千葉大すれぱーと61千葉大学at STUDENT
千葉大すれぱーと61千葉大学 - 暇つぶし2ch938:学籍番号:774 氏名:_____
09/12/04 05:39:19
ひどく―疲れた。疲れてしまった。
ユイは力なく地面に座り込んだ。ADAの稼働率は72%。まだ戦える。そのはずなのに―もう。
体が、心が、言うことを聞いてくれない。呻くと口からぽろぽろと血塊がこぼれ落ちた。
顔を上げれば敵はまだ残っている。動かなくなったこちらに興味はないとばかりに去っていく。その後ろ姿が、なぜかひどく慕わしかった。
地面に血を吸われてだんだん視界が狭まってくる。薄ぼんやりとした思考がいつもより目まぐるしく言葉をはじき出す。今更慰めを探している気がして、ユイはまた笑った。溢れる血が気道を圧迫するが、もう、かまわない。
だんだん目を開けているのが面倒になってくる。もう頑張る理由もないのでユイは目を閉じた。押し寄せてくる暗闇が全てを遠ざけてくれる。ただ、二つの鼓動だけが響いていた。
―二つ?
その違和感はすぐに闇に溶けた。ADAだ。誰よりも近くにいたそれ、いつもは気にもしなかった科学の産物にも鼓動があったのだ。ただ黙ってそれを聞いているだけで、ユイは不思議と焦燥感に襲われた。もういいのに、まだ何かあるような気がしてくる。
何。なにが、あるんだろう。朦朧とした頭でユイは考える。家族も、友達も、好きな人も。みんな消えてしまった。残されたのは爪と牙だけ。それも今、失われようとしている。何を守る必要があるだろう。何を求める必要があるだろう。
それなのに、まだ何かを求めている自分がいる。何を。何を求めているんだろう。自分は。
気がつけば鼓動は一つになっていた。ADAが自分に合わせているのか、その逆か。心安らぐのに、どこか焼けつく。
「そういえば……」
暗闇の中、ユイは呟いた。おそらく、その向こう側にいるであろう彼に。
「心臓の音が、好きだったよね」
「そうだよ」と声がした。生きてる感じがして、好きなんだよ。

そして唐突に、ユイは理解した。

今までずっと、自分は死にたいのだとばかり思っていた。
戦う時以外は何も感じられず、ただ漫然と日々の流れに身を任せて。それでも何か手にしたと思ったら、いつのまにか全て失われていて。自分とはそういうものだと、ずっと思っていたのに。諦めていられたのに。
流れ出る命が、痛みすら失った肉体が、違うと教えてくれる。いつのまにかなくしていたはずの心が叫んでいる。
生きたい。
もう何もかもこの手からこぼれ落ちてしまったけど、内側がからっぽになってしまったけど、それでも生きたい。心が、体が、魂が。叫んで、足掻いて、祈って。
「―」
掠れた吐息が漏れた。嬉しかった。まだ、こんなにも残っていた。失ったはずの大事なものと、そして―立ち上がる、ちから。

それは立ち上がった。
それは蒼かった。
それはもう、かなしくはなかった。

振り返った獣たちは恐怖した。確かに殺したはずの敵はしっかと大地を踏みしめている。ぎらつく眼光はもはや脆弱なヒトのそれではない。身を鎧う装甲板の間から幾筋もの血をしぶかせ、それは吠えた。


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