07/12/19 14:06:38
>>1乙
彼がどういった経緯で博物館にいくことになったのか読んでみたい。
201:通常の名無しさんの3倍
07/12/23 16:43:49
保守
202: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 21:40:04
投下です。
203: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 21:42:24
12.沈黙(1)
宇宙世紀100年12月25日、ネオ・ジオンのグレミー・トト総帥の辞任に伴い、
連邦構成共和国(サイド3各バンチ)は独立し、ネオ・ジオン国家社会主義共和国連邦は崩壊した。
この独立した共和国が国家共同体として、サイド3にジオン民主主義ムンゾ共和国という新国家が誕生した。
ネオ・ジオンの崩壊には諸説あるが、軍事費の増大による民生圧迫や
前年に発生したハマーン派のテロ(環月面動乱)による情勢不安などが有力な理由だろう。
そして、この国家崩壊はある特定集団に壊滅的な打撃を与えることになった。
もちろん、その集団とはネオ・ジオン国防軍であった。
サイド3の民衆は地球連邦に対する面子よりも実生活を取ったのだ。
国防軍はかつてない危機に見舞われた。予算は半分以下に削られ、
多くの軍人が強制的に退役させられた。ある作戦課の参謀はこう嘆いたと言う。
「艦隊戦力がここまで打撃を受けたのは、ア・バオア・クー以来だ!」
204: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 21:45:22
12.沈黙(2)
このように政府が大鉈を振った結果、国防軍は解体され新たにサイド3防衛隊が設立された。
多くの軍人はこの状況に慣れていったが、中には軍人以外には天職が見つからない人物もいた。
この章の主役である、アナベル・ガトー(47)もその一人であった。
宇宙世紀105年、アナベル・ガトーは失業中であった。
一時はアナハイム社員(コウ・ウラキと名乗った)からスカウトを受け、テストパイロットになったのだが、
一ヶ月で試験機を3機も壊してしまったので解雇されていた。
彼曰く、武人の蛮用に耐えることのできない機体など意味が無いそうだ。
それ以降もジャンク屋やデブリ掃除など様々な職種を転々としたが、どれも長続きしなかった。
そして、政府の財政再建政策で軍人年金の支給が打ち切られる事になり、彼は途方にくれることになった。
だが、捨てる者あれば拾う者あり。彼はあるポスターを発見した。
「求む!船団作業員用食堂コック、三食寮完備、木星手当て付き!」
205:通常の名無しさんの3倍
07/12/23 21:46:35
>>204
そうきたかwww
206: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 21:52:22
没ネタ3 「フラナガンのマーさん」(某架空戦記からのインスパイアです)
全ての原因はテキサスコロニーでの戦闘にあったわけだが、
フラナガン機関ではマ・クベ中佐のことを「マーさん」と呼ぶようになっていた。
現役公国軍中佐のことを「マーさん」と呼ぶのはいかがなものかと思う人間もいるにはいたが、
「マーさん」と呼ぶと返事をするマ・クベ中佐にも問題があると言う意見が多数派だった。
副官のウラガンさんも以前のマ・クベ中佐より、「マーさん」の方が受け入れやすいらしく、
上官を侮辱する発言に何も注意しないので、フランガン機関の中で急速に「マーさん」が定着しつつあった。
ウラガンさんによると、撃破されたMSから奇跡的に脱出したところまでは良かったが、
打ち所が悪く(良く?)ああなってしまったそうだ。
マ・クベ中佐の思考回路は良く分からないが、
彼から見ればフラナガン機関にいる者は人の数に入っていないので平気らしい。
このような胡乱な組織に所属する人間は失格とも考えているようだ。
また、フラナガン機関には国防軍や親衛隊からも出向する者もいるのだが、
彼はキシリア派以外の軍人は嫌いなので、やっぱり人の数に入らないらしい。
そんな「マーさん」が突如として秘密作戦を立案(元作戦参謀なので)したことにより、
フラナガン機関はてんわやんわの大騒ぎになってしまう。
207: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 22:08:31
「沈黙の船団」は加筆修正を行い外伝に組み込みました。
ガトー好きな人は読まれない方がいいと思います。
>>190さん
書かぬなら、書いてしまえ、ホトトギス orz
>>200さん
初期の構想ではもう完結しているはずなんですがねぇ。
ムーンクライシスとかを入れてしまったので延長しております。
おそらく博物館のエピソードはエピローグになるかと。
まぁ、博物館で彼の人生が終わるとは限りませんが…(ボソ
208: ◆u2zajGCu6k
07/12/23 22:09:19
190じゃなくて198さんでした。
209:通常の名無しさんの3倍
07/12/24 09:11:34
>>1乙
自分、ガトー好きだからちょっとムッとしたけど最後でフイタw
これはこれですっごい読みたいw
210:通常の名無しさんの3倍
07/12/27 23:03:03
保守
211:通常の名無しさんの3倍
07/12/30 19:17:43 j0C0zrx1
保守
212: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 20:37:01
ネタが風化しそうなので今年中に投下です。
213: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 20:37:53
12.沈黙(3)
「木星船団」
熱核反応炉の燃料である木星のヘリウム3を目的とした資源採掘船団のことだ。
地球圏と木星の往復、船団の採掘による滞在期間を含めると、
三年以上の長期間に渡って辺境の地に束縛されるため、他の航路に比べると船員の募集は困難である。
そのため木星開発公団では、各地に地方連絡部(通称地連)を組織して常時船員の確保に総力を挙げている。
アナベル・ガトーが発見したポスターも彼等の努力の一部であった。
「木星か…火星に行った者もいると聞くが、より辺境の方が私には相応しいだろう」
彼は数分間ポスターを食い入るように見つめると、
意を決したように脇にあった応募用紙を手に取って足早に帰宅していった。
「採用担当:グレイ・ストーク、ハツーネ・ミクーニン」
帰宅後に応募用紙を確認した彼は、採用担当の名前に目が留まった。
この二人の名前は彼の記憶には無かったが、直感的に何かを感じ取ったのだった。
数日後、彼は面接会場に赴く事になる。
214: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:38:15
今年も最後なのでもう一つ投下します。
二時間で書き上げたので、まとまりが無いかもしれませんが。
来年も少しずつですが投稿していきたいと思います。
暖かい目で見守ってやって下さい。
215: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:40:11
「晴れた日はセイバーに乗って」(原作準拠版)
1.序章「高高度防空軍」
宇宙世紀の始まりから、地球連邦には高高度防空軍という組織が存在していた。
この時期は地球上の大半の場所でMSという新兵器が、既存の兵器体系を侵略している真最中であった。
戦車も潜水艦も航空機すらもMSの搭乗により退役に追い込まれていた。
地上で彼等の侵略に対抗できたのは前述の高高度防空軍だけであった。
MSの一部には可変機構による飛行能力が付加されていたが、未だ成層圏以上は彼等の庭であった。
MSの汎用性が証明された現在(宇宙世紀200年)では、なぜ彼等がMSの進出を拒んでいたかは理解できないだろう。
航空機開発の利権、連邦軍内での派閥抗争、MSへの偏見、後世の歴史学者はこのような理由を挙げている。
だが、現実は人々が思っている以上に陳腐なものである。
「MSでは空を自由に飛べないから」
高高度防空軍に所属していた者の大半がこのように思っていたのだ。
彼等の多くは空を飛びたいがために軍に志願していたのだ。
ミノフスキークラフトがMSに装備されるようになってからは、
批判も無くスムーズに彼等の部隊にもMSが配備されていったことからも分かる。
彼等はこうも答えたと言う。
「晴れた日にセイバー(FF-3S)で飛べなくなるなら、軍を辞めてやる」
そんな彼等が本当に翼を失ったら、どうなってしまうのだろうか?
216: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:41:59
宇宙世紀80年代後半、高高度防空軍にとある事件が発生する。
三機のセイバーフィッシュが相次いで墜落してしまったのだ。
軍の主力はMSになっていたが、航空機も貴重な存在であった。
三機のセイバーフィッシュの値段は数万人が暮らす都市の年間予算に匹敵するのだ。
また、三機は太平洋・大西洋・インド洋と全く違う場所で同時刻に墜落していた。
悪夢のような偶然が重なったのでなければ、破壊工作活動と判断するべき事件だった。
そのため、事件の究明が急がれることになり、専門の調査チームが高高度防空軍内に創設されることになった。
だが、彼等の調査によると、墜落の原因は破壊工作ではなく単純に燃料切れであるとの事であった。
事故機の搭乗員は三人ともまだ若く、無理な加速や機動を行った結果、基地に帰還するための燃料を失ったのだ。
セイバーフィッシュの高性能に魅せられた者が陥りがちになる症状だった。
調査チームはこのように上層部へ報告した。
だが、単純ミスが重なった天文学的確率だったはずの事件が奇妙な方向に動き出した。
それは調査チームが墜落機の搭乗員に事情聴取を行った時のことであった。
217: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:43:34
2.ケース1「メビウスの宇宙を越えて」
地球連邦高高度防空軍戦略諜報室
普段は航空偵察や衛星写真などから地球上に存在する、
旧ジオン残党や反連邦ゲリラ勢力の動向を調査している部署である。
いつもなら数人の調査員が常駐しているが、今この部屋にいるのは二人の男女だけであった。
「で、その三人の証言は本当なのか、少尉?」
「はい、精神鑑定の結果も正常と診断されております。これが報告書です」
副官と思われる女性から、極秘と記された資料を男性が受け取る。
「どうでしょうか、中佐?」
「三人が三人とも、自分は事故の直前にある場所に行った。
そして、そこで敵と戦ったと言っているとは。三人が口裏を合わせているんじゃないのか」
「それはありえません。彼等は事故後にそれぞれ別の場所に隔離されていました」
「異常な事件だな。だから私達に仕事が回ってきたのか」
「はい、私達のような人間が事件の解明には一番適切だと思います」
「ん、少尉、これは何かね?」
極秘資料の中に補足資料として何枚かのレポート用紙が挟まれていた。
「これは彼等が行ったと証言している、戦闘のレポートですね。
あまりに非常識なので参考程度の資料としてまとめられたようです」
「まぁ、読んでみれば分かるか」
218: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:45:26
ついに反撃の時が来たのだ。
あの忌々しいコーディネーターに裁きの鉄槌を下す日が!
我々、地球連合軍は二年待ったのだ。
宇宙と青き地球を蹂躙される屈辱に耐えた。
今、私は感激に打ち震えている!
我が愛機のTS-MA2(メビウス)には反応兵器が搭載されているのだ!
我等、ピースメーカー隊はその名の如く、平和を作り出すために出撃する。
たとえ我が身が悪逆なるザフトのMSに打ち砕かれようとも、戦友は屍を乗り越えて進撃してくれるだろう。
正義は我等にあり!
全ては青き清浄なる世界のために!
219: ◆u2zajGCu6k
07/12/31 22:46:28
「何だこれは?」
中佐は途中まで読んでいた資料を投げ捨て、少尉に話しかけた。
「地球連邦内部で流行している、地球至上主義よりもひどいですね」
「ああ、何が青き清浄なる世界だ。本当は精神に異常があるのではないか?」
「しかし、搭乗員が証言した話には矛盾はありませんでした。
彼にはその世界の政治・文化・歴史まで詳しく答えています」
「じゃあ、このコーディネーターっていうのは何か分かるのか?」
「私のように造られた人間のことです」
「…すまないことを言った」
「いえ、気にしておりません。それより、まだ調査対象は二人もいるんです。次の資料を読み進めていきましょう」
「そうだな。次はもう少しまともな証言であればいいのだが…」
220:通常の名無しさんの3倍
08/01/01 17:49:07
一人目はアナザーより種、じゃあ二人目と三人目は……
221:通常の名無しさんの3倍
08/01/01 21:42:52
三人目は確定だろう。二人目はどこかな。
222:通常の名無しさんの3倍
08/01/01 21:48:55
あ、書き忘れた。
原作準拠なら三人目は「地球上の話じゃないんだ」だよね? で、生物兵器。
223: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:20:43
3.ケース2「ボルジャーノンに花束を」
「次も妙な思想を語っていたら、もう報告書は読まないぞ」
「次の調査対象は…最初の搭乗員よりも理解はしやすいですね。ただ…」
少尉はペラペラと資料をめくりながら答えた。
「ただ、何なんだ?」
「彼はソードフィッシュという機体に乗っていたそうです」
「名前は似ているじゃないか」
「名前は似ているのですが…その機体は複葉機なのです」
「複葉機? まさかプロペラがある骨董品のことか?」
「はい、そのまさかです。しかも、彼はそれでMSと戦ったと証言しています」
その言葉に中佐は興味を持ったらしく、二人目の資料に目を通し始めた。
224: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:21:53
「コンターク(点火)!」
整備兵が大声を上げて、プロペラを回しエンジンを始動させた。
滑走路上には私の機体も含めて、合計12機のソードフィッシュが離陸しようとしていた。
これらの機体は先行するスエサイド部隊の近接航空支援を任されている。
目標は宇宙人の機械人形。相手にとって不足は無い。
それにしても、部隊名が自殺とは笑えない冗談だ。
まぁ、発掘された機械人形に命を預けるのだから、自虐的になるのも無理はないか。
今日はその機械人形が実戦で使えるかを判断するための作戦だ。
私達は空の上から高みの見物といきたいものである。
225: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:23:40
「敵機械人形三機を視認!」
後部座席の偵察員が報告した。私も地平線の先に巨大な移動物体を発見する。
私は即座に手元にあった信号弾を発射し、編隊に作戦の開始を告げた。
「機械人形が噴進弾を発射しました!」
敵も私達を発見したらしく、お得意の遠距離攻撃を開始したみたいだ。
数十発の噴進弾が私達の編隊に迫ってきた。
だが、ソードフィッシュの運動性ならば、あの程度の攻撃を回避するのは容易い。
問題は敵との距離はまだ遠く、私達は敵の頭上まで行かないと攻撃できないのだ。
敵に近づくにつれて、第二波、第三波の噴進弾が襲ってきた。
ついに編隊からも撃墜される機体が出てしまう。
ようやく敵が射程距離にはいったと思った瞬間、私達に悲劇が訪れた。
その時、私は機械人形が光ったとしか認識できなかった。
226: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:25:03
「第二小隊全滅!」
偵察員の悲痛な声に後ろを振り返ると、第二小隊は空から消失していた。
熱戦兵器!
