11/06/10 16:38:28.61 Y8B6QuSZ
翌日。
本格的にこのあたりを探索する事にする。
高く飛んで全体的な地形を把握したあと、町全体を見渡せる高台へ向かう。
高台の端にある電柱の上に降り立ち、町を見下ろす。
銀「・・・小汚い町ね。」
確かに町はあまり綺麗ではなかった。
森や林はあちこちが欠けていた。
町も廃墟同然の状態の場所も多いし、建築中の建物も多い。
それに建っている建築物も粗末なものが多かった。
しかし、町には活気があった。
この国を荒廃させた戦争・・・世界中を大混乱に陥れた大戦争の一部でもある
・・・が終わってしばらく経ち、ようやく復興が本格的になってきたのだ。
まだまだ綺麗な建物は建てられないものの、雨後のタケノコのように新しい
建物が建ち、人間が忙しく出入りしていた。
皆、まだ貧しかったが、復興の活気に満ちていた。
125:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/10 16:45:06.90 Y8B6QuSZ
しかし、その復興から取り残された者もいた。
町の外れの、誰のものともはっきりしない炭焼き小屋。
そこに薄汚れた男が寝転んでいた。
まだまだ貧しい時代のこと、粗末な服装の者は珍しくない。
その中でも男が薄汚れて見えたのは、その内面的なあり方ゆえだった。
男はそれほどの年齢ではなかった。
若者と中年の境目ぐらいの年齢だろうか。
男はこの小屋以外には家を持たなかった。
職にも就いては居なかった。
時々、日雇いの肉体労働をすることもあったが、主な収入源は別にあった。
金属拾いだ。
この頃、金属の需要が増えていたため、拾った金属くずを然るべき場所へ持
って行けばそこそこの値段で売れた。
それ自体は別に問題の無い事だ。
しかし、男はそれだけでなく、人目を避け、落ちているのではない金属・・・
普通の建築物に使われている金属や神社仏閣の装飾の金属、それ以外にも明
らかに誰かの所有物である金属をも「拾って」いた。
平たく言えば金属ドロだ。
やっている事は勿論悪い事なのだが、どちらかというと無気力ゆえにそんな
生活をしている小物であり、悪人というよりも、単にチンケな存在だった。
そして、その事を男自身も良く分かっていた。
男は上体を起こすと、傍らの徳利を持ち上げ、中身の安酒をあおる。
拳で口元を拭うと再び体を横たえる。
126:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/10 22:33:06.69 Y8B6QuSZ
水銀燈は町の上空を飛ぶ。
町の隅々まで調べようと思うと結構広い町だ。
もっとも、建物の密集した都市部、と呼べる部分はさほど広くない。
図書館は都市部の端の方にあり、ちょうどそのあたりが都市部と旧来のまば
らな町並みの境界だ。
まずは都市部側を捜索する事にする。
夕闇に紛れて都市部をざっと一周する。
姉妹の気配はないようだ。
夜も探索するか迷う。
まだ力は残っているものの、何の目途も立っていないので、いつ長距離の捜
索をすることになるか分からない。
一旦、糧の所に戻って力を補給しておいた方がいいだろう。
少しはあの少女の相手をする羽目になるが。
夜が来て、例の金属ドロ男はむくりと上体を起こす。
ぼちぼち、北のはずれの賭場が開く頃合だ。
多少の金はある。
行くか。
徳利から一口、酒を飲んで口を湿らせると、男は立ち上がり、小屋から出る。
まばらではあるが、町の明かりが見える。
ずいぶん増えたものだ。
この町は地方都市に過ぎないが、軍の施設があったためにアメリカ軍の爆撃
にさらされ、一時はほとんどの大きな建物が無くなった。
男が青年期までを過ごした家も燃えてしまった。
それも惨いことではあったが、本当にひどかったのはその後、戦争が終わっ
た後だった。
127:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/10 22:36:55.16 Y8B6QuSZ
家のあった場所に、たちの悪い連中が居座ったのだ。
土地の所有を証明するのはそこに住んでいる事(借りている場合を除く)、
権利関係を証明する書類、そして土地の登記だ。
戦災によって住民が家を失って土地を離れ、火災などで権利書類を失い、し
かもその地方の登記所も焼失した場合、所有を証明する事が難しくなる。
それに目をつけたたちの悪い連中が、めぼしい土地に強引に居座る。
本来の持ち主は自分の土地である事を法的に証明できず、そうなると警察も
動けない。
結局、土地はたちの悪い連中に奪われてしまう。
そういったたちの悪い犯罪が戦後すぐには何件か起きていた。
男の土地はその被害にあったのだ。
勿論、思いつく限りの手段で土地を取り戻そうとしたのだが、結局、法的に
所有を証明することはできず、組織された悪党どもに対抗できなかった。
土地を失った事もショックだったが、男はそれ以上に人間の醜さにショック
を受けた。
ただでさえ、戦争とその後の混乱で親類縁者と自分の家を失っている。
さらに、土地を取り戻そうとする努力に疲れ、混乱期に生きる事に疲れ・・・
男は全ての気力を失った。
遅く生まれた子供で親とは年が離れていたため、両親は既に他界している。
もう、親類縁者も全く残っていない。
男は元々、この地方に古くからあった有名な寺の住職の一族である。
住職の家系である本家にごく近い分家にあたる家の生まれであったが・・・
男はとぼとぼと舗装されていない道を歩いていく。
南の方には山があり、その中腹には未だに焼けて黒ずんだ残骸が見える。
だいぶ伸びてきた木々に隠れたものの、まだ目立っている。
それが、寺の今の姿だった。
戦争末期、爆弾を満載したアメリカの大型爆撃機が寺のすぐ脇に墜落したの
だ。
現場を見ていた人の話によれば、山ごと吹き飛ぶかと思うような大爆発だっ
たそうだ。
由緒ある寺と、その周りに住んでいた親類縁者は一瞬で失われた。
生き残ったのはたまたま出かけていた男だけだった。
安酒で濁った頭の隅でうっすらとそんな事を思い出しながら、男は独りとぼ
とぼと賭場へ歩いてゆく。
128:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/11 00:07:01.46 rJBkf9Oa
>>127は誇りうる……
物語がある…!
投下を始めた頃から……
何度も言われてきたはずだ……!
乙だ…って…!
129:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/11 16:18:32.48 puRwBdU5
>>128
ざわ… ざわ…
コメントありがとうございます。 ざわ…
(うろ覚えなんですが、元ネタ、カイジかそのシリーズで合ってますよね?)
物語と言えば、>>127に出てきたような不動産乗っ取りは第二次世界大戦後の
日本で実際に何度も起きたことだったりします。学校の日本史じゃこの時期の
事は教えないですけどね。
カイジの作者がこのテーマを取り上げたら凄い漫画が出来そうです。
まあ、圧力かかって出版は無理だとは思いますが・・・
130:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/11 16:20:19.46 puRwBdU5
ここしばらくは雨が多い。
このあたりは雨季があるのだろうか。
曇りや小雨ならよいが、大雨になると空を飛んで捜索するのは大変だ。
そんな日はこの世界ではなくnのフィールドを探索する。
時折、力の補給のために少しだけ糧の少女と過ごす。
サーカス団のテントにはちゃんとした個室がない。
布で仕切られたせまい個人スペースはあるが、そこで大声を出せばまわりに
筒抜けだ。
逆に水銀燈と少女の側からも周りの事が良く分かるが、水銀燈にとってはそ
れはあまりメリットにならない。
変にべたついて来る少女が鬱陶しい事を除いても、長居したい状況ではなか
った。
朝が来る。
人々も人形も新しい一日を過ごし始める。
この日も今にも雨が降り出しそうな陰鬱な空模様だ。
それでも辛うじて雨は降っていないので、飛んで捜索できそうだ。
天気が悪いが、おかげで水銀燈が昼間から低く飛んでもあまり目立たない。
その意味ではこの天気は捜索日和だ。
水銀燈とメイメイは都市部の残りの部分、そして図書館と近い都市部以外の
部分を捜索する事にする。
131:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/11 16:27:36.48 puRwBdU5
町外れの小屋にも朝は平等に訪れる。
普段は昼夜逆転に近い生活をしている金属ドロ男だが、何となく眠れずに起
きていた。
ここのところ、賭場では負けっぱなしだ。
まあ、賭博で常に儲かるのは胴元だけに決まっているのだから無理もないの
だが。
辛うじてすっからかんにはならずにすんでいるが、懐はかなり寒い。
せめてもの救いは、徳利にはまだ半分以上酒が入っている事だけだった。
男は小屋の中で身を起こすと、酒で喉を湿し、ぼうっとあたりを眺める。
別に何もやることなどありはしない。
小屋の中には毛布と、拾ってきた雑誌や本・・・ほとんどが露骨なエロス絡み
のものだ・・・が散らばっている。
ふと、小屋の片隅に転がっている木切れを手に取る。
小さめの徳利ぐらいの大きさの木切れだ。
いい感じに乾燥している。
ふむ、いい形だ。
男は刃こぼれした折りたたみ小刀を取り出すと、何を目指すともなく、木切
れを削り始める。
この形だと・・・四足の獣が現れるかな。
いや、縦にしてフクロウなんかかもしれない・・・
そういや、俺は学校に行ってる頃、これが趣味で特技だったっけ。
俺の一族は木彫りや彫刻がうまい奴が多いんだよな・・・そもそも、うちの分
家の誕生のきっかけになったご先祖が木彫りの名人で・・・ひい爺さんの言う
には、俺は一族の中でも特に上手くて・・・
しばらく、男は無心に手を動かす。
自分が何かの形を作るのではなく、元から木切れに隠れている形を表に出し
てやる感じで削る。
手が止まる。
自分のやっている事が馬鹿らしくなる。
こんな事して何になるってんだ。
男は木切れを放り出し、小刀を折りたたんでしまいこむ。
徳利を手にし、酒をあおる。
ようやく眠気が来て、男は体を横たえる。
132:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/11 16:33:40.80 puRwBdU5
作者よりご案内(?)
ここんとこ、結構いいペースで連載が進んでいます。
6/5の時点であと20日と書きましたが、もっと早く終わるかも。
133:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/12 02:07:31.67 DKrHHMY5
やがて、男は浅い眠りから目覚め、中途半端に伸びをし、頭をがりがり掻く。
そういえば、最近髪が薄くなってきたかもしれない。
まあ、どうでも良い事だが。
さて・・・
バクチをやりに行くにはちょっと軍資金が足りない。
あちこちで工事をしてるから日雇い仕事はあるだろうが、かったるい。
また、どこかの鉄板でも剥がしに行くか。
男はふっ、と口元を歪めて自嘲的に嗤う。
コソ泥の真似事をして小金を稼いでは酒びたりになり、バクチに通う。
たまにバクチで勝つとその金でいかがわしい快楽にふける。
もうくたばっちまったけど、お堅い本家の連中がこのザマを見たら何て言
だろうか。
煩悩まみれの俗物、かな?
