ギレン死せず2at X3
ギレン死せず2 - 暇つぶし2ch250:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/01/20 12:39:49
>>250
頑張り過ぎ&面白過ぎ

ガトーがコックって、ドーピングコンソメスープ作りそうだなwwww

251:通常の名無しさんの3倍
08/01/20 21:16:53
オデッサのは面白かったなぁ・・・
グフ飛行型の話は良かった。
オリキャラの使い方は巧かったから続けて欲しかった

252:通常の名無しさんの3倍
08/01/23 14:16:13
ただ大体未完で終わってなかったっけ?
職人カムバック!

253:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:39:36
『次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 』
                                  
                                           二コロ・マキャベリ『政略論』より


0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地

物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。

254:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:40:51
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーベンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。



255:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:41:18
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。


256:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:42:10
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。

ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』も発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。



257: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 19:08:19 5s5KzsAB
とりあえず、ここまで
大変ご無沙汰しております。
遅くなってしまい申し訳ありません。
個人的に忙しく、時間が取れなかったが故に遅くなりました。
にもかかわらず、待ってくださったこと、本当にありがとうございます。
現在もなお、多忙であるため亀のごとき速度で更新と話の展開を進めて参りたいと思います。


とりあえず、オデッサの冒頭で触れた「キシリアの死」を描きます。
オデッサ脱出編は、その内、一部修正して同時並行で再開したいと思います。
なにせ展開を忘れてしまったり、SS自体久しぶりなので・・・
内容や感想でアドヴァイスがあれば幸いです。

>職人さん
思いっきりファンです。
沈黙のガトーの展開が凄く楽しみです

>保管さん
お疲れ様です。
ありがとうございます!

258:通常の名無しさんの3倍
08/01/25 22:13:16 vb9Vvnq4
今、テレビで「議連会長」って言っててビックリした
「ギレン会長」かと思った

259:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 01:37:20
>>243
何時も乙。
某まとめwiki……いやなんでもない。

アレがらみだから、あそことは関わらない方が良いだろう。
でも、真似する手もあると言うことで。

260:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/01/26 01:46:56
待ちかねてました。
佐藤御大の文体を研究し尽くした文章と展開、wktkして待ってます。

261: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:20:05
12.沈黙(6)

「ガトーって、教科書にも載っていたあのソロモンの悪夢のこと?」

ハツーネ・ミクーニンことルー・ルカがジュドーに尋ねた。

「ああ、地上で戦っていた時、基地の司令官だったアナベ」

「私はアナベル・ガトーという人物ではない!」

質問に答えていたジュドーを遮るように、ガトーは声を張り上げ宣言した。

「いやいや、どこから見てもガトーのおっさんじゃ…」

「断じて人違いである!そこの履歴書を見てみろ!」

彼が指差した履歴書を見ると、そこにはガトーではない違う名前が記載されていた。

「バトーさん?」

「そうだ。私の名はバトーである!」


面接会場でひと悶着があったが、結果から言えばガトーは即座に採用された。

ジュドー・アーシタは彼がコックとして応募してきたことに疑問を覚えたようだが、
MSを操縦できる人材は貴重だったので採用することにしていた。
明らかに偽名を使っていたが、ジュドー自身も偽名なので人のことは言えなかったのだろう。

とにかくガトーは木星行きの切符を手に入れることができたのだ。

262: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:23:11
没ネタ:5 マゼラ・カノーネ

マゼラ・アタックとはジオン公国軍の地球降下作戦に先立ち、MSの補完兵器として開発された車両である。
ジオン公国宣伝省によれば、戦闘能力は地球連邦軍の61式戦車を大きく凌ぎ、
戦術や環境によってはザクに匹敵すると発表されていた。

だが、実際の戦場では欠陥兵器であることを露呈してしまった。

砲塔部の装甲は分離・飛行を可能にするために限りなく薄くなり、
連邦軍の野砲にすら耐えられない構造であった。
また、マゼラ・アタックの全高は6.8m(61式戦車の二倍以上!)であり、
視認性の低さが要求される戦車としては全くの欠陥品であった。

そのため、一年戦争後半までには多くの車両が撃破されていた。
特にマゼラ・トップの損害が激しく、車体部のマゼラ・ベースだけの車両が多数確認されている。
この状況に対して現地部隊は、補給の悪化もありマゼラ・ベースを基幹とした再生兵器を製造することになった。

この再生兵器の中で有名なものにはザク・タンクがある。
撃破されたMSと車両を再利用したザク・タンクは工兵部隊で重宝されていた。
そして、一連の再生兵器の中で最も異色なのはマゼラ・カノーネという車両であった。

この車両は名称にカノーネとあるように、マゼラ・ベースへ鹵獲した61式戦車の150㎜砲を装備させたものである。
弾薬等は占領下のキャリフォルニア・ベースに多数存在したので、車両の多くは北米大陸で運用されていた。

一年戦争末期には一部の部隊が、ルナ・チタニウム合金を弾体とした装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使用し、
RX-79(G)すら撃破するという戦功を挙げている。

一年戦争後、この車両を鹵獲した連邦地上軍では、マゼラ・カノーネの完成度の高さに驚き、
対抗兵器として試作に終わっていた74式戦車の量産を決定している。

URLリンク(hell.2ch.ru)(マゼラ・カノーネ?)

263: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:32:31
投下終了です。

没ネタのURL先ですが、ロシアの新型戦車らしいです。
時代がマゼラ・アタックに追いついてきたよ…

>オデッサ戦の職人さん
自分がSSを投下するきっかけになったのが、前スレのSSでした。
復帰してくださって本当に嬉しいかぎりです。
これからも作品の続きを楽しみにお待ちしております。

264:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 15:42:54 mvgmQ5tu
神帰還

265:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 15:48:08
いや、自分で自分を神って呼んでageなくてもいいから

266:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:13:49
おお、戻ってたのか


267:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:22:07
つまんないから、帰れ

268:267
08/01/26 16:23:57
ていうか今更戻ってもねぇwww

269:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:37:44
キシリアの死いいな
これからも頑張ってくれ

270:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:38:02
>>267-268はツンデレ。

無視すればよいものを一々書くところからも寂しかったということが見て取れる。

271:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 20:07:44
おかえり

お二方ともがんばって

272: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:29:41
ご批判を頂戴し、内容を読み返したところ、
わかり難く、面白くもないなぁと反省したので冒頭を加筆して、修正してみました

273:キシリアの死:改訂版1 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:31:02


「はい? 目の前はどんな感じだったって?
 え~、口で言ってもわかるかなぁ。とにかく、すごい数の砲火でした。有名な映画『ニューヤーク決戦』のセリフで 「砲弾が7分で空が3分」
なんていうセリフがありますが、そんなもんじゃなかったです。ええ、ニューヤーク上空が深夜にもかかわらず紅く染まるくらいでしたから。
 いやぁ、その時の憤りといったら、なんとも。周りにいた人間全てが鼻息荒立てて、突撃開始をまだかまだかと待ってましたから。
戦闘詳報作成の為に空母の艦橋に上がってた私なんかでさえも、震えで文字が書けませんでしたからねぇ。
 地上に視察に来ていたキシリア少将が戦死した直後の気分は一生忘れることはできんでしょうなぁ。
 え? どこの艦の艦橋かって? あんた、人の話聞いてたんですか。<デュッセドルフ>ですよ、<デュッセドルフ>。<ガウ>級攻撃空母9番艦。
いい空母でしたよ。この作戦のあとで他の空母群といっしょにキャリフォルニアベースに帰還したんですが、そのあと損傷が酷くて廃艦になっちゃいまして。
 ああ、それで旗艦<キャリフォルニア>から突撃命令が出たんです。「今コソ仇ヲ討チ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!」ってね。
泣かしてくれますねぇ。で、待ってましたとばかりにガルマ大佐は木馬に突入していったわけです。そのあとは………」

                        ――ある老人の回想 0094年、アンマンにて

「次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 」
                                  
                        ――二コロ・マキャベリ『政略論』より


274:キシリアの死:改訂版2 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:32:10
0094年12月25日 アンマン宇宙港

老人は饒舌だった。
彼は、今、戦記作家のインタビューにアンマンの宇宙港ラウンジで応じていた。
そして、彼はキシリア戦死時の<デュッセドルフ>の第一艦橋にいた男である。
週刊誌記者と兼任の駆け出し作家は、ところどころとちるものの、老人は機嫌がよかった。
「ええ、そうです。地球圏から逃げ出すんです。便利なもので、グラナダから木星船団に便乗するんですよ。
ジャミトフ紛争、その後のグリプス戦役でほとほと嫌気がさしましてね。」
老人は水を飲んだ。
「デラーズ・フリートでの毒ガス作戦に参加したことで、縁者もいないのでスッキリしたものです。
え?そりゃ、反対しましたよ。でも個人の力など、組織では小さいものです。
結局はムサイの艦橋からサイドⅡへのG3注入を指揮していました。
今覚えば、独立戦争でキシリア大将が亡くなった時に気がついておくべきだったんですけどねぇ・・・
ああ!失礼、少将閣下が戦死することになったのは、ご存知のようにガルシア閣下の報告、
というよりも雑談のせいだったんです。あれは79年の9月の終わりのことでした・・・」
老人は話を戻すと回想を始めた。

275:キシリアの死:改訂版3 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:32:47
0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地

物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。

276:キシリアの死:改訂版4 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:33:22
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーゲンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。

277:キシリアの死:改訂版5 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:34:08
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。


278:キシリアの死:改訂版6 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:35:09
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。

0079年10月03日 ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』を発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。
「ここは、それが普通ですよ。砂糖と炭水化物の国とは、良く言ったものです。
その分、運動すればいいという考えなのです。」
「フン、まぁいい。それで、本気なのか?」
「はい」
ガルマは背筋を伸ばした。今更後には引けない。

279:キシリアの死:改訂版7 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:37:22
「占領行政、兄上の戦略、家名、そういったことへの影響は考えたのか?」
「はい。私と公国には彼女が必要です。兄上がなんと言おうと私は貫きます。
それに、むしろ、彼女の存在は占領政策にとって有効です。
私と婚約することでジオンと北米の融和の象徴にもなるでしょう。
父親のエッシェンバッハを押さえつける材料も、まもなく手に入ります。」
ガルマは、ソファのキシリアを見据えるとはっきり述べた。
エッシェンバッハは、かつて北米州大統領選挙に何回か立候補したこともある男だった。
彼は、その時に培ったネットワークを使って連邦への情報協力、ジオンへの抵抗活動を支援・維持していた。
ガルマは、徹底的に原住民への融和政策を行うことで、ようやくその尻尾を掴みかけていた。
しかし、それも旧フォートノックス、連邦準備銀行に残された金塊を使ってのものだから必ずしも褒められたものではないかもしれないが。
「私には理解できんな・・・だが、少しは安心した。のぼせ上がっているだけだと思っていたからな。」
キシリアは首を斜めに振った。
「姉上!それでは!」
「まぁ、まて!それはエッシェンバッハの娘を見てからだ。」
喜色をあらわしたガルマに、キシリアは押さえつけた。
だが、姉が一応、認めてくれたことにガルマは喜んだ。
「それで・・・赤い彗星はどうしたのだ?まだ、ここにいるのだろう?
 私が降りてきたときもいなかったが。」
キシリアは思い出したように言った。
「ああ、彼は気を使ってくれたのです。
『君も姉上への立場があるだろう。確かに、家族のいない私にはわからん話だからな。
俺のような氏素性のわからない奴が、君の晴れの舞台である歓迎式にいてはいけないだろう。
自惚れかもしれんが、記事には君だけが中心となって載るべきだ。
それに、姉上とゆっくりと楽しむがいい。』
などといっていって・・シャアめ、水臭いものです。」
ガルマは、シャアの本心を知らないままにそう言った。
そして、ああ、では三時間後に旧エッシェンバッハ別邸で晩餐会がありますので、
それまでに・・・というとキシリアを彼女の部屋に案内しようとしたが、それは無理だった。
木馬隊への惨敗を説明させられることになったからだ。