宇宙人どもの切り札だ。幾多の戦友があの悪魔の光に焼かれていった。
対処方法は射程外に逃げるだけ。
攻撃のチャンスを失った私達にできることは他に無かった。
しかし、私達の犠牲は無駄にはならなかった。
空中に気を取られた機械人形は、スエサエド部隊の攻撃に対応できなかったからだ。
先陣を切ったのは、同期のギャバン・グーニーの機体であった。
彼のボルジャーノンは他の機体と形状が異なるので判別がしやすかった。
「嘘だと言えよ、グーニー」
思わず声が出てしまう。戦闘はあっけなく終わった。
近接戦闘を強要された敵の機械人形は、スエサエド部隊に殲滅されてしまったのだ。
もはや航空機の時代ではないかもしれない。
私は帰還途中の機上で、転属願いを出すかどうかを悩み始めていた。
227: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:26:31
「こいつの空戦機動は悪くないな。私の部下に欲しいくらいだ」
中佐は資料を読み終えるとそう語った。
「そうですね。あと何年か経てば、良い搭乗員になれたと思います」
「だからこそ残念だ。莫迦正直にこんな証言をしなければ良かったものを…」
「はい、彼等は良くて地上勤務、悪ければ軍を除隊となるでしょう」
「それにしても、この異常な世界には呆れてしまうぞ。
科学技術は西暦レベルなのに、MSが運用されているとは」
「彼の証言したボルジャーノンという機体は遺跡から発掘されたようです。
また、この機体は証言された形状を考えるとMS-05Bと推察されます」
「なあ、少尉。今度の休みは基地の裏山に発掘しに行かないか?
もしかしたら、私達も遺跡からMSを発見できるかもしれないぞ」
「私としては、連邦で余り始めているジムを埋めてあげたいですね。
私達にとっては旧式機でも、何千年後の人々には重宝されるでしょう」
二人はひとしきり笑うと、三人目の資料に手をつけ始めた。
228: ◆u2zajGCu6k
08/01/02 20:30:28
投下終了です。
皆様、新年あけましておめでとうございます。
今年の目標は執筆速度の向上を目指したいです。
今回の話には新春特別ゲストとして旧ザクさんを出演させてみました。
>>222さん
原作に完全準拠とはいきませんが、三人目はそれを予定しております。
資料探しが非常に面倒なことになっておりますがね…
229:222
08/01/02 22:31:39
>228 楽しみにしてます。
というか、あすこは普通に宇宙世紀と繋がっててもおかしくないですな、設定上。
230: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:34:31
4.ケース3「ペガサスの星矢」
「三人目はまだまともだな。ペガサス級強襲揚陸艦に乗って戦ったようだ。
何というかこれは英雄願望の顕在化が原因なのかな?」
「いえ、中佐。その認識は間違いです。彼は文字通りの意味でペガサスに乗ったと証言したようです」
「文字通りって…空を飛ぶ馬のことを言っているのか…」
「そのようです。ギリシャ神話に登場する伝説の生物のことですね」
「ロートルの私には理解できないかもしれんぞ…」
「安心して下さい。彼の資料には補足が付いていました。
ありがたいことに、あれこれと用語の解説までつけてあります。
この資料をまとめたメンバーの若手にその手のマニアがいたそうです」
中佐は仕方なくであったが、三人目の資料を読むことにした。
231: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:36:52
自分が何者で、一体どこにいるのか、そのときの私には良く分かっていた。
手綱や装具、そして私自身と<彼>の差し渡し24キュビット(注1)にもなる翼が、
大気を切り裂くことで発生する風切音に全身を包まれていたからだ。
私は<ペガサス>に乗って祖国ラクロア王国(注2)を遥かに離れたムンゾ海の上空を飛行中であった。
私がこんな辺境の空を飛んでいるのには理由があった。
今年の第三月、ちょうどハヌカの時(注3)にそれは起こったのだ。
ジオン族は彼等の国に行商や国務で滞在していた我々の同胞を突然拘束。
彼等はレビル王(注4)に対し、ククルス湖周辺(注5)の王国軍の撤退とドアンの町の割譲を要求した。
我々がその要求を認めるわけにもいかず、交渉による人質の解放を図ったが、
ジオン族は交渉など問題外とし、ラクロア王国に宣戦を布告した。
彼等はここ二日、偉大なる闇の皇帝に奉ずる踊りを続けているらしい。
これは彼等の風習で三日目の夜に人質を祭壇に捧げるのだ。
もはや一刻も猶予は無い。レビル王は我等ラクロア王国騎士団に出撃を命じたのであった。
注1:長さの単位、1キュビット=約50cmであるらしい
注2:スタ・ドアカ(彼の証言した世界の名前)に存在する王国。人間とMS族が一緒に暮らしているらしい。MS族の中のジオン族とは対立している。MS族とは亜人の一種。
注3:ユダヤの祝祭日と同じ意味か? 光の祭のことらしい。
注4:ヨハン・エイブラハム・レビル氏のことであるようだ。
注5:ラクロア王国とジオン族の間で領土問題になっている。
232: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:37:52
「―さん、パパを助けて」
私が出撃しようとする直前、一人の幼い少年が現れた。
彼は隣に住んでいるジム・ヘンソン一家の長男であった。
「坊や、パパはおじさんが必ず助ける。安心して待っていなさい」
ジオン族はその首都に濃密な対空迎撃網を構築している。
人質を救出するため(注6)には、その対空迎撃網が邪魔であった。
具体的には、人質が監禁されていると思われるティターンの塔周辺に配備されている、
呪術士メッサーラ率いる対空魔導大隊(注7)、騎士バウ等の空中騎兵中隊(注8)である。
これらの部隊を撃破できない限り、人質の救出は不可能であろう。
逆に言えば、この二つの部隊を撃破してしまえばよいのだ。
我々はジオン族が儀式に没頭している間に奇襲する。
踊り狂っている彼等の頭上に流星の如き矢を降らせるのだ。
全ての準備はできている。あとは私が訓練通りの結果を出せるかどうかだ。
敵首都まではもう間もなくだ。騎士に二言は無い。
幼い少年のためにもこの作戦は成功しなければならないのだ。
注6:彼等はペガサス数匹に牽引させた気球で人質を救出する作戦であった。
注7:魔法を使用した対空迎撃部隊。
注8:ラクロア王国とは違い、ドダイ(?)に乗っているらしい。
233: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:39:02
中佐は資料を閉じて少尉に向かって話し始めた。
「かくして、彼等はこの現実に立ち戻ったというわけか」
「中佐、何とかできないものなのでしょうか?」
「無理だな。下手をすると私達の立場すら危うくなる」
中佐は冷酷な声で告げた。その時、外の滑走路から大音響が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「あれは新型のコアブースター改造機ですね。通称ワイバーン。
ラムジェット・エンジンと核融合ロケットを追加したものです」
中佐は何か気に触ったらしく、腹を立てたように言い捨てた。
「あの三人を助けてやりたいのは私も少尉と同意権だ。
だが、私も自分が一番かわいい。こんな性格が嫌になってしまう」
「仕方ないですよ、あんな証言は誰も信用しません」
「同じ経験をしたやつなら信用するさ」
234: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:40:39
「中佐!」
少尉は声を上げた。地球至上主義が流行してからは、
どこに盗聴器が仕掛けてあるか分からない。滅多な事を言うべきではないのだ。
「少尉、私はね…」
中佐はひどく真剣な目をしながら言った。
「この一年で、ようやく私が一年戦争でザク・キラーだという現実に慣れてきたんだよ。
この世界に地球連邦とジオン公国という奇妙な国があるという現実に」
「中佐…私も同じです。軌道エレベーターは無いのにスペース・コロニーだけは沢山あり、
地球上にはユニオンもAEUも人類革新連盟すら存在しない現実に慣れてきました」
「おまけにガンダムは私達の味方という話じゃないか!」
「彼等は苦しむでしょうね…」
「ああ、彼等の世界はここじゃないだからな。彼等は…」
中佐は机の脇に放り出していた資料を手に取りながら嘆いた。
「こんな晴れた日に、もう一度空を飛べたらと思い続けるんだろうな」
235: ◆u2zajGCu6k
08/01/05 00:47:06
投下終了です。これでこの短編は終了です。
この年になってカードダスを引っ張り出すとは思いませんでした。
今後の予定ですが。
短編の「沈黙」の続き
途中で停滞している本編第一章の続き
思いついた短編
こんな順番で書いていこうと思っております。
あと今年の目標として、リクエストされたものも書きたいと思います。
何か面白そうなネタが浮かびましたら書き込んでみて下さい。
236: ◆u2zajGCu6k
08/01/11 20:37:53
12.沈黙(4)
木星船団で最も必要な職業は何であろうか?
それは娼婦とコックである。
前者は有史以前からある職業で、極端な男性社会の木星船団では必要不可欠な存在だ。
余談であるが、木星船団に参加した彼女等は船長の数倍を稼ぐと言われている。
後者のコックであるが、これも木星での過酷な生活環境と密接に関係している。
木星では娯楽はほとんど無いと言っていい。本を読もうにもあるのは数年前の古雑誌のみ。
ゲームといえば古典的なカードゲームや将棋など。あとはどの世界にもあるギャンブルだ。
そして、毎日の労働は厳しいものである。彼等の楽しみは必然的に食べることだけになってしまう。
こんな環境で不味い食事を出そうものなら暴動が起きてしまうだろう。そのため、腕のいいコックは必須なのだ。
アナベル・ガトーは意外にも料理が上手である。
月面潜伏時代には、人目につかぬように食事は自炊していた。
また、地上に派兵されていた時には、司令官でありながら一般兵と同じ食事を作り共に食べていた。
彼なりの人身掌握術なのだろうが、料理の腕前を上げることに一役買っていた。
このような経験があったため、彼はコックに応募したのだ。
237: ◆u2zajGCu6k
08/01/11 20:38:56
12.沈黙(5)
面接会場であるオフィスには既に数人が順番を待っているようだった。
誰もが一癖ありそうな雰囲気であった。
ガトー自身も黒いスーツを着ているので、知らない者が見ればその筋の人物に見えるだろう。
何分かすると奥の別室から呼び出しがあった。
「―さん、面接会場にお入り下さい」
「は、はい!」
ガトーは何秒か反応が遅れてしまった。
さすがにアナベル・ガトーという名前は、良い意味でも悪い意味でも有名なので偽名を使ったのだ。
これからは偽名で過ごすのだから、慣れておくべきだなと彼は思っていた。
「失礼する!」
そこに見知った人物がいるとは知らずに、彼は勢い良く面接会場に入っていった。
「ガ、ガトーのおっさん?」
「まさか、ジュドー・アーシタか!」
二人は十数年ぶりに再会したのであった。
238: ◆u2zajGCu6k
08/01/11 20:41:19
投下です。
木星船団がまだ発進しません。
そろそろ彼も登場させたいところです。
239:通常の名無しさんの3倍
08/01/11 20:51:15
お、来た来た。
240:通常の名無しさんの3倍
08/01/12 15:35:11 ISqTjxTw
ああwktkが止まらん!
241:通常の名無しさんの3倍
08/01/12 23:40:00
「失礼する!」
ワロタ
242: ◆u2zajGCu6k
08/01/13 20:58:53
LV0~MAXのガイドライン
LV0 旧ザク?どうせ典型的なザコMSだろ?どうでもいいよ…
LV1 一週間戦争では結構活躍してるな。てか、なんでア・バオア・クーでも使ってるの?