あの連中からはそう見えるに違いない。
だけど違うな。
俺は・・・・・・
男は少し考え込み、自分の気持ちを言い表すのに相応しい言葉を探す。
これでも、仏教系の学校でそこそこ優等生だったのだ。
酒で薄くもやのかかった頭でしばらく考え、概ね合っていそうな言葉を見つ
ける。
そう、今の俺は煩悩まみれなんじゃない。
何もないんだ。
空っぽ。
空ろ、虚ろ。
うつろなんだ。
男は再び、ふっ、と嗤う。
そう、俺はからっぽ、うつろ・・・になりかけている。
まだ、完全に空っぽにはなっていないが・・・もうじき、完全にうつろになり、
自分がうつろである事も気にならなくなるだろう。
134:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/12 02:13:35.70 DKrHHMY5
金属ドロ・・・いや、金属拾いにいくための支度をする。
と言っても、金属を剥ぎ取るための粗末な工具数点と小刀、丈夫な袋を用意
するだけだったが。
用意しながら、男はふと考える。
もし、空ろになっていなかったら、いったい俺はどんな風に生きたいと願っ
ていたんだろう?
空ろになる前はまだ若かったから、そんなに具体的に考えてはいなかったか
もしれないが、それでも何かあったような気がする。
しばらく考えるが、最早、思い出すことができなかった。
それよりも金だ、金。
水銀燈たちの捜索は今日も空振りだった。
灰色の夕方の中、図書館のねぐらへと帰る。
最近はあちこち旅して落ち着かなかったので、動かないねぐらがあってそこ
へ帰れる事が心地よい。
帰る途中、サーカスのテントが見える。
興行の準備をしているようだ。
テントの中を覗くと、裏方の仕事をするサーカスのメンバーが数人おり、こ
まごまとした作業をしている。
糧の少女は他のメンバーから離れ、ステージになる予定の場所で独りで空中
ブランコの練習中だ。
水銀燈はしばらくの間、物陰から練習風景をながめる。
135:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/12 11:58:41.06 DKrHHMY5
金属ドロ男は疲れ、小屋への帰り道をとぼとぼと歩く。
今日はあまり金属が手に入らなかった。
視界の端に、かつて一族が住職をつとめた寺の残骸が見える。
あーあ、あの寺が今もあればな。
本家でなくとも、うちの一族のもんが金に困る事はなかっただろう。
いや、待てよ。
うちの本家っていうのは住職の一族だが、住職に就いてからは女人に触れな
い、という戒律を厳しく守っている。
なので、基本的に住職には子供が居ない。
住職はある程度の年齢になると本家、もしくは近い分家の誰かを養子にして
住職を継がせるという変形世襲制だ。
だったら、自分が住職を継ぐ可能性も少しはあったわけだ。
そうしたら、金なんか檀家からいくらでも集まったんだろうなあ。
それに、色っぽい檀家の後家さんとかと知り合ったり出来たかもしれない。
そうなったら戒律なんか守るわけない。
楽しい毎日だったろうなあ。
・・・それがこんな事になるとはな。
他に考える事もなかったので、そのまま一族の事と住職の世襲について、ぼ
んやり考える。
住職の跡継ぎに決まるのはだいたい、本家か分家の15~20歳位の若者だ。
時代にもよるが、その年齢だとまだ妻や子供がいないのが普通だ。
既に妻や子供が居て家庭を持っている場合、普通住職を引き受けない。
136:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/12 12:06:34.64 DKrHHMY5
でも、例外ってのはあるもので、うちの分家ってのはその例外から生まれた
んだよな。
何百年か前のそのご先祖は若いときに、都から下ってきた、元々は宮仕えで
そこそこ身分もあった、学識ゆたかな女と結婚したとか。
その女との間に子供が出来たんだが、結局その女はどこかへ去っていき、ご
先祖は住職を継ぎ、残った子供がうちの分家の祖になった。
その女・・・いや、ご先祖様だからその女なんて言い方は何だな。
先祖のその女性は色々謎が多いらしい。
何か、不思議な術・・・あー、何だっけな。呪術?方術?陰陽?良く覚えてな
いが、とにかく何か不思議な術を使ったなんて言い伝えがあるとか。
不思議な術かあ・・・
はっ、下らない。
そんなモンあるもんか。
それより金だ、金。
酒。快楽。
図書館の屋根裏部屋。
水銀燈は窓辺にたたずみ、時折小雨の落ちてくる鉛色の空を見つめる。
最後に晴れた日を見たのはいつだろう、と思うほど、ずっと天気が悪い。
糧の少女の話では、熱帯の雨季とは違うものの、雨季に近いものがこの辺り
にはあるんだそうだ。
たしか、ツユとか言っていた。
幸い、ここ何日かは晴れはしないものの大雨にはならない事が多い。
おかげで水銀燈たちは昼間も捜索しやすかったが、未だに妹たちの手がかり
はなかった。
137:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/12 23:52:19.62 DKrHHMY5
またもやどんよりとした朝が来る。
水銀燈は考えこんでいた。
今回の目覚めは無意味ではない、と感じたのは自分の勘違いだったろうか。
ここしばらく、わりと行き当たりばったりに妹たちを捜し続けていたが・・・
もう少し考えて、徹底的に姉妹を捜してみる頃合かもしれない。
しばらく考えて方法を決める。
銀「メイメイ。」
ふよふよ。
銀「メイメイ、ちょっと探し方を変えるわよ。
この世界と、nのフィールドを両方とも広く捜すわ。
まずはこの建物の鏡からnのフィールドに入って、しばらく一緒に真っ直ぐ
飛ぶ。
で、その飛んだ線を軸にした円というか球を考えて。
その球から外側に、少しずつ広がりながら回って、nのフィールドの中を出
来る限り広く妹たちの気配を捜しなさい。
使える時間は・・・夜明け前までにはここで落ち合いたいから、18時間ぐらい
かしらね。
気配があるかどうかだけでいいから、そんなに細かく捜す必要はないわ。
とにかく時間いっぱい、できるだけ広い範囲を捜しなさい。
私はまずnのフィールドで球の内側を捜すわ。
それが終わったらnのフィールドから出て、この世界をこのへんを中心にで
きるだけ広く時間いっぱい探し回るから。
これだけやれば、二人合わせればかなりの範囲を捜せるはずよ。」
チカチカ。
銀「気配を見つけたら、戦わなくていいからすぐに知らせに戻りなさい。
いい?じゃあ、行くわよ。」
水銀燈とメイメイは図書館の階段の踊場にある、下の方に「寄贈 ○○商店
街」と書かれた大きな鏡からnのフィールドへ入る。
138:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/13 23:28:45.54 ItVp6DJz
一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に小さくなる球を描きなが
らnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。
しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内でやたらと水晶が目立つ。
nのフィールドの風景に脈絡を求めても意味が無いのだが、それにしても多
い。
人間の世界かなにかで水晶が流行しているのだろうか?
ある場所では、まるで大量の水晶を弾丸がわりに飛ばす練習でもしたかのよ
うに水晶が散らばっていた。
水銀燈は近づき、用心しながら水晶に触れてみる。
最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。
他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
触れる事はできるが、非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしまう物もある。
全く脈絡がない。
特に意味はなかったかのかもしれない。
ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。
不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて柔
らかい物がそっと触れたような不思議な感覚がした。
水銀燈は辺りを見回す。
何もいない。
何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。
気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかったし、気にする事もあるまい。
139:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/13 23:53:12.37 ItVp6DJz
捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に小さな光る物をとらえる。
先程探していた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。
その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色はヒスイ色だが、微妙に虹色のような色合い
持っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。
別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。
用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。
それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。
水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続ける。
結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。
図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。
この周囲は既に捜索ずみだ。
建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。
中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。
細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。
140:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/14 00:15:18.90 W42HNGhU
おや、七番目さんかえ
アニメ版準拠だと一番想像力を働かせられるのが七番目さん
漫画のキラキチそのものからバラシーもどき、いえいえ全くの別個の存在
よりどりみどり、あなたのお好きな七番目さんを……
141:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/14 23:19:05.58 /h6lQbC0
金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。
昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。
おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。
途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。
歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。
うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。
この町ではない、とある場所で、とある人形師が軽く頭を抱えていた。
今、彼は新しい人形を造っている。
素晴らしい人形になるだろう。
しかし、完成に近づきつつある今、問題が出ていた。
彼はその人形に、水晶を扱って戦う能力・・・弾丸のように飛ばしたり、水晶の
中に何かを封じ込める能力を与えようとしていた。
試行錯誤の末、その能力を持たせることができたはずなのでnのフィールド
で実験させたのだが、結果は失敗だった。
色々な点で不安定だったのだ。
・・・まあいい。時間をかけて取り組むさ。
今までだって、相当に長い時間をかけてきたのだ。
このぐらいで焦りはしない。
また何十年もかかるかもしれないが、完璧な人形を造る事の方が大切だ。
人形を「眠らせ」、長期間待機状態にする。
そっと人形を抱き上げると、人形師は再び工房にこもった。
142:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/14 23:21:33.58 /h6lQbC0
>>140
コメントありがとうございます。
確かに七番目は想像力を刺激される存在ですよね。
143:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/14 23:45:44.51 /h6lQbC0
水銀燈は空を飛び続けていた。
町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。
建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。
あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。
町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。
ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。
そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
従って、水銀燈にとっては「知っている」つまり記憶にある場所、「知らな
い」つまり記憶にない場所、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。
しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。
暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・
ぱさっ、ずっ。
!!うわっ。
ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込
んでしまった。
かなり大きな蛾だ。
気持ち悪い!
144:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/14 23:56:35.17 /h6lQbC0
振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。
ぬるり。
あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。
空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。
蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!
いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。
ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。
ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。
箱の真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。
上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。
その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。
ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。
はあ・・・どっと疲れた。
145:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 13:32:01.32 NY3X8q2a
~ 作者よりお詫び ~
都合により、>>138から>>144の5ログを書き直します。
訂正があるのは前の3つだけで、後ろ二つ(水銀燈の既視感と蛾にやられる
シーン)はほぼそのままですが、一応5ログとも書いておきます。
面倒な方は、>>148まで読んだら>>151にお飛びください。
(間に別の方の書き込みが入った場合は番号がずれます)
146:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 14:09:03.23 NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)
一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に内側へと小さくなる球を
描きながらnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。
しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内できらきら光る物が妙に
目につく。
ガラス?水晶?宝石?
ともかく、きらきらした物が明らかにいつもより多い。
nのフィールドの風景に理由を求めてもあまり意味が無いのだが、大勢の精
神世界の影響を受けて風景が変わっている場合もたまにある。
人間の世界かなにかで、そういったきらきらした物が流行しているのだろう
か?
