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日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は10日、衆議院の財務金融委員会で円安を牽制する発言をしたと報じられた。
これを受けて急速な円高が進展する場面もあった。この発言の意図はどういうものだったのだろうか。
黒田総裁の発言は、「ここからさらに実質実効為替レートが円安にふれていくということは普通に考えると、なかなかありそうにない」というもので、
一段の円安が進む可能性は低いとの見解を示したと市場関係者に解釈されたのだ。
ここで黒田総裁が言及している「実質実効為替レート」とは、どういうものだろうか。
為替レートは、特定の2通貨の交換比率である。実質実効為替レートは、これに「実効」「実質」という2つの変更を加えることで計算される。
まず「実効」では、円とドルのように特定の2通貨間ではなく、円とすべての通貨との間の2通貨間の為替レートを貿易額などで計った相対的なウエートの加重平均をとっている。
要するに、すべての通貨との交換比率にするわけだ。
次に「実質」では、通常の為替レートが名目値であるのに対して、各国の製品価格の変動を考慮に入れた実質値にする。
例えば、日本がインフレになれば、それだけで名目為替レートは円高になる。
しかし、インフレで円高になっても、実質為替レートでは円高にならない。
こうした「実効」と「実質」という2つの変更を名目為替レートに加えて実質実効為替レートは算出され、経済学の貿易分析で使われている。
黒田総裁の発言をきちんと聞けば、実質実効為替レートは円安にならないだろうと言っているだけで、
市場関係者が関心を持つ名目為替レートが円安にならないとは一言も言っていない。
実際、これからインフレ目標を達成したとしても、実質実効為替レートは今のままで、名目為替レートは今の水準より若干円安になることは十分にあり得る話だ。
ただし、ほとんどの市場関係者は実質実効為替レートにはまったく興味がないし、知らない人ばかりなのかもしれない。
筆者は、黒田発言は単純な答弁ミスだと思っている。
まず、市場関係者が知りもしない実質実効為替レートが円安にならないと発言し、
市場関係者が名目為替レートと誤解して、実際に名目為替レートの円高を招いてしまった。
日銀総裁の国会での発言としてはもっと慎重にすべきだった。
そもそも為替レートは日銀の所管ではないので、言及すべき筋合いのものではない。
さらに、実質実効レートであっても、為替水準に言及するのはまずい。
「為替レートは各種の政策の結果決まってくるものが適正であり、今の水準にコメントしない」といったところが本来の公式答弁だ。
黒田総裁は、特別な意図もなく、質問に応じて実質実効為替レートに言及してしまったのだろう。というのは、これを持ち出すメリットは何もないからだ。
実際、後で「発言が誤解されている」という言い訳をした。そうであれば、初めから発言すべきではなかった。
(高橋洋一)
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