12/06/21 23:10:26.96 0EiLxKRI
「い、いつから?」
「わかりません。気がついたら好きになっていました」
いつもひたむきでまっすぐなスバル。その明るさが太陽のように、太裳を惹きつけた。
「よければ今度、でえと、とやらをしていただけませんか?」
「ええと……わ、私でよければ」
「いちゃついてんじゃねぇ!」
ノーヴェの蹴りが太裳の結界を破壊する。続けて放たれた上段蹴りが太裳を壁に叩きつける。
「いいぜ。そんなに好きなら、まとめて殺してやる。あの世でデートしやがれ!」
スバルがはね起き、ノーヴェの蹴りを蹴りで相殺する。しかし、その一撃で左足のローラーブーツは完全に使い物にならなくなった。ウイングロードも展開不能だ。
「速さを失ったお前に勝ち目はねぇ!」
ノーヴェがエアライナーを走り、上空に駆け上がる。制空権はノーヴェが支配している。
「とどめだ!」
ノーヴェが高速でエアライナーを下ってくる。スバルには打つ手がない。
「スバルさん」
太裳が痛む体を引きずって、スバルの隣に並ぶ。視線だけで互いの意思を伝える。
スバルのリボルバーナックルが回転し、カートリッジをロードする。魔力を右腕に集中させ、ノーヴェめがけて跳ぶ。
ノーヴァはエアライナーの軌道を変え、スバルの真横を狙う。
その時、太裳が結界を張った。スバルの足元に。
「一撃必倒」
太裳の結界を踏み台に、スバルの体がノーヴェに向けて矢のように放たれる。
「しま……」
意表を突かれたノーヴェは反応が遅れる。
「ディバインバスター!」
空色の拳がノーヴェに炸裂した。
ノーヴェを倒し、着地したスバルがふらつく。まだダメージが回復しきっていないらしい。太裳が横から体を支える。
スバルは太裳から顔をなるべく離した。突然告白されて、どんな顔を向ければいいか、わからなかった。
「……だから、いちゃついてんじゃねぇ。私はまだ負けてねぇぞ」
かすれた声を絞り出しながら、ノーヴェが立ち上がる。直撃を受けた両腕は力なく垂れ下がり、膝も笑っている。強がりなのは明白だ。
「あなたの負けです」
「負けてねぇ! 私らは負けられねぇんだ!」
ノーヴェが血を吐くように叫ぶ。
「私は戦闘機人だ。勝たなきゃ、勝ち続けなきゃ、意味がねぇ。それ以外の生き方なんて、出来ねぇんだ!」
叫び続けるノーヴェの姿が、スバルに幼い頃に巻き込まれた空港火災を思い出させた。
あの日、スバルは迷子になり、一人ぼっちで泣いていた。その姿がノーヴェに重なる。
(そっか。あの子も私と同じ迷子なんだ)
どっちに行けばいいかわからず、寂しくて苦しくて、泣くことしかできなかった。
あの時、スバルを助けてくれたのは、なのはだった。あんな人になりたくて、スバルはこれまで頑張ってきた。
今度は自分の番だ。
「大丈夫だよ。きっとやり直せる。新しい道が見つかる」
スバルは一歩踏み出す。
「気休め言うな!」
「気休めじゃない。私だって見つけられた」
「私とお前は違う!」
スバルが近づくたびに、ノーヴェは叫びを上げる。
「うん。違う。だって、あんた、私より強いじゃん。だから、きっと大丈夫だよ」
スバルと、ノーヴェには決定的な違いがある。
誰かが道を示してくれるまで、スバルは諦めて泣くことしかできなかった。だが、ノーヴェは己の力で道を切り開こうとあがいている。
135:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/21 23:12:17.86 0EiLxKRI
「あんたの強さがあれば、きっと大丈夫。辛い時、苦しい時には、私も手伝うから。だから、一緒に行こう。ね?」
スバルが優しくノーヴェを抱きしめる。ノーヴェは抵抗しなかった。
「……う、うぁああああああああ!」
堰を切ったようにノーヴェが泣き出した。
「うん。もう大丈夫」
(なのはさん。私、あの日の、なのはさんに少しは近づけたかな?)