LV2 スナイパータイプはまあまあだな。キャルフォルニアベース戦なんかダックインしてて結構いいかも。
LV3 旧ザクって開発当時はいい性能じゃね?まさにMSの先駆って感じ…
LV4 旧ザク、小型でかわいいな。動力パイプ内蔵式もいい…
LV5 旧ザクって別に対MS用じゃないのにMS扱いされてて弱え。旧ザク死ね!
LV6 旧ザク結婚してくれ!
LV7 やべぇ旧ザク最高!旧ザクと水さえあれば生きていける!
LV8 旧ザクと結婚した!俺は旧ザクと結婚したぞ!!
LV9 やっぱ武装は105mmマシンガンだわ
MAX
,,.-‐¨ ̄ ̄`::::..、、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
!:::;;.'' ¨ ̄Ж ̄ ¨'' 、:ノ
ゝL=ニニ二二ニ=」
| ,,-‐‐ ‐‐-、 .::::| 正面にガンダムだ!
| 、_(o)_,: _(o)_, :::|
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243:通常の名無しさんの3倍
08/01/14 00:10:17
皆さんは知らないかもしれませんが、このスレの初代職人さんのログをまとめてた初代スレの1です。
パソコンがぶっ壊れてデータが消え、まとめの更新に黄色信号がともりました。
これからなんとかなるか考えます。ただ現状で先代職人さん分の過去ログは契約してる限り残っているのでご安心を。
さしあたりの挨拶として今までありがとうございました。
244:通常の名無しさんの3倍
08/01/16 14:02:35 +ViATOwf
保守上げ
245:通常の名無しさんの3倍
08/01/17 08:43:54
>>263
お疲れ様です。
楽しみにしています
246:通常の名無しさんの3倍
08/01/17 08:53:23
>>263
乙
247:通常の名無しさんの3倍
08/01/18 14:45:28
乙保守
248: ◆u2zajGCu6k
08/01/19 18:52:42
諸事情により執筆が遅れております。
週に一度は投下したいので、以前書いた没ネタを投下します。
>>263
まとめの更新、お疲れ様でした。
オデッサ戦の職人の方も復帰してくださると嬉しいですな。
249: ◆u2zajGCu6k
08/01/19 18:55:54
没ネタ4:武装親衛隊概略
ここで記す親衛隊とはギレン・ザビが設立させた組織のことである。
親衛隊というと優秀な人材や兵器を集めたエリート部隊と考えがちであるが、
地球侵攻作戦以後は戦線の異常な拡大を受け、急増の現地師団が全親衛隊の半分以上を占めている。
書類上では師団規模の部隊とされているが、実際には大幅な水増しがされており多くても独立混成大隊規模であった。
基本的に義勇・武装が師団名に付く部隊は、地球で徴兵された者で構成されている。
これらの師団は訓練の水準も指揮も低いため戦力としてはあまり役に立っていなかった。
以下は親衛隊で編成された師団の概要である。
第1SS装甲師団 LGZ(開戦前から創設された部隊、エギーユ・デラーズが指揮)
第2SS装甲師団 ダス・フェルステントゥーム(一年戦争の主要な戦場に参加している)
第3SS装甲師団 トーテンコプフ(ブロッケンの徽章で有名)
第4SS警察装甲擲弾兵師団 ポリツァイ(本土の警察官を徴用した)
第5SS装甲師団 ヴィーキング(デンマーク出身者で構成)
第6SS山岳師団 ノルト(ノルウェー出身者で構成)
第7SS義勇山岳師団 プリンツ・オイゲン(優性人類生存説の信奉者が多い)
第8SS騎兵師団 フロリアン・ガイアー(バルカン半島出身者で構成)
第9SS装甲師団 ホーエンシュタウフェン(バイコヌール宇宙基地防衛戦で活躍)
第10SS装甲師団 フルンツベルク(MS-09が配備された数少ない部隊)
第11SS義勇装甲擲弾兵師団 ノルトラント(オデッサ防衛戦を戦い抜いた)
第12SS装甲師団 総帥青年団(ア・バオア・クーに配備されていた)
第13SS武装山岳師団 ハントシャール(一年戦争末期の地上で反乱を起こした)
第14SS武装擲弾兵師団 ウクライナ(祖国独立のために地球連邦軍と戦った)
第15SS武装擲弾兵師団 ラトビア(三流部隊のため陣地構築の任務を行った)
第16SS装甲擲弾兵師団 公国総帥(師団名称にもかかわらず、人員不足のため戦闘参加はしていない)
第17SS装甲擲弾兵師団 鉄腕ゲッツ(師団名は中世の騎士の名前である。貴族を名乗る者が多かった)
第18SS義勇装甲擲弾兵師団 サスロ・ザビ(凶弾に倒れたザビ家次男の名を付けている)
第19SS武装擲弾兵師団 レットラント(対パルチザン戦に従事していた)
第20SS武装擲弾兵師団 エストニア(エストニア出身者から構成)
第21SS武装山岳師団 スカンデルベク(最悪の親衛隊師団)
第22SS義勇騎兵師団 マリア・ピァ・アーモニア(サイド2の生存者を強制的に徴兵)
第23SS武装山岳師団 カマ(イスラム教徒による部隊、狂信的な攻勢で壊滅的な被害をこうむった)
第23SS義勇装甲擲弾兵師団 ネーダーラント(カマの全滅後に再編成された師団)
第24SS武装山岳猟兵師団 東方弾幕大隊(親衛隊本部直属の督戦部隊、巫女や魔女を自称する異端者の集団)
第25SS武装擲弾兵師団 フンヤディ(丸腰同然の装備でオデッサ戦に突入した)
第26SS武装擲弾兵師団 ハンガリア(ハンガリー出身者で構成)
第27SS義勇擲弾兵師団 ランゲマルク(一年戦争を通じて三度も全滅した部隊)
第28SS義勇擲弾兵師団 ヴァロニェン(ランゲマルク師団と共に行動、こちらは全滅を免れている幸運な部隊)
第29SS武装擲弾兵師団 RONA(反連邦感情が強いロシア地方で編成された。ワルシャワ蜂起での蛮行によって解散)
第29SS武装擲弾兵師団 ミリシャ(アメリカ人義勇兵による武装民兵組織)
第30SS武装擲弾兵師団 エル・ラン(エル・ラン将軍による亡命部隊)
第30SS武装擲弾兵師団 ベルローシ(独自の行動を行っていた。政治的背景から師団としている)
第31SS義勇擲弾兵師団 クロアチア(オデッサ敗北後に編成された)
第32SS義勇擲弾兵師団 1月30日(親衛隊最後の補充兵力であるMS教導大隊を主力とした部隊)
第33SS武装騎兵師団 シャマルーニュ(別名ヴォルケンリッター)
第33SS武装擲弾兵師団 シャルマーニュ(上記の部隊と混同しやすいが、こちらはフランス出身者で構成)
第34SS義勇擲弾兵師団 ラントシュトーム・ネーダーラント(オランダ出身者で構成)
第35SS警察擲弾兵師団 ヴィアート(ア・バオア・クー戦前に急遽編成された)
第36SS武装擲弾兵師団 ディルレヴァンガー(一般犯罪者、亡命者、政治犯などで構成されており一種の懲罰部隊であった)
第37SS義勇騎兵師団 リュツォウ(国内の市民権を持たない者から構成)
第38SS擲弾兵師団 ニーベルンゲン(所謂学徒動員部隊)
250:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/01/20 12:39:49
>>250
頑張り過ぎ&面白過ぎ
ガトーがコックって、ドーピングコンソメスープ作りそうだなwwww
251:通常の名無しさんの3倍
08/01/20 21:16:53
オデッサのは面白かったなぁ・・・
グフ飛行型の話は良かった。
オリキャラの使い方は巧かったから続けて欲しかった
252:通常の名無しさんの3倍
08/01/23 14:16:13
ただ大体未完で終わってなかったっけ?
職人カムバック!
253:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:39:36
『次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 』
二コロ・マキャベリ『政略論』より
0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地
物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。
254:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:40:51
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーベンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。
255:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:41:18
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。
256:キシリアの死 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 18:42:10
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。
ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』も発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。
257: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/25 19:08:19 5s5KzsAB
とりあえず、ここまで
大変ご無沙汰しております。
遅くなってしまい申し訳ありません。
個人的に忙しく、時間が取れなかったが故に遅くなりました。
にもかかわらず、待ってくださったこと、本当にありがとうございます。
現在もなお、多忙であるため亀のごとき速度で更新と話の展開を進めて参りたいと思います。
とりあえず、オデッサの冒頭で触れた「キシリアの死」を描きます。
オデッサ脱出編は、その内、一部修正して同時並行で再開したいと思います。
なにせ展開を忘れてしまったり、SS自体久しぶりなので・・・
内容や感想でアドヴァイスがあれば幸いです。
>職人さん
思いっきりファンです。
沈黙のガトーの展開が凄く楽しみです
>保管さん
お疲れ様です。
ありがとうございます!
258:通常の名無しさんの3倍
08/01/25 22:13:16 vb9Vvnq4
今、テレビで「議連会長」って言っててビックリした
「ギレン会長」かと思った
259:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 01:37:20
>>243
何時も乙。
某まとめwiki……いやなんでもない。
アレがらみだから、あそことは関わらない方が良いだろう。
でも、真似する手もあると言うことで。
260:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/01/26 01:46:56
待ちかねてました。
佐藤御大の文体を研究し尽くした文章と展開、wktkして待ってます。
261: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:20:05
12.沈黙(6)
「ガトーって、教科書にも載っていたあのソロモンの悪夢のこと?」
ハツーネ・ミクーニンことルー・ルカがジュドーに尋ねた。
「ああ、地上で戦っていた時、基地の司令官だったアナベ」
「私はアナベル・ガトーという人物ではない!」
質問に答えていたジュドーを遮るように、ガトーは声を張り上げ宣言した。
「いやいや、どこから見てもガトーのおっさんじゃ…」
「断じて人違いである!そこの履歴書を見てみろ!」
彼が指差した履歴書を見ると、そこにはガトーではない違う名前が記載されていた。
「バトーさん?」
「そうだ。私の名はバトーである!」
面接会場でひと悶着があったが、結果から言えばガトーは即座に採用された。
ジュドー・アーシタは彼がコックとして応募してきたことに疑問を覚えたようだが、
MSを操縦できる人材は貴重だったので採用することにしていた。
明らかに偽名を使っていたが、ジュドー自身も偽名なので人のことは言えなかったのだろう。
とにかくガトーは木星行きの切符を手に入れることができたのだ。
262: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:23:11
没ネタ:5 マゼラ・カノーネ
マゼラ・アタックとはジオン公国軍の地球降下作戦に先立ち、MSの補完兵器として開発された車両である。
ジオン公国宣伝省によれば、戦闘能力は地球連邦軍の61式戦車を大きく凌ぎ、
戦術や環境によってはザクに匹敵すると発表されていた。
だが、実際の戦場では欠陥兵器であることを露呈してしまった。
砲塔部の装甲は分離・飛行を可能にするために限りなく薄くなり、
連邦軍の野砲にすら耐えられない構造であった。
また、マゼラ・アタックの全高は6.8m(61式戦車の二倍以上!)であり、
視認性の低さが要求される戦車としては全くの欠陥品であった。
そのため、一年戦争後半までには多くの車両が撃破されていた。
特にマゼラ・トップの損害が激しく、車体部のマゼラ・ベースだけの車両が多数確認されている。
この状況に対して現地部隊は、補給の悪化もありマゼラ・ベースを基幹とした再生兵器を製造することになった。
この再生兵器の中で有名なものにはザク・タンクがある。
撃破されたMSと車両を再利用したザク・タンクは工兵部隊で重宝されていた。
そして、一連の再生兵器の中で最も異色なのはマゼラ・カノーネという車両であった。
この車両は名称にカノーネとあるように、マゼラ・ベースへ鹵獲した61式戦車の150㎜砲を装備させたものである。
弾薬等は占領下のキャリフォルニア・ベースに多数存在したので、車両の多くは北米大陸で運用されていた。
一年戦争末期には一部の部隊が、ルナ・チタニウム合金を弾体とした装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使用し、
RX-79(G)すら撃破するという戦功を挙げている。
一年戦争後、この車両を鹵獲した連邦地上軍では、マゼラ・カノーネの完成度の高さに驚き、
対抗兵器として試作に終わっていた74式戦車の量産を決定している。
URLリンク(hell.2ch.ru)(マゼラ・カノーネ?)
263: ◆u2zajGCu6k
08/01/26 15:32:31
投下終了です。
没ネタのURL先ですが、ロシアの新型戦車らしいです。
時代がマゼラ・アタックに追いついてきたよ…
>オデッサ戦の職人さん
自分がSSを投下するきっかけになったのが、前スレのSSでした。
復帰してくださって本当に嬉しいかぎりです。
これからも作品の続きを楽しみにお待ちしております。
264:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 15:42:54 mvgmQ5tu
神帰還
265:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 15:48:08
いや、自分で自分を神って呼んでageなくてもいいから
266:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:13:49
おお、戻ってたのか
乙
267:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:22:07
つまんないから、帰れ
268:267
08/01/26 16:23:57
ていうか今更戻ってもねぇwww
269:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:37:44
キシリアの死いいな
これからも頑張ってくれ
270:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 16:38:02
>>267-268はツンデレ。
無視すればよいものを一々書くところからも寂しかったということが見て取れる。
271:通常の名無しさんの3倍
08/01/26 20:07:44
おかえり
お二方ともがんばって
272: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:29:41
ご批判を頂戴し、内容を読み返したところ、
わかり難く、面白くもないなぁと反省したので冒頭を加筆して、修正してみました
273:キシリアの死:改訂版1 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:31:02
序
「はい? 目の前はどんな感じだったって?