水銀燈が見てきた今回の世界は、大戦争の始まる前の時代に比べるときらき
らした物は減っている感じだったが・・・
飛び続けているうちに、大量のきらきらした物が散らばっている場所を見つ
ける。
おかしな気配がないか気をつけながら、ゆっくりと近づいてみる。
何の気配もない。
すぐそばまで近づく。
きらきらした物は、割れている物が多い。
割れ方からするとガラスではないようだ。
断定はできないが、水晶かそれに近い物に見える。
一応、水晶と呼んでおこう。
そっと、実際に触れてみる。
最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。
他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
かと思えば、触れる事はできるが非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしま
う物もある。
あまり脈絡はないようだ・・・いや、不安定な結晶、というイメージはある
かもしれない。
まあ、直接に妹たちやアリスゲームに関係は無さそうだ。
放っておいていいだろう。
ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。
147:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 14:17:30.09 NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)
不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて
柔らかい物がそっと触れたような不思議な感じがした。
水銀燈は辺りを見回す。
何もいない。
何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。
しばらく様子を見てみるが、それ以上、何も起きなかった。
気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかった。
まあ、気にしなくていいだろう。
捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に気になる物をとらえる。
先程調べていた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。
その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色は翡翠色だが、微妙に虹色のような色合いも持
っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。
別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。
用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
見かけも感触も水晶の六角柱状の結晶そのものだ。
しかもこれはどこも割れていない。
そして、なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。
それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。
水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続けるべき飛
び立つ。
148:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 14:24:13.86 NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)
結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。
図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。
この周囲は既に捜索ずみだ。
建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。
中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。
細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。
金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。
昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。
おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。
途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。
歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。
うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。
149:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 14:46:33.15 NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)
水銀燈は空を飛び続けていた。
町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。
建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。
あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。
町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。
ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。
そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
人から伝え聞いたあいまいな情報のような物ならともかく、場所のように自
分で具体的に体験した物であれば、水銀燈にとっては「知っている」つまり
記憶にある、「知らない」つまり記憶にない、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。
しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。
暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・
ぱさっ、ずっ。
!!うわっ。
ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込
んでしまった。
かなり大きな蛾だ。
気持ち悪い!
150:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/16 14:48:05.05 NY3X8q2a
(本文、訂正のない繰り返し部分です)
振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。
ぬるり。
あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。
空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。
蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!
いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。
ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。
ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。
その真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。
上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。
その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。
ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。
はあ・・・どっと疲れた。
151:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/17 01:21:11.14 9063gv/1
金属ドロ男は道端で目を覚ます。
ありゃ?何で・・・
しばらく考えて、自分が飲みすぎて眠り込んでしまったと気づく。
まあ、構いはしない。
どうせ何か用があるわけじゃないし、人目なんかどうでもいい。
あたりはすっかり夜になっていた。
強い酒を飲みすぎたため、口の中が荒れている不快な感じがする。
喉も渇いている。
水を飲みたい。
えーと、この辺りだと水が飲める場所はどこにあったかな・・・
ぼりぼりと頭をかきながら男は少し考える。
ああ、そうだ。
あの工場の裏手に水道があったはずだ。
あそこで飲もう。
男は立ち上がるとゆっくりと歩き出す。
嫌な感じに疲れた水銀燈は、間近にあった椅子に座り込んで脱力する。
しばらく経って、一息つくと、ようやくちょっと余裕ができる。
まず、大切な羽根をもう一回チェックし、綺麗である事を確認する。
それから気を落ち着かせてあたりの様子を見る。
ここは、大きな灰色の建物の裏側のようだ。
休憩所と書かれたぼろぼろの木の看板がかかっており、先に使った水道、木
の椅子がいくつか、足つきの灰皿が二つ置かれている。
その先に、先程見た窓付きの金属箱がある。
152:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/17 16:03:24.41 9063gv/1
ふと、手元にあるタオル代わりにした紙に目をやる。
微かに褐色がかった灰色の粗末な紙だ。
サーカスでも同じような紙を見たことがある。
ワラバンシとかいう紙だ。
濡れてくしゃくしゃになっているが、よく見ると何か文字が印刷されていた
ようだ。
紙はお世辞にも綺麗な紙ではない。
平和な時代のヨーロッパの紙を見てきた水銀燈からすると、とても文字を印
刷するための紙には見えない。
何故、こんな汚い紙に字を印刷するんだろう。
それはさておき、これには何が書いてあったんだろう?
手元の紙はもう読める状態ではないが、さっきの金属箱にはまだ同じ紙がぶ
ら下がっている。
水銀燈は立ち上がり、使い終わった紙を放り捨て、そちらへ行ってみる。
金属箱はわずかに丸みを帯びた箱型だ。
箱の横に柱のようなものがあり、そこから箱の上に向かって、小さな屋根の
ような物がつけてある。
雨よけだろう。
雨よけの下に小さな細長い木切れが下がっており、「自動販売機」と書かれ
ている。
ふうん、自動販売機ねえ。
こんな箱が何を販売するんだか。
箱の上の方には窓があり、その中の両はじに白っぽい明かりがついている。
明かりの間、窓の中央あたりに、妙な形をした瓶が数本並んでいる。
瓶の下側には数字を書いた紙が張ってある。
価格のようだ。
どうやらこれが販売する商品らしい。
金属箱には他にも取っ手やら突起がいくつか付いているのだが、いちいち細
かく見るのが面倒だ。
箱の中ほどに吊るしてある、先程の紙の束に注意を戻す。
153:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/17 22:08:00.49 9063gv/1
破らないように注意しながら一枚ちぎり取り、見てみる。
綺麗な印刷ではないし、紙に皺がよっている部分では印刷がずれている。
まあ、内容をざっと把握するぶんには問題ないが、ブザマだ。
紙は真ん中あたりで横に折り目がついていて、半分に畳まれた形になってい
る。
まずは上半分を読んでみる。
**************
体に良くておいしい 乳酸菌飲料□□!
育ち盛りのお子さんに!
働き盛りのお父さん、お母さんに!
いつまでも元気で過ごしたいお年寄りに!
有限会社 S乳飲料がお届けする、最新の乳酸菌飲料です。
滋養豊富で美味!
ヨオロッパ・アメリカで健康に良いと評判の乳酸菌がたっぷり入った健康飲
料です。
一本飲めば、元気はつらつ、健康増進!
さわやかな甘酸っぱさで気分爽快!
**************
ふーん。
広告とか宣伝を書いた、チラシという物のようだ。
この箱の中の商品の事だろう。
・・・あんまり才気のある文章じゃない。陳腐ね。
154:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/17 22:14:34.95 9063gv/1
~ 作者より ~
いつの間にやら、四ヶ月にも及んだこの連載。
長い間、お付き合い頂いてありがとうございます。
ついに、この話も終わりが見える所まで来ました。
あと、3~5日で終わりになります。
(アクセス規制等の場合は除く)
最終回は普段より少し長くなる予定です。
155:(代理してた人)
11/06/17 22:54:25.12 OT6cn7dt
投下乙です。
いよいよ完結ですか……乙でもあり、寂しいようでもあり……複雑な心境です。
最後まで目が離せないぜ!
実はうちもArcadiaチラ裏で2本ほど長期連載を抱えてます。
こっちへの転載はいろいろな面で現実的ではないですが、興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。
156:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/18 17:00:38.79 ayh0VhRq
>代理してた人さん
その節はどうもお世話になりました。
こちらとしても、4ヶ月間、ほぼ毎日書いてたので書くのが普通になっており、
色々複雑ですね。
>興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。
余裕ができたら見ますね。
今度、urlを貼っておいてください。
157:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/18 17:03:10.26 ayh0VhRq
チラシの下半分、続きを読んでみる。
*********************
この乳酸菌飲料□□はヨオロッパの×××研究所で開発された最新の特殊製
法で丁寧に作り上げました。
加えて、わが国で長年日本人の健康を守ってきた幻の乳酸菌も配合してあり
ます。
この乳酸菌は、数百年の長きに渡って○県の山中で多種多様な発酵食品を作
り続け、幻の職能集団と言われた「漬物の里」、別名「醸しの里」に伝承さ
れていた乳製品、「酪・・・
*********************
えっ!?
何?・・・なに!?
何だって?
「漬物の里」、「醸しの里」!?
きっ、と箱に向き直る。
窓の中に見える商品は、見慣れない形をしているが、液体を入れる瓶だ。
しかし、それは明らかに見本であり、実際の液体は入っていない。
どうしてもその乳酸菌飲料を見ないわけにはいかない!
この箱を叩き壊すか?
大して厚い金属ではないし、継ぎ目もある。
この程度なら、思い切りやれば・・・
・・・いや、駄目だ。
それでは中身の瓶まで壊してしまうかもしれない。
いらいらするが、この箱・・・自動販売機、という物の正しい操作方法に従
うしかないようだ。
158:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/18 17:06:49.23 ayh0VhRq
苛立ちつつ、箱に書かれた操作方法を読む。
ふむ。
この小さな切込みに硬貨を入れた後、押しボタンと呼ばれている突起を押せ
ばいいのか。
硬貨・・・小額のお金の事よね。
当然ながら、お金を持ち歩く習慣などない。
その時、少し離れた所から足音がする。
そちらを向くと、おぼつかない足取りで人間の男が歩いてくる。
薔薇乙女の常識からすれば、隠れるべき状況だ。
しかし、水銀燈は気がはやっていた。
そのまま、近づいてきた男に正面から向かい合う。
水銀燈に気づいた男は驚きに目を見開く。
男は薄汚く、しかも酒の臭いをさせているのだが、不思議とそれほど不愉快
には感じなかった。
銀「ちょっと、そこの人間!硬貨をよこしなさい!」
男の目がさらに丸くなる。
銀「硬貨よ硬貨。小さいお金!」
男は呆然と立ち尽くし、え、う、あう、とわけの分からない声を発するだけ
だ。
ああ、もう、全く人間って奴は!
159:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/18 17:19:46.90 ayh0VhRq
いらいらする。
叩きのめしてやろうか。
それから硬貨を奪う方が早いかもしれない。
しかし・・・どうしても攻撃する気になれない。
この最凶のドール、水銀燈がどういうわけかこの見知らぬ冴えない男を叩き
のめす事ができない。
・・・いや、叩きのめす気にすらなれないのだ。
何なのだ、これは。
見ると、男はまだ呆然としている。
まったく・・・
後から考えると、少し妙だったかもしれない。
しかし、その時は体が自然に動いた。
水銀燈はドレスの内側に手を入れ、先程拾った翡翠色の水晶を取り出すと男
に向かって差し出す。
銀「ほら、これあげるから!」
男はさらに驚いたようだが、その目に理解の色が浮かぶ。
がくがくと頷くと、男は服のあちこちを探り、一掴みの硬貨を掴み出して水
銀燈に差し出す。
水銀燈はその硬貨を引っ掴むように取ると、水晶を男の手に乗せる。
水銀燈も男も気づかないが、一瞬、水晶が淡く光ったように見えた。
水銀燈は急いで自動販売機の前に戻る。
硬貨を入れる切り込みは上の方にあるので、少し空中に浮かび、硬貨を数え
もせずに次々に入れる。
押しボタンを押すと、ガタン、と音がして、箱の下方の開口部に何かが出て
きた。
見本と同じ、妙な形の瓶だ。
160:(代理してた人)
11/06/18 19:53:17.79 F/jNS9qk
投下乙です。
おお、翠水晶が……
これが次回作で謎の人形の動力源になるんですネ!
