03/08/31 22:32
真夜中―静の家に忍び寄る、一つの影があった。
黒尾鴉子である。
堂々と、庭に不法侵入し、窓から静の寝室を覗く。
(フフフ、あったわ……)
静の幸せそうな寝顔の横に、今宵の標的があるのが見えた。
シンプル・精密・大音量の、セイ○ーの目覚し時計。
(よーし、『キューピッド・アンド・サイケ』!!)
目覚し時計の傍に、一瞬にして無数の点が出現し、拳を形成してゆく。
蚊が群れているようで、ちょっと気持ちが悪い。
(いけーーッ!!)
心の叫びと共に、C&Pの拳が目覚し時計を粉々に粉砕した。
(これでよし、次は、汐華君の家ね~!)
鴉子はスキップしながら、夜の闇に消えていった……。
「遅刻、遅刻~!」
朝の道路を、一人の少女が爆走している。
頭には寝癖がつきまくりで、口にはジャムが塗られたパンをくわえている。
静・ジョースターだった。
(なんで、目覚まし壊れてるのよ~!)
そのせいで、静はすっかり寝過ごしてしまった。
まさか、夜中にあんな事があったとは、露ほども思っていないが。
(今は八時五十分……まだぎりぎりで間に合う!)
静は、100m13秒の俊足を生かし、凄まじいスピードで角を左へ曲がった。
次の瞬間、からだがフワリと浮いた。
「うわッ!」「痛ッ!」
静は、丁度曲がってきた人を巻き込んで、盛大にすっころんだ。
そのまま、もつれるように倒れ込む。
「いたた……ちょっと、どこ見てんのよ!」
「そっちこそ! 危ないじゃないか!! ……あれ、静?」
「! 聶歌じゃない!!」
二人は重なり合ったまま、しばし見つめあった。