え~、口で言ってもわかるかなぁ。とにかく、すごい数の砲火でした。有名な映画『ニューヤーク決戦』のセリフで 「砲弾が7分で空が3分」
なんていうセリフがありますが、そんなもんじゃなかったです。ええ、ニューヤーク上空が深夜にもかかわらず紅く染まるくらいでしたから。
いやぁ、その時の憤りといったら、なんとも。周りにいた人間全てが鼻息荒立てて、突撃開始をまだかまだかと待ってましたから。
戦闘詳報作成の為に空母の艦橋に上がってた私なんかでさえも、震えで文字が書けませんでしたからねぇ。
地上に視察に来ていたキシリア少将が戦死した直後の気分は一生忘れることはできんでしょうなぁ。
え? どこの艦の艦橋かって? あんた、人の話聞いてたんですか。<デュッセドルフ>ですよ、<デュッセドルフ>。<ガウ>級攻撃空母9番艦。
いい空母でしたよ。この作戦のあとで他の空母群といっしょにキャリフォルニアベースに帰還したんですが、そのあと損傷が酷くて廃艦になっちゃいまして。
ああ、それで旗艦<キャリフォルニア>から突撃命令が出たんです。「今コソ仇ヲ討チ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!」ってね。
泣かしてくれますねぇ。で、待ってましたとばかりにガルマ大佐は木馬に突入していったわけです。そのあとは………」
――ある老人の回想 0094年、アンマンにて
「次のことは明言しておきたい。すなわち、危険というものは、それがいまだ芽であるうちに正確に実体を把握することは、
言うはやさしいが、行うとなると大変にむずかしいということである。 」
――二コロ・マキャベリ『政略論』より
274:キシリアの死:改訂版2 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:32:10
0094年12月25日 アンマン宇宙港
老人は饒舌だった。
彼は、今、戦記作家のインタビューにアンマンの宇宙港ラウンジで応じていた。
そして、彼はキシリア戦死時の<デュッセドルフ>の第一艦橋にいた男である。
週刊誌記者と兼任の駆け出し作家は、ところどころとちるものの、老人は機嫌がよかった。
「ええ、そうです。地球圏から逃げ出すんです。便利なもので、グラナダから木星船団に便乗するんですよ。
ジャミトフ紛争、その後のグリプス戦役でほとほと嫌気がさしましてね。」
老人は水を飲んだ。
「デラーズ・フリートでの毒ガス作戦に参加したことで、縁者もいないのでスッキリしたものです。
え?そりゃ、反対しましたよ。でも個人の力など、組織では小さいものです。
結局はムサイの艦橋からサイドⅡへのG3注入を指揮していました。
今覚えば、独立戦争でキシリア大将が亡くなった時に気がついておくべきだったんですけどねぇ・・・
ああ!失礼、少将閣下が戦死することになったのは、ご存知のようにガルシア閣下の報告、
というよりも雑談のせいだったんです。あれは79年の9月の終わりのことでした・・・」
老人は話を戻すと回想を始めた。
275:キシリアの死:改訂版3 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:32:47
0079年9月27日 ジオン公国軍グラナダ基地
物事というのは、たわいもないことで動くこともある。
その日、戦略海洋諜報部隊(SSIC)ガルシア・ロメオ少将は定時報告のために、
グラナダの突撃機動軍(AMCOM)司令室を訪問した。
「ガルシア・ロメオ、入ります!」
「ン、どうぞ」
キシリアが応じる。
正直、キシリアはガルシアの俗物的な部分の多さが好きではない。
いわゆる、迂闊な男なのだ。
ガルシアは、軍事的能力についても疑問符がついていた。
彼は、6月の第一次ジャブロー侵攻作戦の責任者だったが、それに失敗していたからだ。
MS80機で遮二無二に陸路で密林に突っ込んだ挙句、ジャブローの入り口を発見できずに迷い込み、
対MS歩兵、トーチカ、戦車に兵力をすり減らした挙句、撤退に追い込まれたのだ。
しかし、キシリアは、ガルシアの実務的な処理能力は買っていたので、戦略海洋諜報部隊(SSIC)の第三部長に転出させたのだった。
彼がキシリアを訪問したのは、第三部長の任務であるインテリジェンスの収集の現状と改善案の報告のためであった。
「・・・という方針で、準備させたいと思います」
「そうですか。結構です。」
キシリアは、ガルシアの報告に軽く頷いた。及第点ということだった。
しかし、キシリアは不審に思った。ガルシアが退出しようとしないのだ。
「何か?」
彼女の言葉は軽い叱責を含んでいた。
276:キシリアの死:改訂版4 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:33:22
「はぁ・・・あ、その・・・ですな。少将は北米での醜聞をご存知で?」
いいにくいことだが、言ってみたい誘惑にとらわれた物言いだった。
ガルシアは、幾分かにやけてもいた。
「不明瞭な物言いはやめよ。私の好みではない。重要だと思うことなら遠慮なく申せ。」
「あぁ・・・ご存じない様でしたか!それがですな・・・」
ガルシアは、キシリアの苛立ちを理解していないのか、いささか嬉しそうな説明を始めた。
曰く、地球攻撃軍(EACOM)司令のガルマ・ザビ大佐が、ニューヤーク前市長の令嬢のイセリナに懸想している。
どうも、イセリナ嬢も、ガルマ大佐を憎からず思っているようである。互いに結婚がどうの、というところまで盛り上がっているようである。
しかし、エッシェンバッハ前市長は、親連邦の立場ゆえに反対している。
それで二人は・・・
そういう説明だった。
「初耳だな・・・事実か?」
キシリアは驚いていた。その事実と、そうしたゴシップが彼女の耳に入らなかったことに。
「まぁ、無理もないでしょう。恋が始まったのは一ヶ月前ですし、まだ北米軍団の一部でしか知りません。
私も北米から本国に転任になった過去の部下から聞いた話ですし・・・勿論、裏も取っています。
何より、キャリフォルニア・ベースからニューヤークなんて小さな基地に地球攻撃軍司令部を転地したことがよい証拠です。」
ガルシアは胸を張った。張ることでもないのだが。
「宜しい。ガルシア・ロメオ少将、お疲れ様でした。」
「・・・ハッ!」
キシリアは緘口令をガルシアに指示すると下がらせた。
まだ何か話した気であったが、彼女は無視した。
そして、グラナダ基地司令ルーゲンス少将とマクベ大佐を秘匿回線で呼び出した。
277:キシリアの死:改訂版5 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:34:08
0079年10月01日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地
「姉上が?」
ガルマ・ザビは副官のダロタ中尉の報告に驚いた。
キシリアが地球視察のスケジュールを繰り上げた上、最初に自分のところに来るという。
「ほう、それは嬉しいな。もう半年もお会いしていないからな。」
姉の自分への評価は厳しいが、親身ゆえの厳しさも幾分かあったからガルマは素直に喜んだ。
しかし、ダロタの顔は暗い。
「・・・それがですね。理由、気になりませんか?」
「姉上のか?ドズルの兄上との初の共同作戦である、コロニアル作戦の督戦のためではないか?
いよいよ突撃機動軍と宇宙攻撃軍の統合運用に本腰ということだろう。」
「いえ、それが、どうもエッシェンバッハのお嬢様のことではないかと・・・」
ガルマは色を失った。
「まだ、姉上に説明していないのだ。どうしたものか・・・」
「結婚の申し込みをして、ジオンの頭目の息子に娘をやれるか!とまで言われてますしね」
「それを言うな」
ガルマは苦笑した。彼は度量の大きい人物だった。それが長所でもあり短所でもあった。
若さゆえに、短所が大きいように見えているだけだった。そして、彼は思った。
``しかし、これはよい機会だ。そう思おう。姉上に認めてもらえればよいのだ。
そう、木馬と白い奴を姉上の目の前で捕まえるチャンスではないか``
「ま・・・それよりも木馬のほうが問題だな。奴はどうした。」
「ハッ!D-57ポイントに移動中であります。山脈越えをして西部に向かうようです」
「させるか!グレートキャニオン周辺の地上部隊を掻き集めろ!我々も機動一個中隊で出撃する。シャアにも伝えろ!」
この日のガルマの第三次木馬攻撃は失敗に終わった。
278:キシリアの死:改訂版6 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:35:09
0079年10月03日 ジオン公国軍ニューヤーク駐屯地、滑走路
ここは、かつてジョン・F・ケネディ空港と言われた区画である。
ザンジバル級機動巡洋艦「マダガスカル」は東南の方向から、そこに滑空してきた。
出迎えるのは北米の将星達である。
言うまでもなく筆頭はガルマ・ザビ大佐。その隣には、キャリフォルニア・ベース司令ゾム少将。
北米航空集団司令、マノク中佐。そして、その後ろに控えるダロタ中尉と各軍の参謀たち。
「マダガスカル」は轟音を響かせながら、しなやかに着陸した。
着陸した「マダガスカル」のハッチからタラップが伸びるとボースンズ・コールが流れた。独特の笛が鳴り響く。
そして、先に下りた護衛官に続いてあらわれたキシリア。
「キシリア・ザビ少将閣下に敬礼!」
ガルマが叫び、一斉に武官たちは敬礼した。
答礼したキシリアは、儀礼的な挨拶を各武官とするとガルマに向き合い、話があるといった。
0079年10月03日 ニューヤーク市 「ブラウ・ホテル」
「ブラウ・ホテル」はかつての老舗ホテルをジオン軍が買い取った高級将校用ホテルの一つである。
現地の人間の反発を買いすぎず、占領軍の威厳を損なわないようにということで選ばれたホテルである。
「ブラウ・ホテル」の由来は、信号弾"青"『公国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。諸君ノ奮闘ヲ期待スル』
が、第三次地球降下作戦の際に落下し炎上騒ぎを起こしたことによる。
その一室に、ガルマはニューヤークでの居を構えていた。
そこにガルマは、それまで彼女の『本題』を発しなかったキシリアを招き入れた。
勿論、各種の戦略調整の会話や上司としての査問や叱責はあったが。
ガルマはコーヒーを入れるとキシリアに差し出した。
「うん?甘すぎるな。」
キシリアは顔を顰めた。
「ここは、それが普通ですよ。砂糖と炭水化物の国とは、良く言ったものです。
その分、運動すればいいという考えなのです。」
「フン、まぁいい。それで、本気なのか?」
「はい」
ガルマは背筋を伸ばした。今更後には引けない。
279:キシリアの死:改訂版7 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:37:22
「占領行政、兄上の戦略、家名、そういったことへの影響は考えたのか?」
「はい。私と公国には彼女が必要です。兄上がなんと言おうと私は貫きます。
それに、むしろ、彼女の存在は占領政策にとって有効です。
私と婚約することでジオンと北米の融和の象徴にもなるでしょう。
父親のエッシェンバッハを押さえつける材料も、まもなく手に入ります。」
ガルマは、ソファのキシリアを見据えるとはっきり述べた。
エッシェンバッハは、かつて北米州大統領選挙に何回か立候補したこともある男だった。
彼は、その時に培ったネットワークを使って連邦への情報協力、ジオンへの抵抗活動を支援・維持していた。
ガルマは、徹底的に原住民への融和政策を行うことで、ようやくその尻尾を掴みかけていた。
しかし、それも旧フォートノックス、連邦準備銀行に残された金塊を使ってのものだから必ずしも褒められたものではないかもしれないが。
「私には理解できんな・・・だが、少しは安心した。のぼせ上がっているだけだと思っていたからな。」
キシリアは首を斜めに振った。
「姉上!それでは!」
「まぁ、まて!それはエッシェンバッハの娘を見てからだ。」
喜色をあらわしたガルマに、キシリアは押さえつけた。
だが、姉が一応、認めてくれたことにガルマは喜んだ。
「それで・・・赤い彗星はどうしたのだ?まだ、ここにいるのだろう?
