ネギまバトルロワイヤル11 ~NBRⅩⅠ~at CSALOON
ネギまバトルロワイヤル11 ~NBRⅩⅠ~ - 暇つぶし2ch2:マロン名無しさん
06/09/19 22:35:40

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現在連載中の作品
作者13 ◆K05j0rAv6k 第13部
作者Ⅳ ◆NVSerf1nB2 第4部アキラルート
第二部作者 ◆bnonwp0Sh. 第二部BADエンド


3:マロン名無しさん
06/09/19 22:38:00
____       ______             _______
|書き込む| 名前: |         | E-mail(省略可): |sage          |
 ̄ ̄ ̄ ̄        ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                 ∩
                               , ─|l| ,/ノ
                               ! ,'´  ̄ ヾ
                               ! | .||_|_|_|_〉
                               ! トd*゚ -゚||  ここにsageって入力するんだ
                               ノノ⊂ハハつ    基本的にsage進行…
                              ((, c(ヾyイ      なんで私だけバニー…
                                  しソ



4:マロン名無しさん
06/09/19 22:44:13 S3EO/j13
                             .,‐・)
           .     _               、I           ゙i  .  、l
       .-、_     .  `: _       .      .i           ゙_  .  、’...._
         .`・。_      ’、_            }           .}   .ー・~´
   .   .  .  .`‐、_    .  `・、   .  .  .  .}           ゙|      ’
      .     ._.~       .`r        、{           ゙}      ゙)
        ._、‐1´        _.´         j      .     .’   ,?・。/
   .   、・゛      .   _、ゝ^        、 ̄^^T1              `~・゙`x_
                .´                                  .`・
                                   .                  `
       ,    ゙)、
   .   ./  .  . .’
     .  ,      、’_.-                 ., . . . ._、、_
   .  .ノ        ゙’_        .        、|  ___、、...’、_...`,
  . . ./`       .   ’_     ’ .._ . . .、   、¨ ̄`     `・゙’
    ノ’     .     、’、    ’_ .’. 、ソ`     !       .      .__、___
                 ゙’、   ゙’  、ン′     `、           . ̄ ̄    . ̄`¨¨¨¨
                  ゙’、    、ン^      .   `‐-^
                   .`、


5:マロン名無しさん
06/09/19 23:19:54
>>1
スレ立て乙

>>3
バニー乙

6:マロン名無しさん
06/09/19 23:48:46 kNiFTzvf
エロ姉御get

7:マロン名無しさん
06/09/20 00:23:02
特太

8:マロン名無しさん
06/09/20 07:55:27
>>6
6番はアキラだ、柿崎美砂女王様なら7番だぞー

明日菜げと。

9:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:06:51
>>1
スレ立てお疲れ様です。続き投下します。

10:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:08:46
37 《 魔の群れ (1) 》

遺跡群地帯。乱立する石造りの建物の間を、十数人の人影が駆けていた。
半袖セーラー服にネコ耳姿の、『長谷川千雨』(出席番号25番)。
タートルネックでノースリーブなワンピースの、『宮崎のどか』(出席番号27番)。
そんな2人と寸分違わぬ姿をし、寸分違わぬ顔を持つ人々が、大量に走り回っている。
何かタチの悪いコントを見せられているような、そんな光景。まるで楓の分身の術のような状態。

と―駆ける彼女たちの前方、路地の陰から、のっそりと姿を現すモノが1つ。
黒い身体。見上げるような体格。仮面のように白い顔。突き出した角。
『……見つけたッス』
「や、やべぇッ!」
出くわしてしまった怪物の姿に、揃って一気に足を止める『長谷川千雨』と『宮崎のどか』の集団。
慌てて周囲を見回して、散り散りに逃げ出す。てんでバラバラに、横道に飛び込んだり回れ右したり。
そのうち1組の『長谷川千雨』と『宮崎のどか』は、意を決して怪物の脇を走ってすり抜けようとしたが……
無造作に振るわれた怪物の腕が、2人の身体を捕らえる。
「ぐッ……!」
「きゃぁッ!」

11:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:09:22
2人はまとめて手近な建物の壁に叩きつけられて。
ポンッ! と上がった煙と共に、2人の姿が掻き消える。
後に残されたのは、風に舞う2枚の紙。『長谷川千雨』と『宮崎のどか』と書かれた、人型に切られた紙。
攻撃されて元の姿に戻ってしまった、『身代わりの札』……!

「ちッ! やっぱこの分身バカばっかだッ、2体『喰われ』たッ! あんなとこ通れるわけねぇだろ!」
「な、何人いるんでしょう、あの『お仲間』とかって……!?」
バラバラに逃げる『長谷川千雨』と『宮崎のどか』のうちの1組が、走りながら言葉を交わす。
その『千雨』の手には、壊れたノートPC。『のどか』の手には、『いどのえにっき』。
この2人が、『オリジナル』。『身代わりの札』に片っ端から名前を書き込んだ張本人。
逃げ切れる気が全然しない。敵の数も把握できない。同じ姿形のモノも何体か居る様子。
ただ誰の意思か、は分かっている。さっき別の化け物と遭遇した際、路地の向こうに、確かに見た。
浅黒い肌。表情の欠落した顔。道化師のような、奇怪なメイク。
間違いない。無口で考えの読めないクラスメイト、ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)―!


12:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:10:23

2人が、首輪解除作戦の失敗から立ち直り、荷物をチェックし終えて―
のどかがネギに一方通行の『念話』を放ち、居場所と持ち物を知らせ、来れるなら来るように伝えて―
ちょっと一服しようと、コッペパンと水だけの粗末な食事を始めた、その時。

『……ゴハン?』

……いつの間にか、部屋の中に『変な生きもの』が入ってきていた。気配を消して、侵入していた。
子供ほどの……いや、普通の子供よりも小さな体格。身体の輪郭を覆い隠す黒いローブ。
歩いているにしては姿勢が低く、這っているにしては動きはスムーズ。
仮面のような顔だけが真っ白で……その虚ろに開いた口には、涎が垂れたようなライン。
怖いというより、キモ可愛い容貌の、小さな怪物。
千雨ものどかも、その唐突な出現にギョッとしつつ……どこかで見たその姿に、思い至る。
「コイツは……超の『お別れ会』の時に居た、あのピエロの『ナカマ』とかいう……!?」
「あッ……! そ、そう言えばー」
『……ゴハン? ネエ、ゴハン?』
学祭2日目の夜中、「故郷に帰る超のためのお別れ会」に同席していた、「ザジの仲間たち」。
なんでもクラスのホラーハウスを手伝ってくれたのだという、怪人たち。
コイツはその中に何人?も居た、小さい方の1人?だ。

その小さな怪物が、仮面のように変わらぬ表情のまま……ニヤリと笑う。
いや、実際に顔は動いていないが、しかし千雨やのどかにもはっきりと分かる、そんな雰囲気。
明るい笑いではない。向けられた側がゾクりとするような、歪んだ笑い。
その虚ろな目で、小さな怪物は千雨とのどかを見上げて……

『……ゴハン、タベル。オンナノコ、2人、タベル』


13:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:19:48

―恐怖を感じて逃げ出してみれば、街のように建物の並ぶ遺跡の中、他にも同種の怪物たちの姿。
あの小さな怪物だけではない。より大きな、見るからに危険そうな怪物も加わって。
あたかも誰か隠れている者を探しているかのように、歩き回っていた。
アレに捕まってしまったら、一体どうなるのか。とてもではないが、考えたくはない。
真正面から駆け抜けても、逃げ切れまい。戦ったところで、勝てるとも思えない。

そこで咄嗟に千雨が考えたのが―大量の『コピー人間』を作って、向こうの目を眩ますことだった。
空から降ってきた絡繰茶々丸の身体、その茶々丸に支給され荷物に入っていた数十枚の『身代わりの札』。
物陰に飛び込んで隠れ、その全てに一気に名前を書き上げて―遺跡群の街並みに、一斉に放つ。
命令は1つ、「怪物たちに捕まらないよう頑張って逃げ回れ」。
混乱を作り出し、その隙に「オリジナル」の2人も逃げる道を探そうと言うのだ。

ある意味、ハッカーである千雨ならではの発想と作戦である。
単独ならつまらない攻撃でも、同じ攻撃を大量に重ねることで高度なシステムもダウンさせることができる。
2人だけなら確実に捕まるような状況でも、同じ「人間」が大量にいれば隙間をすり抜けることもできよう。
こちら側の人数を増やすことで、怪物たちの「処理能力」をパンクさせてしまおうというのだ。
……相手方のスペックが分からない以上、かなり危険な賭けではあったが。

「しかしピエロめ、いったいどっからあのバケモンども連れてきたんだ!?」
「さ、さっきから、心読もうとしてるんですけどー、たったこれだけしか……」
走って逃げながら、毒づく千雨。本を広げるのどか。
ヒトの心を完全に見通せるはずの『いどのえにっき』、そのザジの名が書かれたページには、たった一言。

  『殺す。全員、殺す』

……真っ黒に塗りつぶされた「絵を描く欄」を見るまでもなく、話し合いの余地がないのは明らかだった。
楓の巨大手裏剣同様、『企業秘密』な方法で魔法先生たちを出し抜き、呼び寄せた魔物たち。
せめて、怪物たちをどう配置してるかだけでも分かれば、全然逃げ方が違ってくるのだが……。

14:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:20:17
「まあ―ピエロが何を考えていようとも、だ。
 時間さえ経てば、ネギ先生が来てくれるかもしれねぇんだ。
 先生が間に合わなくても、何か思いもかけねぇことが起きるかもしれないんだ。
 最後の最後まで、抵抗を続けるぜ。見苦しくもカッコ悪く、時間稼ぎをさせてもらうぞ……!」


ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)は、獲物たちのしぶとさに舌を巻いていた。
砂浜で高音を倒し、それから地図を見て、この遺跡群になら誰かが潜んでいそうだと読んだ彼女。
多少の抵抗は覚悟していたし、仲間の怪物が何体か倒される危険も計算に入れてはいたが。
まさか、こんな派手な方法で突破を図られるとは思ってもなかった。
怪物たちの低い知性では、コピーとオリジナルの見分けはつくまい。完全に、してやられた。

けれどもザジには焦りはない。もう、長期戦も覚悟の上だ。
既に怪物たちには、新たな指示を出してある。
手当たり次第建物を調べるやり方から、ゆるりと遺跡群全体を囲んで、ゆっくり包囲を縮める構えに。
無理に突破を図れば、怪物たちが攻撃を加える。さっきの2体の身代わりのように、潰して動きを止める。
地上の麻帆良学園都市にも似た、街並みの中。
屋根の上から、ザジは全てを俯瞰する。部下の魔物たちが、2人を追い詰めていくのを見守る。
ザジは、勝利を確信していた。


……1人の少年が、島を走っていた。
遠くに見えるのは、遺跡群。この距離からでもその異常が垣間見える。
建物の隙間、うごめく怪物たち。その怪物たちに追われ逃げ回る、同じ姿形の少女の群れ。
少年は走る。途中、寄り道し休憩し、食事などを取っていた自分を後悔しながら、今は走る。
ザジと魔物たち。千雨とのどか、プラス式神の群れ。
2組の戦いに介入せんと、彼は駆ける―!

【残り 18名】

15:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:21:18
38 《 魔の群れ (2) 》

宮崎のどか(出席番号27番)と長谷川千雨(出席番号25番)は、建物の1つに逃げ込んでいた。
外ではまだコピーたちが逃げ回っているようで、騒がしい声や音が聞こえてくる。
「はぁ、はぁ……とりあえず、ここで暫く様子を見るか……」
「そ、そうですね……はぁ、はぁ……」
走り続けた「生身の」2人は、いい加減体力の限界で。コピーたちが時間を稼ぐ合間に、少しだけ休憩だ。

改めて室内を見回す。だだっぴろい空間。何も置かれていない広間。
その作りや構造は、古い石造りの教会に近い。けれど室内の装飾には、特定の宗教の匂いはなくて。
正面奥に、祭壇らしきものがあるっきりの空間。天井近くまで、抽象的デザインのステンドグラスが伸びる。

広い室内、壁に寄りかかってしばし休息を取る2人。
喉の渇きを覚えるが、ペットボトルや荷物は打ち捨ててきた隠れ家の中。
千雨は手にしたノートPCを見て、思わず舌打ちする。
反射的に掴んで持ってきてしまったが、こんな壊れたPCよりも水や食料を持ってくるべきだった。
何か無いかな、と部屋の中を見回す2人の背後で……

『……ミツケタ』

突如―広い空間に響く、小さな呟き。人間とは異質な声。
千雨とのどかはハッとしてそちらの方を向く。
……最初に遭遇した時と同じように、小さな怪物が建物内に入り込み、彼女たちを見つめていた。
あの時と同じ個体だろうか? 外見はほとんど一緒だが、断言しがたい。

先ほどの場合は……茶々丸を運び込み色々とやっていたあの隠れ家は、裏口があった。
千雨の先見の明で、出口が2つある部屋を選び、緊急時には逃げられるルートを確保していた。
しかし、今のこの建物は。咄嗟に飛び込んだに過ぎない、大聖堂では。
逃げ道を、確保していない。
今、小さな化け物が入ってきた正面の入り口以外には、パッと見たところ出入り口がない。
袋小路に追い詰められた格好の2人に、ゆっくりと、近づいてくる化け物。

16:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:22:10
「クッ……どうすればいい!?」
「……あの子を、なんとかすればいいんですよね? なら……」
脂汗を浮かべる千雨に対し、一歩前に踏み出したのは、なんとのどかだった。
恐怖と緊張に膝をガクガク震わせながらも、仮契約カードを片手に、千雨を庇うように立つ。
驚いたのは千雨の方だ。
「お、おいッ、のどかッ! お前、どうする気だよッ!」
「や……やってみます!」

千雨がのどかを止める間もなく、飛び掛かってくる小さな影。
マントのような布で隠された身体の下、何か鉤爪のようなモノがチラリと覗く。
迫り来る仮面のような顔、コミカルながらも恐ろしいその表情。
跳躍して襲い掛からんとする小さな影に対し、無力なはずののどかは……