280:キシリアの死:改訂版8 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:37:47
0079年10月03日17:11 ニューヤーク市郊外 ジオン軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」
エッシェンバッハ家の別邸はニューヤークの北部郊外にあった。
エッシェンバッハ旧市長は、ジオン進駐時に、この家を提供した。というよりさせられた。
勿論、相当の対価付ではあったが、『愛国者』の彼にしてみれば屈辱の象徴であるから溜まった物ではない。
瀟洒な雰囲気が催し物に適当だから、そしてイセリナの家の近くで彼女が来易いからという理由で、
ガルマに頻繁に使われてはなおさらである。
そして、その日もエッシェンバッハ別邸、今ではジオン公国地球攻撃軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」に名を変えた会場は盛況であった。
参加者は東部地区の有力者、地方議会関係者及び首長、現地の軍需産業、北米のジオン軍人、占領行政に携わる官僚、納品業者達であった。
ジオン軍は、占領に当たって旧来の連邦の統治システムを、利用せざるを得なかったのだから、こうした面子は不思議ではない。
それは清朝、イスラム諸帝国以来の大勢力の併呑に成功した侵略者の慣わしだったからだ。
エッシェンバッハ前市長は晩餐会の満座の中にあって、そうした光景を不快に思っていた。
初代市長のリチャード・ニコルズに始まって、初の黒人市長であり、連邦創設のひとつのきっかけとされる事件で活躍した
アンドリュー・ギル、地球連邦創成期の反連邦テロである9.11で活躍したルドルフ・ジュリアーニ。
そうした数々の市長とともにあったニューヤークは世界の中心都市であり、自由と夢の象徴であった。
地球連邦議会も、ダカールに移転するまでは、ここにあり事実上の世界の首都であった。
だが、現実の光景は、コロニー落としによって心まで砕け散り、世界都市の気概を失い、
占領者である宇宙人に阿るニューヤーク市民の姿であった。
彼は、そうした事態に激しい憤りを覚えていた。
しかし、本当に彼が許せなかったのは、そうした事態に直面し、何も出来なかった最後のニューヤーク市長、
エッシェンバッハ自身だった。ゆえに、彼は娘を差し出すなど慮外のことだった。
そのとき、彼は本当の敗北を喫するからだった。
歴史は彼を人生の敗北者と呼ぶだろう。
それは、北米州大統領候補にまで一時はのし上がった野心と虚栄心の塊である彼には耐えられない事実だった。
だから、彼はその報われぬ不満を解消するために、ジオンへの抵抗活動を危険を犯してまで支援しているのだった。
もっとも、彼は薄々、自分の行動が自慰に近いものであることを自覚していた。その意味ではカイラムに近いのかもしれない。
ただ、彼がとどまって占領軍に注文をつけることで救われている東部住民も数多くいたことも事実であったから、
エッシェンバッハを断罪することは必ずしも出来ないのかもしれない。


281:キシリアの死:改訂版9 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:38:20
その頃、ガルマは姉と歩いて、挨拶回りを行っていた。
「・・・時に、お父上のデギン公王には地球においでになるご予定は?」
「聞いてはおりませんな」
キシリアはマゼラベースの現地改修を行っている企業の代表に冷たく答えた。
個人的好悪ではなく、余計な期待など持たせたくないからだ。
占領者には占領者の振る舞いがある。
「おいでの節は是非なにとぞよしなに。ひひひひ」
しかし、その企業の代表は怯むことなく下卑た笑いを浮かべた。
「姉上、そろそろですので・・・ああ、皆さん。私達は後ほど。」
ガルマはキシリアと引き上げるとシャアのいるカウンターに向かった。
人を掻き分けて進む二人を有力者の子女の声が包む。
「まあ、ガルマ様、いつも凛々しいお姿」
「キシリア様も凛としてすばらしいお方」
「素敵」
「…しびれちゃう」
黄色い声だった。
ガルマは、カウンターからカクテルを受け取り姉に差し出した。
「ああいう連中は虫が好かん」
キシリアは口をつけるなり、そういった。
「私もそう思います。使えることは使えますが・・・」
「調子に乗らせるなよ。一度裏切った人間は何度も裏切るからな。」
「ええ、わかります・・・さて、紹介します。彼が・・・おい、シャア!貴様、いつまで遠慮しているんだ。
姉上に紹介したいといったろ。貴様のためでもあるんだぞ?」
ガルマは笑いながらシャアに話しかけた。
「シャア・アズナブル少佐です。キシリア閣下。直接お目にかかるのははじめてかと。
ガルマには大変世話になっています。」
シャアは、そう挨拶した。


282: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:40:02
ヒストリカル・ノート
展開を忘れた、つまらないというご指摘を頂いたので最初から書き直してみました。
自作自演説が出るのは、面白くないということですし・・・
面白くなったかは自信がありませんが、少しわかりやすくなったかな?とは思います。

オデッサでは戦闘でしたが、キシリアの死では人間を中心に書きたいと思います。
勿論、後半は戦闘に移ります。
反応がよければ、この路線も行きます。悪ければオデッサ路線のみに絞ります。
注意点、よかった部分、反省点があれば幸いです

展開は同じ分量をあと5回ぐらいで終わると思います。
なお、老人の前書きの回想は内田先生の作品から借りたもので、問題があれば修正します。
コンセプトは佐藤大ちゃんの「少し遠いところ」のパロディです。


>職人さん
マゼラベースもといマゼラ・カノーネをちらっと触れてみましたが、
職人さん、もしよろしければ設定を一部お借りしても宜しいですか?
だめだったら、ザクタンクの改修ということで流しますが・・・
勇み足で触れてしまい、申し訳ありません。
もし、ここでは言いにくいようでしたらuc0080ac@やっほーに、ご連絡ください。
戦車ですが、確かにタチ中尉が砲塔だけ担いでいきそうですねw

>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
過大なお言葉、ありがとうございます。
DSをやっていれば、もっと曹長さんの話楽しめるのにと悔しいです。
文章、内容、大変参考になっています。

>待っていてくれた方々
本当にありがとうございます
ご支援本当に感謝です!

>ご批判
ごめんなさい(´Д`;)
これで、あれだったら出直します。


283:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 01:24:13
いよいよシャアが出てきたか。加筆&続き乙

284:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 09:02:56
両職人乙

285: ◆u2zajGCu6k
08/01/27 10:08:51
>オデッサの職人さん
加筆修正お疲れ様でした。面白い作品をありがとうございます。
マゼラ・カノーネの件ですが、気にせずに使って下さいな。
むしろ作品内で触れてくれて光栄な感じです(笑)

286:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 11:31:26 EcWnByQ2
職人帰還記念上げ。


職人さん、待ってたぜー!

287:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 11:34:51
フレイと共に苦難を乗り越えていくスレ489
スレリンク(shar板)

288:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 21:14:38
乙保

289:通常の名無しさんの3倍
08/01/28 19:56:40 9MPPnSIx
age

290:通常の名無しさんの3倍
08/01/29 01:58:49 NdDlRDxn
このレスを見たあなたは確実に交通事故に遭います



逃れる方法はただ一つ
↓このスレに行き
スレリンク(gamesrpg板)




【ルカ】
ゴワーズ



と書き込んでください。書き込まなければ確実に明日交通事故に遭いますよ

291:通常の名無しさんの3倍
08/01/31 00:43:30 d4fSZ54b
上げ保守

292:通常の名無しさんの3倍
08/02/01 03:54:20
>>263
ロシアには61式みたいな2連装砲塔の自走砲ありますね。縦に2連装ですが。
同じ掲示板に画像載ってたので。
URLリンク(hell.2ch.ru)

293: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:43:54
12.沈黙(7)

「同志エマ・シーン、裏切りの罪は重いぞ!」

拘束されて身動きがとれないエマ中尉の前に、時空を越えて蘇ったジャミトフ・ハイマンが現れた。

「離しなさい、この下郎!人でなし!」

「ぬはははは…同志エマ、裏切りの代償を受けよ!抵抗は無意味だ!」

ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…


「い、いったい何を読んでいるのよ、ジュドー!」

狭い艦長室の中にルー・ルカの凛と張った怒声が響いた。

「なんだルーか、せっかく良い所だったのになー」

ジュドーが読んでいたのは、現在地球圏全体で一大ブームになっている、
ケイイチ・ミキハラの「地球至上主義者はメイドスキー」であった。

その内容はコロニー・レーザーによって死亡したかに思われた、
元ティターンズ筆頭のジャミトフ・ハイマンが時空を超越する能力を身につけ、
世界各国の女性を相手に地球至上主義思想を植え付けるというものであった。

「わ、私というものがありながら…そんなものを読むなんて…ぶつぶつ」

「何か言った?」

「うるさい!」


294: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:45:46
12.沈黙(8)

閑話休題

宇宙世紀105年3月、木星船団旗艦「ジュピトリスⅣ」は、
月面のブラウン・クロキ宇宙港で出港に向けての最終搬入作業を行っていた。

木星への出発は一週間後に迫り、昨年から募集していた乗務員も既に配置についていた。
アナベル・ガトーもその中の一人で、厨房でニンジンと格闘を繰り広げていた。

「うーむ、中途半端な重力での調理がこんなにも難しいものとは…」

厨房は遠心重力区画にあったが、出港前は月面の重力の影響を受ける。
地上と無重力に慣れたガトーにとって、月面の低重力はむしろ害悪であった。

「さて、次はカレー粉を倉庫から持ってこなきゃならんな」

金曜日はカレー。これは長期間の艦隊勤務を行うには必須のメニューである。

地球圏から離れるにつれて、情報は少なくなり、次第に曜日の感覚すら失われてしまう。
この状態が行き着く先は、乗員の目に見える士気の低下だ。金曜日のカレーにも意味はあるのだ。

ガトーは食糧貯蔵庫に向かおうとしたが、まだ乗船してから二日ほどであったため、
案の定この広いジュピトリスⅣ(3km近い)で迷子になってしまった。
だが、幸運なことに長年の経験と勘から倉庫と思しき区画を発見するのは早かった。

「カレー粉にしてはこの缶は大きすぎるなぁ…」

ガトーの目の前には「極秘」のラベルが貼られたドラム缶ほどのものがあった。
彼は気が付かなかったが、缶の裏側には「F.A.T.E(ドゥガチ)」と記されていた。

そして、彼がこの倉庫に入ったと同時刻にある事件が発生した。

295: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:52:29
投下終了です。

某架空戦記完結記念。メイドスキー。
次からようやく戦闘が始まるようです。

>>292さん
マゼラ・カノーネに続き、次は61式戦車(マンムート)について書いてみたくなりました。

296:通常の名無しさんの3倍
08/02/02 21:57:05
> ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…

わっふるわっふる

297:通常の名無しさんの3倍
08/02/02 22:38:09
月面の宇宙港に着陸してるジュピトリス級艦ってのは・・・・


艦尾を底にして垂直に屹立している姿を想像してしまうんだが・・・



298:通常の名無しさんの3倍
08/02/04 16:55:37
>>296
シャア専用あめぞうから2chに移転した当時「陵辱金髪プリンセス」っていう
ティターンズがセイラさん始め女キャラを犯りまくるスレがあったなぁ。

299:通常の名無しさんの3倍
08/02/10 09:18:20 BMNL+j8t
保守

300:通常の名無しさんの3倍
08/02/12 14:26:33 deixbnzy
このスレのまとめってないの?

