【斗貴子さん】武装錬金総合萌えスレ64【レーダー】at CCHARA
【斗貴子さん】武装錬金総合萌えスレ64【レーダー】 - 暇つぶし2ch56:3-1
06/10/22 03:14:03 kzpkXjti

月が出ていた。
夜の帳にぽっかりと穴を開けたような青白い真円。冷たくて、柔らかい光が静かに降り注ぐ。
ビルの屋上でフェンスに背を預け、パピヨンは天を仰いで頭上の月を眺めている。
コンクリートの縁から片方を投げ出し、地上のネオンや、月光を照り返し流れる雲にすら目もくれず。
「ああ、丁度見上げていたところだ。こっちは満月だな。空気も澄んで、よく見える」
蒼い輝きに見入りながら、手の中の携帯電話に話し掛ける。その口元が微かに綻んでいた。

「そう。こっちからも地球がよく見えるわ……鮮やか過ぎて、ちょっと憎らしいくらい」
灰色の大地と黒い空のコントラスト。モノトーンの月面上で、クレーターの端に腰掛ける金髪の少女。
マントに身を包んだヴィクトリアが、半円に浮かぶ青い星を見上げて携帯電話に答える。
『どうした? 少々ご機嫌斜めじゃないか』
クックッ、とくぐもった笑いと共にからかうような男の声。
「別に。こっちはこっちで色々あるのよ」
いつもなら男の挑発めいた物言いに皮肉の一つでも返すところだが、口から漏れたのは小さな溜息。
「百年間ずっと暗い避難壕に篭り続けて、ようやくパパと再会できたと思ったら今度は月暮らし。
どっちを向いても石ころだらけで飽き飽きするわ。これなら女学院の地下の方がずっとマシよ」
愚痴を零しながら宙に手を伸ばす。広げた指の間から覗く星は生命の輝きに満ちて、届きはしないと
分かっていても、穏やかな幼い日の思い出と郷愁が胸を刺す。
『だが、そこにはお前の父親が居る。同じホムンクルスの仲間も居る。悪い事ばかりではあるまい』
「……それで思い出したけど、アンタに仕えてたっていうあの薔薇女。何かにつけてパパに色目使って
鬱陶しいのよ。何とかしてくれない?」
『アレはああいう性分の女だ。どうにもならんな』
あっさりと返されて、「むぅ~」とヴィクトリアが拗ねた声を出した。
『フフン。どうやら連中もそれなりに元気でいるようだな。賑やかそうで何よりだ』
「賑やかっていうんなら、その通りでしょうね。今も大勢でトンネル工事の真っ最中よ」
ヴィクトリアの所持していた核鉄は、そのまま彼女の物として月への携行を許された。現在は
ホムンクルス達の“仮の宿”として月面に避難壕を展開中で、本格的な地下住居を建設すべく
巳田や猿渡らが肉体労働に汗を流している。
「…………ねぇ」
視線を下ろし、乾いた砂の上に手を置いて、ヴィクトリアが囁いた。
「やっぱり私、そっちに残ってた方が良かったかな……」


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