「え、えーっと……『シム・トゥア・パルス(我は汝が一部なり)』!」

異国の古き言葉を声に出した直後、のどかの身体が、淡い光に包まれて―
小さな怪物の繰り出した攻撃は、その光の障壁に阻まれて―
素人丸出しな、目をつぶったまま突き出されたのどかの両手が、しかししっかり怪物の身体を捉え―
直後怪物は、まるでトラックにでもはねられたかのような勢いで、思いっきり吹き飛ばされる。
一瞬遅れ、小柄な怪物は壁に叩きつけられ。
石造りの頑丈な壁にヒビが入り、ドサリと落ちた怪物は変な形に歪んだまま、ピクリとも動かない。

「な、なっ、なななな……!」
「あ……! で、できた……! 上手く行きました~!」
信じられない光景に、口を開けたまま言葉もない千雨。
一方ののどかは、自分の攻撃の成功に純粋に喜ぶ。自分自身でも、少しびっくりしている様子。

17:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:23:02

学園祭初日の夕方、ネギの「キス魔騒動」の時―
明日菜がのどかを抱えて使った、「従者の側から魔力を借り受ける」ための呪文。間近で聞いた呪文。
のどかはそれを、ぶつけ本番ながらも自分で使ってみたのだ。
強化された腕力。強化されたスピード。身を包む防御障壁。
これらがあれば、たとえ全くの素人でも、下級の魔物相手なら十分に戦える。
アーティファクトのみではない、「魔法使いの従者」としての力を、のどかは十二分に引き出したのだ。

元々のどかは、意外かもしれないが、女の子としては標準を上回る腕力がある。体力もある。
図書委員の仕事で、大量の重い本を、遠く図書館島から運んで歩くだけの腕力と持久力。
図書館探検部の活動も、実は下手な体育会系サークルよりも遥かにハードなもの。
分類上は文化系サークルだが、その内実はほとんど山岳部。体力なしにはやっていけない。
運動センスこそないものの、実は宮崎のどかの持つ潜在的な身体能力はかなり高いのだ。
それらに加えて、見かけよりもずっと強い彼女の精神。
1度聞いただけの呪文を、正確に唱え直すことのできる記憶力。
自分の持っているはずの能力を、適切に理解し使いこなせる判断力。
何より、敵を恐れず、必要とあらば危険に身を投じることのできる勇気。
これらが上手く噛み合えば―今のような芸当も、可能になる。
修学旅行の時の対小太郎戦のように、初めて使う自分の力を、100%発揮することも……!

「や……やるじゃねぇか、のどか!」
「あ、明日菜さんの戦いとか、色々見てきましたから……」
いつもの皮肉屋ぶりも棚上げし、純粋に素直に歓声を上げる千雨。
対するのどかは、いつも通りの少しはにかんだような笑顔。
千雨は素早く考えを巡らす。
のどかがこうして「戦える」となれば、今までの前提が色々と変わってくる。
今までは逃げることだけで精一杯だったが、これならどこかの包囲を破って脱出することも可能だろう。
あるいは、上手くやれば一気に反撃に打って出ることも……!?

18:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:26:11
と―突然。
大聖堂のような建物の外に、新たな気配。
のっそり入ってきたのは―「大きい方の」化け物。見上げるような体躯に、鬼のような角と顔。
さっきでくわした個体だ。身代わりの札2体を、腕の一振りでお札に戻してしまった個体だ。
あきらかにさっきの「小さい方」の化け物よりも格上の敵を前に、震える声で千雨は問う。
「お……おい、こ、コイツも、なんとかできたりしないか……?」
「む、無理ですッ! これはちょっと、流石に……!」
青い顔をして後退りする少女2人。
さらに―大きい怪物に続いて、続々と入ってくる怪物たち。
鬼のような個体が、もう一匹。さっき倒したチビにそっくりな小さな怪物が、さらに5体もいる。
そして―怪物たちの後からゆっくりと姿を現したのは、化け物たちの主。
仮面のように無表情な、ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)。

「ニセモノ、全部倒した……。これで、終わり……」

今さっき、のどかが倒した小さな怪物が、他の仲間と主人を「呼び寄せて」いたのだ。
壁際においつめられる2人。ジリジリと輪を狭める怪物の群れ。
そして、絶体絶命の千雨たちの頭上で。
何の前触れもなく、ステンドグラスが、粉々に砕け散って―

「へへッ、悪いが……乱入させてもらうでッ!」

それは、期待していた少年の声ではなかったが、間違いなく、この場においては救いの声だった。
ここまでの時間稼ぎがあればこそ間に合った、想像もしてなかった事態の好転―!

【残り 18名】

19:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 08:27:41
今朝はここまで。また夜来ます。