301:通常の名無しさんの3倍
08/02/16 07:45:15
保守

302: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:49:09
12.沈黙(9)

宇宙世紀100年12月31日

彼が指揮する新型AMS-129ギラ・ズール4機は、森林地帯に身を隠しながら、
目標に自らの駆動音を気取られぬ位置で作戦の決行を待っていた。

そして数十分後、実弾演習の名目で出動した彼等第800特殊教導連隊の猛者達は、
作戦「桜花」の発動を国防軍司令トワニング上級大将から直接告知された。

「目標はズム・シティ郊外のヴェヴェルスブルグ城に篭城している。
ムンゾ共和国に反旗を翻した元国防軍近衛軍団長ホルスト・ハーネス上級大将の捕縛が最優先だ。
友軍相打つ状況は避けたい。極力発砲は控えるように」

彼はミノフスキー粒子の散布を命じ、突入命令を待った。
この年のクリスマスに発生したネオ・ジオンの国家崩壊は、国内全体に混乱を起こすことになった。
グレミー・トト総帥の辞任から四日後、ついに国防軍主流派による蜂起が始まったのだ。

「フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン」

司令部からの秘密暗号を受信した彼は部下達に命令を下した。

「作戦『桜花』開始、各機目標へ突入せよ!」


ヴェヴェルスブルグ城周辺の叛乱部隊は呆気なく降伏した。
叛乱部隊の司令部であった城内に入っても抵抗は無く、そこにあったのは自害した屍だけであった。

303: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:52:56
12.沈黙(10)

宇宙世紀104年9月

叛乱が早期に鎮圧できたのは、ホルスト・ハーネス上級大将の御陰であった。
蜂起した者に賞賛を送ることはできないが、同胞相打つ惨劇だけは避けられた。

彼が過去に思いを馳せていたのには理由がある。
それは四年前の作戦「桜花」に参加する命令を受けた時と同じ部屋に呼び出されていたからだ。

彼は後悔するようになっていた。ムンゾ共和国は未曾有の経済危機に見舞われている。
地球連邦との国力差は広がり、民衆の中ではネオ・ジオンの方がマシであったとさえ言われている。
彼の雇用主である国防軍も縮小の一途をたどっているのだ。

こんな状況になるのならば。彼の心の中では後悔の念が広がっていた。
だが、彼は生粋の武人である。心中を誰かに吐露することはなかった。


「第800特殊教導連隊連隊長、参りました」



「月に行ったことはあるかね?」

現状報告と少しの雑談の後、国防軍情報局局長が彼に突然問いかけた。

「月面には旧軍時代に武官として赴任しておりました」

「そうか。月での戦闘経験は無いようだな。今回の作戦地域は月面だ。早急に月の重力に慣れてくれ」

「作戦といいますと?」

「これだ。他言無用。複写も許されない」

彼は局長から作戦計画書を渡された。一目見ただけでこれが秘密作戦であることが理解できた。
そこには局長のサインだけではなく、ドライゼ海軍大将、国防軍作戦部長ハスラー上級大将、
そして総統兼国防軍司令であるロンメル元帥のサインが記されていたからだ。

304: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:57:33
12.沈黙(11)

作戦「明星」

1.反地球連邦組織「マフティー」と偽装した第800特殊教導連隊により「ジュピトリスⅣ」を破壊せよ。
  当該目標は作戦決行当日に月面宇宙港にて補給作業中である。
2.作戦の際は、必ず月面都市防衛軍、地球連邦駐留軍と交戦し、市街地及び市民に被害を与えること。
3.作戦目的は月面都市群と地球連邦に反地球連邦組織が画策したテロと認識させることにある。
4.この作戦が順調に推移した場合、今後は地球上での破壊工作活動に移行する。

「我々は地球連邦の注目を宇宙から逸らさねばならない。
これから我がムンゾ共和国は様々な裏工作を実行するからね。
それらの工作活動が成功すれば、半世紀後を目安にして宇宙に戦国時代が到来するだろう。
その時にこそ我がムンゾ共和国は勝利する」

局長は明星作戦の目的を説明した。彼にとってそれは想像以上の計画であった。

そして既にこの時期には、ムンゾ共和国の諜報機関によって、多くの反地球連邦組織に支援が行われていた。
後に地球圏に混乱をもたらせた勢力の多くがムンゾと蜜月関係にあったのだ。

今回の作戦に使われたマフティーもその中の一つであった。

「作戦の概要はこんなところだ。何か質問はあるかね?」

「はい、今回の作戦指揮官に私を選んだ理由は何でしょうか?」

「我々が貴官を選んだ理由は、貴官こそがサイド3で最も危険な男だと見込んだからだよ。ラカン・ダカラン大佐」

305: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 22:05:33
投下終了です。

戦闘が始まりませんでした。
次回こそはジュピトリスⅣを襲撃したいです。

>>297さん
ZZラストでジュピトリスⅡがフォンブラウンから発進する。
こんな描写があったので何も考えず書いてしまいました。

横倒しでも全長3kmもあると宇宙港のスペースは足りるのだろうか…

306:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/02/16 22:18:09
乙であります。
「目標は<大和>」思い出した

こっちのガトーは俺の書いたのと違ってカッコよさそうw

307:通常の名無しさんの3倍
08/02/16 23:15:52
ジュピトリス級ともなれば、専用宇宙港を別に建設しててもおかしくないのでは?

308: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:35:23
12.沈黙(12)

宇宙世紀105年3月15日

地球連邦軍第82軌道降下旅団は、昨日から月面都市フォン・ブラウンで発生した騒乱への出動を待ちわびており、
宇宙世紀100年の月面臨戦協定に基づく地球連邦軍への協力要請を受けるや、戦闘行動に移り月軌道へ発進した。

昨日の午後より何度も行われた偵察の結果、
ブラウン・クロキ宇宙港に隣接したマスドライバー施設と加速準備に入っていたジュピトリスⅣは、
十数機のMSによって占拠されたものと判断されていた。

この正体不明の敵に対し、月面防衛軍は午前6時にフォン・ブラウンへ一個MS旅団を集結。
敵MS部隊を視認すると即座に攻撃を開始したとの報告があった。

この報告を受け、降下旅団長であるケネス・スレッグ大佐はルナリアンを見直した。
彼等にはアナハイム社のような死の商人や日和見主義としてのイメージしかなかった。
だが、この騒乱に対して月面防衛軍は迅速な行動を開始している。
ルナリアンの中にも危機意識の高い奴がいるのかと大佐は思った。
それと同時に自分達の仕事は無くなったとも思っていた。

マスドライバー施設はリニアレール敷設のため、敵軍が占拠した地域の大部分は平野が広がっている。

つまり、敵軍に逃げ道は無い。

そして、月面防衛軍が集結させたMS旅団はジェガン約50機によって構成されている。
敵が保有する十数機のMSでは勝負にならない。
この重装備は6年前に発生した環月面動乱の苦い記憶によるものだろう。

だが、ケネス大佐の予想は外れた。
午後8時の定時連絡では月面防衛軍のMS旅団は壊滅状態に陥ったとの報告があったのだ。


309: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:38:14
12.沈黙(13)

四方から敵軍を押しつぶそうとした月面防衛軍MS部隊は、形式不明の大型MAを直接視認した瞬間、
無数の思考制御型誘導兵器(ファンネル)によるオールレンジ攻撃を受け、2割以上が破壊されてしまった。

この攻撃により部隊は混乱状態となり、敵陣からの砲撃をまともに受けることになった。
メガランチャーの一斉射撃を受けたMS部隊は統制を失い壊走した。

事態を重く見た月面防衛軍司令部は虎の子の増援を差し向けた。
それは月面仕様に改装したRGZ-91リ・ガズィを装備した緊急展開中隊である。
この機体はBWSを改良して擬似的な空挺機動を可能にしたものであった。

だが、マスドライバー施設まであと50kmと迫った時、突如として編隊の一機が爆発した。
マスドライバーからの対空攻撃と知った時には、既に中隊は小隊規模まで減少していた。
BWSをパージして着陸しようとした機体もあったが、突出してきた敵軍により殲滅された。

結局、残った編隊は離脱するしかなかった。

敵の戦力を理解した月面防衛軍は戦力の再構築を理由に、
一時敵軍との戦闘を地球連邦軍に任せる判断をした。
この結果、予定通りケネス大佐の第82軌道降下旅団は戦闘に赴くことになった。

「月面防衛軍は手酷くやられたようだな。まったく、敵軍は何処から侵入したんだ」

「ケネス大佐、おそらく敵軍は宇宙港に停泊していた貨物船から発進したものと」

「ふん。テロリストは始末に終えんな」

―降下20分前、降下20分前、パイロットは搭乗急げ

「時間のようだ。奴等に連邦軍の恐ろしさを見せてやろう」

310: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:42:08
12.沈黙(14)

地球連邦軍は今回の騒乱を新兵器と戦術の実験場と位置づけていた。
そのため、テロリスト掃討とは思えないほどの苛烈な攻撃を行った。

まず、ルナツーより発進したラー・カイラム級機動戦艦を主力とした打撃艦隊による軌道砲撃が開始された。
本来ならば目標はマスドライバーであるが、月面都市の了承が得られないので敵陣への攻撃となった。
無論、砲撃だけで敵軍を殲滅できるとは考えていない。これは降下部隊の軌道降下を支援するものである。

この砲撃にはある新兵器が使用されていた。それはABM(対ビーム弾頭弾)である。
これは敵の迎撃により弾頭が蒸発すると、気化した重金属粒子が付近の大気中に充満し、
そこを透過するビームを著しく減衰させることにより無力化する。
古くはチェンバロ作戦から使用されているビーム撹乱膜だ。
この兵器の新機軸は弾頭が迎撃されなかった場合、通常の弾頭として機能することである。

この作戦は成功した。実験兵器のため砲撃密度は薄かったが、
多くの弾頭が敵に迎撃されたため戦場全体でビーム兵器が使用不可能となった。
敵軍の錬度の高さが皮肉にも仇となってしまった。
ファンネルによるオールレンジ攻撃の脅威は取り除かれたのだ。

―曳航索切断、各機は軌道降下体勢に移行せよ

クラップ級巡洋艦に曳航されていたケッサリアが、囮の役目を果たすべく先行して切り離された。

「我々も降下するぞ。全員無事落着すること。いいな!」

バリュートを搭載したMSが次々に開始していった。
ケネス大佐もそれに続き月面へと飛び出した。
落下中に眼下を見渡すと、東方の戦場は赤く燃えていた。
降下中の彼等を狙うメガランチャーの閃光も煌いたが、撹乱膜に阻まれ立ち消えした。

着地の衝撃、ケネス大佐は素早くバックパックを排除し、広大な月面の中で友軍の統制と投下物資の回収を始めた。
旅団の多くは無傷で集合できた。一部の機体が実弾兵器による損傷で月面都市へ後退しただけだ。
軌道降下で最も危険な時間を無事に過ごせたことにケネス大佐は満足感を覚えていた。

311: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:57:56
投下終了です。

筆が進みました。ビーム撹乱膜はギレンの野望だと必須ですよね。

>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
そろそろガトーさんも出演させたいところです。
「標的は<大和>」をベースに特殊部隊物を誰かに書いて欲しいなぁ。

>307さん
大神工廠のような大型艦専用ドックが併設されていると考えてみました。

312:通常の名無しさんの3倍
08/02/18 15:09:02
いよいよガト・・いや、バトーさんの出番ですな

一つわからない描写がありますが
月面でバリュートとは?
これも特殊作戦の一環でしょうか?

313:通常の名無しさんの3倍
08/02/19 00:56:02 5iApcBUM
月にはじつはものすげえ大気があったんだよ!
最近のNASAの調べで新事実が発覚したんだよ!
てかバリュートは月地表でボールみてえにバウンドしてショックを和らげるんだよ!
しかも新バリュートだからがんだりゅーむでできてて最強の盾になんだよ!
そんな簡単なこともわかんねえのかクズ野郎!
いちいちくだらねえツッコミすんじゃねえ!
能無しのバカどもは黙っておれの書いたものを崇め奉ってりゃいいんだよ!

