねーぞ、新入り
   あんたの受け取ったサイコロは、半分以上あたしらが出してやったようなもんなんだぞ」

さやか「わ、わかってるわよ…」

マミ「仕方ないわよ。美樹さんはまだキュゥべえと契約したばかりだもの
   もう少し慣れて来れば、きっと貴重な戦力になると思うから、初めは大目に見ましょう?」

杏子「ったく、これだから反対だったんだよ…
   今日だって何度こいつのせいで余計な手間使ったか」

さやか「ご、ごめんって…近いうち、ご飯でもおごるからさ
    って言っても、恭介が退院した後になっちゃうけど…
    お祝い買う為に、お小遣い貯めなきゃいけないし」

169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:51:06.27 fZYR1yp40
なんか変なエラー起きてる?

170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:51:25.85 Bk581gjE0
杏子「ん? あとたった2日で一体どうするつもりだ?」

さやか「ええ…? 何よ、2日って…」

杏子「坊やと会ってないのか?」

さやか「恭介…、つい昨日『退院はまだ先だ』って言ってたけど…」

杏子(こいつよりあたしのほうが見舞いに行くようになっちまったな…)

杏子「じゃあ、急に予定が変わっちゃったのかもな」

さやか「…嘘じゃないわよね?」

杏子「はぁ? そんな嘘ついてあたしに何の得があるってのさ?」

さやか「うぅ…」

杏子「そんなにあたしが信用できないってんなら、明日にでも坊やに聞いてみな」

さやか「…そうするわ」


171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:52:34.17 Bk581gjE0
杏子「本っ当にもう…ちっとは後輩らしくしろっつーの」

マミ「まあまあ。せっかく仲間になったんだし、2人とも仲良くね」

さやか「はーい…」

杏子「あたしが何したってんだよ、ったく…
   じゃ、あたしはそっちのホテルに泊まるから、ここらで失礼するよ」

マミ「そう。わかったわ」

杏子「じゃあなー」

ほむら「ええ」

さやか「……」

杏子が去っていく

マミ「―そう落ち込まないで、美樹さん」

さやか「え?」

マミ「佐倉さんも悪気はないのよ。『足手まとい』なんて言ってるけど、
   本当はあなたのことが心配で仕方ないだけなのよ」

さやか「あたしは別に、落ち込んでなんか…」

172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:52:35.03 VZqtPcda0
一瞬落ちたかな?

173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:53:10.28 Bk581gjE0
マミ「そう? それならいいんだけど。困ったことがあったらいつでも言ってね
   魔法少女にとって、心のケアはとても大切なことなの
   どんな些細なことでも相談に乗るから、遠慮しちゃ駄目だよ」

さやか「うん…。あたしは今の所平気だよ。もう契約しちゃったんだし、
    あたし自身が後悔しない為にも、早く一人前になってみせるよ」

マミが笑った

さやか(あの子、また恭介と会ってたんだ…。杏子の学校って病院から近いのかな…
    なんかずるいな…。それにしても明後日退院だなんて…)

ほむら「……?」

さやか(そうだ…。明日、学校午前中だけだし、タイミング逃さないうちに何か渡しとこ
    恭介は午前で終わりだってきっと知らないから、いきなり行って驚かせてみようかな…
    そしたら夕方まで時間あるし、恭介とゆっくり話せるよね)


174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:54:55.72 Bk581gjE0
――――
―2030年 見滝原 ほむらのアトリエ

ほむらがマミと映像通話をしている

ほむら「―今のところ、コーデリア・ガーデンは日本に2軒あるだけ
    中でも対象を魔法少女のみに絞れば、運営はそう難しくないはず
    と言っても、実際にやるのはあなただけれど」

マミ「頭が痛いわね……」

ほむら「……」

ほむらはカメラを巨大なキャンバスに向けた

組織図の上に『Walpurgis kNights』と書かれている

ほむら「規模が大きくなっても根底的な発想は変わらないわ
    ただ、カバー範囲を世界レベルにまで発展させなければならない場合も考えられるけれど」

マミ「……」

175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:56:02.74 Bk581gjE0
ほむら「主な構想はこの通りよ。第1段階、日本各地の魔法少女を
    1つの組織として統一するネットワークの確立