20:マロン名無しさん
06/09/20 09:47:00
犬コロ奴、憎い登場しやがって…

21:マロン名無しさん
06/09/20 11:11:23
千雨かのどかのどっちかラスト付近に死にそうだ………

22:マロン名無しさん
06/09/20 12:01:41
のどか、パワーあるのか。いっつも重い本にフラフラしてたが

23:マロン名無しさん
06/09/20 15:52:55
小太郎カッコヨス

24:マロン名無しさん
06/09/20 17:54:32
しかし小太郎は瞬殺されます

25:マロン名無しさん
06/09/20 18:32:32
ヤムチャかよ

26:マロン名無しさん
06/09/20 19:12:19
助けといてピンチになりネギに助けられるヘタレっぷりを見せてくれるさ

27:マロン名無しさん
06/09/20 19:14:28
女には手も足も出ないんですよ

28:マロン名無しさん
06/09/20 20:28:33
風圧で倒すのは流石に無理くさいしな

29:マロン名無しさん
06/09/20 20:34:28
ていうかそんなことになったら風圧>>>高音ってことに

30:マロン名無しさん
06/09/20 20:48:20
みんな何のかんの言いながら犬のこと好きなんだなw

31:マロン名無しさん
06/09/20 21:09:36
~~~ヾ(^∇^)おはよー♪

32:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:16:01
39 《 魔の群れ (3) 》

大聖堂のような、遺跡群の中の建物で。
ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)に率いられた怪物たちに、追い詰められた2人。
絶体絶命のタイミングで、ステンドグラスを破って現れたのは……

「……狗神ッ!」
少年の手元から、黒い影が飛び出す。夜の闇よりなお暗い、漆黒の獣たち。
それらが長谷川千雨(出席番号25番)と宮崎のどか(出席番号27番)を囲む怪物たちを弾き飛ばし……
呆然とする2人と僅かに眉を寄せたザジの前に、少年は颯爽と着地する。
「て、てめぇ……!」
「コタロー君!?」
「ヘヘッ、姉ちゃんたち、無事か? で―なんなんやコイツら?」

犬上小太郎(出席番号35番)。まき絵に襲われてから、「話の通じる相手」を探して彷徨っていた彼。
ザジが「人が居るだろう」と思って遺跡群に来たのと同様、彼も人を求めてこのエリアにやって来て。
そして目撃したのは、無数の『長谷川千雨』と『宮崎のどか』が怪物たちに追われている姿。
それが『式神』による身代わりだ、というのはすぐに分かった。では、『オリジナル』の2人はどこに?
「ま、俺が見つけるより先に、このバケモンどもが見つけてくれたんやけどな。
 にしても……コイツ、あの時のピエロかい。姉ちゃんも、マトモな人間と違うんか」
集結する怪物たちを見つけ、このような形で乱入してきた小太郎。
具現化した狗神と怪物たちが乱戦を開始する中、千雨とのどかを庇うようにザジの前に立つ。
無表情のまま、身構えるザジ。その手にはいつの間にか、鉤爪のように伸びた爪。

「どうみても、話通じんわな、コイツは……」
「…………」
「女は殴る趣味、ないんやけどな……ヒトでないなら、しゃーないわ!」


33:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:16:43
叫びと共に、小太郎が跳躍する。跳躍すると同時に、6体の分身が出現する。
敵はザジだけではない。大型の怪物は、どうやら小太郎の狗神たちよりは強いようで。
小太郎の分身が、そこに加勢する。
半分ほどはザジ本人に襲い掛かりながら、残りは大きめの怪物に突進する。

「お、おい、これって……」
「コタロー君……!」
唐突に出現した小太郎に守られる形となった千雨とのどかは、呆然とその背中を見守るしかない。
そんな彼女たちの耳元に、小さく囁く影。
「……姉ちゃんたちに頼みがある」
「うわッ!?」
見れば、分身の中の1体なのか、『小太郎』が1人、千雨たちのすぐ傍に立っていた。
驚く千雨をよそに、手にした『何か』をのどかの手の中に押し込む。掌に収まるほどの球状の物体。
「正直、向こうのバケモンども、そう長く押さえられそうにないわ。数多すぎや。
 コレ……覚えてるやろ? 使ってや」

狗神が黒い怪物に噛み付く。怪物が狗神を叩き潰す。小太郎の分身が怪物を蹴り飛ばす。
小太郎の影分身は持続時間がそう長くはないが、それでも次々と、消える端から新たに出現させる。
誰と誰が戦っているのかも傍目には良く分からぬ混戦の中、ザジと小太郎は激しく拳を交わす。
「速くて、鋭いッ……! やっぱタダ者やないで、コイツ……ッ!」
「…………ッ!」
目にも留まらぬ速度で、ザジの手刀と小太郎の掌底が何発も交差する。
互いに直撃はないが、しかし服を切り裂き、頬を掠って。
小太郎の表情から、余裕の笑みが消える。
そんな攻防の中で、ついに小太郎の蹴りがザジの腹を捕らえる。大きく弾かれるザジの身体。
ほぼ同時に、数を減らした狗神と小太郎の分身が、それぞれに決死の攻撃を化け物たちに加える。
いつのまにか包囲するように配置されていた狗神に飛ばされ、一箇所に固められる化け物とザジ―

34:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:17:24
「……今やッ!」
「は、はいッ!」
小太郎の叫びに、のどかが応える。
左手に『いどのえにっき』を広げ、小太郎の作戦を「読んで」いたのどかが、右手を突き出す。
そこに握られていたのは―五芳星が描かれた、丸底フラスコのような形の瓶。
犬上小太郎の支給品、『封魔の瓶』。
のどかにも小太郎にも馴染みの一品。小太郎側の数の不利を、一瞬でひっくり返せる魔法のアイテム。

「え、えーっと、『封魔の(ラゲーナ)』―!」
全てが、一瞬のことだった。
小太郎と狗神が、体勢を崩しつつもザジとその仲間たちを『封魔の瓶』の射程圏内に「まとめ」て―
瓶を手にしたのどかが、ヘルマン卿の事件の際にも使ったことのある『力ある言葉』を唱え始めて―
危険を察知したザジが、咄嗟に効果範囲外に跳躍しつつ、残り少ない飛び道具のクナイを何本も投げ―
瓶を構えたまま動けぬのどか目掛けて飛来する刃、その前に素早く千雨が飛び出して―
ドスッドスドスッ、と何かが刺さる音と同時に、のどかの呪文が完成する。
膝をつく千雨の肩越しに、瓶の口が化け物たちに向けられる。
「―『瓶(シグナートーリア)』!」

『ま……まずいッス!』
『スイコマレル!?』
小さな瓶の中に、吸い込まれていくザジの仲間たち。間一髪、真上に跳んで難を逃れたザジ本人。
だが広い大聖堂の空中、無防備な姿を晒し動揺する彼女に、真下から黒い流星が迫る。
この機を逃さず一気に跳躍してきた、小太郎本人。
「これで―終わりやッ!」
「!!」
向かい合わせた両手の間に『気』と『狗神』を凝縮し、ゼロ距離で敵に叩き付ける小太郎の必殺技。
『我流・犬上流 狼牙双掌打』。
彼の持ち技でも威力の高いこの攻撃、ザジの細い身体を、ついに真正面から捕らえて―!


35:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:18:27

―大聖堂のような、大きな建物の中。
それまでの激闘が嘘のように、静寂が戻る。
怪物たちの姿はない。狗神たちの姿もない。
ただ、倒れている少女が2人。立っている少女が1人に、少年が1人。
コロコロと、怪物たちをまとめて封印した小さな瓶が、床に転がる。

「……案外、脆かったんやな。全く、胸糞悪い……」
小太郎は難敵の屍を前に、苦々しい表情で吐き捨てる。
ザジ・レイニーデイ。小太郎と同様、人外の存在であったと思われる、かなりの強敵。
とてもではないが、手加減できる相手ではなかった。
少しでも手を抜いていたら、小太郎は確実に殺されていただろう。あの鉤爪に引き裂かれていただろう。
それゆえ「女は殴らない」という信念を棚上げし、しかしせめてKOで終わらせたいと思ったのだが……。
だが、素早さが身上で、敵の攻撃を「防ぐ」より「避ける」ことに主眼を置いていたザジは。
小太郎の渾身の奥義の前に、一撃で絶命していた。
『気』か『魔力』かはわからぬが、ともかく「使い手」にしては意外にもあっけなく、死んでいた。
ザジの胸から腹にかけて、巨大な鉄球でも叩き付けられたかのように凹み、潰れている。
心臓から肝臓から何から、全て潰れて破裂しての、即死である。
一体何を考え、彼女は『ゲーム』に乗ったのか。これでもう、その謎は永遠に分からない。

「千雨さん! ちょッ、ちさめッ……!」
そんな小太郎の背後で、あうあうと泣いていたのは宮崎のどか。
小太郎もザジの死体から離れ、重い足取りで千雨の所に歩み寄る。
……千雨の喉元に、1本のクナイが突き刺さっていた。ヒューヒューと、傷口から息が漏れる。
『封魔の瓶』を使うため、無防備な姿を晒したのどか。それを狙ったザジのクナイ。
それまで見ているしかなかった千雨は、咄嗟に壊れたノートPCを掲げ、のどかの盾となって……
一瞬のうちに投げられた3本のクナイのうち、2本はノートPCで受け止めていたが。
残る1本が、千雨自身の身体を捕らえていた。その首元に、突き刺さっていた。

36:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:19:08
あるいは、あの頑丈な金属製の『首輪』が残っていれば。
『刻印』を隠すためだけの『フェイクの首輪』が残っていれば、それが弾いていたのかもしれないが。
皮肉なことに、千雨のハッキングによって、千雨の命を守っていたかもしれない「防具」は失われていた。
首を一周する黒い痣を断ち切るかのように、黒いクナイが、深々と突き刺さっていて。
見るからに、致命傷だった。

「ゴフッ……のど……か……。ほ……ん……」

血を吐きながら、千雨は蒼ざめた顔で、しかしニヤリと笑う。
声も出せぬ状況で、震える手でのどかの手にした本を指差す。
光に包まれた『いどのえにっき』。千雨の名が書かれたページが、自動的に開く。

 『 ……やっぱ他人を庇ったりするのって、私のガラじゃないんだろうなぁ。
   ま、こうなっちまった以上、仕方ねぇか。既に1回死んでるようなもんだしな。
   コタロー、のどかのこと、頼むぜ。守ってやってくれ。
   のどか、先生によろしくな。お前らは、最後まで生き残れよ……! 』

やがて意識の混濁を反映してか、『いどのえにっき』の文面が乱れてゆく。判別不能になる。
動かぬ千雨の身体にすがり付き、泣き出すのどか。
自分の「弱さ」に、拳を握り締め視線を逸らす小太郎。
手の施しようのない傷を負った千雨の呼吸は、次第に弱々しくなっていって……

数分後。長谷川千雨は、苦しみの果てに、息を引き取った。

【出席番号31番 ザジ・レイニーデイ 多臓器破裂により 死亡】
【出席番号25番 長谷川千雨 首元にクナイが突き刺さり 死亡】
【残り 16名】

37:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:20:07
40  《 墓を掘る日 》 

……神楽坂明日菜(出席番号08番)は、数時間かけてようやくその陰鬱な作業を終えた。
仕上げに、木の枝2本を蔓で縛って作った十字架を、粗末な土饅頭の上に立てる。
中身の入ってない、それより一回り小さな土饅頭の上にも、もう1つ。

「ふぅ…………」
土に汚れた顔で、明日菜は大剣に寄りかかる。
一撃で魔を払い召喚物を送り返すアーティファクト『ハマノツルギ』。
けれどもスコップやシャベルの代わりに使うにはいささか無理がある代物で。
ゴロゴロした岩の多い地面のせいもあって、予想以上に時間と体力を消耗してしまった。

「ごめんね、ハカセ。本当はもっと深く掘ってあげたかったんだけど。
 桜子は……もっとゴメン。流石にそこまでは、降りていけないや」
大きい方の土饅頭は、葉加瀬聡美(出席番号24番)の墓。
小さい方は、椎名桜子(出席番号17番)の墓……と言っても、桜子の遺体は未だ谷の底。
地形の関係もあって、この斜面を桜子の場所まで下りるのは自殺行為に近い。
明日菜には、斜面の上に主の居ない、形式的な墓を立ててやるのが精一杯だった。

「頭、痛いな……ズキズキする……」
封じられた記憶が、明日菜の脳内で痛む。
助けられなかった命。目の前で誰かが死ぬ光景。
墓掘りの途中で流れた放送によれば、他にも何人も死んでいるという。
ほとんどが彼女のクラスメイト。沢山の思い出を共に紡いできた仲間。
唯一のクラス外の人間である高音にしたって、明日菜には親しい(と一方的に思っている)相手だ。
思い出せない・思い出すことを禁じられた記憶との合致に、明日菜は訳も分からぬまま頭痛を覚える。
「……ふぅ。なんか、疲れちゃった、私……」


38:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:20:55

……いつの間に歩き出していたのか、明日菜はよく覚えていない。
自分がどこを目指して歩いているのかも、分からなかった。
喉の渇きを覚えて、鞄から取り出したペットボトルの水をガブ飲みする。
ペットボトルが空になって初めて、自分が聡美や桜子の荷物を持ってこなかったことに気が付く。
水や食料だけでも失敬してくるんだった。ぼんやりとそう考えるが、それだけだ。
もやのかかったような頭のまま、彼女は空のペットボトルを投げ捨て、さらに歩き続ける。

いつしか明日菜は、広い草原を見下ろす、丘の上に立っていた。

周囲を見回した明日菜は、そして眼下に見つける。
草原の中を走る道の脇、何やら一心不乱に作業をする人影。
明日菜はフラフラとそちらの方に降りていく。
……丘を降りてくる時、もう少し注意深ければ和美の死体を見つけていたかもしれない。
けれど明日菜の思考力は疲労と精神的ショックで麻痺していて。岩陰のソレを、完全に見落としていた。

「……くーふぇ? 何してるの?」
「……アスナアルか」

明日菜と同様、土と血に汚れた姿で土を弄っていたのは、古菲(出席番号12番)だった。
彼女の前には、やはり土饅頭が2つ。草原の中では十字架の材料もないのか、何も飾りはない。
スコップ代わりに使っていたのは、途中で折れた、五月に支給されていたデッキブラシの柄……
これまた明日菜の『ハマノツルギ』以上に使えない道具だ。いくら『気』を込めても、穴掘りには向かない。
向かないが、これが彼女の精一杯の道具だった。
動かぬ左手はそのままに、右手一本で、一生懸命墓を作っていた。

「……サツキと、亜子アルよ。どっちも朝倉にやられたネ」
「朝倉が……!?」
「ライフルで、撃ってきたアル。
 亜子は、私たちが来た時には既に。サツキは……私と一緒に歩いていて……」

39:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:21:26
「くーふぇ……」
しょぼんとしおれる古菲に、明日菜は慰めようと、一歩踏み出す。
しかし古菲は、片手を上げて明日菜の動きを制する。慰めの言葉を、拒絶する。
「……近づいたら、駄目アル。私はもう、人殺しアル……」
「…………」
「朝倉を……殺してしまった、アル……」

古菲の、力ない笑み。涙を溜めて、泣き笑うかのような表情。
彼女は自分が許せなかった。自分の弱さが、許せなかった。
和美を「救えなかった」ことも。その和美を殺してなお五月も「救えなかった」ことも、許せなかった。
けれども、そんな古菲に、明日菜は優しくて。
古菲の罪の告白に、なお変わらぬ様子で、さらに一歩距離を詰める。

「……だから、どうしたって言うの?」
「ダメよ、アスナ……。近づかれたらワタシ、アスナも殺してしまうかもしれない……!」

古菲の手が震える。自分自身への恐怖が、胸の内に蘇る。
