ネギまバトルロワイヤル10 ~NBRⅩ~ at CSALOON
ネギまバトルロワイヤル10 ~NBRⅩ~ - 暇つぶし2ch350:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/15 21:20:45
10 《 主のない鞄 》

古菲(出席番号12番)は、林の外れに立って1人頭を掻いていた。
ここは島の東北東。島の東側に広がる林と、北東に広がる平原との境目付近。
北に進めば広く障害物のない平原、南に進めば木々生い茂る林、といったところだ。
古菲はどちらに進むべきか、どう行動するべきか、しばし迷う。

古菲は、バカである。良い意味でも悪い意味でもバカである。
良い意味で、というのはつまり、考えても仕方のないことをくよくよ悩まないということだ。
自分の「頭の悪さ」を自覚してるから、最初っから無駄なことには労力を使わない。
代わりに、行動する。身体を動かしていれば自然に事態は好転する。そんな確信を持っている。
悪い意味で、というのは、これはもう文字通り。悩むも何も、考える能力が低いのだ。
多少複雑な事態になってくると、彼女の処理能力は容易にパンクする。答えが出せなくなる。

今の状況において、古菲は多くのことについて悩むのをやめていた。諦めていた。
魔法先生たちの意図だとか、魔法先生たちに抵抗する方法だとか、もうその辺は考えても仕方ない。
考えたところで、古菲に良い考えが出せるはずもない。
古菲が今考えていること、それはどうすれば仲間たちと出会えるか。この1点のみである。
どうすれば、「古菲の代わりに考えてくれる」「頭のいい」仲間たちと巡り会えるのか。
反面、そういう仲間たちには戦闘力がない。古菲は彼女たちを守ってやらねばならない。
守ってやらねばならないのだが―とにもかくにも、会わないことには仕方が無い。
で、出会うためにはどうすれば良いのか。古菲はさっきからこの無限ループをグルグルと回っている。


351:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/15 21:21:24
「……ま、歩きながら考えるアル」
結局古菲は何の答えも得ることなく、北の草原に向かって歩き出した。古菲らしいといえばらしい。
林の中でなく草原の方に踏み出したのにも、あんまり深い意味もない。
強いて言うなら、ちょうどそっちの方から風が吹いてきたから、くらいのものだろうか。
足首を隠すほどの高さの草を踏み分けながら、古菲は歩く。目的も無く先の見通しもなく、ひとまず歩く。
歩きながら、荷物を確認する。
「魔法の杖……。でもコレ貰っても、ワタシ使えないアルよ。
 このかあたりに持ってもらえば良いアルね」
古菲のデイパックの中には『初心者用の魔法の杖』が6本ほど。束になって入っていた。
しかし古菲は基本中の基本である『火よ灯れ』さえロクに成功させられなかった人間だ。
これもまた、誰かに渡さねばならない。誰かに会って、委ねねばならない。
……まあ、歩いているうちに、誰かに出会うだろう。きっと。


「……これは、何アルかね?」
歩き出して数分。古菲は草原の真ん中にポツンと取り残された荷物を見つけ、首を傾げた。
見たところ、参加者たち全員に支給された、水と食料、地図類が入ったデイパックのようだ。
だが、肝心の参加者が居ない。隠れるような場所もない。
周囲には草を踏み分けた足跡も、草が倒れたような様子も何もなく。
虚空からポンと、デイパックのみを放り込んだような状況。
「…………?」
おバカな頭ながらも罠の可能性を考えるが、しかし周囲の地形が地形だ。
落とし穴などのトラップを仕掛ける余地はないし、狙撃などができる場所もない。
じりじりと近づいた古菲は、そして何の抵抗もなくデイパックを手に入れる。
「……どういうことアルかな? あの性格悪そうな先生たちからの、追加のプレゼントアルか?」


352:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/15 21:21:55
『もしもーし。えーっと、くーふぇいさん。聞こえますかー?』
首を捻る古菲のすぐ傍で、誰かが必死で声を上げる。けれども彼女の声は古菲には届かない。
目の前で大きく手を振っても肩を叩いてもまるで気付かれず、彼女はがっくりと肩を落とす。
『やっぱり聞こえませんかー。シクシク、私やっぱり、幽霊の才能ない……』
彼女の名は、相坂さよ(出席番号01番)。3-Aの教室に60余年留まり続ける、いわゆる地縛霊である。
地縛霊と言ってもある程度の行動の自由はある。学園内、および学園の近くまでなら、出歩ける。
だからまあ、麻帆良の地下にあるというこの空間も、彼女が訪れることができても不思議ではない。
……訪れるというか、魔法先生に不思議な瓶に吸い込まれ閉じ込められ、強制連行されてきたわけだが。
『これって、私も『参加者』ってことなんでしょうかー。みなさんのような首輪は、ないようですけど……』
さよは自分の首元に手を伸ばす。そこには当然、首輪は触れない。
実体のある首輪など、さよの霊体につけられるハズがない。
首輪はないが―代わりと言ってはなんだが、首をグルリと一周する、紐のような『黒い痣』が1本。
ただこの痣、さよ自身の目には角度的に見えない。古菲には、そもそもさよが見えていない。
つまり、現時点では誰もその痣の存在に、気づいていない。
痣に例えたように、凸凹も一切ないから、さよが自分で自分の霊体に触れてみても、全く分からない。

それはさておき、さよも他の生徒と同じく、教室から呼び出され支給品を受け取り、『転送』されていた。
ただし彼女は幽霊である。物を持つこともできない、幽霊である。
ポルターガイスト現象も、彼女が調子のいい時、フルパワーを出した時に起きる程度。
「支給品を受け取った」と言っても、彼女に持ち歩けるわけがない。
瀬流彦に『転送』される際、刀子が一緒に魔方陣に放り込んだだけのデイパック。
さよはその真上で、途方に暮れていたのだ。
せっかくの荷物を置いて行ってしまうのは気が引ける。さりとてこの荷物を運ぶ方法がない、と。


353:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/15 21:22:36
『せっかくですから、古菲さんに付いて行きましょうかー。私のこと、全く見えてないようですけど』
勝手に荷物を自分のものにしてしまったらしい古菲を頭上から眺めながら、さよは心を固める。
もとより1人きりで不安で仕方なかったのだ。この際、自分の姿が見えずともいい。
道連れを決めたさよは、ふと首を傾げる。
『……あれ? この場合『付いて行く』というより、『憑いて行く』と言った方がいいんでしょうかー?』

「武器は……お、トンカチ。
 このかが良くツッコミに使ってたアルな、殺傷力抜群で取り回しに優れた、密かな優良武器……
 って、戦いじゃ役に立たないアルよ、ムキーッ!!
 ……ま、食べ物と水が増えたのはいいけど、いい加減誰かと出会いたいところアルね」
荷物を調べ、1人でボケて1人でツッコんで1人で怒って。
見えざる連れ合いがついてきていることに全く気付かず、古菲は再び歩き出す。
このまま進めば、湖岸まで出られるのだろうか。とりあえず湖岸に出てから考えよう。
古菲は草を掻き分け進む。いつの間にか草原の草の丈は伸び、腰の高さになりやがて背丈ほどにもなり。
そして、草原を抜け、湖に到達した古菲とさよは……

……草原の端。穏やかな湖面広がる湖畔。
ちょっとした土手のような雰囲気のそこに、1人の人物が膝を抱え、穏やかに座っていた。
彼女は古菲に気付くと、何やら長い棒状のものを手にして立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
「サツキ……!?」
支給されたハズレ武器・刹那も使っていたデッキブラシを握り締め、静かに佇むコック姿の人物。
古菲にとっては馴染み深い相手、四葉五月(出席番号30番)が、いつも通りの微笑を浮かべてそこにいた。

【残り 31名】

354:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/15 21:23:54
今夜はここまで。

投下ペース、読者的にはどうなんでしょう。
このくらいでいいのか、速過ぎる・量多過ぎるのか、もっと飛ばしてもいいのか。
朝夕投下の是非も含め、ちょっと気になるところです。

355:マロン名無しさん
06/09/15 21:37:41
GJ!
俺も朝夕投下の予定だから朝夕分離は別にいいと思う
量はもうちょいあってもいいかと思うが

356:マロン名無しさん
06/09/15 22:41:47
強制認識魔法と来たか。

1日2回投下だと、つくレス半分になる気がス。みんな1日1回チェックするのがせいぜいっしょ。
それでいいなら止めないが

357:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:18:05
11 《 バトルロワイ《ア》ル 》

「……そんな道の真ん中歩いてると、遠くから『悪い奴』に撃たれたりするぞ?」
「ひゃいッ!?」
急に物陰からかけられた声に、宮崎のどか(出席番号27番)は飛びあがる。
振り返ってみれば、遺跡群の建物の影、隠れるようにして身を縮めた、長谷川千雨(出席番号25番)の姿。
彼女は不機嫌そうな表情を崩さぬまま、のどかを小さく手招きする。
「こっちだ。潜り込める建物を見つけたから、そこでちょっと話をしよう」

学園祭最終日、超一味と決着をつけるのだと意気込んで出てきたネギとその仲間たち。
彼らはしかし、超の策に嵌り、学祭一週間後の世界に飛ばされてしまっていた。
完敗である。戦わずして負けである。どうしようもない負けである。
彼女たちはその後、例のタイムマシンを用いて、再び学祭最終日にまで戻ろうとしたが……
その前に立ち塞がったのが、魔法先生たちだった。
彼らにもまた敗北を喫し、重要参考人として捕らえられた彼女たちは、牢の中で無為に3日ほど過ごして。
そして、目が覚めたらこの状況。
彼女たちには、情報が不足していた。何がどうなっているのか、知る必要があった。

「あの、千雨さん、どこへ……?」
「奥の部屋だ。出入口が2つあって、外からは見つかりにくい。
 いざという時には裏口からも逃げ出せる。隠れて立て篭るにはもってこいの部屋さ」
古い石造りの建物の中。不安そうなのどかの言葉に、廊下を歩く千雨はぶっきらぼうに答える。


358:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:18:40
島の南西、地図の上では『遺跡群』と書かれた建物密集エリア。
『遺跡』と書かれてはいるが、しかし見た目だけではそう古い印象も受けない。
平屋建て、あるいはせいぜい2階建てまでであること以外、地上の学園都市にも似た雰囲気の建物。
それが数十軒集まって、ちょっとした街並みを成している。広場もあれば、大聖堂のような建物もある。
ただ、建物の中の調度品の類は、その多くが壊れたり持ち去られたり、ともかくほとんど残っていない。

千雨がのどかを連れ込んだこの建物も、似たようなものらしかった。廊下を進み、その中の1部屋に入る。
見れば既に、千雨の私物のノートPCやらデイパックやらもあたりに広げられている。
一緒に置いてある、さよの幽霊騒動の時にも使われた除霊銃『封神』は、千雨の支給品だろうか。
幽霊相手にしか効果がない上、背負う部分も含めればやたらと大きくて重い。ま、ハズレの一品である。
そんな荷物には目をくれず、千雨はかろうじて部屋に残されていた大きなソファに、どっかと腰を下ろす。

「私らみたいに戦闘力ないのは、隠れ場所しっかり見つけないとやってられねーからな。
 しばらくココを起点に、腰を据えて考えよう。これからどうするべきなのか、これから何をするのかをな」
「う、うん……」

同じネギ一味の一員だったが、あまり突っ込んだ会話をしたことのなかった千雨の意外な強さ。
千雨の行動力とリーダーシップに、ただただ混乱するだけだったのどかは頼もしさを覚える。
戦うことができないのは、のどかも一緒だ。けれど彼女には千雨のような行動はできない。
少し、羨ましくも思う。

そんなのどかの心中を知らず、千雨はペットボトルの水を一口飲むと、大きく息をつく。
大きく溜息をつくと、まだ立ち尽くしているのどかを見上げ、問いかけた。
「ところで……本屋。唐突だが『この状況』、何か見覚えがないか?」
「へ?」


359:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:19:25
「麻帆良じゃ、何故か評判になってねぇ。外の町じゃベストセラーなのに、何故か麻帆良じゃ売ってねぇ。
 でも、『本屋』と呼ばれたお前なら知ってるかもしれない、って思ってな。
 なあ本屋―いや、宮崎。お前、『バトルロワイ《ア》ル』って小説、知ってるか?」


―『バトルロワイ《ヤ》ル』ならぬ、『バトルロワイアル』。
日本中に衝撃を与えた、1冊の小説の題名だ。
戦前の日本を思わせる体制の、架空の国家を舞台にしたお話。
国家の手によって誘拐され、殺し合いを強制させられるクラスメイトたち。
あらすじなどあってないようなものだ。支給された武器を手に、延々と級友同士の殺し合いが続く。
元々はとある小説の賞に送られた作品だったそうだが、その内容があまりに残酷とされ、落選。
その落選の事実さえも話題として利用し、別の出版社から出されるや否や、またも賛否両論。
不安の高まる社会情勢も相まって、一時は日本中の話題をさらったものだった―

「えっと、書評はいくつか読みましたけどー、なんか怖そうだったから、本そのものは読んでないですー」
「……ま、それが正解か。実のところ中身は大したことねーんだ。露悪趣味丸出しでな。
 私が見る限り、賞を蹴られたのも残酷過ぎたからじゃねぇ。単に中身が無かったからだ。
 アレ読んで感動した、涙出たとか言うやつらには、もっとマトモな小説読めと言いたくなるね」
「はあ……」
千雨の批評は厳しい。おそらくここまで辛口な意見はそうそうあるまい。
『あの小説』の熱烈なファンが聞いたら、頭から湯気を立てて怒り出すこと必至の暴言。
けれども千雨は容赦なく斬る。曖昧に相槌を打つのどかに、熱弁を振るい続ける。
「特に、何がバカらしいかって、『殺し合いをさせる理由』が貧弱だってことだ。
 賭けが行われている、だとか、国民を骨抜きにとか、もっともらしいことは言ってるんだがよ。
 どう見ても設定が手抜きなんだ。そんな理由でそんな無茶が通るかよ、って感じでな。
 この辺の管理側の『動機付け』さえしっかりしてりゃ、私ももうちょい高い評価したかもしれない。
 なんにせよ、話題づくりの成功で売れはしたが、本来は大した小説でもないはずだ」
「はぁ……」

360:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:20:03
「で、このやたら売れた3流小説、何故か麻帆良じゃほとんど無視されてるんだが……
 実は、嫌なくらいに、今の私らの状況と合致してやがる。嫌なくらいに、状況をなぞってやがる」
千雨の顔が歪む。
『バトルロワイアル』を駄作と言い切る彼女。言ってみればかなり偏狭なアンチ・バトロワの彼女。
しかしネット上で擁護派と激しい論争を繰り広げる中で、その設定についてはしっかりと把握していた。
そして把握していたからこそ、今の状況との相似が分かってしまう。

