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(>>1の続き)
死体遺棄容疑で逮捕=7月1日に殺人容疑で再逮捕=されたベビーシッターの物袋(もって)勇治容疑者(26)には、昨年、1度
預けたことがあった。帰ってきた子どもの背中にはあざがあり、問いただしたが説明が不自然だった。二度と預けないと決めていた。
きちんとした女性シッターを探そうと、スマートフォンでネット上のサイトに書き込みを始めた。
「子ども2人を預かってくれる方はいませんか」「余裕がなくて、そんなに出せませんが……」。事件前、母親が慌てた様子で書き込み
していたのを、同じサイトを使うシッターの女性(38)はよく覚えている。
「ヤマモト」と名乗るシッターが連絡してきた。「今子どもが入院しているの」と女性の口調で、絵文字も使ってきた。母親は、子育て中
の女性シッターだと思い込んだ。
ところが当日、待ち合わせ場所のJR新杉田駅(横浜市)の改札口に現れたのは、男だった。ただ、その男にも以前預けたことがあり、
面識があった。「僕はちょっと預かるだけです。その後はヤマモトさんに預けます」と言った。「変だな」とは思ったが、勤務を入れていて
後にはひけなかった。「バイバーイ」と手を振った龍琥くんは、少し寂しそうだった。「ヤマモト」が、偽名を使っていた物袋容疑者だった
とは知るよしもなかった。母親は言う。「あの人だと分かっていたら、絶対に預けなかった」
事件当時、母親は児童扶養手当を受給しておらず、子どもの父親から養育費は払われていなかった。どこに相談に行けば良いのか
思いつかず、急に、安く預かってもらえると利用したネットの先には闇があった。「困ったとき、誰が助けてくれるのか、何を信用して
良いのか、私は分からなかったんです」。少ない生活費をやりくりしながら、子育てしていた母親に、公的な支援は行き届かなかった。
■払われぬ養育費、厳しい生活
母親がインターネットのサイトでシッターを探したのは、シッター派遣会社を通すと1時間2千~3千円する代金が、ネットなら1時間
500円という低価格もあるからだ。
大阪府に住む女性(29)は、夫の暴力や借金が原因で25歳のときに離婚した。当時、2歳と3歳の息子を育てるシングルマザーに
なった。朝から夜7時までは美容関連の仕事をし、夜9時から午前1時までは飲食店でアルバイトをした。
子どもを預けるときに頼ったのはネット上のシッターサイト。当時の飲食店のアルバイト代が時給1100円で、それよりは安く
預けたかったからだ。「安いシッターはネット上でしか見つけられなかった」と振り返る。
日本で123万8千世帯に上る母子家庭の暮らしは厳しい。
厚生労働省によると、母子世帯の母親が働いて稼ぐお金は年間平均181万円。日本のシングルマザーは8割以上が働く。就労率
6~7割程度の欧米よりも勤労世帯の割合が高い。生活保護を受けるのは約1割にとどまる。健康で働ける人たちには、国はまずは
就労を促すからだ。
働いているにもかかわらず、日本の母子家庭は貧しい。母子世帯のうち、収入が125万円に満たない「貧困層」の割合は、およそ
半数の48・2%にのぼる。先進国で最悪のレベルだ。
日本の母子家庭の貧困度合いが突出しているのは「男は稼ぎ手、女は家。女性は働いても家計の補助」という「隠れた意識」が
根強いなかで、女性労働者が低賃金労働に置かれていることが大きい。女性の4割は年収200万円以下だ。
母子家庭の貧困の裏側には、離婚後に養育費を払わない父親の姿もある。
DVから金銭トラブルまでさまざまな相談にのる公益社団法人「日本駆け込み寺」の玄秀盛代表(58)は10年前に離婚。だが養育費
を払ってこなかった。「借金を抱え、それどころじゃなかった。自分のせいで子どもたちに進学を諦めさせてしまった」と悔やむ。
日本で離婚する世帯で、8割は母親側が子どもを引き取る。日本の母子家庭の収入に占める養育費の割合はわずかに3%。
日本では裁判所を通さない協議離婚が9割を占め、養育費の取り決めをしない場合が多いからだ。米国では養育費は収入の1割に
のぼる。滞納者には自動車運転免許の停止などの強力な措置がある。スウェーデンには養育費を政府が立て替え払いする制度もある。
(終わり)