身体が、覚えている。あの瞬間のあの感触が、今でも肘に残っている。
至近距離で向けられたライフルへの恐怖から、ほんの半歩、強く踏み込んでしまった一撃。
KOで終らせるつもりが、骨を砕き内臓を破り、命を奪ってしまうことになった一撃。
それは、古菲にとって大きな恐怖だった。
理屈よりも体感と直感を重視してきた彼女だからこそ、逃れられない呪縛だった。

また、同じことをしてしまうかもしれない。
誰かに触られたりしたら、反射的に訓練された拳を突き出してしまうかもしれない。
そしてまた、和美の時と同じように、殺してしまうかもしれない―!

40:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:21:58
けれど、明日菜は全く顔色を変えず。むしろ、呆れたように溜息1つついて。
古菲の悩みも恐れも一切合切許すかのように、ポンッとその肩に手を乗せる。

「……バカね、くーふぇ。他人を殺そうってヒトは、そんな風に悩んだりしないわよ。
 そんな風に、自分を責めたりもしないわ」

明日菜はそして、古菲を抱きしめた。
ビクッと震え、咄嗟に逃げようとする古菲を、優しく抱きしめた。
抱きしめたまま、呟くように囁く。

「……私も、そうなんだ」
「……!?」
「私も、ハカセを守れなくて、ハカセを殺されちゃって、桜子に逃げられて……
 桜子、死んじゃった。崖から落ちて、死んじゃった」
「アスナ……!」
「私も、くーふぇと同じ。
 私も、もう立派な、人殺し……」

古菲を抱きしめたまま、明日菜の目から熱い涙が毀れる。古菲の頬を濡らす。
それは、明日菜がようやく流した涙。
聡美と桜子、2人のために、ようやく流すことのできた涙。
やがて古菲の目にも、ゆっくりと涙が浮かんで……

『人殺し』の罪、『守りきれなかった』罪を背負う2人は。
しばし草原の真ん中で、抱き合ったまま泣き続けた。
涙が枯れるまで、静かに泣き続けた。

【残り 16名】

41:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/20 21:22:49
少ないかもしれませんが、今夜はここまで。
途中トラブルなければ、日曜夜に全編の投下を終了する予定で進めるつもりです。
では。

42:マロン名無しさん
06/09/20 21:26:54
いい人パターンだとかばって死ぬこと多いな千雨…
予想はしてたが、苦しんで死なれると何か悲しいなぁ

GJでした

43:マロン名無しさん
06/09/20 22:44:45
ザジちう揃って死亡したのはやはり……

44:マロン名無しさん
06/09/20 22:52:32
狙った……よな…?
小太郎はヘタレフラグを折ったか?

45:マロン名無しさん
06/09/21 00:40:18
小太郎絶対死ぬと思ってたから意外だw

46:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:01:34
41 《 招かれざる客 》

『―これより、第2回目の定期放送を始める。
 第1回目の放送からの6時間で、11名死亡だ。
 では、死亡者の発表だ。

 出席番号01番、相坂さよ。出席番号03番、朝倉和美。出席番号04番、綾瀬夕映。 
 出席番号06番、大河内アキラ。出席番号13番、近衛木乃香。出席番号23番、鳴滝史伽。
 出席番号25番、長谷川千雨。出席番号28番、村上夏美。出席番号30番、四葉五月。
 出席番号31番、ザジ・レイニーデイ。出席番号34番、佐倉愛衣。
 第一回目の放送までに死んだ8人を加え、合計19名死亡。
 まだ生き残っているのは、16人。ようやく半分以下まで絞り込まれたな。

 続いて、禁止区域の発表だ。2時間後の20時に、E-4。 22時に、Hー6。
 次の定期放送が予定されている24時にC-2が、それぞれ立ち入り禁止区域となる。

 それからこの地底空間は、夜になるとかなり暗くなる。
 完全な暗闇になることは無いんだが……そうだな、街灯に照らされた夜の街程度の明るさと思えばいい。
 暗くなると、どうしても大事なモノを見落としがちになるだろう。敵の接近だとか、足元だとか。
 くれぐれも、注意して欲しい。そろそろ疲労も蓄積して、集中力が失われる頃合だろうしね。
 朝になれば、また昼間の明るさに戻るが―このペースでは朝までには決着がついているかもしれないな。

 では、諸君のさらなる健闘を祈る』

―島の中に、定期放送が響き渡る。
放送の中で触れられていた通りに、少しずつ暗くなっていく島。
淡い光を放っていた天井が、徐々にその発光量を減らしているのだ。
地上の明るさに連動しているのか、それとも全く違う仕組みによるものか、判別し難いが……
ともかく、徐々に暗くなっていく。


47:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:02:42

―薄闇に覆われてゆく地底空間。薄闇に覆われてゆく巨大地底湖。薄闇に覆われてゆく島。
そんな中、しかし『大事なモノを見落とし』ていたのは、魔法先生たちの方だったかもしれない。

島の北岸。池が点在し部分的に湖と繋がっているような、水はけの悪い地形。
そこに泳ぎ着いた、一匹の小動物が居た。
小動物に引っ張られ彼と共に辿り着いた、小さな影があった。
「ふい~、到着~。あー疲れたぜー」
「ケケケッ。御苦労ダッタナ。助カッタゼ」
「にしても広いよなァ。やたら深いし、ここまでの道も入り組んでるし……。
 京都から持ってきた地図にもでっかい空洞が描かれてたが、あの一部なのかねェ」

白くスラリとした姿の小動物。3頭身ほどの小さな操り人形。
どちらも陸地に上がり、身体を振って水を飛ばす。
オコジョ妖精のアルベール・カモミールと、生き人形のチャチャゼロだった。
魔法先生たちの監視の目を掻い潜り、地底空間に通じる通路を見つけ出し……
物語1つ書けるほどのちょっとした冒険の末、こうして、潜入に成功したというわけだ。

「あー、しかし参ったなー。もうだいぶ殺られてるじゃねーか。
 ゆえっちも、ちうっちも、このか姉さんも、朝倉の姉さんも……。
 兄貴大丈夫かなー。落ち込んでねーかなー?」
「ケケケッ。ナカナカ派手ニ殺シ合ッテルミテーダナ」

水に浮かぶゼロを、カモが泳いで引っ張って渡ったこの地底湖。その途中で聞いた定期放送。
今回の放送で確認できただけでも、状況打開の助けになりそうな人間が何人も犠牲になっている。
急がねばなるまい。
「俺っちの鼻だと、どうも兄貴は島の反対の方に居るみたいだなァ。かーなり遠いぜ」
「ケケケッ。ナラ、御主人ト合流スルカ? コッチハ結構近イゼ。ソッチノ煙出テル森ノ方ダ」
使い魔2人には、漠然とではあるがそれぞれの主人の居場所を把握する能力が備わっている。
離れていても、感じられる力。2人はそれを頼りに、動き出す。


48:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:03:30

3日前。ネギとその一行が捕まった、その時に―
アルベール・カモミールは、またしても1人上手く逃げ出していたのだった。
今度は残念ながら、カシオペアなどを持ち出す余裕は無かったが。
それでも単身逃げ出して、必死で考えた。
誰か他に仲間は居ないだろうかと。打てる手は無いだろうかと。

そうして探すうちに見つけたのが、エヴァの従者の1人であるチャチャゼロだった。
こちらもまた、エヴァと茶々丸が魔法先生たちに捕まる際に、1人だけ難を逃れていた。
エヴァの家に大量にある人形の中に紛れ込み、完全に気配を消し、『ただの人形』に扮して。
エヴァの魔力が封じられ、ヨチヨチ歩ける程度の身体能力しかなかったゼロには、それが精一杯だった。

『魔法使い』の使い魔同士、協力して事態の打開を図ろうとした2人。
しかし2人の位置からは、今一体何が起きているのか、さえも把握できず。
3-Aの面々が全て神隠しのように消えたのはすぐに分かったが、しかし一体どこにいるのか。
魔法先生たちが学園都市の地下で何やら企んでいるようだが、一体何をしているのか。
無力な従者2人は、それでも必死で情報を集め、状況を分析し―

―そんな中、カモの携帯に届いた、千雨からのメール。
茶々丸の残骸を通じて回線を接続した千雨が、ハッキングの合間に送ったSOS。
そこにはバトルロワイヤルの概要や彼女たちの現況などが、簡潔に手短に纏められていて。
もっとも、この時点では、『首輪』の真相は分かっていなかったわけだが……。
早速、カモとゼロは動き出した。やれることはほとんど無かったけれど、動き出した。

今チャチャゼロは、サンタクロースのように自分の身体とほぼ同じ大きさの袋を担いでいる。
この中には、エヴァが必要とするかもしれないアイテムが沢山詰まっている。
大量の触媒薬に飛行用のマント、予備の鉄扇、人形繰りの糸、儀式魔法の道具類、etc、etc……。
これが届けば、エヴァの能力は100%発揮できる。
完全装備のエヴァなら、この状況を打破しうる……かもしれない。
いやはや、何とも頼りない話ではあったが。

49:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:04:26
「問題ハ、御主人ガ ソウイウ気分ニナルカ、ダヨナ」
「おいおい、どういう意味だよ、ゼロっちよぉ。
 ここまで来て不安になるようなこと言うんじゃねぇってばよ」

歩き出したチャチャゼロの頭の上に飛び乗りながら、カモはボヤく。
外部からの助っ人がとうとう見つからなかった今、希望と言えばエヴァの高い魔法能力だけなのだ。
だが、ゼロは。
「ヒョットシタラ、御主人ハ コノ『ゲーム』ニ乗ッチマッタカモシレネェゼ。ケケケッ!」
「な―!?」
「御主人ノ魔力、結構上昇シテンダヨ。コリャ、誰カ魔法使エル奴ノ血ヲ吸ッタナ。
 普段、ぼーやガサレテイル、献血レベルの『吸血』ジャネェ。犠牲者ヲ殺ス勢イノ『吸血』ダ。
 吸ワレタ奴ハ、ミイラ化シテ クタバッテルンジャネーカ?」

そういうチャチャゼロの足取りは、つい先ほど地上に居た時よりもしっかりしている。
自動人形のチャチャゼロは、その主人であるエヴァが扱える魔力量に従い、身体能力が変化する。
指一本動かすのにもエヴァの魔力に依存するその身体は、敏感に主人の魔力量の差異を感じ取れる。
この地底空間自体に、高い魔力が満ちていることを差し引いても……
どうやら主人のエヴァは、かなりの量の魔力の底上げに成功した模様。
2つの呪いが解けておらず、月齢も変えられない以上、その方法は1つしかない。
―血を吸ったのだ。魔力ある者の血を、命が確実に失われるほどの量、吸ったのだ。
誰かを殺してしまったエヴァンジェリン。『ゲーム』に乗ったかもしれないエヴァンジェリン。
その事実を前に、使い魔の2人は。

「俺ハ、モシ ソウダトシテモ 御主人ノ所ニ応援ニ行クケドヨ……。
 アルベール。オマエハ、ドウスルヨ? ケケケッ!」

不気味な笑い声を上げるチャチャゼロ。実に楽しそうな殺人人形の笑い。
それに対し、オコジョ妖精アルベール・カモミールは……!

【侵入者 アルベール・カモミール および チャチャゼロ 『島』に侵入成功】
【残り 16名】

50:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:04:55
42 《 告白 (1) 》

―その定期放送を聞き、死亡者の数と名前にショックを受けた者は数多く居たが。
その中でも最も強い衝撃を受けていたのは、おそらく彼女だっただろう。

「このちゃんが……!」

闇に包まれた、山の中。
小猿の式神の『気』の気配を追い、辿り着いた鳴滝史伽(出席番号23番)の亡骸の前。
桜咲刹那(出席番号15番)は、死亡者リストにある1つの名前に、がっくりと膝をついた。

近衛木乃香(出席番号13番)。
深い恩のある近衛詠春の一人娘であり、幼い頃より親しくしてきた大事な友達であり……
刹那にとって、誇張でも何でもなく、この世で最も大事な存在。
木乃香を守ることが刹那の生きる理由であり、目標であり、存在意義であり。
木乃香のためなら、いつでも刹那は喜んで自分の命を投げ出しただろう。どんなことでもしただろう。

この『バトルロワイヤル』に投入されてからも、刹那は木乃香を探し続けた。
無闇やたらと歩き回ることの限界を察知し、式神使いの協力を仰ごうと、この山の中まで分け入って。
……既にその頃には、木乃香も史伽も命を落としていたわけだが。

守ることのできなかった木乃香。
間に合わなかった自分。
運命の悪戯で、互いにかなり近い位置にまで近づいたこともあったのだが。
すんでのところで、遭遇することもできずに……

とうとう、最悪の事態になってしまった。

頭の中が、真っ白になる。放送が嘘であって欲しいと願う。聞き間違いであって欲しいと願う。
しかしいくら考えても、木乃香は死んだのだ。
魔法先生たちが、この手のことについて嘘をつく理由がないのだ。

51:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:06:31

……どれだけの時間、彼女はそうしていたのだろう。
魂の抜けたような姿で座り込んでいた彼女は、やがて武器を手にする。
ネギとの仮契約で得たアーティファクト、『匕首・十六串呂(シーカ・シシクロ)』。
愛刀『夕凪』よりは遥かに小振りだが、それでもヒトの命を奪うのには十分な凶器。
刹那は立ち上がる気力もないまま、両手で握り締めた短刀をしばし眺める。

―死のう。このちゃんの後を追って、自ら命を絶とう。

それが、桜咲刹那の出した結論だった。
木乃香を殺した「誰か」を探し出し、復讐を果たすという選択肢もあった。
あるいはこの『ゲーム』に参加を強要した魔法先生たちに復讐するという選択肢もあった。
またはもっと建設的に、せめてネギや明日菜たちだけでも生き残れるよう、助ける選択肢もあった。
けれど、そんなことをしたところで―近衛木乃香は、戻らない。
彼女が死んだという事実は、戻らない。それらを果たしたところで、彼女は生き返らない。

刹那は、烏族の袴姿のまま、地べたに正座をすると。
大きく深呼吸1つして、自分の腹をかっさばくべく、短刀を―

「―それは実に勿体無い選択ネ、せつなサン」

短刀を突きたてようとして―突如かけられた言葉に、はッと動きを止める。
顔を上げればそこには、いつの間に近づいてきていたのか。
1人の人物が、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、刹那のことを見下ろしていた。

超鈴音(出席番号19番)、だった。

52:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:09:43
「愛しのお嬢様に死なれて、ハラキリとはネ……。
 せつなサンらしいと言えばらしいけど、それは少し気が早すぎると思うネ」
「貴様ッ……!」

からかうように笑う超の姿に、刹那は片膝を立て、顔を歪ませる。
復讐など無意味、と心に決めたはずなのに、何故だろう、コイツを殴りたくて仕方ない。
本気で、八つ裂きにしてやりたい。コイツだけは殺してやりたい。
……そんな不穏な気配を滲ませ身構える刹那に対し、しかし超は全く態度を変えることなく。

「本気で死にたいのなら、止めないけどネ。
 あるいは、私を殺したいのなら、そうすればいいけどネ。
 もし良かったら―どちらをするにせよ、私の話を全部聞いてからにして欲しいのヨ」
「話……だと?」
「そ。今度こそ嘘も隠し事もない、長い長いお話。
 私が麻帆良に来る前の、『過去』の話ヨ。
 絶望に絶望を重ねたその向こうに、僅かな希望の光が見える『かも』しれない……そんな話ヨ」

超は両手を広げ、いささか芝居がかった口調で語る。
全くの無防備な姿。何かあっても、咄嗟に対応などできないであろう姿。