>URL
URLリンク(www.mai-net.net)
URLリンク(www.mai-net.net)
多分これで行けるかと……中身がイケてるかどうかってーと腐ってると思いますがw
もし読んで頂いても無理に感想とか頂かなくて結構ですけれども(義務感で感想くれる人がたまにいるので…申し訳なく)
厳しい批評やアドバイス等については、あれば嬉しい限りです。
161:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 00:54:34.10 69cpDEu+
>>160
url、拝見しました。
余裕が出来たら伺いますね。
今は今作の締めくくりに集中していて余裕がありませんので。
162:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 01:01:43.66 69cpDEu+
どんどん行きます。
もう、いつ最終回まで行ってもおかしくない状況なので。
コメントを頂くのは大歓迎ですが、返答は今作が終わってからになる可能性が
あります。
ご了承ください・・・
163:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 01:05:35.74 69cpDEu+
もどかしく、むしり取るように蓋を開ける。
匂いを嗅いでみたあと、一口飲んでみる。
あ・・・・・・
間違いなかった。
間違いようもなかった。
甘みの付け方や薄め方が少し変わっているものの、あの味だ。
ずっと昔、みんなと作り上げた、懐かしいあの味・・・
ああ・・・
ふと、ここにはさっきの男もいる事を思い出す。
銀「ふ、ふん・・・」
ふん、くだらない、だろうか。何よこれ、つまらない、だろうか。
斜に構えた、強気な言葉を口にしようとする。
数秒間、ぎこちない空気が流れる。
が・・・
水銀燈は、顔を手で覆い、うつむいてしまった。
胸がいっぱいになってしまったのだ。
あまりにもたくさんの思いが溢れてくる・・・
164:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 01:08:43.06 69cpDEu+
男は呆然とそれを見ていた。
最初は全くワケが分からなかった。
工場の裏手で水を飲もうと思い、自動販売機の明かりをたよりに歩いてきた
ら、いきなりわけのわからない奴が現れて小銭を要求された。
そいつは一応、小さな女の見かけをしているが、禍々しい気を放つそいつは
まるで魔物か般若のように見えた。
しかし、何故かあまり恐怖を感じなかった。
逃げようと言う気にもならなかった。
そのまま状況に流され・・・
今、そいつは顔を押さえてうつむき、小さく肩を震わせている。
え、ええと・・・
しばらく、気まずい時間が過ぎた後、そいつは顔を上げた。
男ははっとした。
そいつの顔からは、禍々しい雰囲気が消え去っていた。
禍々しささえ消えてしまうと、そいつはとても美しく、柔らかくて優しい雰
囲気を持ち、そして深い何かを宿した存在だった。
魔物なんかではない。
そう、まるで・・・天使、菩薩、女神・・・ああ、女神だ。
そいつ・・・いや、その女神が男の方を向く。
一瞬、両者の視線が交差する。
二人の間を何かが行き来する。
そして、その女神は、限りなく優しく、美しく・・・そしてちょっとだけ恥ず
かしげに、男に向かって微笑みかけたのだ。
男は魂の底から魅せられ、呼吸すら忘れて目の前の女神を見つめていた。
165:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 01:13:03.08 69cpDEu+
身動きもできずにいる男に、女神は淡い光を放ちながらそっと近づいてきた。
そして、男の耳元で、穏やかな口調で短く語りかけた。
男が目を見開く。
そして・・・
女神はゆっくりと宙を舞い、自動販売機の明かりの方へ下がっていく。
その淡い光と、自動販売機の明かりが混じり始める。
少しずつ、女神は光に包まれていき・・・やがて、女神の体全体が淡い光に包
まれる。
女神は男の方を見、ちょっと首をかしげ、笑顔を浮かべる。
そして・・・女神はゆっくりと、淡い光の中へ溶けるように消えていった。
あたりはふたたび暗闇と静寂に包まれた。
男はしばらくの間、女神の消えていったあたりを呆然と見つめていた。
男はいきなり水道の方へ走っていき、水道を全開にすると頭から大量の水を
浴びた。
一回息継ぎをして、またたっぷり水を浴びる。
男は自分の手を見る。
女神に渡された翡翠色の水晶は間違いなく手の中にある。
先程まで女神がいた場所に目をやる。
そこには何も無く、後ろの方に自動販売機がぼんやりと光っているだけだっ
た。
頭から水を滴らせながら、あたりを見回す。
何もない。
何かから醒めたような目で、手の中の水晶を見、女神のいた場所を見る。
立ち尽くしたまま、水晶と、女神の消えた場所を交互に見る。
何度も何度も。
ずっと、ずっと。
166:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 02:33:19.28 69cpDEu+
寝ぐらのある例の図書館はとっくに閉館していた。
人っ子ひとりいない。
しかし、今夜は図書館の中ほどの階、新聞閲覧室に明かりがついていた。
閲覧室の真ん中のソファがふさがっており、小さな手が新聞を支えて読んで
いた。
目当ての新聞を見つけるのに苦労したらしい。
辺りには新聞が山のように積み上げられている。
手の主は2通の新聞を丹念に読み返しているようだ。
片方は、食品・飲料業界の業界紙。
もう一つはこの県内の事を主に扱う地方紙だ。
それぞれの内容は概ね以下のようなものだった。
**************************
「食品・飲料ニュース」
S乳飲料、大手飲料・食品メーカーA乳業と合併
乳酸菌飲料□□等を代表製品とする乳飲料メーカー、有限会社S乳飲料が業
界最大手の一つ、A乳業と合併することになった。
S乳飲料は従業員数20名足らずの小企業であり、会社規模で言えばA乳業
とは百倍以上の開きがある。通常ならA乳業の一部門への吸収、という形に
なるのが自然であるが、S乳飲料の持つ高い技術力と保有する優れた乳酸菌
株、そしてその歴史に敬意を表し、異例の百倍差の合併という形となった。
新会社は何らかの形でS乳飲料の名かブランド名を残す予定である。
また、この合併によりS乳飲料の代表製品、乳酸菌飲料□□の製法と乳酸菌
株A乳業の新製品、Lに用いられる事になった。
乳酸菌飲料□□は知名度は今ひとつであったが、その健康効果と味には定評
があり、それを引き継ぐ飲料Lのヒットが予想される。
※有限会社 S乳飲料
本社所在地○県X町。明治中期に○県山間部にあった発酵職人集団を母体と
して設立された。
乳酸菌発酵及び発酵に用いる容器に関して高い技術を持つ。代表製品は乳酸
菌飲料□□、乳酸菌株ラク・スイート等。
**************************
167:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 02:36:56.14 69cpDEu+
もう一つ、地方新聞の方はこうだ。
**************************
紹介!私の町
この紹介!私の町 コーナーでは県内にあるあなたの町を毎週一つずつ紹介
しています。
第38回 「漬物の里」、別名「醸しの里」
今回紹介するのは異色の町、「漬物の里」、別名「醸しの里」です。
この里は町と言ってもずっと同じ場所にある「土地」ではなく、醸し(発酵
)とそれを支える木工・焼き物技術を専門とする職能集団でした。
彼らは驚くべき事に、決まった土地にあり続けたのではないにも関わらず、
ずっと一つの里と言えるまとまりを保ち続けてきました。
職人たちは当初は県内南部の山中にある盆地にまとまり住んでいたと伝えら
れていますが、戦乱期に何度か紛争に巻き込まれて山系を転々としました。
大変に厳しい時期もあったようですが、若手の職人を中心に結束を続け、近
隣の寺などの力も借りつつその技術を伝え続け、磨き続け、山中でたくまし
く、そして楽しく暮らしてきました。
現在は里という形でまとまって住んではいませんが、山中にいくつか史跡が
残されています。また、里の職人が中心となって作った乳飲料・食品の会社
にその高い技術が伝えられ、ある意味では里は今も続いています。
また、この里は不思議な伝説があることでも有名です。里の言い伝えでは、
妖怪や鬼、生きた人形、謎の呪術使いが住んでいたという伝承があり・・・
********************
以降は民俗学的考察というものと里の住所が記されている。
水銀燈は新聞を置いた。
図書館の別の階には地図がたくさんあり、住所が分かれば色々分かる事を知
っていたが、もう、それ以上調べる必要は感じなかった。
もう、充分だ。
あの日々は消え去ってしまってはいなかった。
再び、胸がいっぱいになる。
168:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:13:03.05 69cpDEu+
長い長い間、思い出すことさえさけていた記憶が一気によみがえる。
何百万時間も昔。
まだローザミスティカを得る前。
にもかかわらず、少しも色あせていない記憶。
笑顔。思い出。情景。
水銀燈はしばらくの間、静かに追憶にふける。
自ら、思い出すことを禁じていた時間を埋めるかのように。
そして・・・おずおずと、と言っていいほどためらいながら、心の中に、と
ある言葉を浮かべる。
自分には似合わない言葉。
心の中で言うのだから、誰にも聞こえるわけがない。
にもかかわらず、誰かに聞かれるのを恐れるように、そっと心の中でつぶや
く。
・・・私・・・みんなに会えなくなって・・・さびしいよ。
新聞閲覧室の空気が小さく震えた。
懐かしい笑顔・・・
抱きしめてくれる温かい腕・・・
真剣なまなざし・・・
みんなでがんばった事・・・
作り上げたもの・・・
楽しい事、おいしい食べ物、あけっぴろげなお喋り・・・
ああ・・・
時間の経つのも忘れて、追憶に浸る。
もう戻らない日々の追憶は悲しくもあったが、甘やかで温かくもあった。
169:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:22:26.47 69cpDEu+
時間が過ぎ去る。
温かさは心に残ったまま、冷静さも戻ってくる。
そして気づく。
水銀燈は呪われたドールではなくなっていた。
先程まで、水銀燈は確かに「呪われた」ドールだった。
水銀燈の事を呪っている者が確かにいたからだ。
呪っていたのは・・・水銀燈だった。
そう、水銀燈を呪っていたのは・・・水銀燈自身だった。
そして今、その呪縛の一部が解けたのだ。
かつて、水銀燈とみんなが、みんなの健康と幸福を願って作った物との出会
い・・いや、再会によって。
心に、そして心を通して体に重くのしかかっていた何かが消えたのを感じる。
水銀燈は、まるで肩が凝った人間がするように、首や肩をぐるぐると回して
みる。
おどろくほど、首や肩が軽くなっていた。
自分は今までこれほど力み、強張っていたのか・・・・・・
170:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:29:29.74 69cpDEu+
水銀燈は少し頭を切り替え、考える。
あの日々は素晴らしかった。そして大切な思い出だ。
決して忘れない。
そして、こういう形で部分的にでも「再会」出来たのは素晴らしい事だった。
しかし、それで何もかもが変わるわけではない。
そうとも、それだけでなにもかも変わるものじゃない。
自分にはあるべき姿と、なすべき事があるのだ。
呪われたドールではなくなった今も、自分は最凶のドールだ。
そして今後も最凶のドールでありつづけるだろう。
何故なら、自分は戦ってアリスゲームに勝たねばならないのだ。
勝ってアリスになり、お父様に会わなければならない。
会いたい。抱きしめて欲しい。
そして、色々な事を尋ねたい。
尋ねなければならない事がたくさんある。
たくさんたくさんある。
そのためには、戦って勝つには、最凶のドールであり続けなければならない。
必要なら、非情な事や汚い事だってやるだろう。
喜んでやるわけではないけれど、必要ならそうする。
そして、アリスになるのだ。
それが自分の宿命であるし、なすべき事だ。
なすべき事をやり遂げる。
きっと、それだけが・・・それこそが・・・自分を大切に思ってくれた人たち、
自分を愛してくれた人たちの想いに報いる事なのだ。
必ず、やり遂げる。
・・・見守っていてね。
171:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:40:46.13 69cpDEu+
階段の方が淡く紫色に光る。
メイメイが帰って来るようだ。
水銀燈は慌てて自分の顔をチェックする。
大丈夫だ、普段と変わりない。
メイメイが敏捷に飛んで来て、傍らにくる。
ふよふよ。
銀「おかえり、メイメイ。どうだった?