夢が少しだけ近づいた実感を、スバルは初めて得ていた。
「スバルさん!」
緊迫した太裳の声。太裳の結界が、光弾を防ぐ。
「何!?」
通路に突然、ガジェットが出現する。カマキリのような姿をした新型だ。光学迷彩で隠れていたらしく、通路はすでに埋め尽くされていた。
「おい、お前ら、退け!」
ノーヴェの指示に、新型ガジェットは反応を示さない。
「くそ。識別機能が壊れたか」
ナンバーズは、ガジェットに攻撃されないよう敵味方識別機能がついているのだが、スバルの振動破砕で丸ごと機能停止していた。
「やるしかないってことか」
スバルが苦しげにうめく。戦えるのはスバルだけだ。ウイングロードもローラーブーツもなしで、どこまでいけるか。
「これを使え」
スバルは飛んできた物体を空中でキャッチする。それはノーヴェの左のローラーブーツ、ジェットエッジだった。
「強度はお前のより上だ。多少の無茶には耐えられる」
「あはは。助けるどころか、先に助けられちゃった。あんたって本当に強いね」
さっきまで号泣していたくせに、もう勝気な表情が戻ってきている。
「うん。ありがたく使わせてもらう」
リボルバーナックルは、助けてくれた母の形見だった。左のリボルバーナックルは姉ギンガからの借り物だ。なのはや六課のみんなが作ってくれたマッハキャリバーに、今はノーヴェのジェットエッジ。
みんなに支えられて、スバルは今ここにいる。
「太裳さん。ノーヴェをお願い!」
「任せてください!」
太裳がノーヴェを抱き上げる。
「でも、変な所触ったら、後で殺しますから!」
「ええええ!?」
太裳の情けない悲鳴を背に、スバルは走り出した。負ける気はしなかった。
136:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/21 23:13:30.60 0EiLxKRI
以上で投下終了です。
それではまた。
137:一尉
12/06/26 22:44:55.21 9M1RCmLM
支援
138:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 21:08:36.77 lbH7vOLP
本日22時半より、リリカル陰陽師StrikerS第十二話投下します。
139:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:34:03.75 lbH7vOLP
それでは時間になりましたので、投下開始します。
第十二話 光と闇を司れ
聖王の揺りかご内部では、スカリエッティが通信画面越しに、ウーノからの報告を受け取っていた。
『私以外のナンバーズはすべて捕縛されたようです』
「そうか……死者は出ていないのだな?」
『はい。その点は、敵に感謝しないといけませんね』
「そうだな。奪われた物は取り返せばいい」
スカリエッティは気だるげに告げる。目も焦点が合わず、どこかぼんやりとしている。
『どうやら、私もそろそろのようです』
断続的な破壊音と振動が、ウーノの画面を揺らす。敵が近づいてきていた。ウーノのISフローレス・セクレタリーは隠蔽と知能加速能力のみで、戦闘能力を持たない。誰が突入してきても、勝ち目はない。
『ドクター。また髪が伸びてきましたね』
ウーノはスカリエッティを見て言った。
言われるまで気がつかなったが、前髪が目にかかっている。
「本当だ。また君に切ってもらわないといけないね」
『わかりました。では、この戦いが終わりましたら……』
「ああ、お願いするよ、ウーノ……今までご苦労だった」
『ドクター。あなたの勝利をお祈りしております』
ウーノの手が画面に置かれる。スカリエッティはその手に自らの手を重ねた。
衝撃と煙が画面を覆い尽くし、通信は途絶した。
「こちらもそろそろか。切り札を使う時が来たようだな」
スカリエッティはまだ自らの勝利を疑っていなかった。
戦闘開始から二時間半が経過し、ついに太陰と白虎が力尽き戦場から離脱する。
敵は空を先に制圧することにしたらしく、攻撃の手が空に集中する。
六合も勾陣も朱雀も遠距離攻撃を持っていないので、空で戦う連中の負担が激増していた。
ルーテシアのインゼクトたちが、ガジェットを乗っ取り、こちらの手勢にしているが、焼け石に水だ。
白炎の龍で空を焼き払いながら、紅蓮は舌打ちした。
「くそ、俺も空を飛べれば」
地上からの援護では限界がある。
「泣き言を言うな、騰蛇!」
剛砕破でガジェットを撃ち落としながら、青龍が怒鳴る。
「黙れ、青龍! こんな時まで突っかかってくるな!」
「二人とも、そこまでだ。余計な体力を消耗するな」
勾陣が苛立ちを露わに注意する。勾陣は腹に包帯を巻いただけで、戦線に復帰していた。
紅蓮と青龍は十二神将の中で、もっとも仲が悪い。距離を取ろうと、紅蓮はきびすを返した。
その時、小さな影を弾き飛ばしそうになった。
「お前か」
直立不動の姿勢を取ったアギトだった。やけに真剣な顔をしている。
「どうした?」
「師匠と呼ばせて下さい!」
アギトが直角に腰を折る。