表情こそいつも通りの笑顔だが……その体勢自体が、彼女の「本気」を語る。
決して冗談「だけ」ではないことを伝える。
「…………」
「その沈黙は、了承と受け取って良いのかナ?
 さて、それではどこから話すべきかナ……なにぶん、長い話になるからネ」
超は微笑む。邪気のない笑顔を浮かべ、しばし思案する。

「せつなサンは、『蠱毒(こどく)』という呪法を知っているカナ?
 日本の陰陽術を修めたせつなサンなら、名前くらい聞いたことがあるかもネ」


53:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:10:38

『蠱毒』―。古代中国で行われていた、『呪い』の術の一種である。

無数の虫が皿の上に盛られた形を表した字と、『毒』の1文字を組み合わせ、「こどく」と読む。
虫とはこの場合、近代生物学で言う昆虫のみならず、蜘蛛や百足、蜥蜴や蛇などをも含めた広い概念。
皿とはこの場合、それらを盛る場所のこと。
古代の原型は皿の上だったようだが、壺などの密閉容器を利用する方法の方がよく知られている。

数十匹の毒虫を壺のような狭い所に閉じ込め、自力では出られないようにして放置する。
時が経過し、閉鎖空間で飢えに苦しむ彼らは、やがて自分だけでも生き残らんと共食いを開始する。
凄惨な同族同士の殺し合いの果てに、最後まで生き残るのはたった1匹。
その1匹の身には、壺の中で殺され貪り喰われた数十匹分の毒と、怨念と、力が宿る。
恐るべき、呪力が篭る。

その、毒と怨念と呪力を凝縮した1匹を、魔法的手続きを踏んで『利用』するのが、『蠱毒』の法である。
その1匹を磨り潰し、文字通りの『毒薬』として使うケースもあるが、この術の真価はそこにはない。
凄まじい怨念を宿したその個体を、魔法的に縛り服従させ、いわば『使い魔』として使役するのだ。
敵に憑かせて呪わせて、不幸な目に合わせたり。主の身を守り、富をもたらしたり。
コントロールの難しい呪法ではあるが、しかし極めて完成度の高い術式だったのだ。

「魔法とは過去の遺物に非ず。常に新技術が研究され、進化していくものヨ。
 特に『最近』は、異なる体系の魔術を組み合わせて限界の突破を図る『ハイブリッド魔術』が盛んネ。
 これは『蠱毒』のように、一旦『完成』してしまった魔術を、さらに拡張するのに向いてる技法でネ」

そして超は笑う。長い説明の最も肝要な部分に差し掛かり、ニヤリと笑う。

「そして、『蠱毒』の最後のバリエーションとして。
 『これから先』の『未来』、西洋魔術のエッセンスと古代中国呪術を合成し、完成するのが―
 人間を使った、究極の『蠱毒』。『人蠱(じんこ)の術』。
 かつて私を天才の完璧超人にしてくれた、懐かしくも恨めしい、この『バトルロワイヤル』なのヨ」

【残り 16名】

54:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 09:11:13
今朝はここまで。

55:マロン名無しさん
06/09/21 09:29:37 Uj6t2+iM
なんてこったい/(^o^)\

56:マロン名無しさん
06/09/21 10:48:59
またチャチャゼロか?

57:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:01:56
43 《 告白 (2) 》

「……少林拳の達人だった友達は、ちょうど古菲に良く似た子でネ。
 格闘技のことならスゴイのに、勉強はまるでダメだたヨ。でも、バカなのに憎めなくてネ」

超鈴音(出席番号19番)は、懐かしそうに語る。
呆然と見上げる桜咲刹那(出席番号15番)の前で、嬉しそうに過去の『クラスメイト』の思い出を語る。
「料理が得意な子は、これは五月とは逆に、やせっぽちでネ。
 他人に料理食べさせることばかり考えてて、本人に栄養足りてなかたヨ。
 漢方や鍼灸に詳しい子は、ちょと体調崩すと親切に面倒見てくれたっけ。
 ハカセに似た、メカに強い子も居たネ。自称・科学に魂を売った悪魔。色々教わたヨ。
 他にも、商才に長けた商売人。量子力学の天才に生物工学の天才。
 十数ヶ国の言葉をペラペラ話せる、語学の天才も居たナ。
 今の3-Aに負けず劣らず、個性的で優れた才能に溢れたクラスだたネ」
超の目の前には、ありありと古い友人たちの姿が浮かんでいるのだろうか。
皮肉屋の彼女には珍しい、何かを惜しむような表情。

「当時の私は、学校の勉強だけしか取り得のない、実につまらない『秀才』だたネ。
 ―そりゃ、軽く5年ほど飛び級して、世間では既に『天才少女』なんて騒がれてたケド。
 その飛び級して入たクラスが、こんな本物の天才揃いだったからネ。
 幼心に、思い知らされたヨ。テストの点が取れるだけじゃ、何の意味もないとネ。
 でもそんな私に、みんな優しくしてくれたヨ。可愛がてくれたヨ。みんな、大事な私の友達だたネ」

そして超は、自分の胸を抱くようにして呟く。
静かに目を閉じて、謳うように呟く。
「その友達を―火星の学校の大切な友達を、私は皆殺しにしたネ。
 『蠱毒の壺』の中で、みんな殺して、最後まで生き残って―そしてみんなは今、私の中に居るヨ。
 天才・超鈴音の一部として、今も『ここ』で、生きているネ」


58:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:02:34

超鈴音の生きてきた『過去』、超鈴音が生きた世界の歴史において―
魔法界と人間界のバランスが崩れたきっかけは、1つの小説の出現だった。

『バトルロワイアル』。中学校のクラスメイトたちが殺し合いを強いられるという、過激な内容。
極東の島国で発刊され、しかしその一国でちょっとしたブームを起こしただけで、忘れられた小説。
これが、一部の『魔法使い』たちに、あるアイデアを与えた。
『蠱毒の法』を拡張し発展させるための、きっかけを与えた。

元々『蠱毒』は、閉じ込めた動物や虫たちに殺し合いをさせるところに本質がある。
飢えによって生じる怨念も重要なパワーの源ではあるが、しかしそれは必須ではない。
それ以上に、「同族をも殺さなければ生き残れない」という状況こそが大事だったのだ。
原始的な動物でも備えている、同族殺しのタブー。そのタブーを越えた所にある生きる意志。
それを引き出し、『最後の1匹』の身に濃縮することこそが、重要だった。

『蠱毒』の法は、広義の虫だけでなく、狐や猫で行われる例もあり、狐蠱や猫鬼などと称される。
霊格の高い存在で行えば、それだけ強力な『蠱毒』が作れる理屈ではあったが。
当然、相手が強くなればなるほど、術者にとってもその扱いは難しくなり、暴走の危険が上がる。
人間を使って行う『人蠱』も、倫理的な問題はさておき、実現すれば凄まじいパワーが予測されたが……
現実問題、その実行は非常に困難だった。
何より、人間を狭い所に閉じ込め、飢えさせたところで共食いなど始まらない。
もし始まったとしても、最後の1人が選ばれるまでどれだけの時間がかかることか。

そこで導入されたのが、小説『バトルロワイアル』の方法。
教室で見せしめとして殺される者。命を縛る『首輪』。島という形の閉鎖空間。
与えられる武器。時間を追って増えていく『禁止区域』。
『殺さなければ殺される』、その極限状態に追い込む具体的手法を、小説の設定から借りてきて―
その一部は、機械的なテクノロジーでなく、『魔法』的技術で代用することになったが。

ともかくこうして21世紀の初期、魔法界において『人蠱の法』は技術的に完成したのだ。


59:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:03:17

「犠牲になった数十人分の怨念と力を一身に宿した『人間蠱毒』は、強かたネ。
 誰も勝てない。誰も敵わない。魔法界の統一も、すぐに完了してしまたヨ。
 魔法界が人間界全体を征服し屈服させるのにも、時間はかからなかたネ」

『人蠱』の法を完成させたのは、魔法界でも過激な派閥の面々だった。
『現在』の魔法界には、人間界への態度で分ければ、およそ3つの派閥があると言える。

まず、愛すべき『非・魔法使い』たちを守るため、積極的に人間界に力を貸すべしとする友愛主義。
次に、魔法界は魔法界で独自の道を進むべきとして、人間界との距離を置こうとする孤立主義。
最後に―魔法使いはその力をもって全世界を支配し君臨すべき、とする覇権主義。

これら3つの意見は、時に対立し時に協調し、時に『大戦』と呼ばれるほどの戦争を起こし。
争いの果てに一定の均衡に達した2003年『現在』では、第一と第二の意見が多数派で勢力を2分。
僅かに、孤立主義の方が優勢か。第三の過激な意見は根強いものはあるが、今は少数派。
人間界の魔法使いたちの「魔法を隠しつつ善行を積む」という態度は、二大派閥の妥協の産物だ。

ただし―魔法界の世論も人間界のソレと同様、非常に脆く、揺らぎ易いもの。
だから、ちょっとしたきっかけでこの勢力バランスは大きく崩れる可能性がある。
一気に、『力による人間界の支配』という方向に傾いてしまうこともありうる。

……少し話は逸れるが、実はここに加えるべき『第四の意見』も存在する。
それは「魔法界単独で方針を決めようとすること自体が間違っている」とする、人間界重視論。
上の3つ、そのどれもが実は、『魔法使いの非・魔法使いに対する優位性』を前提にした論。
『魔法使い』は強い。『魔法使い』は偉い。『魔法使い』は『非・魔法使い』よりも優れた存在だ。
だから『魔法使い』は『守ってやらねばならない』『単独でもやっていける』『支配する権利がある』……。
結論は異なれど、いずれも『魔法使い』側の傲慢な考え方が垣間見える。
そして、かつてこれらに異を唱えたのが、『大戦の英雄』ナギ・スプリングフィールド……。
10年前の彼の『死』にも、彼の『第四の意見』を疎んじた魔法界の大物が関わっていた、という噂すらある。
真相は、今や闇の中なのだが。

60:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:04:24
閑話休題。
そして、『超の過ごしてきた歴史』において。
『バトルロワイアル』を参考に『人蠱の法』を完成させた過激派は、その力を使って全てをひっくり返した。
それほどまでに、『人蠱』の力は、凄まじかった。

現代社会において、真正面から侵攻してくる軍隊は、実は何とか抵抗できる。
大部隊を動かそうとすればその準備の様子などは容易にキャッチできるし、対策も立てやすい。
長距離ミサイルを撃つにしても、偵察衛星などの発達した現在、完全な不意打ちはなかなか困難。

しかし、他国の軍の侵攻を食い止めることのできる、強力な近代国家であっても。
『人間1人』が国内に侵入することは、食い止めがたい。
テロ対策を強化する大国がなおテロリストに翻弄されているように、人間の侵入は、止めにくいものだ。
そしてそのたった1人の人間の中に、数十人分もの能力とパワーが凝縮されていれば……
敵国の首都に侵入し、要人を暗殺してもよし。基地に侵入し、兵士たちを皆殺しにしてもよし。
本気で、何でもできる。

その力を縦横無尽に使いこなし、『魔法使い』たちは、世界を屈服させることに成功した。
魔法界の勢力地図を塗り替え、人間界に直接進出し、人間界の国家を支配していった。
彼らは征服し屈服させた地域で、さらなる『人蠱』を作りだし、それを新たな尖兵に仕立て上げ。
文字通りの、世界征服に成功した。魔法界による一極支配の構図が、完成した。

「せつなサン、私はね―『仮面ライダー』なのヨ」
超は唐突に呟く。文脈をぶった斬るようにして口にされた、往年の変身ヒーローの名前。
それが、超鈴音という超人を、最も分かり易く説明する言葉だった。

「悪の組織に改造されて、しかし洗脳される前に難を逃れた仮面ライダーのように。
 私は、『人間蠱毒』になりながらも、魔法使いたちの支配を逃れることのできた、貴重な1人なのヨ。
 難を逃れて―そして、私を『作った』魔法界との戦いを続けてきたのヨ。
 『この時代』に来たのも、その戦いの一環に過ぎない」

【残り 16名】

61:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:06:19
44 《 告白 (3) 》

―火星。
21世紀初頭において人類未踏の惑星も、この時代には人の住む土地となっていた。
魔法界による世界の統一。『人蠱』という暴力による、問答無用の新秩序構築。
それは世界に少なからぬ不幸を生み出し、また地下で抵抗を続けるレジスタンスを生み出していたが。
一方で、戦争や国家間対立を消滅させ、全てを統一し、外へと広がる膨大な力を生み出していた。
そして科学と魔法の技術の粋を集め、人類の新たなるフロンティアとして用意されたのが、火星だった。

どんな異郷でも、暮らす者にはそこが故郷である。
幼かった『鈴音(すずね)』には、火星が特別な場所だという認識はなく。
ごく普通に育ち、ごく普通に暮らし。『人蠱』による恐怖政治も、それが当たり前だと思っていた。
レジスタンスなどに参加するのは、愚か者のやることだと思っていた。
抵抗したところで、『人蠱』にかなう者など居ないというのに。

いや―歴史上、『人蠱』たちと正面から戦い、人間界を守ろうとした『英雄』が1人いた。
21世紀前半。魔法界による暴虐の歴史が始まる、その最初期。
『ネギ・スプリングフィールド』。
かの『サウザンドマスター』の血を引く『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』。
十数人とも数十人とも言われるケタ外れな数の従者を引き連れた、変幻自在の魔法戦士。
魔法界の方針が一変し、人間界の魔法使いたちも唯々諾々と従う中……
彼とその仲間たちだけは、その巨悪に対して立ち向かった。「それは間違っている」と声を上げた。
そして彼らは、誰もかなわぬはずの人間魔法兵器・『人蠱』に知恵と勇気で立ち向かって。
何体もの『人蠱』を返り討ちにしたが―最終的には、力及ばずして倒された。
ネギの名はレジスタンスたちにとっての希望であり、反抗の可能性を示すものだ。
彼は倒される直前、愛する人との間に子を成していたとの噂もあったが……
その妻や子の名は、一般には知られてはいなかった。魔法界の側も、把握できていなかった。

幼い日の鈴音は、しかしそんな英雄の名など、知りはしなかった。
自分には関係ないことだと思っていた。『人蠱』もその製法も、自分とは無縁の話だと思っていた。
―その日、鈴音たちが『バトルロワイヤル』の対象クラスに選ばれるまでは。

62:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:06:58

「君たちには、これから『殺し合い』をしてもらいます」

―火星の学校の、現代日本で言えば中学3年生に相当する学年の、クラス丸ごと1つ分。
小説『バトルロワイアル』の描写そのままに誘拐された彼女たちは、見知らぬ男にそう告げられた。
当時10歳、飛び級を重ねてきた秀才少女・鈴音は、しかし教室の片隅で震える無力な存在でしかなく。

世界を一手に支配した魔法界が、定期的に開いていた『人蠱』作成イベント・『バトルロワイヤル』。
『人蠱』がいくら強いと言っても、不死身ではない。年も取れば怪我もする。戦死する者もある。
そんな『人蠱』を補給し数を維持するため、魔法界は恐るべき制度を構築していた。
数年に1度、火星を含めた全世界から中学生のクラスを1つだけ選ぶ。
1つだけ選び出し、彼らに『殺し合い』をさせる。生き残った者を『人蠱』とし、魔法界に仕える存在にする。
……なんとも非人道的なシステムだったが、誰も逆らえない。
それに世界で1つの不幸なクラスに選ばれる確率は、極めて低く。交通事故で死ぬ確率よりもなお低い。
誰もがどこかで他人事のように思い込み、自分たちだけは大丈夫、と思い込んでいた。
