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●妻には「寂しい」と漏らす
式が迫るにつれて、辰彦さんは、紀子さんの部屋が徐々に片付いていくな、と意識し
ている。
だが、他人に「寂しいでしょう」と言われても、花嫁の父はめったにうなづかなかった。
「正確に自分の感情をとらえようとすると、わからないんです」「式の当日の感情を大切
にしたいので」と、回答を控えてきた。
実際は「チョウがさなぎから孵化した直後は、濡れていて柔らかで傷つきやすいでしょ
う。今の自分の気持ちは、そんな感じなのです」。そう、打ち明けたことがある。
最近になって、妻には「寂しいなあ」と漏らしたという。紀子さんにも感情を打ち明けて
いるようだ。
親しい人によると、紀子さんは「父は寂しいと感じているようです」と、礼宮さまに伝え
ている。「将来、宮さまも同じような気持ちを味わうことになるかもしれない」と、「未来の
父」を思いやってのことだ。宮さまは「わかるような気がします」と答えたという。
結婚に際して、どんな贈り物を父親にもらったの、と友達に尋ねられて、紀子さんはこ
う話した。
「小さい時から父には、たえずいろんな形で小さな贈り物をもらってきました。キャンプに
しても、海外での体験やアドバイスにしても、いつも贈られているという感じを受けてきま
した。その目に見えない小さな贈り物の積み重ね全体が、今はかけがえのない、父か
らのプレゼントです」
東京本社 社会部・斎藤智子