09/06/26 21:55:51 0
この春めでたく夫婦になったすずと新九郎。
初々しく、幸せで穏やかな新婚生活を送る二人だが、すずはまだ時々無意識に新九郎を「ととさま」と呼んでしまう。
「ととさま」と呼ばれたり「新九郎様」と呼ばれたり、新九郎はそれに慣れることができず、
いつも少しうろたえてしまう。
黄船や大江軍から国を救った二人にぜひ会いたいと、京にいる伊摩の国の守護、
大手川晴近から呼び出しがかかった。
おじゃる様や現八郎の力を借りれば京まではひとっ飛びだが、自由の身になったおじゃる様は時折訪ねてくる程度、
現八郎はあまりに天狗界を抜け出してくるため新九郎に叱られて今はいない。
二人は歩いて京に向かうことにする。
すずは途中の森を歩いていきたいと言い出す。それは二人が初めてであった森だった。
森の中で、すずは木陰から、子供の姿をしているが人ではないものがこちらを見ているのに気づく。
新九郎は気付いていないようだが、つないでいる手を離したくなくてすずは黙っていることにする。
子供の姿の物の怪は、二人に伝えたいことがあるらしく焦っていた。しかし、子供は「あいつがもう来てる!」と
恐ろしい気配に気づいて駆け出す。「どうしよう、このままじゃ二人に近づけない」
空が曇り、雷が鳴り始めた。新九郎はすずの手が熱っぽい事に気づく。慌ててすずを背負い、
雨を避けられる場所を探す新九郎だが、道に迷ってしまう。物の怪のしわざかと真言を唱えると、
背中でぐったりしていたすずもそれに合わせて真言を唱える。
と、空気が変わり、誰かが呼ぶ声が聞こえた。すずもぼんやりとした表情で、声のする方へ行けと言う。
声とすずに導かれて走っている時、視界の隅に指をさす子供の姿が見えた。
そのとき、新九郎は誰かにぶつかる。
ぶつかったのは旅芸人の男だった。一座が宿にしている空家に案内してもらい、そこですずを
休ませることができた。先ほどの男は、盗賊が出ると聞いて周囲を偵察していたのだった。
一座の子供や女衆は二人に興味深々だ。
休んでいるすずに添い寝するように寝ころんで、新九郎は「何かおかしいと思わないか」とささやく。
すずもなにかがおかしいと感じていた。不思議な子供やもののけの気配、そしてすずの熱や
京行きにもなにか裏がありそうだった。