私が降りてきたときもいなかったが。」
キシリアは思い出したように言った。
「ああ、彼は気を使ってくれたのです。
『君も姉上への立場があるだろう。確かに、家族のいない私にはわからん話だからな。
俺のような氏素性のわからない奴が、君の晴れの舞台である歓迎式にいてはいけないだろう。
自惚れかもしれんが、記事には君だけが中心となって載るべきだ。
それに、姉上とゆっくりと楽しむがいい。』
などといっていって・・シャアめ、水臭いものです。」
ガルマは、シャアの本心を知らないままにそう言った。
そして、ああ、では三時間後に旧エッシェンバッハ別邸で晩餐会がありますので、
それまでに・・・というとキシリアを彼女の部屋に案内しようとしたが、それは無理だった。
木馬隊への惨敗を説明させられることになったからだ。
280:キシリアの死:改訂版8 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:37:47
0079年10月03日17:11 ニューヤーク市郊外 ジオン軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」
エッシェンバッハ家の別邸はニューヤークの北部郊外にあった。
エッシェンバッハ旧市長は、ジオン進駐時に、この家を提供した。というよりさせられた。
勿論、相当の対価付ではあったが、『愛国者』の彼にしてみれば屈辱の象徴であるから溜まった物ではない。
瀟洒な雰囲気が催し物に適当だから、そしてイセリナの家の近くで彼女が来易いからという理由で、
ガルマに頻繁に使われてはなおさらである。
そして、その日もエッシェンバッハ別邸、今ではジオン公国地球攻撃軍、北米迎賓館「Deer Cries Castle」に名を変えた会場は盛況であった。
参加者は東部地区の有力者、地方議会関係者及び首長、現地の軍需産業、北米のジオン軍人、占領行政に携わる官僚、納品業者達であった。
ジオン軍は、占領に当たって旧来の連邦の統治システムを、利用せざるを得なかったのだから、こうした面子は不思議ではない。
それは清朝、イスラム諸帝国以来の大勢力の併呑に成功した侵略者の慣わしだったからだ。
エッシェンバッハ前市長は晩餐会の満座の中にあって、そうした光景を不快に思っていた。
初代市長のリチャード・ニコルズに始まって、初の黒人市長であり、連邦創設のひとつのきっかけとされる事件で活躍した
アンドリュー・ギル、地球連邦創成期の反連邦テロである9.11で活躍したルドルフ・ジュリアーニ。
そうした数々の市長とともにあったニューヤークは世界の中心都市であり、自由と夢の象徴であった。
地球連邦議会も、ダカールに移転するまでは、ここにあり事実上の世界の首都であった。
だが、現実の光景は、コロニー落としによって心まで砕け散り、世界都市の気概を失い、
占領者である宇宙人に阿るニューヤーク市民の姿であった。
彼は、そうした事態に激しい憤りを覚えていた。
しかし、本当に彼が許せなかったのは、そうした事態に直面し、何も出来なかった最後のニューヤーク市長、
エッシェンバッハ自身だった。ゆえに、彼は娘を差し出すなど慮外のことだった。
そのとき、彼は本当の敗北を喫するからだった。
歴史は彼を人生の敗北者と呼ぶだろう。
それは、北米州大統領候補にまで一時はのし上がった野心と虚栄心の塊である彼には耐えられない事実だった。
だから、彼はその報われぬ不満を解消するために、ジオンへの抵抗活動を危険を犯してまで支援しているのだった。
もっとも、彼は薄々、自分の行動が自慰に近いものであることを自覚していた。その意味ではカイラムに近いのかもしれない。
ただ、彼がとどまって占領軍に注文をつけることで救われている東部住民も数多くいたことも事実であったから、
エッシェンバッハを断罪することは必ずしも出来ないのかもしれない。
281:キシリアの死:改訂版9 ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:38:20
その頃、ガルマは姉と歩いて、挨拶回りを行っていた。
「・・・時に、お父上のデギン公王には地球においでになるご予定は?」
「聞いてはおりませんな」
キシリアはマゼラベースの現地改修を行っている企業の代表に冷たく答えた。
個人的好悪ではなく、余計な期待など持たせたくないからだ。
占領者には占領者の振る舞いがある。
「おいでの節は是非なにとぞよしなに。ひひひひ」
しかし、その企業の代表は怯むことなく下卑た笑いを浮かべた。
「姉上、そろそろですので・・・ああ、皆さん。私達は後ほど。」
ガルマはキシリアと引き上げるとシャアのいるカウンターに向かった。
人を掻き分けて進む二人を有力者の子女の声が包む。
「まあ、ガルマ様、いつも凛々しいお姿」
「キシリア様も凛としてすばらしいお方」
「素敵」
「…しびれちゃう」
黄色い声だった。
ガルマは、カウンターからカクテルを受け取り姉に差し出した。
「ああいう連中は虫が好かん」
キシリアは口をつけるなり、そういった。
「私もそう思います。使えることは使えますが・・・」
「調子に乗らせるなよ。一度裏切った人間は何度も裏切るからな。」
「ええ、わかります・・・さて、紹介します。彼が・・・おい、シャア!貴様、いつまで遠慮しているんだ。
姉上に紹介したいといったろ。貴様のためでもあるんだぞ?」
ガルマは笑いながらシャアに話しかけた。
「シャア・アズナブル少佐です。キシリア閣下。直接お目にかかるのははじめてかと。
ガルマには大変世話になっています。」
シャアは、そう挨拶した。
282: ◆xJ4/QROiQ2
08/01/26 21:40:02
ヒストリカル・ノート
展開を忘れた、つまらないというご指摘を頂いたので最初から書き直してみました。
自作自演説が出るのは、面白くないということですし・・・
面白くなったかは自信がありませんが、少しわかりやすくなったかな?とは思います。
オデッサでは戦闘でしたが、キシリアの死では人間を中心に書きたいと思います。
勿論、後半は戦闘に移ります。
反応がよければ、この路線も行きます。悪ければオデッサ路線のみに絞ります。
注意点、よかった部分、反省点があれば幸いです
展開は同じ分量をあと5回ぐらいで終わると思います。
なお、老人の前書きの回想は内田先生の作品から借りたもので、問題があれば修正します。
コンセプトは佐藤大ちゃんの「少し遠いところ」のパロディです。
>職人さん
マゼラベースもといマゼラ・カノーネをちらっと触れてみましたが、
職人さん、もしよろしければ設定を一部お借りしても宜しいですか?
だめだったら、ザクタンクの改修ということで流しますが・・・
勇み足で触れてしまい、申し訳ありません。
もし、ここでは言いにくいようでしたらuc0080ac@やっほーに、ご連絡ください。
戦車ですが、確かにタチ中尉が砲塔だけ担いでいきそうですねw
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
過大なお言葉、ありがとうございます。
DSをやっていれば、もっと曹長さんの話楽しめるのにと悔しいです。
文章、内容、大変参考になっています。
>待っていてくれた方々
本当にありがとうございます
ご支援本当に感謝です!
>ご批判
ごめんなさい(´Д`;)
これで、あれだったら出直します。
283:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 01:24:13
いよいよシャアが出てきたか。加筆&続き乙
284:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 09:02:56
両職人乙
285: ◆u2zajGCu6k
08/01/27 10:08:51
>オデッサの職人さん
加筆修正お疲れ様でした。面白い作品をありがとうございます。
マゼラ・カノーネの件ですが、気にせずに使って下さいな。
むしろ作品内で触れてくれて光栄な感じです(笑)
286:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 11:31:26 EcWnByQ2
職人帰還記念上げ。
職人さん、待ってたぜー!
287:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 11:34:51
フレイと共に苦難を乗り越えていくスレ489
スレリンク(shar板)
288:通常の名無しさんの3倍
08/01/27 21:14:38
乙保
289:通常の名無しさんの3倍
08/01/28 19:56:40 9MPPnSIx
age
290:通常の名無しさんの3倍
08/01/29 01:58:49 NdDlRDxn
このレスを見たあなたは確実に交通事故に遭います
逃れる方法はただ一つ
↓このスレに行き
スレリンク(gamesrpg板)
【ルカ】
ゴワーズ
と書き込んでください。書き込まなければ確実に明日交通事故に遭いますよ
291:通常の名無しさんの3倍
08/01/31 00:43:30 d4fSZ54b
上げ保守
292:通常の名無しさんの3倍
08/02/01 03:54:20
>>263
ロシアには61式みたいな2連装砲塔の自走砲ありますね。縦に2連装ですが。
同じ掲示板に画像載ってたので。
URLリンク(hell.2ch.ru)
293: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:43:54
12.沈黙(7)
「同志エマ・シーン、裏切りの罪は重いぞ!」
拘束されて身動きがとれないエマ中尉の前に、時空を越えて蘇ったジャミトフ・ハイマンが現れた。
「離しなさい、この下郎!人でなし!」
「ぬはははは…同志エマ、裏切りの代償を受けよ!抵抗は無意味だ!」
ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…
「い、いったい何を読んでいるのよ、ジュドー!」
狭い艦長室の中にルー・ルカの凛と張った怒声が響いた。
「なんだルーか、せっかく良い所だったのになー」
ジュドーが読んでいたのは、現在地球圏全体で一大ブームになっている、
ケイイチ・ミキハラの「地球至上主義者はメイドスキー」であった。
その内容はコロニー・レーザーによって死亡したかに思われた、
元ティターンズ筆頭のジャミトフ・ハイマンが時空を超越する能力を身につけ、
世界各国の女性を相手に地球至上主義思想を植え付けるというものであった。
「わ、私というものがありながら…そんなものを読むなんて…ぶつぶつ」
「何か言った?」
「うるさい!」
294: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:45:46
12.沈黙(8)
閑話休題
宇宙世紀105年3月、木星船団旗艦「ジュピトリスⅣ」は、
月面のブラウン・クロキ宇宙港で出港に向けての最終搬入作業を行っていた。
木星への出発は一週間後に迫り、昨年から募集していた乗務員も既に配置についていた。
アナベル・ガトーもその中の一人で、厨房でニンジンと格闘を繰り広げていた。
「うーむ、中途半端な重力での調理がこんなにも難しいものとは…」
厨房は遠心重力区画にあったが、出港前は月面の重力の影響を受ける。
地上と無重力に慣れたガトーにとって、月面の低重力はむしろ害悪であった。
「さて、次はカレー粉を倉庫から持ってこなきゃならんな」
金曜日はカレー。これは長期間の艦隊勤務を行うには必須のメニューである。
地球圏から離れるにつれて、情報は少なくなり、次第に曜日の感覚すら失われてしまう。
この状態が行き着く先は、乗員の目に見える士気の低下だ。金曜日のカレーにも意味はあるのだ。
ガトーは食糧貯蔵庫に向かおうとしたが、まだ乗船してから二日ほどであったため、
案の定この広いジュピトリスⅣ(3km近い)で迷子になってしまった。
だが、幸運なことに長年の経験と勘から倉庫と思しき区画を発見するのは早かった。
「カレー粉にしてはこの缶は大きすぎるなぁ…」
ガトーの目の前には「極秘」のラベルが貼られたドラム缶ほどのものがあった。
彼は気が付かなかったが、缶の裏側には「F.A.T.E(ドゥガチ)」と記されていた。
そして、彼がこの倉庫に入ったと同時刻にある事件が発生した。
295: ◆u2zajGCu6k
08/02/02 20:52:29
投下終了です。
某架空戦記完結記念。メイドスキー。
次からようやく戦闘が始まるようです。
>>292さん
マゼラ・カノーネに続き、次は61式戦車(マンムート)について書いてみたくなりました。
296:通常の名無しさんの3倍
08/02/02 21:57:05
> ジャミトフの淫猥なる腕がエマ中尉の…
わっふるわっふる
297:通常の名無しさんの3倍
08/02/02 22:38:09
月面の宇宙港に着陸してるジュピトリス級艦ってのは・・・・
艦尾を底にして垂直に屹立している姿を想像してしまうんだが・・・
298:通常の名無しさんの3倍
08/02/04 16:55:37
>>296
シャア専用あめぞうから2chに移転した当時「陵辱金髪プリンセス」っていう
ティターンズがセイラさん始め女キャラを犯りまくるスレがあったなぁ。
299:通常の名無しさんの3倍
08/02/10 09:18:20 BMNL+j8t
保守
300:通常の名無しさんの3倍
08/02/12 14:26:33 deixbnzy
このスレのまとめってないの?