    第2段階、魔獣の活動が活発化する地点の統計と予測
    それも可能な限りリアルタイムで正確な情報共有を目指すもの」

マミ「……」

ほむら「同時に、魔法少女1人1人の戦闘能力やソウルジェムの状態を把握した上で、
    少人数のゲリラ部隊を編成する

    これらを魔獣の動向に合わせて派遣して、瘴気が薄い地区は比較的弱いチーム、
    瘴気が濃い地区は強いチームで制圧する、という具合にキューブを集めていく」

マミ「『最小の労力で最大の功績を』…ね」


176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 21:56:22.80 Bk581gjE0
ほむら「ええ…。魔獣退治を戦争として捉え、ビジネス化する理論よ」

マミ「……」

ほむら「現場の指揮者はコーデリア出身の魔法少女が担当する
    そして、…リーダーには報酬が多く行き渡る制度を組み込む」

マミ「難しい問題ね…」

ほむら「でも、魔獣を抑え込める戦力を維持する為には、どうしてもやらなければならないわ」

マミ「……」

ほむら「コーデリア出身者は最終的に、ヘレン・ケラーやアン・サリバンのように戦線を引退する
    その後は私達に代わって司令部の内勤ということになるでしょうね」


177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:00:15.53 Bk581gjE0
――――
―2011年 ホテル一室

杏子がキーボードを練習している

杏子(あいつって何でも弾けそうだよな…)

新しく買った楽譜を開きながら

杏子(こういう曲も、自分でバイオリン用に作れるのかな…
   …もうちょっと難しい曲でもやらせてみたい気もするな…)

何度も弾き間違える杏子

ため息が漏れる

杏子(ちょっとハードル上げただけなのに全然追い付かねーよ
   いっそのことあいつにでも習ってみようかな…)

テレビをつける

映画のラブシーンが映った

杏子(…あいつがバイオリン弾けるようになったのは、さやかのおかげなんだよな…
   こんなこと、さやかが知ったら何て言うかね…)

恭介にキスされたことを思い出す

178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:01:25.62 Bk581gjE0
(マミ『キスは言葉を超えた最高の愛情表現よ』)

杏子(…あたしのこと、キスしたくなるほど好きなのか…?)

目を泳がす杏子

杏子(そりゃ嬉しいけどさ…。んな簡単にしていいもんじゃないだろ…)

横になってテレビを見つめる

無意識に観察した

俳優と女優が重なってキスしながら手を繋いでいる

杏子(…こういうことされたら、どんな気分だろうな…。あいつこういうの好きそうだし…)

恭介の落ち込んだ姿がよぎった

杏子(…悪いことしちゃったな…。『好きだ』って教えてくれてるのに、唾かけたりして…)

女優の動きを見つめる杏子

杏子(…ま、お詫びも兼ねて応えてやるとするか。明日ならまだ忙しくねーだろうし、
   昼に行けばさやかの奴と鉢合わせちまうなんてこともないだろ
   さやかにはちょっと悪いが、ほったらかしにしとくのも何だしね)


179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:01:50.21 Bk581gjE0
――――
―翌日。恭介の病室

恭介「―先生にも、どうして急に手が動くようになったのか、理由は全くわからないんだって」

杏子「ふーん」

恭介「…もしかしたら、気持ちの問題なのかもしれないね
   杏子と出会ってから、いいことばっかりだったから…」

杏子「そうか?」

恭介「うん…」

杏子「…嫌なこともあったんじゃない?」

恭介「…! それは…自業自得だから…」

杏子「あはは、よっぽど効いちゃったみたいだね。あの時は悪かったよ」

恭介「その話はやめようよ…思い出すと、杏子の顔見るのも辛いから…」

杏子「……。それなんだけどね。あれから知り合いに相談したり、
   ああだこうだって色々考えたりしてさ…」

恭介「…?」

180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:04:33.43 9PbppUn00
かあみいじょおおおお