 眠らされて、起きたら教室というオープニング。首につけられた首輪。
 唐突に告げられる殺し合いのゲーム。見せしめに殺されるクラスメイト。
 逃げ場のない島という舞台。生徒にランダムに支給された、殺し合いに使える武器類―

もちろん、違う点も数多い。
当初の「世界設定」からして違うし、みんな一緒に居る所を攫われたわけでもない。
転送用の魔法陣などというものは無かったし、クラスメイト以外の参加者というのも出てこない。
同じ島と言っても、この地底湖に浮かぶ島はかなり勝手が違う。
そもそも、『バトルロワイアル』の世界には『魔法』などない。
だが、それらの細かい差異を考えてもなお、この状況の一致は、偶然ではない。偶然のハズがない。

「じゃあ、この『ゲーム』、私たちがお話の世界に入っちゃったってことですか……?」
「理由や目的は分からねぇが、誰かがあの小説を参考にして『作っている』のは確かだな。
 全く悪趣味な話だとは思うぜ。だが……」
そこで千雨は、ニヤリと笑う。混乱するのどかに自信を滲ませつつ、自分の首輪をコンコンと叩く。
「だがこれが『バトルロワイアル』を模していると言うなら、逆に付け入る隙がある。
 こんな私にも、打てる手がきっとある―!」

【残り 31名】

361:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:21:30
12 《 テレフォンパニック 》

神楽坂明日菜(出席番号08番)は、山の中で苛立っていた。
彼女に割り当てられた品物は、魔法の『触媒薬』が小さなフラスコと試験管に10本ずつ。
それなりに呪文を使える者にとっては、魔力不足を補い呪文詠唱の手間を省ける便利なアイテムだ。
だが、しかし明日菜にとっては何の価値もない。他に使えるモノはないかと、荷物を漁る。
「あ……『仮契約カード』……!」
確かあの教師は、「武器や魔法に関するモノは没収させてもらう」と言っていたはずだが。
この『カード』については、取り上げ忘れたのか見逃してくれたのか。
ともかくコレさえあれば、明日菜のアーティファクト『ハマノツルギ』が呼び出せる。当面の武器になる。
彼女は早速、呼び出そうとして……
「あ、そういえば、ネギってば……」
そういえばネギはどうなったのだろう。自分たちと同じく、魔法先生たちに捕まっていたはずだが。
彼は無事なのだろうか? 魔法の国に護送されてしまっただろうか? もう既にオコジョだろうか?
あるいは自分たちと同様、この馬鹿げた『ゲーム』に放り込まれているのだろうか?
明日菜は仮契約カードのもう1つの機能を思い出し、額に押し当てる。
カードの力を借り、ネギに向けて『念話』を放つ。
『―ねえネギ、聞こえる? もしも~し? 聞こえてたら返事して?! ねえってば!』


『―ねえネギ、聞こえる? もしも~し? 聞こえてたら返事して?! ねえってば!』
『なあネギくん、ウチ、これからどないしたらええかわからへん~』
『ネギ先生、刹那です。返答が可能ならば『念話』を返して下さい。
 私たちは今、魔法先生たちに殺し合いの『ゲーム』とやらに参加を強要され……』
『聞こえるですか、ネギ先生? 『念話』、届いているですか? 妨害されてるですか?』
「…………うわぁぁぁッ! みなさん、そんないっぺんに話し掛けないで下さいよぉぉッ!」


362:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:23:17
頭の中に聞こえてくる、複数の声。重なり合ってロクに聞き取れない言葉。
ネギ・スプリングフィールド(出席番号32番:便宜上与えられた番号)は、思わず悲鳴を上げた。
ネギが居るのは、生徒たちと同じく、地底湖に浮かぶ例の島。島の中央やや東側、林と山の境目あたり。 
杖もなく、指輪もなく、ただ小さな身体をスーツで包んだだけの姿で、彼は頭を抱え込む。
ネギの首には、例の首輪。明日菜の想像通り、彼もまた、このゲームの1参加者だった。

生徒たちの側に何故か揃って残されていた、「従者用のコピーカード」。
しかしネギの手元にあるべき「主人用のマスターカード」は、彼の杖や指輪と共に没収されていた。
これでは『念話』は、従者側からネギへの一方通行でしか使えない。
聞こえていても、ネギの側から返事をする方法がない。
こうして従者側からの『念話』が届いている以上、マスターカードも破棄されてはいないハズだが……。
カードさえあれば、杖がなくとも『念話』を返せるのに。
カードさえあれば、彼女たちを『召喚』し、この場に集結させることもできるのに。
……あるいは、だからこそネギの持つカードは奪われてしまったのかもしれなかったが。

「でもみなさん、無事なんですね。とりあえず今のところは、無事なんですね」
ネギからの返事が無いことに諦めたのか、やがて4人からの『念話』は一旦途絶える。
あと2人、仮契約を結び『念話』を送れるはずの生徒たちから連絡が無いことが、少し気になってはいたが。
それでもネギは、強く決意する。
彼女たちを、助けよう。彼女たちを集め知恵を絞り、この理不尽なゲームから脱出しよう。
意気込む彼は、しかし途方に暮れる。
支給されたアイテムは、大量の500円玉。龍宮真名(出席番号18番)でもあるまいし、使いようがない。

「で、どうしよう……。どうすれば、みんなと……」
『ネギ先生、さっき言い忘れたことがあるです。聞こえていればいいのですが』
独り言の途中に、割り込む『念話』。一旦途絶えたと思っていた綾瀬夕映(出席番号04番)からの声。
思考の腰を折られ思わず転びそうになったネギは、しかし次の瞬間、夕映の言葉にはッとする。


363:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:24:32
『私の手元に、ネギ先生の杖があるです。魔法先生から支給された、魔法の品物として。
 おそらく複製とかではないと思うのです。杖がなくて、先生も困っていないでしょうか?
 もしや、先生の方の『カード』は杖と一緒に取り上げられて、それで『念話』が返せないのではないですか?
 私の勘が正しければ、先生もこの『ゲーム』に参加させられていると思うのです。
 私はしばらく動かずに、先生の到着を待つことにします。島の南東の、端のあたりに居るです。
 会って、今後のことを相談しましょう―』


「…………ふぅ。私の想像が、当たっていれば良いのですが」
カードを額から外し、綾瀬夕映(出席番号04番)は呟いた。続いてアーティファクト召喚。
短パンと黒のノースリーブの上に、アーティファクトの装束の一部・黒い三角帽子とローブが出現する。
片手に握られているのはしかし箒ではなく、ネギが普段持ち歩いていたナギの形見の杖。
ひとしきり連絡を終えた夕映は、砂に半分埋まった本棚にもたれかかり、大きく溜息をつく。

本棚。そう、島の南東、屋外に剥き出しに秩序も何もなく立ち並んでいたのは、大きな本棚だった。
湖面に突き出したものもある。水に半分浸かっているものもある。斜めに傾いでいるものもある。
湖岸から離れた所では、林の中に、これまたごく自然に本棚が散在している。
そして無造作に本棚に並んでいるのは、いずれも本好きにはたまらない稀少な本ばかり。
まるで図書館島最深部、幻の地底図書室のような異常な光景。しかし夕映にとっては馴染み深い景色。
史伽が地図を見て首を傾げた「箱か棚のような記号」は、まさにこの光景を現したものだった。
「……これはもしかしたら、図書館島の地下とも繋がってるのかもしれませんですね。
 首輪を外すことができたら、脱出ルートを検討してみる価値があるです」
そして夕映は、本棚の1つの影に座り込む。
ここでネギを待つことに決めたのだ。じたばたせずに、のんびり構えよう。
下手に動き回っても、きっとロクなことがない。
夕映は本棚の影に隠れるようにして座り込むと、手元の本をめくり始めた。

【残り 31名】

364:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:25:31
13 《 追加ルール 》

絡繰茶々丸(出席番号10番)は一通り現状の確認を終えると、宙に浮かび上がった。
荷物を肩にかけ、足裏と背中から炎を噴き出し、島の上空に飛びあがる。
彼女のスタート地点、南西の遺跡群がどんどん小さくなり、その街並みが手に取るように分かる。

『転送』される前。
茶々丸のすぐ後ろの席に座るエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号26番)は、小さく囁いた。
「まずは早めに合流するぞ。いいな」
待ち合わせ場所も合流方法も明示しない、なんともいい加減な指令。
けれどもまあ、いつもこんな調子でやってきていたし、今までも茶々丸はそれに応えてきたのだ。
細かい指示が必要なのは馬鹿だけだ。茶々丸は融通の利かない部分はあっても、決して馬鹿ではない。

茶々丸は考える。クラスメイト全員が眠らされ、連れてこられたこの地底空間。
そんな中、唯一目を覚ましたままこの場に連れてこられた自分。眠らされることのなかった自分。
先生たちが監視する教室では十分に語れなかったが、幾つもの重要な事実を掴んでいる。
先生側の事情や状況など、他の生徒が知らない事実を見聞きしている。
あの教室では、ロクに伝えるヒマがなかったが……この情報、誰かに伝えなければならない。
まずは、主人であるエヴァンジェリンに伝えねばならない。
「マスター……今、行きます」
そして茶々丸は空に舞い上がった。
面積の割に地形が入り組み身動きが取りにくい地底湖の島。
だが、空を飛んでしまえば簡単に把握できる。上空から俯瞰すれば、他の生徒の動きも簡単に掴める。
そして当然、島のどこかに居るはずの主人を見つけることも、できるはず……。


365:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:26:21
高度を上げる。島の全景が段々と見えてくる。
見える限りにおいて、支給された地図が、ほぼ正確であることを茶々丸は確認する。
湖を渡った「向こう岸」にも、「壁」に張り付くように小さな平地があり、遺跡らしきものが建っているようだ。
島の半分ほどを見渡せる高さまで上昇しても、まだ地底空間の「天井」には届かない。
明るく柔かな光を放つ「天井」には、まだまだ距離がある。全くとんでもなく大きな空間だ。
「……さらに高度を上げます。地上を索敵……」
島全体を一度に視界に納めるべく、茶々丸はさらに上昇する。さらに「天井」に近づく。そして……

ボンッ。

ある一定の高さまで来たところで。
何の前触れもなく、茶々丸の首元で爆発が起こった。

「……え」
茶々丸が状況を把握する間もなく、吹き飛ぶ頭。吹き飛ぶ首輪。
クルクルと回転しながら落下する頭部。回転しながら落下する頭のない身体。
茶々丸は、そして最期に理解する。
何が悪かったのか分からぬが、自分は先生サイドから『処分』されたのだと。
何か、公にされていないルールに触れてしまったらしい、と。
これはかなりアンフェアな処分では? と思う間もなく、茶々丸の意識は、ノイズの彼方に消えた。

366:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:27:03

『あー、テステス。ただいまマイクのテスト中。
 定期放送の時間はまだ先だが、1つ追加のお知らせがあって、このような臨時放送となった』

茶々丸の爆死から、数分後。島の中にガンドルフィーニの声が響く。
どこに設置されているのか、複数のスピーカーを通した電子的な声。

『諸君らの中には、空を飛べる者が居るはずだ。
 『力』を使うための道具が無いのか、あるいはあえて使わずにいるのか、事情は人それぞれだろうが……
 何にせよ、空を飛ぶ際には高度に注意して欲しい。
 一定以上の高度を取った場合、フィールド外に出るのと同じ扱いとなる。つまり、爆破処分だ。
 目安は、湖面から「天井」までの距離の、およそ半分まで。それ以上の高さになったら、爆破する。
 空を飛ぶ際には、くれぐれも用心するように。繰り返す、諸君らの中には……』

ガンドルフィーニは淡々と告げる。
確かに、縦方向の移動も制限が必要ではあったろう。
「天井」まで到達し、天井にいくつか開いた穴から外に出ようとする者が現れないとも限らない。
だからこの追加ルールは確かに必要だ。必要では、あるのだが……。

「……っと、こんなものでいいかな」
マイクのスイッチを切り、ガンドルフィーニは溜息をついた。
巨大な地下空洞の一角にある、『バトルロワイヤル』の運営本部。
会場となっている島と同じ大空洞の中ではあるが、しかし島の中ではない。
島をぐるりと取り巻く巨大な地底湖、その『対岸』に当たる位置。
『天井』と繋がる『壁』に張り付くようにして立つ、小さな遺跡の中の一室であった。
最初に生徒たちに説明をした『教室』も、この遺跡の中に用意されている。
そしてまたこの遺跡までは、麻帆良の魔法使い本部と地下の秘密の通路を通って行き来することができる。
ガンドルフィーニたちも、長年その存在すら知らなかった通路。知らなかった大空洞。
よくもまぁ、こんな短期間で『バトルロワイヤル』を開けるまでに整備したものである。

367:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:27:41
そしてなにぶん急造で作った『バトルロワイヤル』のルールだけに、あちこちに小さな綻びがある。
そういった穴は、臨機応変に埋めていかねばならない。
今の『臨時放送』のような形で、微修正していかなければならない。
「お疲れ様です、ガンドルフィーニさん。次回からは最初っから高度制限を盛り込みましょう」
「ああ。次回まで我々が生きていられれば、ね」
瀬流彦の言葉に、ガンドルフィーニは浮かない顔で頷く。
色々な条件を考え合わせるに、この『バトルロワイヤル』を最後までやり遂げるのは簡単ではないはずだ。
そしてもし最後までやり遂げたとしても、その後に待っているのは魔法界本国を相手の……。
だが、ガンドルフィーニを悩ませているのは、そういった今後の自分の身の心配だけではないようだった。

「……本当に、こんなことをしていいものなのかな」
「またその話ですか。もう仕方ない、ってことで結論出てたじゃないですか」
「いや、まあそうなんだが……私も1人の親として考えると、ね。
 もしも娘がこんな殺し合いの『ゲーム』を強要されたら、と思うと……」
「ガンドルフィーニさん、それは禁句ですよ。だって、我々の中には―」
ヒトとして当然な、ガンドルフィーニの後悔。それをたしなめる瀬流彦の言葉。
2人の脳裏に、揃って1組の父娘の姿が浮かぶ。
「……まあ、今回殺したのが親も子もない機械人形で、良かったじゃないですか。
 遺す想いがある子たちには、せめて頑張った上で散って貰わないと」
「それはそれで残酷な気もするがね」
「努力と抵抗の余地がある分、まだマシですよ。それに―」
瀬流彦はそして口にする。この『バトルロワイヤル』、その本当の目的に繋がる一言を。

「それに、怒りや恨み・未練などを抱きながら死んで貰わないと、この『巨大儀式魔法』は完成しませんから」

【出席番号10番 絡繰茶々丸 立ち入り禁止区域への侵入により 爆破処分】
【残り 30名】

368:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 09:28:46
朝投下ここまで。試験的に3話投下です。

369:マロン名無しさん
06/09/16 09:50:23
あの父娘ときては黙っちゃいられねえwwwww
個人的にはこれくらいの量で丁度いいです

370:マロン名無しさん
06/09/16 14:12:34
>よく考えたらオコジョ刑満了して社会復帰した人を見た事がない

なんですその惑星メーテルのネジ

371:マロン名無しさん
06/09/16 14:32:13
おおーGJです。

372:マロン名無しさん
06/09/16 21:09:42
バトロワ、小説あんのかこの世界
殺される人の怨念使った大魔法?

373:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:25:12
14 《 不正行為 (カンニング) 》

『あー、テステス。ただいまマイクのテスト中。
 定期放送の時間はまだ先だが、1つ追加のお知らせがあって……』

地底湖に浮かぶ島の中に、ガンドルフィーニの声が響く。
隠れている者も、歩いている者も、待ち伏せしている者も、話し合いをしている者も。
誰もがひとまず、その声に耳を傾ける。

島の西側。ゴツゴツした巨大な岩が沢山転がる、荒れた地形。
草一本生えてないその中を、雪広あやか(出席番号29番)は苛立ちながら歩いていた。
「……何が『追加のお知らせ』ですかッ! 誰が空なんて飛べるって言うんですかッ!
 全く、何から何まで非常識な……! だいたいそもそも、わたくしたちに殺し合いなど……!」
あやかは怒る。そして怒りつつ、己の無力さを実感せずには居られない。
円が殺されたあの時、あやかが狙われなかったのは単なる先生側の気紛れだ。紙一重の差だった。
彼女の代わりに、あやかが死んでいてもおかしくなかったのだ。
そしてあの先生たちの『魔法』とやらに対し、あやかには対処する術がない。

それでも―あやかは考えるのだ。
クラスの中には、非常識な能力を持った者が沢山いる。中学生離れした才能が沢山存在する。
ひょっとしたらその中には、これらの状況に対処できる者も居るのではないか。

今の放送の中でも、あの教師は「空が飛べる者がいる」ことを当たり前のように言っていた。
それはつまり、そういう能力を持つ者が既にクラスに居るということだ。それも、1人ではなく複数。
おそらくは、『魔法使い』。
ネギ先生と同じように、実は『魔法』を使える人物が居たということだ。
それが誰だかは分からぬが、同じ『魔法使い』ならあの教師たちにも対抗できるのではないか。
クラスメイトを集め一致団結すれば、この状況を打破することもできるのではないか―?

374:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:26:01
「―!?」
考え事をしていたのが、悪かったのかもしれない。
あやかが殺気を感じたその瞬間、何者かの影があやかの頭上をよぎる。
2mほどもある巨大な岩、その上に潜んでいたものが、ナイフを片手に飛び降りてくる。
飛び降りながら、斬り付けてくる。
「……なんの!」
逆手に握られたサバイバルナイフ。振り下ろされる刃。
あやかはしかし、その必殺の一撃に対し、瞬時に対応してみせた。
紙一重で避けると同時に、逆に一歩踏み込む。素人なら腰が引けるところを、敢然と飛び込む。
相手に密着するくらいの位置、ナイフの間合いのさらに内側に入り込んで。
あやかの腕が、相手の身体を薙ぎ払う。
「せいッ!」
そのまま、押し倒すように投げ飛ばす。雪広流合気柔術・『雪中花』。入り身投げの変形。
投げられた側のダメージが比較的少ない技ではあったが、なにせここは硬い岩盤の上。
「ぐぇッ!?」
岩場に叩きつけられて、襲撃者は悲鳴を上げる。
あやかは即座に襲撃者に馬乗りになり、相手の胸に掌を押し付ける。
その手に嵌められていたのは、黒と白の2色に彩られたメカニックな手袋。
雪広あやかへの支給品、超鈴音も使っていた『電磁グローブ』。
高性能スタンガンの機能を持ちながら、手先の動きを全く邪魔しない便利な道具だった。

375:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:27:01
「抵抗はおやめなさい。でないと、少し痺れてもらうことになりますわよ?
 …………って、あら、貴女は?」
「イテテ……。いいんちょ、本当に強いんだなぁ」
なおも抵抗するなら電撃を喰らわせてやろう、と思っていた彼女は、ようやくここで襲撃者の姿を確認する。
確認して、目を丸くする。
ナイフを捨て、降参のポーズを取っていたのは明石裕奈(出席番号02番)。
顔に浮かぶのは、いつもの通りの悪戯っぽい笑顔。
「あー、こっちもいいんちょだとは思わなくてさー。……もうやりあう気ィないから、許してくんない?」

一瞬で決着のついた攻防から、数分後。
2人は並んで岩に腰掛け、これからのことを話し合っていた。
「……というわけで、クラスの皆さんを集めて、今後のことを考えたいのですが」
「うん、いいんじゃないかな。武道会に出てた人とかと、マトモにやりあって勝てるとは思えないしねー」
あやかの言葉に、裕奈は頷く。いつもの通りの、まるで変わらない彼女の様子。あやかは安心する。

先ほどの攻撃、裕奈によれば、相手があやかと気付かず、怖くなって先制攻撃してしまったとのこと。
まあ、そうでもなければ、この裕奈がこんなゲームに乗ることもないだろうが。
……そしてあやかは頭を悩ませる。
裕奈でさえこうなのだ。いつも明るく能天気な裕奈でさえ、こういう反応をしてしまうのだ。
他にも恐怖と猜疑心から『ゲーム』に乗ってしまった者も少なくないはず。
さて、どうやって彼女たちを止め、どうやって彼女たちを味方につけたものだろうか……?

376:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:28:00

「ま、ここでじっとしてても仕方ないし。動き回りながら考えよ?」
「ちょっ、待って下さい裕奈さん!」
悩むあやかをよそに、裕奈は立ち上がる。あやかにニッコリ笑いかけると、1人で先に歩き出す。
一体どこに向かう気なのか。しっかりした足取りで、口の中でブツブツと、何事かを呟きながら。
あやかは少し困惑しつつも、引きずられるような形で、裕奈の後をついていくしかなく……。

「……大丈夫、いいんちょは『使える』よ」
裕奈は口の中だけで呟く。後ろからついてくるあやかに聞こえぬ声で呟く。
誰に向けた言葉なのか? 誰がどこで聞いているのか?
ともかく彼女は、口の中で呟き続ける。
「うん、そういうことなら今はまだ、その人たちとは出くわしたくないねー。
 いいんちょの時みたいには行きそうにないし。ここは逃げの一手だと思う、私も。
 あと、できれば銃か何か、使える武器が欲しいんだけど……分かった、まずは森の方だね?」
裕奈の瞳は虚空を見上げ、裕奈の耳は声なき声を捕らえ。
彼女は微妙に虚ろな笑顔を浮かべ、呟いた。

「ありがとね、『お父さん』。愛してるよッ♪」

【残り 30名】

377:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:29:00
15  《 Masters of Monsters 》

影法師たちを引き連れ、高音・D・グッドマン(出席番号33番・便宜上与えられた番号)は砂浜を歩く。
島の南側に広がる、白砂の浜。湖畔というより、海辺に居るような錯覚を覚えるような景色。
綺麗な湖面を右手に見ながら、黒衣を纏った高音は胸を張って歩き続ける。
「……メイが、必要以上に高く飛んでなければよいのですけれど」
高音は彼女が知る唯一の参加者、佐倉愛衣(出席番号34番・便宜上与えられた番号)のことを案ずる。
先の臨時放送、その中で示された追加ルールに、引っ掛からないことを祈る。
彼女たち2人は、魔法先生たちが進めようとしていた計画を知って驚愕し、反対し、そして―
力及ばず、彼らを止めることができなかった。
そして牢に入れられた彼女たちに下されたのが、この『ゲーム』への強制参加という処分。

「……しかし、私たちの力なら、先生方の愚行を止めることもできるはず。
 30人はいるという参加者のみなさんを私たちが教え導けば、愚かな先生方を止めることも―」

高音は、気づかない。
『魔法使い』を一段高い存在とし、「一般人」を見下すその基本的態度。
それこそが、魔法先生たちが今行っているこの『ゲーム』の根底にあるということを。
そしてまた、魔法先生たちがこの『ゲーム』をやらねばならなかった理由にも通じるということを。

高音は遮蔽物のない砂浜を、堂々と歩く。
支給された品が『魔法の発動体となる指輪』だったのは、高音にとって幸いだった。
お陰で、杖無しでもこうして使い魔たちを召喚し、他の参加者の襲撃に備えることができる。
たとえトチ狂った参加者が襲ってきても、この影法師たちが居ればきっと大丈夫。
高音の背後には、大型の使い魔も控えている。彼女の最後の守りだ。
これだけの数の使い魔を行使できるのは、『魔法使い』多しと言えど、この学園でも高音くらいしか……

378:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:30:08
「な―!?」
高音くらいしかいないはず、と考え、含み笑いをしていた彼女は、そして「その集団」を発見し、絶句した。
同じように、向こうから砂浜を堂々と歩いてくる小柄な人物。女子中等部の制服。
浅黒い肌の上に道化師のような奇怪なメイクを施した、ザジ・レイニーデイ(出席番号31番)。
そして彼女を取り囲むのは、高音の影法師たちとほぼ同数の、大小様々な黒い影―
ローブを纏ったような黒い身体に、その顔だけが仮面のように白い魔物たち。明らかにヒトではない存在。

出くわしてしまった、怪物たちの二大軍団。明るい砂浜には似つかわしくない闇の眷属たち。
ザジは感情のない視線で、しかししっかりと高音を見据え、小さく頷いた。
「……やるよ」
ザジの手元に手品のように何本もの黒いナイフが現れる。
いや、ナイフではない。投げナイフのように指の間に握られていたのは、忍者の投擲武器・クナイ。
先生たちから支給された、ザジにはもってこいの武器。元よりナイフ投げは彼女の持ち芸の1つ。
ザジの手元から放たれた何本ものクナイが、高音に向けてまっすぐ飛んでいって―
影と闇との間の戦争が、始まった。

―十数分にも及ぶ激闘も、終ってしまえばあっけないものである。
白い砂浜の中、2つの影は、ようやく動きを止めていた。
ザジ・レイニーデイが、高音・D・グッドマンを、片手で吊るし上げていた。
鋭い爪が伸びた手が、高音の首をギリギリと締め上げる。
吊るされた高音は口元から泡を吹き、ビクビクとその身体を痙攣させて。
高音の連れていた影たちは、掻き消すように消えていく。彼女の黒い服も、煙を上げて消滅していく。
「…………?」
『こっちはチビが2体潰されたッス』
『思ったより強かったッスね~』
『タベテイイ? タベチャッテ、イイ?』
ザジの無言の確認に、周囲の魔物たちが返答する。確かにザジを取り巻く魔物たちの数が、減っている。
完全に気絶した高音の身体を、ザジは無造作にほうり捨てる。砂浜に美しい裸体が投げ出される。
そして、ザジは魔物たちに告げる。何の感情も込めず、平坦な声のまま。
「……食べちゃって、いいよ。……あ、持ち物には、手、つけないで……」


379:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:31:01
高音の敗因を一言で言えば、使い魔単体の戦闘力の差、そして術者本人の戦闘力の差だった。
影法師は追加でいくらでも召喚できるとはいえ、その能力はザジの使い魔たちとは天地の差。
大きな魔物が腕を振るうだけで、影法師がまとめて何体も吹き飛ばされてしまうのだ。勝負にならない。
唯一、高音の背後に控えた操影術最強奥義・『黒衣の夜想曲』は、ザジたちを苦しめたが……
それでも、あまりに双方の頭数に差ができてしまっていた。数の差が、最後は勝負を分けた。
大型の怪物が2体、左右から同時に打撃を加え、マントの動きが止まったところにザジの突進―
静かに素早く伸びた手は、打撃でも斬撃でもなく、がっしと首を掴み、万力のように締め上げて。
そして、あの決着。人間離れした怪力による、ネックハンギング。マントが反応しない種類の攻撃。

『ゴチソウサマ』
「んッ……」
全ての後処理を終え、使い魔が声を上げる。砂浜に座って待っていたザジは、腰を上げる。
彼女は高音のデイバッグを拾うと、その場を後にする。魔物たちを引き連れ、次の獲物を探して立ち去る。
後に残されたのは、綺麗に白骨化した骸骨が1つだけ。それが高音・D・グッドマンの最期だった。

380:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:31:49

―動くものが居なくなった、砂浜に。
悲鳴を堪え、湧き上がる震えを必死に堪える、見えざる人物が居た。
ザジたちが遠くに去ったのを確認し、ようやく大きく息を吐く。
支給された品物・『対魔法使い用ステルスコート』のスイッチをオフにし、何も無かった砂浜に姿を現す。
彼女は全てを見ていた。
かなりの至近距離から、魔界軍団の激闘から高音の最期まで、全てを見ていた。
恐怖に怯えながら、しかし逃げることもできず、コートの機能だけを頼りに、姿を隠してこの場に伏せて。
フードを脱ぎ、大河内アキラ(出席番号06番)は、未だ蒼ざめたままの顔で呆然と呟く。
「あれが、『魔法使い』……! あれが、『魔法』……!」

現実感覚が根底から揺さぶられるような大戦争を見てしまった彼女。
ここに来て、ようやくアキラは『魔法』の実在を受け入れる。
「そういうもの」として『魔法』を理解する。
そして彼女は、砂浜に落ちていたクナイを拾い上げた。
ザジが投げ、高音の影に弾かれた無数のクナイのうちの1本。小さいが十分な殺傷力のある武器。
クナイを見つめるアキラの瞳に、僅かに不穏な色が混じる。確認するように、小さく呟く。
「あれが、私たちの、『敵』……!」

【出席番号33番 高音・D・グッドマン ザジの使い魔に喰われ 死亡】
【残り 29名】

381:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:32:24
16  《 Super Battle Skin Panic 》

―白い砂浜とは、島の反対側。
島の北側、木々がまばらに生える湿地帯の、北の湖畔。
湖と沼との境目もよく分からない、足場の悪い地形。マングローブにも似た歪な木々が生い茂っている。
そんな、陰鬱な光景の中で―
桜咲刹那(出席番号15番)は、佐倉愛衣(出席番号34番・便宜上与えられた番号)と出くわしていた。

「あッ……! 貴女は……!」
「……これはまた、都合のいい所に会った」
箒を抱いて驚き慌てる愛衣に対し、刹那はすぐさま殺気を漲らせ。
片手に支給品の木刀、片手に飾り気のない匕首を握り締め、愛衣に厳しく問いかける。
「……答えろ。魔法先生たちは、何を企んでいる?」
「あっ、そっ、その、私は……!」
「貴様も参加者らしいが、それでも何か知っているはずだ! 答えろ、奴らは何を企んでいる!?」

これだけ大掛かりな仕掛けをうち、これだけの手間をかけて開いた『バトルロワイヤル』。
ましてや魔法先生たちはつい3日ほど前まで、『魔法』がバレたことへの対策で大忙しだったはずだ。
オコジョの刑に絶望しつつ、それでも後始末に奔走して大変なことになっていたはずだ。
何故それが、いきなりこんなことになる? 何故、3-Aの面々にこんなことをさせねばならない?
彼らは一体、何を目指している!?


382:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:32:56
刹那は木刀に『気』を込め、じりじりと愛衣との距離を詰める。
浅い水溜りに足が浸かり、靴下にまで水が染み込んでくるが気にも留めない。
この3、4日の間に起こったらしい魔法先生たちの豹変。急な方針転換。
捕らわれの身だった刹那たちには、まるで訳が分からない。
だが3日前の時点で魔法先生たちの尖兵となっていた愛衣たちなら、知っているはずだ。
全ての事情は把握しておらずとも、刹那たちよりは情報を持っているはずだ。
力づくでも、聞き出さねばならない。多少痛い目に会わせてでも、吐かせねばならない。
―『強制認識魔法』の影響下、刹那の考え方は知らず知らずのうちに、暴力的になっていた。
そして、元々臆病な愛衣の方は。

「わ……私は止めようとしたんですよぉッ!」
泣きつつ叫びつつ、彼女は箒を振るう。こちらもいきなりな、魔法の発動。
瞬時に刹那はそれを察知し、妨害しようと愛衣に飛びかかるが―間に合わない。
佐倉愛衣アーティファクト『オソウジダイスキ』。魔法の発動体にもなる便利な道具。
その大技、『全体・武装解除(アド・スンマム・エクセルマティオー)』。
広い範囲に渡って駆け抜ける魔力もつ疾風に、流石の刹那にも回避のしようがない。
手品のように彼女のセーラー服が脱げ飛び、手荷物が飛び、そして木刀と匕首が吹き飛ぶ。
サラシと下着だけのあられもない姿に剥かれて、武器もないまま無防備に空中で―

「『アデアット』、は・に2刀……!」
―空中で無防備な姿を晒すかと思いきや、すぐさま両手にそれぞれ新たな匕首が出現する。
胸に巻いたサラシ、そのサラシに挟んであった仮契約カード。アーティファクトの限定召喚。
愛衣が『武装解除』の出力をもっと上げていれば、サラシごとカードも吹き飛ばせたのだろうが。
「なッ……!?」
「……無駄な抵抗はやめろ」

383:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:33:36
驚く間もあればこそ、飛びかかってきた刹那に愛衣は押し倒される。
刹那は愛衣の胸の上に馬乗りになり、その首元に2本の匕首を交差させ突きつける。
これでは愛衣は動けない。両の頚動脈に冷たい刃の感触が触れる。
愛衣はそして、恐怖する。
自分を覗き込む、刹那の凶眼。
白目と黒目が逆転したかのような錯覚を覚える、強い殺気の篭った目。
半裸であることなど差し引いて余りある、とてつもなく恐ろしい敵の姿。
殺される。
殺される。殺される。
殺される。殺される。殺される殺される殺される殺される……!
「知っていることを全て話せばよし、さもなくば―」
「いやぁぁぁぁッ!」
厳しく詰め寄る刹那の迫力に、愛衣はとうとう、パニックに陥った。
激しくイヤイヤと首を振る愛衣の周囲に、ポッポッポッ、と炎の玉が浮かぶ。
匕首を突きつけたこの状況でのこの反応に、流石の刹那も虚を突かれ。

「しまった、無詠唱……!」
「ヒック……お姉さまぁぁぁぁッ!」
絶叫と共に放たれる、無詠唱呪文『魔法の射手・炎の3矢』。
ほぼゼロ距離から放たれた炎の弾丸に、刹那は咄嗟に顔をガードするのが精一杯。
吹き飛ばされ、身体が宙に浮く。激しい熱と炎が半裸の刹那を襲う。
周囲の木々が、一瞬で黒焦げになる。
「くッ……!」
油断だった。
刹那の身体が宙を舞う。浅い池の中に落下する。
水飛沫の中、それでも刹那は受身を取り、愛衣が放つであろう二の矢に備える。
身構えたまま、即座に起き上がる、が……

384:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:34:15

「……逃げたか」

刹那が立ち上がった時には、もうそこには愛衣の姿はない。気配も残されていなかった。
あの一瞬の隙をついて、あの箒で飛んで逃げたといったところか。
匕首に残された血の量から、愛衣の側のダメージがほとんどないことも分かる。せいぜい皮1枚。
半裸の刹那は、溜息と共に構えを解く。
ガードした両腕が軽い火傷を負っていたが、大したことはない。ほとんど『気』で逸らしてある。
胸に巻いたサラシも一部が焦げて焼き切れて、シュルシュルと解けて大地に落ちる。
サラシから開放されフワリと宙を舞う仮契約カードをはっしと掴まえ、刹那は呟く。
「『私は止めようとした』、と言っていたな……。あれは、どういうことなんだ……?」
取り逃がした愛衣の言い残した言葉。『魔法使い』たちの側の入り組んだ事情が窺える一言。
だが、考えても答えが出るはずもない。
「やはり、誰かと合流せねば……。特に、お嬢様のことが気になる……」
刹那は木乃香のことを思う。こんな危険な『ゲーム』の中、戦闘力のない木乃香はどうしているのだろう。
早く合流し、彼女を守らねば。
ネギ先生の下に集ったあの仲間たちを集めなければ。
その場を移動しようとした刹那は、そして気付く。
パンツ一丁の格好で周囲を見回し、片手で胸を隠しつつ、少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
頭が戦闘モードに入っていた時には、羞恥心などすっかり忘れていたのだが。
「……しまった。どこまで飛ばされたのかな、私の服は……?」
遥か遠くまで吹き飛んだのか、それとも湖か沼かの濁った水中に沈んでしまったのか。
愛衣の『武装解除』で飛ばされた服と荷物、木刀が、どこをどう見渡しても見つからない。

代わりに見つかったのは、見慣れぬ鞄と、共通支給品のデイパック。
そして、サンタクロースが持ってでもいそうな、巨大な白い袋が1つ。
慌てて逃げた愛衣が残していった、彼女の私物と彼女の支給品……。

【残り 29名】

385:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/16 21:35:21
今夜はここまでです。

386:マロン名無しさん
06/09/16 22:33:45
ザジ軍団強ぇぇ
てか、脱げば脱ぐほど強くなるのかよ、せっちゃんw

387:マロン名無しさん
06/09/16 22:40:49
全裸で泡吹く高音におっきした

388:マロン名無しさん
06/09/16 22:53:09
全裸で眠る高音を貪る魔物達……
フレーズだけでおっきした

389:マロン名無しさん
06/09/16 23:20:45
ザジ軍団が怖い・・・・
しかし面白い!

390:マロン名無しさん
06/09/17 00:04:56
あ”-…萌えキャラだろうが美少女だろうが一皮剥けばガイコツなんだよなー…

391:マロン名無しさん
06/09/17 04:55:49
初の参加でいきなり殺されちゃう高音

392:マロン名無しさん
06/09/17 08:00:42
服どころか肉も脱ぐ。脱げ女の真髄ここに極めり!

393:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:03:53
17 《 絡み合う糸 》

島の西側の湖岸。切り立った崖の上、あたりには岩がゴロゴロ転がる荒れた地形。
小さな影が2人、並んで崖に腰掛けて、湖を眺めていた。

「……そっかー、コタロー君もこの『ゲーム』に参加させられてたんだー」
「奴らに手伝え言われて『嫌や』言うたら、無理やりな。
 魔法先生たち何人か殴り飛ばしたはずやけど、多勢に無勢で、結局やられてもうた。不覚取ったわ」
佐々木まき絵(出席番号16番)と、犬上小太郎(出席番号35番・便宜上与えられた番号)。
出会った瞬間こそ互いに身構えたものの。
学園祭初日を、ちょっとの間ではあるがネギと共に回った仲だ。すぐに打ち解けてしまった。

2人とも、もし湖岸から離れる方向に進んでいれば、あやかや裕奈とも出会っていたのかもしれない。
しかし間にちょっとした岩山を挟んだ両グループは、互いの存在に気付かない。
小太郎たちにとうとう気付かず、裕奈たちは足早に、ちょっと不自然な急ぎかたで、その場を去る。
……まあこのような動きは、島全体を俯瞰して見ている者にしか分からぬことではあったのだが。
「それでコタロー君は、どうするの? 殺し合い、する?」
「アホ言うなや。あの魔法先生たちをぶっ潰すに決まっとるやろ。
 大体俺は、女は殴らんことに決めとるしな。ネギたちのクラスと、本気でケンカできるかいな」
小太郎は吐き捨てる。
まき絵と話してようやく知ったのだが、三十数名居るという参加者のほとんどが3-Aの生徒。
つまり半分以上が戦闘の心得のない女子中学生。千鶴や夏美といった馴染み深い人々もいる。
小太郎の流儀からして、彼女たちと本気で殺し合いなどできるはずもなかった。
この怒り、ぶつけるならば魔法先生たちだ。

394:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:04:23
「くそッ、『支給品』とやらも、よう知っとるの当たったんはええけど、ケンカには使えへんし。
 大体何のつもりや、この首輪! 俺、飼い犬とちゃうで? 誇り高い一匹狼に、こんなもん付けんなや」
「……そっかー、コタロー君、殺し合いする気ないんだー。そーなんだー」
イライラする小太郎に、まき絵は普段の調子で呑気に呟く。
そして、ニッコリと微笑むと。

「じゃ、やる気ないんなら―私のために、死んで♪」
「…………は?」
ひゅんッ。

まき絵の唐突な言葉に、小太郎が聞き返す間もあらばこそ。
何か見えないモノが、宙を舞う音が響く。
まき絵の腕が、大きく振るわれる。それに合わせて空気が切り裂かれ、小太郎の首に何かが掛かる。
咄嗟に小太郎は自らの首に手を伸ばすが、間に合わない。
見えない何かが、小太郎の首元に絡みつく。首のみならず身体全体に巻きつき、ギリギリと締め上げる。
「こ……これはッ!?」

小太郎は知らない。『まほら武道会』でエヴァンジェリンが披露した、不可思議な技。
彼がその場に居合わせていれば、きっとその正体を看破していただろう。
あるいはその場で見てさえいれば、このまき絵の技も避けれたかもしれない。
けれどもその時、小太郎は会場に居なかった。敗戦のショックで席を外していた。
だから、反応が遅れた。捕らえられてから、ようやくその正体に気付く。
「これは……糸!?」
「へっへ~。驚いた~? なんかね、荷物に入ってたんだ。
 軽くてリボンより難しいけど、便利だねこれ~」


395:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:05:11
そう、佐々木まき絵が支給され、この場で小太郎に振るった武器は『人形繰り用の糸』。
目視が困難なほどに細いが、強靭で耐荷重性能も高い。引っ張って千切れるものではない。
元々素人なまき絵の場合、エヴァのように指先だけで操ることはできなかったが……
それでも、普段の常人離れしたリボンテクニックの延長で、彼女は短時間の練習で完全にモノにしていた。
踊るように舞う不可視の糸が、小太郎の身体に絡みつく。手足を縛り、彼の自由を奪う。

あの教室で惨殺された円のすぐ前に座っていたまき絵。彼女に降りかかった血飛沫。
彼女の制服、その背中にべっとりとついた、半ば乾いた血の跡。
あの瞬間、既にまき絵の心は壊れていたのだ。正常な精神を失っていたのだ。
壊れた彼女は、しかしそのままこの異常事態に順応した。殺し合いの世界に、順応してしまっていた。

「じゃ、コタロー君、悪いけどココでさようなら~。恨まずちゃんと成仏してね♪」
手足を縛られ首を絞められ、立っていることすら困難な状態の小太郎。
まき絵は能天気な笑顔を浮かべたまま、そんな小太郎に蹴りを入れんと飛びかかる。
自由の利かない彼の身体を、崖の下に叩き落そうとする。
断崖絶壁の崖の上。眼下には、水面下に僅かに顔を覗かせるゴツゴツした岩々。
受身も取れない状態でこんな所に落ちたら、流石の小太郎も無事では済まない―!