301:通常の名無しさんの3倍
08/02/16 07:45:15
保守
302: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:49:09
12.沈黙(9)
宇宙世紀100年12月31日
彼が指揮する新型AMS-129ギラ・ズール4機は、森林地帯に身を隠しながら、
目標に自らの駆動音を気取られぬ位置で作戦の決行を待っていた。
そして数十分後、実弾演習の名目で出動した彼等第800特殊教導連隊の猛者達は、
作戦「桜花」の発動を国防軍司令トワニング上級大将から直接告知された。
「目標はズム・シティ郊外のヴェヴェルスブルグ城に篭城している。
ムンゾ共和国に反旗を翻した元国防軍近衛軍団長ホルスト・ハーネス上級大将の捕縛が最優先だ。
友軍相打つ状況は避けたい。極力発砲は控えるように」
彼はミノフスキー粒子の散布を命じ、突入命令を待った。
この年のクリスマスに発生したネオ・ジオンの国家崩壊は、国内全体に混乱を起こすことになった。
グレミー・トト総帥の辞任から四日後、ついに国防軍主流派による蜂起が始まったのだ。
「フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン」
司令部からの秘密暗号を受信した彼は部下達に命令を下した。
「作戦『桜花』開始、各機目標へ突入せよ!」
ヴェヴェルスブルグ城周辺の叛乱部隊は呆気なく降伏した。
叛乱部隊の司令部であった城内に入っても抵抗は無く、そこにあったのは自害した屍だけであった。
303: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:52:56
12.沈黙(10)
宇宙世紀104年9月
叛乱が早期に鎮圧できたのは、ホルスト・ハーネス上級大将の御陰であった。
蜂起した者に賞賛を送ることはできないが、同胞相打つ惨劇だけは避けられた。
彼が過去に思いを馳せていたのには理由がある。
それは四年前の作戦「桜花」に参加する命令を受けた時と同じ部屋に呼び出されていたからだ。
彼は後悔するようになっていた。ムンゾ共和国は未曾有の経済危機に見舞われている。
地球連邦との国力差は広がり、民衆の中ではネオ・ジオンの方がマシであったとさえ言われている。
彼の雇用主である国防軍も縮小の一途をたどっているのだ。
こんな状況になるのならば。彼の心の中では後悔の念が広がっていた。
だが、彼は生粋の武人である。心中を誰かに吐露することはなかった。
「第800特殊教導連隊連隊長、参りました」
「月に行ったことはあるかね?」
現状報告と少しの雑談の後、国防軍情報局局長が彼に突然問いかけた。
「月面には旧軍時代に武官として赴任しておりました」
「そうか。月での戦闘経験は無いようだな。今回の作戦地域は月面だ。早急に月の重力に慣れてくれ」
「作戦といいますと?」
「これだ。他言無用。複写も許されない」
彼は局長から作戦計画書を渡された。一目見ただけでこれが秘密作戦であることが理解できた。
そこには局長のサインだけではなく、ドライゼ海軍大将、国防軍作戦部長ハスラー上級大将、
そして総統兼国防軍司令であるロンメル元帥のサインが記されていたからだ。
304: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 21:57:33
12.沈黙(11)
作戦「明星」
1.反地球連邦組織「マフティー」と偽装した第800特殊教導連隊により「ジュピトリスⅣ」を破壊せよ。
当該目標は作戦決行当日に月面宇宙港にて補給作業中である。
2.作戦の際は、必ず月面都市防衛軍、地球連邦駐留軍と交戦し、市街地及び市民に被害を与えること。
3.作戦目的は月面都市群と地球連邦に反地球連邦組織が画策したテロと認識させることにある。
4.この作戦が順調に推移した場合、今後は地球上での破壊工作活動に移行する。
「我々は地球連邦の注目を宇宙から逸らさねばならない。
これから我がムンゾ共和国は様々な裏工作を実行するからね。
それらの工作活動が成功すれば、半世紀後を目安にして宇宙に戦国時代が到来するだろう。
その時にこそ我がムンゾ共和国は勝利する」
局長は明星作戦の目的を説明した。彼にとってそれは想像以上の計画であった。
そして既にこの時期には、ムンゾ共和国の諜報機関によって、多くの反地球連邦組織に支援が行われていた。
後に地球圏に混乱をもたらせた勢力の多くがムンゾと蜜月関係にあったのだ。
今回の作戦に使われたマフティーもその中の一つであった。
「作戦の概要はこんなところだ。何か質問はあるかね?」
「はい、今回の作戦指揮官に私を選んだ理由は何でしょうか?」
「我々が貴官を選んだ理由は、貴官こそがサイド3で最も危険な男だと見込んだからだよ。ラカン・ダカラン大佐」
305: ◆u2zajGCu6k
08/02/16 22:05:33
投下終了です。
戦闘が始まりませんでした。
次回こそはジュピトリスⅣを襲撃したいです。
>>297さん
ZZラストでジュピトリスⅡがフォンブラウンから発進する。
こんな描写があったので何も考えず書いてしまいました。
横倒しでも全長3kmもあると宇宙港のスペースは足りるのだろうか…
306:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/02/16 22:18:09
乙であります。
「目標は<大和>」思い出した
こっちのガトーは俺の書いたのと違ってカッコよさそうw
307:通常の名無しさんの3倍
08/02/16 23:15:52
ジュピトリス級ともなれば、専用宇宙港を別に建設しててもおかしくないのでは?
308: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:35:23
12.沈黙(12)
宇宙世紀105年3月15日
地球連邦軍第82軌道降下旅団は、昨日から月面都市フォン・ブラウンで発生した騒乱への出動を待ちわびており、
宇宙世紀100年の月面臨戦協定に基づく地球連邦軍への協力要請を受けるや、戦闘行動に移り月軌道へ発進した。
昨日の午後より何度も行われた偵察の結果、
ブラウン・クロキ宇宙港に隣接したマスドライバー施設と加速準備に入っていたジュピトリスⅣは、
十数機のMSによって占拠されたものと判断されていた。
この正体不明の敵に対し、月面防衛軍は午前6時にフォン・ブラウンへ一個MS旅団を集結。
敵MS部隊を視認すると即座に攻撃を開始したとの報告があった。
この報告を受け、降下旅団長であるケネス・スレッグ大佐はルナリアンを見直した。
彼等にはアナハイム社のような死の商人や日和見主義としてのイメージしかなかった。
だが、この騒乱に対して月面防衛軍は迅速な行動を開始している。
ルナリアンの中にも危機意識の高い奴がいるのかと大佐は思った。
それと同時に自分達の仕事は無くなったとも思っていた。
マスドライバー施設はリニアレール敷設のため、敵軍が占拠した地域の大部分は平野が広がっている。
つまり、敵軍に逃げ道は無い。
そして、月面防衛軍が集結させたMS旅団はジェガン約50機によって構成されている。
敵が保有する十数機のMSでは勝負にならない。
この重装備は6年前に発生した環月面動乱の苦い記憶によるものだろう。
だが、ケネス大佐の予想は外れた。
午後8時の定時連絡では月面防衛軍のMS旅団は壊滅状態に陥ったとの報告があったのだ。
309: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:38:14
12.沈黙(13)
四方から敵軍を押しつぶそうとした月面防衛軍MS部隊は、形式不明の大型MAを直接視認した瞬間、
無数の思考制御型誘導兵器(ファンネル)によるオールレンジ攻撃を受け、2割以上が破壊されてしまった。
この攻撃により部隊は混乱状態となり、敵陣からの砲撃をまともに受けることになった。
メガランチャーの一斉射撃を受けたMS部隊は統制を失い壊走した。
事態を重く見た月面防衛軍司令部は虎の子の増援を差し向けた。
それは月面仕様に改装したRGZ-91リ・ガズィを装備した緊急展開中隊である。
この機体はBWSを改良して擬似的な空挺機動を可能にしたものであった。
だが、マスドライバー施設まであと50kmと迫った時、突如として編隊の一機が爆発した。
マスドライバーからの対空攻撃と知った時には、既に中隊は小隊規模まで減少していた。
BWSをパージして着陸しようとした機体もあったが、突出してきた敵軍により殲滅された。
結局、残った編隊は離脱するしかなかった。
敵の戦力を理解した月面防衛軍は戦力の再構築を理由に、
一時敵軍との戦闘を地球連邦軍に任せる判断をした。
この結果、予定通りケネス大佐の第82軌道降下旅団は戦闘に赴くことになった。
「月面防衛軍は手酷くやられたようだな。まったく、敵軍は何処から侵入したんだ」
「ケネス大佐、おそらく敵軍は宇宙港に停泊していた貨物船から発進したものと」
「ふん。テロリストは始末に終えんな」
―降下20分前、降下20分前、パイロットは搭乗急げ
「時間のようだ。奴等に連邦軍の恐ろしさを見せてやろう」
310: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:42:08
12.沈黙(14)
地球連邦軍は今回の騒乱を新兵器と戦術の実験場と位置づけていた。
そのため、テロリスト掃討とは思えないほどの苛烈な攻撃を行った。
まず、ルナツーより発進したラー・カイラム級機動戦艦を主力とした打撃艦隊による軌道砲撃が開始された。
本来ならば目標はマスドライバーであるが、月面都市の了承が得られないので敵陣への攻撃となった。
無論、砲撃だけで敵軍を殲滅できるとは考えていない。これは降下部隊の軌道降下を支援するものである。
この砲撃にはある新兵器が使用されていた。それはABM(対ビーム弾頭弾)である。
これは敵の迎撃により弾頭が蒸発すると、気化した重金属粒子が付近の大気中に充満し、
そこを透過するビームを著しく減衰させることにより無力化する。
古くはチェンバロ作戦から使用されているビーム撹乱膜だ。
この兵器の新機軸は弾頭が迎撃されなかった場合、通常の弾頭として機能することである。
この作戦は成功した。実験兵器のため砲撃密度は薄かったが、
多くの弾頭が敵に迎撃されたため戦場全体でビーム兵器が使用不可能となった。
敵軍の錬度の高さが皮肉にも仇となってしまった。
ファンネルによるオールレンジ攻撃の脅威は取り除かれたのだ。
―曳航索切断、各機は軌道降下体勢に移行せよ
クラップ級巡洋艦に曳航されていたケッサリアが、囮の役目を果たすべく先行して切り離された。
「我々も降下するぞ。全員無事落着すること。いいな!」
バリュートを搭載したMSが次々に開始していった。
ケネス大佐もそれに続き月面へと飛び出した。
落下中に眼下を見渡すと、東方の戦場は赤く燃えていた。
降下中の彼等を狙うメガランチャーの閃光も煌いたが、撹乱膜に阻まれ立ち消えした。
着地の衝撃、ケネス大佐は素早くバックパックを排除し、広大な月面の中で友軍の統制と投下物資の回収を始めた。
旅団の多くは無傷で集合できた。一部の機体が実弾兵器による損傷で月面都市へ後退しただけだ。
軌道降下で最も危険な時間を無事に過ごせたことにケネス大佐は満足感を覚えていた。
311: ◆u2zajGCu6k
08/02/17 11:57:56
投下終了です。
筆が進みました。ビーム撹乱膜はギレンの野望だと必須ですよね。
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
そろそろガトーさんも出演させたいところです。
「標的は<大和>」をベースに特殊部隊物を誰かに書いて欲しいなぁ。
>307さん
大神工廠のような大型艦専用ドックが併設されていると考えてみました。
312:通常の名無しさんの3倍
08/02/18 15:09:02
いよいよガト・・いや、バトーさんの出番ですな
一つわからない描写がありますが
月面でバリュートとは?
これも特殊作戦の一環でしょうか?
313:通常の名無しさんの3倍
08/02/19 00:56:02 5iApcBUM
月にはじつはものすげえ大気があったんだよ!
最近のNASAの調べで新事実が発覚したんだよ!
てかバリュートは月地表でボールみてえにバウンドしてショックを和らげるんだよ!
しかも新バリュートだからがんだりゅーむでできてて最強の盾になんだよ!
そんな簡単なこともわかんねえのかクズ野郎!
いちいちくだらねえツッコミすんじゃねえ!
能無しのバカどもは黙っておれの書いたものを崇め奉ってりゃいいんだよ!