そう・・・やっぱり気配はなかったのね。ええ、こっちも見つからなかった
わ。
残念ながら、今回の目覚めはハズレだったようね。
次の時代に旅立つとするわ。」
チカチカ。
銀「ん?ああ、すぐに旅立つわよ。でも、私はちょっとすませることがある
から。
あんたは先に行って、出発の準備をしておいて。」
ふよふよ。
若干、怪訝そうにしながらもメイメイは次の時代へ旅立つ準備をしに窓から
飛び去っていく。
この時代でアリスゲームが行なわれないとはっきりした以上、すぐに旅立つ
べきなのだが・・・
水銀燈はあのサーカスの少女について考えていた。
鬱陶しい子ではあったが、あの孤独な少女をこのまま一人で置いて去ってし
まうのは気が咎める。
何とか、傷つけないようにうまく言い聞かせて・・・
172:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:52:08.72 69cpDEu+
水銀燈は肩をすくめる。
自分はそんな器用なことができるタチじゃない。
面倒ではあるが、どうして行かなければならないかきちんと話して、ちゃん
と別れの挨拶をしよう。
唐突にいなくなる、などということはするべきじゃない。
それと・・・一言、言ってやる事がある。
少女が一人ぼっちだ、と言っていることだ。
確かにあの少女には親も兄弟もいない。
それは変えようがない。
でも・・・少女は本当の一人ぼっちなんかではない。
彼女にはサーカスの仲間がいるのだ。
まあ、あの守銭奴のデブ団長や、ショウで自分が一番目立ちたいと思ってい
る連中はちょっと駄目かもしれない。
しかし、裏方や他の役割のメンバーには、割とマシな人間が何人かいる。
その人間たちは別に少女を嫌ってなどいない。
それなのに少女が一人ぼっちになってしまっているのは・・・少女自身が自分
がひとりぼっちだと頑なに思い込み、自分を閉ざしてしまっているからだ。
少女を孤独にしているのは少女自身なのだ。
その事についてひとこと言ってやろう。
ああ、まったく、人間というやつは面倒だ。
でも・・・
夜空の雲が流れて行き、開けっ放しの窓に月光が射してくる。
窓辺で、月光も静かに微笑んでいる。
水銀燈は翼を広げ、夜空へと飛び立った。
173:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 03:56:31.16 69cpDEu+
作者より
予定より若干早いですが、このまま、最終回「エピローグ」をお届けします。
174:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 04:00:30.76 69cpDEu+
乳酸菌とってるぅ?
エピローグ
~現代 廃教会~
話し始めるときにストーブに乗せたヤカンはとっくに沸騰しており、盛んに
湯気を吹き上げている。
水銀燈は立ち上がってヤカンを手に取ると、釜飯の容器や皿、スプーンなど
を熱湯消毒する。
次いで、湯を水で薄めて人肌ほどの温度のぬるま湯を作る。
先程持っていた、茶色っぽい荒挽きの粉のような物が入った袋を開ける。
良く見ると、袋には汚い字で「米ぬか ご自由にお持ちください」と書いて
ある。
ぬかを釜飯の容器に入れ、塩の小袋・・・病院食でゆで卵が出るときに付いて
来る物だ・・・をいくつか開封して入れ、ぬるま湯を入れて手早く混ぜていく。
かなり手際が良い。
当人も楽しそうに鼻歌まじりで作業している。
ぬか床を整え終わると、どこかから持ってきたキュウリの切れ端を埋め込む。
銀「これはねぇ、食べるためじゃなくてぬか床作りのためなの。捨て漬けっ
ていうのよぉ。」
175:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 04:06:13.84 69cpDEu+
次いで、乳酸菌飲料・・・例の大手食品メーカーA乳業のものだ・・・を持ってき
て蓋を開け、ほんの少しぬか床に垂らして浅く混ぜ込む。
銀「こうするとぬか床の熟成が早まるし、味に深みが出るのよぉ♪」
残った乳酸菌飲料を小さく喉を鳴らしながら飲み干す。
束の間、幸せそうな表情になる。
しかし、何故釜飯の容器で作るのだろう?
銀「ん?漬物は甕(かめ)で作るものなのよ。」
え?それはカメじゃないんでは?
銀「何言ってるのぉ。ほら、ここ見てみなさぁい。」
カマ
メシ
銀「ね?カメって書いてあるでしょぉ?」
縦・・・・・・メイメイは余計な事は言わない事にした。
水銀燈は鼻歌を歌いながら漬け込み作業の仕上げをする。
銀「♪ ふんふっ ふんふ ふふふふふ~ん
不浄の月 腐乱のよるぅ~ ♪」
どんな漬物が出来るのだろう。
自分は食べられないが、楽しみになるメイメイだった。
176:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 04:34:51.87 69cpDEu+
メイメイは考える。
この漬物はやっぱりめぐに食べさせるのだろうか?
多分そうだろう。
めぐは薄味の病院食にうんざりしている。
たまには漬物でも食べれば食欲が出るかもしれない。
そして何よりも、水銀燈が自分のために食べ物を作ってくれた事を喜ぶだろ
う。
ん?
めぐは心臓に問題がある。
塩分のある漬物は大丈夫だろうか。
普段のめぐの病院食を思い出してみる。
薄味ではあるが、厳しい塩分制限はされていなかったはずだから、少しなら
大丈夫だろう。
まあ、一応、後でめぐのカルテを調べておこう。
・・・メイメイは面倒見の良い性格だった。
そして・・・人工精霊はあくまでも、器のドールではなくローザミスティカに
属するものであるが・・・メイメイはこのちょっと困ったドールが嫌いではな
かった。
めぐと水銀燈の関係はこれからどうなっていくのだろう。
今は不健全な依存がかなり混じりこんでいる。
それを乗り越えて、二人の関係は本物の絆になり・・・かつて、全う出来なか
ったと水銀燈が感じている絆を補い、そしてそれを越える意味を持つのだろう
か。
それとも、このまま共倒れになるのだろうか。
そして、アリスゲームは。水銀燈の運命は。
分からない。
分かりようもない。
分からないけれども、どうなるにせよ、その最後の時まで水銀燈と一緒に居
よう。
そう思うメイメイだった。
177:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 04:47:09.92 69cpDEu+
夜中。
廃教会の近くの国道をトラックが数台通り過ぎていく。
数時間走ると、ある町が見えてくる。
廃教会から凄く遠くはないが、すぐ近くでもない地方都市。
トラックのうち一台が角を曲がり、その町へ入る。
正確には十数年前に近隣の町と合併して市になっていたが、今でも町と呼ぶ
ほうが似合う雰囲気の地方都市だ。
トラックはこの町にある乳酸菌飲料販売店を目指す。
その店にはちょっとしたエピソードがあった。
50年あまり前。
この販売店とは別の販売店に突然ある男がやってきた。
男は粗末ではあるが清潔な服装をし、不思議な色の水晶を紐で不器用にくく
ったペンダントを首に掛けていた。
男は乳酸菌飲料の自動販売機に書かれた店名を見てやってきたと言い、この
店で働かせて欲しいと言った。
男は、住所不定の上、身分を証明する物を何も持っておらず、保証人も居な
い。
この地方にあった寺の住職の一族だとは言うが、それを証明する物は何もな
かった。
しかも、寺は戦災で消失している。
男は書類上は正体不明に等しかった。
しかし、その男の澄んだ目、そして熱意が滲み出る雰囲気に店長は何かを感
じ取り、男を営業兼配達係として雇う事にした。
男は期待を裏切らず熱心に働き、信用を勝ち得ていった。
その後、病気や不景気等もあってその道は平坦ではなかったものの、男は地
道に働き続けた。・・・時折、ペンダントの水晶に触れながら。
そして約二十年の後、男は今の場所に自分の店を持つに至った。
現在、この地区の卸と配達を扱う主販売店だ。
178:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 05:00:08.11 69cpDEu+
それ以降も男、改め店主は地道に働き続けた。
そしてこの町の人々のために尽力した。
学校や幼稚園への手助け、保育所の設置の世話人、福祉への協力、民生委員
への就任。
のみならず、店主は困った人を見ると放っておけない性格だった。
困った人に頼られればいつでも手を差し伸べた。
店主は誰にでも優しかった。
殊に、心弱いものや道を踏み外した者にも優しかった。
この町の元不良少年・少女で店主の世話にならなかった者はほとんどいない
だろう。
店主の綺麗に禿げ上がり、髪が一本もない温顔は何か超越した物さえ感じさ
せた。
仏様のような人、と言われる事もあった。
また、晩婚だったが良縁に恵まれ、4人の子供にも恵まれていた。
やがて、店主も孫が何人も出来、老人と呼ばれる年齢になる。
老いてもその温顔と優しさは何一つ変わらなかったが、さすがに体力は衰え、
7年前に息子に店を譲り、隠居した。
その後も体力の許す範囲で困った人の相談に乗ったり、困った人々のために
自分が出来る事をしていたが、次第に衰え・・・ついに去る年、この世を去っ
た。
家族に囲まれ、穏やかな最期だったという。
葬儀には親戚や近所の人々のみならず、市長や市会議員、同業者、店主に世
話になった福祉関係者、元不良少年・少女まで、たくさんの人が参列した。
歴史に残るような派手な人物ではないが、町の名士であり、偉人だった。
その在り方は町の人々の心に何かを残した。
179:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 05:07:29.35 69cpDEu+
もう一つ、店主が残した物があった。
乳酸菌飲料販売店の横には小さな祠が建っている。
そこに、店主が自ら彫った石像があった。
多分、仏像なのだろう。
しかし、それは仏像としては少し変わっていた。
その仏像は、やや長い髪と優美な翼を持つ女性の姿をしていた。
服装も、どちらかと言うと洋風のドレスに近いように見えた。
手にはかつては店主のペンダントだった翡翠色の水晶が乗せられている。
像は微笑みを浮かべ、片手でその水晶を差し出していた。
この像が何かと尋ねた者もいたが、店主は言葉少なに笑顔で菩薩様だよ、あ
るいは水晶菩薩様だよ、と答えるだけだった。
こんな姿の菩薩様が居ただろうか、と疑問に思うものも居たが、ほとんどの
人は素朴な信仰心しか持ち合わせていない。
仏教に関係の深い家に生まれた店主が言うんだから間違いないだろう、と思
うだけだった。
像は見るからに硬そうな石で出来ていた。
店主が石材店で相談し、一番長持ちする石と言われて買ってきたものだ。