「はっ?」
突然の申し出に、紅蓮は呆気に取られる。
「師匠の炎を見ていて感動したんです。苛烈にして繊細、大胆にして優美。それに比べたら、私の炎なんて…………へっ、ただの花火さ」
アギトは手に灯した炎を寂しげに見つめる。
「それは俺を主に選ぶということか?」
「いえ、主じゃありません。師匠です」
違いが紅蓮にはわからないが、アギトの中では明確な区分があるらしい。
「悪いが、俺は弟子は取らん。そもそも俺の力は生まれつきで、何も教えてやれん」
「それでいいです。盗ませてもらいます」
「お前は俺が怖くないのか?」
140:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:35:18.82 lbH7vOLP
紅蓮は全ての魔力を開放している。怖くないわけはないのだが。
よく見ると、アギトは小刻みに震えていた。
「もちろん怖いです。でも、それ以上に師匠を尊敬してるんです。お願いします。私を弟子にして下さい!」
「ああもう、勝手にしろ!」
「はい、わっかりました。ユニゾン・イン!」
アギトが勝手に紅蓮とユニゾンする。紅蓮の髪が金色に変化し、四枚の炎の翼が背中から生える。
翼が羽ばたき、紅蓮の体が宙に浮く。
「これは……」
『私と師匠の力が合わされば、空を飛ぶくらい、どってことないですよ』
頭の中から他人の声が聞こえてくるので、とても気持ち悪い。だが、贅沢は言っていられない。
「行くぞ、アギト!」
『はい、師匠!』
紅蓮が炎の龍を召喚する。黄金の炎龍は先ほどの倍以上の大きさだった。増援のガジェットが一瞬にして灰塵となる。
「すごい威力やな」
広域殲滅魔法が得意なはやても呆れる威力だった。
炎の龍を次々と召喚し、敵を焼き尽くす。形勢が徐々に好転していく。
『師匠、武器持ってないですか?』
「武器だと? これでいいか」
紅蓮が真紅の槍を召喚する。
『うーん。出来れば剣がいいんですが』
「ええい、注文の多い奴だ!」
黙っていろと一蹴したいが、ユニゾンも飛行も経験したことのない紅蓮は、アギトに従うしかない。これではどっちが師匠かわからない。
真紅の槍がほどけ、長く鋭い両手剣に再構成される。紅蓮の武器は魔力によって形作られているので、意思一つで好きな形に変化するのだ。
『師匠、最高です!』
炎をまとった剣を紅蓮は構える。
『技名はどうしますか?』
「知らん。お前が勝手に考えろ」
『わかりました! では、即興で、業竜一閃!!』
炎の斬撃が聖王の揺りかごの外壁を一文字に切り裂く。
聖王の揺りかごにしてみれば些細な傷だが、紅蓮は確かな手応えを感じていた。
「フェイト、はやて、ここは俺たちに任せて昌浩たちの援護に行ってくれ。どうにも時間がかかり過ぎている」
「でも……」
「行こう、フェイトちゃん。私らがいたら、騰蛇の邪魔になる」
初めてのユニゾンで、紅蓮もアギトも制御が上手く出来ていない。近くにいたら巻き込まれる危険性が高い。
はやてとフェイトは揺りかご内部へと突入した。
その頃、ヴィータと昌浩は揺りかごの駆動炉に到達していた。
駆動炉は巨大な四角錐を上下にくっつけた形をしている。その前に、白衣を着た男が簡素な椅子にもたれて座っていた。
「スカリエッティ。お前の野望もここまでだ」
「それはどうかな?」
スカリエッティの右手には、デバイスらしき鉤爪のついたグローブがはめられ、左の二の腕と、右足を黒い装甲に覆われている。バリアジャケットのようだが、それにしては覆っている部分が偏り過ぎている。
スカリエッティが右手を上げると、立方体型の迎撃装置が多数出現する。
「昌浩、思いっきりやれ!」
「万魔挟服!」
衝撃波が部屋の中を荒れ狂う。迎撃装置がすべて爆発する。
そんな中、スカリエッティは涼しい顔で衝撃波を浴びていた。
「馬鹿な!」
「面白い術だね。だが、もう学習した」
黒い甲冑が生物のようにうごめき、スカリエッティの体を侵食する。
141:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:36:05.85 lbH7vOLP
「気持ち悪りぃんだよ!」
ヴィータが鉄球を打ち出す。スカリエッティはそれも体で受け止める。
攻撃を受けるたびに、黒い装甲が増殖し、スカリエッティを覆っていく。
「ああ、ようやく馴染んできた」
やがて歪な装甲が、スカリエッティの全身を包み込んだ。
「攻撃が効いてないのか?」
「ヴィータ」
昌浩がヴィータの肩をつかむ。直感が全力で警鐘を鳴らしていた。理屈ではなく、直感が真実を指し示す。
スカリエッティは体の上に、薄い虹色の光の膜をまとっていた。
「あれが……あいつが聖王の器だ」
玉座の間に辿り着いたなのはは、ウーノと対峙する。ウーノは抵抗せずあっさりと捕縛された。
「あなたが聖王の器じゃないの?」
「違います」
他に何も喋るつもりはないらしく、ウーノはそれきり黙ってしまった。
ここが聖王の揺りかごの中枢のはずだが、作り変えられているらしい。たいした設備が見当たらない。
