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インターネットで、差別や嫌がらせなどの憎悪を匿名でまき散らす人々を、
われわれは「荒らし」(トロール:もともとは北欧の妖怪的な存在)という恐ろしげな名で呼んでいる。
「荒らし」が不気味なのは、その発言のためだけではない。彼らが匿名であり、
こうした邪悪な行動を行う者はいったい表社会ではどんな人間なのだろう? という疑問をもたらすからだ。
2014年のある秋の午後、スウェーデン人ジャーナリストのローベルト・アシュバーリは、この疑問を解こうとしていた。
ストックホルム郊外にあるみすぼらしいアパートメントの中庭で、ひとりの「荒らし」と対面していたのだ。
その人物は、口数の少ない痩せた30代の男性で、パーカーをはおり、汚い野球帽をかぶっていた。
彼は、アシュバーリの前では哀れなほどに見劣りがする。アシュバーリは、しゃれたジャケットを着こなし、
輝くようなスキンヘッド、テレビで鍛えたバリトンの声をもつ。
アシュバーリは調査チームとともに、この男性がひどい荒らし行為を行っていたことを突きとめていた。
アシュバーリの調査によればこの男性は、オンラインで知った、生まれつき片手が小さい10代の少女に対して、数カ月にわたって嫌がらせを行っていた。
その攻撃は執拗なもので、少女の「インスタグラム」のページに手のことを揶揄するコメントを書き込み、
「フェイスブック」にも大量のメッセージを寄せ、さらには電子メールまで送りつけて少女をあざけった。
アシュバーリはテレビクルーを連れて男性の自宅を訪れたが、いざ対峙すると男性はすべてを否定した。
アシュバーリは、男性のものとみられるアカウントから少女のフェイスブックに送信された
メッセージをプリントアウトした紙を手渡してから、「自分のしたことを後悔していますか?」と尋ねた。
男性は首を横に振った。「メッセージなど書いた覚えはない。当時はプロフィールを取得していなかった。それはハッキングされたものだ」
自身のテレビ番組『トロールヤーガナ』(Trolljägarna:トロール・ハンターの意味)で「荒らし」の正体を暴き始めて以来、
アシュバーリがあからさまな否定に遭うのはこれが初めてのことだった。いつもは、トレードマークの鋭いにらみを効かせればすんでいたのだ。
スキャンダルを暴いて数十年という経歴を誇るテレビジャーナリストが、磨き上げたその眼光で相手を射抜けば、
性犯罪者もストーカーも汚職政治家も、たちまち洗いざらいを白状することで有名なのだ。ところがこの日は、
相手も強くにらみ返してきた。中庭で不毛なやり取りが10分続いた後、アシュバーリはインタビューを打ち切った。
「この世界を長く知る人間としてアドバイスしたい」。アシュバーリはうんざりした様子で言った。
「インターネットではこの手のことは控えておけ」。すると、なおも男性は首を振った。「私は何もやっていない」
「あれは病的な嘘つきだ」と、帰りの車内でアシュバーリはぼやいた。とはいえ、さほど気に留めてはいない。
『トロール・ハンター』の目的は、インターネット上の「荒らし」を一掃することではないからだ。
「われわれの課題は、ネット上のあらゆるヘイト行為を暴き立てることだ」とアシュバーリは話す。「それを議論のきっかけにしたい」。
URLリンク(newspicks.com)