一般市民がそう思い込むよう、『強制認識魔法』も含めた、あらゆる手が尽くされていた。

しかし―鈴音たちのクラスは、こうして現実に『バトルロワイヤル』の対象として選ばれてしまって。
10歳の鈴音は、周囲を見回す。
彼女にとって、周囲の『クラスメイト』は全て5歳ほども年上。体格も体力も段違い。
武道の達人や東洋医学のプロ。駆け引きに長けた人間や、鈴音より頭のいい正真正銘の天才もいる。
とてもとても、テストの点を取ることしか取り得のない、幼い鈴音に勝てるわけがない―

―勝てるわけがない、と思ったのだが。

『バトルロワイヤル』というものは、えてして予想外のことが起こるものである。
優勝候補が次々と潰しあい、また同級生たちが幼い鈴音に銃を向けるのを躊躇った結果。
最後まで生き残ってしまったのは、鈴音だった。
その小さな両手を、優しかったクラスメイトたちの血で染め上げた、鈴音だった。

63:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:08:34
……ここで終っていれば、鈴音は新たな『人蠱』として世界を維持する歯車の1つになっていただろう。
しかし運命はここでもう1つ予想外の展開を見せる。
『バトルロワイヤル』に反対し、魔法界の支配に抵抗するレジスタンスが、会場に乱入してきたのである。
結局、彼らは多くの犠牲を出しつつも、鈴音1人だけしか救い出すことができなかった。
だがこのたった1人の生存者が、レジスタンス側としては最高の結果となったのである。

まず、少女の素性であるが……救出後初めて、彼女が『英雄ネギ』の子孫であることが明らかになった。
彼女自身、それまで全く知らなかったこと。
彼女の親や祖父母、そしてその支援者たちが巧妙な隠蔽工作をしていたのだ。
この事実はレジスタンスを勇気づけ、鈴音は一気にレジスタンスのシンボル的存在となった。

また鈴音が救出されたのは、『人蠱の法』が完成する直前のステップ。
殺し尽くされたクラスメイトたちの、怨念と力が全て鈴音1人の身体に「宿った」直後で―
―そして術者たちが、鈴音を魔法的に「縛る」直前だった。
『人蠱』としての鈴音は事実上完成していて、しかしまだ魔法使いたちの奴隷にはなっていない。
まさに、改造手術の直後、洗脳の直前に脱出した、仮面ライダーさながらの境遇。

自分の中に、死んだクラスメイトたちの存在が蘇ってくるのを実感しながら、鈴音は誓った。
この世界を正そうと。自分を『作った』魔法使いたちと戦おうと。
逆に世界を自分たちの想いで染め上げるくらいの勢いで、戦おうと。
気弱だった幼い少女は、しかしクラスの誰のものなのか、不敵な笑みをその童顔に浮かべ。
好きなものは『世界征服』。嫌いなものは『憎悪の連鎖』と、『大国による世界一極支配』。
―今に繋がる『スーパー鈴音(すずね)』、『超 鈴音(チャオ・リンシェン)』の誕生である。

それから2年。
超鈴音はレジスタンスに身を置き、魔法界から刺客として送られてくる『人蠱』と戦いながら、反抗を続けた。
自分の中に宿る何人もの天才たちの才能を結集し、そして彼女は完成させる。
『カシオペア』。奇跡的に出来上がった、世界初の、懐中時計型航時機。
12歳になっていた彼女は、全てをやり直すべく、大きく時間を跳躍し。そして、到達したのは―!

64:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:09:07

「そん、な……」
「私も本当は、『魔法バレ』だけで世界が変わってくれることを望んでいたネ。
 2年半ほどの分析で、その可能性は十分ある、と踏んだのだけど」

あまりに壮大な超鈴音(出席番号19番)の話に、桜咲刹那(出席番号15番)は呆然とするしかない。
作り話なら、あまりに突飛がなさ過ぎる。真実なら、背負ったものがあまりに重過ぎる。
そんな刹那に、超は淡々と語り続ける。

「魔法の存在が世に明かされれば、魔法界の世論の動きもまた大きく変化する。
 この時期、『力による人間界支配』を訴える一派は、まだ『人蠱の法』を完成させる前。
 上手く行けば、魔法界自身の力で、この私が見てきたような歴史は避けられたネ。
 それに賭けてみたのだけれど……賭けは、失敗だったヨ」

人間界についての態度で、大きく3つに分かれていた魔法界。
それは当然、人間界への魔法の暴露によって、大きな影響を受ける。
それがどのような結果を生むかは、不確定要素が大きすぎて予想し難かったが……
それでも、『力による支配』を求める派閥が大きく力を落とす展開は、十分にありえた。
ありえたの、だが……。

学園祭終了後、1週間。
世界樹の魔力と増幅しあい励起された、世界に12ヶ所ある『聖地』。麻帆良と同等の霊的な土地。
『聖地』の魔力でカシオペア2号機を動かし、時間と空間を飛びまわり、魔法界の様子を探っていた超。
思惑通りに進んでいれば、その途中で適当な『聖地』の魔力を利用し、未来に帰るつもりだったのだが。

事態は、最悪の方向に進んでしまっていた。
『人蠱の法』もまだ完成していないというのに、『力による支配』を求める派閥が、魔法界で急激に躍進。
ほんの1週間もしないうちに、魔法界の主流の意見となってしまったのだ。
彼らは、魔法界本国に出頭してきた麻帆良学園の責任者・近衛近右衛門を、問答無用でその場で処刑。
他の麻帆良の魔法使いたちについても、「オコジョの刑」を課すとの名目で呼び出し、処刑することを画策。
同時に、混乱続く人間界に一気に急襲をかけるべく、大規模戦争の準備を始めていた。

65:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:13:22
「―彼らはそして、いずれ『人蠱の法』を完成させるネ。そうしたら、もう対抗できる者は居ないヨ」
「し、しかし、今の話だと、貴様自身も、その『人蠱』では―」
「時間跳躍の前、2年間に渡る激しい戦いの中で、私の能力はかなり失われてしまったネ。
 相手は同じ『人蠱』の群れ。残念ながら無傷では済まなかったネ。
 あんまり目立たないけど、服を脱いだら古い傷痕、結構あるのヨ?
 今でも軍用強化服を使えばそれなりに戦えるけれど……私の全盛期に比べれば、全然ネ」

明日にでも人間界に侵攻をかけるであろう魔法界。来年にでも完成するであろう『人蠱の法』。
それらに対抗しうる手段は、ただ1つ。
こちらもまた、『人蠱』でもって抗するのだ。麻帆良で新たな『人蠱』を作って、彼らにぶつけるのだ。
―それが、超の辿り着いた結論だった。

「レジスタンスのみんなが多大な犠牲を出しながらも盗みだした、『人蠱の法』のやり方。
 でも、強い『人蠱』を作るには、やはり素材が一番大事なのヨ。
 このクラスは、実に優秀な人材が揃ってる―全世界でも最高だろうネ。
 これを『材料』に『人蠱の法』を執り行えば、最強最高の『人蠱』が作れるはずネ」
超は笑う。不気味に笑う。
「何よりメンバーの中に、かつて『人蠱』に立ち向かった『英雄』ネギ・スプリングフィールドがいる。
 彼の能力を『人蠱』に加えることができれば、本当に最強になるはずヨ。
 ネギ坊主が優勝しても、殺されても……その能力は、無駄にならないネ」
「だが、ネギ先生はお前の先祖でもあるんだろうッ!? だとしたらッ!?」
刹那は吼える。思わず叫ぶ。
どんな犠牲を出してでも最強の『人蠱』を作るのだと言う超、しかし、それでは……!

「その通り。もしネギ坊主が勝ち残っても、今度はその妻になるはずの人が死んでるだろうしネ。
 そして、どちらかの血筋の消滅が確定すれば……
 私という『個人』は、タイムパラドクスによって『消滅』する可能性が高い……改変した歴史は残るが。
 だから私は、優勝することはありえない。2回連続の優勝は、ありえない。
 『バトルロワイヤル』が上手く行くよう、内部から誘導して―折を見て、誰かに倒されるべき役目ネ。
 未練が無いと言えば嘘になるが……全ては、覚悟の上の計画ヨ」

66:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:13:53
己の破滅を大前提として組み込んだこの策。
魔法先生たちを取り込み、彼らに『未来』から持ち込んだ術を託し、そして、ここで終わるつもりの彼女。
殺されるのが早いか、タイムパラドクスの狭間に消えるのが早いか、それは彼女にも分からぬが……。
超は、唖然とする刹那の顔を覗きこんで、本題に入る。

「さて―せつなサン。それらを踏まえた上で、貴女には3つの選択肢があるネ」
「……3つ?」
「1つは、先程やりかけていたように、ハラキリでもして自殺することネ。
 どんな死に方しても、首に『刻印』を刻まれし者は、フィールド内で死ぬだけで『人蠱』の一部になるネ。
 すなわち、貴女の力は誰かに受け継がれることになる。私にとっては、まあ悪くない結末カナ。
 神鳴流の技も、退魔術も、陰陽術も、人間離れした『気』の力も……。
 流石に肉体的特徴までは引き継がれないから、『翼』は失われるけれど、ネ」
「…………」
「2つめは、今の話を聞いてなお、私とその計画を邪魔しようとすること。
 これは―正直、オススメできない。愛しのお嬢様の死も、全部無駄になりかねないしネ」
「…………」
「そして、3つめは―頑張ってクラスのみんなを殺して、せつなサン自身が優勝してしまうことネ。
 そうすれば、みんなの持つ『力』は、せつなサンのものになる。
 木乃香サンの魔力も、想いも、何もかも、全部せつなサンの一部になる。
 せつなサンの中で、生き続けることになる。
 『経験者』の体験を語らせてもらえば―これ、結構悪くないヨ。
 文字通り、一心同体になれる。セックスするより何するよりも、深い仲になれる。
 これを選ぶなら、さっき言った通り私は優勝『できない』からネ。横から助けてあげることもできるヨ」

己の胸を抱いて語る超の心の中には、「かつてのクラスメイト」たちが「生きて」いるのだろうか。
刹那は、そして大いに心揺さぶられる。目の前の悪魔の誘惑に、揺さぶられる。

「さァ―それでせつなサンは、何を選ぶのカナ?」

超のどこか楽しげな問いかけに対し。悩みぬいた刹那は―!

【残り 16名】

67:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/21 21:14:43
今夜はここまで。

超の計画、結構ツッコミ所ありますが……ムニャムニャ。

68:マロン名無しさん
06/09/21 21:28:37
GJ いい話じゃあないか。スーパーすずねを応援しよう。

69:マロン名無しさん
06/09/21 21:44:18
飛び級で10歳って、ちよちゃん!?

70:マロン名無しさん
06/09/21 22:07:21
実にGJです! ホントに超展開になってきたww

71:マロン名無しさん
06/09/21 22:48:07
GJなんだけどさ、超のセックル発言はいいのか!?

72:マロン名無しさん
06/09/21 23:31:36
刹那はこのかとそれなりの関係だからと
踏んでの発言とみたw

73:マロン名無しさん
06/09/21 23:39:17
洋画によくある小粋なエロリアンジョークだ、つっこんでやるな

74:マロン名無しさん
06/09/21 23:59:00
チャオリンカワウソス

75:マロン名無しさん
06/09/22 00:14:27
刹那、このちゃんセックル以上な関係…
な感じで心が揺れてるんじゃあるまいなw

76:マロン名無しさん
06/09/22 00:23:10
>>75
台無しww

77:マロン名無しさん
06/09/22 01:08:47
この後刹那は明日菜と会って刹那vs明日菜、古vs超的な展開を予想する。楽しみだぁ~

78:マロン名無しさん
06/09/22 03:37:12
スーパー鈴音が素直にうまいと思った。

79:マロン名無しさん
06/09/22 07:36:35
俺もスーパー鈴音はうまいと思った
スズネは浮かんでもスーパーの方はなかなか浮かばない

80:マロン名無しさん
06/09/22 07:52:49
実はこの告白も嘘っていうどんでん返しが




ねーな

81:マロン名無しさん
06/09/22 07:58:55
あるんじゃね?

82:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:11:34
45 《 強く儚い者たち (1) 》

暗くなった林の中を、奇妙な3人組が歩いていた。
銃を手に先行する、幼い少女。その後を追う、落ち着いた雰囲気の女性。
そして、裸の身体をバスタオルに巻かれ、女性の胸に抱かれた赤ん坊。
マナ・アルカナ(出席番号なし)、那波千鶴(出席番号21番)、そして鳴滝風香(出席番号22番)。
3人の……いや、風香は喋れないから、実質2人の間に、会話はない。
ただ黙々と、歩き続ける。

エヴァンジェリンを探し、会い、首輪に関する魔法を解除する可能性を探る―
それが、マナの提案した方針だった。
他の参加者と異なり、身体に合っていないマナの首輪。同じく身体のサイズと合わなくなった風香の首輪。
その下には、首を一周する、痣のような黒い文字列が覗いている。
マナの見立てでは、これは魔法的な処置によるものだと言う。
そして―これだけ高度な儀式魔法に対抗しうる可能性を持つのは、参加者の中ではエヴァだけだ、とも。

千鶴は、それ以上詳しいことを尋ねようとはしなかった。
何故マナがエヴァのことを知っているのか、とか、何故そんなことが分かるのか、とか。
問われれば、『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』の従者だった過去くらいは話したはずなのだが。
……ただ問題となったのは、どうやってエヴァを探し、どうやって協力を頼むのか、ということだった。
とりあえずは出会わねば仕方が無い。しかしどうやってこの広い島の中で探すのか。
これにはマナも千鶴も良案はなく。
ひとまず、誰かと出会いそうな所に移動しよう、ということになった。
エヴァとは全く無関係な、好戦的な者と遭遇する危険はあったが、しかしじっと隠れていても仕方ない。

そうして、彼女たちは島の東の林の中から、南に向かって動いていた。
目印は立ち上る煙。そう、夕映の魔法で火がついた、本棚地帯の火災である。
何があったかマナたちには分からぬが、あの目立つ場所には誰かしら集まってくるだろう。
ひょっとしたらその中に、エヴァの居場所を知る者や、エヴァ本人も居るかもしれない……。

83:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:12:23
暗い林の中を、黙って歩き続ける。
周囲の木々の間に、時折本棚が混じるようになってきた。地図の上では、既に本棚地帯に入ったらしい。
一時は泣いたり騒いだり漏らしたり、大変だった『赤ん坊の』風香も、今は千鶴の胸で寝息を立てている。

「……ねぇ、マナちゃん」
「何だ?」
「さっきの放送……本当なのかしら……」
「真実か否か、ということなら、連中の側に嘘をつく理由がないな」
2人の話題に挙がったのは、ほんの数分前、歩きながら聞いた先の定期放送。
一挙11人もの死者、その中でも特に気になったのは……
出席番号23番、鳴滝史伽。出席番号28番、村上夏美。

史伽は言うまでもなく、泣き疲れて千鶴の胸で寝ている風香の妹だ。
風香自身は『年齢詐称薬』の効果で赤ん坊と化し、放送も理解してないのかもしれないが……
しかし、その事実を知った時、どんなショックを受けるのか。

夏美は……他ならぬ、千鶴のルームメイトの1人にして、千鶴の妹分だ。
ある意味、1人でも自分の身を守れそうなあやかに対し、夏美は「守ってやらねば」と思わせる相手。
開始直後から、ずっと彼女のことを気にかけていたのだが……とうとう、その名が読み上げられてしまった。
出会うことすらできなかった夏美のことを思い、千鶴の表情は沈みこむ。