新しい中枢を探すべく、なのはは通路を戻った。
「なのは!」
途中でフェイトと合流する。
「フェイトちゃん、外は?」
「騰蛇とアギトが頑張ってくれてる。怪我人は多いけど、誰も死んでない」
「そっか。よかった」
信じてはいたが、なのはは胸をなでおろした。これで心のつかえが一つ取れた。
「はやては、ティアナとスバルの救出に向かってる。昌浩君たちは?」
「まだ見てない。駆動炉に急ごう。凄く嫌な予感がする」
なのはとフェイトは頷き合うと、駆動炉へと向かう。
通路には無数のガジェットの残骸が散らばっていた。それらを乗り越え、なのはとフェイトが目的地に辿り着く。
「ヴィータちゃん!」
「昌浩君!」
なのはとフェイトが悲鳴を上げる。
そこには折り重なるように、血まみれの昌浩とヴィータが倒れていた。胸がかすかに上下しているので、かろうじて生きているらしい。
「ああ、ようやく来たかね?」
黒い全身鎧をまとった男が、くぐもった声を漏らす。
「スカリエッティ!」
フェイトが鋭く睨みつける。顔はマスクで見えないが、覗く眼光と声に覚えがある。
「陰陽師とは、つまらない人種だね。理屈もなしに答えに辿り着く。おかげで私が答えを言う暇がなかったじゃないか」
とっておきのなぞなぞを解かれて、拗ねている子どものようだった。
「まさか……あなたが?」
「そう、新たな聖王の器だ」
見鬼の才を持つものなら、スカリエッティの体を取り巻く光の膜が見えただろう。
人の想念を具現化する技術を用いて作った魔力の聖王の器。聖王の器の贋作だが、これをかぶったおかげで、聖王の揺りかごは、スカリエッティを聖王と誤認している。
本来なら、スカリエッティが逮捕されてもいいように、別の安全策を講じていたのだが、残念ながら間に合わなかった。野望実現のためには、スカリエッティ自らが無敵の聖王の器となるしかなかったのだ。
「贋作でも、性能は本物と変わらない。まあ、少しばかり見た目が悪くなってしまったがね」
「なら、あなたを倒せば終わりだね。エクセリオンバスター!」
なのはが抜き打ちで、魔力砲を放つ。スカリエッティは軽く体をよろめかせただけだった。
フェイトが踏み込み、ザンバーを振るう。手応えはあるのに、傷一つつかない。
「これが聖王の能力、聖王の鎧だ。あらゆる攻撃を学習し、無力化する。さあ、もっと私に学習させてくれ!」
142:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:38:20.72 lbH7vOLP
スカリエッティが愉悦に満ちた声で言う。
「何が聖王の鎧だ。どう見ても悪魔の甲冑じゃないか!」
「フェイトちゃん、リミットブレイク、行くよ!」
「わかった。魔力ダメージであの鎧を破壊する」
なのはがブラスターモードを、フェイトが真・ソニックフォームを開放する。
なのはの周囲に四基のブラスタービットが舞い、フェイトのバリアジャケットがレオタード状の物に変化する。
フェイトの姿がかき消える。トーレのライドインパルスを超える速度で飛行しているのだ。フェイトのデバイス、バルディッシュが二本の剣、ライオットザンバーに形を変える。
フェイトはあらゆる角度から、スカリエッティを切りつける。ライオットザンバーの斬撃に鎧の表面に亀裂が走る。
「なのは!」
フェイトが距離を取った。
ブラスタービットがスカリエッティを包囲し、魔力をチャージする。
「スターライトブレイカァァー!!」
まるで瀑布のように、全方位から魔力砲がスカリエッティに降り注いだ。
床が陥没し、スカリエッティの鎧が砕けていく。威力に耐えかねたかのように、スカリエッティが膝を折る。
「やった!」
なのはとフェイトは肩で息をしていた。ブラスターモードも真・ソニックフォームも高い威力と引き換えに、著しく体力を消耗する。その上で最大の必殺技を放ったのだ。これで倒せないわけがない。
「素晴らしい技だ。学習させてもらったよ」
「「!」」
スカリエッティがゆっくりと立ち上がる。破損していた鎧も、すぐに修復される。
「そんな、どうして!?」
あれだけの攻撃を受けたのだ。スカリエッティには、もう欠片も魔力は残っていないはずなのに。
「不思議かね。では、ヒントだ。私がどうして玉座の機能をここに移したと思う?」
「まさか……」
答えに思い至り、なのはとフェイトの顔が青ざめる。
「そう、私と駆動炉を直接つないだのだよ。私は今聖王の揺りかごすべての魔力を、この身に宿している。もはや誰にも倒すことはできない」
「そんなことをしたら……」
「ああ、一カ月と生きられないだろうね。だが。それだけ時間があれば十分だ。管理局を破壊し、私の記憶を持ったクローンを作り上げる。それを繰り返せば、私は死なない。誰にも邪魔されず、永遠に研究を続けられる!」
「狂ってる」
わかっていたが、フェイトは改めて口にせざるを得なかった。
「君たちは頑張った。だが、私の勝利は絶対に揺るがない」
「そんなことない。まだ手はある。ディバインバスター!」
なのはの魔力砲が駆動炉を狙う。駆動炉を破壊してしまえば、スカリエッティへの魔力供給も止まるはずだ。
