03/01/17 01:44 8Fk6BzaS
季節は暖かくなり衣替えをする頃になった。
「ねー淳平、今度一緒に行ってほしいところあるんだけど、いい?」
真中が映画のビデオを見ていると、唯が後ろから声をかけた。
「別にいいけど…なんだ?どこ行くんだ?」
真中はビデオを一時停止にして振り返った。
「うん…あのね、今度つかさ先輩の家に行くんだ。だから淳平も一緒に…」
「はぁ!?」
勢い余って真中は再生ボタンを押してしまう。
「実はさー、この間話してたら料理教えてもらうってことになったんだ」
「なんでそれで俺まで一緒に行かなきゃいけねーんだ」
「一緒に行くはずだった友達が急用で行けなくなっちゃったの!」
「違う子連れてけばいーだろ!?」
「だって皆用事あるんだもん…」
ションボリした顔の唯を後目に真中はテレビの方へ顔を戻して巻き戻しボタンを押した。
982:DEATH(9/25)
03/01/17 01:45 8Fk6BzaS
「…悪いけど一人で行けよ」
「……淳平ってそんなに冷たいやつだったんだー…」
唯は目を細めながら腕を組んだ。
「いいもん、このことつかさ先輩に言ってやる!」
「ちょ、やめろよ!ってゆーか、お前、俺と知り合いだって言ったんじゃねーだろうな!?」
真中は焦って立ち上がった。
「言ってないよ。でも淳平が行ってくれないなら…」
そこまで言って唯はニコリと微笑んだ。
「…わかったよ、行けばいいんだろ」
「え!?いいのー!?やった!さすが淳平!」
両手を上げて唯は万歳のポーズをした。
「でも俺は後から行くからな」
「なんで?」
「こ、心の準備ってものがあるだろーが」
「あっ、そ。わかった」
唯はそう言って鼻歌を歌いながら居間へと去っていた。
「…どんな顔して会えばいいんだよ…」
巻き戻しのまま放置してあるテレビ画面を見ながら真中はうな垂れた。
983:DEATH(10/25)
03/01/17 01:46 8Fk6BzaS
ついに西野家へ訪問する日がやってきた。
「じゃあ唯は先に行ってるから。逃げないでよ!」
唯は玄関先でそう真中に忠告して出かけていった。
真中はパジャマ姿のままで唯を見送った。
「さて…どうしたもんかな」
ベッドに寝転がりながら、真中は呟いた。
どんな風に会えばいいんだろうなと真中はずっと考えっぱなしだった。
やっぱりここはスタンダードに何事もなく「よっ!西野!久しぶり!」って感じに明るくか!?
いや「西野…久しぶりだね…元気だった?」としんみりとした感じか!?
それとも「ホントは来たくなかったけど会いに来てやったぞ!!」っつー嫌味っぽく!?
(あー!!最初の二つはともかく最後のはいくらなんでも無いだろ!?俺!!
それじゃ俺が振った方みてーじゃねーか!一秒で玄関のドア閉められるっつーの…)
真中は後頭部をガシガシと掻き、もう一度一から考えた。
(西野はどんな反応するだろう…?)
984:DEATH(11/25)
03/01/17 01:47 8Fk6BzaS
「西野…久しぶりだね」
「淳平くん…!」
涙ぐむ西野。微笑む俺。
「会いたかった…!」「俺もさ…!」
そして抱き合う2人。
(有り得ねぇ…)
真中は自分でシュミレーションした内容にガクーッと肩を落とした。
案外、「あんた誰?」って言われるかもしんないな…。
ハハッと自嘲気味に笑って真中はタンスから服を取り出した。
唯が家を出てから約1時間後、真中も家を出ることにした。
西野家までのルートを思い出しながら一歩一歩慎重に歩く。
(この道順歩くのも…久しぶりだな…)
真中は去年の西野の誕生日を思い出した。
(…誕生日?)
真中はハッとした。
(そうだ、今日は俺の誕生日…!)
俺も一つ年とったのか、と思いながら真中は歩きつづけた。
985:DEATH(12/25)
03/01/17 01:47 8Fk6BzaS
数分後、真中は西野家の前へと来ていた。
インターホンを見ながら唾をゴクリと飲み込んだ。
ボタンを押す指が震える。
(えーい!グジグジやってねーで男なら行け!真中淳平!!)
