12/08/23 03:10:25.15 djMsaSWk
ガッ!
ジュン「あいたっ!!」
紅「ちょっ…… ジュン!?」
思いっきり、左足の小指を棚の角にぶつけてしまった。真紅は
とっさに僕の腕から飛び降り、どこかにうまく着地したみたいだ。
ぶつけたのは、僕と真紅たちの小物をしまってる棚だ。
さらにその2秒後、さっきの激痛でうずくまっている僕の頭に、
鈍い衝撃が走った。何が何だか、分からない。
ヒュッ ガンッ!
ジュン「ぐあああああっ!!」
紅「なっ…… 何!? 何が起こっているというの……!?」
ジュン「うおおおおお……!!」
紅「くっ……ホーリエッ! ジュンが動けないのだわ! 部屋の
灯りを点けて頂戴!」
ホーリエ{!} ヒュウッ
563:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:13:08.29 djMsaSWk
痛みが治まるまで悶絶しきって、叫ぶだけ叫んだけど、起き上
がれなかった。まあ、叫ぶほどでもなかったかもしれないけど、
部屋が真っ暗だったのも相まってか、なんとなく怖かった。
パチッ
紅「…… これは…… ジュン!?」
真紅の人工精霊・ホーリエが、真紅の命令を聞いて、すかさず
灯りのスイッチを押してくれたみたいだな。僕はというと、まだ
起き上がれないでいた。
そこへ、床が響く音がした。階段を駆け上がってくる音だ。
ドダダダ
翠「なっ、なんですか今の悲鳴は!」
雛「何かあったなの? ……ジュン!?」
紅「ジュンが倒れている……いや、倒されているのだわ……」
のり「真紅ちゃん!? これは一体……!? まさかジュンくん
までも怪奇現象の餌食に……うきゃあああああ!!」
ジュン「いっ…… いてて」
紅「ジュン! 怪我はなくて……!?」
雛「大丈夫なの……?」
564:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:14:37.69 djMsaSWk
僕の叫び声を聞いたのか、下でテレビを観ていた姉ちゃん達が
僕の部屋まで駆けつけていた。姉ちゃんは僕が倒れてるのを見て
また叫ぶ。真紅たちは、僕の表情を心配そうに見る。
ジュン「あ、ああ…… ちょっとそこの棚に小指をぶつけて……」
のり「ひええええ……痛そう!」
翠「気絶するほど痛いですか?」
ジュン「痛いぞ。気絶するほどじゃないけどな……。お前らって
そういう経験ないの?」
だいぶ頭の痛みも引いてきたところで、僕の頭に衝撃があった
ことを思い出した。ただ、衝撃の正体を掴めない。
565:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:16:49.32 djMsaSWk
ジュン「けどなんか頭が痛いんだ。何なんだろう……」
翠「真紅、まさかチビを殴って……」
紅「仮に叩いたとしても、素手で打ったりはしないわ。」
雛「じゃあ、ジュンの頭に何か当たったなの。」
ジュン「うーん…… 確か真紅を抱えたまんま足を棚にぶつけて、
それから……」
何が起こったか思い出しながら、周りを見渡してみると、僕が
倒れ込んだ場所に、ハードカバーの本が1冊落ちていた。真紅が
よく読んでいる、難しい本に似ているな……。
566:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:18:44.56 djMsaSWk
翠「おっ? あれはたしか、真紅の読んでる難しい本ですぅ。」
紅「あら…… 本当だわ。棚の3段目にしまっておいたはずなの
だけれど。」
のり「……もしかして、これがジュン君の頭に。」
雛「うゆっ! 名探偵のりなの!」
紅「なるほど…… 確かにそうとしか考えられないわ。」
ジュン「あれが当たったのかぁ……。あの痛さは、角か?」
あの鈍痛の正体は、落ちてきた本の衝撃だった。真紅が読む本
だから大きさはそんなにないけど、ハードカバーの本の角が頭に
当たったなら、やっぱり痛い。
567:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:19:43.64 djMsaSWk
のり「難しすぎてよく分からないよ~…… 私も頭痛いよ~。」
紅「もう、のりったら、勝手に…… それは数学の本なのだわ。
中身はフランス語だけれど。」
ジュン「『レンキンジュツ』じゃなかったっけ? 何を書いてる
のか全然わからなかったけどさ。」
翠「真紅は勉強家だから、こういう本をいっぱい持ってるです。」
雛「ヒナもいっぱい持ってるの!」
ジュン「お前のは絵本だろ。」
とりあえず、騒ぎはひと段落した。けど、真っ暗闇でいきなり
足に衝撃が走り、間髪入れずに頭をやられたらひとたまりもない。
その後、雛苺が冷やしたタオルを持ってきてくれたんで、頭に
宛がいながら残りの宿題を片付け、気を紛らわすために真紅たち
と紅茶を飲んだ。
568:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 03:20:50.38 djMsaSWk
[21:00]
[ジュンの部屋。]