駆動炉が展開した漆黒のバリアが、ディバインバスターを防ぐ。
「対策を立てていないとでも? 駆動炉ももちろん聖王の鎧によって守られている。さて、もう諦めたまえ」
「私たちは絶対に、諦めない!」
打開策が見つからない絶望的な戦い。なのはとフェイトは、それでもうつむくことなく、スカリエッティに挑んで行った。
爆音と叫びが、昌浩を覚醒させた。
なのはとフェイトがスカリエッティと戦っている。余裕で迎え撃つスカリエッティと違い、なのはとフェイトには焦燥と疲労が色濃く出ていた。
昌浩は自分の胸に手を当てた。深い裂傷があり、鮮血が手を真っ赤に染める。
(そっか。俺、負けたんだ)
昌浩とヴィータのあらゆる攻撃は無効化された。スカリエッティの放つ光弾が、結界を破砕し、昌浩とヴィータは倒された。
昌浩に覆いかぶさっているヴィータも、重傷を負っている。昌浩はヴィータをどうにか横に寝かせると、傷口に血止めの符を張っていく。シャマルの回復魔法には遠く及ばないが、止血と痛み止めくらいはできる。
143:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:39:17.64 lbH7vOLP
手当の途中で、ヴィータはうっすらと目を開けた。昌浩の手をつかんで止める。
「……昌浩、私はいいから、お前の手当てをしろ」
ヴィータは人間よりよほど頑丈に出来ている。手当てをするなら、昌浩が先だ。しかし、昌浩は首を横に振って、儚げに微笑む。
「できないよ。だって、俺、ヴィータに死んで欲しくないから」
「……馬鹿野郎」
ヴィータは泣きそうな顔で怒る。昌浩の笑顔は、先代の昌浩がヴィータをかばった時に浮かべたものと全く同じだった。
「あんなに説教したのに、お前、ちっとも反省してねぇじゃねぇか」
「ごめん。だから、帰ったら、また説教してよ」
「いいぜ。覚悟しておけよ」
ヴィータの手当てを終え、昌浩は自分の治療を始める。
その時、なのはたちの戦いに終止符が打たれようとしていた。スカリエッティが右手を動かすと、赤い光の線がなのはたちを拘束する。カートリッジはまだ残っているが、もう振り払う体力が残っていない。
「……スカリエッティ」
ゆっくりと昌浩が立ち上った。流れ出た血が赤い衣をどす黒く染めている。止血が完全ではないのか、歩くたびに血が滴る。
「昌浩君、動いちゃ駄目!」
「ゆっくり寝ていたまえ。君の体は人造魔導師素体として有効に活用してあげよう」
昌浩はふらふらと体を左右に揺らしながら、スカリエッティに近づいていく。
「スカリエッティ、今日初めてお前に感謝する」
「おや、出血で気でもふれたかね?」
「お前のおかげで、俺たちは勝てる!」
昌浩は額から流れる血を拭い去る。その目には、勝利を確信した輝きが灯っていた。
戦闘開始から、そろそろ三時間が経とうとしていた。
駆動炉の前で、昌浩とスカリエッティが睨みあう。
「ハッタリにしても笑えないな。満身創痍で、どうやってこの聖王の鎧を破壊する?」
「破壊する必要なんてない」
昌浩の歩いた軌跡が光り輝く。光は北斗七星を描いていた。素早く呪文を唱え、術を完成させる。
「急々如律令!」
光の柱が、スカリエッティを包み込んだ。
「ふん。どんな攻撃も無意味……何!?」
スカリエッティが驚愕する。
聖王の鎧が少しずつほどけ、消えていく。
「これは攻撃じゃない。浄化だ!」
人の心から生まれる邪念や、穢れを浄化するのも陰陽師の仕事だ。
スカリエッティの無限の欲望は、聖王の鎧を侵食し汚染した。それなら浄化し消滅させることができる。
他のナンバーズでは、こうはいかなかっただろう。残忍な性格の者もいたが、どれもスカリエッティが植え付けた紛い物でしかない。
マスクが消え、スカリエッティの顔が露出する。しかし、鎧が再生を始める。消えるそばから再生し、両者の勢いが完全に拮抗した。
(魔力が足りない)
昌浩の術が徐々に押し返され始める。
「なのは! フェイト!」
ヴィータが、ひび割れたグラーフアイゼンを掲げる。
「わかったよ、ヴィータちゃん!」
「これを使って!」
なのはとフェイトがそれぞれのデバイスを昌浩に投げ渡す。
左手にレイジングハート、右手にバルディッシュを受け取り、体の前で交差させる。
「カートリッジ、ロード!」
昌浩の指示で、装填されていたカートリッジがすべて吐き出される。膨大な魔力が昌浩に流れ込み、髪が突風に煽られたようになびく。
144:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:41:04.17 lbH7vOLP
体内を魔力が暴れ狂い、昌浩の口から血が溢れる。
(やばい、意識が……)
出血で視界が暗くなる。ふらついた昌浩を、後ろから誰かが優しく支えた。
「どうやら、間に合ったようやな」
夜天の書を携え、翼を羽ばたかせた、はやてだった。
「はやて姉ちゃんに任せとき。リイン!」
「はいです。祝福の風、リインフォースⅡ、行きますです。ユニゾン・イン!」