自分で後押しをして、真中はインターホンを無事押しとげた。
「はーい」
久しぶりに聞く彼女の声がかすかに聞こえ、真中の心臓は跳ね上がった。
ドアが少し開かれ、出てきた西野を見て、真中の心臓は更に速さを増した。
「あ…」
真中が喋ろうとすると、
「あ!淳平!やっと来た!!」
西野の後ろから唯が声をかけた。西野は唯の方を見て、もう一度真中の方へ顔を向けた。
「どうぞ」
そう言ってニコッと微笑み、西野は奥へと入っていった。
(あ…案外、あっさりしたもんなんだな…)
真中はホッとしような残念なような気持ちになった。
「もう!何してたのさ。お菓子ほとんど出来ちゃったよ!」
唯が真中に近付いて小声で言った。
「ああ…悪い」
真中は靴を脱いで、久しぶりの西野家へお邪魔した。
986:DEATH(13/25)
03/01/17 01:48 8Fk6BzaS
真中は唯の後ろについていき、キッチンに入る。
そこには後姿の西野がいた。唯と2人で作ったお菓子を皿の上にまとめている。
「つかさ先輩」
唯が西野にそう声をかけた。
「何?唯ちゃん」
西野は後ろを振り返らずに返事をした。
「紹介しますね、こいつ唯の幼馴染で…」
「知ってるよぉー」
唯が真中の紹介をしようとすると、西野が笑顔で振り返った。
「え…?」
真中と唯は西野の態度に目が点になった。
「真中淳平くんでしょ。唯ちゃん知らなかったのかな?あたしと淳平くん同じ中学だったんだよ」
ニコニコと西野は平然とした顔で説明した。
「西…」
「えっ!そうなんですかー!?唯全然知らなかったぁ!」
真中が名前を呼ぼうとしたところで、唯がほとんど棒読みの状態で、さも今知りましたという
感じにそう言った。
「うん、そうなの。淳平くんもうちに来るなら先に唯ちゃんに言えば良かったのに」
「あっ…うん」
西野の何事もなかったかのような表情に真中は戸惑う。
「さっ、これ食べよ」
さっきまでまとめていたクッキーの盛られた皿と1ホールの苺のショートケーキを西野は差し出した。
987:DEATH(14/25)
03/01/17 01:49 8Fk6BzaS
西野と唯が隣同志の椅子に座り、真中は唯の前の椅子に座った。
ケーキを切り分け、一皿ずつそれぞれの前に配られる。
「いただきまーす♥」
唯が手を合わせながらそう言って、ケーキにフォークをつけ、一口パクリと食べた。
「おいしーい!」
唯は口に手を当てて、驚き気味にそう言った。
「凄く美味しいです!つかさ先輩、すごーい!」
「ありがとう。でも、これは唯ちゃんがほとんど自分で作ったものなんだよー?
唯ちゃんがうまくクリーム混ぜてくれたからこれだけ美味しくなったのよ、きっと」
西野にそう誉められて、唯は照れくさそうに頬を掻いた。
一方、真中はまだケーキに手をつけられないでいた。
どうしても西野のあっさりとした態度が気になるのだ。
(も、もしかして俺と付き合ったこと無かったことにされてる…!?)
チラリと西野を伺うと、ケーキを食べて唯と微笑み合っている。
(…忘れ去りたい過去なのかも…)
ズ~ンと真中が一人暗いモードでいると、
「淳平くん食べないの?」
西野がそう声をかけた。真中がバッと顔を上げると、前と変わらない西野がいる。
「あっ、ゴメン。食べる食べる」
そんな2人の掛け合いを唯はジッと見ている。
唯はどうしても分からなくて考えていることが堪えきれなくて、ついに言葉に出した。
「つかさ先輩、まだ淳平のこと好きなんですか?」
その場の空気が一瞬にして固まったのは言うまでもない。
988:DEATH(15/25)
03/01/17 01:51 8Fk6BzaS
「え…」
西野が驚いた顔で唯を見ている。唯も負けじとジッと西野の方を見る。
「ば、バカッ!唯、何言ってんだ!西野だって困ってんだろうが!」
「だって…」
真中が身を乗り出して、唯の口を塞いだ。
「ご、ゴメンな、西野、こいつホントにバカで…」
真中はこれ以上、ここにいちゃいけない気がして唯を引きずってキッチンから出ようとする。
「じゃあ、俺たちそろそろ帰るね。ごちそうさま」
冷や汗をかきながら真中はキッチンを出た。
「ほら唯、靴履け!」
「なんで帰るの?」
「お前が変なこと聞くからだろうが!」
「変なことなの?2人の方が変だよ。どうしてあんな平然としてられるの?