314: ◆u2zajGCu6k
08/02/19 01:14:08
>312さん
月面で大気圏突入用装備を使用するのは間違っていますね。
ご指摘ありがとうございました。

その部分は「ランディング・ディバイス」を搭載したことに。
これはゼク・アインが装備していた降下用逆噴射装置です。

315:通常の名無しさんの3倍
08/02/25 02:06:55
保守

316:通常の名無しさんの3倍
08/02/25 19:27:41 tjX2T+oi
上げ保守

317:通常の名無しさんの3倍
08/02/29 11:23:43
保守

318: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:05:02
12.沈黙(15)

戦場に落着できた45機のFD-03グスタフ・カールは、投下物資による装備の補給を終えるとすぐに突撃を開始した。
彼等に残された時間は少ない。撹乱膜は重力のある月では効果時間が減少してしまうのだ。
遠距離攻撃の危険が消失している間に、敵陣を自分達の交戦距離に入れなければならなかった。


「無事に着陸させてしまったぞ。くそっ、だから強化人間なんて使うべきじゃなかったんだ」

ラカン・ダカラン大佐は焦っていた。彼等は連邦軍の軌道爆撃(敵ミサイル)に対して迎撃行動をした。
迎撃が成功し弾頭から重金属粒子が拡散した時、第800特殊教導連隊の猛者達は敵の意図を理解した。

「連邦軍はビーム兵器を封じようとしている」

だが、諜報部が無理やり部隊に組み込んだ、強化人間達が莫迦正直に命令を遂行してしまった。
彼等に中止命令を理解させた時には、既に戦場全体へ重金属粒子がばら撒かれていた。

彼に残された兵力は、ジュピトリスⅣとマスドライバーを制圧している歩兵を除けば、
ギラ・ズール8機(ファンネル搭載のヤクトタイプが3機と長距離砲装備のランケタイプが5機)、
そして、自らのMAN-10G3ゲー・ドライだけであった。
既に戦力の半数が一連の戦闘と軌道砲撃によって葬り去られた計算となる。

「方向1時、敵着陸地点から閃光、無誘導噴進弾と思われる。数24、回避行動を開始」

「畜生!」

ラカン大佐の搭乗するゲー・ドライは操縦士の他に二人の火器管制員が乗っている。
操縦士と火器管制員の一人は件の強化人間である。
彼女等は彼の存在を無視するように、機体と搭乗員を酷使する急激な機動を行って敵弾を回避していった。

天地が逆転する視界の中、彼はハンドランチャーを放った。
数分ほど前までは敵との中間地点までやっと届く程度であったが、
機体から放たれたビームは減衰しながら直進し、敵機に届く寸前までかき消されなかった。
彼はもう少し時間を稼げば、ビームも自由に使えるだろうと思った。

319: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:06:46
12.沈黙(16)

月面に連邦軍が着陸したのとほぼ同時刻、
占拠されたジュピトリスⅣ艦内でも激戦が繰り広げられていた。

ジュピトリスⅣは一個小隊規模の勢力によって制圧されていた。
当時、ジュピトリスⅣの船員は半舷上陸中(規則違反の艦外行動者もいた)であったこともあり、
満足に抵抗を行えずに制圧されてしまったのだ。

さらに艦の中枢部であるCICを無傷で制圧できたことにより、
敵勢力は大多数の船員がいる重力区画の隔壁を閉鎖し、艦内部からの反抗を不可能なものとした。
重力区画外に居た船員も各個撃破されてしまい、ジュピトリスⅣは完全に無力化されたものと思われた。

こんな状況の中、ガトーは果敢にも反撃を開始した。
幾多の戦場を駆け抜けてきた経験と勘が、この最悪の戦場で最大限に発揮されたのだ。
最初は調理用ナイフしか武器となるようなものは無かったが、
敵兵の隙を見て装備を奪取すると敵兵にとっては悪夢のような存在になった。

そして、物資を納品する途中で事件に巻き込まれた、
旧友のケリィと合流すると彼等は獅子奮迅の活躍を始めるようになった。

外で戦闘が始まり艦内の警備が疎かになったことも幸いし、
ついに彼等は艦内を敵勢力から解放することに成功した。


「なんとたわいの無い。鎧袖一触とはこのことか」

あとは連邦軍が敵勢力を鎮圧すればこの事件は終結する。
だが、ガトーは外の戦闘を見ているだけで終わるような漢ではなかった。

「ケリィ、使えるMSはあるか!この際だ、使えるのなら連邦製でもかまわん!」

「格納庫のMSは全て破壊されていた。しかし、オレが持ってきたやつは無傷のはずだ。
5番倉庫に置いてある。外の援護に行きたいなら急げ!」


ガトーは5番倉庫でそのMSを発見した。
彼はそのMSに懐かしさと力強さを見出して一言つぶやいた。

「素晴らしい。まるでジオンの精神が形となったようだ」


320: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:09:25
だいぶ遅れましたが投下です。

昨日、沈黙の戦艦がテレビでやっていましたが、
あのような描写を書くのは難しいですね。筆力の無さを痛感しております。

321:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/03/03 13:29:10
>あのような描写を書くのは難しいですね。
いえいえ面白いです。
佐藤御大は鳥瞰的に描写する作家なので、あの映画のようなミクロ単位
の描写とはまた話が違うことですし。

ところでムンゾの強化人間ってもしかしてプル・シリーズですか?

322:通常の名無しさんの3倍
08/03/04 12:15:34
俺も先日セガールみてたw
懐かしいジオンの象徴モビルスーツが気になります。
続き頑張ってください。

323: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:21:16
応援ありがとうございます。
これからも執筆速度は遅いですが頑張りたいですw

>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
ご明察です。登場した強化人間達はプル・シリーズですね。
実はギレンの野望でアクシズ(グレミー)をやっていて思いつきました。
ゲーム中でも五人のプルクローンが出てたので出してみましたw

324: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:35:10
短編を投下します。
三部構成になる予定です。

随所にネタや設定を入れていきたいと思います。
全てに気づかれる方はいるのでしょうか。

325: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:37:35
「夜桜は散った」

前編:塩の柱

容赦の無い夏の日差しが彼を照りつかせていた。
ニホン省出身のタムラは流れ出る汗と戦いながら、必死に穴を掘っていた。
彼の顔はマスクで覆われていた。マスクは何日も同じものを着用しているようで酷い悪臭を放っていた。
普段ならすぐに交換すべきであるが、この村にマスクの予備は存在しなかった。

北米大陸のかつてグレートプレーンズと呼ばれた穀倉地帯、
コロニー落着現場から離れた場所で農業を営んでいるサン・ロレンツォ村が疫病に見舞われていた。

タムラは一年戦争時に料理長として従軍した経験があった。
彼は多くの戦役に参加していたが、その地獄の中でも現在の村よりはマシであったと思った。

一週間前から疫病の兆候はあった。

収穫間近の小麦は枯れ、木々や芝生すら赤茶けた大地に無残な姿を晒していた。
その惨状が植物から人間へと移るのに時間はかからなかった。

住民は一斉に村の診療所に駆け込んだが、医師が診断中に死亡してしまうと、
そこはむしろ近寄るべきではない場所だと認識された。

現代医療に希望を失った住民達が最後に向かったのは、宇宙世紀以来寂れていた村外れの教会だった。

彼等にできることは神に祈ることだけであった。

タムラが大きな穴を掘り終えると既に夕暮れになっていた。
彼は教会の外に安置されている遺体を見た。穴を掘り始めた時よりも増えている。
数えると30以上あった。もっと掘らなければならないとタムラは思った。

326: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:39:05
何故、私がこんな目に遭わなければならないのだろうか?

タムラは一生分の不運を一年戦争で使ってやったと思っていた。
だが、神は無慈悲にも彼に人生最大の不幸を運んできたのであった。
彼にとって唯一の幸運は、一人娘のヒヨリがこの村に居ないことであった。
彼女は彼の故郷であるニホンの祭典に参加するために旅行中であったからだ。

彼はこんなことになってしまった理由を考えていた。

そもそも事態の発端は不審なMSが山奥に墜落した後からだった。
村の青年団が墜落現場に行くと、既にその周囲の木々は枯れていた。
彼等がMSを調べると不自然なことにパイロットは居なかった。

青年団が不審に思いながら帰ってきたのと同時に、村でも山と同じように植物が枯れだした。
おそらく病原菌か何かが搭載されていたのだろうとタムラは思った。
そして、その病原菌は人間達にも牙を向けたのだった。

外部からの救援も望めない。ここは宇宙世紀0083年のコロニー落下事故によって、
地球連邦政府から半ば見捨てられた土地であるからだ。
救援要請は出していたが、一週間近くたってもまだ誰もこの村へは来ていない。

タムラはもはや自分も祈ることしかできないと感じていた。
先程から妙に咳が出ている。自分も感染したのかもしれない。
彼が絶望しかけた時、聞き覚えのある音が聞こえてきた。

327: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:40:07
タムラは一年戦争時にペガサス級強襲揚陸艦に乗艦していた。
そのペガサス級が大気圏内を飛行する音が遠方から聞こえてきたのだ。
現れたのはタムラにも見覚えがある、古い地球連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦であった。

「神よ…」

いつの間にか教会の牧師がタムラの隣に立っていた。
その揚陸艦はまるで戦闘中であるかのように盛大にフレアやミノフスキー粒子を使用していたので、
遠くから夕闇の空を見るとまるで天使が羽根を広げているように見えたのだ。

牧師がしきりに十字を切っていると、揚陸艦は高度を上げ、
ちょうどMSが墜落したあたりに何かをばら撒き始めた。
タムラは揚陸艦が何をしたのかが瞬時に理解できた。

ニューヤーク。ドーム型野球場への避退。空中空母による絨毯爆撃。

地球連邦軍は病原菌ごと私達を焼き尽くそうとしている。タムラは背筋を震わせた。
牧師も燃え盛る山を見て気づいたようで、先程とは全く逆の表情を見せていた。

「神よ…」

今度はタムラも呟いてしまった。彼も神の慈悲に縋りたい気持ちであった。

328: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:13:53
中篇:カリオテ人のシモンの子

作戦に投入されたのはペガサス級強襲揚陸艦7番艦「アルビオン」であった。
アルビオンが秘密作戦に投入されたのには理由がある。
ガンダム試作二号機の奪取、シーマ艦隊との裏取引、30バンチ事件、ティターンズ蜂起、アポロ作戦、
アルビオンはこれらの表に出すことのできない秘密作戦を担ってきたのだ。

「今回も汚れ役になっただけだ」

艦長の元ティターンズ作戦参謀バスク・オム大佐は自嘲気味に話した。

アルビオンは焼き尽くされそうになった村落に着陸した。
地球連邦軍にも一抹の理性が残っていたようで、タムラの予想ははずれ消毒剤が撒かれただけであった。
無論、村ごと焼き尽くせという意見も存在していたが。

村へ降り立った兵士達は宇宙服のような防護服を装備していた。
彼等によって簡易無菌室が設営されていった。
簡易無菌室とアルビオンは宇宙用のエアロックでつながれ、艦内から消毒剤等が運ばれていった。

「消毒剤などいらん。汚物は消毒だ」

防護服で着膨れた老人が忌々しげに呟いた。彼は名はシロウ・I・ムラサメ、軍医中将である。
話の前後で矛盾しているが、老人の言う「消毒」は我々の考える「消毒」とは意味が違うのだろう。

「閣下、充分に安全は確保されているのでしょうか?」

バスク大佐はムラサメ中将の先の言葉を無視して質問した。

「安心したまえ。住民の方は知らんが、我々は防護服を着ている限り充分に防げる」

329: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:18:29
防護服にはすぐに熱がこもり汗だくになるが、
ムラサメ中将は老人とは思えない活力で休みも取らずに現地調査を続けていた。
バスク大佐はニュータイプ研究所の所長が、何故BC兵器に興味を持つのか疑問に思った。

「検査結果はまだか!」

「はい、まもなく完了であります、閣下」

ムラサメ中将に噛み付かれたバスク大佐は宥めるような声で応じた。

「遅すぎる!実戦だったら部隊は全滅しているぞ!」

「これ以上は無理です閣下、部下達は全力を上げて取り組んでおります」

「ふん、所詮は地球連邦軍というわけか」

その数十分後、バスク大佐の疑問は解消されることになった。
地球連邦政府から新たな指令と共にムラサメ中将の略歴が送られてきたのだ。

330: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:19:59
シロウ・I・ムラサメ軍医中将はジオン公国からの亡命者であった。

彼はジオン公国地球方面軍の防疫給水部本部の部隊長であったらしい。
この部隊は地球攻撃軍が管轄する区域内の防疫・給水業務を行うことを目的にしていた。

宇宙世紀0079年12月、地球連邦軍が北米大陸に侵攻すると、
撤収作戦が実施され部隊はその施設のほとんどを破壊して徹底的な証拠隠滅を図った。
彼等の情報を欲した連邦軍は、ムラサメ中将をはじめ部隊の幹部との間で、
実験のデータを提供する代りに部隊を法廷で裁くことを免除したとされている。

取引の際に防疫研究室の実態は隠され、
施設として目立つ防疫給水本部を囮として使う事によって
防疫研の研究ネットワークの実態、そしてその成果であるNBC戦術の最重要情報
(例を挙げるならば後のG3ガスや生物兵器アスタロスなど)の秘匿が計られた。

連邦軍からの追求を十分予測していたムラサメ中将は、
予め部隊での成果の一部を引き渡す事で研究の全貌を隠匿することに成功したと言われている。

一年戦争後に地球連邦軍に亡命したムラサメ中将は、NT研究機関であるムラサメ研究所を設立した。
第二次ジオン独立戦争で実戦投入された強化人間の多くには彼の研究成果が応用されているらしい。

331: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:23:08
「生物兵器の調査と患者の移送が完了いたしました」

外から戻ってきたジャクリーヌ中尉が彼等に報告を行った。

「通常の殺菌作業ではとても追いつていない。私の予想通りだ」

ムラサメ中将は調査結果を読みながら話し出した。

「MS墜落地点の殺菌作業が捗っている事を考え見るに、焼却処分が最も有効だと判断できる。
最初に私が進言したように村ごと焼き尽くすべきであったな。
まぁ、人体への影響も観察できたから無駄ではないがな」