―だが、まき絵の蹴りが当たる直前に。
「……ッざけるなぁッ!」
とうとう、小太郎はキレる。自由の利かない縛られた身体、その掌に、黒い『気』の塊が生まれる。
流星のように飛び出す『狗神』。それが小太郎自身の身体を舐めるように駆け抜けて。
一瞬で、小太郎を拘束していた『糸』がバラバラに切断される。不自由な身体が、一気に自由になる。
「うっそ、ずるッ……!」
まき絵は驚くが、しかし飛び蹴りのモーションは空中では止められない。
そのまま彼女は、守りを固めた小太郎の胸板にキックを入れてしまい……
ゴキリ、と嫌な音が、まき絵自身の足首から響いた。


396:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:05:51
……『気』で防御し、万全の姿勢を固めた達人相手に不用意に放った飛び蹴り。
蹴った方の足が、無事で済むハズがない。
右足首を抱え、岩の上で転げまわるまき絵。おかしな方向に曲がってしまった足。
そんな彼女に、小太郎は悲しげな視線と共に言い捨てる。
「俺はもう行くで。まき絵ねーちゃんも、バカなこと考えるのはやめとき」
今の技は素人にしては良かったけどな、と呟き、小太郎は身を翻す。振り返りもせずに立ち去る。
まき絵はダメだ。早く誰か他の、話の分かる奴を探し出さねば―

「―あーあ、逃げられちゃった」
時間が経っても、右足首の痛みは収まらない。これは捻挫か、あるいは骨折まで行っているか。
立ち上がることもできない身体で、まき絵は残念そうに溜息をつく。
「コタロー君って強そうだったから、不意打ちで仕留めたかったのになー」
「……ほう、コタローが参加しているでござるか。これは厄介でござるなぁ」
不意に。独り言を口にしたまき絵の背後から、声がかけられる。
一体、いつの間に近づいていたのか。何故この距離まで気付けなかったのか。
全く気配も感じなかったその相手に、まき絵は笑顔のまま振り向いて。
「あれ? バカブルー、なんでこんな所に……」
ドスッ。
まき絵の言葉は、何か重たい、腹に響く音に遮られた。
目の前にある、巨大な鉄の塊。人間の身長より遥かに大きな、冗談のように巨大な十字手裏剣。
その一端がまるで剣のように突き出され、まき絵の胸板を貫いていた。

「……『ゲーム』に乗った自分を恨むでござるよ、バカピンク」
静かな長瀬楓(出席番号20番)の声。声も出せないまき絵。
ゆっくりと鉄の塊を引き抜かれ、まき絵は呆然とした表情を浮かべたまま、崖下に転落していき―
大きな水音を立て、それっきり見えなくなった。


397:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:06:27
「……凄いじゃん、それ。先生からの支給品? どっから出したの?」
「これは拙者の私物でござる。
 どこにどう隠していたかは、企業秘密。美砂殿にも内緒でござるよ。ニンニン」

遅れてやってきた柿崎美砂(出席番号07番)が、楓の十字手裏剣を見て呆れた声を上げる。
剣にも盾にも飛び道具にもなるこの巨大手裏剣。美砂が言う通り、隠し持つなど無理なサイズ。
だが不可能を可能にするのが『忍びの技』という奴で。
クナイや棒手裏剣などの他の武器類は全て魔法先生たちに奪われていたが、この手裏剣だけは……。
「拙者の支給品は、小さな『ぴすとる』でござった。拙者が持っていても仕方ない。
 念のため、美砂殿が持っているべきでござるかな? 万が一の、護身用として」
「くれるというなら貰っておくけど、私が戦わなきゃならない展開は真っ平御免だからね?」
忠実な恋奴隷の言葉に、美砂はあくまで冷たい口調を崩さない。
つれない態度を取りながら、それでもしっかり小口径のリボルバーを受け取っておく。
どうも楓は、こういう対応をしておいた方が操縦しやすいらしい―美砂は早くも楓の性格を見抜いていた。

「で、あのコタローって子、強いの? 録画で見たけどさ、武道会じゃ2回戦でボロボロに負けてたじゃん」
「いや―強い。あの時は相手が悪過ぎたでござるよ。
 大会では出せなかった『切り札』も持っているようだし、『何でもあり』ならなかなか強敵でござろう。
 刹那・真名・古・ネギ坊主にコタローを加えた5名は、やはり別格でござるな。
 拙者とて負けはせずとも、この面々と本気でやりあえば深い手傷を負わされるやもしれぬ。
 正面からの戦いは、避けたいところでござるな」
「ふぅん……」
楓の評価に、美砂は曖昧に頷く。そっと懐に手を伸ばし、そこにしまってある品物を確認する。
楓を虜にした『ホレ薬』、美砂に支給されていたのは実に3本。楓に1本使ったから、残りは2本。
この楓さえも苦戦を強いられるという達人5人、さて誰にどのように使っていくべきか……!?

【出席番号16番 佐々木まき絵 巨大手裏剣に胸を貫かれ 死亡】
【残り 28名】

398:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:09:59
18 《 湖畔にて 》

「……さて、どうしてくれようかな……」
龍宮真名(出席番号18番)は美しく広い湖を眺めながら、しばし思案する。
島の東、少し複雑に入り組んだ湖のほとり。
地図によれば巨大な地底湖に浮かぶ大きな島の一部らしいが……
こうして見る限り、思わず含包関係を逆転して錯覚しそうになる。
まるで気持ちの良い高原の林の中に、大きな湖が広がっているようだ。
さよの幽霊騒動の時と同じ仕事着姿で、真名は周囲を見回す。

実のところ、この真名がいる場所は、ネギや古菲のスタート地点と結構近い位置にあった。
しかし互いに気付かない。林の広さと生い茂る木々が、互いの存在を隠しあっていた。
近くに他の参加者が居ないと判断した真名は、腰を据えて荷物の確認に入る。
「……銃を奪われたのはまあ予想の範疇とはいえ、『羅漢銭』用のコインを奪われたのは辛いな。
 やはり武道会でアレを見せてしまったのはマズかったか……」
ご丁寧なことに、真名に限っては財布の中の小銭まで奪われている。
元々あの手の暗器というものは、他人に「武器とは思われない」のが大きな利点の1つ。
逆に言えば、手の内がバレてしまえば対策を取られてしまうわけで。
代わりに彼女が見つけ出したのは、何やら青と赤のビー玉のようなモノが入った、大きめの瓶。
手の中でその球体を弄びながら、彼女は思案する。
「なんとも使えないモノを寄越してくれたものだ。
 いや、しかしコレはむしろ、『あのこと』を確認するには丁度いいと考えるべきか?」
真名の片手が、己の首に嵌った首輪に触れる。
押しても引いても緩みもしない首輪、しかし、コレを使えば……!


399:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:11:20

1分後。
湖畔には長身の仕事人の姿はなく、代わりに1人の幼い少女の姿があった。
高めに見積もったとしても、せいぜい10歳ほど。
浅黒い肌に、長い黒髪。黒っぽいワンピースに、首に嵌った少し大きめの首輪。
可愛らしいというより、凛々しい雰囲気漂う落ち着いた少女。
少女は湖面に己の姿を映すと、小さく笑った。
「……懐かしいな。ちょうど、『彼』と契約を結んだ頃の『私』か」

龍宮真名に支給されたアイテム、それは『赤い飴玉・青い飴玉 年齢詐称薬』。
いったいこんなものを支給してどう使えというのか。まるで意図が読めない。
しかし今湖面を眺めている少女こそ、この『年齢詐称薬』で外見年齢を下げた龍宮真名その人だった。

説明書には、その効用が詳しく書かれている。
青い飴玉を食べれば、外見年齢が下がる。赤い飴玉を食べれば、外見年齢が上昇する。
上下する幅は飴玉1つにつき、およそ3歳から7歳。平均すれば5歳程度。
幻術の一種なので、食べた者が明確なイメージを持っていれば、それに近い年齢・近い外見となる。
逆にイメージが曖昧であれば、かなりランダム性が高まり、振れ幅が大きくなってしまう。
同じく服についても、食べた者のイメージが曖昧であれば、服を残して身体だけが変化してしまう。
明確なイメージがあれば、服ごと変化させることもできる……その後、着替えることも可能だが。
年齢変更の効果時間はおよそ6時間。
ただし周囲に満ちる魔力量やその他の条件により、その持続時間も変化するという。
普通よりも魔力が豊富なこの地底空間では、もう少し長く持つと考えていいだろう。

400:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:12:09
そして出現したこの姿は、真名にとっても思い出深いもの。古き契約のカードに描かれた、昔の自分。
やはり真名自身、当時の鮮烈なイメージに強く引きずられてしまったようだ。
ご丁寧にも、服まで当時のモノに変化している。これには真名も、思わず苦笑。

真名が『年齢詐称薬』を口にしたのは、しかし決して昔の思い出に浸るためではない。
彼女は改めて己の姿を湖面に映す。首を伸ばしたり捻ったりしながら、自らの鏡像をしっかり観察する。
「……やはり、そうか。まあそんなところだろうと思っていたが……これは、厄介だぞ」
湖面に映る己の姿に、真名は眉を寄せる。彼女が疑い、そして確認したこの事実。
彼女の考えが正しければ、先生サイドへの反抗が1段難しいものとなる。
真名がやろうとしていることが、とても厳しいものになってしまう。

龍宮真名は、こんな馬鹿げた殺し合いに参加する気は毛頭なかった。
彼女は傭兵だ。依頼があれば、金銭を代償に様々な依頼を請ける。汚い仕事も何でも受ける。
だがそれは一方で、真名の側にも『仕事を選ぶ権利』を保障するものでもあった。
もし気に入らない仕事が来たら、受けずとも良い。報酬や条件に文句をつけ、蹴ってしまえばよい。
正式な契約を交わしさえしなければ、彼女はいかなる義務にも縛られない。
この辺り、「組織」に縛られ拒否する余地のない一般の軍人や組織人とは、大きく異なる。

ともあれ、真名はこの『ゲーム』に乗る気は全くない。金にならない殺しなど、やる気はさらさらない。
そして何より、彼女の意志を無視して状況を強要する先生側の態度が許せない。
だから、彼女は……。

401:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:13:11
だが―本気で反抗するためには、首の仕掛けをまず何とかせねばならない。
先生サイドによる爆破を回避できないことには、具体的な抵抗などできるわけがない。
そして、真名が『年齢詐称薬』を飲み、己の身体を縮めて確認した限りでは―
―これは、一筋縄ではいかないものだと、分かってしまった。見たくもないものが、見えてしまった。
「これは、私には無理だな。ウチのクラスでコレをどうにかできる者と言うと、まず1人しか居ないか。
 何とかして合流し、彼女を説得しないことには……」
真名は呟く。小さな少女の姿のまま、腕を組んで考え込む。


……少し彼女は、己の思考に没頭し過ぎていたのかもしれない。
彼女はふと、近くまで迫っていた人の気配を察知して、はッと顔を上げる。

穏やかな、鏡のような水面を見せる湖。高原のリゾートのような林の中。
いつの間にこんなに接近していたのか。
制服姿の那波千鶴(出席番号21番)が、静かにそこに佇んでいた。
そして千鶴の手には、ある意味で『年齢詐称薬』よりも殺し合いに似つかわしくない、異様な物体。
―ネギである。
長ネギである。どこにでもあるようなネギである。掛け値なしに単なる野菜でしかない、あの長ネギである。
張りがあって瑞々しい、新鮮で香り高いネギを片手に握り締め。
千鶴は底の知れない微笑を浮かべたまま、目の前の幼い少女に、ゆっくりと近づいて―!

【残り 28名】

402:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:13:41
19 《 こどく 》

「ひッ……!」
「あー、逃げないでハカセ。何もしないからさ」
出会うなり、小さな悲鳴を上げた葉加瀬聡美(出席番号24番)。
山の中、斜面を縫うように走る、細い道。
岩の角を曲がったところでばったり遭遇した神楽坂明日菜(出席番号08番)は、思わず苦笑する。
へっぴり腰で、震える手で包丁を構える聡美。たぶん支給された武器だろう。
対する明日菜は、肩に大きなハリセンを担いでいる。彼女のアーティファクト、ハマノツルギだ。
見たところどっちも大した殺傷力のない武器、しかし明日菜の方が圧倒的に運動神経が上だ。
やりあうまでもなく、聡美の側に勝ち目はない。
本気で戦ったりしたら、明日菜が聡美を崖下に張り飛ばして、それで終りだろう。
「でッ、でもッ、怒ってませんかぁ……!?」
「何が?」
「その、ちッ、超さんと、色々やってたことを……」
「ん~、確かに聞かせて欲しい話は色々あるけど、だからってハカセをどうこうしようとか思わないよ。
 何より、ここにこうして首輪して居るってことは、ハカセも私たちと立場一緒ってことでしょ?」
明日菜は怯えきった聡美に対し、苦笑混じりの微笑みを浮かべる。
こういう態度を取られてしまうと、明日菜は怒るに怒れない。生来の優しさが勝ってしまう。
誰もが自分を見失う『強制認識魔法』の下、明日菜は数少ない「自分を保っている」人間だった。
「ほら、そんな危ないもの下げてさ。ちょっと、落ち着こう。ね?」
超は今でも許せないが、でもハカセは善人だ。ちょっと壊れたマッドサイエンティストだが、善人だ。
そう信じる明日菜は、怯える聡美に優しく語りかけた。

「……『第2の策』?」
「ええ……超さんは、そう言ってました」
山の中。遠くに砂浜を望む景色の良い場所。巨岩に2人で腰掛けて、彼女たちは互いの情報を交換する。
10日前、学祭最終日に魔法先生たちに勝利した超一味。戦うこともできなかったネギ一味。
その「勝者の側」だった聡美が、こうして魔法先生たちに捕まり、『ゲーム』への参加を強要されている。
聡美はゆっくりと、こうなるまでの事情を語り始めた。


403:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:14:58

「……超がそんなコト言ってたアルか」
古菲の言葉に五月は、はい、と答える。
 間違って老酒を飲んでしまって、酔っ払った時に、一度だけ。とても辛そうでした。
古菲(出席番号12番)は四葉五月(出席番号30番)と、草原を歩きながら言葉を交わす。
じっとしてても仕方ない、それが古菲の考えだった。話だけなら、歩きながらでもできる。
2人の後ろからふわふわと、幽霊の相坂さよ(出席番号01番)がついてきているが、2人とも気付かない。
さよはとっくの昔に自己アピールを諦め、ただ興味深そうに2人の話に聞き耳を立てる。

それは去年の学園祭で、屋台の仕事をしていた時のこと。
間違えて客に出すはずの飲み物、それも強い酒を一気に飲んでしまい、ベロベロに酔っ払ってしまった超。
仕方なく五月は客が全て帰った屋台で、超の面倒を見続けていた。超の愚痴に付き合った。
超はそしてその時、酔っ払い特有の、回りくどい、何度も同じことを繰り返す喋り方で、五月に語った。
あの超が、誰にも涙を見せたことが無いと思われていた超が、ボロボロ泣きながら、何度も語った。

『私は『4年前』、当時のクラスメイトを皆殺しにしたネ。『バトルロワイヤル』で、みんな殺したネ。
 みんな殺して、優勝して……そして私は、『天才』になったネ。何でもできる、完璧超人になったネ。
 もう、あんなのは真っ平なのに……もしかしたら、私が、また……』

その時は、意味が分からなかった。五月にも理解できなかった。
理解できなかったが、しかし超が誰にも見せたことのない素顔を曝け出していることは、すぐに分かった。
……翌朝、酔いの冷めた超は、深く謝罪すると共に五月に沈黙を求めた。
五月は明確な回答をせず、代わりに尋ねた。あれは一体、どういうことだったのかと。
超は、短く一言だけ、答えた。

 「私は、『こどく』なのヨ」

―普通に考えれば、『私は孤独だ』と答えた超の言葉。
確かに天才は孤独なものだろう。『バトルロワイヤル』の優勝者は、孤独だろう。
しかし五月の耳には、何か別の言葉のように聞こえていた。別の単語のように感じられた。
それが何なのかまでは、五月の知識では分からなかったのだが。


404:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:15:44

「超さんは―『ある非道』を止めるために、この時代に来たのだと言ってました」
「『ある非道』って何よ、ハカセ?」
「私も、詳しくは知らないんですー。超さんも教えてくれませんでした。
 ただ、断片的に聞いたところでは、魔法界が『この先の未来』、とっても攻撃的になるんだとか。
 超さんの生きていた『未来』では、もう『魔法』の存在は世界中に知れ渡っていて、一般常識になっていて。
 そして、『魔法使い』たちが『ある秘術』を使って、世界を支配していたそうです。
 超さんたちは、その『魔法使い』たちに抵抗するレジスタンスで―
 追い詰められて、でもギリギリでタイムマシンが完成して、最後の賭けとして、時を越えたそうです」
「あの、超が……!?」

聡美の言葉に、明日菜は小さな驚きを感じる。
そういえばネギも言っていた。「超さんの最終目的が本当に悪いことなのか僕には分かりません」と。
超の側にも、何らかの正義や正当性があるかのようなネギの言葉。
その時には、明日菜は怒鳴り飛ばして一顧だにしなかったのだが。
「あの学園祭の作戦はー、『上手く行けばこれで全て終る』と言ってたんですよー。
 魔法界がどう動くか、予想では五分五分だけど、もし上手い方の5割にハマってくれればコレで終ると。
 『魔法』が世界にバレる時期を早めるだけで、決着がついてくれるかもしれないんだ、って。
 でも、上手く行かなかった場合は……」
「ハカセも中身を聞いてなかった『第2の策』の出番、ってわけか」
「この『第2の策』を実行するにも、やっぱり『魔法』を世界にバラしておく必要があったみたいです。
 そして、一旦敵対した魔法先生たちを取り込む必要がある、とも。
 できれば使いたくない、できればそうなって欲しくない、と何度も言ってましたねー。
 その話を聞いた時は、まさか、こんなことになるとは思わなかったんですけど……」
聡美は俯いて震える。明日菜は完全には分からぬ内容ではあるが、話の重要性だけは直感的に理解する。
誰かに伝えねばならない。この話、誰かに届けなければならない。

―そんな2人の背後に、静かに忍び寄る大きな影。
しかし2人はまだ気付かない。話に夢中になっていて、気付かない―!


405:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:16:14

「……『壺』の様子は、どうなってるネ?」
「なんだ、超君か。まだ『転送』されてなかったのか?」

―遺跡のような建物の中、『バトルロワイヤル』運営本部。
スキンヘッドの男と交代し、水晶球を眺めていたガンドルフィーニ。
彼は背後からかけられた声に、不機嫌そうに答えた。わざわざ振り返って見るまでもない。
そこに居たのは、強化服を着込み不敵な笑みを浮かべた、超鈴音(出席番号19番)。

「そろそろ行くヨ。ただ、行く前に情報が欲しいのネ。
 現時点でのトラブルとか、現時点での『困った参加者』とかネ」
「……今、レポートにまとめている。もう少し待ってくれ」
後からいくらでも無線で聞けるだろうに、などと愚痴りつつ、ガンドルフィーニはペンを走らせる。
水晶球を覗きながら書いていたメモを、乱暴に書き上げて超に突き出す。
「今のところは、こんなものだ。分かったらさっさと行って、さっさと殺されて来い」
「酷い言い方ネ、ガンドルフィーニ先生。私たちは運命共同体なのに」
「誰のせいだ、誰の」
ガンドルフィーニの語調が、少しだけ荒くなる。
彼とて、超に協力などしたくはない。出来ればこの小憎らしい小娘、自分の手で引き裂いてやりたい。
だが―協力せねばならない理由がある。
愛する妻と娘を守るため、心を鬼にして3-Aの面々に殺し合いをさせねばならぬ理由がある。
諸悪の根源・超への深い憎悪は、せいぜい荒々しい言葉遣いに込めてみせるのが精一杯で。
そんな彼の怒りを、超は例の不敵な笑みを浮かべたまま、軽くあしらってしまう。

「後のコトは、ヨロシク頼むヨ。私が居なくても、サボったりミスったりしちゃ駄目ヨ?
 ―じゃあ、行ってくる。昔懐かしい、狂気と怨念渦巻く『蠱毒(こどく)の壺』の中へ、ネ」

未来人にして火星人。天才にして策士。麻帆良の平穏を崩した張本人。
出席番号19番、超鈴音―ここに出陣。

【出席番号19番 超鈴音 他の参加者より遅れて『バトルロワイヤル』に参加】
【残り 29名】

406:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 09:17:23
朝投下ここまで。続きは夜にまた投下の予定です。では。

407:マロン名無しさん
06/09/17 09:52:36
蠱毒と来たか・・・・!

408:マロン名無しさん
06/09/17 14:16:55
ロリマナにネギ千鶴・・・・

409:マロン名無しさん
06/09/17 16:31:46
そしてやはりまき絵は死ぬ運命にあるのか‥!

410:マロン名無しさん
06/09/17 19:37:42
桜子なんて第一話から死兆星見えてんだぞ

411:マロン名無しさん
06/09/17 20:54:02
年齢詐称薬にホレ薬に、どこまで無茶するんだ

412:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:22:51
20 《 反撃の糸口 》

―石造りの建物の中に、カタカタとキーを打つ音が響く。
長谷川千雨(出席番号25番)は、私物のノートPCを「何か」に繋ぎ、プログラムを調整していく。
彼女の目の前に横たわり、コードで繋がれているのは……
首のない女性型マネキンのような、異様な物体。

「……やっぱりダメだな。『アンテナ』部分がないと……」
「み、みつかりました~! 結構ヒドいことになってますけどー」
千雨がぼやいたその時、荒い息をつきながら部屋に入ってきたのは、宮崎のどか(出席番号27番)。
その手に抱えられていたのは、緑色の毛球のような、スイカくらいのサイズの球体。
千雨はニヤリと笑うと、その球体を受け取る。
「ありがとな。ちゃっちゃ繋げちまおう」
「……直せるんですか?」
「ハカセか超ならできるかもしれねぇが、私にはムリだ。そこまでのスキルは、残念だが持ってねぇ。
 だが、『アンテナ』と直結させるくらいなら、きっと何とかなるはず……!」

千雨はのどかから受け取った球体を、首のないマネキンの頭の位置に置く。
―こうしてみれば一目瞭然。
千雨とのどかの目の前に横たわっていたのは、絡繰茶々丸(出席番号10番)のボディと頭。
首元を爆破され、虚ろな目をし、完全に沈黙したガイノイドの残骸―!

413:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:23:44
あの、茶々丸が爆破されたその時。
話し込んでいた千雨とのどかは、近くに重たいモノが落下する音に、震え上がった。
思わず建物を飛び出した2人。そして彼女たちが見つけたのは、首のない茶々丸の身体。
そして彼女たちは、あの『臨時放送』で状況を把握する。
どうやら高く飛びすぎた茶々丸が、高度制限に引っかかって爆破されてしまったらしい。
そしてたまたま、千雨たちの頭上を飛んでいた彼女が、ここに落ちてきた―
千雨ものどかも、茶々丸の飛行能力については知っていたから、その辺の理解は早い。

「ちゃ、茶々丸さん……!」
「くッ……! どう見ても後付けルールだろ、それッ!」
一応、超一味の1人として敵対関係にあった茶々丸。
しかし千雨ものどかも、悪い感情は抱いてなかった。むしろ、彼女個人には好感さえ抱いていた。
思わぬ「人物」の早すぎる「死」に、2人は衝撃を受ける、が……
「―いや、むしろこれは好都合か。宮崎、コイツの身体、中に運び込むぞ。手ェ貸せ」
「え?」
「それが終わったら、済まねーけどコイツの頭を探してきてくれないか? どっか近くに落ちてるハズだ。
 悪いが私は、早速やってみなきゃならないことがある」

―そして、今の状況。
正直のどかには、千雨が何を考えているのかまるで分からない。
どうやら今は、頭の方の首の断面を探って、何かコードを探しているようだ。
身体の側の断面にもある、同色のコードを探って繋ぎ合わそうとしている。
のどかが頭を探している間に、裸に剥かれていた茶々丸の身体。
その胸の整備用ハッチが開けられ、これもまたコードのようなもので千雨のノートPCと繋がっている。
一体、何をしようとしているのか。茶々丸を直すのでなければ、何をしたいのか。


414:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:24:22
「あ、あの……」
「喋るな。気が散る」
放っておかれることに居たたまれなくなったのどかは、思わず声を上げたが。
真剣な表情の千雨は、乱暴に切って捨てる。
ようやく何本かのコードを繋いだ彼女は、鋭い視線でのどかの方を見上げると。

「……そんなに気になるなら、お前には『方法』があるだろ?」
「方法?」
「勝手に『読め』。止めねーから。ただし、声出すんじゃねーぞ。五月蝿いからな」
千雨の言葉は、あくまでぶっきらぼうだ。
ぶっきらぼうで、乱暴ではあったが……その目は、何かを訴えるように真剣なものだ。
何かに気付け、と言わんばかりのものだ。
そしてのどかは思い当たる。自分に与えられた力。自分が持つ超常の力。
「で、では、失礼して……『来たれ(アデアット)』!」
のどかの手の中のカードが光る。舞い踊る風と共に、一冊の本が出現する。そして……!

『……さっきは済まねーな。『声』に出して言うわけには行かなかったからよ』
黙り込んだまま作業を続ける千雨。黙って絵日記帳を広げるのどか。
アーティファクト『いどのえにっき』のページに、千雨の表層意識が浮かび上がる。
まるで話し掛けるように言葉が浮かぶのは、下段の文章用スペース。
その上側、絵を書き込む枠の中には、のどかにはまるで分からない専門用語や回路図が並ぶ。
どうも目の前の作業とのどかへの説明、2つの思考を並行して進めているらしい。器用なものだ。

415:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:25:01
『まず、声を出しちゃいけない理由から説明するぜ。
 元ネタの小説『バトルロワイアル』ではな―首輪には爆弾だけでなく、盗聴器も仕込んであったんだ』
「と、とうちょ……!」
思わず声に出しかけて、のどかは慌てて自分の口を塞ぐ。作業の手を止め、千雨が睨み付ける。
「ご、ごめんなさい」
『だから喋るな。謝らなくていい』
千雨は再び作業を始める。ノートPCのキーを叩く音だけが、部屋に響く。
『それでな……。爆弾と、盗聴と、生命反応確認と、電波の送受信の機能が備わっていた首輪だが。
 主催者側はいつでも電波で爆破することができるし、またいつでも首輪のロックを解除できた。
 そして主催者側のホストコンピューターに侵入できれば、主催者以外の者が解除を試みることも』
「!!」
千雨の表情は、真剣だ。茶々丸の身体の調整を続けながら、絵日記の上での説明が続く。
『原作では、このハッキング作戦中に盗聴器から作戦が漏れ、途中で対策取られて失敗した。
 だが今の私たちは、同じ轍を踏むことはない。気付かれるよりも先に、首輪を解除できる』
「…………」
のどかはようやく千雨の作戦と沈黙の意図を理解し、軽く頷く。
と同時に、新たなる疑問が湧いてくる。
何故、ここで茶々丸の身体が必要なのか? 今、千雨は何をやっているのか?
のどかの疑問に千雨は気付いたのか、日記帳に新たな文字が浮かび上がる。

『茶々丸が、空から降ってきたのは幸いだったな。できれば『生きている』コイツと会いたかったんだが。
 コイツはな、地球上のどこにいてもネットに接続できる、新方式の通信システムを搭載してるんだそうだ。
 コイツ自身が、そう教えてくれた。学祭の一週間後に『飛ばされる』直前、教えてくれた』
学祭2日目の夜、小太郎も加えて3人で食べた夕食。その席で聞いた、様々な話の中で。
千雨は、この重要な事実をしっかりと聞き出し、覚えていたのだ。

416:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:25:57
『この作戦、一番の難関は、ネットに繋ぐ回線を手にいれることだった。
 こんな何もない島じゃ、ダイアルアップ接続すらままならねーからな。
 私は元々、一段落したら茶々丸を探しに行くつもりだったんだ。
 幸か不幸か、こうしてタナボタで茶々丸の身体が手に入ったが……コイツは『死んで』て、調整が必要で。
 でもまぁ、私の素人修理でも、とりあえず復旧できたみたいだぜ。
 携帯電話も使えないこの地底空間で繋がるかどうか、かなり心配だったが……
 今、回線が繋がった。茶々丸自身の機能も一部使えそうだ。あとは微調整だけか。なんとかイケる』
後は麻帆良学園のどこかと繋がっているはずの管理側のコンピューターを探し出し、侵入するだけ。
ここからは一流のハッカーとしての腕の見せ所である。
そんな彼女を見守るのどかは、しかし何もやれることがない自分に居心地の悪さを感じる。

「……私に出来ること、何かありませんかー?」
『無い。はっきり言って、何も無い。
 そうだな、私の代わりに周囲を警戒していてくれ。できることと言ったらそれくらいだ。それから……』

そして千雨はキーを叩く手を止め、顔を上げた。
のどかの眼を見据え、千雨は口を開く。こればかりは自らの口で言わねばならない言葉だと思ったのだ。

 「お前の命を、私にくれ。死ぬも生きるも、私たちは一緒だ。―いいな?」

首輪の解除。この『ゲーム』のシステムを根底から覆そうという挑戦。
この試みが途中でバレてしまえば、魔法先生たちから爆破処分を受ける危険は十分に考えられる。
あるいは、解除が中途半端に失敗し、そのせいで首輪が暴発する恐れも……。
上手く行くかどうかは、全て千雨の腕と、先生サイドの対応次第。
千雨のこの問いに、のどかは沈黙で答えた。『いどのえにっき』を広げ、千雨に見せることで答えた。
のどかの名前が書かれたページの下、彼女の本心が剥き出しになった文章欄に、ただ1行。

 『全て、お任せします。頑張って下さい!』

【残り 29名】

417:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:26:35
21 《 魔の山 》

―突然、殺気を感じた。
「は、ハカセッ!」
「ふぇッ!?」
神楽坂明日菜(出席番号08番)は隣に座るもう1人の名を叫びながら、その場を飛びのく。
だが葉加瀬聡美(出席番号24番)は彼女の意図に気が付かず。
突然暗くなった頭上を、ぽかんと見上げて―

ぐしゃッ。
山の中、大質量が着地する振動と一緒に、肉が潰れ骨が砕ける、嫌な音が響く。
超についての話を、まだ全て語り終えてなかった聡美。
その意識は、一瞬にしてこの世から消え去った。

「……へっへー。うーん、不意打ちできたと思ったんだけどなー。殺れたのは1人だけか~」
「あ、あんた、桜子ッ……!?」
そう、唐突に空から降ってきたのは、巨大な鬼蜘蛛とその上に乗った椎名桜子(出席番号17番)。
明日菜と聡美、2人を一気に踏み潰す狙いの、鬼蜘蛛のハイジャンプ。
巨大な割に、相当な瞬発力と身軽さのある式神。支給品の中では、文句なしに最強クラスの一品。

桜子はハルナを片付けた後、眺めの良い場所を求め、島の中央、山の方に登ってきていたのだ。
もちろん、見晴らしのいい景色が見たかったからではなく、他の参加者を見つけて襲うために。
式神の背に乗っていれば良いのだから、キツい山登りも楽なものである。


418:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:27:08
「ま、いいけどね、この子強いし。じゃ、『ポッキ』ちゃん、明日菜もやっちゃって♪」
桜子は鬼蜘蛛から飛び降りつつ、攻撃命令を出す。
すぐさま突進を開始する鬼蜘蛛。その背中越しに、銃を構える桜子。上手く役割分担された前衛と後衛。
手にしていたのは、殺したハルナから奪った支給品。呪文を唱えることなく魔法の矢を放てる、魔法銃。
元の持ち主が読まずに放って置いた説明書も、しっかり読んできた。
ハルナと違って知識が無かった分、間違った先入観を抱くこともなかったのだ。
明日菜はハリセン1本しか持っていない。これはハズレの武器を掴まされたか、と桜子はほくそえむ。
聡美の死にショックを受け、俯いて震える明日菜に、銃から放たれた光弾と鬼蜘蛛が襲い掛かって―!

