20/04/17 12:06:55.77 CAP_USER.net
宇宙は全ての方向に等しい速度で膨張していると考えられてきたが、800個以上の銀河団のX線観測データを用いた研究で、膨張速度に想定以上のばらつきが検出された。宇宙論に関わる重要な前提である「等方性」が成り立たない可能性を示唆する結果である。
【2020年4月15日 ヨーロッパ宇宙機関/チャンドラ】
宇宙は局所的には違いはあっても、大きなスケールで全体を見ればどの方向も同じような性質を示しているというのが「等方性」であり、宇宙膨張の速度にもこれが成り立つと考えられる。この原理は基礎物理学に基づいていて、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測からも支持されている。CMBは誕生から38万年後という幼少期の宇宙の状態を反映するもので、全天で均一な分布が見られることから、初期宇宙はすべての方向に同じ割合で急速に拡がったはずだと考えられている。
ところが、独・ボン大学のKonstantinos Migkasさんたちの研究によれば、現在の宇宙ではその等方性は成り立たないかもしれない。
Migkasさんたちは様々な方向にある313個の銀河団を選び、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線宇宙望遠鏡「XMMニュートン」とNASAのX線観測衛星「チャンドラ」の観測データから銀河団内の超高温ガスの温度を計測した。その温度に基づき、銀河団までの距離と宇宙膨張により銀河団が遠ざかる速度も加味して銀河団の「理論的な明るさ」を求め、米独英によるX線観測衛星「ROSAT」がX線で観測した銀河団の「実際の明るさ」と比べたところ、ばらつきが見られた。
「ある方向に位置する銀河団は予想より暗く、別の方向に位置するものは予想より明るかったのです。明るさの違いは30%とかなり大きいものです。それだけでなく、違いは決してランダムではなく、観測した方向によって明らかに一定のパターンがあります」(ボン大学 Thomas Reiprichさん)。
研究チームはこの分析をXMMニュートンや日米のX線天文衛星「あすか」が観測した他の銀河団のデータにも適用し、全部で842個の銀河団について調べたところ、おおむね同じ結果が得られた。
このような違いが生じた原因として、方向によって宇宙膨張の速度が異なる可能性が挙げられている。しかし、これは宇宙論の等方性で想定されるばらつきの範囲を超えている。研究チームの見方は慎重だ。Migkasさんは記事を寄稿し、こう述べている。「私たちは宇宙論を支える最重要な柱の一つを破壊したのでしょうか?ちょっと待ってください、そんなに単純ではないのです。私たちを間違った結論へ導いたシナリオが少なくとも2つ想定されます」。
シナリオの一つは、未検出のガスや塵の雲の影響で一部の銀河団が暗く見えているというものだ。ただし、別の波長で観測した研究でも似た結論が得られていることから、Migkasさんはその可能性は非常に低いとみている。もう一つのシナリオは、銀河団がさらに集まって形成する「超銀河団」が強力な重力で周囲の銀河団の移動速度を変化させているというもので、研究チームではその影響は無視できると分析しつつも、さらなる研究による検証が必要であると認めている。
「もし、この宇宙が本当に不等方だとすれば、それが過去数十億年間に限られていたとしても、研究における革命的な出来事と言えます。あらゆる天体の特徴を分析するにあたって、それぞれが位置する方向を考慮しなければいけないのですから。たとえば、遠方の天体までの距離を見積もるときには一連の宇宙論的定数や方程式を適用しますが、現在はそれらがどこでも等しいと誰もが信じています。しかし、私たちの結論が正しければそれは覆り、過去の研究をすべて見直さなければいけません」(Migkasさん)。
「現在の宇宙が全ての方向で同じように膨張しているわけではないという可能性は、過去の研究から示唆されていました。しかし今回初めて、銀河団のX線からそれが検証されました。その意味は大きく、将来の研究の可能性を大きく広げるものです」(XMMニュートン・プロジェクトサイエンティスト Norbert Schartelさん)。
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