04/06/06 15:17
「しっかし、良くこんなのの用意があったわね…。 ミサト、知ってた?」
浅間山、火口の中。 視界を赤に包まれながら、プラグスーツの下の汗に不快感を感じ
ながら、アスカが言う。
「ああ、電磁柵に冷却ケーブルが接続された奴? 私もさっき初めて知ったのよ。
科学者って言うのは良く分からないわね…。 普通、こんなニッチな用途のために用意
しておかないわよ?」
それ程重要な用途に使用される事を想定していないのだろう、程度の良くないスピーカー
から聞こえる、若干音の割れたアスカの声にミサトが答え、続けて、
「こんなこともあろうかと…、って奴?」
とリツコに問いかける。
「…まあ、そんなところ」
面白く無さそうにリツコが答える。 その表情に面食らったのか、ミサトはその口調を
からかうように変える。
「うーん、でも今回はアレ、使わなくて済みそうね? 孵化、しそうに無いし」
その言葉を聞いたリツコはミサトを一瞥し、表情を更に憂いに曇らせながら吐息と共に
言葉を吐き出した。
「そうね、そうだと良いわね…」
その声色の意味を知るものは今、火口の淵に立ち、赤い湖面に目を落としている。
少女が投げ下ろそうとしていた初号機のプログナイフは、使われる事が無かった。