「―ふざけるんじゃないわよッ!」

激昂。
明日菜の一喝と共に、彼女に直撃した、と思われた光の弾が、空中で掻き消える。
試射した時には、岩を砕き木々を打ち倒す威力を見せた『魔法の射手・光の3矢』に相当する3連射。
それが全て、掻き消える。明日菜に当たったと思った瞬間に、消滅する。
「はえッ!?」
そして桜子が驚く間もあればこそ。
ほぼ同時に明日菜に噛みつかんとしていた鬼蜘蛛が、ハリセンの一撃で動きを止めて。
そのまま、煙になって消滅する。後には一枚の札が、虚しく宙を舞うばかり。
一瞬でつくはずの決着は、しかし桜子の想像とは逆の形で、一瞬にしてついてしまっていた。

―桜子は、おそらく最悪の相手にケンカを売ってしまったのだ。
明日菜の持つ『マジックキャンセル能力』、そして召喚物を一発で送り返す『ハマノツルギ』。
式神を駆使し、ハルナから奪った魔法銃を手にした彼女には、最悪の相性。
おまけに明日菜の側には、この種の式神と戦った経験も、この手の魔法攻撃を受けた経験もある。
これならまだ、刹那や楓などと遭遇した方がマシだったハズだ。まだ「戦い」の形にはなったハズだ。
絶対に戦ってはいけない相手に攻撃をしかけてしまった桜子、そして彼女は……


419:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:27:41
「うわ……うわぁぁぁぁぁッ!」
「あッ、ちょッ、待ちなさいよッ!」
後ろに向け魔法銃を乱射しながら、その場を逃げ出した。パニックになって逃げ出した。
―何がなんだか分からない。
散々殴り合った末ならともかく、一撃で消し去られてしまうなんて。
何か防御の構えを取ったならともかく、あの光の矢が全く効かないなんて。
「最強の相棒」、護鬼の鬼蜘蛛「ポッキちゃん」を失った今、どう自分の身を守ればいいというのか。
ひょっとしてこの島には、こんな化け物が他にも居るとでも言うのだろうか―?
ハルナこそ簡単に倒せてしまったが、他の生徒のみんなもこんなに強いのだろうか―?
桜子は逃げる。混乱しつつ逃げる。銃を乱射しながら、山の中を駆ける。
追いかけようとする明日菜も、身体を掠める魔法弾に一瞬怯んでしまう。
いくら魔法無効化能力があっても、完全に無視して突っ込むには度胸が居るものだ。そして……

「あッ……?」
椎名桜子は、足を滑らせた。
山の中を走る細い道、その途中で、大きくバランスを崩した。
宙を舞う魔法銃。宙を舞う桜子の身体。
明日菜が手を伸ばす余裕もなく。
桜子は厳しい傾斜の斜面を転がり落ち、谷底に向かって落下して―
しばらくの間を置いて、聡美の時にも似た、嫌な音が響き渡った。
―後には、ただ沈黙。


420:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:28:37
「……っていうのよ……」
ハリセンを片手に、山の中たった1人。
明日菜は、呻く。抑えきれない感情に、そして叫ぶ。
「……私に、どうしろって言うのよッ……!!」

背後には、葉加瀬聡美、だったモノ。
目の前の谷の底には、椎名桜子、だったモノ。
明日菜はぶつけるアテのない怒りと悲しみに、打ち震える。
何もかも間違ってる。根本的なところで大きく間違っている。
でも、何をどうすればいいと言うのだろう……? 一体明日菜に、何ができたというのだろう……?

「私は、どうすりゃ良かったって言うのよぉッ!!」

【出席番号24番 葉加瀬聡美 鬼蜘蛛に踏み潰され 死亡】
【出席番号17番 椎名桜子 谷底に転落して 死亡】
【残り 27名】

421:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:29:32
22 《 定期放送 》

『―では、第1回目の定期放送を始める。
 まずは死亡者の発表から。
 現時点で7名の死者を確認している。みんな熱心に殺し合いをしてくれているようで、何よりだね。
 出席番号05番、和泉亜子。出席番号10番、絡繰茶々丸。 出席番号14番、早乙女ハルナ。
 出席番号16番、佐々木まき絵。出席番号17番、椎名桜子。出席番号24番、葉加瀬聡美。
 出席番号33番……あ、これは『ゲーム』の便宜上つけた番号だが、ともかく33番、高音・D・グッドマン。
 これに、教室での反抗未遂により処分された出席番号11番・釘宮円を加え、合計8人死亡。
 残り、27人だ。最後の1人になるまで、頑張ってくれたまえ。
 続いて、禁止区域の発表だ。2時間後の14時に、B-8。16時に、H-2。
 次の定期放送がある18時に、F-9が、それぞれ立ち入り禁止区域となる。
 いずれも湖が半分以上を占めるエリアだな。湖畔を歩く時は注意をするように。
 では、諸君の健闘を祈る』


「……何が『健闘を祈る』だ、ふざけおって……」
臨時放送の時のように、島全体に響き渡ったガンドルフィーニの声。
吐き捨てるように呟いたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(出席番号29番)。
西の岩場に転がる巨岩の1つの上に立ち、拳を握り締める。
彼女の怒りに応じ、……しかし魔力はほとんど集まらない。
「この状況で茶々丸を失ったのは痛いな。せめて、触媒薬か箒でもあれば……」
エヴァの鋭敏な魔法感覚は、この地底空間に満ちる豊富な魔力を感じ取っていた。
通常よりも濃い魔力が充溢したこの閉鎖空間。言ってみればエヴァの『別荘』と似たようなもの。
この場なら、魔法を使ったり、魔法の道具を使いこなしたりするのは簡単だろう。
『魔法使い』にとっては実に戦いやすい空間。やりやすい場所。
素人だって、僅かな素質さえあれば、ポッと使えるようになるかもしれない。


422:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:30:03
一方でエヴァには、他の『魔法使い』にない事情がいくつかある。
まず、彼女の膨大な魔力を封じる『登校地獄』の呪いと、『学園結界』。
『サウザンドマスター』にかけられた『登校地獄』は、学業に『魔法』は必要ないとばかりに魔力を奪う。
学園から出ることを禁じる効果もあり、また魔力の封印は学園の中にいる間に限られるが。
どうもこの地底空間も、『学園内』という扱いになっているようだ。
そして電気仕掛けの『学園結果』は、学園内での高位の魔物の力を弱め、封じてしまう。
元々はエヴァのために作られたものではなく、世界樹を邪悪な魔物から守るためのものだったらしい。
吸血鬼であるエヴァもまた、魔に属する身。動けなくなることはないが、しかし大いに魔力を削がれる。
……これらの背景があればこそ、こうしてエヴァが『ゲーム』などに放り込まれているわけだが。

この2つの効果に加え、エヴァ自身の体質の問題も加わるからまたややこしい。
人間の『魔法使い』と異なり、ヒトならざる彼女の魔力は月齢に応じて大きく変動する。
魔力が最大に達するのが満月の時。最も弱まるのが新月の時。
と言っても、魔力を2重に封じられる前は、新月期でさえ常人を遥かに凌駕する魔力を誇ったものだが……

ともかく、今の現状。
『登校地獄』と『学園結界』は、なおもエヴァを縛っている。この地底空間まで届いている。
月こそ直接見えないが、月齢は満月からはかなりはずれた時期。
ただ有利な点として、この空間は通常よりも豊富な魔力に満ちている。
これら全てを合わせれば……

「今の体力は、成人男性並みと言ったところか。
 呪文は触媒薬無しでは実戦では使いものにならんな。飛行も、マントか箒無しには難しかろう。
 再生も……この調子では、時間がかかって仕方あるまい。致命傷を受けたら、それで終わりか。
 人形繰りの糸があれば、達人ども相手にもそれなりに凌げたろうが……まあ、無いものは仕方ない」

支給された品は、戦いにかなり役立つ東洋系のマジックアイテムだったが……
残念ながら、本当にエヴァが欲しい触媒薬や箒、人形繰りの糸は手元にない。全て没収されている。

423:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:30:41
ただ、牙は伸びている。誰かを捕らえることができれば、生き血を啜ることができる。
生き血を啜って魔力を補い、一時的に少しだけ魔力を底上げすることができる。
あるいは、真祖の下僕にして行使することも……。

「……下らん。何故今さら、あいつらの血を吸わねばならんのだ」
エヴァンジェリンは胸に湧きあがってきた考えを、振り払う。
どうもこの地底空間、嫌な魔力に満ちている。思考を歪める魔力がさり気なく満ちている。
そうと気付かなければ、今のような「好戦的な」考え方に流されてしまうのだろうが。
「例の『強制認識魔法』、か……? 全く、下らんことに魔力を使うものだな」

実はエヴァは魔力こそ封じられているものの、それ以外の魔法使いの能力は全て残されている。
鋭敏な魔法的感覚。魔法に関する深い知識。並外れた技術。
それらを総動員し、彼女はこの島を探っていた。見えない魔力を分析していた。
「……『強制認識魔法』だけではないな、これは。
 他にももう1つ、島を覆う感覚がある。とても嫌なモノがある。
 首のコレと、何か関係があるのか……?」
エヴァは己の首に手を伸ばす。しっかりと嵌った首輪。その首元からも感じる、嫌な気配。
「西洋魔法でもない、日本の陰陽道でもない。これは……古い中国魔術の術式?
 いや違う、やはり西洋魔術のエッセンスもある。最近流行りの、『ハイブリッド魔術』か?
 だとしたら、厄介だな」

……情報が足りない。最終的な判断を下すには、何もかも足りない。
エヴァンジェリンは、そして歩き出す。
他の生徒と出会うためではない。今はむしろ、出会いたくはない。
島を歩き回り、この巨大な島全体を使って描かれた、見えざる魔法陣の全容を探らねば―!


424:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:32:18

「……良かった、せっちゃん、まだ生きとる。
 でも、ハルナ……。それに、他のみんなも……!」

森の中、定期放送を聞いて複雑な表情を浮かべたのは、近衛木乃香(出席番号13番)。
その手に抱えられたのは、シンプルな鞘に収められた、長大な野太刀。
桜咲刹那(出席番号15番)の愛刀『夕凪』。木乃香に対する支給品だった。
ザジに与えられた、楓のクナイ。夕映に与えられた、ネギの杖。高音に与えられた、ネギの指輪。
どうも先生たちは没収した品々の一部を、他の生徒に支給しているらしい。
リサイクルのつもりなのか、それとも、何かの巡り合わせで本人の手元に戻ることを期待しているのか。

「ウチの手元にせっちゃんの刀があるってことは、せっちゃん、きっと困っとるえ。
 はよ、合流せな……」
でも、どうしたらいいんだろう。何をどうすれば合流できるのだろう。
木乃香の思考は、そこで停止する。良案も浮かばぬまま、彼女はこうして、『夕凪』を抱え歩き回っている。
この島に『転送』されてからずっと、何度か休憩を挟みながらも、歩き続けている。

……木乃香は知らない。
刹那もまた、木乃香を探し、歩き回っていることを。
歩き回る2人、互いにかなり近いところをすれ違ったこともあることを。
森や沼が広がり、歩きにくく視界の効かない島の北部から北西部にかけてのエリア。
そして実は木乃香は、森の中をグルグルと、同じ所を何度も回ってしまっている。
ある人物が森の中央に設置した「結界」のために、無意識に進路を変えてしまっていたのだ。
自分の空回りに気づかぬ木乃香は、なおも森の中を彷徨う。

「待っててぇな、せっちゃん! ウチ、この刀を……!」

【残り 27名】

425:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:33:11
【22 補足情報】各生徒の持ち物について

・私物
日常の学園生活を送っている最中の、通学時に持っている品物。
ただしネギパーティ他一部の生徒は、学祭最終日の持ち物と服装。
武器、魔法の発動体、魔法のアイテムは、原則没収。ただし「従者側の仮契約カード」だけは残されている。

・共通支給品
共通して支給されるのは、次の通り。
 地図、コンパス、名簿(32番以降35番までは番号のみで名前は空欄)、水2リットル、コッペパン2個、デイパック

・ランダム支給品
各人ごとにランダムに、武器・魔法の品物・超科学の産物のいずれか1つ。ハズレあり。
以下、22話までの時点で明らかになった支給品

01さよ:トンカチ (→12古菲に拾われる)  02裕奈:サバイバルナイフ  03和美:ライフル(改造エアガン)
04夕映:ネギの杖  05亜子:鉄扇  06アキラ:対魔法使いステルスマント
07美砂:ホレ薬×3(自分で飲むタイプ)  08明日菜:魔法の触媒薬セット  10茶々丸:??? (→千雨・のどかが獲得?)
12古菲:練習用の魔法の杖×6  13木乃香:『夕凪』  14ハルナ:魔法銃 (→17桜子に奪われる)
15刹那:木刀  16まき絵:人形繰り用の糸  17桜子:式神の札:鬼蜘蛛×1
18真名:年齢詐称薬  20楓:小型リボルバー (→07美砂に譲渡)  21千鶴:長ネギ?(?!)
23史伽:???(小さな影?)  24聡美:包丁  25千雨:除霊銃『封神』
26エヴァ:???(『戦闘に役立つ東洋系マジックアイテム』)  29あやか:電磁ナックル  30五月:デッキブラシ
31ザジ:くない×多数 (→そのうち一部、06アキラが回収)  32ネギ:500円玉×多数  33高音:魔法の指輪
34愛衣:??? (→15刹那が獲得)  35コタロー:???(『良く知っているモノ』)

09美空 19超 22風香 27のどか 28夏美 の5名のアイテムは22話現在未登場。
11円は、アイテム支給前に死亡。

426:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/17 21:34:10
今夜はここまでです。

427:マロン名無しさん
06/09/17 21:39:47
GJ!
そして言ったそばから桜子・・・

【追悼】あぁ……桜子……【13回忌】

428:マロン名無しさん
06/09/17 22:16:45
エヴァは26番・・・

429:マロン名無しさん
06/09/17 22:23:56
設定に力いれすぎて肝心の戦闘描写が薄い感じ
まあそれもありかもしれんが

430:マロン名無しさん
06/09/17 22:31:12
まぁ、どこに重点を置くかだろうなぁ
苦手な分野を得意な部分でカバーっていう

431:マロン名無しさん
06/09/17 22:51:18
戦闘苦手じゃないはずだがなー

432:マロン名無しさん
06/09/17 23:04:44
カバーできてればだが・・・
やはりもう少し戦闘描写を濃くして欲しかったのには同意。
でも設定は斬新で良いと思います。
期待してますので頑張って下さい。

433:マロン名無しさん
06/09/18 02:39:04
ばっかお前、こんな序盤から全力で戦闘描写する訳ねーだろ
漢は黙って後半に期待

434:マロン名無しさん
06/09/18 03:24:09
俺は漢だから後半よりも次回作に期待するぜ!