314: ◆u2zajGCu6k
08/02/19 01:14:08
>312さん
月面で大気圏突入用装備を使用するのは間違っていますね。
ご指摘ありがとうございました。
その部分は「ランディング・ディバイス」を搭載したことに。
これはゼク・アインが装備していた降下用逆噴射装置です。
315:通常の名無しさんの3倍
08/02/25 02:06:55
保守
316:通常の名無しさんの3倍
08/02/25 19:27:41 tjX2T+oi
上げ保守
317:通常の名無しさんの3倍
08/02/29 11:23:43
保守
318: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:05:02
12.沈黙(15)
戦場に落着できた45機のFD-03グスタフ・カールは、投下物資による装備の補給を終えるとすぐに突撃を開始した。
彼等に残された時間は少ない。撹乱膜は重力のある月では効果時間が減少してしまうのだ。
遠距離攻撃の危険が消失している間に、敵陣を自分達の交戦距離に入れなければならなかった。
「無事に着陸させてしまったぞ。くそっ、だから強化人間なんて使うべきじゃなかったんだ」
ラカン・ダカラン大佐は焦っていた。彼等は連邦軍の軌道爆撃(敵ミサイル)に対して迎撃行動をした。
迎撃が成功し弾頭から重金属粒子が拡散した時、第800特殊教導連隊の猛者達は敵の意図を理解した。
「連邦軍はビーム兵器を封じようとしている」
だが、諜報部が無理やり部隊に組み込んだ、強化人間達が莫迦正直に命令を遂行してしまった。
彼等に中止命令を理解させた時には、既に戦場全体へ重金属粒子がばら撒かれていた。
彼に残された兵力は、ジュピトリスⅣとマスドライバーを制圧している歩兵を除けば、
ギラ・ズール8機(ファンネル搭載のヤクトタイプが3機と長距離砲装備のランケタイプが5機)、
そして、自らのMAN-10G3ゲー・ドライだけであった。
既に戦力の半数が一連の戦闘と軌道砲撃によって葬り去られた計算となる。
「方向1時、敵着陸地点から閃光、無誘導噴進弾と思われる。数24、回避行動を開始」
「畜生!」
ラカン大佐の搭乗するゲー・ドライは操縦士の他に二人の火器管制員が乗っている。
操縦士と火器管制員の一人は件の強化人間である。
彼女等は彼の存在を無視するように、機体と搭乗員を酷使する急激な機動を行って敵弾を回避していった。
天地が逆転する視界の中、彼はハンドランチャーを放った。
数分ほど前までは敵との中間地点までやっと届く程度であったが、
機体から放たれたビームは減衰しながら直進し、敵機に届く寸前までかき消されなかった。
彼はもう少し時間を稼げば、ビームも自由に使えるだろうと思った。
319: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:06:46
12.沈黙(16)
月面に連邦軍が着陸したのとほぼ同時刻、
占拠されたジュピトリスⅣ艦内でも激戦が繰り広げられていた。
ジュピトリスⅣは一個小隊規模の勢力によって制圧されていた。
当時、ジュピトリスⅣの船員は半舷上陸中(規則違反の艦外行動者もいた)であったこともあり、
満足に抵抗を行えずに制圧されてしまったのだ。
さらに艦の中枢部であるCICを無傷で制圧できたことにより、
敵勢力は大多数の船員がいる重力区画の隔壁を閉鎖し、艦内部からの反抗を不可能なものとした。
重力区画外に居た船員も各個撃破されてしまい、ジュピトリスⅣは完全に無力化されたものと思われた。
こんな状況の中、ガトーは果敢にも反撃を開始した。
幾多の戦場を駆け抜けてきた経験と勘が、この最悪の戦場で最大限に発揮されたのだ。
最初は調理用ナイフしか武器となるようなものは無かったが、
敵兵の隙を見て装備を奪取すると敵兵にとっては悪夢のような存在になった。
そして、物資を納品する途中で事件に巻き込まれた、
旧友のケリィと合流すると彼等は獅子奮迅の活躍を始めるようになった。
外で戦闘が始まり艦内の警備が疎かになったことも幸いし、
ついに彼等は艦内を敵勢力から解放することに成功した。
「なんとたわいの無い。鎧袖一触とはこのことか」
あとは連邦軍が敵勢力を鎮圧すればこの事件は終結する。
だが、ガトーは外の戦闘を見ているだけで終わるような漢ではなかった。
「ケリィ、使えるMSはあるか!この際だ、使えるのなら連邦製でもかまわん!」
「格納庫のMSは全て破壊されていた。しかし、オレが持ってきたやつは無傷のはずだ。
5番倉庫に置いてある。外の援護に行きたいなら急げ!」
ガトーは5番倉庫でそのMSを発見した。
彼はそのMSに懐かしさと力強さを見出して一言つぶやいた。
「素晴らしい。まるでジオンの精神が形となったようだ」
320: ◆u2zajGCu6k
08/03/03 13:09:25
だいぶ遅れましたが投下です。
昨日、沈黙の戦艦がテレビでやっていましたが、
あのような描写を書くのは難しいですね。筆力の無さを痛感しております。
321:名無し曹長 ◆BiueBUQBNg
08/03/03 13:29:10
>あのような描写を書くのは難しいですね。
いえいえ面白いです。
佐藤御大は鳥瞰的に描写する作家なので、あの映画のようなミクロ単位
の描写とはまた話が違うことですし。
ところでムンゾの強化人間ってもしかしてプル・シリーズですか?
322:通常の名無しさんの3倍
08/03/04 12:15:34
俺も先日セガールみてたw
懐かしいジオンの象徴モビルスーツが気になります。
続き頑張ってください。
323: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:21:16
応援ありがとうございます。
これからも執筆速度は遅いですが頑張りたいですw
>名無し曹長 ◆BiueBUQBNg さん
ご明察です。登場した強化人間達はプル・シリーズですね。
実はギレンの野望でアクシズ(グレミー)をやっていて思いつきました。
ゲーム中でも五人のプルクローンが出てたので出してみましたw
324: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:35:10
短編を投下します。
三部構成になる予定です。
随所にネタや設定を入れていきたいと思います。
全てに気づかれる方はいるのでしょうか。
325: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:37:35
「夜桜は散った」
前編:塩の柱
容赦の無い夏の日差しが彼を照りつかせていた。
ニホン省出身のタムラは流れ出る汗と戦いながら、必死に穴を掘っていた。
彼の顔はマスクで覆われていた。マスクは何日も同じものを着用しているようで酷い悪臭を放っていた。
普段ならすぐに交換すべきであるが、この村にマスクの予備は存在しなかった。
北米大陸のかつてグレートプレーンズと呼ばれた穀倉地帯、
コロニー落着現場から離れた場所で農業を営んでいるサン・ロレンツォ村が疫病に見舞われていた。
タムラは一年戦争時に料理長として従軍した経験があった。
彼は多くの戦役に参加していたが、その地獄の中でも現在の村よりはマシであったと思った。
一週間前から疫病の兆候はあった。
収穫間近の小麦は枯れ、木々や芝生すら赤茶けた大地に無残な姿を晒していた。
その惨状が植物から人間へと移るのに時間はかからなかった。
住民は一斉に村の診療所に駆け込んだが、医師が診断中に死亡してしまうと、
そこはむしろ近寄るべきではない場所だと認識された。
現代医療に希望を失った住民達が最後に向かったのは、宇宙世紀以来寂れていた村外れの教会だった。
彼等にできることは神に祈ることだけであった。
タムラが大きな穴を掘り終えると既に夕暮れになっていた。
彼は教会の外に安置されている遺体を見た。穴を掘り始めた時よりも増えている。
数えると30以上あった。もっと掘らなければならないとタムラは思った。
326: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:39:05
何故、私がこんな目に遭わなければならないのだろうか?
タムラは一生分の不運を一年戦争で使ってやったと思っていた。
だが、神は無慈悲にも彼に人生最大の不幸を運んできたのであった。
彼にとって唯一の幸運は、一人娘のヒヨリがこの村に居ないことであった。
彼女は彼の故郷であるニホンの祭典に参加するために旅行中であったからだ。
彼はこんなことになってしまった理由を考えていた。
そもそも事態の発端は不審なMSが山奥に墜落した後からだった。
村の青年団が墜落現場に行くと、既にその周囲の木々は枯れていた。
彼等がMSを調べると不自然なことにパイロットは居なかった。
青年団が不審に思いながら帰ってきたのと同時に、村でも山と同じように植物が枯れだした。
おそらく病原菌か何かが搭載されていたのだろうとタムラは思った。
そして、その病原菌は人間達にも牙を向けたのだった。
外部からの救援も望めない。ここは宇宙世紀0083年のコロニー落下事故によって、
地球連邦政府から半ば見捨てられた土地であるからだ。
救援要請は出していたが、一週間近くたってもまだ誰もこの村へは来ていない。
タムラはもはや自分も祈ることしかできないと感じていた。
先程から妙に咳が出ている。自分も感染したのかもしれない。
彼が絶望しかけた時、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
327: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 14:40:07
タムラは一年戦争時にペガサス級強襲揚陸艦に乗艦していた。
そのペガサス級が大気圏内を飛行する音が遠方から聞こえてきたのだ。
現れたのはタムラにも見覚えがある、古い地球連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦であった。
「神よ…」
いつの間にか教会の牧師がタムラの隣に立っていた。
その揚陸艦はまるで戦闘中であるかのように盛大にフレアやミノフスキー粒子を使用していたので、
遠くから夕闇の空を見るとまるで天使が羽根を広げているように見えたのだ。
牧師がしきりに十字を切っていると、揚陸艦は高度を上げ、
ちょうどMSが墜落したあたりに何かをばら撒き始めた。
タムラは揚陸艦が何をしたのかが瞬時に理解できた。
ニューヤーク。ドーム型野球場への避退。空中空母による絨毯爆撃。
地球連邦軍は病原菌ごと私達を焼き尽くそうとしている。タムラは背筋を震わせた。
牧師も燃え盛る山を見て気づいたようで、先程とは全く逆の表情を見せていた。
「神よ…」
今度はタムラも呟いてしまった。彼も神の慈悲に縋りたい気持ちであった。
328: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:13:53
中篇:カリオテ人のシモンの子
作戦に投入されたのはペガサス級強襲揚陸艦7番艦「アルビオン」であった。
アルビオンが秘密作戦に投入されたのには理由がある。
ガンダム試作二号機の奪取、シーマ艦隊との裏取引、30バンチ事件、ティターンズ蜂起、アポロ作戦、
アルビオンはこれらの表に出すことのできない秘密作戦を担ってきたのだ。
「今回も汚れ役になっただけだ」
艦長の元ティターンズ作戦参謀バスク・オム大佐は自嘲気味に話した。
アルビオンは焼き尽くされそうになった村落に着陸した。
地球連邦軍にも一抹の理性が残っていたようで、タムラの予想ははずれ消毒剤が撒かれただけであった。
無論、村ごと焼き尽くせという意見も存在していたが。
村へ降り立った兵士達は宇宙服のような防護服を装備していた。
彼等によって簡易無菌室が設営されていった。
簡易無菌室とアルビオンは宇宙用のエアロックでつながれ、艦内から消毒剤等が運ばれていった。
「消毒剤などいらん。汚物は消毒だ」
防護服で着膨れた老人が忌々しげに呟いた。彼は名はシロウ・I・ムラサメ、軍医中将である。
話の前後で矛盾しているが、老人の言う「消毒」は我々の考える「消毒」とは意味が違うのだろう。
「閣下、充分に安全は確保されているのでしょうか?」
バスク大佐はムラサメ中将の先の言葉を無視して質問した。
「安心したまえ。住民の方は知らんが、我々は防護服を着ている限り充分に防げる」
329: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:18:29
防護服にはすぐに熱がこもり汗だくになるが、
ムラサメ中将は老人とは思えない活力で休みも取らずに現地調査を続けていた。
バスク大佐はニュータイプ研究所の所長が、何故BC兵器に興味を持つのか疑問に思った。
「検査結果はまだか!」
「はい、まもなく完了であります、閣下」
ムラサメ中将に噛み付かれたバスク大佐は宥めるような声で応じた。
「遅すぎる!実戦だったら部隊は全滅しているぞ!」
「これ以上は無理です閣下、部下達は全力を上げて取り組んでおります」
「ふん、所詮は地球連邦軍というわけか」
その数十分後、バスク大佐の疑問は解消されることになった。
地球連邦政府から新たな指令と共にムラサメ中将の略歴が送られてきたのだ。
330: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:19:59
シロウ・I・ムラサメ軍医中将はジオン公国からの亡命者であった。
彼はジオン公国地球方面軍の防疫給水部本部の部隊長であったらしい。
この部隊は地球攻撃軍が管轄する区域内の防疫・給水業務を行うことを目的にしていた。
宇宙世紀0079年12月、地球連邦軍が北米大陸に侵攻すると、
撤収作戦が実施され部隊はその施設のほとんどを破壊して徹底的な証拠隠滅を図った。
彼等の情報を欲した連邦軍は、ムラサメ中将をはじめ部隊の幹部との間で、
実験のデータを提供する代りに部隊を法廷で裁くことを免除したとされている。
取引の際に防疫研究室の実態は隠され、
施設として目立つ防疫給水本部を囮として使う事によって
防疫研の研究ネットワークの実態、そしてその成果であるNBC戦術の最重要情報
(例を挙げるならば後のG3ガスや生物兵器アスタロスなど)の秘匿が計られた。
連邦軍からの追求を十分予測していたムラサメ中将は、
予め部隊での成果の一部を引き渡す事で研究の全貌を隠匿することに成功したと言われている。
一年戦争後に地球連邦軍に亡命したムラサメ中将は、NT研究機関であるムラサメ研究所を設立した。