181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:04:46.48 Bk581gjE0
杏子「『まぁ、いっか』って思えるようになったんだよ。そりゃ初めはムカついたけどね
   こっちが善意でリハビリ手伝ってやってたら、いきなりキスなんかしやがってさ」

恭介「……」

杏子「…でもね、誰かに好かれるってのは悪いもんじゃない
   あんたには惨めな思いさせちゃったよね。何もあんなことしなくたってよかったのに」

恭介「いや…怒って当然だよ…。あれが初めてだったんだし…」

杏子が呼吸を整えた

杏子「なんつーかさ…。あたしのこと、嫌な思い出にされるのも気に食わないんだよね」

恭介「…?」

杏子「お詫びじゃないけど、あんたに渡したいものがある」

恭介「何だい…?」

杏子はブーツを脱いだ

恭介「え…?」

杏子「『迷惑だ』ってんなら受け取らなくてもいい」

素足でベッドに上がって恭介の膝に跨った


182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:05:36.84 Bk581gjE0
恭介「……!」

恭介の肩を掴む杏子

杏子「してやるよ。キス」

恭介「…いいの…?」

杏子「うん」

恭介「……」

杏子「あたしはね、要するに嬉しかったんだよ。あんたに『好き』って思われて」

恭介「嫌がってたじゃないか…」

杏子「あの時は、ただあたしが女だからってだけで
   おふざけで手を出したんじゃないかって勘繰っちまったんだ」

恭介「……」

杏子「くだらない下心でやったんじゃないって誓ってくれる?」

恭介「…うん。誓うよ」

杏子が笑った

183:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:06:25.64 Bk581gjE0
恭介「…何だか、恥ずかしいな…」

杏子「ったくもう…それはこっちのセリフだっつーの」

恭介が杏子の体を見た

恭介「…椅子に座ったままでも充分なんだけど…」

杏子「退院のお祝いだ。映画の真似だけどね」

恭介「あはは。洋画を見てるとよくあるよね、こういうシーン」

2人は目を合わせた

杏子「いいもんじゃない? なんか、こういうの」

恭介「…うん。すごくドキドキする」

恭介が杏子の腰に手を当てた

杏子「準備はいいかい?」

恭介「ああ」

杏子「それじゃ、目閉じな」

目を閉じる恭介

184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:07:07.12 Bk581gjE0
杏子「……」

杏子が唇を濡らして顔を近付けた

―ガラッ

さやかが満面の笑顔で駆け込んで来た

さやか「恭介、退院おめ―」

杏子「!!」

さやか「!?」

腕から小さな花束を落として逃げ出す

杏子(さやか…!? まだ学校じゃねーのかよ…!!)



185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:08:01.44 fZYR1yp40
頭痛くなってきた

186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:08:57.32 Bk581gjE0
―廊下

さやかは慌ててドアを閉めると、震える両手で口を塞いだ

さやか(何…? 何…!?)

過呼吸に陥り、ドアにもたれてへたり込む

さやか(何、今の…? 何やってるの…!?)

体が震える。涙が滲んだ

さやか(何それ…? なんで…!? 何なの…!?)

看護師が通りかかった

ナース「あなた、どうしたの? 具合悪いの?」


187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:09:20.47 J0kh3K1S0
さやさや……

188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
11/12/31 22:10:28.59 Bk581gjE0
さやか「…ひっ…、ひっ……」

ナース「大変…すごい震えてるわよ。先生に診てもらわないと」

さやかは口を押さえたまま首を振った

ナース「とりあえず、今はここで横になってていいから。すぐに先生呼んで来るわね」

鞄を落としてふらふらと立ち上がる

ナース「歩けるの? 無理しないで」

さやかが声にならない声で泣きながら去っていく

ナース「ちょ、ちょっと…」


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