リインと昌浩がユニゾンする。全身に活力がみなぎり、昌浩の髪が白銀に、瞳が蒼く、体が光に包まれる。
黒き翼の堕天使に守られた、光り輝く少年。まさに光と闇を司る陰陽師の体現だった。
『魔力制御完了。いつでも行けます!』
「スカリエッティ。あんたは最高の科学者なんだろう」
昌浩が言った。
どんなものも突き詰めれば最高になる。スカリエッティは研究の為に、あらゆるものを傷つけ、他人の命すら平然と犠牲にした。それは最高の一つの姿だ。
「でも、俺は違う。俺が目指すのは、誰も傷つけない、誰も犠牲にしない、最高の陰陽師だ!」
この力は守るために、救うために使うと誓う。
「やめろ、やめろぉぉぉー!」
スカリエッティが断末魔の悲鳴を上げる。
「これで終わりだ、スカリエッティ! 急々如律令!!」
純白の光がスカリエッティを飲み込む。
光が晴れた先には、すべての力を浄化され、骨と皮だけになったスカリエッティが倒れていた。
聖王の揺りかごとガジェットの群れが停止する。
はやてから通信を受け取り、シャマルが晴明を振り返る。
「全員脱出完了。晴明さん、みんな無事です!」
「晴明、最後の仕上げだ」
「わかっているよ、天空」
晴明は両手を打ち鳴らした。
「謹んで勧請し奉る……急々如律令!」
神の力を借りて、晴明が術を放つ。
聖王の揺りかごとガジェットの残骸が、次元の彼方へと強制的に転送される。
後は次元航行艦隊が、破壊してくれるのを待つだけだ。機能停止した聖王の揺りかごなら、四分の一の艦隊でも容易く破壊できる。
「やれやれ、老体に無茶をさせる」
「私たち、勝ったのね」
シャマルが感極まって泣き出す。あれだけの死闘を潜り抜け、一人の死者も出していない。まさに奇跡だった。
「私たち、負けたっスね」
捕縛されたウェンディが、複雑な表情を浮かべる。ナンバーズたちは皆似たり寄ったりの表情だ。
「ま、はやてたちがいるんだ。それほど悪いようにはせんだろう」
いつの間にか戻ってきたもっくんが、頷きながら言った。
「あー」
もっくんを見るなり、ウェンディ、チンク、セッテ、セインが卒倒する。
「おいこら。人を見るなり気絶するとは、どういう了見だ。お前ら、あれは演技だと言ったろーが!」
もっくんが憤慨するが、その声は届かない。
真夏の強い日差しだけが、戦いを終えた勇者たちを見守っていた。
145:枕 ◆ce0lKL9ioo
12/06/28 22:42:46.87 lbH7vOLP
以上で投下終了です。
ヴィータのウサギのぬいぐるみと少年陰陽師のもっくんって少し似てるという、安易な発想から生まれたこの作品も長くなりました。
次回最終話です。
それではまた。
146: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:05:16.88 xLAzFFmW
突然ですが投下します。
新参者なのでよろしくお願いします。
あとクロス先の名前は伏せますのでご了承ください。
147: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:23:03.91 xLAzFFmW
『こちらライトニング分隊分隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。現地時間23時49分、まもなく××県上空に到達します』
機動六課本舎、司令室であるロングアーチにライトニング隊隊長、フェイト・T・ハラオウンの淡々とした報告が流れた。
ロングアーチの巨大なモニターには、通信によりフェイトの視界が映し出されている。
第97管理外世界『地球』。その中のアジアと呼ばれる地域にある小さな島国、日本。
フェイトは日本の地上より遥か上空、雲の中を滑空していた。
その時刻、日本国の内陸部は厚い雨雲に包まれており、深夜ということもあって視界は最悪だった。
「ティアナとキャロの様子はどうや?」
六課の部隊長である八神はやてがオペレーターのシャリオに聞いた。
「ガジェット相手に空中戦を展開中。二人とも善戦していますよ」
シャリオの返答を聞いていたスターズ隊長、高町なのはは安心した表情で、副隊長であるヴィータに笑いかけた。
「よくやってるみたいですね」
「だな」
ヴィータも満足げに頷く。
十数時間前、管理外世界である地球、日本国の内陸部にて遺失物の微弱な反応が感知された。
僅かな反応はすぐに消失してしまったが、それから間もなくレリックの可能性が高いという報告を受け、
スターズ、ライトニングの隊員であるスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、キャロ・ル・ルシエ、エリオ・モンディアルの四名は直ちに地球へ向かいレリックの探索を開始。
その監視役として、隊長であるフェイトも地球へ向かった。
148: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:25:51.13 xLAzFFmW