「つまりこの村も徹底的に焼くべきということでしょうか?」

バスク大佐は尋ねた。

「そうするべきだろう。正直なところ、私もこの細菌がどれほどしぶといのかは分からない。
研究資料は既に破棄されているし、関係者も消息不明だ。私自身も具体的なことは知らない」

「あなたがこの細菌を培養した本人であるのにですか?」

「貴様、何故知っているのだ!」

「体は醜く膨れあがり、蛆虫と体液が溢れ出た」

バスク大佐はある人物の末路を口にした。
皮肉な事にもそれは感染者の症状とほぼ同じであった。

「イスカリオテのユダか。私がジオンからの亡命者というのは機密事項なのだがな」

332: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:25:44
後編:豊穣の女神

「閣下、もう少しで作戦も終了することですし、外でお話しませんか?」

「何故だ?」

「指揮官は最後に戦場から離れるものだと教わりました。地球連邦では。
ジオン公国での将校教育はどうなのでしょうか?」

ムラサメ中将は不快感を表したが、防護服を着込みバスク大佐と共に外に出た。

「閣下、何故ジオン公国軍は生物兵器などに手を出したのでしょか。
既にコロニーレーザー開発計画も動いていたのに」

「あの当時、公国は危地に立たされていた。独立戦争勝利のため、あらゆる手段を追及する必要があった」

「だから研究を進めた。ですが、生物兵器は不経済です。明らかに」

生物兵器は製造も面倒で管理も困難、効果は不明確、運用にいたっては軍事の範疇を越えている。
一度使えば制御不能の兵器など誰も使用することはできない。

「効果は絶大なのだ。私はキシリア様にも進言したのだ。総帥の進めるシステムではなく…」

「夜桜計画、別名アスタロス。安心して下さい。私は話を伺いたいだけなのです」

バスク大佐は口を挟んだ。

「貴様、何処まで知っているんだ!」

333: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:28:30
「あなたが進言し実行した計画。地球に対する全面生物兵器の使用。
北米大陸で得た連邦軍捕虜に細菌を植え付け、連邦領土内で伝染病を蔓延させる。
閣下はそれで地球連邦の戦時体制に混乱を起こせると考えた」

「その通りだ」

「しかし、軍は閣下の計画を信頼しなかった。実証的なデータが足りなかったから。
だから閣下は地球へ降下した。捕虜を用いた人体実験で効果を確かめるために」

「キシリア様の黙認は得た。連邦軍も我が軍の捕虜に拷問を加えていた。一種の報復だったのだ!」

「そうでしょうな。私も似たような経験をしましたからね」

バスク大佐のゴーグルが怪しく光るのをムラサメ中将は見逃さなかった。

「私をどうする気だ?」

「急がないで下さい、閣下。話はまだ終わっておりせん。
そのような人体実験の成果によって地球連邦軍の反抗作戦の直前に生物兵器は完成した。
だが、その兵器は閣下にとっては失敗作でした。
完成した生物兵器は植物だけを枯らし人体には影響が無いものだったから」

「時間が無かったのだ」

「その後、捕虜になった閣下は地球連邦へ亡命します。
完璧な生物兵器の完成と更なる人体実験をするために。
連邦軍もその種の兵器を必要としていたので利害が一致したのでしょう。
地球連邦が弾圧するのは何もコロニーだけじゃないですから。
誰もが夜桜を美しいと感じたのは戦争という狂気に酔っていたからでしょう」

334: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:33:37
「貴様は何が言いたいのだ?」

「北米大陸に保管されていた生物兵器を移送する時、MSが墜落してしまったのは不幸な事故です。
これには何の裏工作もありません。本当に悲しい事件です。
事故の知らせを受けた閣下は案の定現場に行くと言ってくれました。
自分の開発した兵器の威力を確かめずにはいられなかったから。
軍の高官達は喜んでおりました。後ろめたい過去を抹消できる機会が訪れたことに」

「まさか私を…」

ムラサメ中将は恐怖に駆られて逃げ出そうとした。
だが、バスク大佐は拳銃を抜き中将の足を防護服ごと打ち抜いた。

「その防護服にもう気密性はありません。もちろん閣下はアルビオンに乗艦することはできません。
細菌に侵された汚物を艦内に持ち込むことは艦長として許可できない」

「た、助けて、助けてくれ」

「閣下、その命令には従えません」

「わ、私が死んだら。連邦軍のニュータイプ研究が頓挫するぞ!」

「ご心配には及びません。ムラサメ研究所の新所長にはローレン博士が内定しております」

「お願いだ、大佐。助けてくれ」

「さようなら、閣下。ユダはコキュートスのジュデッカがお似合いですよ」

バスク大佐は身動きのとれない中将を置いてアルビオンへと戻っていた。


「アルビオン艦長バスク・オム大佐より司令部へ。夜桜は散った。以上、交信終わり」

335: ◆u2zajGCu6k
08/03/09 18:49:18
死にたい連邦軍将兵にお薦めの「連邦人民最大の敵(レビル曰く)」ヘルムート・ルッツ大尉

・オデッサ突入直前なら大丈夫だろうと虎の子のRGM-79(G)を出したらいつもと変わらないルッツに撃破された
・ドダイGAの機影を発見後一分でビッグトレーが火の付いた燃料を流して撃破されていた
・足元がぐにゃりとしないので沼をさらってみたら61式戦車の残骸が敷き詰められていた
・停泊中の戦艦が襲撃され、気が付いたら大破着底させられていた
・高度数百ftで爆弾を投下、というか距離100m以内で機銃をぶっ放す
・フライマンタの編隊が襲撃され、フライマンタも「護衛のTINコッドも」一部撃墜された
・トラックから塹壕までの10mの間にルッツに機銃掃射された
・MSの隊列に合流すれば安全だろうと思ったら、隊列のMS全てがルッツによって撃破済みだった
・全連邦軍将兵の3/100がルッツ被撃破経験者、
 しかも急降下爆撃ならどんな兵器も破壊出来るという彼の信念から「強力で頑丈な兵器ほど危ない」
・「そんな奴いるわけがない」といって出撃して行った戦車兵が五年経っても骨の一つも戻ってこない
・「連邦軍将兵でなければ襲われるわけがない」と雪原に出て行ったキツネが穴だらけの原型を止めない状態で発見された
・最近流行っているルッツは「何が何でも出撃」総帥に止められても片足が吹っ飛んでも連邦軍狩りに出て行くから
・ベルファストオデッサ間はルッツの襲撃にあう確率が150%。一度撃破されて撤退中にまた襲撃される確率が50%の意味
・ルッツ中隊全体における連邦軍襲撃による戦車撃破数は一日平均34輌、うち約17輌がルッツ一人のスコア

336: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:02:10
投下です。

337: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:04:11
地球連邦の興亡

第四章・第二節「地衛兵と地球至上主義」

「地衛兵」とは第二次ジオン独立戦争期に創設させられた民兵組織のことである。
地衛兵に参加した者の多くは大学生や高校生などの若者達であった。彼等は政治意識の高い真面目な生徒であった。
地衛兵が最初に結成されたのは宇宙世紀0088年2月のことで、北米MS訓練学校モントレアル校(エコール)にかよう
ティターンズ高級幹部の子弟が、初めて地衛兵という言葉を用いて学生運動を始めた。

彼等は自らを「地球を防衛する兵士」と称して、全国の学生に地球至上主義の思想を広めていった。
その結果、自らの行動を絶対的正義と信じた彼等は、地球防衛の担い手という精神的高揚感と集団心理の中で、
次第に暴力行為をエスカレートさせていった。

後年になって彼等は「若さ故の過ち」と連呼し自らの行為を有耶無耶にしようとしている。
このような者達による歴史資料の抹消と第二次ジオン独立戦争の戦火によって、
宇宙世紀80年代後半を考察した歴史書は極めて少ない。唯一と言ってもよい資料は、
ヨシユキ・トミノ氏のフィクション性の高いZ三部作しかないのが現状である。
当時の史実については、いまだ完全には解明されておらず、特定の事件に対する矛盾した情報も多い。
本書では現段階で入手可能な資料を用いて、「ティターンズ蜂起」の発生原因と経過を考察していきたい。

338: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:08:26
宇宙世紀0080年1月1日、ギレン・ザビ率いるジオン公国との一年戦争で勝利を収めた地球連邦は、
一週間戦争時の未曾有の被害によって、政治力よりも軍事力を背景とした支配構造が確立しようとしていた。
一年戦争の戦火によって多くの命が失われていたが、それでも数十億人以上が地球連邦市民であった。
この超巨大国家を運営する能力はヨハン・エイブラハム・レビル大将を失った地球連邦軍に残されていなかった。
そのため、戦後三年近くが経過しても地球上の多くの地域は、一復興は行われず困窮状態に置かれていた。
当時の地球は現在(そして過去)のように全ての地域が地球連邦の支配下に置かれているわけではなかった。
一部地域にはジオン残党勢力が存在し、中華地域や北米大陸には小規模な国家群も成立していた。
こうした勢力を放置すれば、地球連邦体制の打破を目指す反地球連邦運動へと発展しかねない状況であった。

そして、その状況の中で勃発したのが前節で取り上げた「デラーズ紛争」である。
詳細は既に記したので、ここでの説明は省略させてもらう。
この紛争によって反地球連邦運動の危険性が高まったことにより、
ジャミトフ・ハイマン准将は宇宙世紀0084年に「ティターンズ」と呼ばれる
ジオン残党(反地球連邦勢力)狩りに特化した組織を成立させた。
ジャミトフ准将はティターンズ設立に対して批判を行った者達を、
全員「反地球連邦分子」のレッテルを貼り弾圧の対象とした。

ティターンズ設立と同時に、ジャミトフ准将は地球連邦の経済官僚だった経験を活用して、
当時低迷していた地球の経済状況を改善させていった。ティターンズの危険性に対しての批判は多くあったが、
多くの人々は行動しようとは思わなかった。ジャミトフが行った経済政策は成功し、
地球連邦市民の多くは景気回復を実現させた彼に好感を抱いていたからだ。
ここにティターンズ(ジャミトフ)に抗議し刑務所に入れられた人物の警告が残されている。

「ティターンズがジオニズムを弾圧した時、ジオニストでない自分は行動しなかった。
ティターンズは次にスペースノイドを弾圧した。コロニー住民でない自分は抗議しなかった。
ティターンズはルナリアンに弾圧の輪を広げ、最後に地球に住む人々を弾圧した。
地球に住む自分は立ち上がった。時すでに遅かった。抗議するのは誰のためではない、自分のためだ」

339: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:10:00
宇宙世紀0087年10月、地球圏を揺るがす大事件が発生した。
ジオン残党の中で最大勢力である「アクシズ」がアステロイド・ベルトから地球圏へと帰還した。
彼等の行動は迅速であり、地球連邦の保有する小惑星改造の宇宙要塞のうち二つが瞬く間に無力化された。

突然の侵攻に対して当時の地球連邦上層部の対応は後手に回り、
ようやく宇宙に防衛ラインが構築できた時には、アクシズはサイド3に進駐してしまっていた。
この状況の中で、地球連邦の多数派であるゴップ元帥を長とする保守派は、
サイド3をアクシズに譲渡することによって停戦しようとしていた。

これに反対したのがジャミトフ大将率いるティターンズであった。
地球至上主義者である彼等がこのような講和条件を許すわけが無かった。
彼等はゴップ元帥やワイアット大将が実験を握る現在の権力機構を打倒し、
自分達がその座に就くとする実質的なクーデター構想を描いていた。

しかし、軍事力によるクーデターは戦争状態である現状では不可能であり、
もし蜂起を図れば地球連邦はティターンズ派と保守派、反地球連邦派(エゥーゴ・カラバなど)に分裂し、
完全な内乱に陥って収拾がつかなくなる恐れがあった。

そこで、ティターンズ作戦参謀のバスク・オム大佐が軍の動向を慎重に管理して暴発を回避する一方で、
「木星圏文化芸能連合部部長」の肩書きを与えられたパプテマス・シロッコ少佐が
「腐敗の温床であるジオニズムを撲滅する」との名目で知識人を弾圧し、
それに連なる現政権の有力者を失脚させていった。
この時期の連邦政府内に限れば「ペン」は「銃」より強かった。

340: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:14:58
とりあえずここまで投下です。
バスクを書いたら、ティターンズについて書きたくなってしまいました。