一方のマナとしても、この短い間に、これほど多くの人間が死んでいくとは思ってもいなかった。
この調子では―魔力が抑えられているであろう今のエヴァも、果たしてどこまで生きていられるものか。
いや、そのエヴァもまた、この『ゲーム』に『乗って』しまった可能性もある。
この状況下であのエヴァがどういう判断を下すのか。気にはなるが、しかし想像もつかない。

84:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:13:11
気になると言えば、『年齢詐称薬』の持続時間も、マナには気になるところだった。
既に8時間以上は経過していたが、しかしまだ元に戻る気配はない。
いやこの薬、ひょっとしたら「元に戻る気配」を、本人でも感じ取れないモノなのか。
外見年齢を変える魔法の薬、『年齢詐称薬』。
幻術の一種とはいえ、手触りから体格から何から全て変えてしまう、事実上の変身魔法。
支給された説明書によれば、持続時間はおよそ6時間、ただし周囲の魔力量によって変動……。
学祭期の麻帆良と同様、この地底空間は通常より魔力の多い空間だが、しかし一体、どの程度なのか。
一体どの程度、この魔法薬の効果は延びるのだろうか。
追加で飲むわけにはいかない。まだ効果があるうちに追加投与すれば、時間が延びずに「さらに若返る」。
千鶴の胸で寝ている風香のような姿になってしまうはずだ。
さりとて、このまま放置すれば……。

……まあ、マナが素直にその正体を明かしてしまえば、全てはそれで済む話ではある。
だが今さら名乗るのは気恥ずかしいというか、何というか。
戦いに生き残ることだけを考えれば、体格的に恵まれた「本来の姿」の方が有利なハズではあるのだが。
マナは彼女らしくもなく、答えの出ない問いを悩み続ける。

―と。
千鶴たちより数歩先を行っていたマナの足が、急に止まる。
「何? どうしたの?」
「しッ。静かに」
思わず問いかけた千鶴に、マナは片手を上げて短く沈黙を求める。
見れば視線の先。木々が途切れ、本棚ばかりが並び始めるエリアに、2人の人影。
その片方が、しかしマナの制止も間に合わず、耳ざとく千鶴の声を聞きつけて、振り返る。
残る一方も、その相棒の動きで気付いてこちらを向く。

長瀬楓(出席番号20番)と、柿崎美砂(出席番号07番)だった。


85:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:13:55
「……美砂殿の予想通りでござったな」
「でしょ?」
「あれは、千鶴殿と……残る2人は誰でござるかな。赤子と、子供?
 あの子供の方は、年に見合わずかなりのやり手と見たが……」
美砂を庇うように巨大手裏剣を構えながら、楓は素早く相手を値踏みする。
庇われた美砂の方は、やる気なさそうに小型のリボルバーを弄びながらも、にんまり笑う。

そう、美砂たちもまた、本棚地帯の火災の煙を見つけ、島中央の山中から降りてきていたのだ。
史伽が隠れていた洞窟のあたりからは、本棚地帯は直接見ることができないが……しかし煙は見える。
楓が美砂を背負い、山を駆け谷を越え、本棚の立ち並ぶ中で夕映とアキラの死体を発見し。
そして美砂が提案したのだ。ここで他の参加者が来るのを、しばらく待とう、と。
近くにあった本を消えかけていた火の中に放り込み、近くの本棚も壊して放り込み、火勢を維持。
煙が絶えないようにして、人々が集まる「目印」を用意したのだ。

「さて―申し訳ないでござるが、千鶴殿とそのお仲間たちには、ここで死んでもらうでござる」
「……どういうことだ、楓?」
唐突な楓の宣言に、マナは眉を寄せる。
楓の表情は、いつも通りの掴み所のない微笑。しかし、その発言は聞き逃せるものではなく。

「そのまんまの―意味でござるよ」

瞬。
マナがハッと気付いた時には、既に遅し。
美砂を庇うように立つ楓はそのままに、『もう1人』の楓が、いつの間にかマナのすぐ傍に立っていて―
「―縮地!? 影分身!?」
「御名答、でござる」
マナが銃を向けるよりなお早く―銃を握ったままの片腕が、千切れて宙に舞った。

【残り 16名】

86:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:14:43
46 《 強く儚い者たち (2) 》

マナ・アルカナ(出席番号なし)は―その瞬間、思い知らされた。
自分の「弱さ」を。自分の「脆さ」を。
金と依頼のため「だけ」に働き、戦うという建前。思えばそれはマスターを失ってからのこと。
ずっと一緒に連れ添うのだ、と思い込んでいたマスターの死後のこと。
仕事でしか、依頼でしか銃を取らないというのは、あの時の涙の反動だ。
能天気ながらも包容力あるクラスメイトから一歩距離を置いてきたのも、その時の痛みからだ。

 もう、二度と大事な人を失いたくはない。あの苦しみを、二度と味わいたくはない。
 ならば―大事な人を、二度と作らなければいい。誰にも、心開かなければいい。

クールに見える仕事人。「仕事以外のことは知らないね」と断言してしまう強烈な職業意識。
しかしその割り切った線引きは、彼女の「弱さ」から来たものだった。
情のために銃を取れば、再びあの時のような思いを味わうかもしれないから。
それでも、硝煙の匂いの向こうに彼の幻を追い、戦場に身を置き続けたいと願って……

こんなに「弱い」自分が、その過去を思い出すような「幼い頃の姿」になってはいけなかったのだ。
こんなに「弱い」自分が、千鶴たちとこんなに親しくしていてはいけなかったのだ。
赤い飴玉を使って変身を打ち消そうとしなかったのも、年齢詐称薬の持続時間を気にしてたのも。
気恥ずかしさとか、嘘をついた後ろめたさとかではなく、ただ甘えていたかったから。
千鶴の優しさに、普段の頑なな防御も何もかも脱ぎ捨てて、甘え続けていたかったから。
そんな状態で、「弱い」マナが普段通りの戦いなどできるはずもなかったのに。
風香のような素人相手ならともかく、楓のような達人相手に敵うはずもなかったのに……!

目の前に、刃が迫る。
巨大な手裏剣が回転ノコギリのように迫ってくるのが、スローモーションのように「見える」。
「見える」が……魔眼で視認はできたが、しかし最初の一撃は身体が「間に合わない」。
右前腕に、刃がゆっくり食い込む。愛銃を握ったままの手が、切り飛ばされて宙に舞う。
続いて―回転しながら迫る、次の刃。それはマナの胸元に、ゆっくりと、迫ってきて、……、……。


87:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:17:41
―それはあまりにもあっさりとした決着だった。
柿崎美砂(出席番号07番)と共に現れた、長瀬楓(出席番号20番)。
マナ・アルカナ(出席番号なし)は、那波千鶴(出席番号21番)と鳴滝風香(出席番号22番)を守ろうとしたが。
影分身。気配の一切しない縮地。巨大手裏剣を回転させての連続攻撃。
楓の一瞬の猛攻の前に、マナは片腕を切り落とされ、その小さな身体は吹き飛ばされて……
血を撒き散らしながら遠くの本棚まで弾き飛ばされ、叩きつけられる。
その小さな身体は崩れ落ちてきた大量の本に埋まり、見えなくなって。
本の雪崩が一段落した時、そこには動くモノはなかった。
思い出したように、1冊の本が少し遅れてパサリと落ちて……それっきり。

「ま……マナちゃん!」
「はて……今、手応えが……。気のせいでござるかな?」
千鶴の悲鳴のような声をよそに、分身を消した楓は、手裏剣を片手に首を捻る。
細い目をさらに細め、マナの埋まった本の山を眺める。
「それに今の子供、拙者のことを知っていたようでござったが……? 一体、何者……?」
「首輪もしてたし、どうせ『3-A以外の参加者』でしょ。それよりさっさと、あっちの2人も始末しなさい」
何か引っ掛かるモノを感じている楓の背に、美砂は乱暴に声をかける。
美砂にとって、奴隷以外の生徒は単なる邪魔者。
楓が苦戦するような相手なら『ホレ薬』を用いて下僕に加える価値もあるが、そうでなければ殺すに限る。

「うむ……しかし……」
「―楓さん」
ぱあんッ。
なおもマナが埋もれる本の山を気にする楓が、はッと振り向く間もあればこそ。
その頬が、盛大な音を立てる。思わずよろけてその場に膝をつく。呆然と頬を押さえ、楓は見上げる。
……気配すら感じられなかったのに。いつの間に距離を詰めていたのか。
赤ん坊を片腕で抱いた千鶴が、平手打ちを放ったままの姿勢で、楓のことを睨みつけていた。

88:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:18:37
「な―」
「柿崎さんと何があったかは知りませんが―見損ないましたよ」

千鶴の凛とした声が、暗い本棚の林の中に響く。
いつもの穏やかな千鶴からは想像もできない、厳しい表情。
その迫力に、美砂以外の何物にも興味を無くしたはずの楓が、「呑まれる」。
千鶴の腕の中、赤ん坊がむずがり、大声で泣き出すが、しかし千鶴の視線は楓を射竦めたままで。

「貴女は、こんなことをする人ではなかったはずよ。
 ……この子が誰か、分かる? 魔法のお薬で赤ちゃんになってはいるけど……風香ちゃんよ」
「!!」
「私の知っている『長瀬楓』は、面倒見のいい、優しくて強い人だったはずよ。
 誰にでも親切で、気配りができて、けれどもお節介過ぎない距離を保って……。
 貴女のような人が、こんな『ゲーム』に乗ってはいけません」

クラスの中でもあまり接点のない2人であったが、なかなかどうして、千鶴はよく見ていた。
楓の「強さ」、楓の優しさを知っているから、千鶴は余計に今の楓の態度が許せない。
だが……手厳しい言葉をかけられた楓の方は、千鶴の言葉を、途中からほとんど聞いておらず。
「ふ……フフフ……。そうでござるか……。その赤子は、風香でござるか……!」
「……? 楓さん?」
「拙者にまた手を下せと申すか! 史伽に続いて、拙者の手で殺せと! ふふふ、ハハハッ……!」
「!? 史伽ちゃんを!?」

楓の不気味な笑いに、千鶴は目を丸くする。
赤ん坊の風香の泣き声が、さらに大きくなる。
耳を覆わんばかりの泣き声の中、楓はそれに負けぬしっかりした声で、狂気を滲ませながら断言した。

「その通り。出席番号23番、鳴滝史伽を殺したのは、他ならぬこの拙者、長瀬楓でござる!
 何か文句でもあるでござるかな!? 文句があるなら、さてどうするでござる!?」


89:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:19:31
ヤケクソのように開き直る楓、息を飲む千鶴。泣き続ける風香の声が、BGMのように響き続ける。
そんな緊張を、破ったのは。

「……いい加減にしなよ」
カチャッ。
唐突に、撃鉄の上がる音が響く。
気だるそうな、うんざりしたようなその声に、楓も千鶴もハッとして振り返る。

すっかり蚊帳の外だった美砂が、小型のリボルバーを手に、近づいてきていた。
その銃口は、しっかりと千鶴、そしてその胸に抱かれた風香に向けられている。

「いつまで無駄口叩いてんのさ。
 風香でも史伽でもいいけどさ、いい加減ウルサイんだよね、ギャーギャー泣いてさ。
 楓が殺れないなら、私が殺ってもいいんだよ? ピストルもあるし。
 その場合、役立たずで使い物にならない子には、『ご褒美』も何も無しだけど」
「ちょ、ちょっと待つでござる、美砂殿……!」
「…………!」
殺しのできない奴は要らない、と言わんばかりの美砂の態度に、楓は慌てて。
千鶴はキッと、美砂を厳しく睨みつける。
その千鶴の視線を真正面から受け、なお美砂はニヤニヤ笑いを消さない。
ただ、ニヤニヤ笑うその顔の、額から一筋の汗が伝うだけ。

……美砂とて、必死ではある。意識して「見せている」表情とは裏腹に、必死である。
せっかくここまで支配し操縦してきた無敵の忍者・楓、それに今さら仏心を取り戻されても困るのだ。
直接自分の手を下すことになってでも、彼女の心を「こちら」に引き戻さねばならない。
震えだしそうになる手を反対側の手で押さえ、両手でリボルバーを構える格好になって、そして……!

銃声が、響いた。

【残り  名】

90:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 08:21:30
今朝はここまでです。また夜に。

91:マロン名無しさん
06/09/22 08:38:24
マナはやっぱり生きてたか

92:マロン名無しさん
06/09/22 13:56:42
Coccoktkr

93:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:27:13
47 《 強く儚い者たち (3) 》

銃声が、響いた―
「ッ!?」
柿崎美砂(出席番号07番)の手から、小型リボルバーが飛ぶ。僅かに血が散る。
銃声に驚いたか、赤ん坊の鳴滝風香(出席番号22番)が目をぱちくりさせて泣き止む。
はッと長瀬楓(出席番号20番)が振り返った、そこには……。

「……やらせは、しないぞ」

左手に握られた、デザートイーグル。を模したエアガン。
本の山を崩しながら立ち上がる、中学生離れした長身。浅黒い肌。鋭い眼光。動き易い仕事着。
途中から断ち切られた右腕は、片方の髪留めを解いたものか、ヒモで縛られ止血され。
―マナ・アルカナ(出席番号なし)改め、龍宮真名(出席番号18番)。
胸元に迫った刃は、左手の銃のグリップエンドで咄嗟にガード。それでも幼く軽い身体は吹き飛ばされて。
どういう偶然か、まさにこの絶妙のタイミングで効力の切れた『年齢詐称薬』。
クラスでも指折りの実力者である彼女が、銃を片手にふらりと立ち上がる。
「……ッ。いかんな、少し血を流し過ぎたか……」
「ま……真名殿ッ!?」
唐突に『出現』した見知った顔の存在に、楓は一瞬驚きの声をかける。
絶たれた片腕、持っていた銃、肌の色・風貌・雰囲気、千鶴が呼んでいた「マナちゃん」という名。
思えば全てのヒントはひとつの事実を示していたが、何故この瞬間まで思い至らなかったのか。
……簡単である。「あの」龍宮真名が、姿形を変えたとて、他人と馴れ合うなど想像の枠外だったのだ。

そして、その一瞬の思索こそ、真名にとっては十分な攻撃のチャンス。
右腕の断端から血を撒き散らしながら、左手一本、楓と美砂目掛けて乱射する。
咄嗟に巨大手裏剣を回転させて巨大な丸盾とし、美砂の前に飛び出す楓。
3発ほどの銃弾が弾かれ、甲高い音を立てるが―しかし、真名の狙いは冷酷にして正確無比。
手裏剣の中央に小さな窓のように開いた握り手部分を、そして丸い盾からはみ出した片足を。
正確な射撃が確実に打ち抜く。楓は手裏剣を取り落とし、その場に崩れ落ちる。
さらにその崩れゆく身体に、トドメとばかりに撃ち込まれる2発の弾丸。

94:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:28:07
「……まだ、やるかい?」
「いや……ゴホッ……これは、敵わぬでござるな……。拙者の、負けでござるよ」

弾切れになった左手の銃を放り捨て、まだ右手がぶら下がったままのもう一丁を拾う真名。
自分の手を引き剥がしながら発せられた問いに、倒れた楓は口元から血を溢れさせつつ答える。
あの一瞬で、手裏剣を握っていた右手に一発。左膝に一発。これでもう右手は使えない、歩けない。
さらに追い討ちの弾が腹に1発、胸に1発。僅かに急所をズラして即死は免れたが、それでも致命傷。
魔眼持つ拳銃使い・真名との戦いは、生か死か、一瞬で全てが決まる。
あるいは美砂を庇おうとさえしなければ、楓のスピードなら全て避けきれたのかもしれないが。

「……美砂殿は? 無事で、ござるか?」
「逃げた。全く逃げ足が速い。まだ『やる気』なら、奴も撃ってやるつもりだったんだが」
倒れてなお想い人のことを心配する楓に、真名は呆れたような声で応える。