そしてスバルとエリオ、ティアナとキャロの二手に分かれての探索中、数時間前にティアナとキャロがレリックの微弱な反応を再び探知した。
両名で反応元に向かったところ、例の大量のガジェット達に遭遇。
現在は雨の中、ティアナとキャロは、キャロの使役竜であるフリードに乗ってガジェット相手に空中戦を展開している。
フェイトは現場からかなり離れていた場所にいたものの、加勢と様子見を兼ねて現場を目指して飛行していた。
「うーん、やっぱり地元ではあんまり厄介ごとは起きてほしくないかなぁ」
なのはがモニターを眺めながら、溜め息まじりにそう呟く。
それを聞いていたはやてが「そうやな」と言って小さく笑った。
「幸いなんは相手側も事を大きくしたくないのか、あんま派手な動きをしてけえへんってことやな」
現状、ガジェット達は地上に降りての戦闘はしようとせず、基本的に空中から動こうとはしない。
攻撃も、派手な爆撃などはしてこず小さな攻撃を繰り返している。
はやて達からすれば、現地の文明に戦闘を気付かれることを極力避けているように見えた。
「ま、事を大きくしたくないんはこっちも同じやけどな」
ただ、大技を使えないのは六課側も同じだ。
はやての言葉を聞きながら、なのはは嬉しそうに笑った。
「二人ともその制限の中でよく頑張ってるね。力の加減が上手いよ」
「ああ、ティアナもキャロも成長したな」
シグナムもそれに同調して頷いた。
そんな中、再びフェイトの声がロングアーチに流れる。
『現場に到着しました』
それと同時にモニターに映像が映し出される。
闇夜と雨により不明瞭な画面の中、無数の小さな赤い光が飛んでいた。
ガジェット達の目が放つ光だ。
そして一際明るい光が、その中でぽつぽつと灯っては消えた。
光の正体は爆発や発射されたエネルギー弾であることはすぐに分かった。
キャロの使い魔である白竜のフリードに、キャロとティアナが跨り、雨の中滑空しながら無数のガジェットを撃墜しているのだ。
149: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:28:58.15 xLAzFFmW
「フェイト隊長から見て状況はどうや?」
『……まだ私の出る必要は無さそうですね』
その声調は、やはりどこか嬉しそうだ。
その間にも優雅に舞うフリードの背中からエネルギー弾が発射され、ガジェットを一体一体確実に仕留めている。
「まだ、か。ティアナとキャロで終わってまうかもしれへんよ?」
『ふふっ、だといいんですけどね。
とりあえず私は様子を見ています。
相手がガジェットだけとは限りませんから』
「そうやな、頼むわ」
現時点ではガジェット以外の反応は一切無い。
それに反応があったとしても、その場合はすぐさま撤退するようにティアナとキャロには伝えてあったし、そのために高速移動を誇るフェイトがいるのだ。
加えて肝心のレリックの反応は現在消失しており、大量のガジェットがいる辺りからして罠の可能性も否めなかった。
「油断は禁物だからね、フェイト隊長」
『大丈夫だよ、なのは隊長』
少し心配そうにフェイトに呼び掛けたなのはの横で、ヴィータが目を細める。
「アナタが言えることですか……」
そんなヴィータに、なのはは眉を下げながら微笑みかけた。
「一度失敗したからこそ、だよ」
「わかってますって」
苦笑いしながら、ヴィータはひらひらと手を振った。
「どうや?レリックの反応は」
はやてがシャリオに聞いた。
「未だ感知……できません、ね」
「じゃあ例の戦闘機人は?」
「依然、反応はないです」
淡々と答えたのはオペレーターの一人、ルキノだった。
それを聞き届けると、はやてはモニターに向き直った。
「フェイト隊長、現地でなにか変化は?」
すぐさまフェイトの通信が返ってくる。
『いえ、特になに―ありません』
150: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:32:02.38 xLAzFFmW
ザザッ
不意に通信の中にノイズが入った。
『やっぱ―罠―じゃないで―うか?』
立て続けにノイズが走り、フェイトの声が掻き乱される。
「ん?」
「どうした?」
『あれ?聞こえ―悪い―うですが……』
「……通信状態が悪いのか?」
ヴィータがルキノに聞いた。
「いえ、状態は決して悪いわけではないんですが……」
ザザッ
言い掛けている最中、映像に大きなノイズが走った。
ノイズは徐々に増え、画面を大きく乱している。
「おかしいです、通信状態に問題はありませんし普通はこんな状態には……結界反応もありません」
ルキノの不安げな声が聞こえ、はやては胸の中に言い知れぬ焦燥感を感じた。
マイクを握り締め、フェイトへ語り掛ける。
「隊長?フェイト隊長?聞こえます?」
乱れる画面を見つめて一拍置くとフェイトから反応があった。
『えっ?な―ですか?なん――よく―聞き取れな――』
音声の乱れも酷く、フェイトの反応からロングアーチからの声はほとんど届いていないことが伺えた。
「スカリエッティのジャミングか?」