435:マロン名無しさん
06/09/18 04:24:26
>>434
優先順位間違ってるだろwww

436:マロン名無しさん
06/09/18 05:02:43
リピーターの参加って初じゃなかったっけか?

437:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:05:42
>>428
あ、確かにこれはこちらのミスです。>>421の本文中ですね。単純なタイプミスです。
何度も何度も確認したはずですが、やはり1人でやっているとどうしても残っているものですね。
ご指摘感謝です。
まとめサイトは今機能停止しているようですが、収録する際はお手数ですが修正お願いしたいと思います。

>戦闘
まあ、その辺は最後まで読んでから判断頂けたら有難いな、と……。
確かに序盤はそうかもしれませんね。舞台や状況を理解してもらうための前準備が入ってきますから。

では、朝投下行きます。

438:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:06:49
23 《 リセット (1) 》

『……を加え、合計8人死亡。残り、27人だ。頑張ってくれたまえ。
 続いて、禁止区域の発表だ。2時間後の14時に……』

「……あらあら、本当に死んでいる人がいるのねぇ。困ったわ」
「そういう『ゲーム』らしいからな。しかし予想以上に『乗った』奴が多い。厳しくなるぞ」
「夏美ちゃんやあやかは大丈夫かしら。心配だわ」
「まずは自分の心配をしろ。チヅルに他人を気にする余裕があるのか?」
「あら、それを言うならマナちゃんだって」
「私は戦えるからいいんだよ」
林の中、静かな湖畔。那波千鶴(出席番号21番)と小柄な少女は定期放送の内容を吟味する。
少女は地図を広げ、禁止区域に予告されたマスをチェックしていく。
それを横目に見ながら、千鶴はおそらく参加者たちの中では最も豪勢な昼食の準備を進める。
支給されたコッペパン。支給されたペットボトルの水。ここまでは、他の参加者も同様だが。
火の中から転がし出したのは、真っ黒に焦げた拳ほどの塊。炭化した皮を剥けば、香り高い焼きニンニク。
少女が取ってきた川魚には木の枝が刺され、焚き火の傍でパチパチと音を立てている。
同じように焼かれているキノコがいくつかに、デザートには摘んできた野いちごの一種。
千鶴は湖畔のちょっとした空き地に大きな布を広げ、食卓の用意を進める。
2人の間に、緊張はない。
優しい「お姉さん」とぶっきらぼうな「少女」は、短時間のうちに随分と仲良くなっていた。


『年齢詐称薬』を口にし、子供の頃の姿に戻った龍宮真名(出席番号18番)―
その前に現れた千鶴は、慈愛の篭った、裏のない笑顔で、こう言った。何故かネギを片手に、こう言った。
「あらあら。あなたもこの『ゲーム』に参加させられたの?
 ひどいわねぇ、こんな小さな子に……。先生たちは一体何を考えてるのかしら」
「…………」
「私は、那波千鶴。みんなは『ちづる』とか『ちづ姉』とかって呼ぶわね。
 あなたは? お名前、何て言うの? お姉さんに、教えて貰えないかしら?」

439:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:07:32
子供の扱いに長けた、千鶴らしい反応。警戒する少女の心さえも溶かす、柔らかい言葉。
どうも千鶴は、少女を「先生が言っていたクラスメイト以外の参加者」の1人だと思い込んだらしい。
見覚えのない少女、クラスのみんなと同じ首輪。
『年齢を変える魔法の薬』、などという突飛なモノの存在を知らなければ、確かに誤解してもおかしくない。
3-Aの生徒たちには、32番以降の名簿を埋める名前は明かされていない。
「……マナ」
そして千鶴の微笑みに抗しきれず、ぶっきらぼうに、素直に答えてしまった少女ではあったが。
「あら、龍宮さんと同じお名前なのね。私のクラスにも、同じ名前の子がいるわ。
 よかったら、フルネームも教えてくれないかしら?」
気付かれるかもな、と覚悟もしていた彼女は、しかしこの無邪気な、全く疑いのない質問を前に。
今さら、正体を明かすことができなくなってしまった。
今さら、「魔法の薬で子供に戻ってます」とは言えない雰囲気になってしまった。
仕方なく、彼女は名乗る。昔々、「龍宮」の姓を得る前に使っていた、古い名前を。
「……アルカナ。『マナ・アルカナ』だ」

そうして行動を共にし始めた2人。しばらく相談した結果、まずは他の生徒を探すことにした2人。
マナとしても、ここで戦闘力のない千鶴を放ってどこかに去ることもできない。
「……いざとなれば、赤い飴玉で元の姿に戻れば、銃無しでも……」
戻った後の千鶴の反応を考えると少し気恥ずかしいが、どうせ一瞬で戻れるのだ。必要ならば、やる。
「まあ、普段の私は雰囲気が厳し過ぎる。恐怖に捕らわれた奴らを、無用に刺激しかねない。
 あるいはさっきの調子で、コイツが相手の戦闘意欲を削いでくれるかもしれん。
 正体を明かさず、子供の姿で居た方がいいのかもしれないな」
マナは声に出さずに、心の中で呟く。自分を納得させる。
どこか自己欺瞞の匂いを覚えつつ、それでも彼女はこのままでいることを自己正当化する。


440:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:08:27

「できれば銃が欲しいんだが。銃さえあれば、この体格でも負ける気がしない」
「マナちゃん、あなた一体どういう生活してきたの? ダメよ、他人を傷つけたりしちゃ」
パンを齧りながらのマナの独り言を、千鶴はのんびりした口調でたしなめる。
それがこの『ゲーム』の中で言う言葉だろうか。まるで噛みあわない千鶴との会話。
マナは子供の姿のまま、軽い頭痛を覚える。
「チヅルに支給された品物は何だったんだ? 武器は入ってなかったのか?」
「私の支給品なら、この長ネギよ。さっきのニンニクと一緒に、スーパーの袋に入っていたの。
 これって、お料理でもしなさいと言うことだったのかしら? でも、お台所も他の材料もないしねぇ」
「……なるほど、吸血鬼対策のセットというわけか。確かに1匹、生徒の中に混じっているからな」
マナはそして溜息をつく。
確かに、生徒の中でも敵対すれば厄介なエヴァは、吸血鬼だ。彼女はニンニクとネギが苦手ではある。
だがそれは「大嫌い」というだけで、それさえあれば彼女を倒せるような種類の弱点ではない。
せいぜい、こうして焼きニンニクでも食べておけば、彼女は血を吸う気を無くすだろう、くらいのものだ。
2人揃ってハズレアイテムとは、いったいこれでどう殺しあえというのだろう?
これでは自分のたちの身さえも、守れるかどうか怪しいではないか。

と―
マナは、はッと顔を上げる。何かがマナの鋭敏なセンサーに触れる。
殺気が、近づいてくる。
気配を消せていないこと、そして足音から察するに、おそらく素人。しかしその殺気だけは、本物だ。
「……どうしたの、マナちゃん?」
「動くな。誰かが近づいてくる。―完全に『ヤルつもり』らしい」
マナの言葉に、千鶴も顔色を変える。ギュッと長ネギを握り締めて身構えるが、しかし役には立つまい。
マナは『年齢詐称薬』の瓶を手に取る。いざとなれば、コイツを使うしかないか……!?
2人は林の木々の向こうを見つめる。殺気を感じ取るまでもなく、聞こえてきた足音。そして―

鳴滝風香(出席番号22番)が、彼女の手には不釣合いなほど大きな拳銃を手に、姿を現した。


441:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:09:06
「……あら、風香ちゃん」
「ちづ姉……。それに、そっちは……誰?」
見知った顔の出現に、呑気に呼びかける千鶴。俯き加減で微妙に表情の見えない風香。
2人のやり取りをよそに、マナは素早く風香の武装を観察する。
デザートイーグル。「ハンドキャノン」の異名を取る大口径拳銃。……少なくとも、外見からはそう見える。
しかもよく見れば、手に持っているものだけでなく、ポケットに強引にねじ込んでいる同型の銃がもう1本。
マナは風香の腕の動きやポケットの揺れ方から銃の重さを目測し、確信する。
あれは実物ではあるまい。おそらくマナの愛銃と同様の、エアガンだ。
ひょっとしたら―魔法先生たちに取り上げられた、彼女の愛銃そのものであるかもしれない。
ただしエアガンとはいえ、本体を改造し弾丸に術を施せば、実物にも負けない威力を付加できる。
むしろ弾数が増え軽量化もでき、下手な「本物」よりも扱いやすくなる。
油断は禁物。その脅威は実銃と同等と見ておいた方がいい。

「こっちはマナちゃん。マナ・アルカナ。ちょっと無愛想だけど、素直でいい子よ」
「ふふふ……よかった、3-Aの誰かじゃなくて……」
千鶴の答えに、風香は静かに笑って。
両手で構えた銃を、マナたちに向ける。狂気に染まった笑みを浮かべ、言い放つ。
「いきなりクラスの誰かを殺すのって、ボクもちょっと気が引けてたんだ。
 悪いけど―そっちの子から死んでもらうよッ!」

―あの時風香は、教室で惨殺された釘宮円(出席番号11番)の斜め前の席に座っていたのだ。
切断魔法で真っ二つにされた円。無惨極まりないその死に様。
だが、風香にとっては、自分のすぐ目の前を通り抜けた風の刃もまた、衝撃的だった。
目の前を駆け抜けた風。自分の座る硬い机をすっぱりと斬ってしまった『魔法』。本物の殺人の技。
あと3ミリ位置がズレていたら、もろともに斬られていたに違いない風香の手足。
風香は、理解した。
魔法先生たちは本気だ。従わなければ殺される。抵抗の余地なく殺されてしまう―
その恐怖が風香を変えてしまっていた。
彼女を、追い詰められた戦士へと豹変させていた。

442:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:09:44
マナに銃口を向ける風香。切羽詰った表情とは裏腹に、全く揺れない銃口。
一瞬で、マナは理解する。コイツは本気で撃つ気だ。そしてまた―撃てる奴だ。
映画などの真似して二挺拳銃を気取る素振りもない。確実に1人ずつ倒す気構え。
おそらくこの様子だと、マナたちと出会う前に、1人で射撃の練習をしていたのだろう。
こういう奴が銃を撃てば、素人であっても十分に当たる。当たる可能性がある。
マナは腰を落とし即座に動けるよう、身構える。避けつつ反撃する準備をする。
しかし距離が遠い。1射目を避けられたとしても、飛び道具無しでは勝ち目がない。
あるいは素人の風香のことだ、マナを狙って撃ったつもりでも、その流れ弾が千鶴に当たる危険性も……。
さて、どうする―!? どうしたらいい―!?

「―止めなさい」
凛とした声が、湖畔に響く。
毅然とした態度で、緊張高まる風香とマナの間に割って入ったのは……那波千鶴。
柔かな笑顔から一転、厳しい表情を浮かべ、両手を広げてマナの前に立ちはだかって。
身を張って幼い少女を守りながら、風香をしっかり見つめる。
「な―!?」
「チヅル、何を!?」
「……風香。貴女はちゃんとモノを考えて言っているの?」

【残り 27名】

443:作者13 ◆K05j0rAv6k
06/09/18 09:13:50
24 《 リセット (2) 》

今まさに引き金を引かんとしていた、鳴滝風香(出席番号22番)。
『見知らぬ少女』マナ・アルカナ(出席番号なし)を蜂の巣にしようとしていた風香。
いや見知らぬ相手でなかったとしてとも、容赦なく殺す覚悟を決めていたはずの風香。
―それが今、那波千鶴(出席番号21番)の迫力に、圧倒されていた。
悪戯をして怒られた時、千鶴を怖いと感じたことは何度かあったが。今の迫力は、その比ではない。
その視線に射竦められると、冷たい手で心臓を鷲掴みにされるような感触を覚える。

「……風香。私たちのことは、まあいいわ。
 けれど貴女は、お姉ちゃんでしょう? 史伽のことはどうするの?
 そうやって史伽にも銃を向けるつもり? それとも、血まみれの手で史伽を抱きしめるつもり?」
「ぼッ……ボクはッ……!」
「今すぐそれを捨てなさい、風香」
震える銃口を真っ直ぐ見据えて、千鶴は一歩ずつ、ゆっくり間合いを詰めていく。
千鶴の背後で、浅黒い肌の少女も唖然としているのが見える。
一歩ごとに、千鶴の迫力が増す。一歩ごとに、千鶴の身体が大きくなるような錯覚を覚える。
一歩ごとに、風香の心は大きく乱される。
「こんな小さなマナちゃんでさえ、みんなで帰る方法を考えているのよ?
 誰かを蹴倒して生き残ろう、なんて考えちゃダメ。それじゃ、誰も幸せになれないわ」
「う、ううッ……!」
「どうしてもマナちゃんを撃つというのなら……まず、私を撃ちなさい。
 撃てるものなら、撃ってみなさい」
「うううううッ……!」
さらに近づく千鶴。彼女を止められない風香とマナ。
風香は脂汗を流しながらパニックに陥る。
ちづ姉は正しい。ちづ姉が言ってるのは正論だ。ちづ姉が行こうとしているのはヒトの道だ。
でもあの先生たちも怖い。逆らったら殺される。魔法で殺される。真っ二つにされて殺される―



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