22/11/22 16:47:49.68 QF1M21AO.net
□尾河眞樹 ソニーフィナンシャルグループ執行役員兼金融市場調査部長
[東京 22日] - ディエゴ・マラドーナ氏は20世紀を代表するサッカー選手だ。1986年のFIFAワールドカップメキシコ大会のアルゼンチン対イングランド戦で5人ものディフェンダーをかわし、60ヤードを独走してシュートを決めた。
この時5人のディフェンダーは、スター選手マラドーナの左右の動きを事前に予想し、それに対応した動きを取っていたため、マラドーナ選手はそれを逆手に取って真っ直ぐ走り、シュートを決めたという。
キング元英中銀総裁はこれを引き合いに出し、「金融政策も同様に機能する。市場金利は中央銀行が何をするかという期待に反応する」と述べた。以来、市場参加者が中央銀行の今後のアクションを予想することで市場金利が先行して動き、中央銀行が実際にアクションを取る前に経済に影響を及ぼす現象は、「マラドーナ効果」と呼ばれるようになった。
<思惑に揺れる市場>
実際、これと似通ったことが足元の金融市場で起きている。米連邦準備理事会(FRB)は今年3月以降これまでに、3.75%もの大幅かつ急速な利上げを行ってきた。米長期金利も利上げが織り込まれるなかで上昇し、10月には米10年債利回りが4.3%台まで上昇する場面もみられた。
しかし、問題はその後だ。11月10日に発表された10月の米消費者物価指数(CPI)で、総合指数が前年比7.7%、食品とエネルギーを除いたコア指数が前年比6.3%と大きく減速したことで、市場では「FRBの利上げペースは今後減速する→場合によっては利上げ終了も近い→金利上昇のフェーズは終了」との見方が広がり、米10年債利回りは、一時3.6%台まで急低下。これを好感した米株式市場は大幅上昇し、ドルが全面安となるなかドル円も急落した。
<タカ派的な発言の背景>
問題は、市場の先走った「期待」により、時期尚早な金利の低下と株高が起こると、それ自体が金融環境を緩め、インフレの鎮静化を遅らせてしまうことだ。FRBにとっては、先述した「マラドーナ効果」が、インフレ退治と逆方向に効いてしまっては困るのだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーは、これを防ごうと躍起だ。
ブレイナードFRB副議長は14日、「近く利上げペースを減速させる可能性」に言及しつつも、追加利上げの必要性を強調。バーFRB副議長も15日、米上院の公聴会で「インフレはあまりにも高すぎる」との見解を示した。ボストン連銀のコリンズ総裁に至っては、「12月の利上げ幅は75Bpsもまだ選択肢である」と述べるなど、他にも様々なメンバーから、CPI公表後にタカ派的な発言が続いている。
これが奏功してか、米10年債利回りは3.8%台まで小幅に持ち直した。また、CPIの低下やFOMCメンバーのタカ派発言が影響したのか、米期待インフレ率も2.3%前後まで低下しており、名目金利から期待インフレ率を引いた米実質金利は、足元1.3%付近から1.5%付近まで持ち直している。
10月のCPIは確かに減速したとはいえ、伸び率としてはまだ高く、FRBの許容範囲を超えている。おそらく、金融環境をさらに引き締めるため、実質金利は米潜在成長率(2.0%弱)を超えるあたりまでは引き上げたいと考えているはずだ。12月13、14日に予定されているFOMCは、年内最後のビッグイベントだ。おそらく利上げ幅は50Bpsに縮小されるだろうが、インフレ促進の方向に「マラドーナ効果」が進むことのないよう、声明文やパウエル議長からのメッセージは、比較的タカ派色の濃いものになるのではないか。
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2022年11月22日4:10 午後
ロイター
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