店主はこの像が長い間姿を保つ事を望んだのだ。
像の出来は正直に言って、本職の石工が彫ったものと比べれば劣るだろう。
どちらかと言えば素朴な出来だ。
しかし、実にいい顔をしていた。
特に、その笑顔は素晴らしかった。
初めて見る者を例外なく、はっとさせるだけの何かを持っていた。
180:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 05:14:19.76 69cpDEu+
あの出会いはたった数分に過ぎなかった。
若き日の店主は自分の先祖たちと水銀燈の縁も、巡る想いの歴史も知っては
いなかった。
いなかったが、何かを感じ取っていた。
気力をなくし、希望をなくし、空ろになりかけていても・・・いや、ほとんど
空っぽであったからこそ、あの笑顔の本質を自分の深い所で感じ取った。
そして店主は自分があるべきと感じる生き方へと戻り・・・あの出会いを、あ
の静かに輝く笑顔をずっととどめたいと願って像を刻んだ。
永遠に消えないように。
永遠に忘れないために。
あの笑顔は・・・穏やかだが非常に強い光だった。
「絶望するために生まれてきた」
素直な心の持ち主だった者がそこまで言うほどの運命。
降り積もった悲しみや憎しみでできた深い深い闇。
ささやかな幸福への喜び。
儚い者たちが伝えたもの。
追憶、記憶、想い、愛情の記憶・・・
そういったものたちが放った小さな光。
その光が闇に打ち勝ち、心を穏やかな光で照らした。
あの笑顔はその光の勝利そのものだったのだ。
181:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 05:17:37.47 69cpDEu+
そして・・・
・・・いや、語りすぎるまい。
その笑顔が・・・見る人の目に映り、思い浮かべる人の心の中に浮かんだその
笑顔が、充分に物語っているのだから。
像の素晴らしさに惹かれて、そして亡き店主の人柄を慕って、像には今も供
物が絶えない。
深夜。
トラックが店の前にとまり、乳酸菌飲料が冷蔵室に運び込まれる。
朝。
配達の女性たちが賑やかに出勤してくる。
乳酸菌飲料が自転車や自動車に積み込まれる。
たくさんの人のもとへ、あの里の乳酸菌の子孫たちが運ばれていく。
水銀燈の顔の石像が、微笑んでそれを見守っている。
~ 終 ~
182:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/19 05:18:44.11 69cpDEu+
長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。
183:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/19 05:55:19.95 R2NP7Ec0
お疲れ様でした
184:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/19 07:16:19.43 a9tpt+Fb
完結乙。
釜飯が喰いたくなりました。
185: ◆TEGjuIQ24E
11/06/19 09:37:09.80 OkWGQOtu
超大作乙でございました。
なんという読後の爽快感……総てが繋がったとき、
銀の魅力的な笑顔が思い浮かんだときに
こう、込み上げる何かが……
里でのほんわかとした雰囲気から
時代が移る直前のただならぬ空気、
浪人との出逢いそして現在、
臨場感あふれる文章最高でした。
ここに心からの 乙っした! を贈ります!
186:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/19 19:09:41.62 XSUSutek
乙!
187:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/21 01:31:31.52 XO5atWR2
>>183
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
>>184
ありがとうございます。
一時期、近作って終わらないんじゃないかと心配になったので、完結できて
良かったです。
釜飯、旨いですよね。是非食べてくださいw
ただ・・・たしか、
かま
めし
って書いてあるのは釜本体じゃなく、包装か解説書きだったと思いますし、
バージョンによって少しずつ違うはずなので、かまめしロゴがなくても怒ら
ないでくださいねw
188:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/21 01:40:56.86 XO5atWR2
>>185 TEGさん
本当に、しっかり読み込んで頂いてありがとうございます。
銀の魅力的な笑顔を思い浮かべて頂けたのなら、もう、全てを読み取っていただけたんだと思います。
しっかり読んで頂いて、素晴らしいコメントを頂きまして作者冥利に尽きます。
また、途中でも何度も励ましのコメントを頂きましてありがとうございました。
それがなかったら、多分、完走できなかったと思います。
本当に感謝しております。
TEGさんは壮大なスケールの大作の途中なんですよね。
今回、自分は書き続ける事の難しさをつくづく思い知りました。
TEGさんがずっと書き続けている事、素直にすごいと思います。
多分、全部あわせれば俺の今回の作品より長いでしょうしね。
これからも頑張ってください。応援しております。
189:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/21 01:43:35.65 XO5atWR2
>>186
ありがとうございます!
短くともコメントを頂けて嬉しいです。
190:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/21 01:46:21.34 XO5atWR2
そして、
>応援してくださった皆様へ
コメントをくださった皆様、本当にありがとうございました。
読んでくださって、コメントをくださる方々が居なかったら、とても完走は
できなかったと思います。
心より、感謝しています。
皆様に幸あらんことを!
191:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/21 01:48:14.80 XO5atWR2
あ、もしも今作について、何か聞きたいことがあれば遠慮なくどうぞ。
答えられる範囲で答えさせていただきます。
#あと、後書きっぽいものを書くかもしれません。
192:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/21 16:49:42.81 kYoyL08x
>>191
では質問
・まとめサイトは欲しいですか?
・避難所は存続させたいですか?
このスレの作品ってぷん太みたいな纏めサイトに拾われないから不幸といえば不幸だよね
193:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/22 22:09:31.40 lG7PhwYI
>・まとめサイトは欲しいですか?
これはスレ全体で決める事だと思いますが・・・
俺自身は別に欲しくないです。
そこそこマメにスレを見てるので、スレに載ったSSは全部読んじゃってるのでw
>・避難所は存続させたいですか?
これは管理人さんとこれから投稿予定の人で決める事だと思います。
こまめに投稿する(つまりアクセス規制が問題になる)人にとって必要な仕組み
ですからね。
俺自身はもう連載形式での投下の予定はないので、他の方のよろしいように。
194:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/22 22:43:07.12 lG7PhwYI
あとがき・・・のようなもの。
まかなかったジュン編で水銀燈がカナリアに「私がおばかさん、って言葉を
覚えたのはあなたのせいよ」みたいな事を言う場面がありましたよね。
だったら、「はぁ?」も誰かの影響で覚えたのかな、と反射的に思いました。
・・・そんな言葉、少女人形に最初から覚えさせてあったとは思えないのでw
それとは別に。
何かの機会にヨーグルトの歴史を調べていた時。
今作の中でも触れましたが、実はヨーグルト(酪)は奈良時代にはもう日本
にあったんですね。
じゃあ、それからずっと日本にあったのかというと、どうやらそうではない
らしく、戦国~江戸時代に失伝するというか廃れるというか、とにかく絶え
てしまったらしいんです。
そして、日本は明治以降になって、ヨーグルトに「再会」したわけです。
現在の歴史の解釈ではこれが正しいとされています。
でも・・・ひょっとしたら、どこかでひっそりと伝えられていたり、あるいは
他の乳酸菌絡みの何かの中に生きていた、なんてこともあるんじゃないかな。
そんな妄想と、先に書いた「はぁ?」を水銀燈に教えた誰か。
水銀燈=乳酸菌好き。
プラス、伝承や再会・・・言い方を変えると、継がれるもの、失われるもの、
再発見・・・等のモチーフを組み合わせ、今作は生まれました。
#結果、日本の乳酸菌飲料の元祖は銀様が作った物だった、という衝撃の史
実(笑)まで出来ちゃいましたけど。
思いがけなく長編になった「乳酸菌とってるぅ?」、何か印象に残る部分が
ありましたら幸いです。
195:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/22 22:45:41.70 lG7PhwYI
おまけ。
「かわせみ」って入力して、漢字に変換してみましょう。
「川蝉」以外にも意外な漢字が当てられてるんですよね。
196:名無しさん@お腹いっぱい。
11/06/22 22:53:49.83 iBx29Mrs
完結乙でした。
カワセミ=めぐでなく、まさかあの人物(?)だったとは。
他の姉妹は何処? なんて野暮なこと聞いちゃいけませんよねぇ。
アニメマンガ通して、確かに彼女とは関わりがイマイチ薄いように見えたけど、実はこんな繋がりがッ!
面白い発想だと思いました。楽しめました、良作をありがとう。
197:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/22 23:17:05.33 lG7PhwYI
>>196
あ、半分ぐらい誤解させてしまいましたね(汗
その姉妹の言葉遣いから時代物にした、っていう点では関係ありますが、カワ
セミと「=」ではないんです。
ストーリーの中で関係あるのは、最後の方に出てきた謎の水晶の色です。
ところで、生まれ変わりの話をしてた方ですか?