翠「おやすみですぅ。」
雛「おやすみなのー!」
ジュン「おーう、いい夢見ろよー。」
紅「ジュン…… 置き去りにしないで頂戴? 分かったわね?」
ジュン「お前なぁ、置き去りってそんなオーバーな……」
翠「ま、ままま、まさか真紅さっきの番組を怖がってるですか?」
紅「そんなことはなくてよ! 早く眠りに就きなさい。」
翠「ぬうぅ~……!」
雛「うゆー…… ヒナねむいのー……」
ジュン「お前ら寝る寸前までケンカか……」
寝る前にパソコンでネットオークションを覗いている間、一度
だけ席を立ったけれど、真紅が寝言でも何か言ってきそうだった
んで、くんくんのぬいぐるみをアイツの鞄の傍に置いておいた。
569:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 09:56:19.10 djMsaSWk
[20:45]
[かしわ高校 下足室。]
外から見える校舎の窓には、一つも灯りがついていなかった。
もう夜9時前だし、いつも一番遅い野球部やサッカー部の奴らも
そろそろ帰ってる頃だからな。それにしても、暗い。
ジュン「うわ…… 夜の学校って、こんなに怖かったっけ……」
ジュン「とりあえず、最短ルートで教室に行こう。速攻、辞書を
取れば、或いは……」
2年6組は、下足箱のある校舎の、一つ向こう側の2階にある。
校舎が3つあって、その真ん中だ。下足箱からは1階の渡り廊下
を通り、中校舎に着いて1年8組の方から階段を登ると一番早い。
570:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 09:58:14.14 djMsaSWk
ジュン「…… なんだ、まだ残ってるヤツいるんだ。部活かな?」
2階に上がると、廊下が明るくなっていた。階段を登ってすぐ
にある、2年8組の灯りが点いていたんだ。このクラスは野球部
が何人かいたっけな。そいつらがタムロしてるんだろう。
[20:47]
[2年8組。]
桔梗谷「いや俺もこの前見ちゃったんだって」
筑紫野「お前も? マジで!」
桔梗谷「……あれ? 桜田ぁ。どしたよ、こんな時間に。」
ジュン「ああ、宿題するのにいる辞書を忘れちゃってさ。取りに
来たんだ。」
571:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 09:59:37.69 djMsaSWk
予感は当たった。坊主頭の、元気のいい男子が2人、駄弁って
盛り上がってた。
桔梗谷と筑紫野。1年の時の同級生で、野球部の次期エースだ。
この2人は、練習が終わった後もキャッチボールとかで遊んでる
みたいで、今日もその帰り際らしい。
筑紫野「えらいなーお前はよー。基本『置き勉』しないの?」
桔梗谷「翻訳サイト使って訳したりだよな、俺らは。」
ジュン「うーん。いつも持って帰ってるけど……」
筑紫野「流石だな。聞いた話お前確か、入試も5位くらいって。」
ジュン「……まあ、けっこう出来たかなーって思ったけど……。」
桔梗谷「俺英語の途中寝ちまってよ、あわってて解いたよ。」
572:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:06:45.14 djMsaSWk
3分くらい談笑していると、突然、話題が変わった。筑紫野が、
何かを思い出したように僕に問いかけてくる。
筑紫野「けどよォ、秀才でも『アレ』にゃ敵わねーべ?」
桔梗谷「かもなぁ。なあ桜田、知ってっかあの怪談話。」
ジュン「ああ…… あの時計の鐘の噂だろ、鳴らない筈の……」
桔梗谷「いや、他にもあってよー。7日の夜だったかなぁ、アレ。
校長室の横の廊下の影でよ、すっげえ視線感じちまって。
そんで振り向いたら……」
ジュン「…… ……ちょっ、そんなことまで。」
筑紫野「ははは、まあ、あそこ通るときは気を付けろよ。アレよ、
ここ何日かで野球部の奴ら、何人か見られたらしいぜー。」
ここ3年で「ものすごい視線を感じて身体が固まって動けなく
なった」ことは何回かあったけど、この高校でまで経験は……、
何となくしたくないような気がするな。
573:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:08:07.72 djMsaSWk
[20:57]
[2年6組。]
ジュン「……よし、辞書回収完了! とっとと帰ろう……」
辞書を片手に廊下を出る。8組の灯りは消えていたんで、あの
後すぐに桔梗谷たちは帰ったんだろう。階段を降りようとした時、
何か空気が変わった気がした。
…… ……
ジュン「……まさか、なぁ。」
空耳、か。コワイ話をしてると「出るぞぉ」とはよく言うけど、
本当に何か出たという話は聞いたことがない……ことにしておき、
少し急ぎ気味に、2回目の帰路に就いた。
574:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:14:49.55 djMsaSWk
[21:20]
[桜田家。]
部屋に戻ると、時計は夜9時20分を指していた。真紅たちは