今回の短編は本編の方の地球連邦(ティターンズ)の興亡です。

341:通常の名無しさんの3倍
08/03/15 10:38:55
保守

342:通常の名無しさんの3倍
08/03/19 15:27:31
保守

343:通常の名無しさんの3倍
08/03/20 04:25:56 TUxHzc3s
あげほっする

344: ◆u2zajGCu6k
08/03/21 01:39:15
宇宙世紀0088年1月14日、ジャミトフ・ハイマン大将は「地球連邦でジオン公国の復活を企む策謀があり、
連邦内のジオニズムの道を歩もうとする反連邦勢力(エゥーゴ派)を整頓しなければならない」と発言した。

彼は自らの意向に逆らう人物を「エゥーゴ派」と決め付けて断罪する下作りを行った。
それから約一ヵ月後、ホンコン・シティの新聞紙「東方日報」の読者投稿に
ホワイトベース組(旧レビル派)であったブライト・ノア中佐の息子ハサウェイ・ノアによる意見が掲載された。
ハサウェイの投稿は小学生らしい正義感に基づいたティターンズ批判であった。

だが、この新聞への投稿をジャミトフ大将は反地球連邦思想の現れであると断定した。
地球連邦全土に混乱を引き起こした「地球至上主義革命」の幕開けでる。

345: ◆u2zajGCu6k
08/03/21 01:41:19
最初に槍玉にあげられたのは保護責任者であるブライト・ノア中佐であった。
当時、彼はアレキサンドリア級重巡洋艦「ハリオ」艦長を務めており、
政治的にはダグラス・ベーダー大将やブレックス・フォーラー少将達の旧レビル派に属していた。
(ブライト中佐本人は派閥には属していないと証言している)

彼等は所詮小学生の意見として論文に対する批判を黙殺する態度を取り続けた。
これに対してジャミトフは会議に出席したブレックス少将を「反連邦陰謀を企てた」として逮捕・投獄させた。
彼はティターンズ作戦参謀バスク大佐とコロニー戦略を巡って対立関係にあった。

さらにジャミトフとバスクは対立する者への攻撃の手を緩めなかった。
彼等はバスク大佐の影響下にあるティターンズ・連邦連合MS戦隊を南米大陸に投入、
ジャブローにある地球連邦関連施設などを次々と実質的な支配下に置いた。

これは連邦軍内部のエゥーゴ派によるクーデター予防措置であると説明された。
そして、宇宙世紀0088年3月16日、ジャミトフ大将は「地球至上主義革命」の開始を公式に宣言した。

346: ◆u2zajGCu6k
08/03/21 01:42:54
この宣言を機にして、全面的な排除行動を開始したジャミトフ大将などに対して、
シロッコは彼等の活動から注意を逸らす目的で、連邦内の著名作家や知識人などへの人格攻撃を展開した。

「ジオンの亡霊」「エゥーゴの手先」などの汚名を着せられた彼等の多くは、名誉を挽回する機会も無いまま社会的に抹殺されていった。
また、このような文化人狩りを進める実働部隊として、主に学生から構成される「地衛兵」を大規模に動員した。

彼等はシロッコの呼びかけた「地球至上主義革命への協力活動」へ積極的に参加していった。
その結果、政治活動へ魅入られた学生達は各地で大規模な革命協力運動を開始することになる。
彼等は自らがエゥーゴ派と判断した者達を公衆の面前で糾弾していった。

地衛兵の標的になった人物は公開糾弾大会で吊るし上げにされ、
壇上で両腕を後ろに組ませ無理やり前傾姿勢をとらされた。
これはMSの発進体勢に似ているため「カタパルト式(加式)」と呼んだ。

さらに「私はジオニストです」などと記された看板を首にかけ、情け容赦なく心理的・肉体的暴力を加えていった。
そして、反連邦主義者とされる人々が見当たらなくなると、地衛兵達は些細な革命運動の路線対立を理由に内ゲバを始めた。

最終的に学生同士による粛清活動にまで発展し、連邦内部の不安定化はティターンズに利するとの判断から、
そうした内紛をさらに助長する方針をとっていった。

後に化石のようなアジテーションに扇動させられ、この運動へ参加した学生達のことを「ノジュール」と呼ぶようになった。

347: ◆u2zajGCu6k
08/03/21 01:44:35
投下終了。

ティターンズの興亡の続きです。

348:通常の名無しさんの3倍
08/03/21 02:01:11
>>347
ある意味、タイムリーなネタだな。
史実のティターンズもうまくやればエゥーゴをもっと叩けたかも知れんね。

349:通常の名無しさんの3倍
08/03/21 03:09:43
紅衛兵ならぬ地衛兵か

350: ◆u2zajGCu6k
08/03/22 22:52:01
宇宙世紀0088年4月1日、ジャミトフ大将はティターンズ司令の地位を利用して、
地球連邦中央議会第11回戦略会議をダカールで開催した。
この会議の中でジャミトフはティターンズ副司令としてシロッコを推薦している。

さらに会議中に突如としてジャミトフが「地球連邦軍を攻撃せよ」との発言を行った。
発言の内容は、一部のティターンズ指揮官が反地球連邦主義の立場から、地球至上主義革命を否定し、
旧ジオン残党勢力と協力した悪辣な陰謀を企んでいるというものであった。
誰もがこの発言をエイプリルフールの悪質なジョークと思っていた。

だが、会議の終了時の会見でジャミトフが地衛兵に対して号令を発したことによって、
彼の発言が本気であったことを確信させた。

地球連邦軍に対する包囲を悟った地球連邦軍人の行動は二通りの者達に分かれた。
一つはてティターンズを認め服従する者達、もう一つは月(エゥーゴ)への亡命を始めた者達であった。

機を見るのに敏なゴップ元帥は権力闘争への参加を諦め早々と逃亡を開始した。
保守派の長老ともいうべき人物の消息は、第二次ジオン独立戦争期を通じて一切が不明となる。
彼が復権するのは宇宙世紀0090年代に入ってからであった。

そして、宇宙世紀0088年5月に開催された第12回戦略会議で、
シロッコらが捏造した罪状により地球連邦政府首脳部が拘束されたことにより、
地球連邦の実権はティターンズに委譲された。

ここまでティターンズとしては無血で革命を推し進めていたが、最後の段階でついに流血が発生した。

351:通常の名無しさんの3倍
08/03/22 22:56:30
ゴップがWのノベンタ(スペースノイド融和派、のちに暗殺)のようになる可能性はあるかな?

352: ◆u2zajGCu6k
08/03/22 22:59:18
会議の結果を知った、対ネオ・ジオンβ任務部隊司令ジョン・コーウェン中将が月へと亡命を図ったのだ。
後に提督の叛乱と呼ばれる事態である。以下がコーウェン中将のエゥーゴへの賛同宣言である。

「地球連邦軍β任務部隊の全艦艇将兵諸君に告ぐ。私はジョン・コーウェンである。
これより本艦隊は連邦軍総司令部からの命令を変更し、
現在エゥーゴと称する者達と合流するため月へ進路を変更する。
今回の事件に於いて、小官は「義」はエゥーゴにありと見た。
連邦政府の主張する地球圏はあくまで地球のものであり、
地球こそがその中心という考えには疑問を抱かざるを得ない。
先の紛争の混乱に乗じて台頭してきた「ティターンズ」にそそのかされ、
「ティターンズ」のいいなりになった政権の、
いや「ティターンズ」どもの傀儡政権の下した命令に地球連邦軍は従うことはないと小官は判断する。
また「地球連邦軍人」である誇りがあるならば決して従ってはならない!
故にこれは地球連邦政府、及び地球連邦軍への抗命ではない。
地球連邦軍は連邦市民のために戦う軍隊なのである!
小官の決定に不服なものは24時間以内に艦隊より退去せよ。
真に地球連邦軍人たる誇りを持つもののみ小官とともに行動せよ。
諸君の英断を期待する!地球連邦万歳!」

この宣言から数時間後、叛乱を察知したティターンズ艦隊が亡命阻止のため艦隊の前面へ立ちふさがった。
この戦闘は未だ地球連邦軍から開示されていないの出詳細は不明である。
一説によると「デンドロビウム」「ウーンドウォート」と呼ばれる拠点防衛用MS同士による戦闘があったらしい。

また、エゥーゴ側の資料によればβ任務部隊残存勢力と思われる艦艇がフォン・ブラウンに入港している。
(改バーミンガム級戦艦「マグヌス・ルクス」「エクウス・ぺディス」「ヴェナトル」の3隻)

353: ◆u2zajGCu6k
08/03/22 23:00:39
宇宙世紀0088年6月までに地球連邦軍の最高権力は事実上、
ジャミトフ大将と腹心のバスク大佐、シロッコ(木星グループ)に掌握されていた。

だが、地球連邦の権力奪取を目的に共同歩調をとってきたはずの彼等の関係は、
「地球至上主義革命」の成功と共に破綻しようとしていた。彼等は互いに相手を新たなる敵と見なしていた。

だが、ここでサイド3占領後半年以上沈黙を続けていたアクシズが接触を図ってきた。
アクシズは地球連邦軍が分裂状態にあるうちに有利な条件で講和しようとしていたのだ。

ジャミトフ達はアクシズと同盟を結びエゥーゴを打倒しようとしていたが、
ここで彼等の唱えていた地球至上主義が足を引っ張ってしまう。
地衛兵などの学生だけでなく、ティターンズ内部ですらアクシズ討つべしの大合唱が始まっていた。

結果的にアクシズの提案は黙殺され、逆にサイド3周辺と月面都市への討伐行動が開始された。
これにより、第二次ジオン独立戦争(地球連邦名称:長征)が勃発してしまう。

354: ◆u2zajGCu6k
08/03/22 23:11:05
投下終了です。

元ネタを分かってくれる方が居るととても嬉しい感じです。

ちなみに今の予定ではゴップはしぶとく生き残ります。
元ネタ通りにすると連邦政府の最高権力者になっちゃいますね。

355:通常の名無しさんの3倍
08/03/22 23:13:00
>>354
元ネタは多分簡単だと思うぞ?



しかしゴップって一年戦争時は幾つだったんだろうね?

356:通常の名無しさんの3倍
08/03/27 08:52:44
保守

357:通常の名無しさんの3倍
08/03/27 17:02:32
ゴップはゲームっていうかギレンの野望だと無能扱いだけどオリジンでは
MSの開発でテムさん抜擢したり開発拠点の用意や予算措置を素早くやったり
軍政家として優秀、みたいに描かれてるね。

358:通常の名無しさんの3倍
08/03/28 18:56:09
補足するとギレンの野望独立戦争記だと外交に力を発揮し、大軍を率いることが出来て有能な部類。
シーマとの裏取引で星の屑を潰しかけたワイアット、地球のことを考えていたジャミトフと共に過小評価されているキャラだと思う。

359:通常の名無しさんの3倍
08/03/29 22:27:00
独占に外交なんかないし

360:通常の名無しさんの3倍
08/03/31 11:32:20 i
内政のことだと思うが>>359はいちいち揚げ足とらんでも…

361:通常の名無しさんの3倍
08/03/31 12:09:25
独戦にも外交はある
系譜とは形態が違うだけ
んでそれぞれのキャラに対内政案と対外交案の発案率が別々に定められてる
ゴップは発案タイプ穏健で対外交発案率が最高値

362:通常の名無しさんの3倍
08/03/31 17:45:44
うん、独占でゴップはかなり優秀ですごい使えたよな。
戦闘はダメだけど30隊組める貴重な大将だからいつも重要なハッタリ防衛隊の最適任者だった。
フリーシナリオでは必ず組み入れてた。

続きまだ?

363:通常の名無しさんの3倍
08/04/05 01:26:19
保守

364:通常の名無しさんの3倍
08/04/09 19:10:32
保守

365:通常の名無しさんの3倍
08/04/11 22:12:36
そろそろ職人さんカムバック!