そう……こうまでして美砂のことを守った楓を尻目に、美砂はさっさと逃げ出してしまっていた。
迷うことなく、回れ右して全速力。本棚の陰をジグザグに逃げられれば、真名もすぐには撃てない。
そんな薄情な主人に、しかし楓はホッとした様子を滲ませて。

「良かった……。美砂殿だけでも、生き延びてくれれば……」
「らしくないな、楓。何もかも全くお前らしくないよ」
「真名殿に言われたくは、ないでござるな。可愛らしい『マナちゃん』には、言われたくないでござる」
「…………」
「西洋魔術による偽りの感情と、分かってはいても……恋心とは、いかんともし難いものでござるな。
 そちらとて、似たようなものでござろう?」
「……まあ、な」
殺し合いを演じておきながら、互いに微笑み合う2人。語らずとも、何となく分かる。分かってしまう。

そこまでの経緯はともあれ、「強い」からこそ、2人がそれぞれに抱えていた「弱さ」。抱えていた孤独。
そこにストンと嵌ってしまった、ホレ薬の効果や「マナ・アルカナ」という立場。
2人の違いは、ただ、この『ゲーム』において一緒に歩むことにしたパートナーの性格の違いでしかない。

95:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:28:54
「撃たれたのは、肺と肝臓か。いい加減苦しいハズだ。楽にしてやろうか?」
「……お願いするでござる。あと、美砂殿は……」
「ああ、分かっている。わざわざ追いかけたりはしないよ。この場は見逃してやる。
 彼女がなお懲りずに仕掛けてきたなら、そこまで面倒は見れんがな」
「かたじけない……」
ドンッ。
抵抗を止めた楓の額に、押し当てられた介錯の銃が火を噴いて―
長瀬楓は、ようやく恋の地獄から、永遠の解放を得た。

「…………」
「……あら……マナちゃん……。終った、の?」
「……ああ」
楓にトドメを刺し、千鶴の所に歩み寄った真名は、静かに千鶴を見下ろした。
地面に仰向けに倒れた千鶴。その胸にすがりつくようにして泣いている赤ん坊の風香。

千鶴もまた、美砂の放った銃弾を背中に受け、致命傷を負っていた。

真名が美砂のリボルバーを撃ち飛ばした、その一瞬前。銃声が重なって聞こえるほどの間。
既に美砂の銃は弾丸を発射しており……千鶴は咄嗟に、身体を張って風香を守った。
風香を狙った小口径の銃は、庇おうとした千鶴の身体を貫通するだけの威力はなく。
赤ん坊の風香は、無傷で。
しかし、千鶴に緩慢な死をもたらすには、十分なダメージを与えていて。

「……千鶴……私は……」
「いいのよ、マナちゃん……。何も、言わないで……」
正体を偽っていたこと。正体を明かすのを躊躇ったせいで、戦闘力の低下を招き、この結果を招いたこと。
懺悔の言葉を探す真名を、しかし千鶴は優しい微笑で赦す。真名をマナと認識して、その上で許す。
真名の「弱さ」を、慈母の寛大さで全て包み込む。
あるいは―マナ・アルカナの正体が龍宮真名であることなど、最初っからお見通しだったのだろうか?

96:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:29:28
「風香ちゃんを、お願い……。守って、あげて……」
「ああ……」
「フフッ……。なんか、疲れちゃった……。夏美ちゃん、『向こう』で待ちくたびれてるわね、きっと……」
「…………」
千鶴はそして、血の気のない顔で穏やかに微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。それきり、動かなくなった。
真名はとうとう、謝罪の言葉さえ、口にすることができなかった。
泣き続ける風香を1本だけ残された左腕で抱き上げて、真名はしばし、途方に暮れる。
これから一体、どうしよう。どうすれば、いいのだろう……?


―本棚の林の暗がりの中を、美砂は駆ける。
撃たれた手を押さえながら、時折後ろを気にしつつ、駆け続ける。
「くそッ! 偉そうなこと言ってた割に、あっけないッ!」
美砂は毒づく。
美砂を守って銃弾に倒れた楓、その楓に感謝するどころか、彼女の不手際を呪ってなじる。

楓という、最高に忠実で最高に強い手駒を失ってしまった美砂。ピストルも取り落としてきてしまった。
だが幸い、支給品の『ホレ薬』はあと2本残っている。
いくら『ホレ薬』が強力でも、こうしてあからさまに敵対してしまった真名たちには、効果はあるまいが……
それでも、誰か新しい相手に遭遇することができれば、また奴隷にできる。
相手がグループで行動していれば、ハーレム形成型の『ホレ薬』だ、そのグループごと虜にできる。
この際、楓の挙げた別格の5名でなくていい、当面の『人間の盾』として、誰でもいいから……!

と……。駆ける美砂の前方。本棚の陰から、ゆっくり姿を現す者があった。
思わず美砂は足を止め、片手を懐に入れて『ホレ薬』を手にする。
目を細め、相手の正体を見極める。
「美砂サン、そんなに急いで、どこに行くネ?」
「あ、あんた……!?」
……超鈴音(出席番号19番)。既に麻帆良に居ないはずの、天才少女。

97:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:30:06
「いやはや、せつなサンにフられて、危うく殺されるところだたヨ。
 なかなか上手く行かないものネ。いや、アレはアレでアリかもしれないが……」
「超……あんたも参加者だったの!?」
お別れ会からこっち、超がまだ麻帆良に残っているとは思わなかった美砂。
普段通りの笑顔を浮かべ、なにやら訳の分からないことを呟いているが。
超の方の事情など、美砂の知ったことではない。
「まあ、いいや。丁度いい……。私を見なさい、超!」
「ああ……美砂サンに渡ていたか、そのクスリ。にしても、困たネ」
美砂は試験管を取り出し、毒々しい紫色の液体を、一気に飲み干そう……
として、その身に衝撃を覚える。
「ごッ……ぐ、ぐげッ……!?」
一瞬で間合いを詰めてきた超、その笑顔に、美砂は血と胃液交じりの吐瀉物を盛大に噴き掛ける。
喉を通り、胃に入った魔法薬が効力を発揮するよりも先に……美砂の腹に、超の拳がめり込んでいた。
高電圧の電撃をまとった鉄拳が、深々と叩き込まれていた。

「参加意欲の高さは、有り難いけれどネ……。
 アナタみたいに他力本願なヒトに、間違っても優勝して欲しくないのヨ。
 我々が欲しいのは、自分で戦い、自分で道を切り開く覚悟持つ『人蠱』だからネ」

ホレ薬の紫と、胃酸の黄色と、鮮血の赤で斑に染まった壮絶な顔で、しかし屈託のない笑みを浮かべる超。
対する美砂は、これは笑うどころではない。痺れた身体で、腹部を押さえて崩れ落ちる。
声も出ない。目を見開き口を大きく開け、プルプルと震える。無音の絶叫。
……超の強烈なボディブローにより、胃袋が大きく破け、胃酸が己の内臓を焼き始めていた。
電撃で身体が麻痺してなければ、大声を上げてのたうちまわっている所である。
外見こそ綺麗だが、ヒトの死に方としては最大級に残酷で、最大級の激痛が延々と続く死に方だ。
そのまま超は、小さく震え続ける美砂をその場に残し、立ち去って……後にはただ、沈黙だけが残った。

【出席番号20番 長瀬楓 頭部に銃弾を受け 死亡】
【出席番号21番 那波千鶴 背部に銃弾を受け 死亡】
【出席番号07番 柿崎美砂 胃破裂により多臓器不全を起こし 死亡】
【残り 13名】

98:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:30:52
48 《 禍ツ風 (まがつかぜ) (1) 》

草原の中を、2人が歩く。暗い中を、それでも歩く。
「裕奈さんのお父様は、確かに『草原に明日菜さんと古さんがいる』とおっしゃったんですね?」
「う、うん……。でも、あれから時間経ってるし、あれからお父さんの『声』聞こえてこないし……」
「分かってますわ」

雪広あやか(出席番号29番)と明石裕奈(出席番号02番)。
暗く俯いた裕奈と、厳しい表情で先行するあやか。2人の足取りは、重い。

唐突に途絶えた、裕奈の父・明石教授からの『念話』―。
取り乱した裕奈をなんとかなだめ落ち着かせたあやかは、そして彼女の懺悔を聞いた。
父が魔法先生たちの中に居るらしいこと。開始直後からたびたび『テレパシー』で情報を送ってくれたこと。
あやかとの出会いも、あやかと出会ってからの行動も、全て父の指示に従ってのものだったこと。
あやかの本心を知りつつ、あえて他の参加者との遭遇を避け、死者の装備を漁り歩いていたこと……。

その長い告白の最中、あやかは驚いたり怒ったりと、表情をクルクルと変えていたが……
裕奈が全てを語り終えた時、あやかは大きな溜息と共に、裕奈を抱きしめた。
全てを許すように抱きしめて、こう言った。
「……よく、話してくれましたわね。過ぎたことは仕方ありませんが……これからのことを、考えましょう」

そうして2人は、『念話』が途絶えた島の北の沼沢地帯から、東の方向に向けて歩き出した。
教授から最後に送られた情報の中で、島北東部の草原地帯に明日菜たちが居る、と言っていたのが1つ。
同じく最後の念話で、途中で途切れてしまったが、西の方から『何か』が近づいているというのが1つ。
……その『何か』とは、おそらく好戦的な参加者だろう。それが一体誰なのか、気にはなるところだが。

ともかく、あやかが前から言っていた通り、生き残っているクラスメイトを集める。好戦的でない者を集める。
そのために、裕奈は今度こそあやかに協力する。父からの情報も全て開示する。
それが、2人の今の行動方針だった。

99:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:31:25
「明日菜さんなら、バカで暴力者で無法者でトンでもないお人ですが、信頼はできますわ。
 古菲さんも、おそらくは大丈夫でしょう。
 裕奈さんのお父様からの連絡からそう時間も経ってませんし、あまり遠くに行ってないハズですが……」
「…………」

あやかは草原の真ん中で周囲を見回す。
一方の裕奈には、普段の元気がない。
あやかを欺いていたこと、そしてあっさり許されてしまったことが、心の奥に棘のように刺さっていた。
せめて、怒鳴り散らされ罵られ、罪をなじって貰った方が、よっぽど気が楽だった。
なにしろ、裕奈は……あやかを裏切り、利用し、最後には自分1人生き残るつもりでいたのだから。

2人は歩く。草原を歩く。
途中、何やら草が乱れ土が掘り返され、こんもりした土饅頭が作られた場所を通ったが。
2人は周囲に動く者がないことを確認しただけで、そこを通り過ぎる。
明日菜や古が、数時間前までそこに居たとは、気付かない。
その粗末な墓の下に、亜子と五月が眠っていることに気付かない。
教授が「草原」とだけしか言ってなかったために、とりあえずは草原の中央目指し、草を掻き分け進む。
暗闇に包まれた草原を、当ても無く周囲を見回しながら、草原の中を進んでいく。


―風が、疾走っていた。
森を抜け沼地の上を駆け、湿地帯を覆う木々の間を抜け、風が走る。
目にも止まらぬスピード。足場の悪い地形ながら、自動車よりもなお速い。
風が駆け抜けた後には、ゆっくりと、思い出したように倒れはじめる木々。
すっぱりと太い幹が断ち切られ、木々が倒れていく。鏡のように美しい断面が覗く。
鋭い切れ味。つまりコレは、風が刃物でも持っているというのか。
まるでソレは―カマイタチ。
刃持つ疾風は、そしてまるであやかたちを追いかけるように、島の北東部に広がる草原に向かって―!


100:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:32:42

……突然、ぞわり、と背筋が震えた。
名状し難い悪寒を覚え、あやかと裕奈はそろって素早く振り返る。
2人の他は、誰もいない草原。腰を少し超えるくらいの高さの草が、見渡す限り生えている広い草原。
夜の島を駆け抜ける風が、2人の髪を、周囲の草をふわりと揺らす。

「何……でしょう? 今、何か、嫌な気配が……」
「う、うん……。今、何か……。いや、何かが、近づいてる……?」

西の方。今まさに、あやかたちがやってきた方角。
教授が予言していた、『何か』が来るという方角。
そして、先ほどとは比べ物にならぬほど大きな突風が、草をなぎ倒しながら迫ってきて……
2人の前10メートルほどの所で、急停止した。

「お、誰かと思ったら、いいんちょとゆーなじゃん。
 元気? 生きてる? まだ怪我してない? 2人だけ?」

身長ほどもある巨大な日本刀らしきものを肩に担ぎ、装飾の無い鞘を左手に提げ。
身につけているのは、野太刀の他には下着だけ。
ガーターベルト付きの派手なレースの下着の上下は、しかし所々焦げ、穴が開き、そして……
黒くなった乾いた血に、汚れている。湖の水で洗っても落ちぬ汚れに、染まっている。
履いているスニーカーだけが不自然なまでに綺麗で、汚れ1つない。

春日美空(出席番号09番)。
その、普段と変わらぬ悪戯っぽい笑顔が―あやかと裕奈には、逆にこの上なく恐ろしく感じられて。
そして美空は、普段通りの悪戯っぽい口調で、実に晴れやかに死刑の宣告を口にした。

「まぁ、怪我してようとしてまいと……私がこれからブッ殺しちゃうんだけどね」


101:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:33:12

……もう1つの風が、島を舞っていた。
それはそして、風に乗って届いた気配を察知する。
島の北東部、遮蔽物のない広い平原。理屈でも何でもなく、直感で「何か」を察知する。
何か、懐かしいような親しいような、そんな気配。それと共に感じる、戦いの緊迫感。
風はそしてそちらに進路を取る。
丘の上から、和美の亡骸の真上を通り過ぎつつ、一気に吹き降ろすように、そちらの方角へ……。


「み……美空さん……!」
「あんま痛くすんのも悪いし、スッパリ終らせてあげよっかな。
 さっきそこら辺に生えてる木で試し切りした感じだと、い~感じに逝けると思うんだ♪
 じっとしててね~、いいんちょ、ゆーな。 抵抗すると苦しいッスよ、きっと」

巨大な刀を両手で構え、長い鞘をその場に放り捨て。美空はトン、トン、とその場で軽いジャンプを始める。
その刀の持ち方は、どう見ても剣術の構えではない。そんな持ち方では、刀は振れない。
左手で柄を握り、右手を刀の峰に沿え、刀全体を斜めに身体の前に構え……
野球におけるバントの構えに近い、と表現すれば分かりやすいだろうか。
ただしバットよりも遥かに長い刀身の分、峰に添えた右手の先に、なお長く刃が突き出している。
ボールを狙うバントのバットのように、その刀身の角度がユラユラと揺れる。刃の高さが自在に変化する。

「じゃ、最初はいいんちょからね。いっくよ~☆」
そして美空は、大地を蹴る。
魔法使い・春日美空に授けられたアーティファクト。超人的な脚力と速力を与える魔法のスニーカー。
一蹴りでトップギアに入ったそのスピードは、比喩でも何でもなく、ヒトの目には「見えない」。
走る一歩一歩が、全て『瞬動』にも匹敵する速度。レーシングカーなどより遥かに速い。
まさに美空は風になって……そして、その手には、名刀『夕凪』が構えられている。
死をもたらす突風は、そしてあやかのすぐ傍を駆け抜けて―

薄暗い草原に、鮮血が飛び散った。

【残り  名】

102:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/22 21:34:16
今夜はここまでです。

103:マロン名無しさん
06/09/22 22:08:35 JyRlMk64
/(^o^)\なんてこったい

104:マロン名無しさん
06/09/22 22:25:09
もう一つの風は…言うまでもないか


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