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井田良『刑法総論の理論構造』引用文献リスト(コメント付)28
ドイツにおいては、このような法領域ごとの違法の相対性を否定する違法
一元論が現在でも支配的であるのに対し、わが国の通説は違法の相知性を
肯定する。学説の状況について、ドイツの通説を代表する
Hirsch in:Leipziger Kommentar,Vor§ 32 Rdn.10
と、反対説を代表する
Gunther,Strafrechtwidrigkeit und Strafunrechtsausschlus 1983;ders., Klassfikation der Rechtfertigungsgrunde im Strfrecht,in:Festschrift fur Gundter Spendel,1992,S.189 ff.を参照。
違法性阻却事由にあたる事情が現実には存在しないのに、行為者はそれが存在
すると誤信しつつ構成要件該当事実を実現したとき、構成要件に該当する客観
的事実の認識はある(したがって構成要件的故意はある)としても、しかし
違法性阻却事由にあたる事情があわせて認識されているため、行為者の直面
している事実は「適法な事実」にほかならない。このような認識内容をもって
故意(すなわち、38条1項にいう「罪を犯す意思」)と呼び得るかどうかが
問題となるのである。この点について、
斉藤信二「名誉毀損罪は故意犯に限られないのか」西原古希3巻181頁を参照。
違法性阻却事由の錯誤は違法だが(故意の)責任がないとする責任故意阻却説
の体系的な取り扱いにはそれなりの理由があるとしても、構成要件的故意の
観念を認めることと責任故意阻却説を採ることが両立するかどうかには疑問が
ある。違法性阻却事由の錯誤のケースにおいて、誤信について過失があった
とき(いいかえれば、注意すれば錯誤を避けられたとき)過失犯の成立を認め
なければならないが、いかなる意味において過失犯の成立を認めることができ
るかが明らかでないからである。
たとえば、誤想防衛においては、構成要件的故意は認められ、故意犯の構成
要件該当性は肯定されるのでるが、故意犯の構成要件に該当する行為(すな
わち、過失犯の構成要件には該当しない行為)についてなぜ過失犯の成立を
認めることができるかが問題となる。以上の点につき、
中義勝『誤想防衛論』1頁以下を参照。