あれ、結構鋭い!と思いました。
カワセミは、実は「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」
なんです。
病人のめぐ - 翼を持ち、強気で行動的な水銀燈
まだ飛べないしほとんど歩けない水銀燈 - 作中のカワセミ
ってね。
後半はカワセミはわりと変化しちゃったんでこの印象は弱まってしまいましたが。
今回も、途中でも嬉しいコメントをありがとうございました。
198:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/22 23:18:32.27 lG7PhwYI
訂正。
「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」
↓
「水銀燈との関係性がめぐと『逆』になっているめぐと似たような人」
199:「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU
11/06/25 15:49:21.80 8fcTyixi
あ、誤解のないように補足しておきますが、俺の作品をまとめサイトで取り上げて
頂くのは大歓迎ですので(^-^)
200: ◆TEGjuIQ24E
11/06/26 01:14:16.67 ZyeZ3CjY
ガッコが忙しくてなかなか参上できなくてすいません。
本編掲載あたりにペースを合わせることもままならず……
うおおお……orz
まとめサイトは歓迎の考えです。
ちゃんとSSがイッキに読めるから、というだけなんですけども……f^_^;)
良いところで突然○ねだなんだは見たくはない訳です。
避難所も必要だと思われます。昨今の規制地獄、いつ規制されるか
わかったもんじゃありませんからね。2時間前まで書けたのに、すら
あり得る世界です……メタクソ理不尽ですけども。
まとめサイト掲載は、俺のもOKです。保管庫があるぐらいですから
多分どっちOKなんでしょうけど、念のためということで……。
201:(代理してた人)
11/06/26 21:45:07.33 2OVP1cCR
未だに10月以降の予定が不明で、長期的なことは何とも言えません。
ただ、最悪でも8月一杯くらいまでは避難所だけは管理維持できると思います。
Wiki形式のまとめサイトに関しては、@wiki辺りに簡素なものを作って作れないことはないのですが……
現状では自分自身の去就が上記の通り不透明ですし、
SS関係のwikiはwiki管が手を放した時点で死ぬ傾向があるので、ちょっと今のところ私は手が出せません。
他の方にお願いしたいと思います。
●持ち以外の方が過去作を読む場合、TEGさんのようにSSだけ連続で読めるように等、需要あるとは思います。
202:名無しさん@お腹いっぱい。
11/07/13 14:42:32.52 X+9TTVk8
オワコン
203:名無しさん@お腹いっぱい。
11/07/22 20:58:02.65 ua25ib2D
過去ログ倉庫が更新停止するそうですね
あそこにはお世話になりっぱなしでした
204:名無しさん@お腹いっぱい。
11/07/23 10:30:24.00 DSfxJ6xb
折角原作が動き出してきたのに(´・ω・) 今までご苦労様でしたとしか
やっぱアニメのほうは良くも悪くも5年前の作品ってことですかなぁ…
アニメの完結編も見てみたいんだけど無理なのかなー
権利関係で揉めそうだし…
205:名無しさん@お腹いっぱい。
11/08/12 19:58:16.74 KNmU/1V7
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ~っ!WA★RE★TA★YO~!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高~!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ~っ!WA★RE★TA★YO~!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高~!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式
206:名無しさん@お腹いっぱい。
11/08/12 19:59:24.00 KNmU/1V7
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
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男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
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男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
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207:名無しさん@お腹いっぱい。
11/08/12 20:00:56.34 KNmU/1V7
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
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208:名無しさん@お腹いっぱい。
11/08/12 20:01:52.61 KNmU/1V7
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
喰いまくって腹壊してーよ!!二式のブリーフ履きてーよ!
オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
気がついたら糞まみれそれが二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式のブリーフ
寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
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オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
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寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
209: ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:27:38.62 KcK3nR8/
12週間のご無沙汰でした。TEGです。
大変遅くなってすみません。
RozenMaiden Fortsetzung 第34話と第35話を投下しますよ。
では行きます。
34【蒼星石と結菱一葉の時計】
210:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:31:06.01 KcK3nR8/
【第34話 蒼星石と結菱一葉の時計】
[2005/01/06 07:59]
[柴崎時計店 工房。]
1月6日、晴れ。最低気温、1度。
庭の草に霜が降りている。お婆ちゃんの淹れたお茶も少し熱めだ。
そんな中でも、マスターは時計を取り出し、今日も仕事を始める。
何やら、おかしな時計を扱っている。いったい何なんだろう。
元治「さーて、今日も始めるとするかのう。
昨日の時計は…… と」
蒼星石「マスター、ずいぶんと変わった時計ですね。文字盤の数字が
てんでバラバラ…… いったい、どんな方が……?」
元治「うむ。これは『クレージーアワー』と言ってな、短針の動きが
面白いのじゃ。ホレ、間もなく正時じゃ、見ておれ。」
211:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:32:49.81 KcK3nR8/
[08:00]
ヒュンッ
蒼「わあっ! てっぺんに針が……5時間も進みましたよ!?」
元治「フォッフォッフォ…… これはな、1時間ごとに短針が30度でなく
150度ずつ進んでいくのじゃ。インパクトは、絶大じゃろう?」
蒼「とても驚かされました…… 短針はびくともしていないのに、
一気にジャンプするなんて」
元治「最近世に出たものでの、確か去年だったかな。ワシも初めて見たときは
腰を抜かしたものじゃわい。」
時計の針はその動きを変えず、一定に、然るべき方向へ進む。
それは普通の時計でも、逆さ時計でも同じことなんだけど……。
こんな時計もあるんだね。
212:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:37:40.87 KcK3nR8/
蒼「逆さ時計は何度か見たことがありましたが……」
元治「逆さ時計も、預かっておるぞ。これは昨日直し終わったものでのう、
今日の昼前に持ち主が来られるはずじゃ。」
蒼「ふむふむ……」
文字盤の6と12を結ぶ線を境に、2色に塗り分けられている。
裏面は、普通の蓋がしてあるけど、文字盤と同じように、左右に
均等に分かれている。
一方には刻印がしてあって、もう一方には何もない。かなり、
変わったデザインだ……
マツ「あの薔薇屋敷の主ですね? いやあ、どうしてこんな所にと
思いましたが……ねえ、貴方」
元治「うむ。あの大富豪がの。預かり証の名字ですぐに分かったが、
意外にも自ら『あの薔薇屋敷から来た』と言ってのう。」
213:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:39:26.50 KcK3nR8/
薔薇屋敷。nのフィールドの中にも同じ名前の屋敷があるけど、
現実世界に、しかもすぐ近くにあることは知っていた。たまに、
ジュン君の家から外を通って戻るときに、見かけていたんだ。
翠星石が時々それに見とれて、何回かカラスにぶつかりそうに
なったことがあった。それくらい立派なお屋敷なんだ。
蒼「あのお屋敷でしょう? ジュン君の家から少し歩いたところ
に建っているって言う……」
元治「そうじゃ、結菱一葉という男じゃよ。先祖が華族で、この
あたりでは有名なのじゃ。齢75、車いすで、使いの者が
時たま世話に来るが、誰も共に住んでおらんのじゃ。」
マツ「ええ、それでもあれだけの量の薔薇を手入れしている、
ときたもんですから、大層しっかりとした健康な体を
お持ちなのでしょうね。私らも見習いたいですよ。」
僕らは遠くからしか見たことがないけど、どうやらあの屋敷の
庭にも、nのフィールドのそれと同じように、たくさんの薔薇が
咲いているらしい……一度、見てみたいね。
214:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:41:25.23 KcK3nR8/
元治「昔はマツと薔薇屋敷によく遊びに行ったもんじゃて。ホッホ。
この時計も、同じようにしっかりとしておる。古い物じゃが、
この通りよく動いておるぞ。しかし……」
蒼「どうしたんですか?」
元治「彼が時計を持ってきたときに、何やら焦りを感じたのじゃ。」
マツ「それも、かなり深刻な事態のようでした。顔が、青ざめて
おりましたし……車いすを押していた使いのお方も、どこ
となく浮かないお顔を……」
蒼「ふむ…… 3時間もすればここに来られるんですよね。
少しお話を伺ってみるのもいいかもしれませんよ。」
元治「そうじゃなあ…… 何か大切なもののようじゃしのう。
『K.Yuibishi』……本人の物のようじゃな。
しかし下段の刻印……半分で途切れておるのか?」
マツ「『MCM』と『12th』……何の12番目ですかね?」
215:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:44:18.20 KcK3nR8/
[10:21]
[公園付近。]
クレージーアワーの修理が終わるまで、僕は公園で一息入れる
ことにした。さっきの時計の刻印、いったい何なんだろう……
蒼「ふふ……また金糸雀ったら、ジュン君の部屋に忍び込もうと
していたら、すぐに見つかっちゃってさ」
レンピカ{ピカピカッ}
蒼「とても僕には侵入なんてできないや……はは」
レンピカ{ピカピカッ ピカッ}
「ちょっとそこの、おぼっちゃん」
216:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:47:50.37 KcK3nR8/
蒼「? ……僕のことかな」
「このあたりで時計を見かけなかったかね?」
突然呼び止められて振り向くと、そこにはマスターと同じ位の
年齢の、眼鏡をかけた男の人がいた。どうやら、時計をこの辺り
でなくしてしまったみたいだ。
蒼「い、いえ…… 僕はいま通りかかっただけなんですけど……
よければ一緒に探しましょうか?」
「ああ、ありがとうよ。懐中時計なんだが、一昨日私達がここで
休んでいるときに、どこかに落としてしまったようなのだ。」
蒼「懐中時計ですね。……この公園、けっこう広いから……
ああ、貴方はここで休んでいてください。僕が、見つけますよ。」
「すまないな…… どのベンチで休んだかも覚えていなくてな。」
蒼「大丈夫です。僕、ここでよくかくれんぼとかしてますから。」
217:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:49:15.11 KcK3nR8/
[10:32]
蒼「とは言ったものの……」
レンピカ{チカチカッ}
蒼「ああ、照らしてくれるんだね。ありがとう。」
いつも雛苺たちと、かくれんぼや鬼ごっこをしてるおかげか、
公園の内部は大分把握できている。けど、物が物だからなかなか
見つからない……しらみつぶしに探すしかない。
[10:36]
蒼「あと探してないのはこのあたりだけか……」
レンピカ{カッ}
蒼「……! あった……あれ? こ、これは……」
218:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 20:51:28.88 KcK3nR8/
公園から一番遠くのベンチの裏で、懐中時計を見つけ出した。
見たところ、いわゆる「時計回り」の方向に動く時計のようだ。
けど、このデザイン……どこかで見たことがある。
蒼「ありましたよー!!」
「おお、ありがとうよ。 おお、これだ。良かった……」
蒼「……ところで、最近柴崎時計店に行かれませんでしたか?」
「あ、ああ……一昨日行ったが、どうしてそれを?