第二次ジオン独立戦争で実戦投入された強化人間の多くには彼の研究成果が応用されているらしい。
331: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 22:23:08
「生物兵器の調査と患者の移送が完了いたしました」
外から戻ってきたジャクリーヌ中尉が彼等に報告を行った。
「通常の殺菌作業ではとても追いつていない。私の予想通りだ」
ムラサメ中将は調査結果を読みながら話し出した。
「MS墜落地点の殺菌作業が捗っている事を考え見るに、焼却処分が最も有効だと判断できる。
最初に私が進言したように村ごと焼き尽くすべきであったな。
まぁ、人体への影響も観察できたから無駄ではないがな」
「つまりこの村も徹底的に焼くべきということでしょうか?」
バスク大佐は尋ねた。
「そうするべきだろう。正直なところ、私もこの細菌がどれほどしぶといのかは分からない。
研究資料は既に破棄されているし、関係者も消息不明だ。私自身も具体的なことは知らない」
「あなたがこの細菌を培養した本人であるのにですか?」
「貴様、何故知っているのだ!」
「体は醜く膨れあがり、蛆虫と体液が溢れ出た」
バスク大佐はある人物の末路を口にした。
皮肉な事にもそれは感染者の症状とほぼ同じであった。
「イスカリオテのユダか。私がジオンからの亡命者というのは機密事項なのだがな」
332: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:25:44
後編:豊穣の女神
「閣下、もう少しで作戦も終了することですし、外でお話しませんか?」
「何故だ?」
「指揮官は最後に戦場から離れるものだと教わりました。地球連邦では。
ジオン公国での将校教育はどうなのでしょうか?」
ムラサメ中将は不快感を表したが、防護服を着込みバスク大佐と共に外に出た。
「閣下、何故ジオン公国軍は生物兵器などに手を出したのでしょか。
既にコロニーレーザー開発計画も動いていたのに」
「あの当時、公国は危地に立たされていた。独立戦争勝利のため、あらゆる手段を追及する必要があった」
「だから研究を進めた。ですが、生物兵器は不経済です。明らかに」
生物兵器は製造も面倒で管理も困難、効果は不明確、運用にいたっては軍事の範疇を越えている。
一度使えば制御不能の兵器など誰も使用することはできない。
「効果は絶大なのだ。私はキシリア様にも進言したのだ。総帥の進めるシステムではなく…」
「夜桜計画、別名アスタロス。安心して下さい。私は話を伺いたいだけなのです」
バスク大佐は口を挟んだ。
「貴様、何処まで知っているんだ!」
333: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:28:30
「あなたが進言し実行した計画。地球に対する全面生物兵器の使用。
北米大陸で得た連邦軍捕虜に細菌を植え付け、連邦領土内で伝染病を蔓延させる。
閣下はそれで地球連邦の戦時体制に混乱を起こせると考えた」
「その通りだ」
「しかし、軍は閣下の計画を信頼しなかった。実証的なデータが足りなかったから。
だから閣下は地球へ降下した。捕虜を用いた人体実験で効果を確かめるために」
「キシリア様の黙認は得た。連邦軍も我が軍の捕虜に拷問を加えていた。一種の報復だったのだ!」
「そうでしょうな。私も似たような経験をしましたからね」
バスク大佐のゴーグルが怪しく光るのをムラサメ中将は見逃さなかった。
「私をどうする気だ?」
「急がないで下さい、閣下。話はまだ終わっておりせん。
そのような人体実験の成果によって地球連邦軍の反抗作戦の直前に生物兵器は完成した。
だが、その兵器は閣下にとっては失敗作でした。
完成した生物兵器は植物だけを枯らし人体には影響が無いものだったから」
「時間が無かったのだ」
「その後、捕虜になった閣下は地球連邦へ亡命します。
完璧な生物兵器の完成と更なる人体実験をするために。
連邦軍もその種の兵器を必要としていたので利害が一致したのでしょう。
地球連邦が弾圧するのは何もコロニーだけじゃないですから。
誰もが夜桜を美しいと感じたのは戦争という狂気に酔っていたからでしょう」
334: ◆u2zajGCu6k
08/03/04 23:33:37
「貴様は何が言いたいのだ?」
「北米大陸に保管されていた生物兵器を移送する時、MSが墜落してしまったのは不幸な事故です。
これには何の裏工作もありません。本当に悲しい事件です。
事故の知らせを受けた閣下は案の定現場に行くと言ってくれました。
自分の開発した兵器の威力を確かめずにはいられなかったから。
軍の高官達は喜んでおりました。後ろめたい過去を抹消できる機会が訪れたことに」
「まさか私を…」
ムラサメ中将は恐怖に駆られて逃げ出そうとした。
だが、バスク大佐は拳銃を抜き中将の足を防護服ごと打ち抜いた。
「その防護服にもう気密性はありません。もちろん閣下はアルビオンに乗艦することはできません。
細菌に侵された汚物を艦内に持ち込むことは艦長として許可できない」
「た、助けて、助けてくれ」
「閣下、その命令には従えません」
「わ、私が死んだら。連邦軍のニュータイプ研究が頓挫するぞ!」
「ご心配には及びません。ムラサメ研究所の新所長にはローレン博士が内定しております」
「お願いだ、大佐。助けてくれ」
「さようなら、閣下。ユダはコキュートスのジュデッカがお似合いですよ」
バスク大佐は身動きのとれない中将を置いてアルビオンへと戻っていた。
「アルビオン艦長バスク・オム大佐より司令部へ。夜桜は散った。以上、交信終わり」
335: ◆u2zajGCu6k
08/03/09 18:49:18
死にたい連邦軍将兵にお薦めの「連邦人民最大の敵(レビル曰く)」ヘルムート・ルッツ大尉
・オデッサ突入直前なら大丈夫だろうと虎の子のRGM-79(G)を出したらいつもと変わらないルッツに撃破された
・ドダイGAの機影を発見後一分でビッグトレーが火の付いた燃料を流して撃破されていた
・足元がぐにゃりとしないので沼をさらってみたら61式戦車の残骸が敷き詰められていた
・停泊中の戦艦が襲撃され、気が付いたら大破着底させられていた
・高度数百ftで爆弾を投下、というか距離100m以内で機銃をぶっ放す
・フライマンタの編隊が襲撃され、フライマンタも「護衛のTINコッドも」一部撃墜された
・トラックから塹壕までの10mの間にルッツに機銃掃射された
・MSの隊列に合流すれば安全だろうと思ったら、隊列のMS全てがルッツによって撃破済みだった
・全連邦軍将兵の3/100がルッツ被撃破経験者、
しかも急降下爆撃ならどんな兵器も破壊出来るという彼の信念から「強力で頑丈な兵器ほど危ない」
・「そんな奴いるわけがない」といって出撃して行った戦車兵が五年経っても骨の一つも戻ってこない
・「連邦軍将兵でなければ襲われるわけがない」と雪原に出て行ったキツネが穴だらけの原型を止めない状態で発見された
・最近流行っているルッツは「何が何でも出撃」総帥に止められても片足が吹っ飛んでも連邦軍狩りに出て行くから
・ベルファストオデッサ間はルッツの襲撃にあう確率が150%。一度撃破されて撤退中にまた襲撃される確率が50%の意味
・ルッツ中隊全体における連邦軍襲撃による戦車撃破数は一日平均34輌、うち約17輌がルッツ一人のスコア
336: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:02:10
投下です。
337: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:04:11
地球連邦の興亡
第四章・第二節「地衛兵と地球至上主義」
「地衛兵」とは第二次ジオン独立戦争期に創設させられた民兵組織のことである。
地衛兵に参加した者の多くは大学生や高校生などの若者達であった。彼等は政治意識の高い真面目な生徒であった。
地衛兵が最初に結成されたのは宇宙世紀0088年2月のことで、北米MS訓練学校モントレアル校(エコール)にかよう
ティターンズ高級幹部の子弟が、初めて地衛兵という言葉を用いて学生運動を始めた。
彼等は自らを「地球を防衛する兵士」と称して、全国の学生に地球至上主義の思想を広めていった。
その結果、自らの行動を絶対的正義と信じた彼等は、地球防衛の担い手という精神的高揚感と集団心理の中で、
次第に暴力行為をエスカレートさせていった。
後年になって彼等は「若さ故の過ち」と連呼し自らの行為を有耶無耶にしようとしている。
このような者達による歴史資料の抹消と第二次ジオン独立戦争の戦火によって、
宇宙世紀80年代後半を考察した歴史書は極めて少ない。唯一と言ってもよい資料は、
ヨシユキ・トミノ氏のフィクション性の高いZ三部作しかないのが現状である。
当時の史実については、いまだ完全には解明されておらず、特定の事件に対する矛盾した情報も多い。
本書では現段階で入手可能な資料を用いて、「ティターンズ蜂起」の発生原因と経過を考察していきたい。
338: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:08:26
宇宙世紀0080年1月1日、ギレン・ザビ率いるジオン公国との一年戦争で勝利を収めた地球連邦は、
一週間戦争時の未曾有の被害によって、政治力よりも軍事力を背景とした支配構造が確立しようとしていた。
一年戦争の戦火によって多くの命が失われていたが、それでも数十億人以上が地球連邦市民であった。
この超巨大国家を運営する能力はヨハン・エイブラハム・レビル大将を失った地球連邦軍に残されていなかった。
そのため、戦後三年近くが経過しても地球上の多くの地域は、一復興は行われず困窮状態に置かれていた。
当時の地球は現在(そして過去)のように全ての地域が地球連邦の支配下に置かれているわけではなかった。
一部地域にはジオン残党勢力が存在し、中華地域や北米大陸には小規模な国家群も成立していた。
こうした勢力を放置すれば、地球連邦体制の打破を目指す反地球連邦運動へと発展しかねない状況であった。
そして、その状況の中で勃発したのが前節で取り上げた「デラーズ紛争」である。
詳細は既に記したので、ここでの説明は省略させてもらう。
この紛争によって反地球連邦運動の危険性が高まったことにより、
ジャミトフ・ハイマン准将は宇宙世紀0084年に「ティターンズ」と呼ばれる
ジオン残党(反地球連邦勢力)狩りに特化した組織を成立させた。
ジャミトフ准将はティターンズ設立に対して批判を行った者達を、
全員「反地球連邦分子」のレッテルを貼り弾圧の対象とした。
ティターンズ設立と同時に、ジャミトフ准将は地球連邦の経済官僚だった経験を活用して、
当時低迷していた地球の経済状況を改善させていった。ティターンズの危険性に対しての批判は多くあったが、
多くの人々は行動しようとは思わなかった。ジャミトフが行った経済政策は成功し、
地球連邦市民の多くは景気回復を実現させた彼に好感を抱いていたからだ。
ここにティターンズ(ジャミトフ)に抗議し刑務所に入れられた人物の警告が残されている。
「ティターンズがジオニズムを弾圧した時、ジオニストでない自分は行動しなかった。
ティターンズは次にスペースノイドを弾圧した。コロニー住民でない自分は抗議しなかった。
ティターンズはルナリアンに弾圧の輪を広げ、最後に地球に住む人々を弾圧した。
地球に住む自分は立ち上がった。時すでに遅かった。抗議するのは誰のためではない、自分のためだ」
339: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:10:00
宇宙世紀0087年10月、地球圏を揺るがす大事件が発生した。
ジオン残党の中で最大勢力である「アクシズ」がアステロイド・ベルトから地球圏へと帰還した。
彼等の行動は迅速であり、地球連邦の保有する小惑星改造の宇宙要塞のうち二つが瞬く間に無力化された。
突然の侵攻に対して当時の地球連邦上層部の対応は後手に回り、
ようやく宇宙に防衛ラインが構築できた時には、アクシズはサイド3に進駐してしまっていた。
この状況の中で、地球連邦の多数派であるゴップ元帥を長とする保守派は、
サイド3をアクシズに譲渡することによって停戦しようとしていた。
これに反対したのがジャミトフ大将率いるティターンズであった。
地球至上主義者である彼等がこのような講和条件を許すわけが無かった。
彼等はゴップ元帥やワイアット大将が実験を握る現在の権力機構を打倒し、
自分達がその座に就くとする実質的なクーデター構想を描いていた。
しかし、軍事力によるクーデターは戦争状態である現状では不可能であり、
もし蜂起を図れば地球連邦はティターンズ派と保守派、反地球連邦派(エゥーゴ・カラバなど)に分裂し、
完全な内乱に陥って収拾がつかなくなる恐れがあった。
そこで、ティターンズ作戦参謀のバスク・オム大佐が軍の動向を慎重に管理して暴発を回避する一方で、
「木星圏文化芸能連合部部長」の肩書きを与えられたパプテマス・シロッコ少佐が
「腐敗の温床であるジオニズムを撲滅する」との名目で知識人を弾圧し、
それに連なる現政権の有力者を失脚させていった。
この時期の連邦政府内に限れば「ペン」は「銃」より強かった。
340: ◆u2zajGCu6k
08/03/12 15:14:58
とりあえずここまで投下です。
バスクを書いたら、ティターンズについて書きたくなってしまいました。
今回の短編は本編の方の地球連邦(ティターンズ)の興亡です。
341:通常の名無しさんの3倍
08/03/15 10:38:55
保守
342:通常の名無しさんの3倍
08/03/19 15:27:31
保守
343:通常の名無しさんの3倍
08/03/20 04:25:56 TUxHzc3s
あげほっする
344: ◆u2zajGCu6k
08/03/21 01:39:15
宇宙世紀0088年1月14日、ジャミトフ・ハイマン大将は「地球連邦でジオン公国の復活を企む策謀があり、
連邦内のジオニズムの道を歩もうとする反連邦勢力(エゥーゴ派)を整頓しなければならない」と発言した。
彼は自らの意向に逆らう人物を「エゥーゴ派」と決め付けて断罪する下作りを行った。
それから約一ヵ月後、ホンコン・シティの新聞紙「東方日報」の読者投稿に
ホワイトベース組(旧レビル派)であったブライト・ノア中佐の息子ハサウェイ・ノアによる意見が掲載された。
ハサウェイの投稿は小学生らしい正義感に基づいたティターンズ批判であった。
だが、この新聞への投稿をジャミトフ大将は反地球連邦思想の現れであると断定した。
地球連邦全土に混乱を引き起こした「地球至上主義革命」の幕開けでる。