08/11/03 20:27:02
(民衆が貧困に大いに苦しんでいる中での王太子誕生の祝宴を)止める人間は、いなかったの
だろうか。この時誰かが、マリー・アントワネットに信頼をおかれている友人の誰かが、彼女に現状を
知らしめていれば、決して頭の悪い人間ではないはずの彼女は、わかったのではないだろうか。
たとえば取り巻きの一人であるスウェーデン人のフェルセンである。彼は、後にアントワネットの
フランス逃亡を助けることになるのだが、真剣に彼女を愛していたといわれている。当時、フェルセンは
26歳。その頃の基準で考えれば、立派に分別のつく年齢であり、また政治・経済的立場にたってものを
考えるという教育を受けたはずの宮廷人でもある。その彼が、なぜ彼女を諭すことができなかったのか。
心から愛する女性が自らの義務を放棄し、墓穴を掘るような真似をしているというのに、忠告するどころか、
彼女の口添えでありついた役職や年金を受け取り、その足を引っ張るような行動をしているのは、いったい
どういうことなのか。
この答えはただ一つしかない。つまり彼も他の取り巻き同様、マリー・アントワネットの将来を考えて
痛言を呈するより、その場のロマンティックに浸っていたい男性であったということである。
男性によって教育され、成長した女性は多いというのに、マリー・アントワネットは、恋人にも友人にも
恵まれない実に気の毒な女性であったと思う。さらにフェルセンが、マリー・アントワネットからの私的な
手紙をすべてスウェーデン国王に送っていたことを考えると、ロマンティックどころか政治的な匂いもし、
当時、フェルセンとつき合いのあった複数の女性に思いを馳せるにつけても、マリー・アントワネットの
悲劇を強く感じずにはいられない。
「マリー・アントワネットの生涯」藤本ひとみ より