16/01/30 22:42:45.65 CAP_USER*.net
竹内健 中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授
日本の半導体はソニーのイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリなど数少ない勝ち組を除いては、総崩れになりました。
特に酷い状態なのがシステムLSI。日立、三菱電機、NECの半導体をスピンオフして作られたルネサスエレクトロニクスは業績悪化によって、社内の半数近くもがリストラされる状況に追い込まれました。
東芝でも不適切会計の舞台になったように、システムLSI事業は不採算だったようで、これからリストラが行われます。
車も電気自動車・自動運転など、コンピュータ化が進んでいます。社会のあらゆる機器に組み込まれる半導体はこれからも重要です。
実際、「アマゾンが半導体製造 米ネット企業の垂直統合戦略」にも書かれているように、サービス事業者であるアマゾンが自社のサービスを差別化するために半導体に参入しているのです。
アップルはiPhoneに搭載される半導体を自社で設計しています。半導体の外販はしていませんが、実はアップルは世界有数の規模の半導体メーカーなのです。
先のほどの記事にも書かれているように、ソフトウエア企業であるグーグル、マイクロソフト、オラクルも半導体に参入しています。
ああ本当に、日本の半導体は勝手に一人でずっこけたんだな、と思いました。
日本の半導体の不振の理由として、円高、新興国企業の台頭、垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換の遅れ、などが言われています。
これらも重要な問題点でしょうが、本当にそれだけなのでしょうか。
同じような文脈で、日本は技術では負けていない、とも言われています。
日本は技術至上主義、技術で上なのは尊いことだ、と思われがちではないでしょうか。
本当に技術で負けてなかったか?と私は思っていますが、もし仮に技術では負けていなかったとしても、なぜ素晴らしい技術を開発した優秀な技術者が、技術開発だけに留まってしまったのか。
もし経営で負けたのならば、優秀な技術者は弱点である経営を助ける仕事になぜ転換しなかったのか。
日本は技術では負けていない、と言った瞬間に、思考が停止してしまって、もう技術者の責任ではない、というニュアンスを感じてしまうのです。
古くはインテル、アップル、マイクロソフトを創業したアンディ・グローブ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツは技術者から経営者になりましたし、最近でもアマゾンを創業したジェフ・ベゾスも元々は技術者です。
私自身も含めて技術者は、技術という狭い世界に閉じこもっていたことを、反省しなければいけないのではないでしょうか。
もちろん、技術者として優秀な人が、経営に向いているとは限りませんし、優秀な技術者の全てが経営を行うべきでもありません。求められる技能・特性が全然違いますから。
ただ経営でITをはじめとする技術が重要になっている時代ですから、技術者の中の何人かは、経営の道に進むべきではなかったか。
現在、技術者出身で経営をされている方の多くは、技術関係の課長・部長・事業部長・・・と勤め上げた上で、経営者になっているのではないでしょうか。
つまり、終身雇用の中で「出世した成れの果て」に結果的に経営者になっている。
経営の専門家として鍛えられ、経営者として評価されて経営者になっているのではないと思います。
これは企業自体が技術者は専門領域を深堀して欲しい、という人事システムだったから、というのもあるでしょう。
経営の仕事にかかわるならば、韓国の三星電子のように、技術者としてひと仕事したら、30代半ばには商品企画・マーケティングに異動させ、経営者になるためのキャリアパスを歩ませる、ということも必要でしょう。
大学も反省しなければいけません。手に職をつけさせるために、専門技術だけ教えていれば良かった時代は終わりました。
学部の学生に技術と経営の両方を学ばせるのは当然、難しい。学部・修士課程の間はまずは技術を身に付けるので良いと思います。
~中略~
日本は技術力はあったのに、経営者がダメだったから負けたのだ、などと思っていては、同じ失敗を繰り返してしまうのではないでしょうか。
まずは失敗した現実を直視することから。
(2016年1月30日「竹内研究室の日記」より転載)
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