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一世紀後にやっとその箇所が明るみにでるが、そこに示されていたのは、没落に至るこの時ほど、
王妃の情熱が激しく燃え立ったことはないということ。恋人との心慰む思い出をいつまでも血の
かようものにするため、マリー・アントワネットは指輪を作らせたが、それは王家の百合の紋章ではなく
(そのような指輪はすでにフェルゼンへと贈っていた)、フェルゼンの紋章を刻んだ指輪であった。
彼がその指に王妃の言葉入り指輪をはめているように、彼女もまた自分の指に、遠く離れた日々の間、
かのスウェーデン貴族の紋章付き指輪をはめていたのだ。自分の手を見るたびフランス王妃は、離れ離れ
になった人を思い出さずにはいられない。そして今やっとチャンスが巡ってきて、彼に―これが最後と
予感しているので―愛のしるしを送れるとなって、彼女はこの指輪を、自分の思いが変わっていない
ことの証にしようとする。
彼女は銘のついた紋章に熱い蝋(ろう)を押し付け、その刻印をジャルジェをとおしてフェルゼンへ届ける。
もはや言葉は必要ない。この刻印が全てを語っている。「ここに同封しました刻印を」と、彼女はジャルジェ
に書いている、「昨年の冬ブリュッセルからわたしのもとへとやって来たご存知の人物へ、どうかお渡し下さい。
そしてその方に、今ほどこの銘が価値のあるものだったことはありません、とお伝えくださいますよう」。