366: ◆u2zajGCu6k
08/04/13 15:59:17
保守してくれる方々、ありがとうございます。

現在、諸事情でネット環境につなげない状態になっております。
GW以降はおそらく投下可能になるので、今しばらくお待ち下さい。

367:通常の名無しさんの3倍
08/04/14 23:21:55 ieCff8bO
(ノд`)

368:通常の名無しさんの3倍
08/04/20 23:12:41
まだだ、まだ終わらんよ

369:通常の名無しさんの3倍
08/04/28 23:37:27
保守

370:通常の名無しさんの3倍
08/04/29 16:18:26
ゴールデンウイークキタコレあげ

371: ◆u2zajGCu6k
08/05/04 01:05:58
宇宙世紀200年5月、アナハイム文庫ラインナップ

「鉄の夢~鉤十字の帝王~」

壮絶な核戦争が吹き荒れたのち、地球はミュータントや交雑種の徘徊するこの世の地獄と化していた。
かろうじて生き残った人類は、奇跡的に汚染をまぬがれた土地にヘルドン公国を樹立していたが、
この純人間の牙城にも、ミュータントの魔手が迫りつつあった。
そして今、風前の灯のヘルドンを救うべく、一人の男が歴史に登場した。
男は鉄の意志とカリスマ的指導力で、ミュータント掃討に乗りだしたが…
幻のSF作家ギレン・ザビ最後の傑作、宇宙世紀0079年ヒューゴー賞受賞作「鉤十字の帝王」を、
鬼才スピンラッドがめくるめく構成で紹介した、SF史上屈指の奇書登場!


「宇宙世紀0079年ニホン、国籍不明機撃墜事件」

宇宙世紀0079年11月、地球上のジオン軍は圧倒的物量の連邦軍の攻撃を受け瀕死の状態であった。
サイクロプス隊を率いるハーディ・シュタイナー大尉は、オデッサ戦線で連邦軍と激戦を繰り広げていたが、
突然サイド3へと召還される。彼はそこで親衛隊のエギーユ・デラーズ大佐から極秘命令を受けた。
その任務はジオン地上軍が撃墜した正体不明機(フッケバイン)の調査。
場所はニホン省の関東地区秩父山中。彼等がそこで見たものとは?


「リターン・トゥ・ヨーロッパ」

誰もそれを望んではいなかった。だが、誰も拒む術を知らなかった。世界は今、戦火に包まれる。
宇宙世紀79年11月、世界は一つの戦争を終結した。サイド3の独立を巡って激突したジオン独立戦争である。
ギレン・ザビ暗殺、オデッサにおけるレビル将軍の死、両陣営のトップが相次いで死亡するという非常事態が、
ジオン公国と地球連邦との間に限定停戦を結ばせたのだ。だが、それはあまりにも中途半端な形での終結であった。
その結果、「戦争を止める為の戦争」の準備が始まっていたのである。
時に宇宙世紀0081年、ヨーロッパ解放を目指す地球連邦軍の第一陣がアイスランドから出撃した。

372: ◆u2zajGCu6k
08/05/04 01:07:24
生存報告のため投下です。
GW中に今までの続きを書きたいと思います。

373:通常の名無しさんの3倍
08/05/09 21:53:52
GW終わったぞー!
職人さんカムバック!

374: ◆u2zajGCu6k
08/05/10 10:35:29
13.(1)警告

「諸君はさらなる戦いを望むか?容赦ない総力戦を望むか?よろしい、ならば嵐だ!」
                ―ドイツ第三帝国宣伝相、ヨーゼフ・ゲッペルス

太陽系第4惑星「火星」

有史以来、その惑星は人類の「想像」の世界の中で重要な位置を占めていた。
宇宙世紀初期には有人火星探査が熱狂的に行われた。

だが、火星が想像上の存在から「現実」になった時、人類に芽生えた感情は失望であった。
あれほど盛んであった探査計画は白紙となり、人類の興味は急速に失われていた。

火星がこれほどまで失望されたのには理由があった。科学技術の進歩によって、
火星は人類にとって身近なものになったが、皮肉にもその科学技術の進歩が大きな理由だった。

「火星に行って何のメリットがあるの?」

「人類が火星に移住するんだ。そうすれば地球の汚染も軽減される!」

「遠くに行かなくてもスペース・コロニーが建設中だよ」

「火星には豊富な資源があるよ!」

「アステロイドベルトの資源小惑星で間に合うのですが…」

「フロンティア精神だ!開拓こそ人類の使命だ!」

「開拓するならヘリウム3もある木星にしようよ」


火星は人類から見捨てられた惑星となった。

投入されるはずであった資源は木星開発に使われ、火星には小規模な探査基地が設営されるだけであった。

だが、宇宙世紀が80年近く経った時、火星に注目する者達が現れた。
まるで戦の星に吸い寄せられるかのように。

宇宙世紀0080年1月15日、ジオン公国軍残存艦隊がカラマ・ポイントに集結したときのことであった。

375: ◆u2zajGCu6k
08/05/10 10:41:32
13.(2)警告

「ジオンは滅びぬ。何度でも蘇るさ!」
―ジオン公国親衛隊特務情報部、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ大佐

一年戦争末期、ジオン公国軍兵士達はア・バオア・クー基地の陥落、
ギレン・ザビ総帥及びキシリア・ザビ少将が戦死したという報がもたらされると、
戦闘宙域から離脱し、逃亡する艦艇・部隊が相次いだ。
また、敗戦の色を察知した月面のグラナダや本国においても、
連邦への降伏を良しとしない部隊が温存された戦力を伴って同様に姿を消した。

敗戦の約二週間後、彼等はサイド3と月の中間地点にある「カラマ・ポイント」に会し、
ジオン残党軍としての方針を協議した。その結果、マハラジャ・カーンに率いられアクシズを目指す者、
地球圏に残り連邦への抗戦継続を望む者、月面都市で潜伏を図る者などに別れていった。

それら残党勢力の中で最も異質な集団が火星を目指すことになった。
親衛隊第36SS武装擲弾兵師団第666重駆逐MS大隊、通称「ヴェアヴォルフ」

モンティナ・マックス親衛隊少佐に率いられたこの部隊は、
アクシズ到着までは他の部隊と同様に行動を行っていたが、突如火星に向かうと連絡を残し消息を絶った。

彼等が火星に旅立つ前、ある将校が少佐に対して、火星に行く理由を問いただした返答が残されている。

「戦争の歓喜を無限に味わうため。次の戦争のために、次の次の戦争のために」

この言葉だけで彼等を判断するならば戦争愛好家、狂気の集団と定義することができるだろう。
だが、冷静に考えてみれば、この時期(宇宙世紀0081年頃)には次の戦争の準備が整いつつあった。

それならば地球圏に残留したほうが戦争に参加できたのではないだろうか?
彼等はなぜ火星などという戦争から遠く離れた場所に向かったのだろうか?

その理由は一年戦争から約40年経った後に明かされることになる。

376: ◆u2zajGCu6k
08/05/10 10:45:56
13.(3)警告

宇宙世紀0079年12月31日、ギレン・ザビ最後の国民向けラジオ演説

公国国民諸君、同志諸君、最後まで戦い続ける諸君に敬意を表する。
すでに戦況は……私はア・バオア・クーと運命をともに……

しかしジオンは不滅である……たとえ地球連邦がいったんは勝つように見えようとも。
そうなのだ、それは砂の上の勝利だ。彼等は世界の真の支配者ではないからだ。
彼らの背後で操る者……ニュータイプ……

世界的な月面国際資本……。地球連邦は……おそらく宇宙世紀80年代後半まで、
対立と妥協を繰り返しつつ、世界を運営しようとする。しかし所詮……
地球とサイド3、サイド6、月面都市群、木星……いずれ世界は連邦の手に負えなくなる。
そのとき彼等は自ら……に乗り出す。

あわれな月面都市群……最終戦争。地球と宇宙が激突するだろう。
ニュータイプはそれに勝って全世界を……
なぜならそれが彼等と……との約束だからだ。

黙っておけば必ずそうなる。
しかし、私がそうはさせない。
そのための手を、私は死ぬ前に打っておく。

それが最後の秘儀である。それによって人類はわれわれを受け継ぐことになる。
しかも見よ、そのあと、わがジオンの栄光、ラストバタリオン……。
それが真のジオン公国独立の日だ。
そのときラストバタリオンが現われる。ニュータイプを倒す。

世界を支配する。永遠に……そしてジオンは甦る。真のギレンの時代が来る。
必ずだ。甦ったジオンの軍団とその強力な同盟がそのとき来る。

外宇宙からの復讐のカタストロフィとともに来るぞ。
それからが真の究極だ。真の終わりで真の始まり、真の淘汰、
天国の地獄、宇宙世紀の新世紀その年に、

人類の驚くべき究極の姿……ではそれを明かそう。

諸君、それは人類……

377:通常の名無しさんの3倍
08/05/10 10:47:20
五島勉かよwマニアックなww

378: ◆u2zajGCu6k
08/05/10 10:59:29
久々の投下です。

「沈黙」の続きがあまりにも筆が進まないので、次の章を投下しました。

今回の話はオールズモビル戦役(火星独立ジオン軍)につながる予定です。
AR・CAプログラム、ドゥガチクローン、アマクサなどにも関係が…

379:通常の名無しさんの3倍
08/05/10 11:12:21
こっからとったの?
URLリンク(inri.client.jp)

380: ◆u2zajGCu6k
08/05/10 11:33:07
ご指摘されたようにギレンの演説の元ネタは五島勉の著作からです。

MMRがマガジンに掲載されてたので昔を思い出してつい…
オカルトネタも大好きなのですよ。

いつか「凶鳥フッケバイン」をネタに一作書いてみたいです。

381:通常の名無しさんの3倍
08/05/10 11:44:21
ま、知ってる俺も同じ穴の狢なんだけどね

382:通常の名無しさんの3倍
08/05/10 21:34:35
シャア板で1999年以後を見ることになるとはな

383:通常の名無しさんの3倍
08/05/15 10:20:12
保守

384: ◆u2zajGCu6k
08/05/15 20:58:39
遥かなる星(某御大の作品をインスパイアしています)

第一部「パックス・インペリウム」

予定調和(宇宙世紀0123年4月3日)
第505回国家安全保障会議(ジャブロー、宇宙世紀0087年10月20日)
第一章 まるで玩具のような(宇宙世紀0080年~0086年)
第二章 日常(宇宙世紀0086年3月~11月)
第三章 発射命令(破滅の日)

第二部「この悪しき世界」

第四章 汚れた宇宙(宇宙世紀0094年6月)
第五章 光の国(宇宙世紀0096年~0110年)
第六章 オライオン(72時間)

第三部「我等の星、彼等の宇宙」

第七章 ムーン・ポート(宇宙世紀0113年)
第八章 階段からの眺望(宇宙世紀0114年~0115年)
第九章 テクニカリィ・スウィート(宇宙世紀0115年12月8日)

活躍しそうな登場人物

地球連邦
ゴップ(地球連邦大統領)、ジャミトフ・ハイマン(大統領補佐官)

アクシズ
ハマーン・カーン、シャア・アズナブル、エリオット・レム

サイド6等
フランクリン・ビダン、アルフレッド・イズルハ、ドロレス・ヘイズ
ローレン・ナカモト、マイッツァー・ロナ、カロッゾ・ロナ

385: ◆u2zajGCu6k
08/05/15 21:03:10
第一部「パックス・インペリウム」

第35代地球連邦大統領、ヘルマン・ヴィルヘルム・ゴップはダカールの大統領執務室に側近達を集めた。
アクシズと呼ばれる旧ジオン公国資源基地を支配しているジオニストが、
アステロイドベルトから地球圏へと帰還し、反応弾頭を備えた軌道爆撃システムを構築したからだ。
和平か戦争か、地上と宇宙に地獄の天使が微笑んでいる…
宇宙世紀0087年10月20日午前9時、悪魔の瞬間が始まった。その頃、サイド6では…?

