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時事通信2016年4月30日14時57分
成年後見人として支援する認知症の高齢者や、訴訟の依頼者らの財産を着服する弁護士が相次ぐ中、日弁連は被害者に一定額を支払う救済制度の検討を始めた。会員の一部からは反対の声も上がるが、専門家は「信頼の維持には必要だ」と指摘している。
◇5億円着服も
最高裁によると、弁護士や司法書士など「専門職」が成年後見制度に基づき管理していた財産を着服した事例は2015年の1年間で37件(被害総額約1億1000万円)。大阪地裁では今年3月、顧問先から預かった供託金など計約5億円を着服したなどとして、業務上横領などの罪で弁護士の男(63)に懲役11年が言い渡された。
早稲田大の石田京子准教授(法曹倫理)によると、横領事件は業務歴の長い弁護士で多いという。「環境の変化に対応できず経済的に厳しい、弁護士倫理を順守する意識が低いなど、複合的な要因がある」と分析する。
日弁連が検討しているのが、弁護士が納める会費を財源とした「依頼者保護給付金制度(仮称)」。着服した弁護士が弁済できない分について、300万~1000万円程度の上限を設けた上で、被害者に見舞金を支払うことを想定している。
昨年11月に全国の52弁護士会にアンケートを行ったところ、「悪いことをした人のために、なぜ他人の会費まで使われるのか」といった意見も寄せられた。ただ、日弁連の中本和洋会長は今年2月、会長に選出直後の記者会見で「信頼維持のために救済策を設けることも必要ではないか」と述べ、任期(2年)中の制度導入に意欲を見せた。
◇司法書士は導入
成年後見を行う司法書士らがつくる「成年後見センター・リーガルサポート」は、既に会費を財源とした救済制度を設けている。会員による着服があり被害弁償ができない場合、500万円を上限に見舞金を支払う。
石田准教授によると、米国では1959年、バーモント州の弁護士会が横領被害を受けた依頼者を救済する基金を初めて導入。アメリカ法曹協会の働き掛けもあり、98年までに全州で同様の基金が設けられた。
石田准教授は「国の指導監督を受けず、懲戒処分などは弁護士会が行う『弁護士自治』が認められている日本では、信頼を維持するための制度がより重要となる。弁護士会は救済策だけでなく、被害防止策も強化する必要がある」と話した。