10/04/18 13:46:35
>>550
法益関係的錯誤説の論者(山中教授)も法益関係的錯誤か否かのみで判断しているわけではありません。
同意は、被害者の自主的判断に基づき強制に基づくものではないことがその有効性にとって重要であり、
したがって、基本的には、法益主体の任意かつ真意に出たものかどうか、すなわち、「自由な自己決定権
の所産」であるとみなされるかどうかが基準となります。その限りで、544は正当です。
ただし、偽装心中事件(昭和33年11月21日)は、目的・縁由(動機)の錯誤であり、その同意は、
自分の「死」については明確な認識があり、したがって同意は有効です。
次に、自動車追突保険金詐欺事件(昭和55年11月13日)ですが、法益関係的錯誤説に立たない井田
教授も、「実質的に詐欺罪の予備行為を処罰するもの」と批判しています。
反対給付に関する錯誤は、「動機の錯誤」であり、法益の意義についての錯誤ではないので、同意は無効
とはなりません。献血すれば5千円支払うと云われて、献血した者が、騙されていた場合、放棄した内容
である「傷害」の結果については明確な認識があったので、法益関係的錯誤ではなく、その同意は有効と
なります。
優越する法益に対して切迫する危険が存在すると錯誤して、法益放棄を決断した場合には、法益関係的錯誤
がなくても、被害者の「価値的に自由な判断」によるものではなく、その同意は無効となります。これは
法益関係的錯誤の原則の例外です。
例えば、自分の車が炎上しているときに、通行人に対して、爆発と火傷の危険があるにもかかわらず、中に
妻が閉じ込められているのでドアを開けるのを手伝ってほしいと頼み、応じた通行人がそれにより火傷を負
ったが、実際は中には子犬がいるだけであったような場合、同意は無効となります。
これは、緊急状態下の法益救助という「価値に拘束された動機の錯誤」によって、自己の法益の相対的価値
を錯誤した場合の同意をとくに無効とするものです。