「可能性は否定できないですけど」
淡々とした様子のシグナムになのはが不安げに返した。
「でもこれは……」
「み、見て下さい!ガジェット達の様子が!!」
今まで黙々とキーボードを叩いていたオペレーターのアルトが叫び、全員の視線がモニターに集中する。
乱れた画面の中、赤い光が続々と落下しては消えていく様子が見えた。
ガジェット達が機能停止を引き起こして墜落しているのだ。
それは明らかに異様な状況だった。
その異様な状況とともにただならぬ予感が全員の胸中に芽生える。
151: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:34:54.27 xLAzFFmW
『ガジェ―が突―落――』
フェイトからも恐らく報告であろう通信が届く。
しかしノイズに掻き乱されてほとんど聞こえない。
(やっぱり罠やったんか?いや、それにしては何なんやこの違和感は……)
「ティアナとキャロは?」
なのはが毅然とした声で問いかけた。
「墜ちてません。飛行を続けています」
「ということはAMFではないのか」
表情は険しいが、相変わらず冷静な様子でシグナムは呟いた。
そこでシャリオが「あっ!」と上擦った声をあげた。
「部隊長、現地より新たな反応が!」
「なんや?」
「これは……次元震!?」
シャリオの口から飛び出したワードに、にロングアーチがどよめく。
「ウソやろ!?」
なにかがおかしい、その予感が的中した。
「フェイト隊長!!フォワードの子達を連れてすぐにそこから離れて!!」
『な――変――空気が――』
はやてがマイクに向かって叫ぶ。
しかし応答はノイズだらけでもはや言語が聞き取れない
「現地に膨大なエネルギーを観測!更に増幅しています!!」
「フェイト隊長!!」
「フェイトちゃん!!」
「テスタロッサ!!」
必死の呼び掛けも全く通じない。
映像は乱れによりほとんど見えなくなり、砂嵐状態になっている。
152: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:36:42.89 xLAzFFmW
『地震―すご――揺れ―――っあ!!――サイ―ン―音――――あっ――落ち―――ああ!――あああ!!―』
激しいノイズの中、フェイトの悲鳴が途切れ途切れに聞こえた。
ぶつっ
それを最後に映像と音声が途切れた。
全員が確信した。これはただ事では無いと。
ザーーーーーーーッ
スピーカーから流れる砂嵐の音だけが静かになった室内に響いている。
「エネルギー反応、消失」
その中、呆然とルキノが呟いた。
「……現地との通信が、完全に遮断されました」
直後、はやてが勢いよく立ち上がり、足にぶつかった椅子が大きな音をたてた。
ロングアーチにいた全員がはやてに注目する。
「反応の消失した地点は!?」
唾の飛ぶ勢いでオペレーターの三人に聞いた。
「××県、三隅郡、羽生蛇村上空です」
「スターズとライトニングの隊長、副隊長は直ちに現地へ!」
「はい!」「了解!」
「シャリオとルキノとアルトは通信の回復を。急いで!!」
「了解しました!」
はやての指令を皮切りになのは、ヴィータ、シグナムは司令室を飛び出して行った。
オペレーターの三人も慌ただしくキーボードを叩き始める。
153: ◆jTyIJlqBpA
12/06/29 02:38:28.23 xLAzFFmW
はやては椅子に座り込み、通信途絶前の状況を思い出した。
途切れる直前の通信の中で断片的に聞こえた単語。
それにフェイトの、悲鳴。
(まさかレリックの暴走?)
だが有り得ない話では無い。現に一級捜索指定の掛かっているロストロギア、レリックはこれまでに幾度となく暴走し、大事故を引き起こしてきた。
……しかし、現地でレリックの反応は消失していたはずだ。
故意に暴走させるにしても、ロストロギアであるレリックの反応を早々に隠せるものでもない。
(いや、可能性はあるにはある……けど、じゃああのノイズは一体……?)
はやてはフェイトとの通信が途絶した、その直前に入ったノイズに引っ掛かりを覚えた。
(それにフェイトちゃんの言うてた言葉……)
スピーカーから断片的に聞こえた地震、揺れ、音、落ちる………
考えれば考えるほど不吉な予感がとめどなく湧き上がる。
「一体なにが起こったんや……」
モニターの映し出している砂嵐を険しい表情で見つめながら、はやては絞り出すように呟いた。
はやて達は知る由も無かった。
フェイト達のいた現地がどういう場所なのかということも、そこでは怪現象が頻繁していたことも、
今さっきまで時空が何度も揺らいでいたことも、
画面の向こうで、けたたましいサイレンが鳴り響いていたことも………
新暦75年/22時34分27秒/ミッドチルダ六課隊舎
地球/日本時間 昭和78年/8月/00時00分00秒/羽生蛇村
絶望の物語が、幕を開けた。
154:名無しさん@お腹いっぱい。
12/06/29 02:45:28.62 Hlo2PTW9
規制を食らったので携帯から
投下は以上となります。