もう眠りについている。
3つの鞄の横に、真紅・雛苺・翠星石のそれぞれの名前がタグ
に書かれたくんくんのぬいぐるみが置いてあった。多分姉ちゃん
が部屋を出る前に、アイツらの安眠用に置いといたんだろう。
姉ちゃんはテレビを観ていたので、礼に紅茶を淹れてやった。
のり「ジュン君も、小さい頃たまに眠れないってぐずってたのよ。
こわ~い話をした後とか、特に眠れなかったみたいで、ね。
そんな時はぬいぐるみを抱かせてやったら、すぐ寝たっけ。」
ジュン「へぇ…… そんなことが。」
小さい頃のことは、ところどころ覚えてるけど、そういうこと
もあったんだな……。
575:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:18:33.40 djMsaSWk
[2005/04/15 12:20]
[かしわ高校 廊下。]
4月15日、快晴。午前中の授業も無事に終わって、昼休み。
一昨日頭に直撃したあの本を読む。中身がどうも気になったんで、
真紅に頼み込んでこれを借り、学校で調べることにしたんだ。
ジュン「しっかし、何なんだろうなこの本……」
桔梗谷「……おっ、桜田……」
ジュン「桔梗谷か、どうしたんだ?」
桔梗谷「お前、昨日時計の鐘の話、してたろ……?」
ジュン「ああ、アレか。…… まさか。」
桔梗谷「おう、鐘の音をよ、筑紫野が聴いたらしくってよ……。
9時ジャストくらいだったかな。」
576:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:19:53.89 djMsaSWk
ジュン「! ……本当だったのか…… けど、昨日はあのあと、
一緒に帰らなかったのか?」
桔梗谷「いや、筑紫野が便所行くっつって廊下出てさ、その後だよ。
昨日一緒帰ったけど、ずっとテンション低めだったぜ。」
ジュン「へぇ……」
桔梗谷「……ところでその金色の本、何?」
ジュン「数学の本なんだ。僕の家にあってさ…… 図書室でコレ
訳しに行こうかと思って。読む?」
桔梗谷「……全っ然わかんねえや。……この渦巻きぐらいしか、
分かるのねえや。」
ジュン「……渦巻き? 全然気づかなかった。これって、数学の
教科書に載ってるヤツだよな。」
この後、図書室でフランス語の本を借りて昼休みの間ひたすら
あの本の最初の方を訳してみたけど、黄金比の事以外はそんなに
深く書かれてはいなかった。本当に、ただの数学の本なのか?
577:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:21:03.66 djMsaSWk
[16:22]
[帰り際。]
放課後、ジュースでも買って帰ろうと思い、廊下を歩きながら
この本をぱらぱらっと見返していると、終わりの方に、気になる
ページが見つかった。
そのページだけ、真紅に特に読み込まれていたのか、端の方に
凹んだキズが入っている。文字がにじんだ跡も見える。
そこには、1ページの半分くらいの大きさの顔写真が載ってて、
あの渦巻きがまた出てきていて…… その「対数螺旋」と、薔薇
の花について書いてあったんだ。
578:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:24:05.89 djMsaSWk
そしてふと気づくと、例の壊れた時計のすぐ前に立っていた。
横には大きな鏡がある。なんとなく、髪型を気にするふりをして
鐘の音が聞こえるのを待っている自分が居た。
ジュン「…… 鳴らない、かなぁ……」
さすがに10分も同じ体勢で居ると辛くなった。とりあえず、
今日はいったん帰ることにする。
579:RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:26:21.07 djMsaSWk
[19:31]
[高校への道中。]
夕飯も終わって、宿題を始めようかと思った時だった。やはり
あの時計の音が気になって仕方なくなってしまったので、忘れ物
を取りに行くふりをして、学校に向かった。
翠星石や雛苺には「また忘れ物?」と笑われてしまったけど、
それは気にしない。真紅には、これを話すとまたオバケがどうだ
とか言われそうだから黙っておく。
今から行けば、行って少し様子を見て帰って……夜9時には、
十分間に合う。
ジュン「……聞こえてくるかな……あの鐘の音は。」
【第45話に続く】
580:TEG24 ◆TEGjuIQ24E
12/08/23 10:31:16.59 djMsaSWk
というわけで第44話「桜田ジュンの怪体験」は
以上で終了です。この話は、次の第45話に続きます。
読んでくれた方ありがとうございました。
……私生活が多忙を極めており、今までのように
最低でも月一では投稿できなくなるかもしれませんが、
何卒ご了承ください……orz それではまた。
581:名無しさん@お腹いっぱい。
12/08/23 20:35:10.40 dDqGmli0
乙でそた
582:名無しさん@お腹いっぱい。
12/09/23 10:03:58.15 dnND7rWG
保守