淳平まだつかさ先輩のこと好きなんでしょ?」
「…いいから靴履け」
唯は口を尖らせながら渋々靴を履いた。
「お邪魔しました」
真中は唯の手を掴みながら、そう言って西野家を出た。
989:DEATH(16/25)
03/01/17 01:51 8Fk6BzaS
唯の手を掴んだまま、無言で真中はズンズンと歩く。
重苦しい雰囲気の真中に唯も声がかけられない。
(唯、いけないことしちゃったのかなぁ…。つかさ先輩も困ってたし…)
唯はションボリとしながら、チラリと西野家の方に目を向けた。
すると玄関先に西野が立っているのが見えた。
「じゅ、淳平!」
唯が真中の足を止めようと捕まれた手をひっぱった。真中はなんだ?と後ろを振り返る。
「ほらあれ!つかさ先輩…」
真中が唯の指差す方を見ると、確かに西野が見えた。
しかし真中はどうすればいいのか分からない。そんな真中を見て、唯は手を離して真中の背中を押した。
「唯、先に帰ってるから!」
「おいっ…!」
唯は真中の止める言葉も無視してさっさと行ってしまった。
真中がもう一度、家の方に目を向けると西野もその場から動いていないでいた。
990:DEATH(17/25)
03/01/17 01:52 8Fk6BzaS
真中と西野はお互いを見るだけで、声もかけずにただ突っ立っているだけである。
(ど、どうしよう、俺から声かけるべきだよな…!?)
ダラダラと冷や汗をかきながら、真中は覚悟を決めるかのように唾を飲み込む。
幸い、西野との距離はそんなに離れていない。わざわざ近付かなくても会話できる幅だ。
「さ、さっきは唯が変なこと言い出してゴメンな!」
真中が笑いながら声をかけると、西野は数秒経ってから返事をした。
「ううん。全然気にしてないから…」
―――気にしてない…。真中はその言葉にショックを受ける。
(やっぱり…俺のことなんか忘れちゃいたいのかな…)
「それにさ、」
西野が話を続けてきたので、真中は西野の方を見る。
「唯ちゃんが聞いてきた気持ちも分かるし…淳平くん、唯ちゃんにあたしたちのこと話してたんだね」
「ご、ゴメン……」
「気にしないで。でもビックリしたよー、淳平くん急に来るんだもん」
「あっ…ホントは来ないでおこうと思ったんだけど、唯がどうしてもって…」
「あっ、いいよぉ。久しぶりに淳平くんの元気な姿も見れたし…それに…」
「…それに?」
「それに今日、淳平くんにあたしが作ったケーキ食べてもらえて…お祝いできて嬉しかったし…」
「――!!」
「あっ、もちろん唯ちゃんも一緒に作ったんだよ。唯ちゃんホントにクリーム混ぜるの上手で…淳平くん?」
俯いて黙ったままの真中を不審に思い、西野は少し近付いて様子を伺った。
991:DEATH(18/25)
03/01/17 01:52 8Fk6BzaS
「西野…ごめん…本当にごめん」
しきりに謝る真中に西野は焦る。
「どうしたの…?」
真中は不思議そうに首を傾げる西野を見て、更に自分が情けなくなった。
俺のことを忘れ去ろうとしてるなんて冗談じゃない、誕生日まで覚えていてくれてるじゃないか―…。
でもそれが俺のことをまだ好きでいてくれてるということに繋がるわけじゃないし、
そんな虫が良すぎることないと思うけど…けど、凄く嬉しい…。
「西野…」
「…何?」
「…雰囲気に…押し流されてもいいかな…?」
「…」
西野は少し考えて、真中の手を取った。
「―いいよ…」
真中は握られた手を引っ張り、西野を抱きしめた。
992:DEATH(19/25)
03/01/17 01:54 8Fk6BzaS
それから2人はもう一度、西野宅の中に入った。
キッチンに行き、食べかけのケーキとほとんど残されたクッキーを食べようと真中が提案したのだ。
「やっぱり西野のケーキはおいしいなぁ」
ケーキを食べたあと、注がれたコーヒーを飲み干して真中はそう言った。
「ありがとう、それとこれ、唯ちゃんに持っていってあげて」
西野はケーキとクッキーが入った箱をテーブルの上に置いた。
「うん。唯も喜ぶよ」
「あ、淳平くんケーキおかわりする?」
「ううん、いいよ。十分食べた。ショートケーキこんなに食べたのいつぶりだろ」
