11/05/15 20:18:39.37 5AZDSQzu
昨日の雨が上がって空は底抜けの青さ。
まあ、視界の端には雲も見えてはいるけれども。気にしない気にしない。
物件も見ずに決めた郊外の古い一軒家は、つい1週間前まで学生が住んでいたせいか荒れ放題と言うわけでもなく、パッと見にはなかなかのものに見えた。
もっとも一戸建てに庭と駐車場、物置までついて敷金礼金なしの月額3.5万円という、街中ではまずお目にかかれない格安物件というところが素晴らさの主要因であることは否定しない。
有体に言ってしまえば田舎のボロ家だ。
しかしそんなことは百も承知。
にやにやしっ放しで縁側から引越し荷物一式を屋内に入れ、借りてきた1トントラックを置いてチャリで戻ってくると、俺はまだ電灯一つ据え付けてない家の真ん中で一人祝杯を上げた。
ビバマイハウス。素晴らしい。
いい加減に酔っ払ってから、缶ビール片手に家の中を見て回る。
予想通りのオンボロで、窓なんかはこのご時世というのにサッシでないところさえあったものの、学生が一人で住んでいたにしてはどの部屋も荒れていなかった。
よほど几帳面なやつだったのか、出て行く前に掃除でもしていったのか。
異変に気付いたのは、玄関に回ったときだった。
外から見たときは気が付かなかったが、玄関に何か四角いものが置かれていた。
ボロ家にそぐわないと言えばそぐわない、古さという点では似つかわしいとも言えそうなそれは、革製の大きなトランクだった。
無論俺の荷物ではない。上にうっすらと埃が積もっているから、間違いなく暫く前からここに置いてあったものだ。
─前の住人の持ち物か?
しかし学生が持つにしては違和感がある。アンティーク趣味のおっさんおばはんあたりが好きそうな凝ったデザインだ。
それに、忘れ物だとしたらこんなでかくて目立つものを1週間もほおって置くとは思えない。いくらなんでも気付くだろう。
─この家の備品か何かでも詰まってるのか。
その方がまだ可能性としてはありそうだ。
温くなってしまったビールをちびりと遣りながら、取り敢えず開けてみようと俺は決めた。
忘れ物なら鍵がかかってるだろう。この家の品なら素直に開くに違いない。
UHFアンテナか延長コードでも入っててくれれば御の字なんだが、と買い忘れたものが都合よく入っていてくれることを期待しながら鞄に手を掛ける。