この時計を落としてしまってから行ったのだが……」
蒼「これと、配色が左右逆のデザインの時計を見かけたんです。
僕、柴崎時計店の者で…… 結菱さん、ですよね?」
「いいや、結菱という者を、私が世話をしているのだ。
申し遅れた、私は安倍川弘という。」
蒼「僕は……蒼星石といいます。」
安倍川さん。彼は、薔薇屋敷の近くに住んでいるようで、長年
結菱さんの家と関わりを持ってきたと話してくれた。思いのほか、
早く打ち解けられたみたいだ。
219:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:15:49.92 KcK3nR8/
安倍川「そうせいせき、か。……時計店の者と言ったな。
修理のほかに、もう一点、頼みがあるのだが……」
蒼「はあ……」
安倍川「……一葉様と、この後時計店に行くことになっている。
最近、どうも一葉様は何かに悩んでいる。私にも、余り
口を開こうとはしないゆえ、どうすべきか分からない。」
蒼「ああ、それでしたら…… 話を聞くつもりですよ。
一昨日も深刻な表情をしていたと、マスターが…… あっ、
マスターというのは、時計を修理する元治さんで……」
安倍川「なるほど、……それならば良かった。話が早い。
では、また後程お会いしよう。」
蒼「はい。お待ちしております。」
多分、もうこの時には「一葉さんの運命を変えに行かなければ
ならない」ような気がしていたんだろう。その時はただの庭師の
カンで片付けようとしていたけど……
220:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:23:34.09 KcK3nR8/
[10:44]
ヒューン……
蒼「……安倍川さんか。使いの者って、あの人のことだったんだね。」
レンピカ{ピカッピカッ}
蒼「しかし、薔薇屋敷は大きいなぁ。ここからでもよく見えるや。」
[11:00]
蒼「ただいま戻りましたー。」
元治「おお、蒼星石や、帰ったか。お茶が入っておるぞ。」
蒼「あっ、ありがとうございます。」
元治「うむ…… 丁度良かった。この時計を良く見てくれんか。
この、境目の所じゃ。MCMの後に、文字の『セリフ』が
見えるじゃろう。おそらくこの刻印、続きがあるぞ。」
蒼「はい…… ……やはり」
セリフとは、文字の先についている「鉤」のことだ。
この刻印の続きは、公園で探したあの時計の裏にあるんだろう。
221:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:24:41.88 KcK3nR8/
さっきは時計の裏面までは深く読んでいなかったけど、もうすぐ
安倍川さんと結菱さんが来るから……分かるかもしれない。
元治「!? ……な、何か知っておるのか!?」
蒼「実は、先ほど散歩に出かけていた時なんですが、
結菱さんの使いという人に出くわして……デザインが正反対
鏡に映したような、同じ時計を見たんです。」
元治「な、なんと……。」
[11:11]
僕がマスターに安倍川さんに出会ったことを明かした、まさに
その時だった。店の扉が開いて、2人の老人が入ってきた。
安倍川さんと、彼が押している車椅子の上のお爺さん。
みたところ、マスターよりも年上だった。……この人が、あの
結菱さんで間違いない。
222:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:26:18.04 KcK3nR8/
ガラガラッ
安倍川「すみません、一昨日時計を修理に出した者ですが……
……おお、蒼星石。」
一葉「…… ……君が、蒼星石か」
蒼「はい。 結菱さんですね。」
一葉「そうとも。 ……時計は、直りましたかね。」
元治「時計なら、この通り動いておりますぞ。いい仕事を、して
いらっしゃる…… ところで、この品についてですが……
もしやもう一品、対になるものがありませんかな?」
一葉「……よくぞお気づきになられましたな。こちらです。」
結菱さんの手にそっと握られていたのは、僕が探した時計だ。
こうしてみると、本当に文字盤だけ、マスターが直していた時計
を、鏡で映しているみたいだ。
223:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:28:09.63 KcK3nR8/
蒼「マスター、僕が見たのは、この時計です。」
元治「ふむ、何かわけありの様じゃな……よろしければお話を。」
一葉「……裏面の刻印を見ていただけますかな」
元治「こちらは『K.Yuibishi』ですな。そして、今
貴方が手にしている方には……『F.Yuibishi』。
『K』は、一葉さんのイニシャルですかな?」
一葉「その通りです。」
一葉「そして…… この『F』は弟の二葉のイニシャル……。
私は……双子だったのですよ。」
蒼「双子……!」
結菱さんは、双子だったのか。けど、「だった」って……
224:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:31:42.36 KcK3nR8/
一葉「二葉は27の時に海難事故で亡くなってしまいましてな……
忘れもしない昭和32年6月14日……48年になります。
この時計は、その船出の前に贈ったもので……」
結菱……一葉さんは、そう言うと時計を裏返して、蓋の刻印を
見せてくれた。ふむふむ……さっきの『F.Yuibishi』、
下の段の1行目が『LVII』、そして2行目が『June』。
2つを繋げると……『MCMLVII』『12th JUNE』。
そうか、この時計は1957年6月12日に、自分と弟のために
作られたものだったのか……
元治「そう、でしたか……」
一葉「私は……ずっと二葉の影に縛られて生きてきたのです。
二葉が生きている間も、二葉が居なくなってからも……
私は取り返しのつかないことを……」
225:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:33:25.28 KcK3nR8/
安倍川「……一葉様がお昼寝をしておられるときも、うなされている
ことがあるのです。」
蒼「……夢の中でも、ですか……」
この時計に、そんな事情があったんだね……。いったい、何が
あったのだろう。夢の中でも、影に縛られているのかな。
この僕に、何か、してあげられることは……
マツ「……夢の中…… あっ、私に名案がありますよ。」
元治「おお、そうじゃった、そうじゃった。
……蒼星石よ、いまこそ……お前の力が必要じゃ。」
蒼「心の、樹……」
226:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:34:57.99 KcK3nR8/
お婆ちゃんのひらめきが、「僕が何をすべきか」に繋がった。
そう、僕は心の庭師。夢でも苦しんでいるなら、心の樹に何か
起こっているのかもしれない。
多分、同じような経験をお婆ちゃんがしてきたというのもあった
んだろう。息子のカズキ君のことでずいぶんと悩み、苦しんだ事
があったっけ。あの時は、僕をみんなが助けてくれたな。
よし、今度は……
蒼「はい。……やってみましょう。」
安倍川「な…… いったい、何が……!?」
蒼「一葉さんのこと……なんとなく、分かる気がするんです。」
一葉「……どうして……」
蒼「……僕も、姉と双子なんです。双子だからこそ……自分が、
『1』として生きるか、或いは『2分の1』として生きるか。
長い間、悩んできました。」
227:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:38:24.05 KcK3nR8/
元治「そして……私もこの子に幻影を重ね、縛ってしまった。
家族を亡くす気持ちは、私にも分かります。」
マツ「30年前、まだ9つのひとり息子を亡くしているのです。」
僕がこの家に来たのも、そのことがあってだった。誰かの影に
ずうっと縛られながら、何十年も生きてきた。今にして思えば、
レンピカは、そんなマスターたちを支えるべく、選んだのかな。
一葉「出逢ったばかりで、恐縮なのですが…… 私もあなた方
のお話を詳しく聞きたいのです。二葉に……最愛の弟に
心からの詫びができるかもしれない。」
安倍川「次の店休日に、薔薇屋敷に来ていただけませんか。
何人でもご招待しますので……。」
元治「……ぜひとも。この子と、この子の双子の姉と、姉の
……親友とで、一緒に行かせていただきます。」
228:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 21:41:05.12 KcK3nR8/
[11:27]
蒼「次の店休日は確か10日…… 祝日で、ジュン君は休みだね。
翠星石にも、話しておかないと……。」
蒼「……こんど、スコーンを作ってあげよう。」
翠星石にだけは、心配をかけたくないからね。もう、あの時の
ように、独りで抱え込んだりはしない。
229:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 22:07:53.51 KcK3nR8/
[20:21]
[桜田家 ジュンの部屋。]
ジュン「もう明日から3学期かー、早いなー。」
翠星石「宿題はちゃんとできてるですか? オメーいつもいつも
最後の日になってからしかやらないですから……」
ジュン「フフフ、今度はもう完璧に終わらせてあるんだ。
中学までの僕とは一味違う!」
翠「……す、すごいオーラを感じるですぅ……
なかなかやるじゃねーですか、チビ人間。」
ジュン「と言っても終わったのは昨日なんだけどな……
『X』のやつ、なかなか手ごわくなってるぞ。」
翠「さすが、翠星石が目を付けただけのことはあるです。
さーて、そろそろティータイムにするですか!」
ジュン「そーだな、僕はコーヒーにしようかな……」
230:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 22:08:52.23 KcK3nR8/
[20:24]
[廊下。]
RRRRRR...
ジュン「ん? こんな時間に誰だろう…… なっ、なんだこの
名前は……『そうせいせき』!? 蒼星石なのか!?」
翠「んん? ……ああ、これは蒼星石の番号ですねぇ。
時計屋ですから安心して出るといいですよ。」
ジュン「あ、ああ…… 本当に蒼星石なのか?」
翠「そこの黄色い本に載ってるって、のりが教えてくれたです。
速攻で翠星石が登録しといたですから早く出ろですぅ。」
ジュン「はぁ……」
ガチャ
ジュン「もしもし、桜田ですけど……」
蒼[もしもし? その声、ジュン君だね。
よかった、起きてて。夜分遅くにごめんよ。]
231:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 22:10:05.52 KcK3nR8/
ジュン「ああ、蒼星石か。本当に蒼星石だったのか。」
蒼[え? ……なんだかよくわからないけど……
いや、そうじゃなくて、ジュン君にお願いがあるんだ。]
ジュン「な、なんだ……?」
蒼[1月10日…… 暇はあるかい?]
ジュン「10日? ……ああ、8日から3連休だから、今の所は
大丈夫だけど……何かあるのか?」
蒼[うん。 その日に……時計店に来てくれないかい?
できれば、翠星石も一緒に。薔薇屋敷に行くんだ。]
232:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 22:11:22.51 KcK3nR8/
ジュン「薔薇屋敷……!? あのnのフィールドの!?」
蒼[いや、違うよ。結菱って言ったらわかると思うけど]
ジュン「ああ、あそこか。 ……わかった。行こう。
もう、10年ぐらい行ってないけど、場所分かるから。」
蒼「ありがとう。……そうだ、翠星石に代わってくれるかな?」
ジュン「おう、ちょっと待っててくれ。」
翠「翠星石ですけどー。 どうしたですか?」
蒼[翠星石……久々に庭師としての『大仕事』が入ったんだ。]
翠「ははぁ。心の樹関連ですか?」
233:RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E
11/08/24 22:12:26.05 KcK3nR8/
蒼[うん。しかも今度は……すこし、厄介かもしれない。
カズキ君の時よりも、大変になると思う。あくまでも
僕の勘だけどね……]
翠「まぁジュンも連れていきますから大丈夫ですぅ! 翠星石は
今までの翠星石とは一味違うですから、安心するがいいです。」
蒼[そっか。ふふ、よかった。兎に角、庭師にしかできない仕事
だから……本当に危なくなったら、真紅たちにも手伝って貰う
と思うけど……]
翠「そうそう抱え込まんでも大丈夫ですよ。翠星石たちは、双子
である前に8人姉妹なんですから、ガンガン頼れって」
蒼[……!]
翠「真紅たちも言ってたですぅ。いざとなった時の対処は翠星石
に任せるですよ。えーと、10日に何処に行けばいいですか」
蒼[僕のお店に来るといいよ。じゃあ、そろそろ夜も遅いし……
僕はこれで。ありがとう、翠星石。ジュン君にもよろしくね。]
翠「お、おう、ですぅ。じゃあ、切るですよ。」