04/04/13 02:27 n6NadezZ
少女は身を乗り出して、フェンス越しにコンクリート敷きの地面を見下ろした。
少女の視線の先にはビニールテープがあった。血痕に沿うように人の形を作ったビニールテープである。
「目撃者が何人もいて、血痕も残ってるのに、死体だけ見つかってない」
「不思議でしょ」
少女はニコッと頬を緩め、笑みを浮かべた。 人懐っこい笑みではあったが、その表情には幾らか悪意が見え隠れしていた。
その証拠に少女の瞳は、軽蔑とほのかな怒りをたたえている。
「若草君、手伝ってくれるよね?」
少年は黙りこくっている。視線を落とし少女を見ようとさえしない。
「君に断る権利はない。ただ、わたしに従う義務だけがある。そうでしょ?」
少女はワンピースの裾を掴んでヒラヒラと揺らしながら、芝居がかった台詞を言って見せた。演劇部にでも入っていればヒロインの役を射止めたに違いない。
少女の挑発に少年は動じない。ただ頬をゆるゆると汗が流れているのを少女は見逃さなかった。
「自殺しないの?」
皮肉と敵意を込めて、再三少女が言ってきた言葉である。自殺しないの?なんで生きてるの? 二人の間に根づいた軋轢がそういわせているのは間違いない。
「なに?」
少年が初めて表情らしきものを見せた。眉を潜め目をつぶり、前歯で唇を挟んだ。苦渋と孤独を含んだひどく老成した表情である。
「した方がいいんじゃない?」
少年は何も言い返さない。かわりに尻ポケットから煙草を取り出し、口にくわえ火をつけた。
煙草の芳香とは違う甘い匂い。政府御禁制、マフィア御用達の非合法ドラッグである。
少女が少年の頬をはたいた。少女のこぶしが少年の頬を二度叩く前に、少年の右手は少女の首を掴んでいた。
「痛いだろ、馬鹿女」
ここまでです。評価とかおねがいします