09/11/13 01:02:28
前スレ724から
13.
公園まで来ると、レイは腕の中の仔犬を放して自由にさせた。仔犬は嬉しそうに尻尾を振りながら、全速力で走り出した。
時刻は夜の八時を少し回ったあたりで、公園には誰もいない。ここに来るまで人影ひとつ見なかった。
相次ぐ使徒の襲撃で第3新東京市の人口が減っている上に、街の修繕が間に合わず、道路などもアスファルトがめくれあがったままの部分がある。
街灯は点灯しているのと壊れているのが半々で、放置されている瓦礫も目についた。
いくら犯罪が皆無に等しいとはいえ、このような荒廃した夜の街を歩く者はほとんどいないのが現状だった。
もっとも、人に見られたくないレイにはうってつけだったが。
「好きに遊んでおいで」
犬は少し離れた場所からレイの顔を何かを期待するかのように見つめている。
しょうがないわね、とレイは呟いて仔犬の方へ歩き出した。それを見て、ワン、と犬が鳴いた。
「ほら、星が見える?」公園から帰る途中、レイは空に向かって指差した。「綺麗でしょう」
犬は不思議そうにレイを見上げるだけだった。
「犬に言ったって仕方ないか」レイは鼻をならして、自嘲気味に少し笑った。最近どうも犬に話しかけることが多くなったような気がする。我ながら滑稽だった。
ふとレイは疑問を感じて小首を傾げた。仔犬もそれに倣って同じ動作をする。
―私はおかしなことを言った。何だろう?
少し考えて、疑問は解決した。
そうか。
星が綺麗だなんて感じたのは、初めてのことだった。