第二部「この悪しき世界」

機体の各所にリボーの旗をえがいた巨人達が発進した。
脚部が次々とカタパルトを離れていく。迫り来る轟音。
地球連邦軍兵器システムMRX-009、ムラサメ研究所試作超大型可変MSサイコガンダム。
誰もサイド6自衛軍の正式名称、試作サイコミュ搭載研究機・ブッホXT7とは呼ばない。
この巨人こそ、グリプス戦争の質量・反応兵器で壊滅した世界の中で、
奇跡的に被害を受けずにすんだサイド6の希望の星だった。

第三部「我等の星、彼等の宇宙」

宇宙世紀0087年10月、サイド3をめぐる地球連邦とアクシズによる反応兵器の応酬によって、
これまでの国際体制は崩壊した。サイド6政府は、
多角的な視点で新たな世界における長期的な安全保障策を研究する会合を組織し、
日常生活を維持しつつ戦後を生き延びる方策として、
最終的には汚染された地球圏を離れ外宇宙への脱出しかないとの結論を得た。
ブッホ・コンツェルンから外宇宙開発事業団へと転出したフランクリン・ビダンは、
人生最後の情熱をかけて、崩壊した月面都市に建設中の宇宙港ムーン・ポートの完成に邁進していた。
しかし、ウラでは旧地球連邦テロ集団の恐るべき策謀が渦巻いていた。


386: ◆u2zajGCu6k
08/05/17 09:03:32
予定調和(宇宙世紀0123年4月3日)

その日、ある老人の葬儀が行われた。

その日は天候が調整されているはずのコロニーであったのにもかかわらず、
水分子が配列してできた六角柱の結合物が無数に落下してきた。

まことに類型的ではあるが、葬儀の場を訪れた人々に、
人の死に似合う情景が存在することを認識させていた。

衒学的に言えば白ポプラのが茂る場所(エーリュシオン)へ行った男の長男が葬儀場へ到着したのは、
予定よりも30分以上遅れたあたりであった。彼と父親との関係はあまり良好なものではなかったが、
残念なことに彼は父親の最後の瞬間に立ち会うことができなかった。

彼は多忙であり、旧時代的な意味でのサイド6にはおらず、
また、おそらく父親の生死以上の価値を感じている事象に関わっていた。

彼の周りの者(特に妻が)は、その事に対して多少の不満を感じていたが、
彼自身の胸中はそれほど複雑なものではなかった。

おそらく父親は、こんな場所に来るなら仕事を進めろと言うだろうと確信していた。
これは息子が親に対して永遠に抱き続ける甘えかもしれなかったが。

387: ◆u2zajGCu6k
08/05/17 09:04:29
「よかった」

彼の背後から死者の孫が声をかけた。
死者の孫は、父親と同様に老人の死に間に合わなかった。

「リボーで連邦系過激派集団のテロがあった。無事で何よりだ」

「母さんは?」

「ああ、婆ちゃんと一緒にいるよ」

「婆ちゃんの様子は?」

「いつもと同じだよ。いつもと同じように見えるだけかもしれない」

「そうか」

あえて感情を消した顔つきでうなずいた彼は、受付で何か面倒が起きていることに気がついた。
自分と同年齢くらいの男が受付で口論をしていた。

「どうしたのだ?」

「あ、カミーユさん」

彼のことを知っているらしい受付係が安堵した表情で答えた。

「こちらの方の御名前が名簿に無いのです。不穏な事件も起こっているので」

彼は名簿に名前の無い客に振り向き尋ねた。

「大変失礼な質問と思いますが、父をご存知だったのですか?」

「は、はい。おそらくあなたの父上は私のことを覚えていないと思います。でも、私にとっては…」

「ありがとうございます。父も天上で喜んでいるでしょう。失礼ですが御名前は?」

「アルフレッド・イズルハと申します」


388: ◆u2zajGCu6k
08/05/17 09:19:35


ガンダム世界+遥星の設定
主な歴史改変点はこんな感じです。

・ゴップが地球連邦大統領
・ジャミトフは経済官僚のまま大統領補佐官に
・きれいなフランクリン・ビダン
・バーナード星系を目指すアル
・ティターンズ・エゥーゴが成立せず
・アクシズにシャアがいる
・地球寒冷化作戦の強化。具体的にはアクシズ落としどころかソロモンやア・バオア・クーも落とす
・クロスボーン・バンガードの設立目的が違う
・第二部以降は地球と月面都市、サイド3、6以外のコロニーが壊滅

389: ◆u2zajGCu6k
08/05/17 09:29:03
どの投下作品も中途半端になりそうですみません。
じっくりと文章を考える暇が無いもので。

今後は取り留めもなく書いて投下していくと思います。


390:通常の名無しさんの3倍
08/05/18 10:36:24
>>389
言い訳などいらん楽しめばいいのだ

391: ◆u2zajGCu6k
08/05/18 21:13:38
第505回地球連邦安全保障会議(ダカール、宇宙世紀0087年10月20日)

周囲の者達に対して意表をついた行動で驚かせることをヘルマン・ヴィルヘルム・ゴップは好んでいた。
35番目の地球連邦大統領としての宣誓を終えた直後は特にその傾向が強かった。
大統領は周囲を驚かせる手段として電話を好んでおり、その電話はゴップフォンと呼ばれていた。

宇宙世紀0086年のある日、ゴップ大統領はそれを用いて、ジャブローに設けられた戦略軍指揮所へ電話をかけ、
電話当直であった軍曹の胃潰瘍を一気に悪化させたことがあった。
軍曹はその電話が鳴る時は世界の終わりの瞬間と教えられていたからだ。

この事件は軍曹が震える声で上官を呼び出したことで面倒な問題に発展した。
戦略軍指揮所の当直将校は電話が鳴った事実に基づいて、
戦略軍に定めらている防衛体制を現行のデフコン4から3へと上げた。

この命令は全世界(宇宙)の戦略軍基地へ即座に伝達された。数百機のMSに慌しく乗員が乗り組み、
あちこちの基地で休暇が取りやめになり、ICBM(コロニー間弾道弾)に推進剤が注入された。

全てが悪質な悪戯であると判明したのは、デフコン3が発令されてから5分後だった。

392: ◆u2zajGCu6k
08/05/18 21:15:22
「うん、こちらは地球連邦大統領だが、体の調子はどうかね?」

大統領は無邪気な声で電話に出た当直将校に話しかけた。

「問題ありません」

「それは良かった」

当直将校が呆気に取られているうちに電話は切られてしまった。

彼は手元にあった暗号書をめくり、大統領の発した言葉に意味があるのかどうかを探した。
彼はその作業を司令部にいた者達にも手伝わせ、念入りに数度に渡って確認した。
そして、5分後にどうやら電話は本当に彼の体調を聞いただけと結論付けた。

彼は大統領に殺意すら覚えたが、すぐにデフコン4に戻す命令を発した。
この数分間の緊張状態は、全世界に対して非常に大きな影響を与えていた。
各サイド周辺のミノフスキー粒子の濃度が増加しており、
月軌道の量子型超々望遠衛星は数ヶ月前から移動を開始しているアクシズの異常を観測していた。

宇宙世紀0080年代に流行したSF作品映画では、ここで何らかの支障が発生し、
MSやミサイルが実際に発進・発射されてしまうのだが、現実世界の人々は多少理性的であった。

ハマーン・カーンがこの突発的な緊張状態の原因を知ったら、彼女の口癖である「俗物」の一言で片付けてしまっただろう。
だが、この事件の真相は闇に葬られ、アクシズの緊張緩和はなされることが無かった。
そのため、アクシズが地球圏に帰還した時、思いもよらぬ反応を両者に起こすことになった。


393: ◆u2zajGCu6k
08/05/18 21:17:19
宇宙世紀0087年10月20日、ダカールの大統領執務室に側近達が集められた。
彼等はここ数日の間に高まり続けている国際的緊張について、今日中に何らかの決断を下さねばならなかった。

ゴップは執務室に置かれた椅子に座っていた。彼の表情は全くの無表情であり、
何事も楽天的に考える彼には珍しく絶望しきっていた。
ヤシマ秘書官は彼のこのような姿を8年ぶりに見たと証言している。
それはジャブローにジオン軍が上陸した時以来のことであった。

この年の秋、地球連邦上層部は徐々に増大する恐怖に意識を染め上げられつつあった。

アクシズと呼ばれる旧ジオン公国資源基地を占拠しているジオニストが、
サイド3の独立(ザビ家の再興)を掲げて地球圏に戻ってきたからだ。
アクシズはその要求が本気であることを実力で示した。

電撃的な奇襲によって地球連邦宇宙基地(コンペイトウ・ゼダンの門)は占領され、
サイド3にも部隊が展開していた。その間、地球連邦は動くことができなかった。
アクシズは南極条約の破棄と反応兵器の全面的使用を宣言していたからだ。

「我々の取るべき行動は大きく二つに分かれています」

ディーン・ラクス国務長官が口を開いた。

「和平か戦争、どちらか一方です。それ以外の方法ではジオニストの脅威を排除することはできません」

彼女はゴップ政権の中枢ポストを占めるに相応しい資質を持った女性であったが、
それ故に決定者よりも調整者としての能力に優れていた。
そのため、現状のような緊急事態ではあまり役に立たない人物であった。

以上のような事を考えたゴップは、自分の過去に所属していた軍部に意見を求めた。

394: ◆u2zajGCu6k
08/05/18 21:20:23
「ジーン・コリニー大将、君の意見はどうなのだ?」

「自分としては開戦案の方が有効であろうと考えております」

地球連邦軍統合参謀部本部長、ジーン・コリニー宇宙軍大将が発言した。

「和平案は論外です。彼等の要求に応じたところで根本的な解決になりません。
それにここでサイド3の独立に応じてしまったら、一年戦争の英霊に申し訳がたちません!」

「英霊か」

ゴップは面白くなさそうに呟いた。一年戦争の英雄でありながら、
軍隊のある側面を嫌悪していた彼にとって、英霊という言葉は唾棄すべきものであった。

「和平と戦争、それ以外に解決策はないのか?」

「昨日も報告したとおり、他に四つの選択肢が考えられます。何らかの手段で反応兵器を中立化するか、
サイド3と極秘交渉を行うか、アクシズと直接話すか、何もしないかです」

そう応じたのは補佐官のジャミトフ・ハイマンだった。珍しいことに経済については言及していない。

「既に演習の名目で、サイド3を包囲するようにドゴス・ギア級戦艦を中心とする任務部隊が派遣されています。
彼等は大統領の行動会誌の命令を待ち続けています。ただし、開戦がどのような効果をもたらすかは判断できません」

「奴等は本当に反応兵器を使ってくると思うか?」

「おそらく最初はアクシズの戦闘艦艇やMSとの戦闘が発生するでしょう。
その後、アクシズが対応をエスカレートした場合、全面反応兵器戦へと拡大するかもしれません」

「判断できない。するかもしれない。つまり、君達はこう言いたいわけだな。
いかなる手段を用いても、それがもたらす未来を予想することはできない。そういうことだな」

「的確な要約です。付け加えるとすれば、全ての決定権はあなたにあることです」

「この問題については、本日午後に召集する地球連邦安全保障会議での議題としよう」


側近達が執務室から退出した後、ゴップは一人で椅子に腰掛けていた。
ふと机を見るとそこには大統領専用の電話が置いてあった。

彼はかつてその電話を用いて悪戯をしたことを思い出していた。

395: ◆u2zajGCu6k
08/05/18 21:23:57
続きがかけたので投下。
あと誤字の訂正です。

行動会誌→行動開始

396:通常の名無しさんの3倍
08/05/19 16:41:01
投下乙です。
ゴップフォンとハマーン・カーンにワロタw

397:通常の名無しさんの3倍
08/05/19 18:44:54
このときのMS事情はどうなんだろね?
ジムⅡあたりかな?

398:通常の名無しさんの3倍
08/05/20 20:40:12
ちょ、桃色の人がいるんですけどw

399: ◆u2zajGCu6k
08/05/20 21:59:25
第一章 まるで玩具のような(宇宙世紀0080年~0086年)

「核兵器と人間の愚かさとの曖昧な組合せは、国家を破滅に導くだろう」
―合衆国国務長官、ロバート・マクナマラ

1.夜明けの流れ星

宇宙世紀0080年7月27日、銀色の雨に町が煙る朝、アルフレッド・イズルハは人影の無い舗道を走っていた。
彼は家族の目を盗むようにして家の自転車を持ち出した。

酷く個人的な理由から、彼は自宅から20km以上はなれた場所へ午前8時までに到着しなければならなかった。
この春、小学五年生になった彼にとってその距離は遠すぎるものであったが、
絶対に行かなければならないと決意していた。

アルはペダルを踏み込みつつ、母親がこのことを知ったらどうするかなと思った。
彼の両親は昨年まで別居状態であり、母親と二人暮しをしていたため躾は非常に厳しかったのだ。

一応、居間に書置きを残しておいたから心配しすぎることはないだろうが(少なくとも父親は)、
ただ僕がこんなことをした理由を知った場合はどうだろうか。おそらく叩かれるのではないかな。
ああ、間違いなく怒られるだろうな。しばらくは外出禁止かもな。嫌だな。
でもあれは見なきゃならない。絶対に。あの人のためにも。

自転車の前輪がとがった小石に接触したのは、彼が決意を固めた数分後のことであった。


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