15/10/11 11:59:25.18 *.net
産経新聞 10月11日 11時22分配信
日米主導で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意が成立したが、気掛かりな点がある。1985年9月の「プラザ合意」以来、日本は「対米協調」に引きずられ、自国の利益を後回しにしてきた。
TPPでその愚を繰り返さないだろうか。
TPP大筋合意に、米国ではオバマ大統領が「中国のような国ではなく、われわれが世界経済のルールをつくる」と宣言した。
一方、来秋の大統領選有力候補のクリントン前国務長官(民主党)は雇用、安全保障などへの「基準を満たさない」と批判、共和党の有力候補に浮上したトランプ氏も
「米国ビジネスへの攻撃だ」と反対を明言した。国益意識丸出しだ。
日本では、自由な価値を共有する広大な経済圏を米国と組んでつくるという安倍晋三首相のロマンが強い説得力を発揮している。
多数のメディアも、「開国」におびえる農業をシバキ上げて合理化や改革を厳しく求め、米自動車ビッグ3の主力収益源であるライトトラックへの25%の保護関税を30年もかけて撤廃する内容は無視と、米国に甘い。
対米協調優先の考え方の背景には「中国の脅威」がある。ただ、異形の経済超大国・中国と対(たい)峙(じ)する日米の枠組みとしても、過大評価は禁物だ。
TPPはあくまでも自由貿易圏ルールの拡大版であり、対中外交・安全保障への波及効果は未知数だ。
TPPは国際ルールの面で万能ではない。知的財産権保護や国有企業の既得権排除、相手国政府との投資紛争処理などは、党・政府指令がモノを言う中国との相性はよくないはずだ。
だがアップル、IBM、デル、マイクロソフト、インテルなど米国を代表するハイテク企業は競い合うように対中投資を増やし、先端技術を国有企業に供与している。
米企業は中国市場シェア欲しさの余り、情報技術(IT)の中国標準の普及に協力している。
中国の脅威を考えると、TPPよりも人民元の変動相場制移行や中国金融市場自由化のほうがはるかに重要だ。
北京が執念を燃やす元の国際通貨基金(IMF)特別引き出し権(SDR)構成通貨認定にIMF理事会が同意するようだと、TPPの対中牽制(けんせい)期待効果は吹き飛ぶ。
習近平政権は「国際通貨元」を存分に刷ってアジア全域を中華経済圏に取り込むだろう。元でハイテク兵器も石油も買えるようになる。
元のSDR認定について、IMFは11月の理事会で決定する予定だ。ラガルドIMF専務理事はすでに「時間の問題」だと習国家主席に伝えているし、欧州主要国も支持している。
オバマ政権は、元の変動小幅拡大、切り下げ抑制と金融の部分自由化を条件に認めかねない情勢だ。
米金融界は中国市場でのシェア拡大のチャンスが得られる。米国にとってはニューヨーク・ウォール街中心のグローバル金融市場に中国の元金融を取り込むことが国益であり、元そのものが脅威となる日本と利害が微妙に異なる。
プラザ合意後の30年間、国際金融は米国が要となり、日本が協調する構図になっている(グラフ参照)。
先進5カ国によるドル高是正がプラザ合意の主眼だったが、欧州が離反してドル安に歯止めがかからなくなると、米国は日本だけを頼りにしてきた。
87年10月の史上最大の株価暴落「ブラックマンデー」後、日本は米国の圧力のもとに超金融緩和を続ける一方、対米証券投資に励んだ。
国内では不動産と株式市場がバブルとなって膨張し、90年代初めに破裂した。
米国のほうは日本など外国からの投資(米国にとっては負債)で株式市場が持ち直し、景気も好転していく。
2000年代以降、ウォール街が世界の余剰資金を吸収して、中国など新興国などに再配分する米債務主導型グローバル金融を確立した。
08年9月の「リーマン・ショック」で米金融は破綻したかのように見えたが、量的緩和政策でドル資金3兆ドルを増発すると、一部が海外に流れて2倍の6兆ドル以上の資金が米国に還流してくる。
この債務モデルを一貫して支えてきたのが日本である。
日本はデフレのために国内でカネが回らず、米国に回る。アベノミクスは本来、この余剰資金を国内で使って経済を再生する狙いだったが、昨年4月の消費税増税で内需は萎縮、マイナス成長に舞い戻った。
対米協調は日本の基本路線には違いないが、自国優先の経済思想あってこそだ。国益を明確にして実現する強い意志がなければ、TPPは日本経済空白の30年をさらに延ばす。
(編集委員・田村秀男)
URLリンク(www.sankei.com)
URLリンク(headlines.yahoo.co.jp)