「あっ!そういえば思い出した、あたしの誕生日の時もショートケーキ食べたよね。
あれはお母さんが作ったやつだったけど」
「西野が作ったのといえば、あれ、ブッシュドノエルもおいしかったよ――あ…」
真中はあの日のことを思い出してしまった。西野も思い出したのだろう、俯いている。
「あ、あー、それとさ、」
「淳平くん」
真中が急いで次の話題を出そうすると、西野がそれを遮った。
「な、なに…?」
緊迫した雰囲気に真中はドギマギする。
993:DEATH(20/25)25もいらんだ…。
03/01/17 01:55 8Fk6BzaS
「…あたし、あの日別れてから一度も淳平くんのこと忘れたことなかったんだよ」
「!」
「女々しいな~って自分で情けなくなった。でも、後悔してるとかじゃなくて、
淳平くんと付き合ってたことはあたし、無かったことになんかしたくなかったから…」
「西野…」
「ごめんね、変なこと話しちゃって。コーヒーおかわりいる?」
「俺も…西野のこと忘れたことなかったよ」
西野は目を大きく見開いた。
「淳平くん…」
「ごめん、俺そろそろ帰るよ。ごちそうさま」
真中はケーキの入った箱を持って、椅子から立った。
「あ…うん、バイバイ」
西野は右手を胸辺りまであげて、左右に振った。
真中は名残惜しくもあったが、西野を背に家を出た。
(西野……)
さっき全て本当の気持ちを言ってしまうところだった。
西野にふられた日、本当に好きだったことに気付いたこと、
東城とさつきのことも同じくらい好きで迷っていること、
いくらなんでも失礼過ぎるよな…。
もし、もしもこのことを話したら…西野はきっと軽蔑するだろうな…。
だから…もう会っちゃいけないんだ。俺にはもう会う資格なんてない。
994:DEATH(ラスト)
03/01/17 01:55 8Fk6BzaS
「ん?」
前をジッとみると、電柱の横に唯が立っているのが見えた。
「唯、お前何してんだ?」
「えっ!?つかさ先輩とどうだったかなぁって思って…」
「…これ、ケーキだってよ」
真中は西野に貰った箱を唯に渡した。
「え!うそ、やったー!つかさ先輩にお礼言ってこよ!」
「おーーーい、もう帰るぞ」
西野家へ行こうとした唯の腕を真中は掴む。
「ところで真中、つかさ先輩のこと抱きしめてたねー。何?ヨリ戻ったの?」
ニヤニヤしながら唯は真中の顔を覗き込む。
「戻ってねぇよ」
「うっそ!!なのに抱きしめたの!?じゅんぺーってホントにいい加減~!」
唯のその言葉に真中はカチンとする。
「恋の一つもしたことねーやつに言われたかねーよ!」
「何それ!恋したことある人がエライって言うの!?
淳平だって、つかさ先輩の気持ち全部わかるわけじゃないくせに!!」
「…!!」
「何黙ってんの淳平!なんとか言いなよ!」
「……帰るぞ…」
真中はそれから黙りこくり、スタスタと歩いていった。
唯は頬を膨らませながらも真中の後をついて家に帰った。
995:作者の都合により名無しです
03/01/17 01:58 yYy+xqIH
お疲れー!!
良すぎる
ってか凄すぎ
なんか文章が格段にうまくなってるような気がする
人間って成長するなぁ
996:DEATH(ラスト)
03/01/17 01:58 8Fk6BzaS
長い上に中途半端で申し訳無い…。
上手くまとまらないし情けない。
批判なんでも受け付けます。
997:作者の都合により名無しです
03/01/17 02:00 FhHP9vYU
>>996
乙です。
相変わらず上手いなぁと思いますた。
変な褒め方かもしれないけど特に唯が上手い。
998:作者の都合により名無しです
03/01/17 02:01 De0FZU4w
感動しました。乙!
999:DEATH
03/01/17 02:05 8Fk6BzaS
ありがとう(*´∀`*)
1000:作者の都合により名無しです
03/01/17 02:05 COeI09ul
おっしゃ
1001:1001
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